limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 62

2019年11月11日 10時52分30秒 | 日記
R31スカイラインの心臓は、FJ20・DOHCターボだ。エンジンは苦も無く吹き上がり、夜の国道10号線を駆け抜けて行く。「Y-、“リップスティック・グラフィティ”好きなんでしょう?あたしも、ほぼ“リアルタイム”だったから憧れたわ!最も、あたしは、あんな高校生活を送れなかったけれどね!」恭子が懐かしそうに言う。「その反動が、この車ですか?」「そう、“あたしそのもの”って言っても過言では無いの。“RS”が何の略か知ってる?」「“レーシング・スポーツ”ですよね?」「正解!」「L20系よりは、鼻先が軽いから扱いやすいし、どちらかと言えば、ワインディグロード向きではありますね。無論、高速でも問題はありませんが・・・。流れに乗っている今も、先行車をパスするにも楽だし、運転していて愉しくなければ、ワクワク感がなければ“RS”を冠する意味は無い。同じように、“岩崎恭子”と言う女性を見つめて見るとですね、普段は自ら手綱を引いて“荒馬を乗りこなす様な武者の顔”と“さり気なく構えている姿”を垣間見るんですが、僕に対しては少女の様に“甘えて来る姿”のギャップが面白いと感じますよ。“能ある鷹は爪を隠す”と言うじゃないですか?普段の姿しか知らない人にして見れば、意外に感じるかも知れませんが・・・。一見、何気ないクーペなのに、走らせると荒々しく力強い様に」「褒められてるのか?けなされてるのか?どっちでもいいわ!あたしが“甘える姿”を見せるのは、あなただけよ!心を許せる相手にしか本心は見せたくないの。だから、普段はとても疲れるの。ただ、懐妊出来ればすべて解決よ!早く結果が出るといいんだけど。そこを右に曲がって!お腹が空いたから、食べて行こうよ。まだ、夜は長いんだし」恭子が指定した、終夜営業の食堂に車を入る。中は荒くれのトラック運転手がゴロゴロと居た。「ここは、昔から夜食を食べてる場所。ボリュームは満点よ!」メニューは彼女が決めて注文した。「Y、高校の時、当然ながら“化粧”は禁止のばずだよね?あなたは、容認派?それとも否定派?」「これを高校の時から付けてるんですから、容認派ですよ」僕は首元からネックレスを引っ張り出した。「ふーん、結構柔軟な発想の持ち主なのね。自ら“ネックレス”を付けてるから、とやかく言わない。逆に認めてた?」「ええ、UVケアは大事じゃないですか。その延長線上にファンデやリップがある。そう、考えれば“ダメ”とは言えませんよ」「そうか、そんな事考えてたんだ。じゃあ、化粧品選びに付き合ったりもした?」「行きましたよ。勿論、自分は塗れませんが、色合いを見てやったりとかはしてましたよ」「そうした背景があるから、宮崎ちゃんの緑の髪を見ても、微動だにしない訳ね。大概は“ブッ飛ぶ”んだけど、Yは“ああそうなの”ぐらいにしかリアクションしなかったから、素地が何処で形作られたか?ちょっと疑問だったのよ!そうかー、高校時代にそんな経験があれば、女の子の大軍に囲まれても平然としてられるわね。古文とマンガも主に高校の頃?」「ええ、あの頃は“作戦参謀”として、クラスを支える立場でしたし、戦史からマンガまで、役に立ちそうな文献は片っ端から読み漁ってましたからね」「それだけじゃ無いでしょう?“指揮官”として自ら最前線で戦ったはずよ!そうでなくては、“おばちゃん達”の統率は執れないでしょう?」「お見通しですか。“他力本願”が何より嫌ですから、自分の手でやれる事は、やらないと気が済まないんですよ」「Yらしい物言いだわ。だから、“おばちゃん達”も黙って付いて行くのよ。あたし達もね!」夜食にしてはガッツリと、ご飯が盛られている定食が届けられた。早速、2人して箸を割った。「こうして、男達と夜遅くに空いたお腹を満たしたものよ。勿論、移動はバイクだったけどね。今は、Yが運転してくれるから、安心していられるけれど、昔は転倒と隣り合わせだったから、ヒヤヒヤさせられっぱなし!ここの椅子に座って“ああ、ケガしなくて良かった”ってしみじみと思ってたものよ。そして、会社に入って千春に出会わなければ、恐らく、今のあたしは居なかったと思う。こうして、Yとご飯食べてる事も無かったでしょうね。幾つもの偶然と必然が重なって、あたし達は逢瀬を重ねてる。だから、この出会いを大切にしたいのよ!Y、これからも付き合ってね!あたしは、必ず懐妊するから!あなたを失う事が、何より怖いし寂しいのよ!」恭子は真顔で言った。その気迫に僕は押されっぱなしになった。“正室”の気概を垣間見た気がした。お腹を満たして、その後も語り合い寮に戻ったのは、午後11時を過ぎた頃になっていた。

「よお、遅かったな!」部屋では鎌倉が図面と格闘していた。「“正室”からのお呼び出しだからな。ご機嫌を損ねると職務上も問題になるから、手は抜けないよ」「“大奥制度”まで繰り出しての引き止め工作か?お前さんのところの女性陣も必死だな。俺も、明日は新谷さんからのお呼び出しだよ。Y、“薩摩おごじょ”は“貫き通す”と言ったよな?俺もYも“懐妊狙い”で仕掛けられてるって事か?」「今更、聞くなよ!目的は同じだろう?一番手っ取り早い手口だよ!」「お前、“避妊”してないのか?」「野暮を言うな!“してたら”穏やかに帰してくれると思うか?彼女達に恥をかかせる訳にも行くまいよ!」「そっそうだな・・・。実は俺も“して無い”んだよ。“それはダメです”って新谷さんに止められてな・・・。そのまま行っちまったんだ。Yも“してない”なら安心だ」「どういう意味だ?」「“ご懐妊”の折には揃って残れる。俺だけ残るとなると気が引けるからな」「鎌倉、ビクビクしてたらどやされるぞ!“薩摩おごじょ”のメンツを潰してどうする?当たろうが当たるまいが、真正面から受けて立て!結果は仕方ないと思って諦めろ!飛び切りの美人だけに、競争率は半端ないはず。逃がしたら後悔するぞ!」「それはそうだが、お前はどうやって切り換えたんだよ?究極の2択だぞ!」「ビビッてたら、相手に見抜かれるだけだ。男子たる者、思い切る時は、迷いは消えるもんだよ。純粋に彼女との逢瀬を過ごしたいなら、余計な事は捨てちまえ!そう、思わなくては“大奥制度”に対抗できると思うか?」「Yは、否応無しなんだろうが、こっちはまだ1人だ。その点・・・」「鎌倉、“まだ1人”と言ったが、他にもお誘いが来てるんじゃないだろうな?」僕の背筋に冷たいモノが伝う。「新谷さんにチクるなよ。もう1人、岩元さんからも“日曜日、あけて置いて”って言われてるんだ。2日連続なんだよ。Y、これって明らかに“策謀”だよな?」「あー、お恥ずかしいったらありゃあしない!鎌倉も落ちたか!後は、真っ逆さまさ!」「Y、どうすればいい?」「行って来い!逃れることは不可能だ!」「岩元さんからも迫られたらどうする?」「流れに任せるんだな。恥をかかせられるか?向こうだって必死だぞ!」「ならば、行くしか無いか。2人とも同じ職場ってのが問題だが・・・」「ウチよりはいいだろう?“大奥制度”にハメられるよりは楽だ!」「確かに。鍔迫り合いにならなければいいが・・・」「案外、ウチと同じことを狙ってるかもな。鎌倉も食えないねー!」「茶化すな!」「僕は、土曜日も日曜日も“出勤”続きなんだ。本来の業務ではないが、通常業務を円滑に進めるには、欠かせない事だ。仕掛けられたなら、乗ってやれよ!それで彼女達のメンツが保てるんだからさ!」「うーむ、やむを得ないか。Y、困ったら相談するから、聞いてくれよ。危ない橋は渡り慣れてるだろう?」確かに“綱渡り”の連続ではあった。「聞くだけならな。この先は当人次第だからな」僕と鎌倉は肩を竦めるしか無かった。明日は、互いに忙しくなるだろう。

土曜日、今日は、実里ちゃんの予約日だ。支度を済ませると、薩摩・大隅半島の地図を広げた。「よお、何処へ行くんだい?」鎌倉も支度を終えて覗きに来る。「お相手次第さ。今日は、軽自動車だからな。山道は避けなきゃならない。行くとしたら、知覧方向かな?」「運転は?」「基本、代わるぜ!車を出してもらうんだから、助手席に居るのは失礼だろう?」「地図だけで行けるのか?」「最悪、彼女達がナビゲートしてくれるから、行けない事は無いぞ!鎌倉、どうした?」「Y、俺、慣れない土地だと、方向感覚を失うらしいんだよ!地図だけでは、不安なんだよ!」「おい!まさか、“方向音痴”だと言うんじゃないだろうな?」「そうなんだよ。国分市内なら、どうにか迷わずに走れるが、薩摩・大隅半島となると、話が違う!Y、どうすればいい?」赤坂並みの“方向音痴”では無いが、鎌倉も同様に“迷える子羊”らしい。出発直前になっての問題発覚は致命的だった。「新谷さんはどっち方面へ行くとか言ってないか?」「全く分からないよ。ただ、日南海岸がどうとか言ってたが・・・」「それなら、まずは、高速で宮崎方面へ出るだろう。そんなに複雑怪奇なルートじゃ無いから、標識の通りに行けばいい。一般道は、新谷さんにナビゲートしてもらえ!1度走れば、元々が迷う要素は少ない土地だから慣れれば問題ないはずだ。鎌倉、度胸1発決めて来い!」胸倉を叩いてやると、少しはシャンとなった。「そろそろ、時間になる。そっちは何処で待ち合わせだ?」「8時半に寮の前だよ」「一緒かよ。それじゃあ、行こうか!」僕等は腰を上げた。寮の前に車が2台、待機していた。白いローレルが新谷さん。クリーム色のトッポが実里ちゃんの愛車だ。「がんばれよ!」「おう!」と言葉を交わして僕等は、それぞれの車に乗り込んだ。「Y先輩、おはようございます!後ろの車、総務の新谷さんですよね?お仲間が乗られましたが、どこに行くんだろう?」レースをあしらった、ワンピース姿の実里ちゃんが小首を傾げる。「日南方面らしいよ。前途多難だろうが、走り切ってもらわないと、男が廃るよ」ローレルが先に出発するのを見届けてから、実里ちゃんは車をスタートさせた。「慣れない土地ですからね。Y先輩は、地図さえあれば何処でも走れますよね?図形認識力が高いんでしょうね!」と彼女は笑う。「さて、どこへ向かう?」「実は、最近車の調子がイマイチなんです。元気が無いと言うか、加速が悪いんですよ。見てもらえません?」「それはいいけど、最近、点検に出してる?」「来月なんですよ。どこが悪いのかな?」彼女は首を傾げた。「城山公園へ突っ込んでくれる?まずは、一通り見て見なきゃ!」「はい、ついでに“しちゃいますか?”時間あるし」実里ちゃんは既に乗り気だった。「それは、結果次第だ。相変わらずの“底無し”めが!」と言うと彼女はペロリと舌を出した。「もう、用意は整ってるんですよ。ノーパン・ノーブラですから。先輩が脱がせてくれれれば、OKなんです!」と事も無げに言う彼女は、城山公園へ一気に車を駆け上らせた。「ふむ、確かに力が無いな。この車、ターボ付いてるよね?」「ええ、それにしてもこの非力さは何ですか?」「とにかく、ボンネットを開けなくては分からないよ。最も、その前にする事があるらしいね?」「はい、抱っこちゃんです!」「しょうがないなー!」と言ったものの、一戦を交えなくては治まらないのだろう。後部席に移動すると、彼女を膝に乗せてから、唇を重ねつつ脚を開かせていく。「着替えは用意してあります。あたしを好きにして!」と彼女は舌を絡ませて来ながら言った。ホールに指を入れてかき回すと、雫が腕を伝った。「本物が欲しいの。お願い」実里ちゃんは、息子を引き出すとゆっくりと、馬乗りになって来た。なすがままに初戦は進んだ。

実理ちゃんのワンピースを開けた後は、愛車のボンネットを開ける番だ。運転席側のピラーのラベル表示から、タイヤの空気圧を読み取りつつ、ボンネットレバーを引く。「さて、どこから調べるかな?工具とかは持って無いよね?」「ありますよ!お父さんが心配症なので、一通りは積んであります!」バックドアを開けると、コンテナに工具1式が詰め込まれていた。「エアーポンプにエアーゲージ、ドライバーにペンチ、スパナまであるのか。車載工具も含めて、これだけ揃っているのは久々に見るよ。これでは原因不明とは言えないな!」僕も驚く工具の数々。何かしらの結果が、求められる状況だった。「まずは、タイヤの空気圧が疑わしいな。自然に抜けて行くから、気づき難い点ではあるね。どれ、測ってみるか!」測定結果は、4輪共に不足と出た。特に前輪の右側の減り方が、大きかった。ポンプ踏んで空気圧を若干高めに調整した。「入れ過ぎてませんか?」実理ちゃんが心配そうに見ていた。「いや、ラベルに書かれている基準値はあくまでも、基準値でしかない。実際の限界値はもっと高いはずだよ。設計・テスト段階では、相当過酷な試験をやってるはず。余裕を持たせるために、かなり安全な数値を指定してるだけだよ。エンジニアと言う人間は、ギリギリの数字は書かないし、言わないものさ。少し高めを狙った訳は、転がり抵抗を減らすため。タカが空気圧だけど、抵抗が大きいなら燃費や走行に影響は出るものさ。次は、エンジンを始動してくれる?」僕は、音を聞いて見た。3気筒なので振動や雑音はやや多いが、アイドリング回転に僅かな不調を感じた。「どうです?」「水がタンクに溜まってるのと、インジェクションの噴射不調かもね。インジェクションクリーナーと水抜き剤を入れてやれば、改善するかも知れないよ!丁度、ガソリンも半分だし、添加剤を入れて満タンにすれば、効果は出るだろう。そろそろ、カー用品を手に入れられる時間だし、気ままに走りに行こうか?」「はい、行きましょうよ!」工具を戻してから車を走らせると、明らかに出足が軽くなったのを感じた。「全然違う!重かった足取りが嘘みたい!」「タカが空気圧。されど空気圧さ。次はエンジンの掃除をすれば、もっと軽快になるだろう」僕等は、市内のホームセンターで添加剤を仕入れてから、海沿いのスタンドで添加剤を投入してガソリンを満タンにした。運転を交代して、加治木ICから九州自動車道へ乗り入れる。3速ATなのでエンジン音は高めだったが、しばらく走ると少しエンジン音が静まった。「インジェクターに詰まっていたカスが飛んだな。加速も良くなって来たよ!」「本当だ!普段は手も入れてないから、車もスネちゃってたんですね!」「そうらしいね。ちゃんと見てあげれば、答えてくれるものさ。さて、どこで高速を降りるかな?」僕は迷いだした。「まだ、次戦が残ってますよ!まずは、あたしを満足させて下さいよ!」実里ちゃんが膨れる。「姫のご要望とあれば、鹿児島市内へ行きますか?」丁度見えて来た出口へ向かうと一般道に降りた。モーテルは直ぐに見つかり、空き部屋もあった。“誰にも見とがめられない部屋”に入ると、実里ちゃんはワンピースを脱ぎ捨てて、淡いブルーのパンティ1枚になった。「あたし綺麗ですか?」女子高生と言っても通りそうな幼い顔、線は細く胸も小さいが、肌は透き通る様に白い。彼女との逢瀬は、車内がほとんどだったが今は2人だけの空間に居る。彼女を思いっきり抱いて、身体を動かすのに理由は要らなかった。

「Y先輩、カメラの電子回路ってどうやって配線してるんです?」シャワーを使いながら実里ちゃんが聞いた。「専用のフレキシブル基板を使うよ。厚さはミリ単位だけど、中に金線が通ってて、要所にICやトランジスタを実装してるんだ。カメラ内部の数ミリの隙間に、それこそ網の目を縫うように格納するから、初めて見たら驚くと思うよ」「じゃあ、ディプみたいな厚みのあるICは使わない?」「ああ、機種専用のカスタムICを使うからね。厚みにすれば5ミリ以下だよ」「何故、そんな薄さを必要とするんです?」「フィルムの格納する容器、“パトローネ”って言うんだけど、この大きさは国際規格で決められてるから、その部分で大半の容積を喰っちまう。撮影が済んだフィルムは、巻き取らなきゃならないから、そこも容積は必要になる。後は、電池室も結構な容積を取られるし、どうしても必要な機械部分も足すと8割はボディの容積を占領されるんだ。残った2割の容積の中で、必要な配線を取り回すから、どうしても薄くせざるを得ないんだ。さっきも言ったけど、紙の様にペラペラな配線シートにしなきゃ、必要な回路を取り回すのは無理なんだ」「じゃあ、もし、カバーが潰れたら?」「場所にもよるが、“致命傷”ってケースも多々あるね。一番怖いのは、落下と水没さ。衝撃で機械部分がやられたり、水が入り込めばショートしておじゃんになる。池にドボンと行ったら、速攻でアウトさ!」「防水仕様に出来ないんですか?」「不可能じゃないけど、極めて使いにくいし、レンズも交換は不可能にしないと無理だろうな。蓋物、フィルムを入れる時に開ける裏蓋や電池室のカバーの事だけど、そこをどうやってガードするか?課題は結構多いよ。時計みたいに“日常生活防水”ぐらいには出来るだろうが、交換レンズはどうしようも無いからな。コンパクトなら、可能性はまだ高いけどね」「企画開発段階で、誰か思いつかないんですか?」「あるよ。でも、具体的な商品として世に出すまでには、幾つもの関門が待ち構えているからね。構想はあっても、途中で断念した企画は多々ありますよ。光学では“開発機種コード”って言う3桁の数字で管理してるんだけど、今日持って来たカメラは“157”って呼ばれてるけれど、元々は“137”がベースなんだ。間に20の数字が埋もれてるけど、大半は途中で断念したか、構想倒れで終わった番号なんだ。形を変えて蘇ったケースもあるけどね」「それはどんなケース?」「カメラ本体としては、日の目を見れなかったとしても、メカ部分、巻き上げや巻き戻し、モーターのコントロール、光を測定する測光方式なんかで、ユニット単位として別の機種に流用されたモノは結構あるよ。“あの方式を使えないか?”って考えると開発費用も時間も浮くから、無駄にはしてないよ」「何だか、凄く楽しそう!あたしもやって見たい気がする!」「そうかい?カバーの篏合が0.1ミリ、ズレて“これじゃあ商品にならん!”って突き返されても?」「えー!そんなに厳しいの!」「ああ、外観は大切だから、妥協する、させるのに一番苦労する関門さ!“色合いが合わない”なんてザラに言われるよ!」「うーん、意外にシビアなんですね」「実里ちゃんみたいに、色白で可愛ければ、何も問題は起きないんだが、量産は出来そうもないからね。唯一無二の存在だし」「そう思っててくれたの!嬉しい!もう1回しようよ!“唯一無二の子供”を授かるためにも!」「相変わらずの“底無し”だね。しないと収まらぬか?」「うん!」臆面も無く、彼女は頷いた。ベッドへ雪崩れ込むには充分過ぎる理由だった。

鹿児島市内で昼食を済ませると、僕等はフェリーで桜島へ渡った。活発に活動している南岳からは、噴煙がたなびいている。“トッポ”のエンジンは、すっかり快調になり加速もスムーズになっていた。「この地下には、どれだけのマグマが沸いてるんだろう?絶えず活動し続ける山は、こっちに結構あるよね?」「はい、阿蘇を始め、霧島連山に桜島、薩摩硫黄岳まで連なってますよ。薩摩硫黄岳は、海底に本体がありますから、全体は見えませんけど」「草津白根山や焼岳、御嶽山や浅間山がおとなしく見えるのは、あながち間違いではなさそうだ。これだけのカルデラ火山が密集してる地域は、他に例が無いからな!」僕は桜島の至るところに設置されているシェルターの数に驚いた。つまり、それだけ“デンジャラス”なのだ。垂水からは、南下して佐多岬を目指す。本州最南端の地である。「そろそろ交代しようか?」「その前にスタンドに寄ります。早めにガソリンを入れないと、この先は保証がありませんから」実里ちゃんは、そう言ってスタンドまで頑張った。満タンにして運転を交代すると「先輩が、最も笑えたマンガは何です?」と実里ちゃんが言い出した。「“はいからさんが通る”だ!ラブコメとしては王道だろう?」「そう来ますか。どこで読んでました?」「教室内の至るところに転がってたんだ。休み時間の暇つぶしとしては、必然性があったのさ」「じゃあ、真逆のモノは?」「“砂の城”でしょ。重たいけど、何故か引き込まれる魔力はあったな」「男性作家では?」「“みゆき”だろうな。大抵の野郎が読んでたし」「孫氏の兵法も古典も読破しつつ、色んなジャンルを総なめにしてますね。その心は?」「広く浅く見分を広める。多角的に見る事で、様々な問題に対する作戦を立案する。運動能力が無い分、“作戦勝ち”に持って行くのが僕の使命だったからね」「それだけじゃ無いですね?男女の諍いや、クラスの問題解決にも活躍されたと聞いてますよ!」「誰に聞いた?」「岩崎先輩からです」「彼女、答えたのか。僕の高校生活の大半は、絶えず問題に立ち向かった日々だった。平穏な日々を数えた方が早いくらいだ。1人の女生徒に絶えずかき回されたからな!」対菊地戦争は、熾烈を極めた事を昨日の事の様に思い出す。「策を巡らせるだけで無く、自らも先頭に立って戦われた。先輩の姿を見てれば分かります。人任せにしないで必ずご自身の手でやられる。あたしが初めてサンプルをもらいに行った時に、“この人は、他力本願が嫌いなんだ”って感じましたもの。実際、先輩はそうですものね!」「ああ、その通りだよ。“自ら先頭に立たずして、部下が付いて来るはず無し”は、僕が一番良く知り得ている教訓さ。口だけなら誰でも出せるが、実践しなくては“おばちゃん達”をコントロールするのは不可能だよ。“僕もやりますから、頑張って下さい”って言えなくてどうする?特に“おばちゃん達”の場合は、意識的にその方向へ持って行くためには、自分もやらなきゃダメなんだ。やっと、成果も上がって来たのは、意識が変わりつつある証拠でもあるけど、まだ足りないよな!次の1手は、慎重に読まないと打てないよ!」「その姿勢があるからこそ、みんな付いて行くんですよ!あたしも細山田先輩も。勿論、検査工程の女性陣も。先日、神崎先輩が品証に訴えに来まして“GEのトレーの強度が弱すぎる。返しも、検査工程でも苦労が絶えない”って責任者に言ったら、どう返したと思います?」「さあ?どう答えたんだい?」「“そう言って来るのを待っていた!返しからも声が上がったとなれば、営業に苦言を呈する理由が立つ!岡元なら黙っているだろうが、アイツは違うだろう?神崎と同じ事を言うのなら間違いはあるまい!今度の事業部会議で問題として挙げてやる!”って断言したんですよ!」「ほう、品証も認めたのかい?」「ええ、最初から危惧はしてました。ただ、あたし達だけだと説得力は半減します。現場から声が挙がってこそ、営業も黙らせる“確たる査証”になるんです!“Yは、これまでの常識に囚われない。だから、現場目線で危惧を抱いて来れるし、不良の発見も早い。稀有な能力を持ってるんだろうな!だから、誰もが付いて行くし、信頼も得ている。手放すには惜しいな”とも言ってましたから、“嘆願書に署名して下さい!”ってお願いしたら、喜んで署名してくれましたよ!」「ちょっ、ちょい待ち!“嘆願書に署名して下さい!”って、誰が回してるの?」僕は狼狽え気味に聞いた。「発起人は、神崎先輩を筆頭に岩崎先輩と千春先輩です。そろそろ、事業部内を回り切って“安さん”に届くと思います」「恐ろしい事をやってるな。月曜日に“安さん”から“異存はないな!”と念を押されたばかりだが、裏ではそれ以上の事が進んでるのか。手抜かり無しだな・・・」「はい、抜かりありませんよ!Y先輩も“残留に合意”してますよね?」「そのつもりだよ。むざむざ帰ると思うか?」「先輩の性格からして、途中で“投げ出す”様な真似はしませんよね。きっと、最後まで見届けるはずです。だから、あたし達も行動してるんです!そして、子宝に恵まれれば尚更になりますから、いっぱい子種を頂戴するべく励むんです!」ペロリと出した舌が、妙に生々しい。実里ちゃんは、まだ満足していないのかも知れなかった。「あっ、見えて来ましたよ。そこから左です」目的地の佐多岬に着いたのだ。最南端の地。この先は果て無い海が続く。

「微かに見える島影は、種子島ですよ」「そうか、宇宙への玄関口だな」海風に吹かれて実里ちゃんのワンピースがたなびく。可愛らしい姿だ。「先輩は、宇宙に興味あります?」「最後のフロンティアだからな。いずれ、人類は月や火星に住む事になるだろうよ。ただ、問題が1つあるけど」「なんですか?」「現在の理論では“ワープ”出来ない事だよ。“ヤマト方式”でも、“スタートレック方式”でも、理論上不可能とされている。遠くの恒星系へ旅するのが夢なんだけどね」「あのー、“スタートレック方式”ってどんな?」「物質・反物質反動推進リアクターシステムさ。巨大なフィールドを形成して亜空間飛行をするんだよ。最高速度はワープ9.5。光の9.5倍の速度が出るが、反物質すら見つかっていないから、夢のまた夢なんだけどね」「いいじゃないですか!2人して火星人になりません?」実里ちゃんは笑って返して来た。「遠くに行くのは、神様が“まだ早い”と言ってると思えばいいんです。火星だって随分遠くですよ。火星の夜空に浮かぶ星々を2人で眺めるのも悪くありませんよ」とキッパリと言う。「そうだな、夜空を見上げれば輝く星々が迎えてくれる。きっと、宇宙に行ける日は来るだろう。その時のパートナーは・・・」「あたし!立候補します!」いつもは大人しい実里ちゃんが、積極的に手を挙げた。「どうやら、決まりだな」僕も笑って返した。「この先に隠れやすい場所があるんですが、行きません?」「また、病が出たな!この“底無し”が!」彼女を捕捉すると、車へ向かった。実里ちゃんが言う様に、外から車内を伺うには、困難な場所が目に入った。「もう1度、抱っこちゃん!」彼女は、既に息子に手を伸ばしている。車を停めると、もどかしそうに「ねえ、早くしようよー!」と実里ちゃんが甘えて来る。慌てて後部席に移ると、膝に乗って脚を広げ、キスの雨を降らせながら「もう、濡れてるの。早く外して」と耳元で囁く。「着替えはあるの」と言うと「勿論よ。あたし、車の方が燃えるの!」と言う。逢瀬を重ねるのに場所は選ばない主義らしい。最南端の地で僕等は再び1つになった。

夕暮れの迫る錦江湾の東岸を“トッポ”は北を目指して疾走していた。最南端での“抱っこちゃん”は、意外にも長期戦となり、実里ちゃんの着替え時間も含めて、予定より大幅に遅れての大返しになったからだ。「やっと、病が治まったかい?」「ええ、これで、来週も頑張れます!後は“ご懐妊”に持ち込むだけですから!」と平然と言う。大人しそうでも、実は大胆不敵。このギャップこそが、実里ちゃんの最大の魅力だろう。“ペラペラな男に捨てられた過去があるから、実里には人一倍気を使ってあげて!”恭子の言葉が頭をよぎった。彼女は、そんな素振りすら見せないが、まだ傷は癒えてはいないだろう。カセットからは、“経る時”が流れている。まもなく“REINCARNATION”が再び流れるはずだ。「Y先輩、“海のオーロラ”は読まれましたか?」「ああ、全巻読破してるけど、どうしたの?」実理ちゃんは真剣に問うて来た。「輪廻転生は信じてます?」「ありえると思うよ。時空を越えて巡り会う事はあるんじゃないかな?僕等も、知らずに再び出会ったのかも知れないね」「岩崎先輩から聞いたんですが、小学校で別れて高校時代に再会した同級生がいるそうですね。偶然にしては“出来過ぎてる”と思いませんでしたか?」「恥ずかしい話だが、最初は全然分からなかったんだよ。でも、ある日、道子が古い写真を持って来て、“昔、一緒に遊んだよね!”って言ってくれて、記憶が弾けた。それからだね。輪廻転生について考えて、“海のオーロラ”を読んで、運命の人とは時を越えて出合いを繰り返すかも知れないって、思う様になったのは」「今、流れてるアルバム。“REINCARNATION”ですよね?先輩、無意識レベルで信じてませんか?」「それは、否定出来ないよ。お気に入りのアルバムだし」「真面目に聞いて下さい。あたし、あなたの愛娘だったかも知れないんです!昨夜、夢の中でハッキリと見えたんです。甘えん坊で、いつもあなたを追いかけて回って、誰よりも可愛がってもらってました。末っ子だから余計に。でも、ある日、大きな地震と共に山が噴火して、大地は裂けて火砕流が家を襲った。業火の中、あなたは柱を支えて、あたし達家族を逃して家と共に崩れ落ちました。あたし達は、母に連れられて逃げましたけど、津波に呑まれて海に沈んだ。意識を喪失する寸前に、あたしは、あなたの声を聞きました。“生まれ変わって、また巡り会おう”と。目が覚めたら、思わず泣いちゃいました」「約7300万年前、鬼界カルデラの大噴火で、東北地方まで火山灰が降り積もり、薩摩、大隅半島の南部には、火砕流が直撃した事が地質学で証明されてる。その際、ここの縄文文明に多大な影響が出た事も。ひょっとして、実理ちゃんが言ったのは、その時代の実際の出来事なのかも知れないな。そうすると、僕は、7300万年ぶりに故郷へ戻ったのか?そして、愛娘と再会を果たした。今度は、子供では無くて、恋人となって!」「そうだとしたら、どう思います?」「大きくなって、美人さんになって・・・、父親としては、感無量。でも、“前世”の記憶が無いと言うか、曖昧な自分としては、実里ちゃんと逢瀬を重ねられている事に、素直に喜びを感じるよ!君は、唯一無二の存在。輝ける女性だからね!」「驚かないんですね!やっぱり信じてるんだ!あたし、入社したばかりの頃には総務に居たんです。でも・・・、」「言わなくてもいい。岩崎さんから聞いてるよ。深い心の傷をほじくり返して、また辛い思いをさせられるか!」「優しいんですね。あたし、いつもサンプルをいただきに行くじゃないですか?最初は、不思議だったんですが、今なら分かるんです。あなたは、“何一つ疎かにせず、責任を持って対峙してくれる”って。“信じていいんだ”って。だから・・・」「もう1度“信じて見よう”って、決意した。勇気がいる事だよね」「はい、だから、岩崎先輩が膝の上に乗っていた時、物凄く嫉妬しました!“負けるもんか!”って感情が久々に湧き上がって、だから今日は、いっぱい抱いてもらったんです。欲張りですよね?」「いや、そうでも無いよ。僕等はこう言う定めだとしたら、必然性はあるんじゃないか?“欲張り”では無く“常に求めあってる”と考えれば、不自然じゃないよ」「そうですか?いいんですか?」「構わないさ。だって“この次、死んでも、いつしかあなたを見つける”って言ってるだろう?」“REINCARNATION”は、佳境を迎えていた。「あたし、何処へ行っても、あなたを見つけてみせますから!」実里ちゃんは力強く言った。「僕は、全力で駆け抜けるつもりだ。何に対しても。遅れずに付いておいでよ!」彼女は、左手に右手を重ねて「遅れを取るつもり、ありませんから!」と言って微笑んだ。

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