limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 68

2019年11月26日 12時59分51秒 | 日記
お昼を挟んでからも、3人の買い物旅は続いて行き、僕を大いに閉口させて手荷物は加速度的に増えて行った。「お待たせ!」この日4回目の車載から戻ると、みーちゃんがソフトクリームを差し出してくれた。「Yは、図形認識とか空間認識力に優れてるね。大抵の場合、迷子になるのに、ちゃんと戻って来るんだもの。それだけでも凄くない?」ちーちゃんがソフトクリームを舐めながら言う。だが、本心は明日に備えているのは明らかだ。試着室での失敗を取り返すべく、明日は朝から激しく迫って来るだろう。「味噌味、わさび味、コーン味が懐かしい」「そんなのあるの?!」みーちゃんが驚いて言う。「長野の各地に行けば、この手の“変わり種”はいくらでもありますよ。善光寺の味噌味、安曇野大王のわさび味、開田のコーン味。他にも数えだしたらキリがありません!」「うーん、奥が深そうだわ。されどソフトクリーム。全種制覇するとしたら、どのくらいかかりそう?」恭子が言い出す。「1週間はかかるだろうな。一口に長野と言っても東西南北に広いし、奥が深いから順序良く巡らないと、完全制覇は難しいよ。温泉地に行けば、半熟卵や饅頭は必ずあるし、山梨まで少し足を延ばせば、ウイスキーの醸造元もある。そこでしか売ってない銘柄もあるし、何より水が美味い。アルプスの雪解け水だからね」「雪解け水か。1年中解けない雪渓とかもあるんでしょ?」「アルプスの奥深くにね。歩いて往復5日くらいの行程だろうな」「ゲッ、車通れないの?」「人が歩く道しかありませんよ。3000mクラスの高地ですから」「飛行機の高度と同じか?遥か雲の上じゃない!」ちーちゃんが呆れた。「O工場の標高はどのくらい?」みーちゃんが言う。「約760m」「じゃあ、峠道だと?」「軽く1000mは行っちゃうよ」「冬は地獄の様に寒そう」「ああ、-10℃は普通だ」「冷凍庫と変わり無しか?ここでは、マイナス気温自体があり得ないから。それに、雪も滅多に積もらないし」恭子も呆れる。「でも、そんな世界の人が、暑さ負けしません?」みーちゃんが気遣って言う。「気温差がほぼ無いから、慣れれば過ごしやすい。長野は朝晩と日中の寒暖差が大きいから、迂闊に過ごしてると直ぐに風邪を引く。空気も乾燥してるから、呼吸器系の弱い人は大変だろうな」「あたし、喉が弱いから、長野での生活は無理かも」みーちゃんが残念そうに言う。「まあ、だけどこの子をタダで帰すつもりは、更々無いわよ!Yだって同意してるし、“安さん”だって“転属”を目指して動いてるの。表向きは“千絵の彼氏”だけど、実質的にはあたし達の“共有財産”なの!みーちゃんにも“権利”はあるわよ!これから、この子を自由にさせるから宜しくね!」またしても、恭子が恐ろしい事を言い出した。みーちゃんと2人でホッポリ出されるのだ!みーちゃんは嬉しそうに頷いたが、僕は内心恐れていた。“アパートで1対1か。何を彼女は狙って来るんだ?”頭の中でグルグルと思いは巡った。「Y、1つ決めて来なよ!」「みーちゃんを泣かせるなよ!」恭子とちーちゃんはそう言ったが、さて、どう転んでいくのか?帰りの車中では、不安が過った。

「散らかってますけど、どうぞ!」みーちゃんはそう言ったが、アパートの部屋は1分の隙も無く整理整頓がなされている。「失礼しますね。みーちゃん、もしかして、家族以外の男性が入るの初めて?」「はい、あたし、中学から短大まで一貫教育の女子学園に通ってましたから、男性との接点そのものが少ないんです。今日は、共学校についてあれこれ聞きたいです!」リビングのテーブルに紅茶を運びながら彼女は言った。「アールグレイですか。定番だったなー。ダージリンにオレンジペコも」「紅茶に詳しいとは聞いてませんが、どこで覚えました?」「高校の時、生物準備室が僕等の根城だったんですが、担任が生物先生だったから、たまたまそこを押さえたのがきっかけだけど、理科講師の明美先生から教わったのが最初だったよな?女子5名に僕1人のグループが自然と出来たのは良かったんだけど、他の女子のグループから睨まれそうになって、“どこか適当な場所が無いかな?”って考えた挙句に“昼休みにお茶会開けばいいかも”って閃いて、先生達の同意も取り付けてセッティングしたのが、紅茶との付き合いの始まり。僕等にとっても先生達にしても都合が良かったから出来た事だけど、それから卒業までの間、お茶会三昧で3年間を過ごしましたよ」「女子5名に男子1人とは、随分とアンバランスな組み合わせだけど、結成の経緯を聞かせて!」みーちゃんが前のめりになった。幸子との出会いに始まり、道子と雪枝との“劇的再開”、堀ちゃんと中島ちゃんの加入までを順を追って話すと、「へー!そんな偶然ってあるんだね!席が隣同士だったり、友達繋がりだったりしての5人なのね。あたしも、仲間に加わりたかったな。凄く愉しそうじゃない」「うん、最高の仲間達だったよ!何があっても、基本的に5人とは卒業まで続いたし、下級生からも加わった子が居るけど、優先順位は同級生が上、色々と助け合ったり、協力したり、時にはクラスを動かしたりしたものさ。強い絆で結ばれたよ」「Yさんの“綽名”は?」「“さん”付けはやめて!Yって呼び捨てでいいよ。みんなそう言ってるし。肩書は“参謀長”。故に僕等は“参謀本部”って呼ばれてた。堅苦しいのは苦手なんだけど、みんながそう呼んでたから」「妙に“似合う”のが面白い!でも、作戦立てるだけじゃ無かったでしょう?“陣頭指揮”をしてたんじゃない?」「それは、間違ってないよ!“指揮を執る者自らが先陣を切って動く”のがモットーだったし、常に最前線で戦って来たからね」「上級生に睨まれたりしなかったの?」「新設校だったから、僕等が2期生。1期生とは仲も良かったし、煩いOBやOGも居ないから、自由な風は吹いてたよ。その代わり、僕等が“礎”を形作る訳だったから、“悪いモノは残せない”って言うプレッシャーは常にあったね!」「ふーん、“自分達が歩いた道”が“伝統・伝説”になるのか!Yも沢山の“伝説”を残して来たんじゃない?」「誇れるモノは、何も残して来なかったよ。ただ、後継ぎは決めて託して来た。校章と共にね」「へー、珍しいね。ボタンじゃなくて校章かぁ。でも、受け取った子は大変だったろうね!Yの後だもの。“偉大なる背中”を追わなきゃならないし、自らの責任も重かったと思う」「彼女には3人の“ブレイン”が居た。継がせたのは上田加奈って女の子だよ。遠藤、水野、加藤の3女傑が付いてたから、鉄壁だったはずだよ」「えー、Y後継者が女の子?!それは、それで凄くない?」「適材適所で決めたから、男女は関係無し!」「Yらしい決断だけど、良く受けたものだわ!多分、育てたんでしょう?」「“停学”を喰らっても、自力で這い上がって来た“猛者”だから、下手な男より決断力と指揮能力・指導力はあった。学校の成績が全てじゃないよ。“人を心で見られるか?”その1点でいい。彼女達にはそれが見えていたんだ!」「Yの基本思考だよね。“力ではなく腕の確かさ”を見てる。足りなければ、育てるし指導を依頼する。1人1人を大切に見てくれてる。あたしも救われた1人だね!」そう言ってみーちゃんが笑った。2杯目のアールグレイを注ぎつつ「ところで、バレンタインとかはどうだったの?」と突っ込んで来る。「あれ程、悲惨な事は無いよ!“もらえるヤツ”と“もらえないヤツ”に、完全に色分けされちゃうんだから。男子にとっては“威信”に関わるし、惨めさを噛みしめる日になるから、気分の良い日では無いよ!」「Yは“当確”でしょう?」「最低限5個は手に出来たからまだいい方さ。でも、“自分がもらえた事”を誇示する様な真似だけはしなかったよ。クラスの中の空気が重いのなんの・・・」「あたしもそうだったな。短大卒業までずっと“もらう側”だもの。皮肉な事に、誕生日でもあるし・・・」「えっ!みーちゃん2月14日生まれ?」彼女は黙して頷いた。「誕生日なのに、お父さんにチョコあげるのよ!割に合わないの。あたし、背が高いから、必ずターゲットにされたし、男の子にあげた事も無いのよ!周囲は女子しか居ないし、先生にあげても何のメリットも無かったし!」「それは、別の意味で“悲劇”だよね。こっちは、もらえるだけありがたいから、袋を下げて持ち帰ってから“メッセージカード”のチェックが大変だったな。“読んでませんでした”なんて口が裂けても言えないからね。みーちゃん、もしかしてだけど、男性と1対1になるの初めて?」「うん、会社に入ってからも、男性と付き合った事も無いの。女子学園で、ずっとエスカレーター方式だったから、“純粋培養”みたいなモノなの。でも、神崎さんが“Yと話してみたら?”って言いだして、それを聞いてた恭ちゃんとちーちゃんが“怖がらずに突撃しちゃえ!”って無理矢理にセッティグしてくれて・・・、今日は初めて尽くしなの!」みーちゃんがモジモジしながら言った。「Y、そこでお願いしてもいい?」「なにを?」と返すと、みーちゃんは部屋中カーテンを閉め切って「あたしを“大人”にして下さい!初めてするの!でも、何をするのか?は知ってるから・・・、まず、膝に座らせて」と言う。多分、心臓はバクバクと震えているだろう。みーちゃんは、そっと僕の膝に座り込んで、背中に手を回した。やはり身体がわずかに震えている。恭子よりも華奢で、折れそうな細い身体は軽かった。そっとキスをすると「脱がせて」と言う。「怖かったら止めるから、ゆっくり脱がすよ」と言ってブラウスのボタンを外す。やがて、パステルカラーのブラが見えて来た。「ごめんね。ちっちゃい胸で」みーちゃんは自分でホックを外して胸元に手を導いた。大きさは小さめだが、身体全体からすれば、バランスの良いサイズだろうか。そっと、触れて揉み上げてやり、乳首も摘まんで刺激を与えた。「下もお願い」みーちゃんは脚を広げて、ロングスカートの裾をめくった。太腿の奥は湿り気を帯びていた。パンティを触ると、既に濡れている。「早く脱がせて。溢れちゃう」みーちゃんは身体をくねらせてパンティを剥ぎ取るのに協力しつつ、ロングスカートも自ら剥ぎ取った。真っ赤になりながらも「みーの穴に指を下さい」とハッキリ言った。背が高い彼女が膝に乗っているので、僕の顔の当たりにちょうど胸が来る。胸に吸い付きつつ、指を使ってやる。みーちゃんはピクピクと身体を激しく痙攣させながらも「もう1本下さい」とねだった。ホールに2本の指をそっと入れて、前後に左右に動かすと「いい・・・、気持ちいい・・・、何か出そう!出ちゃう!」と声を上げた。腕に雫が伝って来る。まもなく大量の愛液が噴出した。みーちゃんは呆然としていた。「ごめんなさい。いっぱい出ちゃった。服も汚しちゃったね」と手で顔を覆った。僕はみーちゃんの手をどけると唇に吸い付いた。舌を絡ませると、みーちゃんも積極的に絡ませて来た。「みーちゃん、するよ。その前にゴム付けるから」と言うと「ダメ。みんなと同じ様にそのままでいいの!」と制止される。ベッドへ抱き上げて連れて行くと、みーちゃんは脚を広げて「早くちょうだい」と言う。ゆっくりと息子を潜らせると、みーちゃんは「暖かい。早く突いて下さい」とねだった。結局、大量の体液は、余すことなくみーちゃんの体内に注ぎ込まれて行った。

夕方、午後6時頃だろうか、電話が鳴りだした。みーちゃんがパンティ1枚だけの姿で出た。「うん、今夜は“お泊り”でいいから」と言っているのが微かに聞こえた。早紀に続いて2度目の“お持ち帰り”になるらしい。あれから、もう1試合をして2人で抱き合って寝ていたのだが、みーちゃんは心底、飢えていた様で2度目は激しく腰を使って来た。電話を切ると「Y、シャワー浴びて出掛けようよ!夕飯の食材を買いに行かなきゃ!」と言ってタオルを手渡して来た。ユニットバスに2人は、少々狭いがお互いにボディソープやシャンプーを付けて洗いっこするのは愉しいものだった。みーちゃんの緊張もほぐれて、キャーキャーとはしゃいでいる。着替えを済ませると、RX-7に乗り込んで市内のスーパーへ向かうはずだったが、一気に海岸線へ出た。適当な場所へ車を停めると、砂浜へ降りて行く。桜島は頂に雲を纏っていた。僕とみーちゃんは、手を繋いで砂浜を歩いた。「Y,ありがとー!やっと大人になれたよ!初めての人が、あなたで良かった。優しくしてくれたから、痛くも無かったし、あたしのしたい様にさせてくれた。これで、あたしも晴れて仲間入りだよね?」「恭子のヤツ、どこまで“側室”を増やすつもりなんだろう?全て、自分に跳ね返るって分かってるんだろうか?」「分かってるって!みんなが平等である事が、恭ちゃんとちーの狙いだもの。あたしもYを帰さない1人になれたんだから、これ以上は望まない。でも、たまには抱いて欲しいな。疲れてる時は、あたしに甘えに来てよ!」「みーちゃんを泣かせたら、それこそ一大事になる!顔に青アザや爪痕が残るハメになるから、それだけは回避しなくちゃ!でも、本当に疲れ果てたら、みーちゃんに助けてもらうよ。“救急外来”、いや“心のオアシス”になって欲しい。僕だって万能では無いさ。お姉さんにケアしてもらいたい時もあるからね!」「うん、必ず見てるから、危ない時には止めに行くから!決して無理はしないで!あなたが倒れる姿は見たく無いもの」みーちゃんはそう言うと背後から抱き着いて来た。「Y,お姉さんの言う事は守りなさい!あたしは、あなたの“主治医”になる!辛い時、悲しい時は治療を受けに来なさい!」「みーちゃん、ありがとう!必ず治療を受けに行くよ」「Y,これ!」肩越しに車のキーが差し出された。「思い切り飛ばしてごらん!みんな、吹き飛ばしちゃえ!」みーちゃんは、RX−7を操れと言う。「分かった。心ゆくまで走らせるとするか!」僕等は車に戻ると、加治木ICを目指して車を走らせた。ロータリーエンジンは心地よく吹け上がり、日常を忘れさせるのに充分な快感をもたらした。「こうして、助手席に座って駆け抜けるのが、あたしの夢だったの!Y,気持ちいいよね?」「ああ、別の次元に飛んでくみたいだ!みーちゃん、何処へ行く?」「あたしの気分次第!それもいいよね?」「よーし!捕まらない範囲で飛ばすよ!」みーちゃんと僕は北へ向かった。夕闇が迫る中、RX―7は高速道路を矢の様に駆け抜けて行った。

一夜明けて日曜日。みーちゃんのアパートの前に、ちーちゃんの真っ赤な910型ブルーバードが横付けされた。さて、ちーちゃんの愛車は“スタリオン”だったはずだが?何故、“ブルーバード”に代わったのか?少し説明を加えなくてならないだろう。6月の半ばに、ちーちゃんのスタリオンは事故に合ってしまったのだ。それも、かなり悲劇的なモノで、ちーちゃんが無傷だったのが唯一の救いだった。その日の夕方、国分市内のスーパーに買い出しに行ったちーちゃんは、駐車スペースにスタリオンを停めて、食品を買い集めていた。そこへ、パトカーに追われたベンツが暴走して来たのだ!“シートベルト非着用”と“一旦停止不履行”の容疑で追われていたのは、国分市議会議員の奥さん!いい歳の“オバさん”であった。無謀にもパトカーを振り切ろうとして、蛇行運転をしたのが間違いの元!“オバさん”のベンツは、ちーちゃんのスタリオンの右側前に激突して跳ね返り、更に3台を巻き添えにして停まった!大人しく捕まっていれば、こんな大事に至る事なく済んだのに、“悪あがき女製作所”は、道交法違反も加わりその場で逮捕されたのだ!旦那の面目だけで無く、ちーちゃんのスタリオンまでスクラップにして!突然の出来事にちーちゃんは、あ然とするしか無かったが、命に別状が無かったのは幸いだった。完全なる100対0の事故なので、特段のお咎めも無く市議会議員からの謝罪も受けたが、車が無いと生活に困るので、ちーちゃんは直ぐに車を探し始めた。だが、ここでちーちゃんはある事に気付いた。“後部席の広い車にしなくては、僕と自由に遊べない!”つまりは、車内で“したくなっても狭いと不便だ!”と閃いたのである。僕にとっては、悲劇の始まりだが、ちーちゃんにすれば“必然性”がある事だった。広い後部席とFRの駆動系。後は、お財布に優しい価格である事。そうした条件付きで探した結果が、910型ブルーバードに辿り着いた訳であった。赤い車体色に広い室内空間。走行距離も少なく、極上の状態のブルがちーちゃんの元へ届いたのが、3日前だった。「車両感覚が掴み易くて運転していて、安心感があるのよね!」ちーちゃんは、ご満悦だったが「ドアミラーじゃ無いのは仕方ないわよね!」と唯一の不満点を言った。これは、国分工場の規則で、唯一理不尽だと思ったのが“ドアミラー禁止令”だった。新車の殆どがドアミラー装着なのに、ドアミラーは“不正改造車”と言う不可思議な“認識”がまかり通っていたのは、時代遅れも甚だしい事ではあったが、守らないと構内及び寮に停められないのだ!若手は長年の間、不満タラタラだったが、僕が赴任した頃に、やっと“新車はこの限りでは無い”との一文が追加されたそうだ。後付けはダメだが、新車ならOKなのだ!空前の新車ブームが起こったのは、言うまでもない!寮でも新車のカタログが散乱しているのが、散見されたが何故なのか?理解に苦しむ日々があったのは確かだったが、後で聞いて腰を抜かしそうになったのは、事実である。

さて、みーちゃんが別れ際に「ちーは飢えてるはずだから、くれぐれも油断しないで!」と言ってキスを繰り返しながら心配してくれた。「うん、余り無理はしないさ。みーちゃん、ありがとう」僕はそっと抱き着いてから、みーちゃんの部屋を出た。「Y,おはよー!ほら、行くよ!」ちーちゃんがキーを投げて寄越す。運転席に座ると、奇妙な感覚に戸惑う。「城山公園へ行ってよ!まだ、人の気配は無いからさ!」助手席に鎮座したちーちゃんは、平然と言った。後ろを見ると後部席の足元にエアマットが敷かれており、座席とフラットに繋がっているではないか!しかも、タオルケットがさり気なく敷いてある!僕の背筋は瞬時に凍った。窓には除き見防止のフィルムが貼られており、何処でもその気になれば、戦闘を開始出来る体制は、整えられているのだ。恐る恐るブルを発進させると、ちーちゃんは身体をくねらせて、巧みにパンティを脱いだ。「Y!あげるよ!ほらほら、もう湿ってるの!」僕の膝にちーちゃんのパンティが載せられた。淡いブルーのパンティがヤケにリアルに見える。ちーちゃんは、僕の下半身に手を持って行くと刺激を与え始めた。既に息は荒くなりつつあった。「ねえ、早くしようよ!昨日、失敗してから、我慢出来ないのよ!」ちーちゃんは、心身共に飢えていたのだ!城山公園へ車を突っ込んで、奥の陰へ停めると、ちーちゃんは直ぐに襲いかかって来た。激しく身体を震わせて、腰を使って甲高い声を出して喘ぎまくった。最後は一滴も余さずに体液を吸い尽くした。「Y,恭子だって、ここまではしてくれないでしょう?」息子に舌を這わせつつ、ちーちゃんが言った。久々に激しい戦いが始まったのだった。「ちーちゃん、お腹空きません?エネルギーの源がアウトじゃあ、動けませんよ!」流石に僕が泣きを入れると、「そうね。食べに行こうか?」と言って身支度を整えた。デニムのミニスカートに、上はノースリーブだが、首元はV字にカットされていて、豊満な乳房とブラが覗けば見える。ファミレスに入ると、差し向かいではなく隣に座ってピッタリと寄り添って来る。「久々だから、逃さないわよ!」と言うちーちゃんは、隙を見つけては胸や太腿に手を持って行く。触られたくてたまらないらしいのだが、余りに露骨な方向に行かない様に仕向けるのには大変だった。“ちーちゃんと呼んで事件”以来なので、余程の事が無い限り満足度を上げるのは容易ではなかろう。朝からガッツリと胃を満たすと、「さーて、次は何処で抱かれようかな?」ちーちゃんは鼻歌混じりに思案を始める。短期決戦!しかも、午前中が勝負!と僕は計算を弾いた。ちーちゃんの底無し沼に沈む前に、寮に帰らなくては明日が大変だった。「余り、遠くへは行きたく無いのよね。自由に遊べるとしたら、空港周辺か?」「今からなら、ゆっくり出れば空きが見つかりやすいと思いますが?」「ふむ、そうするかの?どの道、水遊びもしたいのよね!水着あるし!」ちーちゃんは、何処までもおおらかだった。おNEWの水着を着た姿から、一戦交えるなんて、ちーちゃんにしか思い浮かばないだろう!「よし、行くよ!水遊びにイザ出陣じゃ!」意気込んでファミレスを後にした僕等は、鹿児島空港周辺に向けて山道を登って行った。“誰にも見咎められない部屋”を探しあてると、ちーちゃんはまず水着姿になり、バスムームでシャワーを掛け合って遊びまくった。はたから見れば“馬鹿騒ぎ”にしか見えないが、ちーちゃんにすれば、無上の喜び以外の何物でも無い!馬鹿騒ぎに飽きると、ベッドでの試合、その後は、少し抱き合って眠った。僕等が“乱痴気騒ぎ”に興じている頃、鹿児島空港には、第4次隊60名が降り立っていた。梅雨明けは、直ぐそこに迫っていた。

7月が始まった。着任から3ヶ月。通常なら、折り返し地点に差し掛かる訳だが、僕としてはどっちでもいい事に過ぎなかった。今日は、第4次隊60名が着任するはずだが、彼等にかまけて居る暇はないのだ!何より、“結果を残さなくてはならない”1ヶ月だからである。長い朝礼を切り抜けて、パート朝礼を終えたところで、やっと“作戦会議”は始まった。徳田、田尾、神崎先輩、恭子、ちーちゃんに僕が出荷室の隅に集まった。「今月から、炉から後は個々の判断で動く事になるけど、“意思疎通と統一”を図らなくてはなりません!特に出荷は、臨機応変に動いてもらわなくては、月末集中で“窒息”しかねない!徳さん、田尾、事前に“生産計上”出来そうなロットは、どのくらいあります?」「細かいヤツが20ばかりはあるが、それをどうするつもりだ?」徳さんが首を傾げる。「事前に使用高倉庫へ入れてしまいましょう!出荷が混乱する要因の1つが、営業指示を待ってからの動きに起因してるのは明らかです。予め入れてあれば、経管の仕事に出来ますし、慌てずに済む。まず、これで余計な神経を擦り減らす事から解放されるし、ゆとりも生まれ経費も削減出来る!」「ふむ、“アレどこだ?”って探し回る手前を省くか!そうすりゃあ、目の前を追う事に専念出来るか?」田尾が唸る。「勿論、使用高に入れた事は、記録しとかなきゃならないが、空いた時間に手間を惜しまずにやらなきゃ、当日回しに対処出来なくなるぜ!」「確かに、月の後半は、連日“その日回しの連続”になる!前半戦をどう乗り切るか?思案する価値はありそうだな!」徳さんは、早速計算を始めたらしい。「次は、検査工程の方ですが、神崎先輩、指揮はお任せしますよ!最終的な責任は僕が負いますが、スピーディーに進めないと“詰まってしまう”のは回避出来そうにありませんからね!作戦は考えられてますよね?」「ええ!今月の前半で目途を付けるわ!縦型を止めて“横型”つまりは、“横断型”へ編成替えするわ!特定個人にしか頼れない今までのやり方から、複数人でカバーする方式への転換で、スピードアップを図るの!既に、宮崎さんや千絵に指示は出してあるの。日に日に良くなっていく予定よ!」神崎先輩は自信を覗かせた。「目論見では、検査時間を3分の1に短縮させる予定よ!」「先月比30%の上乗せだから、苦しいのは確かだけど、乗り切って見せるわ!」恭子とちーちゃんも続いて言う。「“質”を保ちながらのスピードアップですから、二律相反する事をやらなきゃなりませんが、前半で答えを出して下さい。特に最終週は、真価が問われる場面。出荷を慌てさせるまで、追い込んでやって下さいよ!」僕はチラッと田尾を見た。「どれだけ慌てさせられるか?愉しみに待っててやるさ!」田尾は平然と言ってのけたが、実際は“息つく間も無い”程に慌てふためく事になるとは、予想すらしていなかった。「返しは、従来通りに馬力をかけて動かします!今は、何も指示をしてませんが、一度旗を振れば“ブルドーザー”の如き勢いで処理能力を上げてご覧に入れましょう!」と言ったが「今も、既にトレーが山になってるけど、本当に“何も指示してない”の?」と神崎先輩が唖然として言う。“おばちゃん達”は、黙々とトレーを検査室へ搬入しているからだ。「ウチの“おばちゃん達”を甘く見ない方がいいですよ!僕が居なくても“何をすべきか?”は叩き込んでありますからね。26騎の“騎馬軍団”の底力を今月も“嫌と言う程”に見せ付けてやりますよ!下山田・橋元のご両名の顎が外れるのは、時間の問題ですよ!」7月の生産は、6月が終了すると同時にスタートしていた。整列工程は4直3交代で、既にフル回転していたし、塗布工程も日曜日の夜から、事前にスタートを切っている。その結果として、今朝、返しの作業室には、溢れんばかりの製品が積まれているのだ!塗布工程の今村さんが「これなら切れる事は無いだろう!」と言っていたばかりなのだが、僕に言わせれば「甘いな!」の一言だった。26騎の“騎馬軍団”の力を持ってすれば、2日あれば煽れるはずなのだ!悠然と構えている場合では無いのである。「じゃあ、Yが指揮を執ればどうなるのよ?」恭子が恐る恐る聞いて来る。「水曜日には、“おばちゃん達”の手が止まるでしょうよ!前を煽りまくってもらわなくては、今月の数量はこなせません!先へ先へと進むだけですよ!」薄笑いを浮かべる僕の表情を見て「空恐ろしい現実が待ってるのね!」ちーちゃんが青ざめて言った。「ええ、整列と塗布には“死んでも”間に合わせてもらいます!」僕はそう宣言した。「だとすると、呑気に構えてる場合じゃねぇだろうが!Yが言うからには、必ずやってのける!徳さん、神崎先輩、急いでかかりますぜ!」「おうさ!」「みんな、行くわよ!」それぞれに各自が持ち場へ散った。作戦会議は、自然散会になった。僕は、作業室へ戻ると悠然と地板の山を見つめた。もう、4分の1はトレーに返されて、検査室へ送られていた。「さて、どう料理するかな?」と呟くと「そろそろ、指示をだしてけろ!」と西田・国吉のご両人が言って来る。「Bシフト、金・銀優先、付随してキャップも!」と言うと25名が即座に体制を変えた。「行くよ!」の号令の下、“騎馬軍団”は“本気”を出し始めた。猛然と敵を追撃するかの様に、トレーの山が積み上がって行く!「明日には、塗布工程に殴り込むわよ!」国吉さんが言うと更にスピードと回転が上がった。“無敵の騎馬軍団”は一段と敵を追い込んで行く。最早、誰にも止められない!

まずまずのスタートを切って、寮に戻ると“金剛力士”の如く田中さんが仁王立ちして、待ち構えていた。「済まんが、付き合ってもらうぞ!鎌倉が戻り次第、作戦会議だ!」「今度は何です?」と聞くと「10名余計に派遣されて来たんだが、第1次隊・2次隊から“早期帰還”を要請されたヤツらと交代させるんだよ!1ヶ月の猶予期間で“置き換え”は可能か?」「仕事の内容にもよりますが、かなり厳しい注文ですよ!第1次隊・2次隊は、各職場・事業部の中核を担ってます!おいそれとは、“置き換え”が進むとは思えませんね!」「だがな、O工場としては、切実な現状に直面しているらしい。赤羽を筆頭に9名の設計・総務の人員を帰還させねば、開発は泡と消えかねない!」田中さんの説明によれば、3機種が同時開発されている事、ボディの金属製からプラスチックとの“ハイブリッド製”への転換、下位機種2機も同じコンポーネンツを使い、機能を絞る戦略などを聞いた。第4次隊が持参した図面を見ても、意欲作で一気呵成に追い付く算段らしい事は容易に推察が付いた。「カラーリングまで変更するとは、これじゃあ、設計と資材の連中が欲しい訳だよ!」途中から参入した鎌倉も唸るしか無かった。「それと、もう1つ、有賀・西沢・五味・滝沢の4人が再派遣されて来た。受け入れ先に困ってる!」田中さんも腕組みをしてうな垂れた。「あの、阿婆擦れ4人組か!女性じゃあ交代にも残業にも“制限”がある。“緑のスッポン”程、頭に切れがある訳でも無い。“遊び駒”を押し付けられてもどうしようも無いぞ!」鎌倉も思案に窮した。「こっちのニーズに見合わない人選だが、O工場に置いといても然したる戦力にはならない。総務筋、電子部品関係は、厳しくて足手纏いにしかならない。自動車部品か機械工具、原材料に頼み込んで、引き取ってもらう以外に無いだろう!」僕が言うと「やはり、その筋だろうな・・・」と2人も同意した。「よし、この4人は俺が当たりを付けよう!お前たちは、赤羽達の“帰還”へ向けての手助けを進めてくれ!」と田中さんが言う。「容易じゃありませんが、やらなきゃならないですな!」「1ヶ月で何処まで追い付けるか?やってみますか?」僕と鎌倉も腹を決めた。部屋へ引き上げると、早速赤羽がワープロを借りに来た。「引継ぎ文書をタイプしたいんだよ!しはらく貸してくれ!」と言う。「文書だけで引継げるか?」「多分、無理だ!だが、参考にはなる!限られた時間で引継ぐんだ。手は広く打つに限る!」赤羽は、そう言ってワープロを持って行った。「アイツ、帰っても地獄を見る事になるのに、よく平然と言えるよな」鎌倉は前途を案じていた。「俺達は、“極秘作戦”を展開してる最中だ。向こうが、もたついてくれる事を祈りつつ、足元を固めようや!」「それ、それ!俺、今度の電気設備の点検の責任者に抜擢されちまったよ!」鎌倉が頭を掻いた。「こっちは、後工程の“総司令”に任命されたよ!もう、引き返すのは困難だろう!」「お互いにVIPに遇されたか!それは一先ず安心だな!」僕等はニヤリと笑った。折り返しの月を迎えて、仕事も私用も益々重要性を増して来た。周囲を見ている余裕は余り無い。「さて、やらなきゃならない事が増えちまったな」足元にも周囲にも難題が転がっている7月が始動した。

life 人生雑記帳 - 67

2019年11月26日 10時27分41秒 | 日記
日曜日の夕方、クタクタになって寮に引き上げると、鎌倉が精気の無い虚ろな顔で談話室に椅子に座り込んでいた。「よお!お疲れさん!」「Y、意外に元気じゃないか。俺は“女の執念”に潰されたぜ・・・」「新谷さん、そんなに激しかったのか?」「いや、岩元さんも加わって、3人で缶詰さね。“とっかえひっかえ”で攻撃されてりゃ、休んでる暇もありゃしない」「おいおい、それでずっと缶詰か?新谷さんと岩元さんを“両手に花”状態で?」「そう・・・、ずっと一緒に過ごしたよ。食料は買い溜めされてるし、岩元さんは“お泊り”の支度万全だし、どこに逃げ道がある?」鎌倉はゲンナリとして言った。僕はある意味“救われた”部類だろう。永田ちゃんも千絵も“生理”が来てしまいNGになったからだ。「血まみれでもするわよ!」と2人共に意気込んだのだが「ヒットしないよ!」の一言で撃沈出来たのは大きかった。早紀や恭子との連戦で疲れていただけに、“休養日”が取れたのは幸い以外の何物でも無かった。ただ、“チラ見せ”の応酬になったのは、致し方無かった。永田ちゃんも千絵も、下着を“これでもか!”と言うくらいに見せ付けるのだ!勝負は“引き分け”としたが、永田ちゃんの方が、セクシーさでやや勝っていたと思う。「Yはどうだった?」「“生理”に救われたよ。こっちもコンビだったが、2人共にNGになっちまった。偶然とは言え、2人共に張り合うから“火花バチバチ”さ!」「運に恵まれたか。たまには、そう言う事もありだろうな。金曜日から連戦だったんだろう?“休養日”も必要だな!」「鎌倉、ここに居る限りは逃げられん。他の連中からすれば“夢の様な生活”だぜ!それだけは忘れるな!」「まあな、俺もYも余り嘆いたらバチが当たるな。最終目標は、“帰還せず残留”なんだから、お互いに密かに励むとしよう!バレたら“総スカン”を喰らっちまう!俺達だけの“秘密”にしなきゃならんな!」「そう言う事だぜ!O工場の言いなりになんかなるものか!“先手必勝”これしかあるまい。でなきゃ嫌でも元の仕事に戻されて終わりさ。ここなら、国分なら実力さえあれば、上を目指せる!そのつもりで、“職務”に精励しなきゃな!」「休日の“職務”でもか?」「そっちは別だろう?とにかく、水面下で進めるしか無いんだ。僕等、以外は“全員ダマして”かからなきゃならん!極秘裏に進めようぜ!」「了解だ。Y,カップ麺、持ってるか?」「ああ、あるよ。だが、社食に行く方がバランスはいい。腹が減ってはなんとやらだ。付き合うぜ!」「じゃあ、付き合ってくれ!食べないとダメだよ!体力が維持出来ない!」ボヤく鎌倉をなだめつつ、僕等は社食へ向かった。体力勝負なら食べて置くのは必須項目だった!

月曜日、いよいよ、6月も最終週に突入した。“安さん”の言葉通り、返しの作業室には満杯の製品が鎮座しており、一部は炉の前にまで溢れていた。「やってくれるねー。だが、これくらいで引き下がる僕達ではないぞ!」その日はBシフトを組んでの対処を選んだ。Aシフト、Bシフト、Cシフトの順に作業の振り分けを変えるのだ。AからCへと配置を変化させる事で“飛び込み”が入っても、揺るがない体制を、“おばちゃん達”みんなと考えて練り上げた僕等の作戦だった。“おばちゃん達”にも考えてもらう事で、責任と自覚を促しつつ、流れを維持して行く。経験値がある分、“おばちゃん達”も何処を押さえればいいか?は分かっている。知っている人に聞いて“策”を練る・組み上げるのが、一番早いし落ちも出ない。結果として作戦は、見事に当たりと出て、翌日には炉から出る製品に追いつく寸前まで追い上げた。「Y,手加減しろよ!立錐の余地も無いんだぜ!検査室がパンク寸前だ!」田尾が悲鳴を上げに来るが、意に介するつもりは更々無い!返しの作業室にもトレーの山を築いて対抗した。「何処まで煽るつもりだ?」「来月の“貯金”を作る手前までさ。そうしないと、ロケットスタートは無理だろう?」と返すと「GEがあるからな。厄介なヤツから片付けなけりゃ、来月末はもっとキツくなるだろうな?」「だったら、“在来品種”を煽る理由にはなるだろう?」「そりゃそうだが、手加減をしてくれよ!」「いや、そのつもりは更々無い!明日の午前中には、“貯金”も含めて勢揃いさせるさ!」「マジかよ!こんな馬力で押されたら、たまらねぇ!検査の段取りを取り直して来なきゃならねぇじゃんか!」田尾は不満たらたらだったが、神崎先輩との調整に入った。驚異的とも言うべき追い上げの成果は、当月の出荷にプラスをもたらすのに充分な量があった。

そして、恭子が密かに危惧していた事は、木曜日に現実のモノとなった。明日の予定も目途が付き、次月の頭も予定が確定し始めた午後2時前、「Y、ちょっと顔を貸せ!神崎先輩と徳永さんが、一戦始めやがった!岩崎が“呼んで来い!”って言ってる!」田尾が狼狽えて言いに来た。「宮崎さんの髪の色か?とうとう、火が付いたな!」僕は田尾を追って検査室へ向かった。ただ、その時、帰り支度を始めていた“おばちゃん達”も顔を見合わせて頷くと、後を追って来たのには気づかなかった。検査室では、激しいやり取りが戦わされていた。「“外聞が悪いから染め直せ?!”と言うのには納得できません!彼女が何をしたと言うのですか?髪を染めている女性は、他にも山の様に居るじゃないですか!何が違うと言うんです?!」神崎先輩は、引き下がらずに喰らい付いていた。「だから、色合いがマズイのだ。違う色なら何の問題も無いんだが・・・、ともかく変えてはもらえんか?」徳永さんも気おされ気味だが、責任者である以上、引き下がれないので、何とか粘ろうと試みる。「それならば、あたしが銀色に染めたらどうします?色合い云々を言われるなら、そうしますが、どうされますか?!」徳永さんの目が泳いだ。助けを求めるかのように、僕と視線を合わせた。「Y、お前はどう思う?常識の範疇で答えてくれ!」救命胴衣を期待した徳永さんだったが、残念ながら溺れるハメになった。「僕個人の意見としては、“何がいけないのですか?”と改めて問いたい気分ですが?派手な茶色の髪をした女性社員は、そこかしこに闊歩してます。“外聞が悪い”とおっしゃいましたが、誰が言ってるんです?それを“蹴散らして来る”のが責任者の務めではありませんか?茶髪の女性社員も“染め直す必要がある”との“規則”でも出来ましたか?僕は一切知りませんよ。宮崎さんがミスをしましたか?事業部に損失を与えましたか?何も無いなら、何故“部下を護ろうとしない”のです?彼女の仕事ぶりや検査の正確さは、折り紙つきです!もし、彼女が居なくなってしまったら、計り知れない損失になりますよ!髪の色合いが何だと言うのです?彼女そのものを見て、総合的に判断してほしいですね!これから、益々増産に向かうと言うのに、戦意を削ぐような物言いはお止め下さい。気持ち良く仕事をしたいですし、些細な事でとやかく言う日ですか?今日は?明日の午前中に最大の山場が待っていると言うのに、責任者御自ら“予定を落としても構わない”と言わんばかりの物言いはお控え下さい。本当に“落としますよ”!出荷を止めればいいんですから!重箱の隅を突く様な真似だけはやめて下さい!人は髪の色ではありません!仕事ぶりを、心を見て判断したらどうです?!」「Y、お前までそう言うのか?!」「ええ、言いますよ!理不尽な要求に対しては、断固反対ですから!」徳永さんは、言葉に詰まった。早紀さんや実里ちゃんも来ている。品証を代表して降りて来たのだろう。神崎先輩は「彼の意見に賛成します!今は1つならなければ、この難局を乗り切れません!」と目を据えて言った。その時、「徳永、お前の負けだ!ここは手を引け!」と“安さん”が出てきて静かに言った。「Y、お前も引け!後ろに控えている“武田の騎馬軍団”を大人しくさせろ!」と言う。振り返ると、化粧をバッチリ決めた“おばちゃん達”が睨んでいた。僕は慌てて「心配いりませんから、上がって下さい」と言って解散を命じた。だが、“おばちゃん達”は結果を見定めようとして引き上げない。「徳永!“木を見て森を見ない”では、彼女達は納得させられんぞ!お前が勇猛で果敢な薩摩隼人だと、みんなが知っている。だが、丸腰の上に素手で“武田の騎馬軍団”を止められるか?憎たらしい事に、今月も“武田の騎馬軍団”が敵を蹴散らしてくれたから、予定を上回る成果が出せる!しかも、“貯金”付きだぞ!信玄を相手にするなら、軍勢を整えて、陣を張り、城を整備して全力で迎え撃たねば勝てはせん!ここは、最早信玄の領国。やおら喧嘩を売っても叩き帰されるのがオチだ。Y!言ったことに対して責任は取れるな?!貴様が指揮する“武田の騎馬軍団”だ。総大将としての責任は分かっおるだろうな?!」「結果が出なければ、首を差し出す覚悟はございます」僕は、神妙に答えた。「うむ!よく言った小僧!その言葉、忘れるでないぞ!徳永!越後から謙信を呼んで来い!信玄めを黙らせるには、“越後の龍”の手助けがいる。“人は髪の色では推し量れん。仕事ぶりを、心を見て判断してやれ!”だそうだ!ゴチャゴチャ言う輩は、お前が蹴散らして来い!Y、後の始末は任せる!よく話を聞いてやれ!結果は俺に報告に来るがいい!期待しておる!」と言って“安さん”は徳永さんを連れて2階へ上がって行った。みんなから、一斉に安堵のため息が漏れる。そんな中、「Y、“全責任を追え!”って言われたも同然よ!アンタ、どうするつもりよ!」恭子が腕を掴んで身体を揺さぶる。「いや、そうでも無さそうだよ。“後ろは任せた!俺達は前を煽り手を打つ”とも取れる。これで、少しはやり易くなる。品証も協力してもらえますよね?」僕は、早紀さんや実里ちゃんに声をかけた。「勿論です!Y先輩の手腕に期待してますわよ!」とニッコリ笑う。「でも、宮崎ちゃんはどうするのよ?」神崎先輩が肝心な点を言う。宮崎さんは、半泣き状態だ。パートさん達に支えられてはいるが、ショックは隠せないでいた。「何もする必要がありませんから、今まで通りにしてればいいんですよ。変に髪を染め直したりしないで下さいね!オシャレをして何が悪いんだ!女の子の権利を剥奪することはさせませんよ!」「けど、“安さん”にどう報告するんだよ?あの人の事だ、余程の事が無い限り納得しないぜ!」田尾も懸念を示した。「手はある!その言葉の内を読み解ける人なら、分かるはずさ!ダメだったらそれまでだけどね」「そこまでして、何を狙ってるのよ?」恭子も心配そうだ。「返し・検査・出荷を一体で運用するのさ。既に素地は今月に作ってあるから、更に連携を強化したいだけさ。後ろが盤石なら、問題の目は前に向く。そして、前とも連携できれば、増産しても耐えられるだけの体制が整う。“安さん”にしても、それが分からないはず無いだろうに!」「それで、徳永さんをわざと溺れさせたの?」神崎先輩が呆れたように言う。「あの場面でやるのは流石に気が引けたけど、いずれはやらなきゃならなかった事。早まる分には、早く片付けて置きたかったしね!さあ、解散しましょう。遅くまでありがとうございました!」僕は“武田の騎馬軍団”と呼ばれた“おばちゃん達”を引き上げさせた。「ごめんなさい!あたしのせいで、重荷を負わせてしまって・・・」宮崎さんが袖を掴んで泣いていた。「気にしないで。いずれはやろうと決めてた事だし、宮崎さんに責任は無いもの!」僕は、両手を握って泣いている彼女に語り掛けた。「Y先輩、これですよね?」早紀さんが1枚の紙を返しの作業室から持って来てくれる。「“人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり”か」「何だよ?これ?」神崎先輩の読み上げに、田尾が反応した。「“どれだけ城を強固にしても、人の心が離れてしまえば、世の中を収める事は出来ない。熱い情を持って接すれば、強固な城以上に人は国を護ってくれるし、仇を感じる様な振る舞いをすれば、いざと言う時自分を護るどころか裏切られ窮地に立たされる”信玄の言葉ですよ。徳永さんは危うく“仇”を作るところだった。陰で見ていた“安さん”も危ういと感じたから止めたんでしょうよ。これが、読めなければ組織を束ねて行けるはずが無い!」「これが答え?」恭子が言う。「ああ、これから行って来るよ!多分、あの人なら読めるだろうよ!」僕は2階の管理室に“安さん”を訪ねて行った。そして、例の紙を差し出した。しばらく無言で目を落としていた“安さん”は、「小賢しい奴めが!“後ろは固まりつつある。前を煽り改善しろ!”と言うのだな!ふん!いいだろう!やってやろうじゃないか!確かに、結果は明確に出た。これから手を回さなくてはならんのは、下山田と橋元だ!徳永を“仇”にせずに、溺れさせたのも見事だった。あの場面で“遺恨を残す”のは一番マズイ事だ。貴様の心意気に免じて、今回の事は“不問”にしてやろう!来月は、更に数量が増えるし、鍵は前にある!炉は時間を変えられんし、1度入ったら止め様がない!下山田と橋元に踏ん張ってもらわねば、来月は“落ちる”確率が高い!Y、“後ろの仕置き”は任せたぞ!“武田の騎馬軍団”を率いて敵を蹴散らして行け!前は我々で引き受けるし、落武者狩りも引き受けてやる。“戦国最強”の武勇を存分に示せ!徳永!Yが答えを持って来た。読み解いて見るがいい!」“安さん”は紙を徳永さんに手渡した。「Y、見た事も無い景色が浮かんで来たな!もっと、存分に暴れまくれ!あそこを取り仕切れるのは、お前しかおらん!信玄の知略と攻めに期待しているぞ!下がっていい!」徳永さんは首を捻っていたが、“安さん”は一目で看破した。こうして、僕は検査と出荷に対しての権限を手に入れた。実質的に“焼成炉から後ろ全般”の指揮を執る事になったのだ。これにより、一体運用は更に1歩踏み込んで動いて行くのだった。

そして、金曜日。当初の予定を上回る成績で6月は締められた。総括演説で“安さん”は、「危機的な状況を逆転出来たのは大きい!“武田の騎馬軍団”無くして、今日は来なかっただろう!今月のMVPは、文句なくYにくれてやる!来月からは、コイツが後ろの指揮を執る!問題は、整列・塗布の2工程の効率化と安全の担保にかかっている!来週からは、重点を前に移す!総力を挙げてかかれ!」と号令した。終礼後、神崎先輩と恭子が肩を叩いた。「Y、やったね!」「これで、あたし達の思う通りに仕事が出来る!大きな1歩よ!」「いえ、まだまだですよ。やっと入り口に達したばかり。正念場はこれからですよ!」「でもね、ここまで来た事に意味があるの!声さえかき消されて来た過去を思えば、雲泥の差なのよ!やっと“認められた”のよ!宮崎ちゃんの事にしても、下手をすれば制圧されてた!あなたが全てを変えて行くの!歴史的な転換点なのよ!」神崎先輩は感慨深く言う。「岡元の運命も変わったわ!整列から焼成炉へ配置転換になるの。もう、戻る“椅子”すら無くなるわ!Y、これで“姑息な手段”で、蹂躙される事も無くなるの。存分に指揮を執りなさい!あたし達は、信玄公に付いて行くから!」恭子は両腕を掴んで、言い聞かせる様に言った。「まだ、先は長い!落さなくてはならない城は数多ある!甲斐は平定したが、西への出口を開かねば、京への道は開けない!厳しい戦いになるよ!」「例え、倒れても誰かが続くわ!“武田の騎馬軍団”は止められない!真っ先駆けて行きなさい!総大将を見捨てる者は居ないから!これからよ!あたし達の真の力を見せ付けてやりましょう!」神崎先輩が手を差し出す。「急がないと置いていきますよ!」僕は笑って手を握った。2ヶ月にして、僕は“総司令”に据えられた。率いる者達は70名を超えるのだ。望むべくも無い地位に立ったのだが、責任も一気に重くなった。「真の戦はこれからですよ!」僕は、2人と語らいながら、建屋の中へ戻った。

「Y、ちょっと路肩に停めてよ!」恭子が悲鳴を上げた。「どうしたの?ブラのホックでも外れたの?」「うん、冗談抜きでそうなのよ!1つだけサイズの小さいブラがあるのよ!どうも、間違えてして来ちゃったらしいわ」恭子は助手席で身をくねらせて、ブラと格闘していた。「えーい、面倒だから取っちゃえ!」勢い良くブラが後席に投げ出される。「パンティはいいのかい?」野暮な事を聞いて見ると、「下は問題ないの。どうせ、Yにあげるつもりだし!」と意に介す風が無い。白いワンピースは、恭子の体にフィットしたサイズなので、覗かれる心配は無いだろう。「さあ、前進よ!」恭子の指示でスカイラインは、加治木ICを目指す。九州自動車道経由で宮崎自動車道へ乗り入れるためだ。時刻は午後5時半。日はまだ沈まない。「2階の連中も、概ね好意的に受け止めてるわ!早紀の話だと、井端さんなんかは“積年の課題にやっと手が回るのか!”って、ホッとしてるらしいわ。徳永もそうよ!前も後ろも“問題だらけ”の泥沼から抜けられるんだもの!向こうだって内心ホッとしてるんじゃないかな?“安さん”にしても、心中は“してやったり!”で踊り出したいはずよ!これからは、前工程を追い掛ければいいんだし、労力も節約出来るし、目の配り方も変えられるはず!みんなが待ち望んでいた状況が、やっと出来上がったのよ。反発云々は心配する事は無いわよ!」「だとすると、次なるターゲットは橋元さん達だな。下山田さんは引き続き監視対象だろうが、塗布工程の効率化も喫緊の課題になるだろうな。僕等“武田の騎馬軍団”としては、徳田・田尾を“楽にしてやる”方策を考えなきゃならない!それには、“貯金”と“相互乗り入れ”が鍵になる。検査の方は、神崎先輩に一任するが、恭子とちーちゃんも補佐に付いてくれよ!」「了解、検査は“クロス作戦”を展開する予定よ!基本は、Yが返しで取った方法と同じ。“縦割り組織”を“横断型”に転換するの!誰が休んでもカバー出来る体制を整えるわ!それと、宮崎ちゃんからのご要望よ。“明日、付き合って下さい!”だって。千絵も永田ちゃんも、今回は“謹んで進呈します”って譲ってくれたわ!彼女はアパートで1人暮らしだから、あたしと千春が立ち会うけど、いいわね?」「否応無しでしょ?時間は?」「朝からよ!何をしたいか?は宮崎ちゃん次第になるけど、覚悟しときなさい!」「はい、はい!それは、一先ず置いといてだが、今夜は何処まで行くんだ?」「気分次第よ!日はまだ沈んでないもの。ともかく前に行きなさいよ!」恭子は、肩口を叩いて“スピードを上げろ!”と言う。スカイラインは、加速して追越車線を駆け抜けた。結局は、宮崎市内まで駆け抜けて日向灘に出た。一ツ葉道路の路肩に車を停めて、2人揃って海を眺める。「夕日に染まる海も悪くないでしょう?Y、ご苦労様!」恭子は唇を重ねて来た。海風に髪が流されて綺麗だ。「信玄公の“正室”って誰なの?」「“三条の方”。京都の公卿の家から嫁いでるよ」「公卿か・・・、あたしの家そんなに身分が高い訳じゃないけど、いいでしょ?」「何を言うか!“正室”は恭子にしか務まらないよ!それにこんな“甘ちゃん”を手放すつもりも無いよ!」「あなたの前だから、“甘ちゃん”なの!本来の姿は、誰にも知られたくないもの。田尾が“鉄の女”なんて言ってるから、そう演じてるだけよ。本当は、知っての通りなの!」「じゃあ、今日は、何処で甘えるつもりだ?」「折角、こっちに出て来たんだもの、もう少し海を見ていたな。浜辺で座ろうよ」恭子は、無謀にもヒールを履いたまま、土手を降りて行く。2人して砂浜に座り込むと「あたし、もっと早くYに出会いたかった。そうすれば、高校時代を棒に振る事も無かったのかな?って思うの。でも、不思議だよね。今は、何にでも落ち着いて向き合えるし、公私共に充実してる。Yが実質的に“総司令”に座ってくれたのが、何よりも大きいの。これで、思う存分に出来る!“かき消された”時代は終わった。これからも、あたし達の話を聞いてよね!」そう言うと肩にもたれかかる。「治世を執るにしても、“内政”を疎かにはしないよ。みんなが居てこその“改革”だから、これからも意思疎通を取りながら、“外敵”に立ち向かうさ!ただ、無用な戦はしないよ。力で屈服させるのが“一番やってはならない事”なんだ。これからは、話し合いを重ねて行きながら進める。力を使うのは最終手段さ。もう、血を流さずに行けると思うよ!」「そうして。思う通りにやりなさい!後、一山越えれば“全く違う景色”が見えるはずよ!」「そうさ。それを見たいからこそ、ここまで来たんだ。来月が鍵になるな!」「うん!」恭子は腕を絡ませて身を寄せて来る。海辺での静かな時間の後、宮崎市内へ戻り“2人だけの部屋”に行くと、恭子はいつにも増して“甘えて”来た。激しく身体を動かし合って、何度も絶頂に上り詰めては注ぎ込んでやる。その夜は、恭子も僕も心ゆくまで逢瀬を重ね続けた。

明けて、土曜日。宮崎さんの自宅アパートは、国分市の西部にあった。白壁の洒落た作りで、2階の一番東に部屋を借りていた。愛車は緑のRX-7。しかも、MT車と言う拘り様である。これまで、彼女との接点は意外にも少なく、直接会話も数える程しか無かった。ただ、仕事は正確無比で“針の先”すら見落とす事は無く、信頼も高かった。初対面の人が、必ず“ブッ飛ぶ”と言われた髪の色、つまり緑色(ベースは黒髪なので、わずかに緑に見える程度)なのだが、これまで唯一“Noリアクション”だったのが、僕だけだったらしいのだが、彼女にして見れば“異例の事”だったらしく、関心は持っていたとの事だった。しかし、如何せん、共通の接点が少なかったのが響いて、今日まで余り踏み込んでの話も出来ずに居たのだが、宮崎さんからの“リクエスト”を機会に、突っ込んだ話もあるだろう。“お目付け役”は、恭子とちーちゃんが務めてくれるし、出かけるにしても不便の無い様にちーちゃんの愛車ブルーバードが選ばれて居た。予定時刻ピッタリに現地に着くと、宮崎さんは出かける支度をして、部屋から出て来ていた。「Y,ほれ!」ちーちゃんがキーを放り投げる。助手席に宮崎さん、後部座席に恭子とちーちゃん。必然的に“運転しろ!”と言うのだ。問題は、何処へ向かうか?だった。「宮崎ちゃん、何処へ行けばいい?」ちーちゃんが聞くと「鹿児島市内へお願いします。服を見て欲しくて。あたし、背が高いから、サイズが中々無いんです」と言う。確かに、宮崎さんは背が高い。僕が170cmなのに対して、彼女は175cmあるのだ!しかもヒールを履いているので、完全に見上げる格好になる。「Y,行くよ!国道を飛ばして頂戴!」恭子がアゴをシャクる。「いざ、前進!」僕はブルを走らせた。流れに乗って快調に南西を目指す。「あっ、コレ面白そう!Y,カセットテープ流してよ」肩越しにちーちゃんがテープを差し出す。選ばれたのは、“Tokyo bay freeway”、滝とのオリジナル企画作品集だった。スタート曲は「あたしか?」と恭子が笑う、岩崎良美だった。「コイツ、女性アーティストの曲しか聞かないから、勘弁してね!」と断りを入れた。「これ、どう言うコンセプトなんです?」宮崎さんが問う。「首都高速、湾岸線をクルーズするためのテープですよ。CMも入ってますから、驚かないで下さいね」と返すと「物凄く手間暇かけてるんだ。でも、景色にはマッチしてますね」と言う。左に錦江湾と桜島、国道と線路は外輪山の麓ギリギリの場所を通っている。海沿いには間違い無い。「Y,“Night driving music”も、同じくでしょう?“中央フリーウェイ体感テープ”だって言ってたけど、実際に体感してるの?」ちーちゃんが言う。「勿論、実際に体感してますよ!昼夜両方共に実験は済ませてあるんです。場所も問わずに流してもいい様に企画してますからね!」「凝るのねー。こう言う拘りは半端ないね。男子は、テープの種類から長さまで、とことん突き詰めるもんね!」ちーちゃんが半ば呆れて言う。「“一応”Yも男子なんだから、それは当たり前でしょ!」恭子が微妙な言い回しをすると、「オカマさんなんですか?」と宮崎さんに笑われる。「無い!無い!恭子、変な事言わないでよ!あたし達の大切な“殿”だよ?!オカマだったら困るじゃん!」とちーちゃんが否定するが、車内は盛大な笑いに包まれた。しかし、僕は内心“ヤバイ!”と思っていた。恐らく、アパレル店舗に行くのだろうが、“荷物持ち”は厭わないが“下着売り場と水着売り場”を避けて通るのは不可能に近い!“3人が共謀すれば、地獄を見るなー!”嫌な予感に背筋が凍るのを覚えながら、車は鹿児島市内へと乗り入れて行った。

“嫌な予感は当たる”を地で行くハメに陥った。女の子3人組が、まず向かったのが“水着売り場”だった。メンズの取り扱いもあるのだが、3人が単独行動を許すはずが無い!「Y-、試着するから見に来てよ!」早速、ちーちゃんが暴走を始める。豪快な性格もあって、見られる事に対しての抵抗感すら無い様だ。試着室から頭だけを出して、周囲を窺った彼女は、僕を素早く中へ引きずり込んだ。「ほら、“おっぱいちゃん”だよ!触ってよ。久しぶりでしょ?あたしの?」ちーちゃんは、僕に触らせてからホックを外して、更に太腿にも手を導き出す。「もっと、エッチな事もして!」ちーちゃんは火が付く寸前だ!その時、「Y―、Y、どこよ?」恭子が探す声がした。「うーん、邪魔されたか。次は、あたしの番だから、日曜日空けといてよ!」ちーちゃんは悔しそうに言うと、外を窺ってから僕を解放した。「Y、どこに居たのよ?」「手荷物係として、この裏におりましたよ!」咄嗟にトボけに走って逃げ切りを図る。「ちーは何処よ?」「あたしならここよ!試着終わったから、直ぐに出るね」ちーちゃんもトボけて言う。「アンタ達、不埒な事してないでしょうね?」恭子が痛いところを突く。「無い!無い!恭子、心配し過ぎよ!」ちーちゃんが姿を現して言った。「ちーがそう言うなら間違いないでしょう。Y、宮崎ちゃんの選んだヤツ、見せてもらいな。感想が聞きたいそうよ」宮崎さんが袋の中身を見せてくれた。緑を基調に選んでいる。「可愛いですね。緑色を選ぶ理由は何です?」「名前が“緑”なんです。みんなに“みーちゃん”って呼ばれてたから。これからは“みーちゃん”でお願いします!」彼女はそう言って笑った。“地獄の売り場”を後にすると、やっとトップスやボトムス売り場へと雪崩れ込む。少しは、安心させられる場所だ。3人それぞれにお目当ての服を見て歩き出した。僕は、みーちゃんに同行してトップスから見て回った。「恭ちゃんやちーが羨ましいなー。あたしは、見ての通り背があるから、選択肢そのものが少ないの」みーちゃんは苦労していた。そんな中でも、ワンピースで大きめのサイズを見つけると「これ、どう?」と聞いて来た。「着て見たら?」試着を勧めると、嬉しそうに荷物を預けてから、試着室に入った。色は彼女の基調色とは言えないが、サイズが合うなら買って置かないとマズイだろう。カーテンが開けられると、みーちゃんが「どうです?」と聞く。サイズもゆとりもあり、何より似合っていた。「決まりでどうです?」「うん、押さえとく。もう2着は揃えたいな」と言ってカーテンは閉じられた。結局、後の2着の内、僕が1着を見つけてやり、みーちゃんも1着を気に入って購入した。「男の子に選んでもらったの初めてなの!」みーちゃんは嬉しそうに笑った。「Y-!」「荷物持ってよー!」恭子達も手提げ袋を持ってやって来た。かなりの荷物だが、軽いのでキツくは無いが、嵩張るのが難点だ。「車のトランクに入れて来るよ!次はどこへ行ってる?」「1フロア下。なるべくまとまって居るから、迷わないでよ!」ちーちゃんが言う。立体駐車場は2階層上だった。「了解。直ぐに追い付くよ!」僕は、立体駐車場へのエレベーターに向かった。1度見た場所は、頭に入っていた。逆に辿って行けば迷う心配は無い。それにしても、女性の買い物は長いし、目移りが激しくて疲れるものだ。無事にブルへたどり着きトランクを開けると、大量の袋を仕分けてからリッドを閉じた。「まだまだ、長いだろうなー!」先行きに不安を抱きながらも、僕は指定されたフロアを目指して降りて行った。