私は東京生まれの東京育ち。
つまり、故郷は東京。
これはけっこう淋しいことなのだ。
なぜなら懐かしい風景は、もう記憶の中にしか
ないからだ。
私はモノゴコロというものがつく時代は本郷で
暮らしたが、それ以前は神田神保町で育った。
3歳くらいまでのことなので、はっきりした記憶
はない。
神保町の救世軍の建物(現存している)の入口
階段を、飽きもせず上ったり下りたりして遊ん
でいた、と母に聞かされても私にその覚えは
まったくない。
だが、私は今でもよく神保町へ行く。
変貌したとはいえ、この街の持っている空気
にやはり私は馴染んでいるようだ。
もちろん古書店を巡るのだが、立ち寄る店は
もう殆ど決まっているし、書棚のどのあたり
に興味ある書籍があるかもだいたい把握
している。
上の写真は『蔵書票』の本を目当てに2階を
覗くのが常の店。
この階段を上った左側のコーナーがいい。
ロンドンの古書店のような雰囲気だと思っ
ている。
(ロンドンの古書店は知らないけれど…)
さて、私は神田でたくさんの古書と不思議な
出会いをしてきたが、「惜しかった!」と
今思い出しても残念きわまりない、縁が
なかった書籍もたくさんある。
「おお!これは買い!ですよ、ムフフ…」
と見つけたが、金がない。
「次回、金を用意してこよう。どうせだれも
こんな本は買わないだろう。」
と思いつつ、その本をそ~っと見えないよう
に奥へ隠して帰る。
それなのに!次に来た時にはなくなっている!
主人に尋ねると、「ああ、昨日、売れたよ。」
まあ逆に私が誰かの目当ての本をスルリと
買ってしまっていることもあるのだろう、とは
思う、が!悔しい…。
こんな攻防がこの街のあちこちで繰り広げら
れていることだろう。
休日になるとリュックを背負ったオジサン達
がルンルンとやってくるのも、神田ならでは
の風景だが、けっこう遠方から来る人も
多いらしい。
愛され続けている
「大丸焼き」をみやげに買う。
というのも古書店めぐりのコースに入れたいね。
大通りはケバケバしい大型スポーツ用品店
がのさばり、古書店の数も減った。
エスワイル(洋菓子店)も移転してしまったし、
ランチョン(ビアホール)も改築して昔の風情
はなくなってしまったけれど、この「大丸焼き」
は変わらない、ところがスゴイ!
この店に入ると、かすかに故郷の匂いが感じ
られる。
う~ん、それは誠実な昔ながらの仕事の匂い。
で、キョウハワタシノタンジョウビデス…。