limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 69

2019年11月28日 16時51分03秒 | 日記
水曜日の朝から、徳永さんと今村さんが首を傾げながら、返し、検査、出荷の後工程を巡りに来た。「Y,製品は何処にある?まさか、廃棄した訳ではあるまい?」「月曜の朝に、嫌と言う程に積み上げたんだ!それが、何処にも無いとはどう言う事だ?」2人は盛んに首を傾げる。「殆んど生産計上してありますよ!そんな事より、製品を流して下さい!間もなく手が止まりそうです!」僕は涼しい顔で答えた。「そんな馬鹿な!あれだけの量を僅か3日で押し返せるはずが無いだろう!」今村さんは、簡単に認め様としなかった。いや、認めたく無かったと言うのが正解だろう。日曜日の晩からフル回転で仕上げたのだ。それを意図も容易く、終わらせられるはずが無いと踏んでいたのだろう。僕等は、彼の思惑を完全に打ち砕いたのだから、青ざめる今村さんが可笑しくてたまらなかった。「コンスタントに計上している事、実際問題、検査が後1日で切れるところまで追い込んでいる事、今村よ、またしても“武田の騎馬軍団”にしてやられた事は間違い無いぞ!」徳永さんが、やっと現実を受け入れ始めた。「どうやら、認めなくてはなりませんな。Y,お前さんの“騎馬軍団”の進撃ペースを少し落としてくれ!我々としては、体制を立て直す時間が必要なんだ!」今村さんが泣きを入れて来る。「冗談じゃありません!前月比30%の上乗せ+αを目指して行かなくてどうします?来月は、中抜けがあるんですよ!先行しなくてどうしろと言うのです?」こちらが噛み付くと、2人は沈黙せざるを得なかった。理はこちらにあるのだ。落とすよりは積み上げた方が、いいに決まっている。実際、出荷は来週の月曜の分まで計上してあるし、文句を付けられる筋合いは無い!「問題は、整列工程の遅れですよね?僕が“殴り込み”に行って来ますよ!下山田さんは、何も見えて無いらしいですから!」僕が手を止めて、出かける支度を始めると「待て!待ってくれ!“信玄公”が自ら殴り込んだら、下山田は腹を斬りかねん!俺と今村で話を付けて来る!済まんが、控えてくれ!」と2人がかりで、制止される。「しかし、最早、時間の問題です!このままでは、50数名が遊んでしまいますよ!現実を知らせないとマズイ事になります!」と断固、“殴り込み”を主張すると、「とにかく、待ってくれ!ヤツの面子を潰す訳にも行かん!俺と徳永さんで煽るから、何とか繋いでくれ!切らせるのが一番マズイ!Y,お前の意思は必ず伝える!塗布工程も最善を尽くして応えるから、“総大将”が行くのは控えてくれ!」今村さんは強引に僕を押し留めると、足早に徳永さんと整列工程へ向かった。「今頃、磁器が届いて“総員戦闘配置”だろう。さて、どのくらいのペースで追い上げられるかな?」僕が呟いていると「Y、悪趣味だぜ!追い付かないのは目に見えてる!整列工程が耐えられるとは思えねぇ!」田尾が顔を出して言う。「実質、月曜日出荷までは先行してる。一部は火曜日以降のヤツまで食い込んでる!そろそろ、“潮時”じゃないか?」徳さんも言う。「だが、まだ先は長いし“飛び込み”も控えてる!計上出来る限り、積み上げて欲しい。こんな余裕を噛ませてられるのは、今週限りだ!手を緩めずに先へ進んでくれ!我々も出来る限り先行させる!“もう、1枚も地板がありません!”って言うまで追いつめてやる!そうしないと、今月は乗り切れない!」僕は危機感を煽った。「総司令がそう言うなら、やるしかねぇな!徳さん、掻き集められる限りやりますか?」「確かに、来週以降にならないと、磁器が納入されないヤツが半分以上残ってる!今が最初の山場だとしたら、指を加えて見てる場合じゃないな!」田尾と徳さんはパソコンに向き直り、計上可能なロットの検索を再開した。「冗談抜きで、後1日も持たないわよ!どうするつもりなの?」神崎先輩が心配そうに言いに来た。「遅れているのでは無く、先行してるのですから、文句が来る方が間違ってますよ。今一度、先頭から煽りを入れさせてますから、繋がる余地はあります。しかし、停滞してもやる事はあるでしょう?」「ええ、“検査実習と認証”をする時間は取れる!早紀と実里に声はかけてあるのよ。“品証の認証”を得るには、充分な時間と言えるわね!こっちは、それで凌いで行くから切れない様に繋いで頂戴!」「了解です」僕等はフッと笑った。これほどまでに上手く転がるとは、予想外だったからだ。「そろそろ、“安さん”が乗り込んで来るでしょう。さて、どう反応するか?愉しみに待ちましょうか?」悪戯っぽく笑い合うと僕等は更に追撃を加速させた。

その頃、整列工程では、徳永・今村の両名から知らせを聞いた下山田さんが、顔面蒼白で立ちすくんでいた。「例月の倍以上の製品を投入しても“もう切れる!”ですって?!あれだけの砲撃を加えても“武田の騎馬隊”の進撃は止められないのか?!“信玄”の追撃を止めて下さい!こちらは、次の砲撃の準備にかかっている最中です!今、この瞬間も追いつめられているとしたら、もう我々の手には負えませんよ!潰されてしまいます!」血の気を失った顔で下山田さんは訴えた。「だがな、理は向こうにある。“前月比30%の上乗せ+αを狙う”と言われれば、事業部としては文句は言えんのだ!遅れているのではなく、先行してい居るのだから、何も言えんのだ!」徳永さんも困惑を隠さない。「最大級で急いだとして、頭はいつ出せる?」今村さんが問い詰める。「今夜の夜勤の後半ですよ。外注もフル回転させたとしても、金曜日には一旦途切れてしまうでしょう。“馬防柵”を突破されてますから、手立てがありません!“信玄”に城を包囲して待機してもらうしかありません!」6月末から月曜にかけて入荷した磁器は全て投入されていた。その次となる磁器がやっと届いたばかりなのだ。下山田さんの計算では、次の砲撃までは充分に持つはずだったが、僕等の処理能力は、それを一気に押し潰したのだ。「ともかく、急ぎますが“切れる”のは覚悟して下さい!体制を立て直す暇も無いのですから!」下山田さんは、作業を急ぐ様に次々と指示を出して行った。「今村、“安さん”に相談しに行くか?」徳永さんが言い出した。「ええ、我々ではどうしようもありません。しかも、遅れている訳ではなく、先行しているのです!“信玄”の追撃を止めるなら仕方ありませんね。シモ、“安さん”に助けを要請しに行こうぜ!」「“武田の騎馬隊”を止めるには、それしか無いよ!」3人は、2階の管理室へ向かった。

「ははははははは!“信玄”めがやりおったか!」“安さん”が涙目になって笑い転げた。「“前月比30%の上乗せ+αを狙う”とは、大きく出たな!だが、方針としては間違っておらん!下山田、体制を立て直すのに時間はどの程度必要だ?」「今週末に休日返上で動いてやっと追い付くレベルです。“武田の騎馬隊”の進撃ペースが速すぎます!」「今村、そっちはどうする?」「やはり、土日返上で動いて置かねば、納期に間に合いません!Y達を止める以外に、この危機的状況を脱するのは不可能かと」「徳永、進捗状況は?」「来週の月曜日出荷までは、既に計上済です。使用高倉庫にブツは入ってます。営業に再度確認しなくてはなりませんが、例月の様に営業から“催促を喰らう”心配は無さそうです!」徳永さんは進捗状況を“安さん”に見せた。「ふむ、これらは全て、Yが仕組んだに違いない!例月だと、ぼちぼちしか上がらないモノが、すべからく計上されているとは、先を見越して手を回したとしか思えん!恐らく、中旬以降を見抜いての“策”だろうが、見事に当たっておる!悔しいがこうなるとは、予測もしなかった俺のミスだ!小賢しいヤツめが!」口調とは裏腹に“安さん”の目は笑っていた。「徳永、こうなっては手の打ちようが無い!ブツが溜まるまで、“信玄”を止めるしかあるまい!後工程の連中には、金曜日に“有給休暇”を取得させろ!“武田の騎馬隊”には“城を包囲して待て!”と伝えろ!下山田は、この隙を最大限に生かして砲撃を開始しろ!磁器の納期は前倒しさせるし、煽りもかけてやる!連続砲撃の準備を整えて置け!今村は、橋元と連携して、炉の前と後ろに“要塞”を築き上げろ!今度こそ“武田の騎馬隊”の息の根を止めるんだ!こうなるとは予測外の事態だが、むしろ俺としては“面白い展開”になって来た事に喜びを感じる!“信玄”めが!油断も隙も無いとは、やってくれるじゃないか!」“安さん”は微笑みすら浮かべていた。「では、直ちにかかります!」徳永、今村、下山田の3名は直ちに管理室を辞して行った。入れ替わるように、品証の井端責任者が入って来て「安田さん、検査の神崎から、“検査技術認証試験”の要請が多数上がって来てますが、これはどう言う事です?」と言った。「恐らく“信玄”の策略だろう!ヤツめが!検査工程も“改革路線”に乗せる算段を付けた様だな!スピードアップの秘策だろう。至急、“試験”を実施して欲しい!今月のみならず、次月以降の鍵になるだろう。返しに続いて検査工程までも“騎馬隊化”するとは。誰も考えもしなかったが、やるだけの価値はありそうだ!手間をかけるが宜しく頼む!」“安さん”は即断で容認して井端さんに依頼をかけた。「“信玄”の思惑は何です?」「既にウチの前工程が手詰まり状態に陥っておる。増産に向けた布石に間違いは無いだろうが、こうも早くに“見た事も無い景色”を見せ付けられるとはな!“後ろは、増産しても耐えられるだけの体力がある!”と言いたいのだろう。こうでなくては、営業の尻を叩く愉しみが無くなるし、半期の決算に向けての数字が跳ね上がり、通期で前年を上回る成績を残す愉しみが見えて来た!“お荷物事業部”の汚名を晴らす絶好の機会!逃す訳には行かんだろう?」「しかし、こんなに早く、しかも確実に数字が出て来るとは、にわかに信じられません!」「井端、“質”は向上しているんだろう?」「ええ、“特採申請”の数の減少と検査での“歩留まり”向上は、間違いなく進んでます!」「ならば、この波に乗らない理由は無い!後ろは“信玄”に任せておけばいい!問題は、むしろ前だろうな!休眠している“半自動整列機”を使いたいが、お前としてはどう思う?」「“馬鹿よけ”が担保されるなら、止める理由がありません。既に、現有設備はフル回転しても間に合わないのでしょう?」「これから、更に事態は深刻化するだろう。ともかく、前をしっかりとさせねば、増産も覚束ない事になる!これから、技術陣を総動員して、改修に当たらせて来週には稼働させたい。立ち上げの際には、付き合ってくれ!」「分かりました。“試験”も含めて予定に入れて置きますよ。それにしても、1人の首を挿げ替えただけで、こうも変わるとは驚きましたよ!」「それだけ、“潜在能力を秘めていた”と言う事だろう?あの時、散々議論して置いて正解だったな!」「私も、まだ“人を見る目”を養わなくてはなりませんな。彼には驚かされるばかり。帰すのが惜しまれますよ」「俺は、帰すつもりは更々無い!“信玄”無くして事業部の立て直しは不可能だ!本部長にも“刺し違える覚悟で引き抜いてくれ!”と言ってある!稀代の英傑を手放すなどさせるものか!」「同感です!彼は事業部の“宝”。部下達も“みすみす帰すつもりは無い”と言ってます。もし、帰還させるとしたら、猛反発を喰らいますよ!」「だろうな。ヤツは、既に事業の中核を担っている。失うとしたら反動は大きいだろう。安定路線に乗るまでは、ヤツに辣腕を振るってもらわなくては、先行きが怪しくなる!さて、“信玄”に言い聞かせて来るか!“城を包囲して待て”とな!」“安さん”は御輿を上げて管理室を出た。「先行しているのに、止めなくてはならんとは、何とも奇妙な事ですな!」井端さんが笑う。「だから、ヤツは恐ろしいのだよ!手抜きは一切無しだ!この俺に“前が詰まっておるから手を引け!”と言わせるとは、如何にも小賢しい!」“安さん”もニヤケて笑っている。2人はそれぞれに別れて歩き出した。

“阿婆擦れ女4人組”の内、有賀だけはサーディプ事業部に引き取られる事になった。それも、“大ピン”を担当する部署の検査工程である。責任者に連れられて、僕等の行程へ見学に来た頃に、“安さん”がやって来た。「Y、ご苦労!話がある!全員をここへ集合させろ!」「はっ!」僕は田尾を通じて、検査室へ全員集合を伝達した。有賀達も遠巻きに見守っている。「みんな、ご苦労!月初でありながら、ここまで前工程を煽った事は見事だ!下山田は、例月初の倍以上の磁器を投入したが、“武田の騎馬軍団”の凄まじい進撃の前に屈した。俺の目論見は、見事に外れて体制を立て直す事態に陥った!そこで、明後日はここに居る全員に有給休暇を取得して休んでもらう!最早、それしか手は無いのだ!計算外の事態だが、承知してもらいたい!Y!貴様の手腕は“凄まじい”だけで無く“末恐ろしい”モノだな。下山田も今村もペチャンコにしおって!再起させるのに苦労する身にもなって見ろ!だが、貴様の快進撃もここまでだ!休眠させてある“半自動整列機”も実戦に投入する!月曜日には、この部屋に“要塞”を築いて置く。如何に勇猛な“武田の騎馬軍団”をも跳ね返してくれる!覚悟はいいな?」言葉の激しさとは別に、ニヤニヤと笑って話す“安さん”の姿は返って不気味だった。「勿論です!どんな“要塞”でも突き崩して進んで見せましょう!」「良く言った小僧!覚えて置くぞ!後から泣きついても手遅れになるぞ!最も、貴様が簡単に引き下がるとは思っておらん!もっと突き上げて来い!攻めて来い!俺はいくらでも受けて立つ用意と覚悟がある!よし、全員職務を切り上げて休むがいい!Y、お前は残れ。解散!」“安さん”は解散を命じたが、僕は有賀の前に連れて行かれた。「この男の凄まじさを感じたか?50数名の部下を指揮して、この後工程全体を取り仕切る“総司令官”だ。君もO工場から来たのなら、これぐらいに活躍してもらわなくては困る。1日も早く戦力となれ!」“安さん”はそう言うと、有賀と責任者を激励した。「Y、これからの作戦だが、来週の水曜日までには“要塞”を突破出来るだろうな?」「はい、午前中には追い付く予定を立てますが?」「次の磁器納入は、どんなに急かせても水曜日の午前中がリミットになる!それ以降は、日追いにならざるを得ない!その辺を踏まえて作戦を組み立てろ!今度切れたら、繋げるのに更に時間を要する事になる!“手加減をしろ”とは言いたくは無いが、生産が間に合わないのは事実だ!後、1週間だけ待ってくれ!その間に体制を立て直す!前を改善するには、まだ時間が必要なんだ!上手く切れない様に回してくれ!」“安さん”は珍しく本音を漏らした。「了解です!出来れば突っ走りたいところではありますが、来週は、返し全員が揃う日が3日しかありません。“要塞”を包囲して、慎重に突き崩していきます!」「うむ、任せたぞ!その辺の攻め方は心得ているだろう?貴様の采配に期待する!」“安さん”は肩を叩くと引き上げて行った。「あれが、“安田順二に雷を喰らって無い男”の実力だよ!君は、大変なヤツと比較される事になるな!」有賀は呆然と僕を見ていた。そして、悟った。“Yは、途轍もない高みに挑んでいる!神の頂へ!あたしも負けてはいられない!”「O工場では、無名の戦士です。直ぐに並んで見せます!」有賀は不敵な笑いを浮かべて言った。だが、彼女は後にこう言っている。「全体を俯瞰して指揮するのがどれだけ大変か?あたしには見えて居なかったの。アンタ、物凄い力を出してたのね!追い付くどころか陰すら踏めなかったわ!」と述べている。自らの居場所を見出して、力を出すのは容易では無い。だが、僕は見つけてしまったのだ。真の力を発揮出来る場所と仲間たちを。

翌日、完全に行き詰った僕等は、半日での切り上げを余儀なくされた。「月初だから許さるが、こんな調子で今月乗り切れるのかよ?磁器の納入予定をチラッと見て来たが、来週の水曜日以降は、大口がねぇよ!ロット単位で日追いになっちまってる!」田尾が石を蹴って言う。「そうなると、相当に苦しくなるわね!下山田が倒れなければいいけど・・・」恭子も懸念を示した。「整列機をフル回転させて、外注もフル回転。整列と塗布で詰まった反動が、時間差でこっちへ降りかかるか。波があるのは仕方ないが、如何にして“平準化”させるか?調整はこっちで取らなきゃならない。来週が勝負の分かれ目だろうな!」「Y先輩、“安さん”から“速度を落とせ”って言われてるんでしょう?どうするんです?」永田ちゃんが言い出した。「“速度を落とせ”とは言われてないよ。“上手く調整しろ”と言われただけさ。速度を緩めるなんて、“失礼”な事はしない!攻撃の速度は維持し続けるさ!最速で処理するのが、僕等の仕事さ!悲鳴が上がろうが関係ない!」「“信玄”の攻撃は手を緩めないって事?」千絵が僕の顔を覗く。「手は抜かない!足りなければ煽りに行くだけさ!」「でも、それじゃあ、亀裂を生まない?」ちーちゃんが不安げに言う。「8月は更に上乗せが来るだろう。それに付いて行く素地は、今月の内に決めなきゃならない。喧嘩になろうとも、次月のためにも戦う覚悟は持って行かなきゃ負けるよ!“安さん”だって負けるのは望まないだろう?嫌なら、それに見合う体制をとってもらうしかないよ。僕等は“勝てる体制”を整えて待ってるんだ!それに付いて来れなければ、人手を増やしてでも対処するしか無い。伸るか反るか?大勝負に打って出たのは上の判断だ。僕等は出来る事を確実にこなして行けばいい!そうすれば、誰にも文句は言わせない!」「強いな!その覚悟、俺も乗ったぜ!」田尾が肩を叩いた。「当然、あたし達もYと心中する覚悟よ!あたし達は引き返さない!」恭子が女子を代表して言う。「それはさて置き、明日がガラ空き!予約はどうするの?午後4時以降は、あたしが取るけどみんなは?」「午前中にあたしを入れて!」永田ちゃんがリベンジに燃えている。「日曜日は、あたしが!」千絵もリベンジするつもりだ。「ならば、土曜日は?」恭子が見回すと、実里ちゃんが手を上げた。「早紀先輩と合同で!」「これで埋まったわね。Y、そう言う事で宜しく!」「気ぜわしいのは、毎度の事ですから」僕に決定権は無いのだ。いつもより長い週末は、呆気無く決められたのだ。

寮に戻ると、克ちゃんと吉田さんがおおイビキをかいて、爆睡中だった。作業着から普段着に着替えると、田中さんの部屋の前に行き、車の使用簿を調べた。だが、運の悪い事に全車が荷物の搬送に向けられていた。「第4次隊に占領されたか。まあ、歩くのも悪くないな」と呟くと財布と免許証一式をバッグに詰めて、国分市内へ向けて歩き出す。気の長い“散歩”である。寮から最も近いホームセンターへ行くと、サニタリー関係の欠品を買い集めた。結構な荷物になるが、生活に欠かせないだけに、やむを得ず両手にレジ袋を下げて歩き出す。すると緑のRX-7がクラクションを鳴らして停まった。「Y、乗ってきなよ!」「みーちゃん!助かったよ!」ハッチを開けて荷物を入れると助手席へ滑り込む。「歩いて来るとは、どうしたの?」「足が無かった。自転車も何も無し。だったら、歩くしか無いだろう?」「運動としてはいいけど、炎天下を帽子も被らずに歩くのは日射病の元よ!気を付けて!それで、ついでにお願いしてもいい?」「どうしたの?」「実は、トイレが詰まっちゃったの。お水が流れないのよ。Y、直せる?」「道具があれば、やってみるけど“詰まり防止”の道具ある?」「それを買いに来たのよ!あたしじゃ非力だから、自信無いの。出来そう?」「やるだけやってみるか!ます、どう言う状況かを教えて!」みーちゃんのアパートに着くまでに僕は、出来る限りの状況を聞いた。どうやら、生理用品の破片を流してしまったらしい。再び、みーちゃんの部屋と入ると、トイレと向き合う。溢れる寸前まで水が溜まっていた。掃除用のバケツに水を移してから、道具を手に配水口へ圧力を加える。最初は何の反応も無かったが、やがて水位が下がり出した。「どう?上手く行くかな?」「もう少しさ。バケツを貸して!」水を足して更に圧力を加えると、水位はグングンと下がった。「流して見ようか」通常通りに水を流すと、音を立てて水は流れ下った。「やったぁ!これで一安心!Y、ありがとー!」みーちゃんはキスの雨を降らせた。「ふー、意外に力を要するね。小さなビニールの破片だろうが、この奥は小指の先程の穴になってだけに、わずかな異物でも流れる抵抗になっちゃう。でも、何とか修復出来たからラッキーだったよ」汗を拭うと手を洗わせてもらう。みーちゃんは、アイスティーを用意してくれていた。「Y、これ使って。汗拭きシートだよ」顔に汗を拭いて、アイスティーを飲む。実に美味い!「Y、大抵の故障は直しちゃうよね?治工具だって、全部自分でメンテナンスしてるし」「うん、ボルトが折れたらダメだが、それ以外は何とかしちゃうよ。治工具のせいで“仕事出来ません”とは言いにくいだろう?」「あたしの“メンテナンス”もお願いしてもいい?」みーちゃんは、少し顔を赤らめて言う。「どこ?」「あたしのホール。ほら、もう濡れちゃってるの」みーちゃんはねロングスカートをめくって、パンティを見せた。水色のパンティの真ん中にシミが見える。「毎晩、自分で慰めてるの。早く・・・あたしのホールに・・・指を下さい」消え入るような声でみーちゃんはねだった。抱き寄せてから、指を入れてやると、息が荒くなり声も漏れだした。唇を重ねると舌が絡みつく。彼女は我慢の限界を超えていた。腕を雫が伝い始めると「暖かいのを下さい」と言って盛んにおねだりを始める。息子を潜らせて腰を使ってやると、みーちゃんは声を荒げて抱き着いて来た。「中よ・・・中に出して!お願い!」体位を変えて背後から突きを入れてやり、絶頂に至ると熱い体液を注いでやる。「気持ち・・・いい・・・いっぱい・・・出してくれたね」みーちゃんは満足そうに余韻に浸った。

みーちゃんに送られて寮へ舞い戻ると、鎌倉が戻って来ていた。「おい、有賀がサーディプに引き取られたって本当かよ?」「ああ、大ピン部門にな。こっちには実害は出ないからまだマシだが、よく“安さん”が引き取りに応じたもんだ!」「“安田順二”が駒を拾うとは、何か意味があるんだろう?」「まあ、そうだろうな。“阿婆擦れ女”と承知で引き取ったんだろうが、製品の検査工程だから、時機に根を上げるだろうよ!こっちは、O工場と違って“甘い世界”じゃ無いんだ!」「天下の“安田順二に雷を喰らって無い男”のセリフだけに、説得力はあるねー。メシは?」「食いに行くか。待ってくれ。着替えるから」僕は着替えると鎌倉と共に社食へ向かった。「おい、まさかとは思うが、“信玄の騎馬軍団”に蹂躙されて、有給休暇を取らせるハメに陥ったとは、お前さんの仕業じゃないよな?」「誰だよ?総務にまで言いふらしてるのは?」「やっぱりお前さんか!“安田順二”御自らが言ってたよ!“ウチの信玄にしてやられた!”ってな!」僕等は並んでメニューを選んでボードに取って行き、テーブルに座った。「誰が言い出したか?は知らんが、“信玄”云々と言われてるのは確かだよ」食事をしつつ話は進む。「もう、総務中の噂になってるぜ!“信玄の騎馬隊がディプを変えつつある”ってな。何気に凄い事やってるんだな!」「別に凄くは無いぜ。点を線にしようとしてるだけさ」「誰も考えつかなかった事だろう?」「かも知れんが、普通に連携を取ってるだけさ。違う目線で見られるからな。地の人間には見えにくい事なのは確かだろうが」「それにしても、お前さんの名は総務全体に轟いてる。“革命児”って言ってる連中もいる。これで、ここに留まる理由がまた増えたな!」「鎌倉だって、“管理責任者”のプレートだらけにされてるじゃないか!そっちだって、留まる理由は増えてるだろう!」「お互いに、結構な事だよ。名が“売れてる”って事は、アドバンテージになる!」「だが、そろそろ控えめにしないとな。“売れてる”だけに、やっかみも増えちまう!」「それは言えてるな!派手に“売れた”後が大切だよ」「だから、今月は是が非でも“結果”を求められてる。正念場だろうな」「事業部は数字で出るからな。嫌でも結果は公表されるし」「そうさ。だから、完膚なきまでに叩いたのさ。結果は数字で出る。だから、数字に拘った。結果として有給になっちまっただけさ」「だが、有賀には相当なプレッシャーになるな。嫌でもYと比較されるんだ。化けの皮が剥がれる前に、“強制送還”になった方が身のためじゃないか?」「向こうがどうなろうとも、関係ないよ。既にこっちは手一杯なんだ!」「おっと!噂をすればなんとやらだ!」有賀達“阿婆擦れ女”4人組が現れたのである。距離を保っているが、こちらの様子を伺っている。「Y、退散するか?」「いや、様子を見よう。妙な行動を取る様なら、田中さんに報告しなきゃならん!」僕等は、喫茶スペースへ移動してタバコに火を点じた。「赤羽が苦戦してるよ。“実地で覚えさせるしか無い”って言って大車輪で引継いでる。アイツだけは、先行して“帰還”させるらしいからな!」「天国から地獄へ真っ逆さまか。最もアイツの能力は、出荷業務の枠に収まらんだろう。O工場に戻って、資材を担うのが適材だよ」「確かに。総務関係全般をカバー出来る能力は、稀有だからな」「それにしても、“阿婆擦れ女”を捨てに寄越すとは。上手い手を使うもんだ!」「厄介払いだよ。向こうでも手に余るからだろう?」「本格的に量産開始ともなれば、使い道もあるだろうが、現段階では、然したる戦力にならんから、ここで時間稼ぎに使われるとは」「国分は“人足寄せ場”じゃない!実力の世界さ。まあ、“強制送還”になるのがオチだろうよ」僕等は時折、有賀達を見ながらズケズケとモノを言い合った。タバコを2本灰にすると、僕等はそっと席を立った。ぬるい風に吹かれながら寮へ戻る。「“阿婆擦れ女”4人組が借り上げアパートに入ったのは僥倖だな。煩くつき纏われるよりマシだろう?」「ああ、アイツらは最悪だ!」僕は石を蹴って応じた。「“緑のスッポン”はどうしてる?」「時間帯がズレてるから、実害は無いよ。アイツだって残業三昧だろう?」「制限ギリギリまで時間を使ってるらしい。向こうは品証だからな。4人組とは“格”が違う。仕事内容だって多岐に渡るだろう?」「専門性が高いからな。アイツもやっと“居場所”を見つけたと思うぜ!」美登里は頭は切れるし、呑み込みも早い。ただ、我が強いのが“難点”なだけで、上手く乗りこなせば国分の戦力としては、申し分無い実力を出しているだろう。最近、見かけないのは、忙しい証拠に他ならない。寮の談話室へ戻ると「Y、ここだけの話、赤羽と同時に“帰還要請”が来ているヤツがもう1人居たんだが、誰だと思う?」「さあ、誰だ?」「お前さんだよ!“プラ成型の技術者として育成したい”と言って来たらしいが、さっきの話で取り潰しに追い込まれたよ。危うかったな!」「冗談キツイな。こっちはプレスが専門だぜ!プラスチック成型なんて、未知の世界でしか無いぞ!」「それに、サーディプ事業部で名前が轟いちまった!国分としては“是が非でも確保”に動いたのは当然さ。総務も反対したしな!」「危ねぇー!知らぬ間に首を取られるところかよ!まだ、帰るつもりは更々無いぞ!」「事業部も国分総務も、認識は一致してる。“帰すに及ばず”だよ。各隊もそろそろ人選が進んでる。“任期満了で帰す”組と“是が非でも残留させる”組だ。第1次・2次隊が中心だが、振るいにかけられるてるのは間違いないよ。来月になれば、表面化し始めるだろうが、俺達は後者の方だ!安心しろ!」「鎌倉、その話誰に聞いた?」「総務で耳にした。田中さんとこっちの総務部長が協議してるよ。どうやら、半数は“任期延長”になるだろうよ」「耳をダンボにして、情報を集めてくれ!俺達の未来に関わる大事だ!聞き逃すなよ!」「任せとけ。新谷さんも岩元さんも協力者だ。逃しはしないぜ!」鎌倉は胸を張った。この後、鎌倉からの情報に幾度と無く救われ、事前にアクションを起こせたか?数え切れない。彼が同室でしかも“総務”に居た事は、僕に取って図り知れないプラスをもたらしたのは、確かである。鎌倉にしても、事業部の実態や内部事情を知り得る存在として、田中さんとの連携に於いて、“腹を割って話せる相手”として、僕の意見や考え方を頼りにしていたのも事実である。特に、“女性関係”については、お互いに“情報交換や注意喚起”をしあえる仲であったのは、共に有益だった。最後の最後まで共に国分に残り、止む無く引き上げる事になるのだが、後に鎌倉は「あの時が最高に充実感に溢れ、やりがいがあった。人生を、もう1度戻れる、巻き戻せるなら、迷わず国分の時代を選ぶさ!」と振り返って言った。僕にとっても、輝ける場所、時代として、今も褪せる事無く心の片隅で光輝いている。

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