limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 67

2019年11月26日 10時27分41秒 | 日記
日曜日の夕方、クタクタになって寮に引き上げると、鎌倉が精気の無い虚ろな顔で談話室に椅子に座り込んでいた。「よお!お疲れさん!」「Y、意外に元気じゃないか。俺は“女の執念”に潰されたぜ・・・」「新谷さん、そんなに激しかったのか?」「いや、岩元さんも加わって、3人で缶詰さね。“とっかえひっかえ”で攻撃されてりゃ、休んでる暇もありゃしない」「おいおい、それでずっと缶詰か?新谷さんと岩元さんを“両手に花”状態で?」「そう・・・、ずっと一緒に過ごしたよ。食料は買い溜めされてるし、岩元さんは“お泊り”の支度万全だし、どこに逃げ道がある?」鎌倉はゲンナリとして言った。僕はある意味“救われた”部類だろう。永田ちゃんも千絵も“生理”が来てしまいNGになったからだ。「血まみれでもするわよ!」と2人共に意気込んだのだが「ヒットしないよ!」の一言で撃沈出来たのは大きかった。早紀や恭子との連戦で疲れていただけに、“休養日”が取れたのは幸い以外の何物でも無かった。ただ、“チラ見せ”の応酬になったのは、致し方無かった。永田ちゃんも千絵も、下着を“これでもか!”と言うくらいに見せ付けるのだ!勝負は“引き分け”としたが、永田ちゃんの方が、セクシーさでやや勝っていたと思う。「Yはどうだった?」「“生理”に救われたよ。こっちもコンビだったが、2人共にNGになっちまった。偶然とは言え、2人共に張り合うから“火花バチバチ”さ!」「運に恵まれたか。たまには、そう言う事もありだろうな。金曜日から連戦だったんだろう?“休養日”も必要だな!」「鎌倉、ここに居る限りは逃げられん。他の連中からすれば“夢の様な生活”だぜ!それだけは忘れるな!」「まあな、俺もYも余り嘆いたらバチが当たるな。最終目標は、“帰還せず残留”なんだから、お互いに密かに励むとしよう!バレたら“総スカン”を喰らっちまう!俺達だけの“秘密”にしなきゃならんな!」「そう言う事だぜ!O工場の言いなりになんかなるものか!“先手必勝”これしかあるまい。でなきゃ嫌でも元の仕事に戻されて終わりさ。ここなら、国分なら実力さえあれば、上を目指せる!そのつもりで、“職務”に精励しなきゃな!」「休日の“職務”でもか?」「そっちは別だろう?とにかく、水面下で進めるしか無いんだ。僕等、以外は“全員ダマして”かからなきゃならん!極秘裏に進めようぜ!」「了解だ。Y,カップ麺、持ってるか?」「ああ、あるよ。だが、社食に行く方がバランスはいい。腹が減ってはなんとやらだ。付き合うぜ!」「じゃあ、付き合ってくれ!食べないとダメだよ!体力が維持出来ない!」ボヤく鎌倉をなだめつつ、僕等は社食へ向かった。体力勝負なら食べて置くのは必須項目だった!

月曜日、いよいよ、6月も最終週に突入した。“安さん”の言葉通り、返しの作業室には満杯の製品が鎮座しており、一部は炉の前にまで溢れていた。「やってくれるねー。だが、これくらいで引き下がる僕達ではないぞ!」その日はBシフトを組んでの対処を選んだ。Aシフト、Bシフト、Cシフトの順に作業の振り分けを変えるのだ。AからCへと配置を変化させる事で“飛び込み”が入っても、揺るがない体制を、“おばちゃん達”みんなと考えて練り上げた僕等の作戦だった。“おばちゃん達”にも考えてもらう事で、責任と自覚を促しつつ、流れを維持して行く。経験値がある分、“おばちゃん達”も何処を押さえればいいか?は分かっている。知っている人に聞いて“策”を練る・組み上げるのが、一番早いし落ちも出ない。結果として作戦は、見事に当たりと出て、翌日には炉から出る製品に追いつく寸前まで追い上げた。「Y,手加減しろよ!立錐の余地も無いんだぜ!検査室がパンク寸前だ!」田尾が悲鳴を上げに来るが、意に介するつもりは更々無い!返しの作業室にもトレーの山を築いて対抗した。「何処まで煽るつもりだ?」「来月の“貯金”を作る手前までさ。そうしないと、ロケットスタートは無理だろう?」と返すと「GEがあるからな。厄介なヤツから片付けなけりゃ、来月末はもっとキツくなるだろうな?」「だったら、“在来品種”を煽る理由にはなるだろう?」「そりゃそうだが、手加減をしてくれよ!」「いや、そのつもりは更々無い!明日の午前中には、“貯金”も含めて勢揃いさせるさ!」「マジかよ!こんな馬力で押されたら、たまらねぇ!検査の段取りを取り直して来なきゃならねぇじゃんか!」田尾は不満たらたらだったが、神崎先輩との調整に入った。驚異的とも言うべき追い上げの成果は、当月の出荷にプラスをもたらすのに充分な量があった。

そして、恭子が密かに危惧していた事は、木曜日に現実のモノとなった。明日の予定も目途が付き、次月の頭も予定が確定し始めた午後2時前、「Y、ちょっと顔を貸せ!神崎先輩と徳永さんが、一戦始めやがった!岩崎が“呼んで来い!”って言ってる!」田尾が狼狽えて言いに来た。「宮崎さんの髪の色か?とうとう、火が付いたな!」僕は田尾を追って検査室へ向かった。ただ、その時、帰り支度を始めていた“おばちゃん達”も顔を見合わせて頷くと、後を追って来たのには気づかなかった。検査室では、激しいやり取りが戦わされていた。「“外聞が悪いから染め直せ?!”と言うのには納得できません!彼女が何をしたと言うのですか?髪を染めている女性は、他にも山の様に居るじゃないですか!何が違うと言うんです?!」神崎先輩は、引き下がらずに喰らい付いていた。「だから、色合いがマズイのだ。違う色なら何の問題も無いんだが・・・、ともかく変えてはもらえんか?」徳永さんも気おされ気味だが、責任者である以上、引き下がれないので、何とか粘ろうと試みる。「それならば、あたしが銀色に染めたらどうします?色合い云々を言われるなら、そうしますが、どうされますか?!」徳永さんの目が泳いだ。助けを求めるかのように、僕と視線を合わせた。「Y、お前はどう思う?常識の範疇で答えてくれ!」救命胴衣を期待した徳永さんだったが、残念ながら溺れるハメになった。「僕個人の意見としては、“何がいけないのですか?”と改めて問いたい気分ですが?派手な茶色の髪をした女性社員は、そこかしこに闊歩してます。“外聞が悪い”とおっしゃいましたが、誰が言ってるんです?それを“蹴散らして来る”のが責任者の務めではありませんか?茶髪の女性社員も“染め直す必要がある”との“規則”でも出来ましたか?僕は一切知りませんよ。宮崎さんがミスをしましたか?事業部に損失を与えましたか?何も無いなら、何故“部下を護ろうとしない”のです?彼女の仕事ぶりや検査の正確さは、折り紙つきです!もし、彼女が居なくなってしまったら、計り知れない損失になりますよ!髪の色合いが何だと言うのです?彼女そのものを見て、総合的に判断してほしいですね!これから、益々増産に向かうと言うのに、戦意を削ぐような物言いはお止め下さい。気持ち良く仕事をしたいですし、些細な事でとやかく言う日ですか?今日は?明日の午前中に最大の山場が待っていると言うのに、責任者御自ら“予定を落としても構わない”と言わんばかりの物言いはお控え下さい。本当に“落としますよ”!出荷を止めればいいんですから!重箱の隅を突く様な真似だけはやめて下さい!人は髪の色ではありません!仕事ぶりを、心を見て判断したらどうです?!」「Y、お前までそう言うのか?!」「ええ、言いますよ!理不尽な要求に対しては、断固反対ですから!」徳永さんは、言葉に詰まった。早紀さんや実里ちゃんも来ている。品証を代表して降りて来たのだろう。神崎先輩は「彼の意見に賛成します!今は1つならなければ、この難局を乗り切れません!」と目を据えて言った。その時、「徳永、お前の負けだ!ここは手を引け!」と“安さん”が出てきて静かに言った。「Y、お前も引け!後ろに控えている“武田の騎馬軍団”を大人しくさせろ!」と言う。振り返ると、化粧をバッチリ決めた“おばちゃん達”が睨んでいた。僕は慌てて「心配いりませんから、上がって下さい」と言って解散を命じた。だが、“おばちゃん達”は結果を見定めようとして引き上げない。「徳永!“木を見て森を見ない”では、彼女達は納得させられんぞ!お前が勇猛で果敢な薩摩隼人だと、みんなが知っている。だが、丸腰の上に素手で“武田の騎馬軍団”を止められるか?憎たらしい事に、今月も“武田の騎馬軍団”が敵を蹴散らしてくれたから、予定を上回る成果が出せる!しかも、“貯金”付きだぞ!信玄を相手にするなら、軍勢を整えて、陣を張り、城を整備して全力で迎え撃たねば勝てはせん!ここは、最早信玄の領国。やおら喧嘩を売っても叩き帰されるのがオチだ。Y!言ったことに対して責任は取れるな?!貴様が指揮する“武田の騎馬軍団”だ。総大将としての責任は分かっおるだろうな?!」「結果が出なければ、首を差し出す覚悟はございます」僕は、神妙に答えた。「うむ!よく言った小僧!その言葉、忘れるでないぞ!徳永!越後から謙信を呼んで来い!信玄めを黙らせるには、“越後の龍”の手助けがいる。“人は髪の色では推し量れん。仕事ぶりを、心を見て判断してやれ!”だそうだ!ゴチャゴチャ言う輩は、お前が蹴散らして来い!Y、後の始末は任せる!よく話を聞いてやれ!結果は俺に報告に来るがいい!期待しておる!」と言って“安さん”は徳永さんを連れて2階へ上がって行った。みんなから、一斉に安堵のため息が漏れる。そんな中、「Y、“全責任を追え!”って言われたも同然よ!アンタ、どうするつもりよ!」恭子が腕を掴んで身体を揺さぶる。「いや、そうでも無さそうだよ。“後ろは任せた!俺達は前を煽り手を打つ”とも取れる。これで、少しはやり易くなる。品証も協力してもらえますよね?」僕は、早紀さんや実里ちゃんに声をかけた。「勿論です!Y先輩の手腕に期待してますわよ!」とニッコリ笑う。「でも、宮崎ちゃんはどうするのよ?」神崎先輩が肝心な点を言う。宮崎さんは、半泣き状態だ。パートさん達に支えられてはいるが、ショックは隠せないでいた。「何もする必要がありませんから、今まで通りにしてればいいんですよ。変に髪を染め直したりしないで下さいね!オシャレをして何が悪いんだ!女の子の権利を剥奪することはさせませんよ!」「けど、“安さん”にどう報告するんだよ?あの人の事だ、余程の事が無い限り納得しないぜ!」田尾も懸念を示した。「手はある!その言葉の内を読み解ける人なら、分かるはずさ!ダメだったらそれまでだけどね」「そこまでして、何を狙ってるのよ?」恭子も心配そうだ。「返し・検査・出荷を一体で運用するのさ。既に素地は今月に作ってあるから、更に連携を強化したいだけさ。後ろが盤石なら、問題の目は前に向く。そして、前とも連携できれば、増産しても耐えられるだけの体制が整う。“安さん”にしても、それが分からないはず無いだろうに!」「それで、徳永さんをわざと溺れさせたの?」神崎先輩が呆れたように言う。「あの場面でやるのは流石に気が引けたけど、いずれはやらなきゃならなかった事。早まる分には、早く片付けて置きたかったしね!さあ、解散しましょう。遅くまでありがとうございました!」僕は“武田の騎馬軍団”と呼ばれた“おばちゃん達”を引き上げさせた。「ごめんなさい!あたしのせいで、重荷を負わせてしまって・・・」宮崎さんが袖を掴んで泣いていた。「気にしないで。いずれはやろうと決めてた事だし、宮崎さんに責任は無いもの!」僕は、両手を握って泣いている彼女に語り掛けた。「Y先輩、これですよね?」早紀さんが1枚の紙を返しの作業室から持って来てくれる。「“人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり”か」「何だよ?これ?」神崎先輩の読み上げに、田尾が反応した。「“どれだけ城を強固にしても、人の心が離れてしまえば、世の中を収める事は出来ない。熱い情を持って接すれば、強固な城以上に人は国を護ってくれるし、仇を感じる様な振る舞いをすれば、いざと言う時自分を護るどころか裏切られ窮地に立たされる”信玄の言葉ですよ。徳永さんは危うく“仇”を作るところだった。陰で見ていた“安さん”も危ういと感じたから止めたんでしょうよ。これが、読めなければ組織を束ねて行けるはずが無い!」「これが答え?」恭子が言う。「ああ、これから行って来るよ!多分、あの人なら読めるだろうよ!」僕は2階の管理室に“安さん”を訪ねて行った。そして、例の紙を差し出した。しばらく無言で目を落としていた“安さん”は、「小賢しい奴めが!“後ろは固まりつつある。前を煽り改善しろ!”と言うのだな!ふん!いいだろう!やってやろうじゃないか!確かに、結果は明確に出た。これから手を回さなくてはならんのは、下山田と橋元だ!徳永を“仇”にせずに、溺れさせたのも見事だった。あの場面で“遺恨を残す”のは一番マズイ事だ。貴様の心意気に免じて、今回の事は“不問”にしてやろう!来月は、更に数量が増えるし、鍵は前にある!炉は時間を変えられんし、1度入ったら止め様がない!下山田と橋元に踏ん張ってもらわねば、来月は“落ちる”確率が高い!Y、“後ろの仕置き”は任せたぞ!“武田の騎馬軍団”を率いて敵を蹴散らして行け!前は我々で引き受けるし、落武者狩りも引き受けてやる。“戦国最強”の武勇を存分に示せ!徳永!Yが答えを持って来た。読み解いて見るがいい!」“安さん”は紙を徳永さんに手渡した。「Y、見た事も無い景色が浮かんで来たな!もっと、存分に暴れまくれ!あそこを取り仕切れるのは、お前しかおらん!信玄の知略と攻めに期待しているぞ!下がっていい!」徳永さんは首を捻っていたが、“安さん”は一目で看破した。こうして、僕は検査と出荷に対しての権限を手に入れた。実質的に“焼成炉から後ろ全般”の指揮を執る事になったのだ。これにより、一体運用は更に1歩踏み込んで動いて行くのだった。

そして、金曜日。当初の予定を上回る成績で6月は締められた。総括演説で“安さん”は、「危機的な状況を逆転出来たのは大きい!“武田の騎馬軍団”無くして、今日は来なかっただろう!今月のMVPは、文句なくYにくれてやる!来月からは、コイツが後ろの指揮を執る!問題は、整列・塗布の2工程の効率化と安全の担保にかかっている!来週からは、重点を前に移す!総力を挙げてかかれ!」と号令した。終礼後、神崎先輩と恭子が肩を叩いた。「Y、やったね!」「これで、あたし達の思う通りに仕事が出来る!大きな1歩よ!」「いえ、まだまだですよ。やっと入り口に達したばかり。正念場はこれからですよ!」「でもね、ここまで来た事に意味があるの!声さえかき消されて来た過去を思えば、雲泥の差なのよ!やっと“認められた”のよ!宮崎ちゃんの事にしても、下手をすれば制圧されてた!あなたが全てを変えて行くの!歴史的な転換点なのよ!」神崎先輩は感慨深く言う。「岡元の運命も変わったわ!整列から焼成炉へ配置転換になるの。もう、戻る“椅子”すら無くなるわ!Y、これで“姑息な手段”で、蹂躙される事も無くなるの。存分に指揮を執りなさい!あたし達は、信玄公に付いて行くから!」恭子は両腕を掴んで、言い聞かせる様に言った。「まだ、先は長い!落さなくてはならない城は数多ある!甲斐は平定したが、西への出口を開かねば、京への道は開けない!厳しい戦いになるよ!」「例え、倒れても誰かが続くわ!“武田の騎馬軍団”は止められない!真っ先駆けて行きなさい!総大将を見捨てる者は居ないから!これからよ!あたし達の真の力を見せ付けてやりましょう!」神崎先輩が手を差し出す。「急がないと置いていきますよ!」僕は笑って手を握った。2ヶ月にして、僕は“総司令”に据えられた。率いる者達は70名を超えるのだ。望むべくも無い地位に立ったのだが、責任も一気に重くなった。「真の戦はこれからですよ!」僕は、2人と語らいながら、建屋の中へ戻った。

「Y、ちょっと路肩に停めてよ!」恭子が悲鳴を上げた。「どうしたの?ブラのホックでも外れたの?」「うん、冗談抜きでそうなのよ!1つだけサイズの小さいブラがあるのよ!どうも、間違えてして来ちゃったらしいわ」恭子は助手席で身をくねらせて、ブラと格闘していた。「えーい、面倒だから取っちゃえ!」勢い良くブラが後席に投げ出される。「パンティはいいのかい?」野暮な事を聞いて見ると、「下は問題ないの。どうせ、Yにあげるつもりだし!」と意に介す風が無い。白いワンピースは、恭子の体にフィットしたサイズなので、覗かれる心配は無いだろう。「さあ、前進よ!」恭子の指示でスカイラインは、加治木ICを目指す。九州自動車道経由で宮崎自動車道へ乗り入れるためだ。時刻は午後5時半。日はまだ沈まない。「2階の連中も、概ね好意的に受け止めてるわ!早紀の話だと、井端さんなんかは“積年の課題にやっと手が回るのか!”って、ホッとしてるらしいわ。徳永もそうよ!前も後ろも“問題だらけ”の泥沼から抜けられるんだもの!向こうだって内心ホッとしてるんじゃないかな?“安さん”にしても、心中は“してやったり!”で踊り出したいはずよ!これからは、前工程を追い掛ければいいんだし、労力も節約出来るし、目の配り方も変えられるはず!みんなが待ち望んでいた状況が、やっと出来上がったのよ。反発云々は心配する事は無いわよ!」「だとすると、次なるターゲットは橋元さん達だな。下山田さんは引き続き監視対象だろうが、塗布工程の効率化も喫緊の課題になるだろうな。僕等“武田の騎馬軍団”としては、徳田・田尾を“楽にしてやる”方策を考えなきゃならない!それには、“貯金”と“相互乗り入れ”が鍵になる。検査の方は、神崎先輩に一任するが、恭子とちーちゃんも補佐に付いてくれよ!」「了解、検査は“クロス作戦”を展開する予定よ!基本は、Yが返しで取った方法と同じ。“縦割り組織”を“横断型”に転換するの!誰が休んでもカバー出来る体制を整えるわ!それと、宮崎ちゃんからのご要望よ。“明日、付き合って下さい!”だって。千絵も永田ちゃんも、今回は“謹んで進呈します”って譲ってくれたわ!彼女はアパートで1人暮らしだから、あたしと千春が立ち会うけど、いいわね?」「否応無しでしょ?時間は?」「朝からよ!何をしたいか?は宮崎ちゃん次第になるけど、覚悟しときなさい!」「はい、はい!それは、一先ず置いといてだが、今夜は何処まで行くんだ?」「気分次第よ!日はまだ沈んでないもの。ともかく前に行きなさいよ!」恭子は、肩口を叩いて“スピードを上げろ!”と言う。スカイラインは、加速して追越車線を駆け抜けた。結局は、宮崎市内まで駆け抜けて日向灘に出た。一ツ葉道路の路肩に車を停めて、2人揃って海を眺める。「夕日に染まる海も悪くないでしょう?Y、ご苦労様!」恭子は唇を重ねて来た。海風に髪が流されて綺麗だ。「信玄公の“正室”って誰なの?」「“三条の方”。京都の公卿の家から嫁いでるよ」「公卿か・・・、あたしの家そんなに身分が高い訳じゃないけど、いいでしょ?」「何を言うか!“正室”は恭子にしか務まらないよ!それにこんな“甘ちゃん”を手放すつもりも無いよ!」「あなたの前だから、“甘ちゃん”なの!本来の姿は、誰にも知られたくないもの。田尾が“鉄の女”なんて言ってるから、そう演じてるだけよ。本当は、知っての通りなの!」「じゃあ、今日は、何処で甘えるつもりだ?」「折角、こっちに出て来たんだもの、もう少し海を見ていたな。浜辺で座ろうよ」恭子は、無謀にもヒールを履いたまま、土手を降りて行く。2人して砂浜に座り込むと「あたし、もっと早くYに出会いたかった。そうすれば、高校時代を棒に振る事も無かったのかな?って思うの。でも、不思議だよね。今は、何にでも落ち着いて向き合えるし、公私共に充実してる。Yが実質的に“総司令”に座ってくれたのが、何よりも大きいの。これで、思う存分に出来る!“かき消された”時代は終わった。これからも、あたし達の話を聞いてよね!」そう言うと肩にもたれかかる。「治世を執るにしても、“内政”を疎かにはしないよ。みんなが居てこその“改革”だから、これからも意思疎通を取りながら、“外敵”に立ち向かうさ!ただ、無用な戦はしないよ。力で屈服させるのが“一番やってはならない事”なんだ。これからは、話し合いを重ねて行きながら進める。力を使うのは最終手段さ。もう、血を流さずに行けると思うよ!」「そうして。思う通りにやりなさい!後、一山越えれば“全く違う景色”が見えるはずよ!」「そうさ。それを見たいからこそ、ここまで来たんだ。来月が鍵になるな!」「うん!」恭子は腕を絡ませて身を寄せて来る。海辺での静かな時間の後、宮崎市内へ戻り“2人だけの部屋”に行くと、恭子はいつにも増して“甘えて”来た。激しく身体を動かし合って、何度も絶頂に上り詰めては注ぎ込んでやる。その夜は、恭子も僕も心ゆくまで逢瀬を重ね続けた。

明けて、土曜日。宮崎さんの自宅アパートは、国分市の西部にあった。白壁の洒落た作りで、2階の一番東に部屋を借りていた。愛車は緑のRX-7。しかも、MT車と言う拘り様である。これまで、彼女との接点は意外にも少なく、直接会話も数える程しか無かった。ただ、仕事は正確無比で“針の先”すら見落とす事は無く、信頼も高かった。初対面の人が、必ず“ブッ飛ぶ”と言われた髪の色、つまり緑色(ベースは黒髪なので、わずかに緑に見える程度)なのだが、これまで唯一“Noリアクション”だったのが、僕だけだったらしいのだが、彼女にして見れば“異例の事”だったらしく、関心は持っていたとの事だった。しかし、如何せん、共通の接点が少なかったのが響いて、今日まで余り踏み込んでの話も出来ずに居たのだが、宮崎さんからの“リクエスト”を機会に、突っ込んだ話もあるだろう。“お目付け役”は、恭子とちーちゃんが務めてくれるし、出かけるにしても不便の無い様にちーちゃんの愛車ブルーバードが選ばれて居た。予定時刻ピッタリに現地に着くと、宮崎さんは出かける支度をして、部屋から出て来ていた。「Y,ほれ!」ちーちゃんがキーを放り投げる。助手席に宮崎さん、後部座席に恭子とちーちゃん。必然的に“運転しろ!”と言うのだ。問題は、何処へ向かうか?だった。「宮崎ちゃん、何処へ行けばいい?」ちーちゃんが聞くと「鹿児島市内へお願いします。服を見て欲しくて。あたし、背が高いから、サイズが中々無いんです」と言う。確かに、宮崎さんは背が高い。僕が170cmなのに対して、彼女は175cmあるのだ!しかもヒールを履いているので、完全に見上げる格好になる。「Y,行くよ!国道を飛ばして頂戴!」恭子がアゴをシャクる。「いざ、前進!」僕はブルを走らせた。流れに乗って快調に南西を目指す。「あっ、コレ面白そう!Y,カセットテープ流してよ」肩越しにちーちゃんがテープを差し出す。選ばれたのは、“Tokyo bay freeway”、滝とのオリジナル企画作品集だった。スタート曲は「あたしか?」と恭子が笑う、岩崎良美だった。「コイツ、女性アーティストの曲しか聞かないから、勘弁してね!」と断りを入れた。「これ、どう言うコンセプトなんです?」宮崎さんが問う。「首都高速、湾岸線をクルーズするためのテープですよ。CMも入ってますから、驚かないで下さいね」と返すと「物凄く手間暇かけてるんだ。でも、景色にはマッチしてますね」と言う。左に錦江湾と桜島、国道と線路は外輪山の麓ギリギリの場所を通っている。海沿いには間違い無い。「Y,“Night driving music”も、同じくでしょう?“中央フリーウェイ体感テープ”だって言ってたけど、実際に体感してるの?」ちーちゃんが言う。「勿論、実際に体感してますよ!昼夜両方共に実験は済ませてあるんです。場所も問わずに流してもいい様に企画してますからね!」「凝るのねー。こう言う拘りは半端ないね。男子は、テープの種類から長さまで、とことん突き詰めるもんね!」ちーちゃんが半ば呆れて言う。「“一応”Yも男子なんだから、それは当たり前でしょ!」恭子が微妙な言い回しをすると、「オカマさんなんですか?」と宮崎さんに笑われる。「無い!無い!恭子、変な事言わないでよ!あたし達の大切な“殿”だよ?!オカマだったら困るじゃん!」とちーちゃんが否定するが、車内は盛大な笑いに包まれた。しかし、僕は内心“ヤバイ!”と思っていた。恐らく、アパレル店舗に行くのだろうが、“荷物持ち”は厭わないが“下着売り場と水着売り場”を避けて通るのは不可能に近い!“3人が共謀すれば、地獄を見るなー!”嫌な予感に背筋が凍るのを覚えながら、車は鹿児島市内へと乗り入れて行った。

“嫌な予感は当たる”を地で行くハメに陥った。女の子3人組が、まず向かったのが“水着売り場”だった。メンズの取り扱いもあるのだが、3人が単独行動を許すはずが無い!「Y-、試着するから見に来てよ!」早速、ちーちゃんが暴走を始める。豪快な性格もあって、見られる事に対しての抵抗感すら無い様だ。試着室から頭だけを出して、周囲を窺った彼女は、僕を素早く中へ引きずり込んだ。「ほら、“おっぱいちゃん”だよ!触ってよ。久しぶりでしょ?あたしの?」ちーちゃんは、僕に触らせてからホックを外して、更に太腿にも手を導き出す。「もっと、エッチな事もして!」ちーちゃんは火が付く寸前だ!その時、「Y―、Y、どこよ?」恭子が探す声がした。「うーん、邪魔されたか。次は、あたしの番だから、日曜日空けといてよ!」ちーちゃんは悔しそうに言うと、外を窺ってから僕を解放した。「Y、どこに居たのよ?」「手荷物係として、この裏におりましたよ!」咄嗟にトボけに走って逃げ切りを図る。「ちーは何処よ?」「あたしならここよ!試着終わったから、直ぐに出るね」ちーちゃんもトボけて言う。「アンタ達、不埒な事してないでしょうね?」恭子が痛いところを突く。「無い!無い!恭子、心配し過ぎよ!」ちーちゃんが姿を現して言った。「ちーがそう言うなら間違いないでしょう。Y、宮崎ちゃんの選んだヤツ、見せてもらいな。感想が聞きたいそうよ」宮崎さんが袋の中身を見せてくれた。緑を基調に選んでいる。「可愛いですね。緑色を選ぶ理由は何です?」「名前が“緑”なんです。みんなに“みーちゃん”って呼ばれてたから。これからは“みーちゃん”でお願いします!」彼女はそう言って笑った。“地獄の売り場”を後にすると、やっとトップスやボトムス売り場へと雪崩れ込む。少しは、安心させられる場所だ。3人それぞれにお目当ての服を見て歩き出した。僕は、みーちゃんに同行してトップスから見て回った。「恭ちゃんやちーが羨ましいなー。あたしは、見ての通り背があるから、選択肢そのものが少ないの」みーちゃんは苦労していた。そんな中でも、ワンピースで大きめのサイズを見つけると「これ、どう?」と聞いて来た。「着て見たら?」試着を勧めると、嬉しそうに荷物を預けてから、試着室に入った。色は彼女の基調色とは言えないが、サイズが合うなら買って置かないとマズイだろう。カーテンが開けられると、みーちゃんが「どうです?」と聞く。サイズもゆとりもあり、何より似合っていた。「決まりでどうです?」「うん、押さえとく。もう2着は揃えたいな」と言ってカーテンは閉じられた。結局、後の2着の内、僕が1着を見つけてやり、みーちゃんも1着を気に入って購入した。「男の子に選んでもらったの初めてなの!」みーちゃんは嬉しそうに笑った。「Y-!」「荷物持ってよー!」恭子達も手提げ袋を持ってやって来た。かなりの荷物だが、軽いのでキツくは無いが、嵩張るのが難点だ。「車のトランクに入れて来るよ!次はどこへ行ってる?」「1フロア下。なるべくまとまって居るから、迷わないでよ!」ちーちゃんが言う。立体駐車場は2階層上だった。「了解。直ぐに追い付くよ!」僕は、立体駐車場へのエレベーターに向かった。1度見た場所は、頭に入っていた。逆に辿って行けば迷う心配は無い。それにしても、女性の買い物は長いし、目移りが激しくて疲れるものだ。無事にブルへたどり着きトランクを開けると、大量の袋を仕分けてからリッドを閉じた。「まだまだ、長いだろうなー!」先行きに不安を抱きながらも、僕は指定されたフロアを目指して降りて行った。

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