limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 64

2019年11月15日 14時57分34秒 | 日記
鎌倉のお帰りは遅かった。午後7時半、フェアレディZが寮の前に停まると、フラフラとした足取りで鎌倉が車から降りるのが見えた。相当に“やられた”様だ。Zが走り去ると、鎌倉が疲労困憊で玄関に転がり込んだ。「よお!お帰り」「Y、疲れたー!メシはどうした?」「まだ、食ってないよ。社食へ行く元気はありそうか?」「ちょい待ち!気力を回復させてからだ。食いながら聞きたい事も多々あるしな!」鎌倉に手を貸して、談話室に座り込むと「Y、岩元さんに“アルシオーネ”に買い替えようかと思うんですが、ボンネットに入ってるスリットは何ですか?“って聞かれて答えられなかったんだ!ありゃ何のためなんだ?」鎌倉の質問に、僕は腰を抜かしそうになった。「おいおい!水平対向エンジンはどうやって載せてる?物凄くブッちゃけて言っちまえば、”直4をアジの開き状態“にしたのが水平対向エンジンだろうが!縦に寝かして置くしか無いだろう?吸気が上で排気は下に抜くしかない!そこへ、ターボを乗せるとなると、インタークーラーはどこへ置く?それと熱対策上、空気を抜くのにどうするつもりだ?」「あっ!そうか!動転してそれすら忘れてたぜ!あのデザイン上、ラジエターを冷やすにはそれしか無いもんな!」「鎌倉、基本中の基本を忘れる程に”激しかった“のか?」「飢えてたらしくてな。4試合の連戦だよ。それに、ワインディングロードの連続だぜ!もう、ヘロヘロさね・・・」最後は小声で吐露するのがやっとだった。「まあ、朝、見たときに”タダでは済まない“って予感はしてたが、当たりだった様だな!」「Zでコーナーを攻め続けて、部屋で4連戦、再びコーナーと格闘だ。ボクシングのタイトルマッチの方がまだマシかも知れない!」少しづつではあるが、鎌倉に精気が戻ってきた。「シンメトリカルAWDが、鹿児島で必要かどうか?甚だ疑問ではあるが、試乗してから決めてもらった方が賢明だろうな。何せ、燃費が良くないし、Zの直6よりはアンダーパワーになっちまう。操縦性も含めて要検討だな」「やっぱりそうか?」「買ってから、後悔するよりはマシだろう?試乗して見積もりを取るまでならタダだしな!」「分かった、明日、説明しとく。さて、倒れる前にメシを食うか?」「お付き合いはするよ。腹は空いてるしな!」どうにか回復した鎌倉と連れ立って社食へ向かう頃には、星が瞬き始めていた。

「Y、今日も“してない”よな?」「ああ、“してない”ぜ!」2人で食卓を囲むと鎌倉が声を潜めて言う。「成り行きとは言え、岩元さんが激しくてな。相当、飢えてたらしいんだよ!何せ“格”が違うからな。今までの鬱憤を全て吐き出した様なもんだったよ!」「それで4連戦か。お疲れ様だ」「Yはどうだった?」「同じようなもんさ!“絶対にご懐妊へ持って行く”って炎上さね」2人して肩を竦めた。「彼女たちも必死だよ!“誰が1番槍を挙げるか?”で競ってるよ!最も、僕は、1人に絞りたいんだが、“大奥制度”に阻まれてる。“一夫多妻制度”なら、何の問題も無いけどな。どうやら“大奥”には、厳しい掟があるらしい」「俺も同じ目に合いそうだよ。今のところは、2人だけだが、2人が競争を始めるのは、時間の問題だよ」「来週の予約は?」「今週と一緒!抜かりは無いぜ!」「こっちは、直前まで分らんが、金曜の晩から“正室”に呼ばれるのは間違いないだろうな。“職務の一環”だと釘を打たれてるからな!」食事を終えて食器を片付けると、休憩スペースに座り込む。「それ、キツイなー!いくら“大奥の掟”とは言え、完全にハメられてるじゃないか!逃げる余地は無いのか?」「あったら当然やってるさ。問屋が卸す余地が無いから、すべからくの“お付き合い”になる訳!」「唯一の救いは、公私共に、彼女達が全面的に協力してくれる事だが、割に合ってるのか?」「今のところはな。車の心配も要らないし、買い出しにも協力的だ。仕事に関しては、一致協力し合っての“改革”だから、充分に双方の利は見合ってるよ。正念場があるとするなら、次月以降だな。“自由にやって見ろ!”と太鼓判がもらえれば“御の字”だよ」「まあ、事業部としては、採算重視だからな。こっちは、年度内の計画を追いかけるんだ。進捗如何に寄っては、煽られるだけで無く事業部にも迷惑が降っちまう!責任の重さは大差ないよ」2人ともにタバコに火を点じた。「そう言えば、“緑のスッポン”に噛みつかれたぞ。向こうも“大役”を振られたらしい。どうやら、やる気にはなったがな!」紫の煙越しに言うと「気をつけろよ!1度食いついたら、中々離してはくれん!最も、Yのところの“お姉さま方”が、見逃すはずはないか?」「適当にあしらって置いた。“圏外”に興味は無いよ」「向こうにすれば、“圏内”だから、何かしらの理由を付けて付きまとわれるぜ!ただ、Yは乗らないだろうがね」「乗ったら大変だよ!吊るされるだけで済むとは思えない!」「だよな!だから乗らないんだよな!それを“緑のスッポン”は知らないから、気軽に声をかけるんだろうが、我が身に跳ね返る“災厄”を知らないのは考え物だな!」「それは、追々知る事になるだろうが、“大奥”を敵に回すとタダでは済まん!馬鹿でなけりゃ手を引くだろうよ」「分からんぞー!天下無敵の“緑のスッポン”だからな。これまでも、様々に引っ掻き回してきてるだろう?」一服し終わると、寮へ戻るべく歩き出す。「こっちでは、O工場の様には行かないさ。自らの重責に振り回されて終わるだろうよ。それよりもだ、台風が来てるらしい。鎌倉、いざと言う場合の手順を確認しとけよ!」「マジかよ!まあ、“台風銀座”だから、避けようがないからな。明日、調べて置くさ!」夜空には雲の切れ間から星が見えた。僕等は、風呂に入ると克ちゃんと吉田さんと交代して眠りについた。まだ、4人揃っての休日は無かった。

月曜日は、一転して曇り空からのスタートになった。田尾と寮を早めに出ると、後ろから足音がする。「Y先輩、田尾、おはようございます!」永田ちゃんと実里ちゃんだ。遅れて千絵がやって来て右手を掴んだ。「Y-、おはよう!」岩崎さんと千春先輩も追いついて来た。「やってくれるじゃない!」「千絵を選ぶとは、目論見通りだわ!」岩崎さんと千春先輩は笑顔だった。田尾もニヤニヤとしている。「これで、アンタの“残留”は決定的になる!俺としても、有能な参謀を手放すつもりはねぇからよ!」「あたし達もそうですよ!“改革”は道半ば。」「まだまだ、Y先輩に引っ張って行ってもらわないと!」永田ちゃんと実里ちゃんもニコッとして言う。「あたしは、旦那様を遠くに行かせる理由が無いの!」千絵も涼しい顔で言う。「どう言う話し合いになっているのか?聞かない方がいいらしいね」僕はお手上げのポーズを取るしか無かった。「女には、女の“掟”があるの。あなたをむざむざと引き渡す様な真似はさせないわ!あなたは、事業部の“至宝”になるはず。そして、あたし達の“希望”でもあるのよ!縁あって国分に来たのなら、帰さずに留める努力は惜しまない!」「例えどんな手を使っても、あなたを引き留めて国分に転属させる!究極の目的のためなら、あたし達は団結してやれる事は全てやり切るわ!」岩崎さんと千春先輩は、そう決意を述べた。笑みは浮かべているが、心はメラメラと燃えているらしい。「はい、はい、みんな、僕もむざむざと帰る意思は無いよ。途中で放り出すのが一番嫌いだからね。成果を挙げて、“安さん”から“自由にやってみろ!”ってお墨付きをもらわないと、納得が行かないんだ。勝負はこれからさ!」「言ってくれるねぇー!俺も喧嘩のケリを付けてぇしな!」田尾が言うと「アンタは職務に忠実になりなさいよ!」と千春先輩に頬を抓られる。「イテェーよ!焼きいれるな!」「ケリも入れようか?」岩崎さんも加わり、朝から一戦が幕を開ける。「また、遅れますよ。さあ、行きましょう!」永田ちゃんが時計を見つめて苦笑した。長い朝礼が待っている。月も半ばを迎えて、踏ん張りどころだ。ギャイギャイとした騒ぎと共に新たな1週間は幕を開けようとしていた。

“災害は忘れた頃にやって来る”と言うが、週の半ばに又しても問題が発覚した。例によっての“逆ノッチ”である。ICを収めるベースとキャップには向きがある。封印をするためのガラスを塗布するにしても、整然と同じ方向に塗布しなくては、意味が無いのだ。「Yさん、このロット変だわ!」「ある時点を境に“逆ノッチ”が増えたり正常だったり、全滅だったりしてるの!」“おばちゃん達”が騒ぎ出した。「前のロットはどうです?キャップは?」僕の背筋に冷たいモノが流れる。「キャップも同じよ!」「前のロットに異常なし!」“おばちゃん達”も慌ただしく走り回ってくれる。「検査にあるロットに異常はないそうよ!ここからだわ!」“おばちゃん達”の目に狂いは無い!「どうなってるんだ?時系列に並べて下さい。検証しないと、訳が分からない。炉から、上がって来たばかりロットも確認を!」僕は、現象を捉える事に努めた。問題となったのは、TI台湾向けの金ベースとキャップ。最初は全く異常が無いにも関わらず、途中から“逆ノッチ”が急に増え始めて、最終的には1枚の地板全滅まで進み、また徐々に正常に戻る。こうした不可解な並びになっていたのだ。「これは、どう言う事だ?単なるミスじゃない!整列工程で何かあったな!これ以後のロットはどうなってますか?」僕が問うと「2ロットは全く同じ現象が起きてます!」「今、炉から出ているロットに今のところ異常はありません!」報告を聞く限り、被害は返しで留められている様だった。「Y先輩、どうしました?」千絵と神崎先輩が飛んで来た。「これを見てくれ!途中から“逆ノッチ”の嵐になり、また治まってるんだ!検査に流れてないよね?」「見れば一目瞭然だから、見逃すはずが無いわ!でも、一応、調べて見るわ!千絵、洗い直しよ!」神崎先輩達は、見直しに急いだ。「橋元さんに連絡を!塗布工程を止めて!TI関係は再度の見直しに入って下さい!僕は、徳永さんに連絡します!」内線を取り上げると同時に、吉永さんが橋元さんの元へ走った。徳永さんも直ぐに来ると言う。奇妙な不良を出したロットを別の作業台へ移していると、橋元さんが転がり込んで来た。「Y、どう言う事だ?」「とにかく、これを見て下さい!明らかに整列工程で異常が起きてます!」徳永さんも駆け付けて、実物に見入る。「こりゃあ、酷い!俺達には見抜けんぞ!」「工程表はどれだ?」橋元・徳永の両名に工程表を見せた。「昨夜の夜勤のヤツだな。橋元、夜勤で塗布をやったのは誰だ?」「高城です。しかし、最初と中間と最後の3回しか地板の整列の向きのチェックはしてません!こんなデタラメを見破るのは、事実上不可能です!」「昨夜、整列で何があったのか?至急調べる必要がある!俺は“安さん”に報告してくる。橋元、整列工程も止めさせろ!他にも被害が及んだら最悪だ!」「はい、直ぐに止めさせます!塗布工程にある磁器も調べます!」橋元さんは、内線で塗布工程と整列工程を止めさせた。徳永さんは“安さん”を捕捉すべく2階へ駆けあがる。僕は、被害の出たロットを台車に積んで「橋元さん、殴り込みに行きましょう!整列の連中の目を覚ますんです!」と言った。「おう!望むところだ!俺も今回は黙ってるつもりは無い!Y!行くか!」橋元さんも湯気を立てていた。「行きましょう!」僕等は台車を押して整列工程へ向かった。「下山田!下山田はどこだ!」「出て来い!こんな不良を作らせやがって!寝首を取られる前にツラを出せ!」僕と橋元さんが叫ぶと「何なんだよ?緊急停止の次は何だ?」と下山田さんが煩そうに言う。流石に僕も切れて「誤魔化しは通用しないぞ!これを見てからなら文句を聞いてやる!」と首根っこを掴んで、地板とトレーに顔を突き付ける。「乱暴はよせ!なんでこんな問題・・・」と言って下山田さんは固まった。「こっ、これは・・・、こんな馬鹿な!」「さあ、何があったか?Yと俺が納得する説明をしてくれ!下山田!」橋元さんがたたみかけると、「それは、俺も聞きたい!下山田!貴様の目はビー玉にすり替わったのか?!誰がこんなドジを踏んだんだ?!返答次第では貴様の首をねじ切るぞ!」桜島さながらに噴煙をたなびかせた“安さん”が乗り込んで来た。真っ赤なマグマが沸いているのが、はたから見ても分る。「やっ、夜勤で・・・、エアー系統にとっ・・・トラブルがあったとは聞いてますが、詳しくはひっ・・・引継ぎ日誌をみっ・・・見ないと・・・」「だったら、引継ぎ日誌を持って来い!徹底的に洗ってやる!夜勤の担当は誰だ?!」「おっ・・・、岡元です」「30分以内に引っ立てて来い!違背は許さぬ!ボーっとしとらんと、サッサと動け!」「はっ・・・、はい!」下山田さんは、完全に動転してしまった。言い訳は通じないのだ。事実が目の前に突き付けられたのだから。“安さん”は、僕が並べたトレーと地板を子細に見ると「こんな間違いがあるはずが無い!いや、あってはならんのだ!橋元!高城を叩き起こせ!念のために聞きたい事がある!それと、自工程の被害状況を詳細に調べて、徳永に報告しろ!Y、これを持ち帰って、1個でも良品を拾い集めてくれ!それと、被害状況を追え!徳永に伝えるんだ!2人とも急げ!1秒も無駄にするな!ここは、俺が引き受ける!」マグマを噴いた“安さん”は、言い知れぬ迫力があった。「はっ!」と言うのが精一杯だった。慎重にトレーと地板を台車に乗せて、整列工程を後にする。「Y、これは酷いよ!有り得ない事象だ!俺達に“防げ”と言っても限界はあるよ!」と橋元さんが言う。その表情は無念さを押し殺している様だった。「“おばちゃん達”が見抜いてくれましたから、まだマシですが、検査からクレームが来てたらゾッとします!」「だよな!誰もこんな事になってるなんて、予測すらして無いだろう?これを未然に防ぐとなれば、全てが滞っちまう!最初の整列が保証してくれなきゃ無理だよ!炉に投入する前と塗布前後は、こっちで調べな直してみる。Yは、炉内のヤツと自工程を追ってくれ!被害はこれだけで済んでればいいがな!」2人して盛大にため息を付いてから、それぞれの部署へ引き上げると、「被害は3ロットだけ見たいよ。今のところ、炉から出て来るモノに異常はありません!」と報告が来る。「Y、検査前と後をもう1度洗ってみたが、異常は見られねぇ!そっちで防げてると見ていいんじゃねぇか?」と田尾が言って来る。「必要数量に不足は?」「後、100ばかり足りねぇ!問題の3ロットから掻き集められねぇか?」「これからその作業に入る。慎重を期してダブルチェックをするが、そっちも目を皿にして確認してくれ!今月の予定に対するマイナスは?」「“貯金”が多少減っちまうが、問題は素材が間に合うかだよ。“飛び込み”にはなるが、出荷に影響が出るのは限定されるさ!不良の数量を教えてくれ!在庫と突き合わせて、どの程度の影響があるか?検証しなきゃならない!」「了解だ!直ぐにかかる!さあ、良品を拾い集めますよ!トレーに取り分けて、使えるものは流して行きましょう!」僕が指示を出すと“おばちゃん達”は、一斉に複雑で難解な作業に取り掛かった。「ここで止められたのは、大きいよね!」「Yさん、殴り込みに行ったの?初めて見るわ!」口々に言葉は出るが、手と目は鋭く動き光っている。「だって、こんな馬鹿げた事で不良にされたら、たまらないでしょう?“飛び込み”になって跳ね返って来るんですから!言いたい事は、言わせてもらわないと気が収まりませんよ!みんなが苦労するんですから、もっと自工程に責任を持って取り組んでもらわないと!」憤然として言ったその時、「最もだ!アイツらの目は節穴だらけだった!だが、これからは違う!下山田!全員に詫びを入れろ!自分達の不始末で、みんなが迷惑を背負ってるんだ!腹を斬る代わりに頭ぐらいは下げろ!」と“安さん”が下山田さんを突き出した。「もっ、申し訳・・あっ、ありませんでした!以後、この様な不始末は決して致しません!」震えながら下山田さんは言った。“安さん”に吊るされた挙句に“詫び”を入れるのだ。普段の勢いは何処へやらである。「これで、2度目だな!どこに目付けて仕事しとるんじゃ!!塗られたドロは塗り返すぞ!!プロ意識が低いからこうなるんだよ!プライドと責任を持って、仕事してない証拠だな!僕に言われるまでもなく、襟を正して出直してこい!!」大声怒鳴り付けてやると、「Y、貴様の言い分は最もだ!下山田!Yに言われるまでも無く、今後2度と同じ過ちを繰り返す事は許さぬ!Yのところで止めてもらったから、最悪の事態は免れたが、この“貸り”を必ず倍にして返せ!!Y、被害状況は?」「はい、概ね50%を良品として拾えそうです。3ロット中、1ロットは30%拾えるか微妙ですが、全滅は免れてます」「うむ、素材の手配は上乗せでやる!特急での回しになるが、頼んだぞ!下山田!!貴様のところのマシンを再調整だ!“馬鹿よけ”をどうするか?!思案するから、付いて来い!」“安さん”はセカセカと動き回って行った。「あんな大声出して大丈夫なの?」“おばちゃん達”が驚いていた。「言いたい事は、言って置かないと、また繰り返しますからね。“2度ある事は3度ある”って言うじゃないですか。3度目が出ない様に、怒っとかないとダメですよ。結局は、皺寄せはここを含めた出荷工程に来るんです!彼等が手伝うなら話は別ですが、そんな暇は無いでしょうし、これから益々日程的にもキツくなります。言える時に言うべき事は言わないと、人は変わろうとしない。今回は、彼等も少しは懲りたでしょう。僕も言うべきことは言いましたから!」「後で、仕返しとかされないかしら?」「それをやったら、“懲罰モノ”ですよ!今回も整列工程のミスなんですから、そんな事させやしませんよ!」と言うと“おばちゃん達”は、ホッとした様だった。「Yさんも怒る時は怖いね。普段は、眉一つ動かさないのに、やる時はやるんだね!」西田さんが言うと、少し笑いが起こった。「じゃあ、通常通りに戻りましょう!」と言うと浮足立っていた“おばちゃん達”も落ち着いて仕事に戻った。「流石はYだわ!ツボを押さえてる!」「そうでなくちゃ困るのよ!ヤツの激しさは初めて見るけど、あの姿こそ今の事業部に欠かせなく無い?」「普段は、穏やかにしてるけど、裏ではあんな思いを持ってたとは。彼は“手放したらダメ”よ!」千春先輩と岩崎さんと神崎先輩が、鉄のドアの陰で小声で言っているのが微かに聞こえた。

夕方、僕等関係者が“安さん”の命で集められ、下山田さんから“今後の対策”について、説明を受けたが、「保証の無いモノは受け入れられない!」と橋元さんが強く主張して、協議は難航した。「Y!貴様はどうだ?!」“安さん”が僕を指名した。「“2度ある事は3度ある”といいます。今度、同じような事があったとしても、返しで止められる保証はありません!最初から、完璧でなくては流れは維持できませんから、現状の対策では不十分ですし、万が一の場合、誰が責任を取るんです?整列工程で手伝ってくれるとでも言うのですか?曖昧な形での決着では困ります!」と釘を刺した。「橋元とYが同意出来ないなら、この策では不十分だな!下山田!完璧でなくては、生産は追いつかん!もう1度、顔を洗って出直して来い!!」“安さん”は雷を落とした。下山田さんが引き上げると「当面は、整列の連中に付きっ切りで地板と整列方向を見させる!橋元、1つでも不審な点があれば、突き返しても構わんから、慎重に作業を進めてくれ!これ以上遅延を引き起こす訳にはいかん!Yは、トレーへ移す際の監視を強化しろ!1個でも不良が見つかれば、下山田達に全責任を負わせる!整列の連中には、昼夜を問わずに“待機”を命じる!尻拭いはヤツらに振っていい!ともかく、今月の予定を無事に終わらせるためにも、2人の活躍に期待する!闇夜を手探りで歩くことにはなるが、やむを得ない!技術の連中にも24時間体制で、改善を指示してある!しばらくは、危険と隣り合わせだが、頼んだぞ!」と言って会合を閉じた。「Y、残ってくれ!」“安さん”のご指名だ。「何か?」「まあ、座れ。下山田が怯えておる!“Yに怒られるのが一番キツイ”とな。動かぬ証拠を突き付けられて、ヤツも懲りたはずだ!だが、またしても、貴様の神眼と行動力に救われた!これは、事実であり、慢心でも虚栄心でも無い。俺は決めたぞ!返しは貴様に預ける!徳田・田尾・検査員の女性達と連携して、もっと下から俺達に突き上げを寄越せ!事業部を根本から立て直すいい機会だ!貴様の思う通りに動いて見ろ!」と肩を叩いた。「整列の堕落振りを見ただろう?!あのざまでは、効率が上がるはずが無い!今回を機にあそこの“改革”も進める!貴様の標榜する“改革”の成果は目に見える形になりつつある。俺も負けてはおれん!Y!タダの歩で終わるかと思ったが、翻って竜になりおったな!攻めて来い!もっと、攻め込んで見ろ!俺に全く違う景色を見させてくれ!それから、これは“極秘通知”になるから、他言は無用にしろよ!本部長が貴様の任期の延長に同意して、もう半年の残留を申請した!いずれは、転属になるだろう!覚悟はいいな?!」「はい!望むところです!」「良く言った小僧!しっかりと覚えて置くぞ!ご苦労だった。下がって宜しい!」“安さん”の口から遂に具体的な話が飛び出した。「転属か。意外と早く結論が出たな!」僕は安堵して片付けに向かった。

“逆ノッチ”事件の余波は、予想外に大きく、整列工程の正常化が図られたのは、金曜日の午後にズレ込んだ。先頭の工程が止まれば、当然ながら最終工程の返しと検査・出荷も無縁では居られない。金曜日の午前中には、“おばちゃん達”の手が止まってしまったのだ。返す製品が流れてこなければ、当然なのだが、こんな事態に陥るとは“想定外”だった。「これで、たまってる“貯金”を一掃出来るぜ!Y、月曜からは煽りまくってやる!」と田尾は血気盛んだったが、こちらは青息吐息であった。「徳永さん、“おばちゃん達”を帰してもいいですか?」「うーん、やむを得ないか・・・。何も製品が上がって来なければ、時間のムダだな。本当は、もっと早く決着してもらいたかったが、予想外に時間を食ったのが、ここへ来て響いとる!よし、Y、午前中で切り上げても構わん。検査は“貯金”で持ちこたえてるし月曜にならなくは、ブツが出て来る見込みも無い。遊ばせるのは1番マズイからな。来週が心配だが、お前の腕に賭けるとしよう!」2階の事務所で協議した結果、“おばちゃん達”の切り上げは決まった。勿論、“安さん”も聞いている中での話だ。「分かりました。早いですが、仕方ありません。昼を持って本日は切り上げとさせていただきます」僕は一礼をすると、下の作業室へ降りて「残念ですが、お昼を持って切り上げとします。来週、また頑張りましょう」と言った。「そうね、仕方ないよね。何も無いなんて、前代未聞だもの」と西田さん達が言って、片付けが始まる。「ポツポツとは、出始めてるのはどうします?」牧野さんが言うが「数が知れてますから、僕が対応しますよ。僕まで帰る訳には行かないですからね」「1人で泣かないでね」と吉永さんが頭を撫でて、笑いを誘う。“おばちゃん達”は、名残惜しそうに昼で退勤した。そして、午後、ポツリ、ポツリと炉から上がって来る製品を1人で返していると、フッと考えが浮かんだ。「そう言えば、“最速タイム”はまだ更新してなかったよな?丁度、いい機会だ。やって見るか!」僕は腕時計のストップウォッチ機能を使っての“タイムトライヤル”を始めた。「ただ、返せば良いんじゃない!正確にミス無く、そして“流れるように、自然に”!」僕は懸命に地板に挑んだ。だが、タイムは伸び悩んだ。「まだまだ足りない。全然、足りない!神の頂ははるか先だよ!」と言っていると「そうでも無いぞ!格段に腕を上げやがったな!日々の努力の結果を、お前の底力を見せてもらったぞ!下山田!コイツは、現状に満足する事が無い!魚が水の中を泳ぐ様に、鳥が空を飛ぶ様に、人が呼吸をする様に、流れる様な自然な返し!一番経験の浅いコイツが何故ここを仕切れるか分るか?常に腕を磨き、爪を研ぎ澄まし、無心で製品の前に立つ!コイツにはその覚悟と気概があるんだ!貴様にその覚悟はあるか?!」“安さん”と下山田さんが鉄のドアの前にいた。下山田さんはうな垂れている。「Yが、ここに座って以来、検査で製品が切れた日は無い!貴様も見ただろう?!検査室に積まれたトレーの山を!コイツの信念はここに書かれている通りだ!」“安さん”がホワイトボードの隅を突いた。「何て読むんです?」下山田さんが、恐る恐る聞いた。「“疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵略すること火の如く、動かざること山の如く、知り難きこと陰の如く、動くこと雷振の如し” つまり、“進むときは風の様に早く、機を待つときは林の様に静かに、攻めるときは火が燃え広がるように急激に、じっとしているときは山の様にどっしりと、自分自身は暗闇の中にいる様に気配を消して、動くときは雷鳴が轟く様にドーっと、行動にはメリハリを付ける事が肝要であり、中途半端はダメだ。1つ1つの行動に全力で取り組まなくてはいけない”と言う意味ですよ」と僕は教えた。「下山田!貴様に足りないのは“これ”だ!Y、信玄は軍勢を率いる時、どこに居た?」「“風林火山”の旗指物と共に、先頭に立って軍勢を率いていました!」「そうか、やはりな。お前は“他力本願”が嫌いだろう?常に先頭に立って戦う覚悟と意思を示す。部下はそれを見て負けぬように、抜かれぬ様に着いて行く!あの気難しい“おばちゃん達”を意のままに出来るのは、コイツが先陣を切って駆け抜けて行くからだ!下山田、残念ながら貴様にはそれが無い!今回も、技術陣に任せきりだった!だから、今、Yが1人で遊んでるんだ!恥を知れ!」下山田さんの顔に血の気は無かった。「Y、土曜日と日曜日の両日返上で整列工程を動かす!塗布工程は、橋元の呼びかけで日曜日から動く!月曜日には、お前達が窒息する程の製品を用意してやる!心してかかれ!」“安さん”がニヤリと笑った。「了解です!最速で片付けてご覧に入れましょう!」「うむ、任せた!下山田!行くぞ!もうこれ以上の遅延は許さぬ!俺の目の前で完璧に磁器を並べて見せろ!」と言って“安さん”は整列工程へ向かった。「やれやれ、一騒ぎが治まったか。土日返上となると、本当に窒息するかもな」と言っていると「Y、今晩付き合ってよ!」と恭子が背後から抱き着いて来た。「どこへ行きます?」「今日は、趣向を変えて飲みに行かない?千春も誘ってさ!」と耳元で囁く。「“大奥総取締”のお2人とですか?面白い。たまには、いいですね!」と同意する。「じゃあ、千春に声かけとくから。市内に知り合いがやってるバーがあるの。そこで、飲みましょう!集合は6時に寮の前に」「了解です」「土曜日は千絵が、日曜日は永田ちゃんが予約済よ!今週末も“職務”に励んでちょうだい!」恭子はそう言って検査室へ戻った。「ザル同然の2人が相手か。こりゃ厳しいな・・・」そろそろ、勤務終了時刻だ。やむを得ずの定時上がりだが、僕の心は軽かった。来週になれば、また全力での仕事に戻れる。先行きは明るいのだ。治工具を片付けると、来週の予定を確認して帰り支度を始めた。

その日の帰り道、一様に口を突いて出たのは「来週が勝負になる!」と言う認識だった。「でも、何か妙だわ?“恣意的意図”を感じるのよ!短期間に2度も“逆ノッチ”が集中するなんて、通常はあり得ない事だわ。何かしらの裏がありそうだわ!早紀(細山田さん)、手を回せそうかな?」岩崎さんが言う。「やってみますよ!どこも“品証を敵に回す勇気”があるとは思いませんから!」「任せたわよ!多分、“あの人”が絡んでると思うの。嫌な予感がするのよね」「“あの人”とは、誰です?」僕が聞くと「今晩のお愉しみよ!早紀も出て来てよ。6時に寮の前!」「了解です。必ず結果をお持ちしますね!」細山田さんがVサインで答えた。「俺も、“まさか”とは思ってるが、案外当たりかもな!」田尾も同意見らしい。「恐らく、“安さん”も察知してるでしょうよ!当たりなら、タダでは済まないと思う!」千春先輩も同意した。「でも、“自らの首を締める”とは、やり過ぎてません?」永田ちゃんが言うと「それが、分からないからやってるのよ!末端に飛ばされるとも知らずにね!」岩崎さんが憤然とした口調で返す。僕にも、薄っすらとした陰が見えて来た。もし、考えが“当たり”ならば、許されざる行為になるだろう。“職務妨害”ともなれば、“安さん”が見逃すはずが無い!果たして、考えが当たりか?否か?結論は今晩分かるだろう。

life 人生雑記帳 - 63

2019年11月13日 17時56分46秒 | 日記
佐多岬から帰り道、牧之原台地から下りて来る白いローレルが目の前に来た。「向こうもお帰りか。鎌倉のヤツ上手くやったかな?」「大丈夫ですよ。新谷さんが、抜かり無く進めたでしょうよ」実里ちゃんが笑顔で言う。2台は連なって寮の玄関先へ滑り込んだ。先に鎌倉が車から降りて、手を振った。「先輩、お疲れさまでした!また、今度、愛し合いましょう!」実里ちゃんと別れの口づけを交わすと、僕も車から降りて手を振った。2台はゆっくりと発進して行く。「ただいま、ヒューストン。こちら、オデッセイ。無事帰って来た!」「なんじゃそりゃ?」鎌倉が唖然として言う。「アポロ13号の生還劇を知らんのか?まあ、いい。それより、鎌倉どうだった?」玄関を通りながら聞くと、「激しかったよ!すっかり、精気を吸い取られたってとこ。あのパワーの源はどこから来るんだ?」と疲れた表情で言う。部屋に戻ると、克ちゃんと吉田さんが爆睡している。僕等は、荷物を置くと1階へ戻って、談話室の隅に潜り込み「“懐妊”を狙う執念だな!それと、美人程、お声がかかりにくいから、餓えてるんだろうよ。久々だとしたら、燃えるのは当然だろう?」と小声で言う。「確かに。お誘いは2度目だが、3試合を連続して戦ったのは、初めてだよ。Y、今日も“してない”よな?」「ああ、“してない”よ。だから、穏やかに帰してくれたんだ。最低限、それは守らないとメンツ丸潰れになっちまうからな!」と囁き合う。「Y、明日は岩元さんが控えているが、彼女とも同じことになるのか?」「仔細は分からんが、狙いは同じだろうな。3試合を戦い抜く覚悟はして置け!しっかり食べて、寝て、明日に備える。連戦を潜り抜けるには、体調管理は万全にして置かないと持たないぞ!」「お前さんは、女性の扱いに慣れてるからいいが、何を話してやってるんだ?」「こっちから話すことは余り無いよ。逆に、彼女達からバンバン質問が来るから、それに答えて繋げばいいしな。仕事の話とかも裏話で盛り上がるから、事欠く事が無いんだ!」「うーん、流石は“繋ぎのY”だけあるな。先がどう転んでも話を続けたり、別方向へ誘導したりする技量が欲しいぜ!悲しいかな、俺には到底出来ない芸当だからな・・・」鎌倉は肩を落とす。「でもな。新谷さんは、鎌倉の話が聞きたいんだぜ!明日の岩元さんもそうだろう。そのまんまで行くしか無かろう。下手な小細工は要らんよ。素を出してやれば、一番喜ばれるはずだ!」と言って立ち直させる。「ちなみに聞くが、今日のお相手は?」「品質保証部の女の子さ。いざと言う時に、品証とのパイプがあるか?無いか?で事態は大きく左右される。気は抜けないよ!」「製造部門としては、欠かせないパイプ役か。着々と地盤を固めてるな!」「岩元さんと言えば、資材部門だろう?鎌倉だって地固めに動いてるじゃないか!」「まあな、お互いに“現地化”の手は繰り出してる訳だが、1つだけ“警告”させてくれ。“緑のスッポン”に悟られるなよ!Yは知らんだろうが、アイツは密かにお前さんを狙ってる節がある!ここへ派遣されるにしても、わざわざ“志願”して来てるんだよ。背中には気を付けろよ!」「分かった。ご忠告感謝するよ。ウチの“お姉さま方”もそれは察知してる!密かにマークはしてるが、僕も注意するとしよう」「えっ!“大奥”が察知してるだって?!どうやって見破ったんだよ?」「そこは、同性の強みだろうな。1発で気付いたらしいぜ!レイヤー事業部には、既に網が張られてるよ!」「まったく、末恐ろしい組織力だな!既に固着化されてるのか?」「ああ、腰までガチガチに固まってるよ。タダで逃がすつもりは、更々無い様だ」「と言う事は、俺も同じ運命か?」「多分な。あらゆる手を使って“帰さない”方向へ持って行くだろうよ。お互いに同じ船に乗り合わせたんだ。飛び込んで泳いでも逃げられるとは思えない」「よしんば、“帰還”したとしても、今の様な地位と責任は持たせてはもらえないだろうな。元の鞘に収まるのがオチだろう。だったら、今を全力で駆け抜けるしかないよな」「そう言う事さ。やれる事は全力でやり切ればいい。仕事も交友関係もな!」僕と鎌倉は、明日に向けて準備にかかった。まずは、社食でしっかり食べる事だ!

明けて日曜日、千絵が指定した時間は午前9時半。彼女にしては遅い時間だった。一方の鎌倉は8時半だった。「Y、それじゃあ行って来るぜ!」鎌倉は勇んで先に寮を出た。お迎えの車は、フェアレディZ。「コイツは驚いた。高速走行か?ワインディングロードか?鎌倉もタダでは済まないな!」と呟いていると、赤いマーチも滑り込んできた。1時間も早い到着だ。「おい!聞いてないぞ!」僕は慌てて部屋へ取って帰すと、荷物を手に持って玄関を飛び出した。「あっ、ごめーん!どうしても我慢できなくて!」千絵は済まなそうに言う。「フライングもいいが、ちょっと早くない?」と言うと「ソワソワしちゃって落ち着かないのよ。まずはこれ!」思いっきりのディープキス。千絵は待ち切れなかったらしい。運転席と助手席に別れると、「今日はどうする?」と小首を傾げる。千絵らしい仕草に、思わず笑みがこぼれる。「そうだな、まず、洗車に行こうか?2人でやれば短時間で綺麗に洗える」「そうね、お手入れしましょうか?大分、土埃と灰で汚れてるし!」「コイン洗車場まで直ぐだろう?善は急げだ!急速発進、最大戦速!」僕は、市内へ向けて車を走らせた。天気は、雲が多めながらも日差しもあり蒸し暑い日だった。朝の内に済ませなくては、暑さでやられるだろう。千絵のお肌にも良くない。グリーンのTシャツにデニムのホットパンツとスニーカーである。UVケアはしているだろうが、日差しの下に長時間は酷だろう。僕等は、慌ただしくマーチの洗濯に取り掛かった。放水銃から水を浴びせると、飛沫が上がり虹が見えた。「あー、気持ちいいねー!」飛沫を浴びて、千絵は無邪気にはしゃいだ。彼女といると、自分も自然体でいられる。“やはり、千絵かな?”一緒になるなら“この子しか居ないのかも知れない”フッとよぎる思いは場当たり的なモノでは無さそうだ。土埃と灰が流されると、赤がより綺麗に浮かび上がる。備え付けの掃除機で、車内もくまなく埃と土を吸い取ると、マーチはピカピカになった。「やっぱり、2人でやると早いね!ピカピカのマーチちゃん!嬉しいー!」千絵は腕を絡ませてくる。それも、自然な流れだと思わせる形で。「さて、マーチも綺麗にしたし、次はどうする?」千絵の頬を突くと、キスをして来てから、「決まってるでしょう?抱っこちゃん!」と言う。「方角を指定して。気ままに流して行こう!」「じゃあ、南西!」「よっしゃ!行くぞ!」僕達は、国道10号を走り出した。

その日は何故か交通量が多かった。国道10号を流れに任せて走行していると、「先輩、“セイラさん”ですか?“ミライさん”ですか?」と千絵が言い出した。「機動戦士ガンダムか?2大派閥だよな。少数派で“フラウボウ”と“マチルダさん”もいたが、どっちらかを選べと言うなら“セイラさん”になるよ」「うーん、やっぱりそう来るか!聡明でブロンドの髪。戦闘メカも操縦しちゃうマルチな才能。あたしもブロンドに染めないとダメ?」「千絵は、そのままが一番可愛いから、小細工はするな!」「あれあれ?随分と強い口調で、否定するのね。その心は?」「人それぞれに魅力はあるものさ。千絵は、大樹の様に心地いい時間と場所と風を用意してくれてる。妙に他人の真似なんかしなくてもいいんだよ。自然に、ありのままに居てくれれば、それでいいんだ!」「うわ!どうしちゃったの?熱でもあります?いつもの先輩らしくないよ?」千絵は額に手を当てる。「熱は無いみたい。Y先輩、何か変なモノでも食べました?」「至って普通だよ。欲を言うなら、多少、腹が空いただけだ!」「そうなら、早く言ってよ。そこを右に曲がって。スーパーで食料と飲み物を買いましょう!」千絵の誘導で、マーチはスーパーへ突っ込んだ。買い物カートを転がして、2人で店内を歩くのだが、これもごく自然に感じられる。“近い将来こうして、2人で生きていくんだろう”と考えるのが、当たり前に浮かぶのだ。「千絵、こうして毎週末に、買い物に来るのが普通になればいいよな」「どうしちゃったのよ?そりゃ嬉しいけど、やっぱり先輩、変ですよ。今日はどう言う風の吹き回し?」千絵が小首を傾げる。その仕草が何とも言えない眩しさの中に見える。「こうやって生きていくんだ!この土地でな!」「えっ!えっ!相手はあたしなの?」「そうだ!今日決めた。自分らしく生きていくためには、千絵しか考えられない!前に、千絵言ってたろう?“前世では夫婦だった”って。もう1度、夫婦やらないか?」「それって、“あたしでなきゃダメ”って事なの?」「ああ、ダメだ。呼吸する様に、ごく自然にピッタリと来るのは千絵だけなんだ。既に鈴も付いてるしな!」僕は首元を指した。「ちゃんと、指輪も買ってよね!ドレスも着させて!」千絵は半泣きで言う。「ああ、約束するよ。だから、付いて来てくれよ!」千絵は嬉しそうに頷いた。

国道に戻って、南西方向へ走り出すと、「岩崎先輩達はどうするの?あたしが“独占”しちゃったら、みんな泣くと思うけど・・・」と千絵は不安げに言った。「そうならない様に、これから思案するのさ。まずは、“ご懐妊”へ持って行く。これが、一番手っ取り早いだろう?」「でもさ、みんなで作り上げた“大奥制度”だと、あたしは“側室”なのよ。岩崎先輩には勝てないんじゃ・・・」「1番最初に“お世継ぎ”を挙げればいい事だろう?そうすれば、地位も上がるし、揺ぎなくもなる。一夫多妻制はご法度だから、既成事実さえ作ってしまえば、勝ち負けなんてフッ飛ばせる!」「でもね、でもね、みんながY先輩の子供を望んでるのよ。例え“私生児”になっても、産むつもりなの!そうしたら、あたしの立場はどうなるの?」「千絵は、“僕が選んだ奥さん”になる。これ以上、何を望む?戸籍上も入籍するんだぜ!?今の法律の下では、配偶者は1人しか認められない。それは、分かるよね?」「うん、それでも愛人関係は残るでしょう?嫌とは言わないまでも、みんなに申し訳なくて・・・」千絵は一転して意気消沈に陥ってしまった。「千絵、どうした?不安か?」無言で頷いた。「怖いの?」「違う。“相応しくない”もん!」「どうして?」「セイラさんじゃないもん!」段々と泣き声になった。適当な路側帯にマーチを停めると、僕は千絵を後部席へ押し込んだ。膝にのせて抱きしめると、「千絵でなきゃダメなんだよ。遥かな過去から、今日まで千絵を探して、やっと巡り合えたんだ。離さないぞ!」と言ってキスの雨を降らせる。少しづつ千絵も落ち着いて来たのか、舌を絡ませて来る。「あたしでいいの?このままの、あたしでなくちゃいけないの?」「そうだよ。“そのままの千絵”が欲しくてたまらない。やっと分かったんだ」千絵は首に腕を巻き付けると「本当にいいの?」と耳元で聞いた。「Yes!」「“お子ちゃま”でもいいの?もっと、大人の女性の方が良くない?」「ダーメ!」「後悔しても・・・知らない・・・から。だけど・・・、やっと・・・言ってもらえた!」千絵は泣いた。思いっきり泣いた。悲しいからではなく、嬉しくて泣いた。そんな千絵を僕は抱き続けた。

どうにか泣き止んだ千絵がハンドルを握り、マーチを再び走らせて間もなく「あれ!何よこれ!ハンドルが取られる!」マーチがフラフラとし始める。「慌てるな!しっかりハンドルを握れ!恐らくパンクだろう!あそこの路側帯へ突っ込め!」僕も助手席から手を伸ばして、ハンドルを支えた。ヨタヨタとマーチは路側帯に滑り込んだ。2人して慌てて車外へ出ると、左の後輪がペチャンコになっていた。「どうしよう。これじゃあ、どうしようも・・・」「無いって言うのか?大丈夫だ!まだ、手はあるさ!ハッチを開けてくれ。幸い、後輪だからな。1度のジャッキアップで済む!」「でも、交換するタイヤなんて積んでないのよ!」「いや、あるさ!“テンパータイヤ”が付いてる。カーペットとボードを外して見なよ!工具とセットで積まれてるから!」千絵が恐る恐る手を動かすと「これ?こんなチビちゃんで間に合うの?」と怪訝そうな顔をする。「それが、間に合うのさ。近くのスタンドまでは、充分に持ちこたえてくれるさ!さて、まずはナットを外すか!」僕は慣れた作業に取り掛かった。ナットを緩め、ジャッキで車体を浮かせてから、パンクしたタイヤを外し、“テンパータイヤ”を装着した。ナットを締め付けるまで、約15分もかからなかった。「ほえー、手際のいいこと。もしかして、経験済み?」「秋口になれば冬タイヤに、春になればノーマルタイヤに交換しなきゃ走れない国に居たものでね。これくらいは軽いよ!問題は、何がどこに刺さっているか?だよ」と言ってからタイヤの見分に取り掛かる。「あった!木ねじらしい。落ちてたヤツを運悪く踏んじまったらしいな!だが、修理の利く場所だから、近くのスタンドまで行けば何とかなる!運転を代わろう。慎重にゆっくりと走らせないと危ないからな!」タイヤを車内へ押し込んでから工具も積むと、マーチを慎重に走らせる。「もし、前輪だったら、どうしたの?」「後輪を外してから、前に持って来てやらないとダメなんだよ。“テンパータイヤ”は、後ろに付ける事を想定してる。前だったら厄介な事になってたよ!」「それでも、切り抜けるとは、流石に男子!やってくれるじゃない!」千絵がやっと笑顔を取り戻した。「この先の右手にスタンドがあるわ。そこに頼もうよ」「よし、早いに越した事はない。走行できる距離も知れてるし、場所を選んでる場合では無いからな!」僕は目指すスタンドへどうにかマーチを引き入れた。パンクの修理を待つ間、休憩スペースに座り込むと「タイヤ修理できるよね?」と千絵が聞く。「地面に接する面、“トレッド面”って言うんだが、そこに刺さっていたから、大丈夫だよ。横だったら手の打ちようが無かったがね」「どうして?」「横の面、“サイドウォール”って言われてる場所は、タイヤの中でも最も薄い場所なんだ。しかも、一番力を受ける場所でもある。そこに穴が開けば、最悪の場合“バースト”、つまり破裂するんだよ!」「破裂?!そんな事あるの?」素っ頓狂な声が響く。「空気圧が低い状態で、高速を飛ばせば充分にあり得るし、縁石に強く擦り付けても、同じ事は起こるよ。非常にデリケートなんだ。だから、きちんと手入れをしてあげなくちゃ!」「あたしみたいに?」「そうだ。千絵よりは手がかからないが、細心の注意は必要だよ」「直ったら、“抱っこちゃん”?」「勿論!」「じゃあ、早くしてもらわないと!」「まあ、焦るな。完璧に直して置かないと、帰り道に響く!」千絵の暴走を止めるのは、ひどく骨の折れる作業だった。待つ事30分で、マーチは復活した。勇んでスタンドから出ると、一路、鹿児島市内を目指す。“誰にも見とがめられない部屋”を探しに僕等は先を急いだ。

“誰にも見とがめられない部屋”で3戦を戦い、バスルームで散々遊んでから、モーテル出た頃、2人して空腹感との戦いに突入した。「あー、お腹空いた。先輩、そこを左に」千絵の誘導でラーメン店へ入った。そろそろ、豚骨にも飽きて来たのは事実だが、他に選択肢は無いのだ。「ここは、割とコッテリ味ですから、今までに無いスープを味わえますよ」「期待しよう。だが、醤油ラーメンが食べたい気もするな。“醤油ロス”から、もう直ぐ2か月になるなー!」「あたしは、逆に醤油ラーメンが想像できなくて困ってるんです。お盆に付いて行ったら、真っ先に食べたいなー!どんな感じなんだろう?」「蕎麦も美味いぞ!ざる蕎麦の大盛もお勧めだよ!」「蕎麦つゆも、当然醤油ベースですよね?」「ああ、当然だろう?刻み葱とわさびを入れて、すするのが流儀だ。“わさび味”と“とうもろこと味”と“味噌味”のソフトクリームも食べさせてやる!」「えっ!“わさび味”と“とうもろこと味”と“味噌味”のソフトクリーム?!どんな味がするんだろう?想像すら付かない!」千絵が絶句する。「清里高原で、搾りたての牛乳と清らかな空気!佐久平で鯉料理!善光寺で七味唐辛子煎餅!小布施で栗三昧!まだまだあるぞ!」と追い打ちをかけてやる。「鯉に煎餅に栗?!」「秋になれば、林檎と葡萄と干し柿とワインが加わる!ざっと言ったが、まだまだこんなもんじゃない!胃袋が幾つあっても足りないぐらいに、味わわせてやる!」不敵な笑みを浮かべて言い放つと、千絵は及び腰になった。「おデブにするつもり?そんなに食べたら育っちゃうじゃない!」「無論、回るコースにも寄るが、長野に行く以上、それなりに育ってもらわなくゃ困るんだ!“懐妊”した折に、体力を落とさないためにもな!」と言ったところで、巨大な器が届けられた。大盛の鹿児島ラーメンのご到着だった。「シメは白くまだからね!」千絵と共に箸を割った。空いた腹に豚骨スープが染み渡る。コッテリとはしているが、これまでに味わった事の無いスープは新鮮味があった。「お醤油のスープにも、バリエーションはあるんですか?」「あるよ。土地柄によっても随分違うが、鶏ガラに野菜、煮干しにカツオ、他にも店独自のバリエーションは、多々あるさ。“醤油豚骨”が流行りになりだしてるらしいよ」「えー!豚骨にお醤油?!濁った茶色のスープがあるの?!」「都内を中心に、“醤油豚骨街道”がある様だ。向こうの新しいトレンドになりつつあるよ!」「うーん、増々育ちそう。でも、“醤油豚骨”にもチャレンジしなきゃ!」千絵は貪欲さを隠さずに言った。お盆の旅が待ち遠しくなった。

お腹を満たした後、マーチは指宿スカイラインへと上った。桜島が真正面に見える駐車帯に車を入れると、2人並んで景色に見入った。「この国象徴。厄介な事もあるけど、やっぱり桜島が無いと鹿児島じゃないよな」「うん、みんな、少なからず恩恵を受けてるの。この山は、宝の山。なにしろ元気いっぱいだもの!先輩、もう1回頑張れる?」「千絵、また、病が出たか?」「うん!“抱っこちゃん”希望!と言うか、熱望!」「ここじゃあ人目に付くぞ」「大丈夫!秘密兵器があるから!車を奥へ入れ直して!」千絵がキーを放って寄越す。マーチを奥まった場所へ入れ直すと、千絵は日よけを吸盤で貼り付けて窓を塞いだ。「簡易式“誰にも見とがめられない部屋”の完成!これならいいでしょ?」千絵はすっかりその気だ。肩を竦めるしか無かった。後部席へ入り込むと、千絵は唇に吸い付いて来た。「ねえ、早く・・・脱がせて」身体をくねらせると、ホットパンツを脱ぎ捨てて、湿り気を帯びたパンティに触らせる。手を入れてかき回しながら、キスの雨を降らせる。「あー!出る!もう・・・、出ちゃいそう!」愛液がパンティと腕を濡らした。ピクピクと小刻みに身体が震えて千絵はイッてしまった。「次は・・・、タイズラ坊やを・・・、ちょうだい」小声で千絵はねだった。ブラのボックを外して、乳房を露にする。僕の好きな大きさと弾力に溢れている“お気に入り”のヤツだ。千絵は馬乗りになり、僕は乳房を鷲掴みにした。「大きい、しっかり入ってる。さあ、動くわよ!」ゆっくりと千絵が腰を使う。喘ぎ声高まるのに左程の時は必要なかった。フィニッシュにたっぷりと体液を注いで、最終戦は終わった。「これで・・・、出来る・・・かな?」千絵はぐったりと身体を預けて来た。「神様次第さ!」濡れた座席を拭いて、後始末を終えると僕等は外でゆっくりと身体を伸ばす。その時、南岳から噴煙が上がり、遅れて「ドーン!」と音が轟いた。「桜島が祝福してくれてるわ!きっと女の子よ!」千絵は確信しているようだった。「最初は、女の子か。次が、男の子?」「ええ、4人は作らなくっちゃ!」「頑張らないと、生活が大変だ!しっかり稼がないと!」「あたしも頑張らなくちゃ!4人を産むんだから!」千絵が肘で脇腹を突いた。しばらく2人して桜島を見ながら風に吹かれた。

「あなた、もうお別れなの?寂しいわ!」千絵は唇を離そうとしない。「しょうがないだろう?住まいは寮なんだから」「早く、2人で暮らしたいの!そうすれば、何も心配しなくていいのに。夜も抱き合って眠れればどんなにいいかしら・・・」「そうしたいよ。だけど、千絵の寝姿と寝相が心配だ!」「あら、全裸で抱き合うのはダメなの?」「マグマが冷えて固まるぞ!」「大丈夫よ、一晩中温めてあげるから!」千絵は中々解放してくれない。寮の手前で、既に15分もの“お別れの儀式”が続いている。「千絵、もう決めたんだから、他の女性に手は出さないよ!だから、落ち着け!」「それは、無理よ!“大奥制度”で決まってるもの!今まで関係した女の子達とは、これからも輪番で“お付き合い”をしなくちゃダメよ!子種は均等に付けなくちゃ!勿論、優先順位は変わるけど、あたしが“ご懐妊”するまでは、ちゃんと付き合ってあげて!それと、岩崎先輩と千春先輩の“承認”を取り付けなきゃ!“大奥総取締”には、あたしから“申告”しとくから!」「おいおい、そこまでやるのか?どう言う仕組みなんだ?」「それは、知らなくてもいいの!“女の問題”だから、“殿”は口出し無用!大丈夫よ!ちゃんと調整するから」キスを繰り返しつつ千絵は言う。「どうやら、自由にはさせてはもらえないのは分かったが、僕は出来れば千絵とだけに・・・」「それは、無理よ!あたしの立場も考えてよ!“正室”は、岩崎先輩なんだから!“側室”第1位にはなるけど、“正室”のメンツは潰したらダメ!」「うーん、そうなのか?」「そうなの!それは承知して!」と言うと舌を絡ませてくる。僕は無意識に千絵の胸元に手を触れる。Tシャツなので、隙間から乳房に触れるのは無理だ。すると、手を入れやすい様に裾を持ち上げた。千絵の乳房は、大きさ・形・弾力共に、僕の好み。千絵もそれは承知している様だ。「なごりの“おっぱいちゃん”をあげるから、我慢するのよ!」ディープキスを繰り返して、やっと寮の玄関前に車を着けた。「バイバイ、また明日ね!」「おやすみ」と言ってから車を降りた。千絵は手を振りながら、駐車場へ車を回した。「ノー天気でいいわね!みんな必死に働いてるのに!」吐き捨てる様な声が聞こえた。“緑のスッポン”こと、高山美登里だ。明らかに敵意むき出しの表情をしている。レジ袋を下げているところを見ると、買い出し帰りだろう。僕は、意に介すことなく寮の玄関に向かった。「O工場の恥晒しもいいとこよ!真面目に働きなさいよ!」美登里は尚も言って来るが、僕は答えなかった。感情的になっている以上、まともな話し合いは無理だろう。“三十六計逃げるに如かず”で、僕は部屋へ戻った。克ちゃんと吉田さんは、相変わらず爆睡していた。鎌倉は居ない。「Y,インターフォンだ。5番に出てくれ」田尾が呼びに来た。「誰だ?」「面倒臭いヤツじゃねぇか?」肩を竦めて言う。この手のリアクションの場合、まず間違い無く面倒臭い事に巻き込まれる。相手は“緑のスッポン”だった。「さっきはどうも。今、時間取れる?真面目に話したいんだけど」「悪いが、他を当たってくれないか?こっちもやる事あるし」「お願い!10分だけでいいから!」“緑のスッポン”に喰い付かれたら、最低でも1時間は解放してはもらえない。僕は、あれやこれやの苦情やわがままに付き合う気分では無かった。「田中さんに代わるよ。苦情とかは担当外なんでね」「そうじゃなくて、仕事の話!頼むわ!お願いします!」流石に“スッポン”だ。諦める事を知らない。「10分以内にしろよ!こっちだって、色々とあるんだから!」「OK、10分でいいから、出て来て!」止む無く、玄関先へ出ると“スッポン”が走って来た。「あなたは、何故、早番だけなの?」「これでも、パートさん28名を預かる立場なんでね。仕事は勿論、勤怠や時間管理もやらなきゃならない!これだけの大兵力を統率するんだ。当然、後工程との調整や出荷の段取りもある!効率良く回すには、それなりの“方策”は必要性があるだろう?これから、次月に向けての段取りと方策を思案したいんだ!もう、いいか?」「待って!待ってよ!引継ぎの期間はどれくらいだったの?」「2週間さ。1週間で仕事全般を覚えて、残りの1週間は、実質的な指揮の執り方の実践。後は、“任せるよ”でおしまい。上からは、“2ヶ月は自由にやってみろ!”って言われて、丁度2か月目になる。他には?」「たったそれだけ?!それだけで、パートさん28名を預かってるの?」「ここでは、当たり前だろう?“見込まれた”か“計算できる”と踏まれれば、容赦と言うか、否応なしに“責任ある立場”に置かれるんだ!後は、結果次第だよ。結果さえ出せば、自由にやらせてもらえる。何か不満でもあるのか?」「“マルチレイヤーパッケージの品質保証をやってくれ!”って言われたのよ!データー取りから記録、管理、営業との折衝まで!あたしに出来る訳無いのによ!」美登里は唇を噛んでいた。「ほお!見込まれたものだな。やればいいじゃん!それだけの“器量がある”と岩留さんが認めたなら、乗らない手はないぞ!」「アンタはいいわよ!あたしは女なのよ!そんな責任、背負えると思うの?」「ここは、実力の世界だ!O工場の様に“年功序列”じゃない!力のある者は、どんどん責任のある地位へ引き上げてくれる。それを鼻から“無理です”って蹴るのは、自ら墓穴を掘るのと同じだ!“ピンチをチャンス”と捉えられないなら断りな!それなりの仕事しか回してもらえなくなる。即ち、“交代勤務でヘロヘロ”にされるのがオチだ!自由を謳歌したければ、引き下がるだけじゃ栄光は掴めないぜ!」美登里は考え込んだ。断れば、岩留さんに徹底的に叩かれるだけで終わる。反対に、この機に乗じて受ければ、大変ではあるが他の派遣隊の連中よりは、上で仕事が回せるのだ。最終判断は、美登里が下さなくてはならない。僕は、美登里の性格上、挑まれれば“受けて立つ”と踏んだ。「サーディプ事業部で“安田順二に雷を喰らって無いヤツが居る”って噂だけど、アンタの事?」「ああ、幸いにもその通りだよ。向こうは、落としたくてウズウズしてるがね」「それだけ、努力してるんだ。あたし、何も見えてなかったわ。確かに、ここは実力の世界。見込まれたなら、受けて立たなきゃ礼を失するわね!いいわ!受けて立つわ!アンタや鎌倉の様に、あたしにも自由を謳歌するチャンスだもの!」予想通り、美登里は受けて立った。「結局、何が聞きたかったんだ?」「上に行けるかよ!アンタはチャラチャラと遊んでる風にしか見えなかったけど、裏では渾身の力を振り絞って戦ってるのがやっと見えた。ならば、あたしも続くまでよ!」「ほう、やる気になられたか。まあ、自己責任だからやれるだけやってみな!そうすれば、違う景色が見えてくるだろうよ!」僕は踵を返すと寮の玄関へ向かって歩き出す。「ここに“ドップリ”と浸かるのも悪くはないぜ!」と言って右手を振る。「困ったら話、聞いてくれる?」美登里は聞いて来た。「時と場合によりけりだ。だが、まずは、自分で戦って見な!援軍が必要か?は、こっちで決める。どの道、事業部が違えば口出しはご法度だ。己を信じて突き進むんだな!」もう1度振り返ると、不敵に笑う彼女が居た。「ありがとう。これで、迷いは振り切れた!先輩、共に戦おうよ!」「そんなセリフを聞くとは思わなかった。だが、O工場では、絶対に出来ない事をやれるんだ。それを忘れるな!」そう言うと僕は、談話室へと入っていった。「さて、鎌倉のヤツどうしてるかな?」タバコに火を点じると、窓の外を見た。梅雨の晴れ間が広がっていた。夕闇はまだやって来ていなかった。

life 人生雑記帳 - 62

2019年11月11日 10時52分30秒 | 日記
R31スカイラインの心臓は、FJ20・DOHCターボだ。エンジンは苦も無く吹き上がり、夜の国道10号線を駆け抜けて行く。「Y-、“リップスティック・グラフィティ”好きなんでしょう?あたしも、ほぼ“リアルタイム”だったから憧れたわ!最も、あたしは、あんな高校生活を送れなかったけれどね!」恭子が懐かしそうに言う。「その反動が、この車ですか?」「そう、“あたしそのもの”って言っても過言では無いの。“RS”が何の略か知ってる?」「“レーシング・スポーツ”ですよね?」「正解!」「L20系よりは、鼻先が軽いから扱いやすいし、どちらかと言えば、ワインディグロード向きではありますね。無論、高速でも問題はありませんが・・・。流れに乗っている今も、先行車をパスするにも楽だし、運転していて愉しくなければ、ワクワク感がなければ“RS”を冠する意味は無い。同じように、“岩崎恭子”と言う女性を見つめて見るとですね、普段は自ら手綱を引いて“荒馬を乗りこなす様な武者の顔”と“さり気なく構えている姿”を垣間見るんですが、僕に対しては少女の様に“甘えて来る姿”のギャップが面白いと感じますよ。“能ある鷹は爪を隠す”と言うじゃないですか?普段の姿しか知らない人にして見れば、意外に感じるかも知れませんが・・・。一見、何気ないクーペなのに、走らせると荒々しく力強い様に」「褒められてるのか?けなされてるのか?どっちでもいいわ!あたしが“甘える姿”を見せるのは、あなただけよ!心を許せる相手にしか本心は見せたくないの。だから、普段はとても疲れるの。ただ、懐妊出来ればすべて解決よ!早く結果が出るといいんだけど。そこを右に曲がって!お腹が空いたから、食べて行こうよ。まだ、夜は長いんだし」恭子が指定した、終夜営業の食堂に車を入る。中は荒くれのトラック運転手がゴロゴロと居た。「ここは、昔から夜食を食べてる場所。ボリュームは満点よ!」メニューは彼女が決めて注文した。「Y、高校の時、当然ながら“化粧”は禁止のばずだよね?あなたは、容認派?それとも否定派?」「これを高校の時から付けてるんですから、容認派ですよ」僕は首元からネックレスを引っ張り出した。「ふーん、結構柔軟な発想の持ち主なのね。自ら“ネックレス”を付けてるから、とやかく言わない。逆に認めてた?」「ええ、UVケアは大事じゃないですか。その延長線上にファンデやリップがある。そう、考えれば“ダメ”とは言えませんよ」「そうか、そんな事考えてたんだ。じゃあ、化粧品選びに付き合ったりもした?」「行きましたよ。勿論、自分は塗れませんが、色合いを見てやったりとかはしてましたよ」「そうした背景があるから、宮崎ちゃんの緑の髪を見ても、微動だにしない訳ね。大概は“ブッ飛ぶ”んだけど、Yは“ああそうなの”ぐらいにしかリアクションしなかったから、素地が何処で形作られたか?ちょっと疑問だったのよ!そうかー、高校時代にそんな経験があれば、女の子の大軍に囲まれても平然としてられるわね。古文とマンガも主に高校の頃?」「ええ、あの頃は“作戦参謀”として、クラスを支える立場でしたし、戦史からマンガまで、役に立ちそうな文献は片っ端から読み漁ってましたからね」「それだけじゃ無いでしょう?“指揮官”として自ら最前線で戦ったはずよ!そうでなくては、“おばちゃん達”の統率は執れないでしょう?」「お見通しですか。“他力本願”が何より嫌ですから、自分の手でやれる事は、やらないと気が済まないんですよ」「Yらしい物言いだわ。だから、“おばちゃん達”も黙って付いて行くのよ。あたし達もね!」夜食にしてはガッツリと、ご飯が盛られている定食が届けられた。早速、2人して箸を割った。「こうして、男達と夜遅くに空いたお腹を満たしたものよ。勿論、移動はバイクだったけどね。今は、Yが運転してくれるから、安心していられるけれど、昔は転倒と隣り合わせだったから、ヒヤヒヤさせられっぱなし!ここの椅子に座って“ああ、ケガしなくて良かった”ってしみじみと思ってたものよ。そして、会社に入って千春に出会わなければ、恐らく、今のあたしは居なかったと思う。こうして、Yとご飯食べてる事も無かったでしょうね。幾つもの偶然と必然が重なって、あたし達は逢瀬を重ねてる。だから、この出会いを大切にしたいのよ!Y、これからも付き合ってね!あたしは、必ず懐妊するから!あなたを失う事が、何より怖いし寂しいのよ!」恭子は真顔で言った。その気迫に僕は押されっぱなしになった。“正室”の気概を垣間見た気がした。お腹を満たして、その後も語り合い寮に戻ったのは、午後11時を過ぎた頃になっていた。

「よお、遅かったな!」部屋では鎌倉が図面と格闘していた。「“正室”からのお呼び出しだからな。ご機嫌を損ねると職務上も問題になるから、手は抜けないよ」「“大奥制度”まで繰り出しての引き止め工作か?お前さんのところの女性陣も必死だな。俺も、明日は新谷さんからのお呼び出しだよ。Y、“薩摩おごじょ”は“貫き通す”と言ったよな?俺もYも“懐妊狙い”で仕掛けられてるって事か?」「今更、聞くなよ!目的は同じだろう?一番手っ取り早い手口だよ!」「お前、“避妊”してないのか?」「野暮を言うな!“してたら”穏やかに帰してくれると思うか?彼女達に恥をかかせる訳にも行くまいよ!」「そっそうだな・・・。実は俺も“して無い”んだよ。“それはダメです”って新谷さんに止められてな・・・。そのまま行っちまったんだ。Yも“してない”なら安心だ」「どういう意味だ?」「“ご懐妊”の折には揃って残れる。俺だけ残るとなると気が引けるからな」「鎌倉、ビクビクしてたらどやされるぞ!“薩摩おごじょ”のメンツを潰してどうする?当たろうが当たるまいが、真正面から受けて立て!結果は仕方ないと思って諦めろ!飛び切りの美人だけに、競争率は半端ないはず。逃がしたら後悔するぞ!」「それはそうだが、お前はどうやって切り換えたんだよ?究極の2択だぞ!」「ビビッてたら、相手に見抜かれるだけだ。男子たる者、思い切る時は、迷いは消えるもんだよ。純粋に彼女との逢瀬を過ごしたいなら、余計な事は捨てちまえ!そう、思わなくては“大奥制度”に対抗できると思うか?」「Yは、否応無しなんだろうが、こっちはまだ1人だ。その点・・・」「鎌倉、“まだ1人”と言ったが、他にもお誘いが来てるんじゃないだろうな?」僕の背筋に冷たいモノが伝う。「新谷さんにチクるなよ。もう1人、岩元さんからも“日曜日、あけて置いて”って言われてるんだ。2日連続なんだよ。Y、これって明らかに“策謀”だよな?」「あー、お恥ずかしいったらありゃあしない!鎌倉も落ちたか!後は、真っ逆さまさ!」「Y、どうすればいい?」「行って来い!逃れることは不可能だ!」「岩元さんからも迫られたらどうする?」「流れに任せるんだな。恥をかかせられるか?向こうだって必死だぞ!」「ならば、行くしか無いか。2人とも同じ職場ってのが問題だが・・・」「ウチよりはいいだろう?“大奥制度”にハメられるよりは楽だ!」「確かに。鍔迫り合いにならなければいいが・・・」「案外、ウチと同じことを狙ってるかもな。鎌倉も食えないねー!」「茶化すな!」「僕は、土曜日も日曜日も“出勤”続きなんだ。本来の業務ではないが、通常業務を円滑に進めるには、欠かせない事だ。仕掛けられたなら、乗ってやれよ!それで彼女達のメンツが保てるんだからさ!」「うーむ、やむを得ないか。Y、困ったら相談するから、聞いてくれよ。危ない橋は渡り慣れてるだろう?」確かに“綱渡り”の連続ではあった。「聞くだけならな。この先は当人次第だからな」僕と鎌倉は肩を竦めるしか無かった。明日は、互いに忙しくなるだろう。

土曜日、今日は、実里ちゃんの予約日だ。支度を済ませると、薩摩・大隅半島の地図を広げた。「よお、何処へ行くんだい?」鎌倉も支度を終えて覗きに来る。「お相手次第さ。今日は、軽自動車だからな。山道は避けなきゃならない。行くとしたら、知覧方向かな?」「運転は?」「基本、代わるぜ!車を出してもらうんだから、助手席に居るのは失礼だろう?」「地図だけで行けるのか?」「最悪、彼女達がナビゲートしてくれるから、行けない事は無いぞ!鎌倉、どうした?」「Y、俺、慣れない土地だと、方向感覚を失うらしいんだよ!地図だけでは、不安なんだよ!」「おい!まさか、“方向音痴”だと言うんじゃないだろうな?」「そうなんだよ。国分市内なら、どうにか迷わずに走れるが、薩摩・大隅半島となると、話が違う!Y、どうすればいい?」赤坂並みの“方向音痴”では無いが、鎌倉も同様に“迷える子羊”らしい。出発直前になっての問題発覚は致命的だった。「新谷さんはどっち方面へ行くとか言ってないか?」「全く分からないよ。ただ、日南海岸がどうとか言ってたが・・・」「それなら、まずは、高速で宮崎方面へ出るだろう。そんなに複雑怪奇なルートじゃ無いから、標識の通りに行けばいい。一般道は、新谷さんにナビゲートしてもらえ!1度走れば、元々が迷う要素は少ない土地だから慣れれば問題ないはずだ。鎌倉、度胸1発決めて来い!」胸倉を叩いてやると、少しはシャンとなった。「そろそろ、時間になる。そっちは何処で待ち合わせだ?」「8時半に寮の前だよ」「一緒かよ。それじゃあ、行こうか!」僕等は腰を上げた。寮の前に車が2台、待機していた。白いローレルが新谷さん。クリーム色のトッポが実里ちゃんの愛車だ。「がんばれよ!」「おう!」と言葉を交わして僕等は、それぞれの車に乗り込んだ。「Y先輩、おはようございます!後ろの車、総務の新谷さんですよね?お仲間が乗られましたが、どこに行くんだろう?」レースをあしらった、ワンピース姿の実里ちゃんが小首を傾げる。「日南方面らしいよ。前途多難だろうが、走り切ってもらわないと、男が廃るよ」ローレルが先に出発するのを見届けてから、実里ちゃんは車をスタートさせた。「慣れない土地ですからね。Y先輩は、地図さえあれば何処でも走れますよね?図形認識力が高いんでしょうね!」と彼女は笑う。「さて、どこへ向かう?」「実は、最近車の調子がイマイチなんです。元気が無いと言うか、加速が悪いんですよ。見てもらえません?」「それはいいけど、最近、点検に出してる?」「来月なんですよ。どこが悪いのかな?」彼女は首を傾げた。「城山公園へ突っ込んでくれる?まずは、一通り見て見なきゃ!」「はい、ついでに“しちゃいますか?”時間あるし」実里ちゃんは既に乗り気だった。「それは、結果次第だ。相変わらずの“底無し”めが!」と言うと彼女はペロリと舌を出した。「もう、用意は整ってるんですよ。ノーパン・ノーブラですから。先輩が脱がせてくれれれば、OKなんです!」と事も無げに言う彼女は、城山公園へ一気に車を駆け上らせた。「ふむ、確かに力が無いな。この車、ターボ付いてるよね?」「ええ、それにしてもこの非力さは何ですか?」「とにかく、ボンネットを開けなくては分からないよ。最も、その前にする事があるらしいね?」「はい、抱っこちゃんです!」「しょうがないなー!」と言ったものの、一戦を交えなくては治まらないのだろう。後部席に移動すると、彼女を膝に乗せてから、唇を重ねつつ脚を開かせていく。「着替えは用意してあります。あたしを好きにして!」と彼女は舌を絡ませて来ながら言った。ホールに指を入れてかき回すと、雫が腕を伝った。「本物が欲しいの。お願い」実里ちゃんは、息子を引き出すとゆっくりと、馬乗りになって来た。なすがままに初戦は進んだ。

実理ちゃんのワンピースを開けた後は、愛車のボンネットを開ける番だ。運転席側のピラーのラベル表示から、タイヤの空気圧を読み取りつつ、ボンネットレバーを引く。「さて、どこから調べるかな?工具とかは持って無いよね?」「ありますよ!お父さんが心配症なので、一通りは積んであります!」バックドアを開けると、コンテナに工具1式が詰め込まれていた。「エアーポンプにエアーゲージ、ドライバーにペンチ、スパナまであるのか。車載工具も含めて、これだけ揃っているのは久々に見るよ。これでは原因不明とは言えないな!」僕も驚く工具の数々。何かしらの結果が、求められる状況だった。「まずは、タイヤの空気圧が疑わしいな。自然に抜けて行くから、気づき難い点ではあるね。どれ、測ってみるか!」測定結果は、4輪共に不足と出た。特に前輪の右側の減り方が、大きかった。ポンプ踏んで空気圧を若干高めに調整した。「入れ過ぎてませんか?」実理ちゃんが心配そうに見ていた。「いや、ラベルに書かれている基準値はあくまでも、基準値でしかない。実際の限界値はもっと高いはずだよ。設計・テスト段階では、相当過酷な試験をやってるはず。余裕を持たせるために、かなり安全な数値を指定してるだけだよ。エンジニアと言う人間は、ギリギリの数字は書かないし、言わないものさ。少し高めを狙った訳は、転がり抵抗を減らすため。タカが空気圧だけど、抵抗が大きいなら燃費や走行に影響は出るものさ。次は、エンジンを始動してくれる?」僕は、音を聞いて見た。3気筒なので振動や雑音はやや多いが、アイドリング回転に僅かな不調を感じた。「どうです?」「水がタンクに溜まってるのと、インジェクションの噴射不調かもね。インジェクションクリーナーと水抜き剤を入れてやれば、改善するかも知れないよ!丁度、ガソリンも半分だし、添加剤を入れて満タンにすれば、効果は出るだろう。そろそろ、カー用品を手に入れられる時間だし、気ままに走りに行こうか?」「はい、行きましょうよ!」工具を戻してから車を走らせると、明らかに出足が軽くなったのを感じた。「全然違う!重かった足取りが嘘みたい!」「タカが空気圧。されど空気圧さ。次はエンジンの掃除をすれば、もっと軽快になるだろう」僕等は、市内のホームセンターで添加剤を仕入れてから、海沿いのスタンドで添加剤を投入してガソリンを満タンにした。運転を交代して、加治木ICから九州自動車道へ乗り入れる。3速ATなのでエンジン音は高めだったが、しばらく走ると少しエンジン音が静まった。「インジェクターに詰まっていたカスが飛んだな。加速も良くなって来たよ!」「本当だ!普段は手も入れてないから、車もスネちゃってたんですね!」「そうらしいね。ちゃんと見てあげれば、答えてくれるものさ。さて、どこで高速を降りるかな?」僕は迷いだした。「まだ、次戦が残ってますよ!まずは、あたしを満足させて下さいよ!」実里ちゃんが膨れる。「姫のご要望とあれば、鹿児島市内へ行きますか?」丁度見えて来た出口へ向かうと一般道に降りた。モーテルは直ぐに見つかり、空き部屋もあった。“誰にも見とがめられない部屋”に入ると、実里ちゃんはワンピースを脱ぎ捨てて、淡いブルーのパンティ1枚になった。「あたし綺麗ですか?」女子高生と言っても通りそうな幼い顔、線は細く胸も小さいが、肌は透き通る様に白い。彼女との逢瀬は、車内がほとんどだったが今は2人だけの空間に居る。彼女を思いっきり抱いて、身体を動かすのに理由は要らなかった。

「Y先輩、カメラの電子回路ってどうやって配線してるんです?」シャワーを使いながら実里ちゃんが聞いた。「専用のフレキシブル基板を使うよ。厚さはミリ単位だけど、中に金線が通ってて、要所にICやトランジスタを実装してるんだ。カメラ内部の数ミリの隙間に、それこそ網の目を縫うように格納するから、初めて見たら驚くと思うよ」「じゃあ、ディプみたいな厚みのあるICは使わない?」「ああ、機種専用のカスタムICを使うからね。厚みにすれば5ミリ以下だよ」「何故、そんな薄さを必要とするんです?」「フィルムの格納する容器、“パトローネ”って言うんだけど、この大きさは国際規格で決められてるから、その部分で大半の容積を喰っちまう。撮影が済んだフィルムは、巻き取らなきゃならないから、そこも容積は必要になる。後は、電池室も結構な容積を取られるし、どうしても必要な機械部分も足すと8割はボディの容積を占領されるんだ。残った2割の容積の中で、必要な配線を取り回すから、どうしても薄くせざるを得ないんだ。さっきも言ったけど、紙の様にペラペラな配線シートにしなきゃ、必要な回路を取り回すのは無理なんだ」「じゃあ、もし、カバーが潰れたら?」「場所にもよるが、“致命傷”ってケースも多々あるね。一番怖いのは、落下と水没さ。衝撃で機械部分がやられたり、水が入り込めばショートしておじゃんになる。池にドボンと行ったら、速攻でアウトさ!」「防水仕様に出来ないんですか?」「不可能じゃないけど、極めて使いにくいし、レンズも交換は不可能にしないと無理だろうな。蓋物、フィルムを入れる時に開ける裏蓋や電池室のカバーの事だけど、そこをどうやってガードするか?課題は結構多いよ。時計みたいに“日常生活防水”ぐらいには出来るだろうが、交換レンズはどうしようも無いからな。コンパクトなら、可能性はまだ高いけどね」「企画開発段階で、誰か思いつかないんですか?」「あるよ。でも、具体的な商品として世に出すまでには、幾つもの関門が待ち構えているからね。構想はあっても、途中で断念した企画は多々ありますよ。光学では“開発機種コード”って言う3桁の数字で管理してるんだけど、今日持って来たカメラは“157”って呼ばれてるけれど、元々は“137”がベースなんだ。間に20の数字が埋もれてるけど、大半は途中で断念したか、構想倒れで終わった番号なんだ。形を変えて蘇ったケースもあるけどね」「それはどんなケース?」「カメラ本体としては、日の目を見れなかったとしても、メカ部分、巻き上げや巻き戻し、モーターのコントロール、光を測定する測光方式なんかで、ユニット単位として別の機種に流用されたモノは結構あるよ。“あの方式を使えないか?”って考えると開発費用も時間も浮くから、無駄にはしてないよ」「何だか、凄く楽しそう!あたしもやって見たい気がする!」「そうかい?カバーの篏合が0.1ミリ、ズレて“これじゃあ商品にならん!”って突き返されても?」「えー!そんなに厳しいの!」「ああ、外観は大切だから、妥協する、させるのに一番苦労する関門さ!“色合いが合わない”なんてザラに言われるよ!」「うーん、意外にシビアなんですね」「実里ちゃんみたいに、色白で可愛ければ、何も問題は起きないんだが、量産は出来そうもないからね。唯一無二の存在だし」「そう思っててくれたの!嬉しい!もう1回しようよ!“唯一無二の子供”を授かるためにも!」「相変わらずの“底無し”だね。しないと収まらぬか?」「うん!」臆面も無く、彼女は頷いた。ベッドへ雪崩れ込むには充分過ぎる理由だった。

鹿児島市内で昼食を済ませると、僕等はフェリーで桜島へ渡った。活発に活動している南岳からは、噴煙がたなびいている。“トッポ”のエンジンは、すっかり快調になり加速もスムーズになっていた。「この地下には、どれだけのマグマが沸いてるんだろう?絶えず活動し続ける山は、こっちに結構あるよね?」「はい、阿蘇を始め、霧島連山に桜島、薩摩硫黄岳まで連なってますよ。薩摩硫黄岳は、海底に本体がありますから、全体は見えませんけど」「草津白根山や焼岳、御嶽山や浅間山がおとなしく見えるのは、あながち間違いではなさそうだ。これだけのカルデラ火山が密集してる地域は、他に例が無いからな!」僕は桜島の至るところに設置されているシェルターの数に驚いた。つまり、それだけ“デンジャラス”なのだ。垂水からは、南下して佐多岬を目指す。本州最南端の地である。「そろそろ交代しようか?」「その前にスタンドに寄ります。早めにガソリンを入れないと、この先は保証がありませんから」実里ちゃんは、そう言ってスタンドまで頑張った。満タンにして運転を交代すると「先輩が、最も笑えたマンガは何です?」と実里ちゃんが言い出した。「“はいからさんが通る”だ!ラブコメとしては王道だろう?」「そう来ますか。どこで読んでました?」「教室内の至るところに転がってたんだ。休み時間の暇つぶしとしては、必然性があったのさ」「じゃあ、真逆のモノは?」「“砂の城”でしょ。重たいけど、何故か引き込まれる魔力はあったな」「男性作家では?」「“みゆき”だろうな。大抵の野郎が読んでたし」「孫氏の兵法も古典も読破しつつ、色んなジャンルを総なめにしてますね。その心は?」「広く浅く見分を広める。多角的に見る事で、様々な問題に対する作戦を立案する。運動能力が無い分、“作戦勝ち”に持って行くのが僕の使命だったからね」「それだけじゃ無いですね?男女の諍いや、クラスの問題解決にも活躍されたと聞いてますよ!」「誰に聞いた?」「岩崎先輩からです」「彼女、答えたのか。僕の高校生活の大半は、絶えず問題に立ち向かった日々だった。平穏な日々を数えた方が早いくらいだ。1人の女生徒に絶えずかき回されたからな!」対菊地戦争は、熾烈を極めた事を昨日の事の様に思い出す。「策を巡らせるだけで無く、自らも先頭に立って戦われた。先輩の姿を見てれば分かります。人任せにしないで必ずご自身の手でやられる。あたしが初めてサンプルをもらいに行った時に、“この人は、他力本願が嫌いなんだ”って感じましたもの。実際、先輩はそうですものね!」「ああ、その通りだよ。“自ら先頭に立たずして、部下が付いて来るはず無し”は、僕が一番良く知り得ている教訓さ。口だけなら誰でも出せるが、実践しなくては“おばちゃん達”をコントロールするのは不可能だよ。“僕もやりますから、頑張って下さい”って言えなくてどうする?特に“おばちゃん達”の場合は、意識的にその方向へ持って行くためには、自分もやらなきゃダメなんだ。やっと、成果も上がって来たのは、意識が変わりつつある証拠でもあるけど、まだ足りないよな!次の1手は、慎重に読まないと打てないよ!」「その姿勢があるからこそ、みんな付いて行くんですよ!あたしも細山田先輩も。勿論、検査工程の女性陣も。先日、神崎先輩が品証に訴えに来まして“GEのトレーの強度が弱すぎる。返しも、検査工程でも苦労が絶えない”って責任者に言ったら、どう返したと思います?」「さあ?どう答えたんだい?」「“そう言って来るのを待っていた!返しからも声が上がったとなれば、営業に苦言を呈する理由が立つ!岡元なら黙っているだろうが、アイツは違うだろう?神崎と同じ事を言うのなら間違いはあるまい!今度の事業部会議で問題として挙げてやる!”って断言したんですよ!」「ほう、品証も認めたのかい?」「ええ、最初から危惧はしてました。ただ、あたし達だけだと説得力は半減します。現場から声が挙がってこそ、営業も黙らせる“確たる査証”になるんです!“Yは、これまでの常識に囚われない。だから、現場目線で危惧を抱いて来れるし、不良の発見も早い。稀有な能力を持ってるんだろうな!だから、誰もが付いて行くし、信頼も得ている。手放すには惜しいな”とも言ってましたから、“嘆願書に署名して下さい!”ってお願いしたら、喜んで署名してくれましたよ!」「ちょっ、ちょい待ち!“嘆願書に署名して下さい!”って、誰が回してるの?」僕は狼狽え気味に聞いた。「発起人は、神崎先輩を筆頭に岩崎先輩と千春先輩です。そろそろ、事業部内を回り切って“安さん”に届くと思います」「恐ろしい事をやってるな。月曜日に“安さん”から“異存はないな!”と念を押されたばかりだが、裏ではそれ以上の事が進んでるのか。手抜かり無しだな・・・」「はい、抜かりありませんよ!Y先輩も“残留に合意”してますよね?」「そのつもりだよ。むざむざ帰ると思うか?」「先輩の性格からして、途中で“投げ出す”様な真似はしませんよね。きっと、最後まで見届けるはずです。だから、あたし達も行動してるんです!そして、子宝に恵まれれば尚更になりますから、いっぱい子種を頂戴するべく励むんです!」ペロリと出した舌が、妙に生々しい。実里ちゃんは、まだ満足していないのかも知れなかった。「あっ、見えて来ましたよ。そこから左です」目的地の佐多岬に着いたのだ。最南端の地。この先は果て無い海が続く。

「微かに見える島影は、種子島ですよ」「そうか、宇宙への玄関口だな」海風に吹かれて実里ちゃんのワンピースがたなびく。可愛らしい姿だ。「先輩は、宇宙に興味あります?」「最後のフロンティアだからな。いずれ、人類は月や火星に住む事になるだろうよ。ただ、問題が1つあるけど」「なんですか?」「現在の理論では“ワープ”出来ない事だよ。“ヤマト方式”でも、“スタートレック方式”でも、理論上不可能とされている。遠くの恒星系へ旅するのが夢なんだけどね」「あのー、“スタートレック方式”ってどんな?」「物質・反物質反動推進リアクターシステムさ。巨大なフィールドを形成して亜空間飛行をするんだよ。最高速度はワープ9.5。光の9.5倍の速度が出るが、反物質すら見つかっていないから、夢のまた夢なんだけどね」「いいじゃないですか!2人して火星人になりません?」実里ちゃんは笑って返して来た。「遠くに行くのは、神様が“まだ早い”と言ってると思えばいいんです。火星だって随分遠くですよ。火星の夜空に浮かぶ星々を2人で眺めるのも悪くありませんよ」とキッパリと言う。「そうだな、夜空を見上げれば輝く星々が迎えてくれる。きっと、宇宙に行ける日は来るだろう。その時のパートナーは・・・」「あたし!立候補します!」いつもは大人しい実里ちゃんが、積極的に手を挙げた。「どうやら、決まりだな」僕も笑って返した。「この先に隠れやすい場所があるんですが、行きません?」「また、病が出たな!この“底無し”が!」彼女を捕捉すると、車へ向かった。実里ちゃんが言う様に、外から車内を伺うには、困難な場所が目に入った。「もう1度、抱っこちゃん!」彼女は、既に息子に手を伸ばしている。車を停めると、もどかしそうに「ねえ、早くしようよー!」と実里ちゃんが甘えて来る。慌てて後部席に移ると、膝に乗って脚を広げ、キスの雨を降らせながら「もう、濡れてるの。早く外して」と耳元で囁く。「着替えはあるの」と言うと「勿論よ。あたし、車の方が燃えるの!」と言う。逢瀬を重ねるのに場所は選ばない主義らしい。最南端の地で僕等は再び1つになった。

夕暮れの迫る錦江湾の東岸を“トッポ”は北を目指して疾走していた。最南端での“抱っこちゃん”は、意外にも長期戦となり、実里ちゃんの着替え時間も含めて、予定より大幅に遅れての大返しになったからだ。「やっと、病が治まったかい?」「ええ、これで、来週も頑張れます!後は“ご懐妊”に持ち込むだけですから!」と平然と言う。大人しそうでも、実は大胆不敵。このギャップこそが、実里ちゃんの最大の魅力だろう。“ペラペラな男に捨てられた過去があるから、実里には人一倍気を使ってあげて!”恭子の言葉が頭をよぎった。彼女は、そんな素振りすら見せないが、まだ傷は癒えてはいないだろう。カセットからは、“経る時”が流れている。まもなく“REINCARNATION”が再び流れるはずだ。「Y先輩、“海のオーロラ”は読まれましたか?」「ああ、全巻読破してるけど、どうしたの?」実理ちゃんは真剣に問うて来た。「輪廻転生は信じてます?」「ありえると思うよ。時空を越えて巡り会う事はあるんじゃないかな?僕等も、知らずに再び出会ったのかも知れないね」「岩崎先輩から聞いたんですが、小学校で別れて高校時代に再会した同級生がいるそうですね。偶然にしては“出来過ぎてる”と思いませんでしたか?」「恥ずかしい話だが、最初は全然分からなかったんだよ。でも、ある日、道子が古い写真を持って来て、“昔、一緒に遊んだよね!”って言ってくれて、記憶が弾けた。それからだね。輪廻転生について考えて、“海のオーロラ”を読んで、運命の人とは時を越えて出合いを繰り返すかも知れないって、思う様になったのは」「今、流れてるアルバム。“REINCARNATION”ですよね?先輩、無意識レベルで信じてませんか?」「それは、否定出来ないよ。お気に入りのアルバムだし」「真面目に聞いて下さい。あたし、あなたの愛娘だったかも知れないんです!昨夜、夢の中でハッキリと見えたんです。甘えん坊で、いつもあなたを追いかけて回って、誰よりも可愛がってもらってました。末っ子だから余計に。でも、ある日、大きな地震と共に山が噴火して、大地は裂けて火砕流が家を襲った。業火の中、あなたは柱を支えて、あたし達家族を逃して家と共に崩れ落ちました。あたし達は、母に連れられて逃げましたけど、津波に呑まれて海に沈んだ。意識を喪失する寸前に、あたしは、あなたの声を聞きました。“生まれ変わって、また巡り会おう”と。目が覚めたら、思わず泣いちゃいました」「約7300万年前、鬼界カルデラの大噴火で、東北地方まで火山灰が降り積もり、薩摩、大隅半島の南部には、火砕流が直撃した事が地質学で証明されてる。その際、ここの縄文文明に多大な影響が出た事も。ひょっとして、実理ちゃんが言ったのは、その時代の実際の出来事なのかも知れないな。そうすると、僕は、7300万年ぶりに故郷へ戻ったのか?そして、愛娘と再会を果たした。今度は、子供では無くて、恋人となって!」「そうだとしたら、どう思います?」「大きくなって、美人さんになって・・・、父親としては、感無量。でも、“前世”の記憶が無いと言うか、曖昧な自分としては、実里ちゃんと逢瀬を重ねられている事に、素直に喜びを感じるよ!君は、唯一無二の存在。輝ける女性だからね!」「驚かないんですね!やっぱり信じてるんだ!あたし、入社したばかりの頃には総務に居たんです。でも・・・、」「言わなくてもいい。岩崎さんから聞いてるよ。深い心の傷をほじくり返して、また辛い思いをさせられるか!」「優しいんですね。あたし、いつもサンプルをいただきに行くじゃないですか?最初は、不思議だったんですが、今なら分かるんです。あなたは、“何一つ疎かにせず、責任を持って対峙してくれる”って。“信じていいんだ”って。だから・・・」「もう1度“信じて見よう”って、決意した。勇気がいる事だよね」「はい、だから、岩崎先輩が膝の上に乗っていた時、物凄く嫉妬しました!“負けるもんか!”って感情が久々に湧き上がって、だから今日は、いっぱい抱いてもらったんです。欲張りですよね?」「いや、そうでも無いよ。僕等はこう言う定めだとしたら、必然性はあるんじゃないか?“欲張り”では無く“常に求めあってる”と考えれば、不自然じゃないよ」「そうですか?いいんですか?」「構わないさ。だって“この次、死んでも、いつしかあなたを見つける”って言ってるだろう?」“REINCARNATION”は、佳境を迎えていた。「あたし、何処へ行っても、あなたを見つけてみせますから!」実里ちゃんは力強く言った。「僕は、全力で駆け抜けるつもりだ。何に対しても。遅れずに付いておいでよ!」彼女は、左手に右手を重ねて「遅れを取るつもり、ありませんから!」と言って微笑んだ。

life 人生雑記帳 - 61

2019年11月06日 15時32分42秒 | 日記
月曜日、遂に小雨が降り出した。「いよいよ、梅雨入りか。早いな」「こっちでは、今日見たいに“お上品な”雨は滅多に降らねぇ!降る時は、一気にまとめてザーザーと降る!こんなの降ってるウチに入らねぇよ!」田尾は傘を差さずに悠然と歩いている。「ピンクの粉だらけで凱旋したんだってな!万事予定通りだろう?」「おう!消火器って迫力が凄いぜ!全員が粉だらけにはなったが、主にピンクに染まったのは、鹿児島日電のヤツらさ!デカイヤツが10本だったから、息も絶え絶えにしてやったぜ!これで、またしばらくは静かになるさ!」田尾は誇らしげに言った。「問題は、次の一手だな。どっちにしても、数を頼みにしても勝てないと分かった以上、1対1で仕掛けるか?地の利を生かした策を取るしかあるまい。最も、策が浮かべばの話だが・・・」「結果論になるが、誰も怪我をしない。させない様にしてるのは、何故だ?」「遺恨を残さずに懲らしめる!=戦わずして勝つ!だよ。酷い目には合ってるが、血は流さない様に留める。警察に介入されたら、アウトだろう?田尾だってタダじゃあ済まない!1歩手前で引いとけば、向こうだって表沙汰にはしないし、お前さんも“五体満足”で居られる。田尾 智としての面目は建てるが、抗争にはしない。お互いのためを考えて、策を巡らせるのが僕の役目だろう?」「ヤツらが聞いたら、驚くぜ!そこまで“読んでるのか!”ってな。Y,最近は、見境無しに喧嘩に明け暮れるよりは、お前の策を実行する方が愉しくなって来やがった!これからも、宜しくな!」「背中に気を付けろよ!そろそろ襲われるぜ!」と言った途端に「何で見抜いてるのよ!背中に目があるの?」「田尾!ちょっと待ちなさい!」と声がかかり、襲撃を喰らう。千絵と岩崎さんだ。永田ちゃんと実理ちゃん、千春先輩もいる。「アンタ、またやらかしたわね?いい加減、喧嘩は止めなさい!いい歳してそこら辺のガキと変わらない事してるんじゃないの!」と千春先輩に頬を抓られる。「うわ!いてぇー!手加減無しかよ!」「アンタには丁度いいクスリよ!張り手もお見舞いしてあげようか?」岩崎さんが手を構える。「朝から、焼き入れかよ!今日は厄日だ!」田尾は逃げ回り、岩崎さんと千春先輩が追う展開に、僕等は笑うしか無い。千絵が僕の傘に潜り込むと、永田ちゃんと実理ちゃんも前後に傘を重ねた。バリケードの完成だ。「包囲されるとは、予想外だな。何を企んでるの?」「いいから、そのまま歩いて!」千絵がたしなめる。理由は直ぐに分かった。滝沢が小雨の中を小走りに追い抜いて行った。「邪な女!手出しさせてたまるもんですか!」千絵が敵意剥き出しで言う。「アイツは、何かしらの理由を付けては、付き纏って来る悪魔だ。“圏外”だって事を分かって無いからな」「だったら、余計に近付けるのは危険ですね。レイヤーの知り合いに言って置きますよ!“職務に口を出すな!”って!」実理ちゃんがハッキリと断言した。「みんなと行動する休みの日も“職務扱い”なのかい?」「当然!立派な“職務”です!」永田ちゃんがキッパリと言い切った。「無敵の要塞だな!徹底的に叩くつもりかい?」「勿論!」3人が合唱した。田尾は「Y,助けてくれ!仕事どころじゃねよ!」と2人から、ほうぼうの体で逃れて来た。岩崎、千春先輩の両名が目の前に立ちはだかる。「ヤバっ!もう時間がありませんよ!」僕は時計を見て焦った。「いけない!遊んでる場合じゃないわ!」「田尾!後でタップリッショと続きをお見舞いしてあげるわ!さあ、急いで!」千春先輩の声を合図に、全員が走った。

朝礼での“安さん”の機嫌は、相変わらずの斜めと言うか結構な斜めだった。“安さん”の機嫌が穏やかだとしたら、むしろ危険な兆候として受け止められるだろう。「今週から、新品種が流れ出す!各部署で速やかに作業を進めろ!遅延は許されんぞ!」RCA,TI,F社に加えて、GEが流れ出すのだ。数量は、立ち上がりと言う事もあり少ないが、セラミックの材質が違い、色合いもやや白い。治具の製作は完了しているが、初めてのロットなので、どうやってトレーへ納めるか?やって見ないと分からない事も多々あった。初ロットが出て来るのは、水曜日になるだろう。その他ではF社向けの増産があり、今月末はかなりの苦戦を強いられるだろうと推察した。長い朝礼が終わると「Y!ちょっと待て!」と“安さん”に呼び止められる。廊下の角で人影が消えるのを待ってから「最終確認を取るぞ!貴様、鹿児島に残る事に異存はあるまいな?」「はい!そのつもりで居ります!」とハッキリ口にすると「いい度胸をしおって!後悔しても知らんぞ!最も、O工場が1番後悔するだろうがな!中旬頃に事業部部会がある。本部長に全員の残留を要請するが、どうなっても構わんな?!俺の見るところ、この先も貴様には、まだまだ使い道がある!先手必勝だ!転属を“本人としても希望している”と断言しても構わんな?!」「望むところです!」「よーし、これで決まりだ!首に幾重にも鎖を付けてやる!他のヤツは全員が帰ると言ったが、貴様だけだ!酔狂に付き合うと言ったのは!まだ、確約は出来んが、俺は貴様を鼻から帰すつもりは更々無い!何故なら、まだ俺が雷を落とせて無いからだ!首を洗って待っていろ!必ず、俺の雷を落としてくれるわ!」と言ってニヤリと笑った。「今月末は、かなりヤバイ事になるだろう。それを回避出来るか?否か?貴様の手腕に期待する!まずは、GE向けを成功させるのに、力を貸せ!実績を積めば異動の道も、より確かなモノになるだろう!貴様の底力を見せて見ろ!」と言って肩を叩いて“安さん”は去って行った。「早くも手を回すつもりか。最も、そうでなくては困るからな。“改革”は始まったばかり。途中で下車なんてゴメンだからな!」“安さん”も多分、同じ事を考えているだろう。異例の速さでの意思確認だが、これが意外に効いて来るのは、任期末の11月を目前にした時期になってからだった。本部長会談で、国分側と言うか、半導体事業本部と光学機器事業本部の綱引きで、半導体事業本部が異例の勝ちを納める一因となる理由が“僕の意思”だったからだ。“安さん”の早期からの根回しもあり、僕は、派遣隊の中で、唯一国分サーディップに留まる事になる。

その日の昼休み。“お姉様方”が検査に追われて昼食をズラした事で、僕は、危うく厄介な事に巻き込まれそうになった。休憩スペースで、コーヒーを飲みながら“今週の回し”を思案している最中だった。「Y,ちょっと顔を貸してよ!」と有賀が詰め寄って来た。遠くに滝沢が控えている。付き纏いをまだ諦めていない様だ。「悪いけど、仕事の段取りを組んでるんだ!遠慮してくれないか?」「手間は取らせないわ!今週末の土曜日、空けて置いてくれれば、それでいいから!休出になっても夜は空いてるわよね?!」有賀は、相変わらず好き勝手を振り回す。「確約は無理だよ。何時に帰れるか?保証できないんでね!」「そこを何とか都合を付けてよ!美佐江(滝沢)の相談に乗って頂戴!」「よその事業部の事には、口出しは出来んぞ!そのくらいは分かるだろう?ともかく、手一杯なの!下手をすれば、日曜日も出なきゃ間に合わなくなる!」と突っぱねるが「夜でいいから、時間を取ってよ!“足”は用意するから!」とあくまでも粘り続ける。これは、滝沢が有賀に泣き付いて仕掛けた事は明らかだった。1歩間違えば、蟻地獄が待っているだろう。さて、どうやって振り切ろうか?と思案していると、「Y先輩、土曜日、忘れないで下さいね!品証の飲み会ですよ!」と実理ちゃんが言いに来た。「あっ!いけね!午後3時からだっけ?」「ええ、休出しても、その時間に間に合う様に上がってくださいね!」と念を押される。今、初めて聞いた話だが、そんな事は有賀には分からない。「アチャー、忘れてた!予定を組み換えるしかないな!有賀、そう言う事だ。悪いけど、空きは無い有よ。今週末は、どう足掻いても無理だよ!」「じゃあ、いつなら空けられそう?」「これから、増産体制は強化される一方だよ。恐らく、出歩いてる暇は無いだろう。先に来てる分、既にこっちの体制に組み込まれてるんだ。どうやっても、無理なモノは無理だよ!」と言って押し戻す。「じゃあ、せめてインターフォンを入れてよ。それで我慢するから。512号室よ!お願い!」有賀は、やっと諦めて引き下がった。2人が居なくなるのを確認してから「実理ちゃん、助かったよ!誰の入れ知恵だい?」「岩崎先輩ですよ。“邪な女が付き纏って来るはずだから、Yに加勢してやって!”って言われまして、上手く巻けましたね!ちなみに金曜日の晩は、岩崎先輩が、土曜日はあたしが、日曜日は千絵先輩が予約してますから、ご承知置き下さいね!土曜日は、また愛し合いましょう?」実理ちゃんは平然と言った。「別の意味で、仕事を煽らないと大変だ!」「はい!GEの金、銀ベースを頂きに上がります!細かい話は、その際にしましょう!」「やれ、やれ、今週末も暇も無しか。有賀と滝沢から逃れるためなら、やむを得ない事情だな・・・」盛大なため息が口を突いて出た。

クタクタになって寮へ戻ると、田中さんが待ち構えていた。「疲れとるのは分かるが、週末にお前さんを捕捉するのは、困難だからな!Y,鎌倉が戻り次第、打ち合わせに入るぞ!」「何事です?」訝しげに聞くと「女子寮の車がぶつけられた!運転手は、有賀と滝沢だ。どうやって折り合いを付けるか?思案しなきゃならない!」「事故の状況は?」「発進しようとしたら、バックで突っ込まれたらしい。免責事項とすれば、相手のミスでウチは関係無いが、美登里のヤツがまた騒ぎ立ててる。“男子が協力しないから、こう言う事故が起きる”とな!」「無茶を言ってくれますね。ここでは、誰もが“己の時間帯”で働き、休んでます。150名それぞれに割り当てられた“時間帯”は千差万別です。子供じゃああるまいし、我々が協力しない云々は関係ありませんよ。自分達で片付く事はやってもらわないと、それぞれの職務に響くだけで無く、越権行為と取られかねません!自分達の脚は自ら洗ってくれなくては、困ります!第3次隊の女子達は、それが全く分かって無い!」とこぼすと「その通り!今日は、酷い目に合ったぜ!“緑のスッポン”恐るべし!」鎌倉が引き上げて来た。「田中さん、アイツどうにかなりませんか?美登里のヤツ、此処ぞとばかりに過大な要求事項を押し付けて来ましたよ!第4次隊と同じく、“借り上げ社宅制度を適用しろ!”とか、“車を増やせ”とか、休日に誰が空いてるかを把握して、“相互援助活動をしろ!”とか、ともかくメチャクチャもいいところです!」ウンザリした口調からすると、相当に攻撃を受けたらしい。「とても呑めない要求だな。特に休みの日云々を言われても、無理なモノは無理だよ。だが、それも今週までだ!こっちのシステムに組み込まれれば、否応なしになる!」僕は、美登里がレイヤーパッケージ事業部に拾われた経緯を説明した。「そんな裏があったのか!」「岩留康生に安田順次か!国分でも厳しい事で有名な傑物だ!その2人から、直接、美登里についての下問があったとはな。Yは余程見込まれてるらしいな!総務筋でも、“あの安田順次から、雷を食らって無いヤツがいる”と噂になってるぐらいだ!ひょっとしたら、Yは試されてるんじゃないか?もっと上で采配を執れるか?否か?をな!」田中さんが腕組みをする。「じゃあ、もし、眼鏡に叶えば、異動の可能性もあると?」鎌倉も腕組みをする。「ああ、既に水面下では、作戦が動いている可能性は高いな。相手は、安田順次だ。抜かりがあるとは思えん!」田中さんは遠くを見る様に言った。とてもじゃないが、既にその船に乗っているとは言えない。「それで、美登里の方はどうします?まだ、ゴチャゴチャと言っては来るでしょうが、来週になれば否応なしに生産体制に組み込まれます。それまで、洞ヶ峠を決め込みますか?」「そうだな。イチイチ付き合っていたら、身が持たない!車の修理費用は相手持ちだし、代車も出してくれるでしょう?自然にシャットダウンに持ち込むに限ります!」鎌倉は、時間稼ぎをして、黙るのを待とうと言う。「それで行こう!現実を直視させれば、暇も無くなる。それに、あの岩留さんが黙って見ているはずが無い!俺が責任を持つ!女性陣の言い分は右から左へ聞き流そう!」田中さんの決断で事は曖昧に処理されると決した。いつまでも、自由に動けるはずは無いのだ。試用期間が過ぎれば、本番が控えているのだ。美登里も有賀も滝沢も、国分の恐ろしさを心底味わうハメになるのだ。「俺達は、恵まれてるな!俺はA勤、Yは早番、他に担当直が無いのがどれだけ幸せか!改めて実感させられるぜ!」社食へ行く途中で鎌倉が言い出した。「そうだな。だが、お互いに求められてるレベルは高い。気は抜けないよ。回りが何と言おうが、僕等はそれぞれの持ち場、立場で結果を出さなくちゃならない!鎌倉だって、既に結果を出そうとしているんだ。美登里や有賀、滝沢とは、歴然たる差がある。ヤツらは、やっとスタートラインに立ったばかりだ。結果如何に寄っては、強制送還にされた方が身のためって事もある。大体、O工場の様な甘いところじゃ無いし、事業部が違えば、下手な口出しも出来ない。何でアイツらが第3次隊のメンバーに選任されたのか?聞いてみたいよ!」思わずボヤきが口を突いて出た。「売り飛ばすにも、売れないからじゃないか?厄介払いだろう?」「それにしても、酷いな。買ったヤツが泣きを見てもか?」「間違えて手を出す事に期待したんだろう?まあ、余程の物好きでなきゃ、まず手は出さないだろうが、O工場に残しても大した戦力にはならない。賭けに打って出たんだろうが、失敗だったと言わざるを得まい!」食卓を囲むと「実は、第4次隊が急遽編成し直しになったらしい。“緑のスッポン”を始めるとする、女子陣の評判が異様に悪いんだ!こりゃマズイと気付いて慌てて人選をやり直す事になったらしいぞ!」「そうか。強制送還がニワカに現実味を帯びて来たか!もっとも、その方が本人のためでもあるけどな!そもそも、女の子達を送り込んだ時点で間違いに気付いて欲しかったがね」「田中さんは、伏せろとは言ってたが、お前さんには話してやる。有賀、滝沢、五味、西沢の4人は確定らしい。今週末限りで送り返す様だ。不名誉ではあるが、アイツらでは、足を引っ張るだけだと判断された模様だよ。他言無用だぞ!」鎌倉が釘を刺して来た。「あの4人が?初めから間違ってるって、気付かない方がおかしいぞ!やっと認識したのは褒めてやるが、欠員はどうするんだ?」「来週には着任するよ。流石に岩留さんも、我慢出来なかったらしいな!」「だとすると、レイヤーは今月、相当に厳しい状況下に置かれるな。交代要員も速攻で実戦に投入されるだろうから、ヤワなヤツなら持たないぞ!」「そこは、田中さんが心得てるから、心配は無いよ。それにしても、あの阿婆擦れ女達には、随分手を焼かされたな!」「言えてる!今日もやられたからな。だが、もう少しの我慢か。これ以上、O工場の恥は晒せない。帰すのが順当だろうな!」夕食を終えて寮へ戻る頃には、本降りの雨が路面を叩いていた。翌週、鎌倉の予告通り、有賀、滝沢、五味、西沢の4人は、忽然と国分から姿を消した。密かに派遣された4人と交代させられたのである。“緑のスッポン”だけが大騒ぎをやらかしたが男性陣は、「まあ、当然だろうな」と冷静に受け止めた。

寮では火の手ばかりが上がって、消火活動に東奔西走ではあったが、自身の仕事だけは唯一順調に進んでいた。総合的に配置を見直し、“弟子入り”した際に習得した技を横へ展開し、僕のコピーを増やす。地道ではあったが、成果は確実に積み上がり、約1週間分の先行を成し遂げるまでに漕ぎ着けたのだ。こうなると、心理的にも余裕か生まれる。例え、“飛び込み”があっても揺らぐ事は無くなるし、カバーしあう事で時間短縮も可能になる。好ましい循環が生じた結果、自主性も顔を覗かせるまでになり、“おばちゃん達”の表情も格段に明るさが増した。GEの新品種にしても、RCAやTIの技術を応用する事で、充分な成果が出せる事が分かり、作業に支障をきたす様な問題は出ずに済んだ。「順調だな。むしろ、整列工程と塗布工程の方が手こずっとる!前を煽らなくては、出荷が覚束ない事態になりそうだ!」徳永さんは、連日連夜、前工程を煽る事が日課になった。「Y,多少なりともペースを落とせ!検査室に製品が入らねぇぞ!」田尾も呆れて止めに来る。「いや、まだまだだ!月末集中を回避するまでは、手は止めんぞ!何でも好きなヤツを持って行け!いずれは、出荷するんだろう?」「そりゃそうだが、手が回らねぇ!人手は有限だ!」「だが、知恵は無限だろう?選択と集中で乗り越えてくれ!もう直ぐにGEの金ベースが出て来る。最速で回してやるから、手を開けて待ってな!」「OK、誰かを回す!岩崎、GEの金が来る!待機してくれ!」と田尾が叫びつつ検査室へ向かう。入れ替わる様に、神崎先輩がトレーを持って出て来る。「いい感じになって来たわね!誰もがやるべき事を見て考えてるわ!“次は何を?”なんて言ってる場合じゃないもの!ジャンジャンと送り込んで頂戴!」と彼女の表情も柔らかくなった。「神崎先輩、GEのトレーなんですが、他社に比べて貧弱に感じませんか?もっと強度があってもいいと思うんですが?」「そうね。ちょっと弱いのは確かよ。あたし達も検査の時には、気を引き締めてはいるけど、割れる事が多いのよね。品証でも問題にし始めてるから、事業部会議で取り上げるでしょう。悪いけど交換してくれない?あたし達も徳永さんには苦情は上げてあるから、月内には改善の方向には向かうでしょう。こんな会話、以前は全く出来なかった事よ!貴方らしくやってくれるから、こうして意思疎通が取れるの。大変な前進だわ。トレーの廃棄は任せるわ!」「何なら、トレーをいくらか持って行きます?廃棄物だけ持って来てくれれば、時間短縮にもなりませんか?」「それ、いいかも!GEは、特に弱いから、不安なのよね。30枚程もらってもいい?」「ご用意しますよ。ちょっとお待ちを」僕は、物品倉庫からトレーを出して神崎先輩に渡した。「貴方らしい心使いだわ。安心して検査に集中出来るなんて、夢の様な話よ。これからも宜しく頼むわね!」彼女が検査室へ戻ると、「GEはどうなってる!モタモタしてると、月末に火が着いて大火事になるぞ!Y!遅延は許されんぞ!」“安さん”が怒鳴り込んで来る。「遅延はありません。最優先で回してますから。むしろ在来品種が検査に溜まってます。溢れた製品がそこに山になってますが、明日には捌けるでしょう」と言うと「何!遅延なしか!と言う事は前に問題ありと言うのか?」「はい、検査も最優先で回ってますから、炉から出て来るのを待っている状態です」「クソ!前を煽らなくてはダメか!橋元は何を寝ぼけてるんだ?!お前達が口を開けて待ってるとは、世も末だな!待ってろ!今から尻を叩いてやる!橋元!どこだ?出て来い!」“安さん”は一瞥しただけで、塗布工程に向かって怒鳴り込みをかけに行く。「あれでもちゃんと見てるから凄いのよ。橋元さんだって、整列工程の遅れで待たされてるんだから、最後は岡元さんが吊るされる運命よ。Y,順調に回ってるわね。継続的に取り組んで頂戴。これで世界が変わるわ。みんなが、待ち望んだ時がやっと現実味を帯びて来た。このまま突っ走ろう!行けるとこまでね!」“正室”岩崎さんが金ベースを煽りに来つつ言う。「まだ、序ノ口ですが、幕内まではノンストップで行きますよ。金曜日は残業にならない様にして下さいよ。何処に行くか知りませんがね」最後は小声で囁くと「分かってるわ。退屈はさせないから、また愛し合いましょう」と返して来た。製品がトレーに移されると、彼女は急いで検査に向かう。「昼前にもう1山作りましょう!そうすれば、午後が楽になりますから」僕が言うと“おばちゃん達”が頷く。瞬く間に製品の山が積み上がり、昼休みは余裕を持って迎えられた。

疲れ果てて寮へ戻ると、田中さんが待ち構えて居た。「毎度、お疲れ様のところ悪いが、大事な話がある。付き合ってくれ!鎌倉ももう直ぐに戻るだろうから、3人で“秘密会議”だ!」何やらキナ臭い感じがすると思っていたが、田中さんの話は予想外な方向に向かった。「第4次隊の再編成の話は聞いてると思うが、今日の話は第1次隊と第2次隊の“帰還”についての相談だ!これは、第3次隊にも関わる事だから、鎌倉にも聞いてもらいたい!」「田中さん、上手く行ってませんね?向こうは“延長”を要請して来た。そうじゃありませんか?」僕が切り込むと「半分は当たりだ。だが、事は簡単じゃ無いんだよ。向こうとしては、期限を持って絶対に返して欲しい人材と、3ヶ月程度待って欲しい人を指定して来たんだ。これは、第3次隊の失敗から教訓を得て、期待に耐えうる人材を派遣してくれ!と要請したら、合わせて降って来た話だ。第1次隊は、丁度折り返し地点に到達した訳だが、妻帯者は当然帰さなきゃならないが、独身者については“帰せ”と“残してくれ”の狭間に陥っている連中が多数いるんだよ。例えば、赤羽なんかは機械工具事業部で、出荷を一手に仕切る大物になってるが、O工場としては、資材で辣腕を振るわせたいから“絶対に帰せ”と言われてるが、国分からも残留要請が早くも上がってるんだ。受注が好調だし、抜けられたら代わりの人材が育成出来てないから、穴が埋められないと言うんだ。まさか、分裂して片方づつって訳にも行かないし、国分の意向もある。その点では、Yの争奪戦も開戦間近らしいな!安田順次が、事業部会議で本部長に直談判して、10名全員の残留工作を本格化させると聞いてる。そうした動きは察知してるか?」「いえ、裏で“安さん”が早くも動き出すとは、予想外ですよ」知らぬは田中さんだけだ。既にサーディプ全体での引き留め工作は動いていて、僕も承認してるとは、口が裂けても言えなかった。「鎌倉も他人事じゃないぞ!着々と事は動いてる。それぞれの事情もあるだろうが、O工場としては、当初の予定通りに“帰還”させるつもりでいる。1次隊は、10月末、2次隊は、11月末で“帰還”させる様に厳命が来てる。だが、ある程度の残留者を残しての“帰還”にせざるを得ない状況下に置かれてる事は、覚悟してくれ!1次隊は、約3分の1、2次隊は半数が期限内に戻れない可能性が出て来たんだ!」「やっぱりか!引き留め工作は、ある程度は予測してましたが、最後は本部長会談でケリを付けてもらうしかありません。僕も鎌倉も核心部分の仕事を任されてます。おいそれと帰す責任者じゃあありません。任期が延びるのはやむを得ないと思いますよ!」「俺も核心部分を振られてます!施設がらみともなれば、尚更帰れるとは思えない。問題は期限ですよ!あるんですか?無いんですか?」「期限など無いさ。向こうの意向に反して、引き留め工作が進んでいるなら、僕等独身者に保証など無いんだ。向こうの開発状況が、はかばかしくなければ、尚更さ。半年か?年単位か?場合に寄っては“釘付け”になるだろうよ」「それは、いささか大袈裟過ぎるが、3ヶ月程度の遅れはある可能性は高いだろう。特に第2次隊まではな。しかし、第4次隊が任期満了を迎える来年の1月までには、全員を“帰還”させなくてはO工場としても、生産活動に支障が出るのは確かだ。お前達には、第1次隊の“帰還”を見届けて、動揺を鎮める役を担ってもらう。他の連中は“時間帯”がズレてる分、現状が分からないだろうから、2人で連携して粛々と“帰還”に向けて撤退を進める様に手を貸してくれ!」田中さんは、そう言って“秘密会議”を閉じたが、僕と鎌倉は部屋へ引き上げると暗澹とした気分になった。「予想通りだな。開発に遅れが生じてるんだろう」「らしいな。Y、この前の話、本気で考える必要がありそうだな!」「悪い予感は当たるものらしい。下手をしなくても、この分だと“釘付け”を覚悟しなきゃならないぞ!鎌倉、僕等の“籍”は、まだO工場のままだが、“国分籍”にされてもいい様に腹は括ってかからないと、泣きを見るハメになりかねん!勿論、この話は他言無用だがな!」「ああ、このまま放り出されてもいい様に、手は考えて置くとしよう。どうやら、俺達は“遅延組”になりそうだしな!」僕も鎌倉も“最終便”に乗ることは叶わずに、国分に留め置かれる運命を悟っていた。実際、僕と鎌倉と“緑のスッポン”が最後の最後に引き上げる事になるとは、予測すらしてはいなかった。

“正室”岩崎恭子は、検査工程のリーダーである。検査の采配は、彼女が鍵を握っていると言っても過言では無い。パートさん含めた女性陣を仕切るのは勿論、出荷の徳田・田尾の尻尾も握っている傑物である。凛としたモノ言いや決断力、統率力は抜群である。だが、今、僕の腕の中に抱かれている彼女は、全くの“別人”だった。甘ったれで、嫉妬心が強く、少女の様に幼い表情。最近は、髪を伸ばしている様で、華奢な身体に似合っているなと思う。千絵とはまた違う意味で、僕にフィトする身体だった。1回戦を終えた今は、息子にエネルギーを送り込むべく、舌を這わせている。「まだよ。あたしを満足させるまでは、寝かさないから」無邪気に笑う彼女は、息子を元気付けるのに必死だ。そんな、恭子を抱き寄せると「今日は、いつもと違うね。何を企んでる?」と聞いた。「子種が欲しいの!あなたの子供を授かるのが、あたしの目標。ほら、元気いっぱいだよ」と次戦をねだり始める。やや大き目な乳房がアンバランスに見えるが、恭子の乳房はしっかりとしていて、握った感触は他の女性の追随を許さぬ程だ。2回戦も激しく動き合い、多量の体液を注いでやった。避妊などしたら、彼女は怒るだろう。最も、最初から避妊などしていないが・・・。バスルームでシャワーを浴びていると、「最近、困ってるのよ」と恭子が言う。「何について?」「宮崎ちゃんよ。最近、あなたに興味を惹かれてる節があるの。千絵に、永田ちゃん、ちーに、実里、4人の“側室”が既に居るのよ?もう1人増えたら、あたしは嫌なの!」と抱き着いて来る。心中は穏やかではなさそうだ。「宮崎ちゃん、ああ見えて本気出すときは、マジで落としに来るわよ。これ以上、あたしを悩ませないで!」恭子は唇に吸い付いて来た。「“正室”のご命令とあらば、逆らえませんな」「お願いよ!あたしを離さないで!置いて行かないで!」彼女は懸命に訴えて来た。優しく包み込むように抱擁すると3回戦へ向かうべく、バスマットへ押し倒した。恭子は懸命に離すまいと僕に抱き着いていた。


life 人生雑記帳 - 60

2019年11月05日 17時25分44秒 | 日記
日曜日、多分、梅雨入り前の最後の晴れ間になると僕は踏んだ。6月も初旬を過ぎているのだ。鹿児島一帯を含む南九州の梅雨入りは、間近に迫っているはず。いよいよ灰の混じった雨が襲いかかって来る確率は、数段上がるだろう。姶良カルデラの北端、南に桜島と言う地形上、南風が吹くと雨になるのは必然性があった。錦江湾は南に向けて外海と繋がっている。東西と北は高い外輪山でガードされている。雨雲が流れ込むのは、南しか無いのだ。鹿児島のローカルニュースで、“これだけは見逃すな!”と言う情報があった。“桜島上空の風向き”だ!活発に活動中の桜島は、いつ大量の噴煙を挙げるか?予測不可能だった。降灰の向きは風向きが決めるから、南風だと最悪の場合、灰混じりの雨にやられるのだ!傘は銀色に、作業服は白く斑に、車には薄っすらと積もる。故に、ワイパーゴムは3ヶ月に1度交換しないと、機能しないし、灰は酸性なので速やかに洗車して取り除く必要性があった。雨が降れば洗車機が混む。1時間待ちはザラにあり、コイン洗車場も長い行列が出来る。寮生は、車を覆うフルカバーでガードするのが、常識として定着していたものだった。翌日が雨と予報が出ると、男女関係無く愛車をシートで厳重に覆うのだ。これが、唯一の対策であり、車を長持ちさせる秘訣なのだ。今朝は、多少なりとも雲があったが、概ね晴れの天気。雨は月曜日からになるだろう。待ち合わせ時刻は、午前8時。少し余裕を持って、寮の玄関先へ出ると、赤いマーチは既に横付けされていた。「おはよう。早いな」と千絵に言うと「待ちきれなくて、早く目が覚めたの。先輩、これ読んだ事あります?」と1冊のコミックを手渡される。助手席に座るとタイトルを見た。「“リップスティック・グラフィティ”か。懐かしな!時期的にちょうど高校時代とリンクしてるから、自分達の事の様に思えて親近感があるよ」と返すと「“海のオーロラ”にしても、“リップスティック・グラフィティ”にしても、どうやって読んだんです?立ち読みなんかしたら、明らかに“不審者”じゃあないですか?!」「教室の机の上に転がってれば、否応なしに手にするさ!道子と幸子の陰謀にハマったまでだ。授業のノートと交換で借りて読んだ作品だから、思い入れもあるしな!」「クラスメイトの女の子から借りた?ノートと交換で?どう言うシステムです?」「お互いに、得手不得手があるだろう?生物とか日本史や世界史、古文のノートを貸出す代わりに、数学や英語のノートをまる写しにする。“相互援助活動”の一環だよ。“補習授業”も各自が得意分野を担当してやる。だから、少し掘下げて勉強しないと教えられない。そうする事で“赤点”を免れるし、全員がレベルアップ出来る。キッカケは、インフルエンザで休んだ幸子のノートを手分けして作った事が始まりさ!」「上からの圧力とか、学校の雰囲気で潰されなかったんですか?」「新設校だったんだ!僕たちは2期生。1期生と共に“礎”を築く立場だったのさ。だから、煩いOBやOGも居ないし、伝統も無し!自由で風通しのいい環境だったからこそ出来た芸当だったんだろうな。逆に“悪しき事”は残せないから、卒業前は大変だった。僕等の代で改悪された諸々の“規則や会則”は全て破壊してから、“太祖の世に復せ”と下に命じて卒業したのさ」「“太祖の世”って何です?」「あー、分からないよな!“1期生の時代に戻れ”って意味」「先輩、たまに分かりにくいと言うか、“学のある表現”を使いますよね?それで同級生や下級生に通じてました?」「うん、それが当たり前だったからね」「あたしとレベルが全然違いますね。“太祖”って言われてもフリーズするしかありませんよ。もっと、かみ砕いて説明して下さいよ!元に戻りますが、“さよならなんていえない”とか、“Mickey”とか、短編の“きんぽうげ”とかも見てます?」「“さよならなんていえない”は“りぼん”の連載で読んだし、“きんぽうげ”も読んだよ。あれも割と好きだったなー」「先輩の頭の中はどうなっているんです?“孫氏の兵法”を読破して語れるだけでなく、少女マンガまでレパートリーがあるなんて!解剖と言うか分解してみてもいいですか?」千絵はマジになって首筋を触り出す。「どこかにネジが埋もれてるはず。それさえ発見出来れば・・・」「千絵―、僕はサイボーグじゃ無いぞ!くすぐったいから止めてくれー!」と言うが、千絵は必死に僕の身体を調べ続けた。「うーん、巧妙に隠してて見つからない!後で、つま先から頭のてっぺんまで隈なく探そう!」「それよりも、今日はどこへ行くんだ?」「あっ!すっかり忘れてた!どこへ行きます?」「朝からボケをかますなよ!よーし、人吉へ行くぞ!」「えー、何しに行くんですか?」「肥薩線の“おこば駅”を見に行くんだよ!この辺では唯一残っている“スイッチバック”と“ループ線”の撮影さ!」「ローカル線のどこに魅力があります?特急なんか走ってませんよ?」「ともかく、行こう!運転は代わってやるから」「OK、じゃあ、お任せしますよ!」千絵はキーを掌に乗せた。すったもんだの挙句のスタートだった。

溝辺鹿児島空港ICから人吉ICまでは、九州自動車道を走行した。「Y先輩、何故、肥薩線なんです?」千絵は不思議そうに聞いた。「かつては、こっちが“鹿児島本線”だったからさ。八代駅から先は、肥薩線の方が開通が早いんだ。川内回りのルートは、電化の際に変更になったのさ。明治時代は、海岸線沿いに鉄道を敷設するのをためらった経緯があるんだよ。国防上の理由からね」「海からの攻撃を恐れた?」「ああ、非常時には攻撃を受けにくい様にしなきゃならなかった。だから、球磨川沿いに線路を敷いた。けれど、後の工事では、複線電化を模索する際に土地の狭さとトンネルの問題故に“足かせ”になってしまった。だから、八代から先を西側の“新ルート”で敷設し直した。だから、“単線非電化”で残存してるのさ。“スイッチバック”と“ループ線”は、急勾配をクリアするための工夫って訳」「全国でもここだけなんですか?」「上越線の清水トンネルの例がある。最も、向こうは複線化の時に別ルートで上り線を敷設しているから、下り線だけだが・・・。かつては“本線”だった路線としては、御殿場線がある。熱海経由の丹那トンネルが開通するまでは、立派な東海道本線だったんだ!」「“オタク知識”までインプットされてるんですね。メモリーはどこに隠してあるんです?」千絵は“サイボーグ説”を捨てていなかった。「電子回路は付いて無いよ!全部、灰色の脳細胞に記憶されてる」「それにしても、広範囲な知識を良くもスラスラと言えますよね!どうやって覚えたんです?」「ひたすら掘り下げるのが、僕のクセらしい。気になると、とことん調べる悪癖があるんだよ!まだ、千絵に関しては謎めいた点を調べ尽くしてはいないけどね」「後で、存分に調べれば?」千絵はニッコリと笑った。人吉ICで降りて市街地を抜け、国道267号を鹿児島方向へと戻ると、肥薩線“おこば駅”の案内看板に沿って脇道を進む。駅はひっそりと佇んでいた。「これって、駅に入ってから方向転換するんですよね?」「ああ、現在は両方向に運転台のあるディーゼル車両だから、運転手が移動するだけでいいが、開通当初は当然蒸気機関車だから、機関車を回して連結し直したはずだよ。前も後ろも同時にな!」「えっ!後ろの機関車って、前後2両で?」「これだけキツイ勾配だから、引くだけじゃ登れない!補機として押す機関車も連結してただろうよ。しかも、先には下り坂が控えてる!ブレーキも効かせるには、補機は欠かせなかったはずだ。線路や“転車台”は撤去されているが、駅の敷地が結構広いところを見ると、かつては今言った施設はあったはずだ!」僕は要所でシャッターを切り続けた。「今だって、駅に列車が入線すれば、ポイントを切り替えてから、北や南へ向かうはずだ。すれ違いもここでやってるんだろうよ。上り下りの両方に対応可能なホームになってるだろう?」「確かに。山の中なのに、敷地が広過ぎるし、ホームも両面に対応してるわ!」「地図を見るとだな、えびの市側に出ても、余り山を下らずに山の中腹近辺を線路が走ってるだろう?昔はこうしないと、安定して走れなかった証拠さ!上り切ったら、なるべく高低差の少ない場所を選んだ結果だろう。霧島温泉駅から隼人駅の付近は、結構な下りだからな。八代へ戻るにしても、補機は必要だよ」「どのくらいのスピードだったのかな?」「うーん、下手をすると“自転車に負けた”可能性はあるかもな。蒸気機関車そのものが重たいんだから、1寸刻みに喘いで登っただろうよ」「鉄道が自転車に負ける?そんなに遅い訳?」「早く走れば、飛び乗れた事は確かだろうさ。無論、パワーのある機関車なら話は別だがね」「“トンネルの問題”って何です?」「電化するには、架線を上に通さなくちゃならないだろう?トンネルの断面積は、蒸気機関車が走る事を想定して掘られてるから、上下方向の高さが足りないんだ。“盤下げ”って工事、すなわち、地面を掘り下げる工事をしないとトンネルを通過できないし、鉄橋も併せて下に持って行かなきゃならない。しかも、運行を停めないと大々的な改造工事は無理だ。八代、隼人間には、短いトンネルが結構あるし、電力の供給にも問題があったんだろう。“新ルート”に切り替えたのは、そうした理由もあるだろうよ」フィルムを使い切り、パトローネ交換をしつつ千絵の疑問に答えた。「電力って普通のコンセントから取るヤツじゃなくて?」「同じ交流でも100Vじゃあ無いよ。20.000Vの高圧電流が流れてる。交流電源の利点は、変電所の数が少なくて済む事と、高圧だから容量を稼げる事にある。新幹線が交流を使っているのは、大容量の電力を必要としているからさ!時速300kmオーバーなんて速度を出すには、高圧電源が無いと無理だからね!」「感電したら黒焦げになるのね。山手線もそうなの?」「いや、ちょっと違う。直流1500Vだ。関東甲信越、名古屋周辺、大阪近郊などは、直流電化さ。電化された時期や電力供給の関係で、直流と交流に別れてるのさ。九州一帯は交流1本だがね」「じゃあ、ここら辺で走っている電車は、首都圏や信州には乗り入れできないの?」「それが、ややこしい話になるがね・・・」僕達はマーチに向かって歩き出した。「ここら辺で走ってる電車は、そのまま首都圏や信州に乗り入れ可能なんだよ。ただし、逆は無理だ。山手線の電車は九州に乗り入り不可能だ!」「どうしてよ?」「電車の構造が違うのさ。この辺りで走ってる電車は、415系か485系と言うが、“交直両様電車”と言って電化されていれば、どこでも走れるタイプなんだ。山手線の電車は“直流電車”だから、交流区間は走行不可能。では、何故、“交直両様電車”がどこでも走れるか?なんだが、実は床下に“変圧変換機”を持っているからさ。理科の実験で電源装置を使ったの覚えてないかな?コンセントにプラグを差し込んで、電流と電圧を調整すると、実験回路内の豆電球が光るヤツだが・・・」「何となく覚えてるけど?」「原理はアレと一緒だよ。交流を直流に変換してやる。それを電車の床下でやってるからさ。直流区間なら、“変圧変換機”を止めてしまえばいい。基本は直流型と一緒なんだ。床下に“変圧変換機”を持っているか、いないかの違いだけ!」僕はマーチを始動すると、人吉市内へと向かった。「うーん、何となく分かった様な、まだあやふやな様な・・・」千絵は盛んに首を捻る。「でも、何で、485系?だっけ?ややこしいモノを開発したのよ?」「必要があったからさ。大阪から青森まで走る“白鳥”と言う特急があるが、最初はディーゼル特急でスタートしたんだが、スピード・加速不足でね。時間短縮の要望が国鉄に挙げられたんだ。電車化に当たって、一番困ったのが北陸線内と奥羽本線の村上以北の交流区間だった。乗り換え無しで直通運転を可能にしたのが、485系“特急型交直両様電車”だったのさ。“必要は発明の母”だろう?苦労して辿り着いた結論が、たまたまそれだったのさ!今では、485系は直流区間でも活躍している、国鉄の“特急の柱”だよ!」「仮に、あくまでも“仮の話”だけど、あたしが“にちりん”を運転して、O工場の近くまで走って行く事は出来るの?」「気の長い旅路にはなるが、充分に可能だよ!でも、乗って来た以上は、返しに戻らなくてはならないがね!1編成をジャックするにしても、ダイヤに影響が出るからな!」「予備があるでしょう?」「電車にも車と同じように“車検”に相当する分解整備が義務付けられてる。予備を盗まれたら、代替えも出来なくなるし臨時運行も出来なくなる。国鉄から苦情が来るよ!」「そんな事、関係無いわ!あたしの都合に見合う様にしてくれなくちゃ!」千絵は“どこ吹く風”だった。人吉の街でコンビニを見つけると、僕等は食料と飲み物を手に入れて、九州自動車道を戻り、宮崎へ向かった。

宮崎ICの直前、清武PAまで来るとちょうど昼になった。車を停めると、まず手足を伸ばす。「いやー、速度を一定に保つのはキツイなー。だが、直進性は素直でいい!寮の“オンボロ、カローラ”よりは格段に素直だ!」「それ、どう言う意味です?」と千絵が睨む。「排気量が小さいから、坂道はやや苦労するがハンドリングは安定してるって事だよ。なーに、怒ってるの?」「怒ってません!」「ブリブリ言うな。千絵らしくないぞ!」「女子寮に居る“阿婆擦れ女”と比べないで!あたしの方が断然、Y先輩の事を知り尽くしてるんですから!」ご機嫌は、斜めでは無く断崖絶壁の如しだった。千絵は、マーチの後席へ座り込むと「ここに来て!」と言う。後席へ潜り込むと「抱っこちゃん!」と言って膝に座り首に腕を巻き付けて甘えて来る。「“前世”でも、あたし達は夫婦だった。子供は4人。男の子と女の子の2人づつ、ある日、大地が突然避けて山が噴火した。あなたは、あたしと子供達を逃がすために火に包まれた。そして、あたし達も海に流された。時は流れて、今、再び、あたし達は1つになるの。昨日見た夢よ!」「妙にリアリティーがあるな?まさか、“前世の記憶”が蘇ったとでも言うのかい?」「多分、そう。あたし達は結ばれる運命なの。誰にも渡さない!あなたは、あたしのただ1人の人よ!」唇が重なり、何度も舌が絡みつく。「しようよ!子供が欲しいの!」千絵は本気で望んでいた。「ここじゃあダメだよ。“2人だけの部屋”に行かなきゃ!」と言うが、千絵はスカートをめくって手を導き出した。「見られてもいい。触って!かき回して!」脚を広げてパンティに触れさせる。湿り気を帯びたパンティの中へ手を入れると、指でかき回してやる。「ああ・・・、漏れちゃう!イッてもいい?イッてもいいですか?」潤んだ目で千絵が言う。愛液が多量に流れ出し、パンティと僕のズボンを濡らした。千絵は、放心状態で喘いでいる。「ごめん・・・なさい。汚しちゃった・・・。でも・・・、気持ち・・・よかったの。早く・・・イタズラ坊やを・・・ちょうだい!」千絵は、息子を撫でながらキスを繰り返して誘惑を続ける。拒む理由は無かった。ビショ濡れのバンティを剥ぎ取ると、ゆっくりと息子を中に入れた。「あん!・・・大きい・・・のが・・・根元まで・・・入ってる!動く・・・ね」千絵は腰を使い、徐々に喘ぎ声を上げ出した。締め付けが強まり、息子に絡みつく。その感触は、誰からも感じる事が無かった“千絵からだけ感じる”ものだった。「出して・・・、中へ・・・、中へ・・・、出して!・・・出して下さい!」譫言の様に千絵は言う。ありったけの体液を注いでやると、ピクピクと身体を震わせて「気持ち・・・よかった。沢山・・・出してくれたね。うれしい」千絵は満足げに言った。唇を重ねると「綺麗にしなきゃ」と言いテイッシュで拭き取りをする。僕の息子も拭きあげてくれる。「千絵、着替えは?」「下着はあるの。でも、先輩のズボンが・・・」「千絵のモノだからいいよ」「ダメ!カッコ付かないでしょ!」結局、宮崎市内で服を買う事になった。

市内で衣服一式を買い、着替えを済ませると僕等はモーテルに入った。“2人だけの部屋”に落ち着くと、千絵を抱いてゆっくりとお互いの衣服を剥ぎ取って行く。千絵は盛んにキスをねだる。生まれたままになると、バスタブに湯を張り、まずシャワーを浴びる。ボディソープを塗り合ってから、並んでバスタブに浸かると「おっぱいちゃん好きでしょ?ねぇ、触って!」と言う。千絵の乳房は身体に似合わず豊満で、適度な弾力と張りがある。これまで逢瀬を重ねた女性達の中でも、一番好きな乳房だった。千絵の不思議なところは、僕の身体に“しっくり”とフィトする事だ。“前世で夫婦だった”と言った話が“真実”ではないかと錯覚しそうになるのも、彼女の身体が“しっくり”とフィットするのが由縁なのかも知れなかった。「あたし、あなたに抱かれるために生まれて来たと思ってるの。だから、あなたの子供が欲しい!産みたいのよ!」千絵は妖艶な笑みを浮かべる。「じゃあ、また、しようか?」乳首を摘んで刺激を与えると、たちまち息が荒くなる。ホールもかき回してやると、狂ったように身体を振るわせて「はやく・・・、ちょうだい!この・・・いたずら坊やを・・・、下さい!」とねだる。バスタブで2回戦、ベッドで3回戦を終えると、シャワーを浴びて汗を流した。千絵は、まだベッドで余韻に浸っていた。バスローブを纏い、千絵に「シャワー浴びたら?」と言うと「ズルイ。先に済ませたの?あたしと一緒にしなきゃダメよ!」と言って息子を掴んで舌を這わせる。「今日は、底無しか?」「何事も妊娠するためよ。子種をより多くもらった人が勝つの!」こうしてエネルギーを注入されると、理性のタガは意図も簡単に外れる。バスマットの上で4回戦を挑んでやる。「そうよ・・・、もっと・・・もっと・・・突いて下さい!」背後からの猛然とした突きに、千絵は声を上げて答える。体位を変えて相対すると、より激しく突きをお見舞いする。乳房を鷲掴みにして、腰を使うと「あー・・・イク・・・、あたしイッちゃう!イッてもいいですか?いいですか?」と叫んで絡みついて来た。残っている体液全てを注いでやると「良かった・・・、やっぱり、あたしは、あなたのモノよ」と言ってしばらく離れなかった。

身も心もスッキリしたところで、僕等は青島へ向かった。コバルトブルーに輝く海、波が砕ける岩。夢中でシャッターを切っていると「先輩、本当に海が好きですね。まるで、子供みたいに!」千絵は無邪気に笑う。「“信濃の国は十州に、境連ぬる国にして、そびゆる山は、いや高く、流るる川はいや遠し”長野県には海が無い内陸。日本海、太平洋どちらに出るにも、簡単には行かない。潮の香り、海風、沈む夕日、登る朝日、その全てに憧れを抱いて育ったものだ。海に魅せられるのは宿命だよ」「“信濃の国”って長野の人は誰でも知ってるの?」「ああ、そもそも、小学校で習うからね。長野県の地政学を学ぶには、丁度いい歌だしな!」「鹿児島県の歌なんて、聞いたことも無いのよ。そもそも、あるのかな?」「あるはずだよ!だけど、一般的に歌われてないから埋もれてる事が多い。“信濃の国”は特例的な扱いをされてるしな!」「何よそれ?」「分県論を“封印”した実績があるんだよ。戦後まもなく、長野県を“2つに分県しよう”って運動が起こって、県議会で採決する寸前まで議論が進んだんだが、突如として傍聴席から“信濃の国”の大合唱が起こってね、採決を見送らせた実績があるのさ!その後、議案は廃案になった。嘘みたいな本当の話なんだけどね!今では、県庁の仕事始めの式で“信濃の国”を歌うのが恒例になってる!」「何気に凄くない?分県を阻止するなんて、考えられないわ!」「それだけ愛着を持って歌い継がれているって事さ。故に特例的な扱いを受けてるって言うのさ」「十州って事は、10の国に囲まれてるって意味でしょう?」「そうさ、越後、越中、飛騨、美濃、三河、遠江、駿河、甲斐、武蔵、上野の10国さ。新潟、富山、岐阜、愛知、静岡、山梨、埼玉、群馬って言えば、分かりやすいかな?」「目が回るよ。それだけ覚えるだけでも大変なのに、スラスラと出て来る先輩の頭が凄すぎ!記憶モノは得意でしょ?」「ああ、割とな。だが、数学の方程式や英語の文法はダメだ!」「それで、ノートまる写しで逃げたの?」「赤点逃れでな」「でも、歴史や生物は“講義”を持ったんでしょう?同級生の前で“授業”やれるなんて、やっぱり普通じゃあないわ!」「千絵はどうしてた?」「赤は赤よ!大体、想像付くでしょう?」「まあな。化粧とかは?」「そんなの、無しよ!ノーメークよ!UVケアなんて無理、無理!」「でも、素肌は綺麗じゃないか。どうやってガードしたの?」「家で化粧水塗りまくりよ!就職してからは、屋内での作業でしょう?やっと、ここまで戻したってとこ!」「綺麗な素肌に触れられる特権は捨てがたいな。胸の形も気に入ってるし」「馬鹿!スケベ!」千絵は拳を振りかざすが、怒ってはいない。むしろ、笑っていた。「先輩、濡れちゃったパンティあげますよ!あたしの匂いを嗅いでお守りにしません?」「他の女性から隔離するつもりか?でも、隠し通せるかな?寮の部屋では、ブライバシーもあったもんじゃ無いからな・・・」「そんなの直ぐに気にしなくても良くなります!懐妊すれば自動的に“ご入籍”だもの。アパート借りて、2人だけの生活になれば、いつでも触れるんだし、選り取り見取りになるでしょう?」千絵が当然と言わんばかりに言った。「当たるかな?」「勿論!あれだけ注いでもらったもの!」「女の子だな」「男の子だったら?」「どっちでもいいよ。元気に生まれてくれれば」偽らざる本音だった。千絵と暮らす。それが自然な流れだろう。僕等は、日向灘のコバルトブルーの海を見つめていた。

帰りの宮崎自動車道で“中央フリーウェイ”が流れると、「先輩、このマーチで“中央フリーウェイ”を実体験するとしたら、どうすればいいです?」千絵がとんでもない事を口に仕出す。「車を持って行くなら、フェリーだが・・・、36時間はかかるだろうな?しかも、大阪からになるから、阪神高速・名神・中央道・首都高の順に突破をしなきゃならない。相当な長旅になるぞ!」「じゃあ、羽田でレンタカーを借りるとしたら?」「横羽線から、JCTの嵐を掻い潜って、首都高4号に乗るまでが大変だ!そこまで行ければ問題は無いが、どこに泊まる?日帰りで“とんぼ返り”するか?」「うーん、飛行機に間に合わなければ泊まりか。別に2人で愛し合えれば、あたしはOKなんだよね。でも、この車で行く事に意味があるの!何とかなりません?」「無茶を振ってくれるな!でも、フェリーで行くなら可能性はゼロじゃない。問題は、休みをどうするか?だよ。お盆は避けるとすると、3連休狙いになるが、それだと時間が足りない!自走して遥々と向かうとしても、地理不案内な地域の走行をどうやってクリアする?夜も関係無しに飛ばさないと、東京は遥か彼方にあるんだから、キツイぞ!」「ふむ、お盆に帰省しなければ解決出来ない?」「そりゃそうだが、渋滞をどう回避する?至る所に渋滞ポイントはあるんだ!一筋縄では行かんぞ!」「そうだ!先輩にくっいて帰省すればいいんだ!先輩の車なら渋滞とは無縁でしょう!」「まあ、そうだな。でも、帰らなくてもいいのか?」「どうにでもなりますよ!決めた!お盆は“中央フリーウェイ体験ツアー”に行く!」千絵は勝手に決めてしまった。それだけ憧れてしまったのだろう。無邪気な夢だが、“叶えてやりたい”と思えるのが、彼女の魅力だろう。「それなら、チケットの手配をして置けよ!タダでさえ込む時期だし、名古屋発着の便は数が少ない。腹を括ったなら、フライトプランは早めに計画しろよ!」僕は肩をすくめるしか無かった。千絵はキャイキャイとはしゃいでいた。“この道は、まるで滑走路、夜空に続く”を地で行くなら夕暮れ時に走るのがロマンチックだ。都内でどうやって時間を過ごすか?も考えなくてはならない。8月に向けて宿題は山積みだが、チャンスは1回限りだろう。走行車線をゆったりと流しつつ、僕も思案を始めた。「壮大な計画だな。真夏の夜の夢か・・・」赤いマーチは、鹿児島へ戻った。
寮の前で“別れの口づけ”を交わすと「Y先輩!お盆、楽しみにしてますから、必ず連れてってくださいよ!」と千絵が念を押した。「ああ、必ずな!」と言うと、千絵は微笑みながら駐車場へ車を回しに行った。部屋に戻ると、鎌倉が待ち構えていた。「お早いお帰りだな。どうだった?」「世話が焼ける“お姉さま方”だよ。これで、来週も安泰だろうよ」と返すと「Y、率直に聞くぞ!どこまで行ってる?」「男女の仲まで。それがどうした?鎌倉も違う匂いがするな?」「うむ、新谷さんに迫られてな・・・。拒めなかったよ。Y、和歌子先輩に対して罪悪感は無いのか?」「無いと言えば嘘になる。だが、僕等は帰れるのか?半永久的に釘付けにされたらどうする?取り敢えずは、派遣期間は半年だが、保証は無いに等しい。向こうの都合次第で、僕等の運命は左右されちまうんだ!ならば、いっその事“根を降ろす”覚悟も必要じゃないか?和歌子先輩が来てくれる保証も無い。僕は、“帰らない選択”も考え出してるんだ!“住めば都”じゃないが、僕はこの地で新たな道を見つけつつあるんだ。向こうでは望めない責任と地位も手にした。ここに未来を託すのもあるんじゃないか?」「確かに、Yの評価は群を抜いて高いよな。安田順二が容易く手放すはずが無い。Y、俺も同じ事を考える様になりつつあるんだ!美紀先輩には悪いが、帰れなければ“新たな道”を探さなきゃならない。今度、電力関係の“保守点検を任せる”と言われた。それも、4ブロック全体だ。俺としても“望むところ”なんだが、これで上手く行ったら、1つ帰る理由が無くなるだろう?向こうでは望めない責任と地位、お前さんと同じだが、それがここにはあるんだ。未来は国分にあるとしたら、向こうの事は忘れてもいいと思うか?」鎌倉も悩んでいたのだ。「そう思わなくては、ここではやって行けない。僕等は常に試されている。そして、結果を出している。僕も鎌倉も、“代えがたい人材”になりつつあるんだ。僕等にしか出来ない事が増えれば、国分側だって黙って帰すとは思えん!引き返すことが不可能な地点に僕等は立ってしまった。だとしたら、どうやって生き延びるか?を考えるよな?」「ああ、そうすれば、結論は1つしか無い。“この地に根を降ろす”選択だ。Y、腹は括ってるのか?」「ウチの“お姉さま方”も必死さ!ガチガチに固めて、動けなくしようと工作を展開中だよ。“安さん”への工作もやってるだろうよ。それを振りほどいて帰れるか?」「多分、無理だろうな。俺のところも、権限を持たせて“簡単には帰れない”方向に持って行くのが見え見えだ!ならば、その船に乗るのも筋か?」「新谷さん1人ならまだいいが、ウチは25名+25名の50名が蓋をしようとしてる。僕の力ではあらがう事は出来ん!」「俺よりキツイ話だな。Y、ここは、南の果てだ。向こうには見えないだろう?風の噂は届くかも知れないが、和歌子先輩も美紀先輩も実際に見てる訳じゃないよな。笹船の如く揺られているよりは、流れに任せるのもありだよな?」「ああ、そう考えなければやっては行けないよ。実際、向こうよりキツイし、責任も重い。僕等は選ばれてるんだ。克ちゃんや吉田さんよりは、期待も大きい。選ばれし者の特権だと割り切る事も必要じゃないか?」「いつ、割り切れた?」「ここへ来て2週間後。今の職場を預かった時点だ」「俺もそろそろ到達したらしいな。よし!思い切ってやって見るか!」「その方が鎌倉らしい。新谷さんの目は曇って無いらしいな?他の女性にも気を付けろよ!雨あられの如く降りかかるぞ!」「Y、お前さんもだ!一体何人と付き合ってるんだよ?」「話によるとだな、“大奥”になっちまってるらしい。もう、抜けだせないよ!」僕はお手上げのポーズを取った。「“大奥”か。職場全体から誘われてるなら、より取り見取りじゃないか!不満はないよな?」「それを言ったら火に油を注ぐ事になる。世の中を平らにするには、付き合うしかないんだよ」「交代するか?」「やれるものならやって見ろよ。半日で根を上げるハメに陥るぞ!」「女の集団は苦手だ!Yの様に操縦する自信は無いよ」鎌倉もお手上げのポーズを取った。こうして、僕等は“新たな道”を目指して突き進む事になった。故郷のO工場の事は、棚上げするしか無かった。そうしなくては、毎日の仕事に立ち向かう事は不可能だったからだ。鎌倉も僕も、国分で生きるには後ろを振り返っているヒマは無かったからだ。2人で缶ビールを買い込むと、ささやかな酒盛りと相成った。