limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 61

2019年11月06日 15時32分42秒 | 日記
月曜日、遂に小雨が降り出した。「いよいよ、梅雨入りか。早いな」「こっちでは、今日見たいに“お上品な”雨は滅多に降らねぇ!降る時は、一気にまとめてザーザーと降る!こんなの降ってるウチに入らねぇよ!」田尾は傘を差さずに悠然と歩いている。「ピンクの粉だらけで凱旋したんだってな!万事予定通りだろう?」「おう!消火器って迫力が凄いぜ!全員が粉だらけにはなったが、主にピンクに染まったのは、鹿児島日電のヤツらさ!デカイヤツが10本だったから、息も絶え絶えにしてやったぜ!これで、またしばらくは静かになるさ!」田尾は誇らしげに言った。「問題は、次の一手だな。どっちにしても、数を頼みにしても勝てないと分かった以上、1対1で仕掛けるか?地の利を生かした策を取るしかあるまい。最も、策が浮かべばの話だが・・・」「結果論になるが、誰も怪我をしない。させない様にしてるのは、何故だ?」「遺恨を残さずに懲らしめる!=戦わずして勝つ!だよ。酷い目には合ってるが、血は流さない様に留める。警察に介入されたら、アウトだろう?田尾だってタダじゃあ済まない!1歩手前で引いとけば、向こうだって表沙汰にはしないし、お前さんも“五体満足”で居られる。田尾 智としての面目は建てるが、抗争にはしない。お互いのためを考えて、策を巡らせるのが僕の役目だろう?」「ヤツらが聞いたら、驚くぜ!そこまで“読んでるのか!”ってな。Y,最近は、見境無しに喧嘩に明け暮れるよりは、お前の策を実行する方が愉しくなって来やがった!これからも、宜しくな!」「背中に気を付けろよ!そろそろ襲われるぜ!」と言った途端に「何で見抜いてるのよ!背中に目があるの?」「田尾!ちょっと待ちなさい!」と声がかかり、襲撃を喰らう。千絵と岩崎さんだ。永田ちゃんと実理ちゃん、千春先輩もいる。「アンタ、またやらかしたわね?いい加減、喧嘩は止めなさい!いい歳してそこら辺のガキと変わらない事してるんじゃないの!」と千春先輩に頬を抓られる。「うわ!いてぇー!手加減無しかよ!」「アンタには丁度いいクスリよ!張り手もお見舞いしてあげようか?」岩崎さんが手を構える。「朝から、焼き入れかよ!今日は厄日だ!」田尾は逃げ回り、岩崎さんと千春先輩が追う展開に、僕等は笑うしか無い。千絵が僕の傘に潜り込むと、永田ちゃんと実理ちゃんも前後に傘を重ねた。バリケードの完成だ。「包囲されるとは、予想外だな。何を企んでるの?」「いいから、そのまま歩いて!」千絵がたしなめる。理由は直ぐに分かった。滝沢が小雨の中を小走りに追い抜いて行った。「邪な女!手出しさせてたまるもんですか!」千絵が敵意剥き出しで言う。「アイツは、何かしらの理由を付けては、付き纏って来る悪魔だ。“圏外”だって事を分かって無いからな」「だったら、余計に近付けるのは危険ですね。レイヤーの知り合いに言って置きますよ!“職務に口を出すな!”って!」実理ちゃんがハッキリと断言した。「みんなと行動する休みの日も“職務扱い”なのかい?」「当然!立派な“職務”です!」永田ちゃんがキッパリと言い切った。「無敵の要塞だな!徹底的に叩くつもりかい?」「勿論!」3人が合唱した。田尾は「Y,助けてくれ!仕事どころじゃねよ!」と2人から、ほうぼうの体で逃れて来た。岩崎、千春先輩の両名が目の前に立ちはだかる。「ヤバっ!もう時間がありませんよ!」僕は時計を見て焦った。「いけない!遊んでる場合じゃないわ!」「田尾!後でタップリッショと続きをお見舞いしてあげるわ!さあ、急いで!」千春先輩の声を合図に、全員が走った。

朝礼での“安さん”の機嫌は、相変わらずの斜めと言うか結構な斜めだった。“安さん”の機嫌が穏やかだとしたら、むしろ危険な兆候として受け止められるだろう。「今週から、新品種が流れ出す!各部署で速やかに作業を進めろ!遅延は許されんぞ!」RCA,TI,F社に加えて、GEが流れ出すのだ。数量は、立ち上がりと言う事もあり少ないが、セラミックの材質が違い、色合いもやや白い。治具の製作は完了しているが、初めてのロットなので、どうやってトレーへ納めるか?やって見ないと分からない事も多々あった。初ロットが出て来るのは、水曜日になるだろう。その他ではF社向けの増産があり、今月末はかなりの苦戦を強いられるだろうと推察した。長い朝礼が終わると「Y!ちょっと待て!」と“安さん”に呼び止められる。廊下の角で人影が消えるのを待ってから「最終確認を取るぞ!貴様、鹿児島に残る事に異存はあるまいな?」「はい!そのつもりで居ります!」とハッキリ口にすると「いい度胸をしおって!後悔しても知らんぞ!最も、O工場が1番後悔するだろうがな!中旬頃に事業部部会がある。本部長に全員の残留を要請するが、どうなっても構わんな?!俺の見るところ、この先も貴様には、まだまだ使い道がある!先手必勝だ!転属を“本人としても希望している”と断言しても構わんな?!」「望むところです!」「よーし、これで決まりだ!首に幾重にも鎖を付けてやる!他のヤツは全員が帰ると言ったが、貴様だけだ!酔狂に付き合うと言ったのは!まだ、確約は出来んが、俺は貴様を鼻から帰すつもりは更々無い!何故なら、まだ俺が雷を落とせて無いからだ!首を洗って待っていろ!必ず、俺の雷を落としてくれるわ!」と言ってニヤリと笑った。「今月末は、かなりヤバイ事になるだろう。それを回避出来るか?否か?貴様の手腕に期待する!まずは、GE向けを成功させるのに、力を貸せ!実績を積めば異動の道も、より確かなモノになるだろう!貴様の底力を見せて見ろ!」と言って肩を叩いて“安さん”は去って行った。「早くも手を回すつもりか。最も、そうでなくては困るからな。“改革”は始まったばかり。途中で下車なんてゴメンだからな!」“安さん”も多分、同じ事を考えているだろう。異例の速さでの意思確認だが、これが意外に効いて来るのは、任期末の11月を目前にした時期になってからだった。本部長会談で、国分側と言うか、半導体事業本部と光学機器事業本部の綱引きで、半導体事業本部が異例の勝ちを納める一因となる理由が“僕の意思”だったからだ。“安さん”の早期からの根回しもあり、僕は、派遣隊の中で、唯一国分サーディップに留まる事になる。

その日の昼休み。“お姉様方”が検査に追われて昼食をズラした事で、僕は、危うく厄介な事に巻き込まれそうになった。休憩スペースで、コーヒーを飲みながら“今週の回し”を思案している最中だった。「Y,ちょっと顔を貸してよ!」と有賀が詰め寄って来た。遠くに滝沢が控えている。付き纏いをまだ諦めていない様だ。「悪いけど、仕事の段取りを組んでるんだ!遠慮してくれないか?」「手間は取らせないわ!今週末の土曜日、空けて置いてくれれば、それでいいから!休出になっても夜は空いてるわよね?!」有賀は、相変わらず好き勝手を振り回す。「確約は無理だよ。何時に帰れるか?保証できないんでね!」「そこを何とか都合を付けてよ!美佐江(滝沢)の相談に乗って頂戴!」「よその事業部の事には、口出しは出来んぞ!そのくらいは分かるだろう?ともかく、手一杯なの!下手をすれば、日曜日も出なきゃ間に合わなくなる!」と突っぱねるが「夜でいいから、時間を取ってよ!“足”は用意するから!」とあくまでも粘り続ける。これは、滝沢が有賀に泣き付いて仕掛けた事は明らかだった。1歩間違えば、蟻地獄が待っているだろう。さて、どうやって振り切ろうか?と思案していると、「Y先輩、土曜日、忘れないで下さいね!品証の飲み会ですよ!」と実理ちゃんが言いに来た。「あっ!いけね!午後3時からだっけ?」「ええ、休出しても、その時間に間に合う様に上がってくださいね!」と念を押される。今、初めて聞いた話だが、そんな事は有賀には分からない。「アチャー、忘れてた!予定を組み換えるしかないな!有賀、そう言う事だ。悪いけど、空きは無い有よ。今週末は、どう足掻いても無理だよ!」「じゃあ、いつなら空けられそう?」「これから、増産体制は強化される一方だよ。恐らく、出歩いてる暇は無いだろう。先に来てる分、既にこっちの体制に組み込まれてるんだ。どうやっても、無理なモノは無理だよ!」と言って押し戻す。「じゃあ、せめてインターフォンを入れてよ。それで我慢するから。512号室よ!お願い!」有賀は、やっと諦めて引き下がった。2人が居なくなるのを確認してから「実理ちゃん、助かったよ!誰の入れ知恵だい?」「岩崎先輩ですよ。“邪な女が付き纏って来るはずだから、Yに加勢してやって!”って言われまして、上手く巻けましたね!ちなみに金曜日の晩は、岩崎先輩が、土曜日はあたしが、日曜日は千絵先輩が予約してますから、ご承知置き下さいね!土曜日は、また愛し合いましょう?」実理ちゃんは平然と言った。「別の意味で、仕事を煽らないと大変だ!」「はい!GEの金、銀ベースを頂きに上がります!細かい話は、その際にしましょう!」「やれ、やれ、今週末も暇も無しか。有賀と滝沢から逃れるためなら、やむを得ない事情だな・・・」盛大なため息が口を突いて出た。

クタクタになって寮へ戻ると、田中さんが待ち構えていた。「疲れとるのは分かるが、週末にお前さんを捕捉するのは、困難だからな!Y,鎌倉が戻り次第、打ち合わせに入るぞ!」「何事です?」訝しげに聞くと「女子寮の車がぶつけられた!運転手は、有賀と滝沢だ。どうやって折り合いを付けるか?思案しなきゃならない!」「事故の状況は?」「発進しようとしたら、バックで突っ込まれたらしい。免責事項とすれば、相手のミスでウチは関係無いが、美登里のヤツがまた騒ぎ立ててる。“男子が協力しないから、こう言う事故が起きる”とな!」「無茶を言ってくれますね。ここでは、誰もが“己の時間帯”で働き、休んでます。150名それぞれに割り当てられた“時間帯”は千差万別です。子供じゃああるまいし、我々が協力しない云々は関係ありませんよ。自分達で片付く事はやってもらわないと、それぞれの職務に響くだけで無く、越権行為と取られかねません!自分達の脚は自ら洗ってくれなくては、困ります!第3次隊の女子達は、それが全く分かって無い!」とこぼすと「その通り!今日は、酷い目に合ったぜ!“緑のスッポン”恐るべし!」鎌倉が引き上げて来た。「田中さん、アイツどうにかなりませんか?美登里のヤツ、此処ぞとばかりに過大な要求事項を押し付けて来ましたよ!第4次隊と同じく、“借り上げ社宅制度を適用しろ!”とか、“車を増やせ”とか、休日に誰が空いてるかを把握して、“相互援助活動をしろ!”とか、ともかくメチャクチャもいいところです!」ウンザリした口調からすると、相当に攻撃を受けたらしい。「とても呑めない要求だな。特に休みの日云々を言われても、無理なモノは無理だよ。だが、それも今週までだ!こっちのシステムに組み込まれれば、否応なしになる!」僕は、美登里がレイヤーパッケージ事業部に拾われた経緯を説明した。「そんな裏があったのか!」「岩留康生に安田順次か!国分でも厳しい事で有名な傑物だ!その2人から、直接、美登里についての下問があったとはな。Yは余程見込まれてるらしいな!総務筋でも、“あの安田順次から、雷を食らって無いヤツがいる”と噂になってるぐらいだ!ひょっとしたら、Yは試されてるんじゃないか?もっと上で采配を執れるか?否か?をな!」田中さんが腕組みをする。「じゃあ、もし、眼鏡に叶えば、異動の可能性もあると?」鎌倉も腕組みをする。「ああ、既に水面下では、作戦が動いている可能性は高いな。相手は、安田順次だ。抜かりがあるとは思えん!」田中さんは遠くを見る様に言った。とてもじゃないが、既にその船に乗っているとは言えない。「それで、美登里の方はどうします?まだ、ゴチャゴチャと言っては来るでしょうが、来週になれば否応なしに生産体制に組み込まれます。それまで、洞ヶ峠を決め込みますか?」「そうだな。イチイチ付き合っていたら、身が持たない!車の修理費用は相手持ちだし、代車も出してくれるでしょう?自然にシャットダウンに持ち込むに限ります!」鎌倉は、時間稼ぎをして、黙るのを待とうと言う。「それで行こう!現実を直視させれば、暇も無くなる。それに、あの岩留さんが黙って見ているはずが無い!俺が責任を持つ!女性陣の言い分は右から左へ聞き流そう!」田中さんの決断で事は曖昧に処理されると決した。いつまでも、自由に動けるはずは無いのだ。試用期間が過ぎれば、本番が控えているのだ。美登里も有賀も滝沢も、国分の恐ろしさを心底味わうハメになるのだ。「俺達は、恵まれてるな!俺はA勤、Yは早番、他に担当直が無いのがどれだけ幸せか!改めて実感させられるぜ!」社食へ行く途中で鎌倉が言い出した。「そうだな。だが、お互いに求められてるレベルは高い。気は抜けないよ。回りが何と言おうが、僕等はそれぞれの持ち場、立場で結果を出さなくちゃならない!鎌倉だって、既に結果を出そうとしているんだ。美登里や有賀、滝沢とは、歴然たる差がある。ヤツらは、やっとスタートラインに立ったばかりだ。結果如何に寄っては、強制送還にされた方が身のためって事もある。大体、O工場の様な甘いところじゃ無いし、事業部が違えば、下手な口出しも出来ない。何でアイツらが第3次隊のメンバーに選任されたのか?聞いてみたいよ!」思わずボヤきが口を突いて出た。「売り飛ばすにも、売れないからじゃないか?厄介払いだろう?」「それにしても、酷いな。買ったヤツが泣きを見てもか?」「間違えて手を出す事に期待したんだろう?まあ、余程の物好きでなきゃ、まず手は出さないだろうが、O工場に残しても大した戦力にはならない。賭けに打って出たんだろうが、失敗だったと言わざるを得まい!」食卓を囲むと「実は、第4次隊が急遽編成し直しになったらしい。“緑のスッポン”を始めるとする、女子陣の評判が異様に悪いんだ!こりゃマズイと気付いて慌てて人選をやり直す事になったらしいぞ!」「そうか。強制送還がニワカに現実味を帯びて来たか!もっとも、その方が本人のためでもあるけどな!そもそも、女の子達を送り込んだ時点で間違いに気付いて欲しかったがね」「田中さんは、伏せろとは言ってたが、お前さんには話してやる。有賀、滝沢、五味、西沢の4人は確定らしい。今週末限りで送り返す様だ。不名誉ではあるが、アイツらでは、足を引っ張るだけだと判断された模様だよ。他言無用だぞ!」鎌倉が釘を刺して来た。「あの4人が?初めから間違ってるって、気付かない方がおかしいぞ!やっと認識したのは褒めてやるが、欠員はどうするんだ?」「来週には着任するよ。流石に岩留さんも、我慢出来なかったらしいな!」「だとすると、レイヤーは今月、相当に厳しい状況下に置かれるな。交代要員も速攻で実戦に投入されるだろうから、ヤワなヤツなら持たないぞ!」「そこは、田中さんが心得てるから、心配は無いよ。それにしても、あの阿婆擦れ女達には、随分手を焼かされたな!」「言えてる!今日もやられたからな。だが、もう少しの我慢か。これ以上、O工場の恥は晒せない。帰すのが順当だろうな!」夕食を終えて寮へ戻る頃には、本降りの雨が路面を叩いていた。翌週、鎌倉の予告通り、有賀、滝沢、五味、西沢の4人は、忽然と国分から姿を消した。密かに派遣された4人と交代させられたのである。“緑のスッポン”だけが大騒ぎをやらかしたが男性陣は、「まあ、当然だろうな」と冷静に受け止めた。

寮では火の手ばかりが上がって、消火活動に東奔西走ではあったが、自身の仕事だけは唯一順調に進んでいた。総合的に配置を見直し、“弟子入り”した際に習得した技を横へ展開し、僕のコピーを増やす。地道ではあったが、成果は確実に積み上がり、約1週間分の先行を成し遂げるまでに漕ぎ着けたのだ。こうなると、心理的にも余裕か生まれる。例え、“飛び込み”があっても揺らぐ事は無くなるし、カバーしあう事で時間短縮も可能になる。好ましい循環が生じた結果、自主性も顔を覗かせるまでになり、“おばちゃん達”の表情も格段に明るさが増した。GEの新品種にしても、RCAやTIの技術を応用する事で、充分な成果が出せる事が分かり、作業に支障をきたす様な問題は出ずに済んだ。「順調だな。むしろ、整列工程と塗布工程の方が手こずっとる!前を煽らなくては、出荷が覚束ない事態になりそうだ!」徳永さんは、連日連夜、前工程を煽る事が日課になった。「Y,多少なりともペースを落とせ!検査室に製品が入らねぇぞ!」田尾も呆れて止めに来る。「いや、まだまだだ!月末集中を回避するまでは、手は止めんぞ!何でも好きなヤツを持って行け!いずれは、出荷するんだろう?」「そりゃそうだが、手が回らねぇ!人手は有限だ!」「だが、知恵は無限だろう?選択と集中で乗り越えてくれ!もう直ぐにGEの金ベースが出て来る。最速で回してやるから、手を開けて待ってな!」「OK、誰かを回す!岩崎、GEの金が来る!待機してくれ!」と田尾が叫びつつ検査室へ向かう。入れ替わる様に、神崎先輩がトレーを持って出て来る。「いい感じになって来たわね!誰もがやるべき事を見て考えてるわ!“次は何を?”なんて言ってる場合じゃないもの!ジャンジャンと送り込んで頂戴!」と彼女の表情も柔らかくなった。「神崎先輩、GEのトレーなんですが、他社に比べて貧弱に感じませんか?もっと強度があってもいいと思うんですが?」「そうね。ちょっと弱いのは確かよ。あたし達も検査の時には、気を引き締めてはいるけど、割れる事が多いのよね。品証でも問題にし始めてるから、事業部会議で取り上げるでしょう。悪いけど交換してくれない?あたし達も徳永さんには苦情は上げてあるから、月内には改善の方向には向かうでしょう。こんな会話、以前は全く出来なかった事よ!貴方らしくやってくれるから、こうして意思疎通が取れるの。大変な前進だわ。トレーの廃棄は任せるわ!」「何なら、トレーをいくらか持って行きます?廃棄物だけ持って来てくれれば、時間短縮にもなりませんか?」「それ、いいかも!GEは、特に弱いから、不安なのよね。30枚程もらってもいい?」「ご用意しますよ。ちょっとお待ちを」僕は、物品倉庫からトレーを出して神崎先輩に渡した。「貴方らしい心使いだわ。安心して検査に集中出来るなんて、夢の様な話よ。これからも宜しく頼むわね!」彼女が検査室へ戻ると、「GEはどうなってる!モタモタしてると、月末に火が着いて大火事になるぞ!Y!遅延は許されんぞ!」“安さん”が怒鳴り込んで来る。「遅延はありません。最優先で回してますから。むしろ在来品種が検査に溜まってます。溢れた製品がそこに山になってますが、明日には捌けるでしょう」と言うと「何!遅延なしか!と言う事は前に問題ありと言うのか?」「はい、検査も最優先で回ってますから、炉から出て来るのを待っている状態です」「クソ!前を煽らなくてはダメか!橋元は何を寝ぼけてるんだ?!お前達が口を開けて待ってるとは、世も末だな!待ってろ!今から尻を叩いてやる!橋元!どこだ?出て来い!」“安さん”は一瞥しただけで、塗布工程に向かって怒鳴り込みをかけに行く。「あれでもちゃんと見てるから凄いのよ。橋元さんだって、整列工程の遅れで待たされてるんだから、最後は岡元さんが吊るされる運命よ。Y,順調に回ってるわね。継続的に取り組んで頂戴。これで世界が変わるわ。みんなが、待ち望んだ時がやっと現実味を帯びて来た。このまま突っ走ろう!行けるとこまでね!」“正室”岩崎さんが金ベースを煽りに来つつ言う。「まだ、序ノ口ですが、幕内まではノンストップで行きますよ。金曜日は残業にならない様にして下さいよ。何処に行くか知りませんがね」最後は小声で囁くと「分かってるわ。退屈はさせないから、また愛し合いましょう」と返して来た。製品がトレーに移されると、彼女は急いで検査に向かう。「昼前にもう1山作りましょう!そうすれば、午後が楽になりますから」僕が言うと“おばちゃん達”が頷く。瞬く間に製品の山が積み上がり、昼休みは余裕を持って迎えられた。

疲れ果てて寮へ戻ると、田中さんが待ち構えて居た。「毎度、お疲れ様のところ悪いが、大事な話がある。付き合ってくれ!鎌倉ももう直ぐに戻るだろうから、3人で“秘密会議”だ!」何やらキナ臭い感じがすると思っていたが、田中さんの話は予想外な方向に向かった。「第4次隊の再編成の話は聞いてると思うが、今日の話は第1次隊と第2次隊の“帰還”についての相談だ!これは、第3次隊にも関わる事だから、鎌倉にも聞いてもらいたい!」「田中さん、上手く行ってませんね?向こうは“延長”を要請して来た。そうじゃありませんか?」僕が切り込むと「半分は当たりだ。だが、事は簡単じゃ無いんだよ。向こうとしては、期限を持って絶対に返して欲しい人材と、3ヶ月程度待って欲しい人を指定して来たんだ。これは、第3次隊の失敗から教訓を得て、期待に耐えうる人材を派遣してくれ!と要請したら、合わせて降って来た話だ。第1次隊は、丁度折り返し地点に到達した訳だが、妻帯者は当然帰さなきゃならないが、独身者については“帰せ”と“残してくれ”の狭間に陥っている連中が多数いるんだよ。例えば、赤羽なんかは機械工具事業部で、出荷を一手に仕切る大物になってるが、O工場としては、資材で辣腕を振るわせたいから“絶対に帰せ”と言われてるが、国分からも残留要請が早くも上がってるんだ。受注が好調だし、抜けられたら代わりの人材が育成出来てないから、穴が埋められないと言うんだ。まさか、分裂して片方づつって訳にも行かないし、国分の意向もある。その点では、Yの争奪戦も開戦間近らしいな!安田順次が、事業部会議で本部長に直談判して、10名全員の残留工作を本格化させると聞いてる。そうした動きは察知してるか?」「いえ、裏で“安さん”が早くも動き出すとは、予想外ですよ」知らぬは田中さんだけだ。既にサーディプ全体での引き留め工作は動いていて、僕も承認してるとは、口が裂けても言えなかった。「鎌倉も他人事じゃないぞ!着々と事は動いてる。それぞれの事情もあるだろうが、O工場としては、当初の予定通りに“帰還”させるつもりでいる。1次隊は、10月末、2次隊は、11月末で“帰還”させる様に厳命が来てる。だが、ある程度の残留者を残しての“帰還”にせざるを得ない状況下に置かれてる事は、覚悟してくれ!1次隊は、約3分の1、2次隊は半数が期限内に戻れない可能性が出て来たんだ!」「やっぱりか!引き留め工作は、ある程度は予測してましたが、最後は本部長会談でケリを付けてもらうしかありません。僕も鎌倉も核心部分の仕事を任されてます。おいそれと帰す責任者じゃあありません。任期が延びるのはやむを得ないと思いますよ!」「俺も核心部分を振られてます!施設がらみともなれば、尚更帰れるとは思えない。問題は期限ですよ!あるんですか?無いんですか?」「期限など無いさ。向こうの意向に反して、引き留め工作が進んでいるなら、僕等独身者に保証など無いんだ。向こうの開発状況が、はかばかしくなければ、尚更さ。半年か?年単位か?場合に寄っては“釘付け”になるだろうよ」「それは、いささか大袈裟過ぎるが、3ヶ月程度の遅れはある可能性は高いだろう。特に第2次隊まではな。しかし、第4次隊が任期満了を迎える来年の1月までには、全員を“帰還”させなくてはO工場としても、生産活動に支障が出るのは確かだ。お前達には、第1次隊の“帰還”を見届けて、動揺を鎮める役を担ってもらう。他の連中は“時間帯”がズレてる分、現状が分からないだろうから、2人で連携して粛々と“帰還”に向けて撤退を進める様に手を貸してくれ!」田中さんは、そう言って“秘密会議”を閉じたが、僕と鎌倉は部屋へ引き上げると暗澹とした気分になった。「予想通りだな。開発に遅れが生じてるんだろう」「らしいな。Y、この前の話、本気で考える必要がありそうだな!」「悪い予感は当たるものらしい。下手をしなくても、この分だと“釘付け”を覚悟しなきゃならないぞ!鎌倉、僕等の“籍”は、まだO工場のままだが、“国分籍”にされてもいい様に腹は括ってかからないと、泣きを見るハメになりかねん!勿論、この話は他言無用だがな!」「ああ、このまま放り出されてもいい様に、手は考えて置くとしよう。どうやら、俺達は“遅延組”になりそうだしな!」僕も鎌倉も“最終便”に乗ることは叶わずに、国分に留め置かれる運命を悟っていた。実際、僕と鎌倉と“緑のスッポン”が最後の最後に引き上げる事になるとは、予測すらしてはいなかった。

“正室”岩崎恭子は、検査工程のリーダーである。検査の采配は、彼女が鍵を握っていると言っても過言では無い。パートさん含めた女性陣を仕切るのは勿論、出荷の徳田・田尾の尻尾も握っている傑物である。凛としたモノ言いや決断力、統率力は抜群である。だが、今、僕の腕の中に抱かれている彼女は、全くの“別人”だった。甘ったれで、嫉妬心が強く、少女の様に幼い表情。最近は、髪を伸ばしている様で、華奢な身体に似合っているなと思う。千絵とはまた違う意味で、僕にフィトする身体だった。1回戦を終えた今は、息子にエネルギーを送り込むべく、舌を這わせている。「まだよ。あたしを満足させるまでは、寝かさないから」無邪気に笑う彼女は、息子を元気付けるのに必死だ。そんな、恭子を抱き寄せると「今日は、いつもと違うね。何を企んでる?」と聞いた。「子種が欲しいの!あなたの子供を授かるのが、あたしの目標。ほら、元気いっぱいだよ」と次戦をねだり始める。やや大き目な乳房がアンバランスに見えるが、恭子の乳房はしっかりとしていて、握った感触は他の女性の追随を許さぬ程だ。2回戦も激しく動き合い、多量の体液を注いでやった。避妊などしたら、彼女は怒るだろう。最も、最初から避妊などしていないが・・・。バスルームでシャワーを浴びていると、「最近、困ってるのよ」と恭子が言う。「何について?」「宮崎ちゃんよ。最近、あなたに興味を惹かれてる節があるの。千絵に、永田ちゃん、ちーに、実里、4人の“側室”が既に居るのよ?もう1人増えたら、あたしは嫌なの!」と抱き着いて来る。心中は穏やかではなさそうだ。「宮崎ちゃん、ああ見えて本気出すときは、マジで落としに来るわよ。これ以上、あたしを悩ませないで!」恭子は唇に吸い付いて来た。「“正室”のご命令とあらば、逆らえませんな」「お願いよ!あたしを離さないで!置いて行かないで!」彼女は懸命に訴えて来た。優しく包み込むように抱擁すると3回戦へ向かうべく、バスマットへ押し倒した。恭子は懸命に離すまいと僕に抱き着いていた。


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