先般行われたAPECの日中首脳会談で、胡錦濤中国国家主席が改めて小泉首相の靖国神社参拝の取り止めについて申し入れた。小泉首相は明言を避け、今後は慎重に対処することを伝えたという。
経済的に緊密な結びつきがあるにも関わらず現在日中の関係は良好とは言いがたい。中国紙「中国青年報」の調査では日本に親近感を持たない中国人が53.6%と過半数を超えている。日本でもサッカーアジアカップの中国サポーターの日本選手やサポーターに対してのブーイング、最近起きた中国潜水艦の領海侵犯問題などから中国に対するイメージは低下しているだろう。
中国人が日本人に対して親近感を持っていないという最も大きな理由が「侵略の歴史を反省していない」ということである。小泉首相の靖国神社参拝はこうした中国人の国民感情を刺激している。
しかしながら、この点について日本だけに責任があるとは言い難い。反日感情を抱く中国人は若い年齢層に多く、アジアカップの会場で傍若無人な振る舞いをしたのも主に若い世代であった。また、西安の大学で日本人留学生のパフォーマンスに反発した学生の抗議行動が暴動騒ぎに発展したのも記憶に新しいところである。
なぜ若い世代にこのように強い反日感情が定着しているのか。これは1989年に発生した天安門事件以降に実施した「愛国教育」の影響によるものであろう。民主化を要求する学生運動が政権を揺るがす事態に発展しかねないことを憂慮した中国共産党指導部は「愛国心」を次世代に植えつけ、国家に対しての忠誠心を持たせるための教育を行うようになった。愛国心を高揚させるために有効な方法は、自分達を脅かす敵の存在を意識させることだ。そして日本はそのダシにされた。つまり日中戦争の日本軍の侵略行為、占領時の残虐行為について教育されるのだ。その内容もかなり具体的で生々しいものである。こういった教育を繰り返し受けた中国の子供達が日本人に対して憎悪の感情を抱くのも無理からぬ話である。これは「愛国教育」ではなく「反日教育」である。この結果、日中間で何かあるにつけ各所で反日の抗議行動が行われるようになった。若者間で浸透したネット社会はこの動きを増幅させた。しかしながら、こういった抗議行動の多くは単に反日だけでなく政府に対する不満の捌け口となっていることも事実である。
このように民主化という手段をとらず、民心の安定のために、過去に戦争はしたが現代では最も経済的に緊密な関係を結び自国の経済成長に貢献している国に対して、自国民の憎悪を煽るような教育を行ったことについては、靖国参拝と切り離してもっと抗議し「反日教育」を改善させることを約束させる必要があるのではないだろうか。中国に対して主張すべきことは主張すべきである。
一方、靖国神社である。私は個人的に第2次大戦の戦没者の慰霊の場所としての靖国神社に疑問を抱いている。その主な理由として靖国神社が明治維新後の国策と緊密に結びついた宗教施設であるということ、また近年の靖国神社は「大東亜戦争記念館」という趣になりつつあるということである。また、保守政党の支持母体である遺族団体は首相や議員に靖国神社を公式に参拝するよう要請しており、小泉首相は自らの意志であるとは表明しているが、その意に沿った形で参拝しているし、終戦記念日には、保守政党の議員が示威行動的に大挙して参拝している。このことが「政教分離」の原則に反していないのか疑問である。
なお、中国が小泉首相の靖国参拝に反対している最も大きな理由は処刑されたA級戦犯を合祀しているということである。「愛国教育」で「悪いのは侵略戦争を指導した一部の日本人である」と言っていることに辻褄を合わせているためを思われるが、A級戦犯として処刑された人たちは、処刑されることによって責任を取ったのだと思う。ある種戦死と同じことであろう。では分祀すればよいということではないだろう、それでも靖国神社の本質は変わることはないのだから。
日本も中国もこの問題に対する主張はお互い本音と建前があり、そこに矛盾があるためギクシャクして噛みあっていないように思える。こうなったら一度本音をぶつけ合う機会を作ってはどうだろうか。一時的に日中関係は更に険悪になるかもしれないが、かえってその方が近道かもしれない。
ちなみに安倍晋三自民党幹事長代理の「国のために殉じた英霊に尊崇の念をささげることは当然だ。それを否定すれば根本が崩れ、結果としてこの国の企業も成り立たない。いかに売り上げを増やすかということと引き換えにしていいのか」という発言、特に「否定すれば根本が崩れ、結果としてこの国の企業も成り立たない」の意味が理解できない。次代のリーダー候補としてロジカルなご説明をお願いしたい。
中国で対日調査「親近感なし」53・6%と大幅増 (読売新聞) - goo ニュース
経済的に緊密な結びつきがあるにも関わらず現在日中の関係は良好とは言いがたい。中国紙「中国青年報」の調査では日本に親近感を持たない中国人が53.6%と過半数を超えている。日本でもサッカーアジアカップの中国サポーターの日本選手やサポーターに対してのブーイング、最近起きた中国潜水艦の領海侵犯問題などから中国に対するイメージは低下しているだろう。
中国人が日本人に対して親近感を持っていないという最も大きな理由が「侵略の歴史を反省していない」ということである。小泉首相の靖国神社参拝はこうした中国人の国民感情を刺激している。
しかしながら、この点について日本だけに責任があるとは言い難い。反日感情を抱く中国人は若い年齢層に多く、アジアカップの会場で傍若無人な振る舞いをしたのも主に若い世代であった。また、西安の大学で日本人留学生のパフォーマンスに反発した学生の抗議行動が暴動騒ぎに発展したのも記憶に新しいところである。
なぜ若い世代にこのように強い反日感情が定着しているのか。これは1989年に発生した天安門事件以降に実施した「愛国教育」の影響によるものであろう。民主化を要求する学生運動が政権を揺るがす事態に発展しかねないことを憂慮した中国共産党指導部は「愛国心」を次世代に植えつけ、国家に対しての忠誠心を持たせるための教育を行うようになった。愛国心を高揚させるために有効な方法は、自分達を脅かす敵の存在を意識させることだ。そして日本はそのダシにされた。つまり日中戦争の日本軍の侵略行為、占領時の残虐行為について教育されるのだ。その内容もかなり具体的で生々しいものである。こういった教育を繰り返し受けた中国の子供達が日本人に対して憎悪の感情を抱くのも無理からぬ話である。これは「愛国教育」ではなく「反日教育」である。この結果、日中間で何かあるにつけ各所で反日の抗議行動が行われるようになった。若者間で浸透したネット社会はこの動きを増幅させた。しかしながら、こういった抗議行動の多くは単に反日だけでなく政府に対する不満の捌け口となっていることも事実である。
このように民主化という手段をとらず、民心の安定のために、過去に戦争はしたが現代では最も経済的に緊密な関係を結び自国の経済成長に貢献している国に対して、自国民の憎悪を煽るような教育を行ったことについては、靖国参拝と切り離してもっと抗議し「反日教育」を改善させることを約束させる必要があるのではないだろうか。中国に対して主張すべきことは主張すべきである。
一方、靖国神社である。私は個人的に第2次大戦の戦没者の慰霊の場所としての靖国神社に疑問を抱いている。その主な理由として靖国神社が明治維新後の国策と緊密に結びついた宗教施設であるということ、また近年の靖国神社は「大東亜戦争記念館」という趣になりつつあるということである。また、保守政党の支持母体である遺族団体は首相や議員に靖国神社を公式に参拝するよう要請しており、小泉首相は自らの意志であるとは表明しているが、その意に沿った形で参拝しているし、終戦記念日には、保守政党の議員が示威行動的に大挙して参拝している。このことが「政教分離」の原則に反していないのか疑問である。
なお、中国が小泉首相の靖国参拝に反対している最も大きな理由は処刑されたA級戦犯を合祀しているということである。「愛国教育」で「悪いのは侵略戦争を指導した一部の日本人である」と言っていることに辻褄を合わせているためを思われるが、A級戦犯として処刑された人たちは、処刑されることによって責任を取ったのだと思う。ある種戦死と同じことであろう。では分祀すればよいということではないだろう、それでも靖国神社の本質は変わることはないのだから。
日本も中国もこの問題に対する主張はお互い本音と建前があり、そこに矛盾があるためギクシャクして噛みあっていないように思える。こうなったら一度本音をぶつけ合う機会を作ってはどうだろうか。一時的に日中関係は更に険悪になるかもしれないが、かえってその方が近道かもしれない。
ちなみに安倍晋三自民党幹事長代理の「国のために殉じた英霊に尊崇の念をささげることは当然だ。それを否定すれば根本が崩れ、結果としてこの国の企業も成り立たない。いかに売り上げを増やすかということと引き換えにしていいのか」という発言、特に「否定すれば根本が崩れ、結果としてこの国の企業も成り立たない」の意味が理解できない。次代のリーダー候補としてロジカルなご説明をお願いしたい。
中国で対日調査「親近感なし」53・6%と大幅増 (読売新聞) - goo ニュース
安倍晋三さんのコメントを代弁して頂いたのだと思いますが、彼には論理的な発言が少ないのが気になっておりまして、これは是非彼の言葉で語ってもらいたいと思います。
ご意見の「愛」というのはごもっともだと思いますが、愛は一つではありませんので必ずしも安倍晋三さんのご発言にはフィットしていないのではないでしょうか。
今後ともよろしくお願い致します。
非常に読み応えのあるブログには、ただ脱帽です。
特に中国関係への前向きな対話への提言には感銘を受けました。
誇りについてですが、個人としての誇りがあってその延長線上に所属する国家の誇りがあると個人的には思っています。その個人に誇りがない、自信がないことが自分の国に誇りが持てなかったり、逆に偏狭なナショナリズムに走ってしまうのではないかと考えております。従って自分に誇りを持てる、自信を持てる作りが第一歩ではないかと思います。
こちらこそよろしくお願い致します。