limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 59

2019年11月01日 18時04分22秒 | 日記
鹿児島からの帰り道、「ごめんなさい。あたしの弱みはやっぱり素直になれない事ね。でも、貴方と居ると不思議に素直になれるの!あたしを置いて行かないでね。Y,いつまでも変わらぬ愛を注いてくれない?」と岩崎さんは言った。「僕は、決めましたよ。”ここに根を降ろす”とね。“正室”である貴方を置いて行けると思います?」彼女は僕の左手に右手を重ねると「その言葉を待ってたの!これからも、貴方らしく突っ走りなさい!あたしは、その背をひたすらに追うわ!それが“正室”としての務めだから」と返して来た。逢瀬を重ねた2人に、余計な言葉は要らなかった。僕も、彼女も見据える方向は定まったのだ。“我はこの地に根を降ろす!”と誓い合っただけで充分だった。深夜、寮に戻ると別れの口付けを交わす。「愛してるわ!さあ、明日は、1番の元気印がお待ちかねよ!しっかりと眠りなさい!」岩崎さんは、寮の玄関先で言った。もう一度、口付けを交わすと「おやすみ!」と言って別れた。時刻は、既に日付を跨いでいたが、寮の前には人だかりが出来ていた。「“緑のスッポン”はまだか?!」「車を勝手にジャックするとは、どう言う了見だ!」と口々に怒りを露にしていた。「畜生!また、やられたな!」僕は毒づいた。元々、僕達が使える車は3台あった。しかし、その内の1台を高城が“ドリフト走行の失敗”でクラシュさせたので、2台に減ってしまっていた。男ばかりの所帯なので何とか、やり繰りをして乗り切って来たのだが、3次隊の到着後、車を女性陣が独占して中々返さないと言う問題が出て来ていた。今回も、“緑のスッポン”達が車をジャックして帰寮しないと言う事態に男達が怒っているのだ。遅番を終えてドライブにでも出かけたのだろうか?1時間待っても戻らない様だった。そんな喧騒をかわして、部屋へ戻ると誰も居ない。「鎌倉のヤツ、朝帰りになるな!」僕は1人ほくそ笑むと目覚ましをセットして、ベッドに潜り込んだ。“正室、岩崎恭子”の意外な一面、それも女性とすれば誰もが抱くであろう“寂しさと不安”を抱えていた事は、少なからずショックだった。普段はそんな素振りも見せず、1人じっと耐えていたのだろう。彼女はひたすらに抱かれたがった。不安を打ち消したかったに違いない。「何故、見抜けなかった!」後悔先に立たずだが、自分が情けなかった。しかし、代償は大きかった。疲れから来る睡魔に勝てず、僕は眠りこけてしまったのだ。夢の中でも、僕は彼女を抱いていた。

目覚ましが鳴る前に「ドサッ!」と言うモノの倒れる音で目が覚めた。TVの前で鎌倉が伸びていた。かなり酒臭いところを見ると、相当に飲まされた様だ。揺り起こそうとしても、ビクともしない。仕方なくシーツで覆ってやる。転がして置いても風邪を引く心配は無いだろう。食糧庫からパンとコーヒーを取り出して食すと、シャワーを浴びに行く。予約時刻は、午前8時に寮の前だ。着替えてから財布と免許証とカメラをバックへ押し込む。フイルムは3本用意してある。少し早いが、外へ出る事にした。酒の匂いが室内に充満していたからだ。「あれで、鎌倉も認められるだろう」と呟きながら階段を降りて、寮の前へ出ると銀色のシティ・ターボⅡ“ブルドック”が停まっていた。「Y先輩、おはようございます!」永田ちゃんが元気な声を響かせて降りて来る。「えー!これもしかして・・・」「愛車ですよ!さあ、峠道へ出かけますよ!」と言って僕を助手席へ押し込んだ。轟音を響かせて“ブルドック”は、国道10号を牧之原台地方面へと駆け上がる。「意外でしたか?」「うん、意外だった」「今日は、山道を攻めて攻めまくります!しっかり、付いて来て下さいよ!」と言う。デニムのショートパンツに薄紅色のTシャツ。足元はスニカーで固めている。「ワインディグロードがお好みとは、長野に連れて行きたいね!」「どうしてです?」「“信州峠スペシャル”って言ってるルートがあるんだ。1日中、ワインディグロードばかりを渡り歩くルートなんだが、蕎麦屋とか、神社の奥社へのハイキングも組み込まれてる。永田ちゃんなら気に居るはずだよ」「先輩もやりますね!岩崎先輩の車で、最速記録を叩き出した腕は“タダ者では無い”と思って見てましたが、やっぱり峠で鍛えてたんですね!」永田ちゃんは嬉しそうだった。地図には、山奥の峠道にマーキングがされており、クライマックスは霧島連山を目指すコースが記されていた。「絶好のルートだな。どこで交代する?」と聞くと「綾川渓谷~軍谷峠間をお願いします。そこまでは、裏道を飛ばしますよ!」と言うと永田ちゃんは“ブルドック”を更に加速させた。「やってくれるね!」僕は直ぐに愉しさを感じた。“ブルドック”は、都城方面へと駆け抜けていった。

永田ちゃんがブッ飛ばした事もあり、都城郊外に達したのは以外に早かった。だが、エネルギー不足に陥るのは、車も人間も同じだった。「先輩、何か食べません?ガスも入れないとヤバイですし」「ああ、腹が減っては何とやらだ。おごるよ!ファミレスとか無いかな?」と地図に目を落とすと、右折すれば直ぐ近くにある事が判明した。「よーし、腹ごしらえよ!」“ブルドック”はファミレスに突っ込んで停まった。スタンドは真向い、書店が隣にあった。朝から“ガッツリ”と食事を済ませると「ちょっと書店に寄りますね。適当に見てて下さい」と永田ちゃんは本棚の陰に向かった。ブラブラと見て歩く中、“海のオーロラ”を見つけた。古代エジプト篇~邪馬台国篇~ナチス篇~未来篇の全巻があった。ナチス篇を手に見ていると「Y先輩?これって完璧に少女マンガですが、読んだ事あるんですか?」と永田ちゃんに不思議そうな顔をされる。「ああ、意外にもハマるんだよ。“輪廻転生”については、それぞれに考えもあるだろうが、僕は半ば信じてるんだよ」「“輪廻転生”か・・・、あっ!さっき流れてたカセットの曲!“REINCARNATION”って・・・まさか!」「流石に鋭い!そのものズバリさ。“2人は知らない時代、どこかで巡り合っていたのかも知れない”って歌詞があったろう?形はどうであれ、意外と僕等も過去の世界で出会っていたのかも知れないな。偶然にしては、出来過ぎてると思わない?」「凄く意外ですけど、Y先輩は信じてるんですね。“生まれ変わり”を!」「“信じたい”そう思わせてくれるのが、“海のオーロラ”さ。道子が好きだった作品だ。彼女は“本当に信じてた”からな」「あのー、道子って誰ですか?」「幼馴染にして、高校の同級生。僕と道子は1度離れ離れになったが、高校で再会したんだよ」と言って高校1年の時のダイジェストを話した。「そんなドラマチックな事あるんだ!でも、話を聞く限り、道子だけじゃありませんよね?Y先輩?」「ああ、同級生では、雪枝、幸子、堀川、中島、西岡。1つ下には、上田、遠藤、水野、加藤。2つ下は遠すぎて忘れた!でも、女の子の友達と言うか知り合いは多かったよ」「そんな環境なら、あたし達や“おばちゃん達”に囲まれても動じない訳だわ!女性を扱う素地は、既にあったんですね!やっと謎が解けましたよ!」書店を出て、スタンドでガソリンを満タンにしている間に、永田ちゃんは謎解きを1つ終えた様だ。“ブルドック”は、再び山道へ向かってブッ飛んでいる。「あたしとY先輩の“前世”はどんな関係だったんだろう?夫婦かな?兄妹かな?意外と姉弟かな?想像すると楽しくなりません?」永田ちゃんは屈託なく笑って言う。「兄弟は?」「弟が1人います。頼りないと思ってたけど、最近“ウチの会社に入りたい”って言うんです。“ガッツが無いと生きていけないよ!”って言ったら“姉貴には負けねぇ!”って言い返すまでになりました!」「いいな、僕は1人っ子だから、姉さんが居て欲しかった。でも、今は手に余るぐらいに居るから、夢は叶ったな!」「下はダメですか?」「永田ちゃんならOKさ。だが、千絵は気まぐれだから、手が焼ける!」「あたしだって、気まぐれですよ!その証拠を見せましょうか?」永田ちゃんは路側帯に車を停めると、唇に吸い付いて来た。「岩崎先輩の様に妖艶では無いけど、あたしも女よ!若さでは負けません!昨夜、恭子にした見たいにキスしてよ!」と言う。そっと抱きしめてキスしてやると「昨夜、見てたんです。玄関先でキスしてるの」と言って迫って来る。「やっと先輩と2人だけになれた。だから、後ろに行きましょう」と言って僕を後席スペースに連れ込んだ。座席は畳まれており、2人で抱き合うには充分なスペースが用意されていた。彼女は、膝に座り込むと何度も唇に吸い付いて来た。「しようか?あたし抱いてほしいの」と言って、デニムのショートパンツを脱ぎ始める。透き通るような白い腿が露になると、白いレース地のパンティが見えた。Tシャツは脱がずに、ブラを巧みに外すと手を導く。「触って。そしてしっかり掴んで」誘惑に抗う事は出来なかった。彼女の望む通りに抱いてやると、か細い声で「もっと・・・、突いて下さい!そして・・・、中に・・・出して!」とねだる。ゆっくりと腰を使い、前後に動いてやると「ああ!・・・出る!出ちゃうよー!」と言ってから、息子を抜くと愛液が滴った。再び息子を吸い込むと、やがて絶頂に上り詰めて身体を痙攣させた。僕の体液は余す事無く、彼女の中に放出されれた。「気持ち良かった。自分で慰めてるとの全然違うね。あたし、自分ですると、びょ濡れに滴っちゃうの」と言い、体液を指ですくってホールに押し込んでいる。「綺麗にしなきゃな」と言いティシュで腿やホール付近を拭いてやると「先輩のも、綺麗にしなきゃ」と彼女も“始末”をしてくれる。しばらく、膝に乗せて抱いてやると「優しいんですね。実は、あたしの“初めての相手”は弟なんです。何となく“しちゃった”んです」と衝撃の告白をし始める。「それは、双方合意しての話?」と聞くと恥ずかしそうに頷き「でも、1度だけで終わってますから」と言った。「今の話は、聞かなかった事にするよ。これからもずっとな」と言って、しっかりと抱くと彼女は何度も頷いた。「また、してくれます?」か細い声で彼女は問う。「それなら、“誰にも見とがめられない部屋”に行かなきゃ!」と返すと「行きましょうか?」と言う。何とかして服を着ると“ブルドック”のハンドルを握り、反転して都城市内方面へ急ぐ。モーテルは意外と直ぐに見つかった。空き部屋を探し当て、エレベーターに乗っている間、永田ちゃんは僕にピッタリと寄り添っていた。“誰にも見とがめられない部屋”で改めて服を脱がし合う。まず、バスルームで身体を洗ってから、バスタオルを巻いてベッドで向かい合う。「恵美ちゃん、するよ」と言って押し倒すとバスタオルを剥ぎ取った。彼女は美しかったし、綺麗だった。2度目なので、突きは遠慮なく激しく入れてやる。途中で「上に・・・乗りたい」と言うので上下を入れ替えると、猛然と腰を振って来る。乳房を掴むと「あー、いい・・・奥まで・・・いっぱい入ってる・・・。お願い、今度も・・・、中に・・・出して下さい!」と狂ったかのようにせがんだ。望み通りに全てを注いでやると「気持ち・・・良かった・・・。名前・・・初めて呼んでくれたね」と満足そうに言った。

大分、寄り道をしたが、僕等は峠道を目指して再度出発した。意外にも宮崎県内には、コンビニが進出していた。2人で食料と飲み物を大量に仕入れると、“ブルドック”は一路、山道へ乗り入れた。「Y先輩、お手並みを拝見します!」永田ちゃんがキーを放って寄越す。1200ccの小排気量にも関わらず、ターボで武装した“ブルドック”は、苦も無く勾配をグングンと昇って行く。しかも、車体重量が軽いので動きも俊敏であった。ただ、FFなので、アクセルワークには気を使う。「おー、やりますね!流石に峠で鍛えているだけの事はありますね!」永田ちゃんはご機嫌だった。綾川渓谷から軍谷峠山頂までを駆け抜けると頂上で停まった。「海もいいが、やはり山の空気も捨てがたい!」「うん、清々しいですよね!」2人で車外へ降りて手足を伸ばして寛ぐ。「さて、“撮影会”でもやろうか?モデルは勿論、恵美ちゃんだ」カメラを取り出すとファインダーを覗く。「ポーズは?」「自由にしていいよ!」85/F1.4で恵美ちゃんのアップを狙う。まず、絞り解放で表情を切り取る。立ち位置を変えて「ジャンプしてみてよ!」と注文する。シャッター速度を目一杯、高速に振って飛び上がった状態の静止画を撮る。連写も使った。あっと言う間にフィルムを使い切り、交換作業にかかる。「何度見ても、手早くやりますねー。みんな、この作業が一番苦手なのに」「慣れの問題さ。要は確実に巻き付ければいいんだ」「失敗しないコツは何です?」「ゆっくりでもいいから、確実に溝へフィルムを差し込む事さ。僕だって何度もミスってる」「Y先輩でもそんな事あったんですか?」「ああ、現像したら“何も写ってなかった”なんて幾度もあるさ。でも、最近は少し楽になりつつあるよね?」「線まで引き出せば自動で巻いてくれるヤツですよね?あれでも、まだ失敗は多いですよ!」「作っていた人間としては、耳が痛い話だ!でも、策はあるよ!最初に全部巻き取ってしまえばいい。そして、写したコマを巻き戻して行けばいいんだ。巻けなければ音か表示を点滅させて警告をすればいい!だが、一部のコンパクにしか採用されてないけどね」「1眼レフでは無理だと?」「巻き上げレバー式には使えないし、プロは嫌がる傾向が強い。モーターを2個使えば、コストも嵩むしメカ機構も変更しなきゃならない。体積が増えるのもマイナス点だろうな。そして、何より困るのは“共通部品”が使えない事さ。開発コストを抑えるには、“共通部品”を使えばある程度までは圧縮出来るんだ。テストも簡素化できるし、信頼性確保もやりやすい。商品バリエーションを増やすには一番楽だからなー」「カメラの開発って何年もかかるの?」「最低でも4年はかかる。リメイクでも2~3年は必要だ。一番の手間は、性能試験だろうな。低温庫と高温庫に入れては、作動検査と撮影を繰り返す。極地でも、砂漠でも問題なく動かなくては意味が無いからね」「そうか、オーロラやサバンナ、水の中でも写らなかったら・・・」「価値が無いんだ!だから、徹底して極端な環境下でのテストを繰り返す。血と汗の結晶なのさ」「しかも、量産するんですよね?同じ品質のモノを作り続ける。あたし達には想像も付かないけど、最初の企画から通算すると4年って時間は短くありません?」「そうだな、あっと言う間に過ぎるよ。1枚のスケッチから、実際の製品にまでするんだから、大勢でかかっても時間は足りないよ。でも、常に結果を出すのが仕事だ。モノこそ違うが、ディプだってそうじゃないか!製造業は“作って供給してナンボ”の世界。その点は、カメラもサーディップも同じだよ」「先輩はどちらに“やりがい”を感じます?」「カメラには“逃げ道”が残されているが、サーディップに“逃げ道”は無い。失敗すれば速アウトだろう?ギリギリの世界で渡り合うのなら、サーディップの方が魅力はあると思うよ」「先輩、まさか“残る”つもりですか?」「当たり!折角来たんだから、任期満了で“帰る”つもりは更々無いよ!“我はこの地に根を降ろす”そう決めたばかりだがね!」「じゃあ、これからも一緒に居られるの?」「それは、まだ分からないけど、徹底的に抵抗はするよ!」「嬉しい!絶対に残って!あたし達と一緒に、仕事に遊びに全力で行こうよ!」背中から抱き着いて永田ちゃんは喜んだ。「さあ、また撮るよ。被写体としては、非常に興味深いからね」と言って撮影を再開した。女の子の表情はコロコロと変わるので、撮りがいは高い。様々な機能を試した撮影を終えると、今度は一旦下ってから霧島連山を目指す。途中でお腹を満たしながら、車は山道を快調に登って行く。「この地域は地下活動が凄いな。阿蘇に始まり、南は“鬼界カルデラ”まで、火山の巣窟だな」改めて僕は地下活動の凄まじさに驚いた。「“鬼界カルデラ”ってどこです?」「佐多岬の沖合、薩摩硫黄島を北端とする海底火山さ。南九州一帯に縄文遺跡が無いのは、“鬼界カルデラ”の大噴火で生命が絶滅してからだと言われているよ」「良く知ってますね。どうしてそんな話を調べたんです?」「日本の火山史に興味を持った時期があってね。読み漁った結果だよ。小学校2年のころだったかな?」「ウゲ!レベルが違い過ぎます!小学校低学年で良く読んでた本は何です?」「ジャポニカの百科事典だよ」「あー、付いて行けない!“田尾の軍事作戦”を意図も簡単に立案する博識の原点はそれかー!」「そう言えば、田尾は勝てたのかな?」「金曜日の夜、ピンクの粉だらけになって帰ってきて“大勝利!”って騒いでましたから、作戦成功ですよ!今回は何を使ったんです?」「消火器だよ。チカン撃退スプレーより射程が長いし、バズーカ砲としも効果があるからね」「その、発想力の源がどこから出て来るのか?また、謎が解けましたよ!この先の路側帯に停めますよ!」ちょうど、新燃岳が真正面に来る位置だった。左に韓国岳、右に高千穂峰。3峰が綺麗に見える場所だった。28/F2.8にレンズを交換して、景色を切り取った。露出も変えて山容を収める。「もう少し下ると、霧島神宮です。参拝して行きます?」「勿論!」「ちょっと覗かせて!」永田ちゃんはファインダーを覗く。「広く見えますね。レンズ1本でこれだけ変わるとは・・・。スームレンズでしたっけ?1本にまとめられないんですか?」「そうしたいけど、重さが半端なく重くなるよ。レンズの構成や設計も難しくなるし」「28-85でスームにすると何枚のレンズになります?」「どうせなら、24-85にしたいね。12群16枚程度にはなるだろうが・・・」「今、付いてるレンズだと?」「6群7枚。約半分だな」「よく分からないけど、複雑になるのは分ります。一番前が大きくなるんですよね?」「ああ、“前玉”を大きく取らないと、画角が稼げない。ガラスの塊になるから、構えるにも腕力が必要になるね」「プラスチックレンズは使えないですか?」「今の加工精度とコーティング技術を持ってしても、画質の劣化は避けられないね。ズームは“妥協の産物”だから、画質に拘るプロは、ズームを避ける傾向にある。だから、アシスタントは大変だよ。交換レンズの山を持って歩くハメになるから」「今日の先輩の装備は?」「レンズ2本とボディだけ。これで充分に“綺麗な恵美ちゃん”を撮れるさ!」「後で、プリントしたら見せて下さいよ!変な顔は残せません!」永田ちゃんはちょっと睨んでから笑った。彼女の笑顔は太陽の様に明るい。霧島神宮に参拝して、2人で“恋愛成就”と“大願成就”のお守りを買って、交換した。「きっと叶います!」彼女はそう言った。

山道を駆け下り、加治木町へ入ると永田ちゃんは、行き付けのラーメン店に車を停めた。「Y先輩、豚骨に慣れました?」「否応無しだからな!他に無いなら慣れるしかあるまいよ」「ここは、ちょっと変わってますよ!割とマイルドな味なんです!」永田ちゃんは手を繋いで僕を引っ張って行く。注文は、彼女に任せた。「あたし、醤油味のラーメンを食べた事が無いんですよ。スープのベースはどんなのがあります?」「鶏ガラや野菜、煮干しや昆布。カツオなんかもあるな。“しょっぱい”イメージがあるかも知れないが、地方や地域、店に寄っても味は違う。さっぱりと食べられると思うよ!」「あたし、横浜中華街へ行って見たいんです!バイキング形式のお店とかあります?」「“横浜大飯店”なら“オーダーバイキング”でより取り見取りさ。もっとも、その前に“江戸清”の肉まん・フカヒレまんを食べなきゃダメだ。高級店ならコースによっては相応な額が飛んでいくから、“横浜大飯店”に事前予約を入れて置く事をお勧めするよ!」「いいなー、“オーダーバイキング”かー。長野からなら日帰りコースですよね?」「それなりの強行軍にはなるが、不可能ではないな。朝、普通に出て、深夜に帰宅なら何とかなるか?」「ここからだと、羽田から横浜へ移動するだけでも大変なんです。朝の飛行機で発って、お昼でしょう?夕方の飛行機に間に合う様にするとなると、レンタカーを借りないと厄介な事になるんですよ!」「ふむ、確かに羽田からの移動手段に困るよな。長野からなら、車での移動だけで済むから、単純と言えばそうだが、横浜市内の渋滞を考慮しないと、予約に間に合わないケースもありそうだな。だがそれは、朝の出発を繰り上げれば解消されるか?」「いいなー、地理的優位は解消できませんからね。あっ!来ましたよ!」巨大な器が2つ運ばれてきた。たっぷりの野菜に、豚の角煮が入っていた。「黒豚の角煮。柔らかくて美味しいですよ!早速、いただきましょう!」箸を割るとスープを味わってから麺をすする。確かにマイルドだ。角煮も柔らかく味わい深い。「永田ちゃん、食べ歩きとかしてるでしょう?」「ええ、暇な時にフラフラと出かけるんです。ここは、穴場的隠れ家みたいなんで、気に入ってるお店の1つ。鹿児島市内より近いのもお勧めな点です。シメは白くまですよ!」「やはりそう来るか!」愉しい食事はしばし続いた。

国分へ戻ると、永田ちゃんは城山公園へ車を回した。市内が一望できる絶景ポイント。実里ちゃんを抱いた場所でもある。ベンチに座る前、シャッターを切った。季節は梅雨に向かっているが、風は爽やかに吹いている。「大きいですよね。あたし達の戦場は」「ああ、国内最大の工場だからな。24時間、365日、停まる事は無い。ここが僕の新たな居場所。戦うには、格好の場所だと思う」「先輩、本気なんですね!国分に残るのは?」「自らの居場所を見つけられた。やりがいもある。心強い仲間も大勢いる!去るには惜しいだろう?」「あたしは、ずっと居て欲しかったです!先輩がやろうとしている改革の成果を見たい!きっと見られる!そう、思ってました。決心は変わりませんよね?」「“やる”と言ったらやるよ。この先も大変なのは百も承知。知恵と知略の限りを尽くして道を開くさ」永田ちゃんは僕の手を取ると自身の胸に持って行った。「あたしは、貴方に着いて行きます。どこまでも、例え苦しくても。そして、この身体は貴方だけのモノ。誰にも触れさせません。だから、これからも抱いて下さい。愛を下さい!」彼女は抱き着くと顔を埋めて来た。「先陣を切って進むんだ。傷だらけになるぞ!」「あたしが手当てします。骨折したら手足の代わりをします」と言った。「“戦わずして勝つ”これが孫氏の兵法の基本だ。頭の回転が速くて、柔軟に対応ができる人材が必要だ。傍を離れるな!共に未来を切り開こう!」彼女は頷いてくれた。そして「あたし、愛しい人から離れたりしませんから!」と言いキスをして来た。誓いの場所で2人目の愛しい人を抱きしめて、決意を新たにした。寮の裏手の駐車場で別れ際、もう1度キスを交わして別れた。「Y先輩、また今度も!」永田ちゃんはTシャツの裾をヒラヒラさせて誘う。「おう!またな!」と言って男子寮へ降りると、白いハッチバック車が2台鎮座していた。最後のFRカローラだ。「よお、お帰り!」鎌倉が整備をしていた。車内を見るとAT車だった。「これは女子寮に回すのか?」と言うと「ああ、やっと届いた代物さ。“緑のスッポン”にくれてやれば、セダンが戻って来るだろうよ。これで、やっと無意味な争いにケリが付く!」「誰が手を回したんだよ?」「田中さんさ。来週から総務へ異動になるのを契機に、第4次隊の受け入れや第1次隊の帰還に向けての事業の指揮を執る事になったらしいぞ!」田中さんの勤務場所の変更は、既定路線ではあった。第3次隊の着任を受けて、椅子が空いたので早速の異動となったのだろう。しかも、第4次隊の宿舎は、1度民間アパートを借り上げての対応となる。第1次隊が帰還した後に、入寮させる2段階の策を実行しなくてはならない。既に寮は満杯だからだ。「第4次隊への対応、帰還に向けての準備に対応。それに、お盆休みの1時帰宅の手配。どれも一筋縄では行かない業務ばかりだ。田中さんも大変な事に変わりが無いな!」と返すと「そうだ。故に、専従者を置く。来年の2月頃までは釘付けになるって言ってたぜ!どれ、エンジンを始動させて見るか?」鎌倉がキーを捻ると、エンジンは1発でかかった。2台目も同様だった。「相当なオンボロだが、エンジンは元気さ!移動を手伝ってくれ!」僕と鎌倉で2台の車を女子寮の脇へ持って行く。セダンが1台置いてあったので、キーを奪還して男子寮の脇へ持ち帰った。「鍵は田中さんに渡そう。もう1台は夜には奪還出来るだろうよ」と鎌倉は言った。「今朝まで相当にやられたらしいな。誰に送ってもらった?」と聞くと「総務の新谷さんだよ。彼女は、珍しく“下戸”らしいな!」「ほー、それは初耳だな。“薩摩おごじょ”が“下戸”だと?まず、あり得ないな!2人きりになりたくて、“飲まない振り”をしてたと見るべきだな!鎌倉、明日辺りにインターフォンでお呼び出しが来るぞ!」と言うと「お前さん程派手じゃないが、ありえるだけに怖いな。“薩摩おごじょ”は攻めが早いか?」「速攻さ。覚悟しときな!」と言うと「Y、どうすればいい?俺はどう振舞えばいい?」と言うので「地金を“そのまま”出せばいいさ。彼女達は心を見る。誠実な“そのまんま”で付き合ってやれば、後は成り行き次第だろうよ。車は、彼女達が出してくれる。好きなところへ行って来るんだな!」「Yは気楽にそう言うが、本当にいいのか?」「“薩摩おごじょ”は、一度“こうだ!”と決めたら、何があろうと貫き通すんだよ!受け止めてやればそれでいい!」「“貫き通す”か。俺も腹を括れと?」「この地に居る限りはな!」鎌倉は黙して頷いた。「今朝はシーツをかけてくれて助かったよ。だが、お燗の付いた焼酎はキツイなー!」鎌倉が頭を叩く。「あの“洗礼”を受けてこそ、“国分の一員”として認められるんだ。みんな、同じ目に合ってるんだ。“儀式”だと思って忘れる事だ!」「Yは、全ての歓迎会を無事に乗り切ってるのか?」「いや、まだ“おばちゃん達”の総攻撃が控えてる!そろそろ、日取りが決まるだろうから、身構えて待ってるとこさ!」「社員よりパートさんの方がキツそうだな。軒並み“ザル”だったらどうするつもりだ?」「分からん!その時になってから考える。今から恐れていたら、何も出来ないし、憂鬱になるだけだ。とにかく、明日をどう乗り切るか?それを考えよう!」僕は前だけを見ていた。振り返っても何も戻らない。全てを受け止めてから、策を考える。高校時代の参謀長の肩書が復活した様に感じたのは、あながち間違いでは無いだろう。「新谷さん、何か言って来るかな?」鎌倉がソワソワし始める。いい兆候だ。故郷はしばらく忘れて、南国で思いっきりやればいい。仕事も遊びも。“異郷の地だからこそ許される事もある”そう思わなくては、これからの季節は乗り切れないだろう。梅雨が明ければ“炎暑”が待ち構えている。僕等にとっては未知の季節だ。「鎌倉、メシを食いに行くか?」「ああ、腹が減ったぜ!Y、行くか!」僕等は社食を目指して歩き出した。