いよいよソロ飛行が始まる…が既に休暇は
残っていない。
もちろん帰国する気はない。
一計を案じた私は職場に国際電話を入れた。
内容は…「帰国をするはずだったが、空港で
置き引きにあってチケットも所持金も盗まれて
しまい、帰れなくなってしまった。
住み込みのアルバイトを見つけたので、1ヶ月
程働いて飛行機代を作ったら帰ります。」
受けた上司は…「え~っ!!たいへんだった
なあ!気をつけろよ!」
と恐縮に恐縮するはどたいへんがってくださる。
お金がないので電話もそこそこに…しかも
当時の国際電話は雑音がすごく、煙に巻いて
話をするにはうってつけ(?)だった。
私の懺悔録の中でもひときわ光る大嘘!
これだけの大嘘になると、ついてしまえば
あとは野となれ山となれ…とにかく一日も
早く免許を取るしかない。
そして、ついにソロ飛行の日。快晴!
緊張して操縦席に乗り込む。
(教官は外で手なんか振って…いる)
指示された滑走路へトコトコとセスナを進め、
位置に付ける。
とにかくいつも通りにやれば飛ぶんだ!
スピードをどんどん上げて滑走路を走り、
フルパワー!
浮いた! あとは空へ、空へ…
ある程度の高度になり、ちょっと落ち着いて
下を眺めたら、もう下界ははるかだった。
えっ、隣に誰もいないよな、(当然だろ)
飛んでるよな、(そうだ!飛んでる!)
ちゃんと着陸できるよな、(さあ、多分…)
ここで落ちるわけにはいかない!
置き引きにあって、やむなくアルバイトをして
いる気の毒な若者が、なぜか自分の操縦する
飛行機で落ちて死んだ、なんてお話にならない。
(いや、大いにお話になり過ぎるだろう)
それは避けたいと思いつつ、私はついにひとり
で空を飛んでいたのだった。