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デザイナーの色メガネ

写真付きで日記や趣味を書く

続・葉山芸術祭の記

2007-05-09 22:45:38 | アート・文化

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森屋邸をあとに、ぶらぶらと川沿いの道を歩いていくと、

木漏れ日の中に真砂邸が見えてきた。

道がそのまま私道になっていて、いつの間にか花のアーチを

くぐり、到着。

木々に溶け込んだ家は、自然の邪魔をせず、やすらかだ。

開け放たれた土間のような、テラスのような、はたまた部屋の

ような展示室を心地よい風が抜けていく。

Img_4874 ←これは真砂さん制作の版画絵。

インディアンフルート奏者であり、このような

プリミティブな版画絵も描かれるのだ。

フルートの音色が静かに流れる部屋にしばし佇んでいると、

「おや、またお会いしましたね」

と、声をかけられた。

見れば森屋邸にいらした男性だ。

Tシャツにジャージというラフな格好から地元の方だろうとは

思っていたが、彼は私に自宅へ来いとさかんに誘うのだ。

奥様もいっしょに誘ってくださるので、お言葉に甘えてよらせ

ていただくことにした。

私にどこから来たのか、と尋ねるので、東京だと答えると、

「ええ!こんな田舎に来なくても東京のほうが楽しいのに。

そりゃあ、空はきれいだし、空気もいい、自然はいっぱい

だけれど、飽きちゃうよ。

いいな~、東京に住むのが僕の夢だ!」

とおっしゃる。

「はあ、そんなもんでしょうか…」と私。

さて、ほどなく到着した彼の家。

大きな門の脇には、竹筒の花器に菖蒲が活けてある。

道行く人が休憩できるように縁台も置いてある。

ぬぬ、オヌシ、実は風流人だな…と思いつつ、

すすめられるままに庭に入っていくと、なんと!

花が咲き乱れている上の写真は、彼の庭のほんの一角。

Img_4736 右は珍しいエビネの群生。

写真をあまり撮るのを控えたのが、

今となっては残念無念なほど美しかった。

奥様が庭のテーブルにお茶を運んで

くださり、花の中でお茶会となった。

突然のこの贅沢なシーン…神に感謝!

Img_4735

広い庭には天草も干してあった。

自家製ところてんか、いいなあ。

←これは麦。観賞用と麦茶用に栽培して

いるそうだ。

また、工作好きの彼は納屋を工作室に改造して、

何隻ものカヌーを作っている。

もちろんカヌーで海へ漕ぎ出す。

Img_4741 こんな素晴らしい暮らしをしながら、

「東京に住むのが夢」とは、なんぞや!

彼は現役時代は葉山から日本橋まで

通勤していたそうだが、とにかく東京が恋しいのだとか。

「だってさ、街全部が東京は博物館のようだよ。

六本木ヒルズなんかいいなあ。大好きだよ。」

と東京恋歌を連発する彼の横で、奥様は「やれやれ…」

と笑っていらっしゃった。

仕事で多くの国々を巡られた話や、葉山の海や山の話、

裏を流れる川の鯉の話、菜園の話、花の話…と

旧知の友人のように話込んでしまったのであった。

おいとまを、と腰をあげると、私が好きだと言った麦を

束にして、花も添えてみやげにとくださった。

いやあ、海は見られなかったけれど、楽しい一日だった

なあ。こういう予期せぬ出会いがいいんだなあ。

と、麦の束を大切に抱えて帰路に着いた。

しかしこの後、帰り方を迷ったあげく、やけに遠回りを

してしまい、しかも見知らぬ駅に間違って降りてしまう、

という予期せぬオマケまでついていたのだった。


葉山芸術祭の記

2007-05-06 23:30:43 | アート・文化

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連休の一日、葉山へ出かけた。

染色家の七字良枝さんの友人、陶芸家の森屋純子さんと

そのご主人Ken moriyaさんのお宅を訪ねたのだ。

アーティストの街「葉山」では、毎年この時期に『葉山芸術祭』

と銘打って、作家たちがそれぞれのやり方で自分たちの

アートをおおらかに発信する。

Img_4732 朝早くに出かけ、昼前には到着。

←明るい森屋邸は、花にあふれていた。

さっそく、陶芸教室に参加。(初めての体験)

優しくほがらかな純子さんの手ほどきで、小ぶりの皿を2枚

作らせていただいた。

久しぶりに触れた粘土の感触…いいなあ。

出来上がりは一ヵ月後くらいかな、かなり楽しみ!

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テラスでは七字さんが藍染教室を

開催中。木の後ろにご本人が→

そして、部屋の中からは

たゆたうようなウクレレの音色が

流れてくるではないか。

ご主人のKen moriyaさんはウクレレ作家であり、

演奏者でもあるのだ。

吹き抜けの明るい部屋の壁には、手作りのウクレレが

並び、Kenさんが奏でてくださる。

ほわあ~~、ハンモックで昼寝がしたい気分だ!

Img_4810 ←森屋邸で見つけた

おみやげ。

純子さん制作の

豆小鉢。

敷いてある布は、

以前、連れ合いが

七字さんに教わって

染めた藍染のショール。

手前のかわいい魚はクーへのみやげのキャットニップの

おもちゃ。

さて、お次は…インディアンフルート奏者、真砂秀朗さんの

『絵と音展』へ!

海も見たいしなあ、と思いつつ森屋邸をあとにしたのであった。


魅惑のディートリッヒ

2007-05-03 00:40:40 | アート・文化

Nagekinotensi_1 連休前の夜、かねてより

楽しみにしていた映画

『嘆きの天使』を観に行った。

1920年代、ドイツ映画界に

君臨した大スター、エミール・

ヤニングスのために制作

された初のトーキー映画で

あり、かのディートリッヒの

世界的女優へのきっかけと

なった作品だ。

日本で上映された当時、

字幕の技術がなく、弁士が要所

で説明をするという無声から

有声映画への過渡期の奇妙な形態がとられていたらしい。

この日も俳優の声と弁士の声が入り混じる、私も初めての

不思議な映画鑑賞となった。

ストーリーはシンプルなものだ。

堅物の高校教師、ラート教授(ヤニングス)が今でいうならば、

生徒たちの生活指導のために訪れた安キャバレーで、

踊り子のローラローラ(ディートリッヒ)のとりこになってしまい、

破滅の道を突き進むという流れ。

私はラート教授のような堅物ではないものの、「ああ、男は

女性の本心がわからないというか、わかりかけても打ち消し

てしまうところがあるなあ」と共感するところもあっただけに、

なんとも教授が気の毒だった。

ディートリッヒは登場したての場面では、田舎娘のようだが、

終わりに近づくにつれて、正真正銘の妖艶な悪女になって

いるのだ。驚いた。

発狂した教授がローラの首を絞める場面があるが、実際

の撮影の時に、ヤニングスが興奮してディートリッヒの首

をすごい力で締めたために撮影が中断したというから、

実際、たいへんな魔力が彼女にはあるのかもしれない。

ヤニングスが指名した監督、スタンバーグもこの映画

以来、ディートリッヒをいかに美しく、魅力的に撮るか

ということに生涯をかけたそうだ。

Hemingwaytegami 左はたまたま朝日新聞で見か

けた記事だが、かの文豪

ヘミングウェーも彼女に

魅せられたひとりだった

らしい。

いや、私はディートリッヒはかなり過去の人かと

思っていたが、大阪万博の時に来日して舞台に

出演したというではないか。

1901年生まれで90歳で亡くなったそうだから、

万博の年は63歳…だったのかな?

退廃的な魅力と脚線美、今回初めて堪能させて

いただきました!

(魅惑のディートリッヒですが、私はイングリッド・

バーグマンのほうが好みではあります。)

最後に気になったことをちょっと…、

あの『THE BLUE ANGEL』という安キャバレーにいた

ディートリッヒ以外の踊り子たち、なぜあんなに肥満

ばかりなんだろう?

引き立て役なのかもしれないが、当時の踊り子は

あんな体型が多かったのかなあ。

相撲部屋みたいだった.。

Bannershowgirl

←これは、私が以前、デザインした

ロゴマークだが、思えば上写真の

ディートリッヒのスタイルでは

ないか!

脚線美を美しく見せる黄金の

ポーズなのかもしれない。

男にとっては要注意のポーズだな。

.


文学館ナイトツアー

2007-04-13 23:32:47 | アート・文化

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さる晩、私は世田谷文学館で催された不思議

なナイトツアーに参加した。

案内役は『からくり書物』の仕掛け人、

ムットーニ氏。

Img_4514 参加者20数名。

夜7時半集合。

雨のそぼ降る

夜だった。

館内の薄暗い芝居小屋のような入口で待つ。

すると、どこからともなく…

「みなさん、ナイトツアーへようこそ!」と

現れたムットーニ氏。

いや、声もいいが、その語りはまるで劇団の

俳優ではないか。

そして奇妙な人形たちが、時おりぼ~っと

光の中に浮かび上がる暗い通路を案内

された。

参加者はなぜかみんな息をころして歩く。

通路を抜けて、いよいよ異次元空間へ。

小さな部屋には、波模様が描かれた青い箱が

Img_4515_1 台の上に

ぽつんと

置かれている。

氏の語り

が始まると静かに蓋が開き、さざ波の音が

してきた。

そして、ダイナ・ショアの歌う魅惑のワルツ

と共に、一人の少女が現れ、ゆっくりと回転

しながら上へ上へと昇ってゆく。

作品 『海の上の少女』。

沈没船に閉じ込められた歌好きだった少女

の物語。

おおお~、なんという不思議な世界。

ツアー客たちはみなし~んと聞き入っている。

再び少女が箱の中へもどっていき、蓋が静かに

閉じる。

ひとときの静寂のあと、我に返ったような拍手!

Img_4517_2 さて、次は…

『The Spirit 

of Song』

宮沢和史の

詩「書きかけ

の歌」をムットーニ氏がイメージして制作した

ものだ。歌の合間に氏が入れる語りがまた

なんともニクイ。

この他に夏目漱石『夢十夜・第七夜』、海野

十三『月世界探検記』、中島 敦『山月記』、

萩原朔太郎『猫町』、村上春樹『眠り』…

ムットーニこと武藤政彦さんはこれらの作品

を「お話玉手箱」と呼んでいらっしゃるが、

まさに箱を開くと、時間も距離も超えた現実と

虚構の境界線に人々を誘う玉手箱だった。

最後の部屋は『カンタータ・デ・ドミノ』

これはヨハネの黙示録にある「新しい歌」だ。

制作期間半年というこの作品は、パイプオルガ

ンを弾く男の頭上高く、ビーナスが天高く昇って

いくというまさに歓喜のスペクタクルだ。

バチカンのミサもかくや、と思われるほど

厳かな気持ちになったところで、ツアーのエピロ

ーグは…

夕焼けを背にギターをかき鳴らし、自分自身の

ために歌う孤独な吟遊詩人(これも作品)と

ともにムットーニ氏がトランペットを吹く、という

趣向だった。(しかし、器用な人だ!)

いくつものシアターをはしごしたような充実感。

ツアーが終わったのは午後9時を過ぎていた。

Ningyoukitte_2 ←『からくり書物』の切手

を購入し文学館を出ると、

雨はあがり、星が煌いていた。

★お知らせ

フォトアルバムに桜まつりに制作した「ぽち包み」

のコーナーを設けました。

ご覧いただければ嬉しいです。

またリンクサイトの『不思議絵横丁』でも紹介

しています。


江戸の春

2007-03-23 22:05:19 | アート・文化

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私の家の近くに『ビール坂』という妙な名前の

坂があるが、そこの枝垂れ桜が今朝、突然

五分咲きになっていた。

この街は坂の多い街で、西側の傾斜にそって

南から『病院坂』・『蛇坂』・『お茶坂』・『まる坂』

『にわとり坂』・『ビール坂』…とあるが、まだ私

の知らない坂もいくつかありそうだ。

桜の名所でもあり、家の前の通りは桜並木だ。

これから暫くの間は見物人が多くてかなわない

が、まあ、辛抱、辛抱!

桜のときは短いのだから。

Photo_45 ←歌川広重の名所江戸百景

の一枚『隅田川水神の森真崎』

青い空と桜の対比が鮮やかだ。

江戸っ子はいっせいに咲いて

潔く散る桜が大好きだったのだろう。

今でも東京は桜の多い都市だ。

関西圏の人たちとは桜に対する思いがちょいと

違うのではないかと思う。

それにつけても、広重の青はいい色だ。

私はグラデーションが好きで、自分のデザイン

ワークにもよく取り入れるが、広重版画の

ぼかしにも魅かれる。

先月、銀座のポーラ美術館で催された保栄堂

版『東海道五十三次』に足を運んが、墨線を

感じさせない豊かな色使いの技法に感嘆した。

Img_4261

会場には、第一画面

である『日本橋』が

摺立順に並べてあり、

その色付けの行程の

詳細Img_4260 がわかって興味深かった。

朝焼けの日本橋から

始まり、霧、雨、雪、

風、夕暮れ、夜、など

自然現象を巧みに取り入れた情景。

その中に当時の人々が息づいている。

見事な抒情詩のようだった。

絵師、彫師、摺師が競い合って作品を作りあげ

るという版画の技法の奥深さは、私にはわから

ないが、じっと眺めているとそのシーンに入り込

んでいけそうな感覚になった。

熱心に技法のことなどを訊ねている人もいて、

浮世絵ファンの根強さを感じた。

さて、今年も私の桜見物は自宅前のさくら…

になりそうだな。

Img_4221

しかし、青空に桜も

いいが、ほんの

ひとときだけ

咲く花ニラを春の

午後の光の中で

眺めるのもいいなあ。