limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 58

2019年10月30日 16時48分40秒 | 日記
火曜日の朝、いつもの様に出勤の隊列を組むと「Y、昨日、土下座の浮き目に合ったんでしょう?良く我慢したわね!」と岩崎さんが言い出す。「誰?先輩を土下座に追い込んだのは?」「無論、八つ裂きにしてくれるわ!」「あたし達を甘く見ない事を思い知らせてあげるわ!」永田ちゃん、千絵、実理ちゃんが怒りを露わにし始める。「女だろう?美登里とか言う。礼儀を知らねぇヤツは、俺も気に食わねぇ!」田尾までが怒り出した。「でもさぁ、強制送還になるんでしょう?例え、現場に配属されても、誰も相手にしないよ!今日中には、工場全体に知れ渡るし!」と千春先輩が断言する。「そうか。みんな、釈明に追われるな・・・」と言うと「Yは、何も心配する必要は無いから安心しな。あたしから、事情は言って置くからさ!」と千春先輩が肩を叩いて言ってくれる。そう言われると少し気分は軽くなった。いつもの様に朝礼を終えて、淡々と仕事に精を出していると「Y,高山美登里とは、どんなヤツだ?!」と“安さん”が入って来た。「一言で言うなら、“剛直で恐れを知らぬ頑固者”ですが?」と言うと、「面白い!鍛えがいはありそうだな!顔を貸せ!レイヤーの責任者が待っている!」と言う。「まさか!配属になるんですか?!」と言うと「“ゲテモノ食い”が岩留の趣味でな!お前さんから、事情を直に聞きたそうだ!手間は取らせんから、着いて来い!」と2階の会議室へ連れて行かれる。岩留さんは、“安さん”とは対象的に穏やかな表情をしていた。唯一、同じなのは眼光が鋭く光っている事だった。僕は、高山美登里について、O工場での所業の数々を具体例を挙げて説明した。「とにかく、自分が“不条理”だと判断すると、節を曲げる事がありません!彼女の中の“憲法”に照らして、“違憲”と判決が下れば、上下や性別、経験に関係無く、攻撃的に攻め込みます!“引く”と言う文字は辞書に無いんです。故に味方が出来ずに、孤立無援になってしまう。我々も度々警告はしておりますが、あの“剛直で恐れを知らぬ頑固者”を矯正する事は至難の技なのです」と結んだ。岩留さんは、終始メモを取りながら笑っていたが「面白い!久々に骨のあるヤツに出会えた様だな。彼女は我々が頂くとしよう!」と即断でレイヤーに迎える事を決めてしまったのだ。「基本的な情報は手に入れたし、折角赴任した者を追い帰すのは、国分の威信にも関わる。まあ、任せてくれ!悪い様にはしないから」とやる気満々で引き上げて行った。「一見、穏やかに見えるが、俺よりアイツは厳しい事で有名だ!高山美登里もタダでは済まないだろうよ!Y、お前が土下座に追い込まれた事は、これから彼女自身に降り掛かって行く!成り行きだったのだろうが、お前の屈辱は“俺の屈辱”でもある!塗られた泥は塗り返す!それが俺のやり方だ!」と安さんは豪快に笑った。こうして、強制送還は見送られ、高山美登里はレイヤーパッケージ事業部に配属が決まり、残留扱いとなったのだ。噂は、瞬く間に国分全体に広まっていった。そして、その日の昼休み。社食の奥の休憩スペースでタバコに火を着けると「1本ちょうだい!」と岩崎さんがタバコを口元から横取りして行った。左側に座ると、もたれ掛かって来る。「どうしました?」と言うと「アレよ!邪な女の子達が狙ってるの!」と言う。有賀や滝沢、五味に西沢達がキョロキョロとしていた。同期の女の子達だ。千春先輩や千絵、永田ちゃんに実理ちゃん、細山田さんまでもが壁を作ってガードを固めだした。「Y,金曜日の夕方は開けときなさい!あたしの予約が優先よ!」と岩崎さんは言う。「土曜日は、あたしに付き合って下さいね!」と永田ちゃんが差し押さえを宣言する。となると、日曜日は当然ながら「あたしのモノよ!」と千絵が言い出す。まるで、心を見透かす様に。「休んでる暇はありませんね」とお手上げのポーズを取るしか無かった。「諦めたみたいよ!」と千春先輩が言うと壁を構成する女の子達がため息を漏らした。「神経質になり過ぎてません?到底敵わないのに・・・」「いえ、そんな事ありません!Y先輩に土下座をさせた人達です!近付けるのは危険です!」と永田ちゃんがハッキリと言う。「Yは既に、職場の中心人物なのよ。セクションの責任者だし、1ヶ月の差は簡単に埋められないわ!“トンビに油揚げ”なんてさせるものですか!みんな、気を引き締めて行くわよ!」岩崎さんの言葉に黙して頷くと、彼女達はやっといつもの様に喋り出した。「あーあ、お恥ずかしいったらありゃしない!鉄壁のガードでガチガチじゃないか」と言うと千絵が「そうよ!もう逃げられないからね!」と笑った。だが、敵も諦めては居なかった!次なる試練は、寮で待っていた。

残業で遅くなってしまったが、この日は鎌倉と買い出しに付き合う予定があった。寮に戻ったのは、鎌倉が戻る頃と差して変わらぬ時間帯になって居た。車は、鎌倉が押さえてあったので“足”はあった。「疲れてるのに済まんな。早速出ようか?」「ああ、時間は貴重だ。道は1回で覚えてくれよ!それ程“複雑怪奇”でも無いからな」と話ながら寮の裏手へ向かっていると「待ってよー!あたし達も連れててよー!」と有賀を先頭に4人の女の子達が追いすがって来た。「Y,お昼どこに居たのよ!あたし達必死に探したのよ!」と詰め寄られる。「ウチの“お姉様方”に囲まれてたからな。見えなかったんだ。ちゃんと第1社食に居たぜ!」とトボケる。「これじゃあ定員オーバーだ。ワゴン車じゃ無いから、2人に絞ってくれるか、女子寮の車を出してくれよ!」と鎌倉も困惑気味だ。「車は既に使われてるのよ!何とか押し込んで行けない?」と有賀は無茶を振る。「ダメだ。見つかったらヤバイ事になるぜ!ルールに違背すれば、車は使えなくなるし、始末書を書かされるぞ!高城がドリフト走行に失敗してやらかした時も、1週間の運行禁止を喰らってるんだ。みんなに迷惑はかけられない!」と僕は無茶を止めた。有賀は、あくまでも「一緒に行く!」と譲らないし、車は1台しか無い。「仕方ないな。鎌倉、地図を書くから自力で行ってくれないか?ルール違反だけは避けなきゃならない。このままでは、時間の無駄だよ!」と言って僕は地図を書き出した。「うーん、しゃあないか!目印はハッキリと書いてくれよ!」と鎌倉が折れてくれた。「Yは買い出しに行かなくてもいいの?」と滝沢が言うが「ストックはまだあるよ。週末に行けば何とか間に合うさ」と軽くかわす。「でも、週末まで車の予約は一杯よ!“足”はどうするの?」と有賀が無遠慮に言う。「ウチの“お姉様方”に助けてもらうさ。実は、この車を僕は使った事が無いんだ。そうでなくとも、週末は既に予定で埋まってる。身動きは取れないよ」と言うと鎌倉に地図を渡した。「まず、北へ向かって約1km,左折したら、踏み切りを渡ってから西に向かって約800m行けば、ホームセンターの看板が見える。後は、道なりに行けばOKだよ。ホームセンターを出たら左折して市内のスーパーまでは直ぐに見当は着くだろう。帰りは来た道を戻れば、迷う事は無い」と説明すると「じゃあ、行って見るか!Y、悪いな。貴重な時間を浪費さちまって、済まない」鎌倉は4人を乗せると車を走らせて行った。「やれやれ、手のかかる連中だ!」石を蹴りつつ寮に戻ろうとすると「Y先輩、行きましょうよ!」と実里ちゃんが声をかけてくれる。「見てたのか?」「ええ、ゴリ押しもいいとこ!誰です?あの4人組は?」「同期の女の子達さ。あれじゃあ、強盗と変わらないよ」とボヤくと「後で“通報”しときます!Y先輩を困らせるとどうなるか?思い知ってもらわないと!」と語気を強めて言う。「いつもの実里ちゃんらしくないね。どうしたの?」と車に乗り込みつつ言うと「目に余る無理強いは、許しません!わきまえてもらわないと、秩序が保てませんから!」と珍しく怒りを露にする。「また、ひと悶着ありそうな予感がするな。程々にしてよ」と返すと「あたしの大切な人に対しての侮辱は、許しません!」と言い放つ。「怖いねー」「そうですか?千絵先輩なら、殴りかかってますよ!あたしだから、手は上げませんでしたけど」と言うと頬にキスをして来る。「後部席、空いてますよ!」実里ちゃんは車を走らせると言った。「底無しが!」と言うとペロリと舌を出す。結局は、彼女を抱いてから寮に戻るハメになったが、次なるトラップは既に仕掛けられていた。

「Y!どこに行ってたのよ!いくら連絡しても“不在”とはどう言う事なの?!」インターフォンが壊れるかと思うくらいに、有賀が喚く。「どこで何をしてようが、こっちの自由だろう?あれから“お姉さま方”に捕まって大変だったんだ!もう、風呂に入って寝るから切るよ!」と言うが「待ちなさいよ!土曜日に近辺を案内してちょうだい!いい事、これは命令よ!」とまたまた無茶を振り回す。「悪いが、他を当たってくれないか?既に先約で一杯でね。身動き取れないよ!」と断りを入れるが「アンタが一番手が空いてるはずでしょう?早番だけなんだし!こっちは、地理不案内なんだから、面倒見てよ!」と勝手に決めつけ始める。「あのねー、こっちだって手一杯なの!事業部に関わる問題で飛び回ってるんだ!時間は裂けないし、やらなきゃいけない事は山積みになってるんだ!僕等は既に“国分のシステム”に組み込まれてるんだ!仕事が優先なの!空いてるヤツは他にも居るだろう?“命令云々”を言われても無理なものは無理!」と言うとインターフォンを叩き切った。午後9時まで後5分。これで諦めたか?と思いきや再び有賀の逆襲が襲い掛かる。「土曜日が無理なら、金曜日の夕方でもいいわ。どこかで時間取れない?」少しは軟化して来るが、ゴリ押しは続いた。「あのねー、週末に行けば行くほど、残業が増えるの!金曜日なんて一番不確定要素が濃い曜日だろう?下手をすれば、4時間はザラにあるんだよ!こっちは、もう事業部の戦力として計算されてるんだ。いくら事情があろうとも、仕事優先で動かなきゃいけないの!1ヶ月先行してる事を忘れないでくれ!ここでは、みんなが“各自の時間帯”で動いてる。それを理解してくれないと困るんだよ!」僕はウンザリし始めた。「そこを何とかして!Yにしか頼めないの!木曜でもいいからさ!」有賀は驚異的な粘りで対抗して来る。背後に居るのは恐らく滝沢だろう。彼女は、新入社員の時から付き纏って来た経緯がある。「その日の仕事の進捗に寄って左右されるから、曜日の確定は出来ない!週末も無理!本当に悪いけど他を当たってくれ!明日があるし、タイムオーバーだから切るよ!」僕はようやく解放された。だが、明日も昼休みは分からない。「困った連中だ・・・」早々に風呂に入ると僕は眠った。睡眠不足は集中力を低下させるだけで無く、判断力も奪う。睡眠が如何に大切か?国分に来て痛感した点だ。翌日の昼休みに、ひと悶着は待ち構えていた。

水曜日、昼の食事を終えて休憩していると、吉永さんが「子供が発熱して保育園から“お迎え”の要請が来てしまいました」と申し出て来た。「分かりました。直ぐに向かってください!後の事はお引き受けします」と言って“早退届”を受理すると、それを引っ手繰るヤツが現れた。「返して欲しければ、言う事を聞きなさい!」有賀と滝沢が僕の前に立ちはだかる。「てめぇら何しやがる!勝手な真似は許さねぇぞ!」田尾が駆けつけて2人を睨み付ける。同時に有賀の手を捩じ上げて“早退届”を奪還する人影が多数現れた。「Y、これ帰すわよ!」岩崎さんを筆頭に“お姉さま方”が集結し始めた。「事業部の事に手出しは認めないわ!Yは、25名のパートを預かっている責任者よ!職務遂行の邪魔は許さないわよ!」ピシリと言い放つと強制排除に取り掛かる。「他の事ならまだしも、仕事に関する事を盾に取るとは、問答無用!あなた達どこの事業部?責任者に言って不埒な真似を正してもらうわ!」と千春先輩も目を吊り上げる。「Y、これ、何なのよ?」有賀は下手に抵抗をし始める。「勝手な真似は許されないって事さ。個人的な事で、仕事の邪魔をすればどうなるか?分かっただろう?ここでは、O工場の論理や個人的な都合は通らないんだよ!“お姉さま方”をこれ以上怒らせる前に手を引け!」と言ってたしなめる。渋々、2人は引き揚げたが“お姉さま方”のお怒りは鎮まらない。「何なの?Yを“私物化”しようとしてるなんて信じられないわ!」と千春先輩が金切り声を挙げる。「ふふふ、あたし達と張り合おうなんて10年早いわ!千春、“回覧文書”を回してよ!あの2人を干してあげなくちゃ!」岩崎さんが不敵な笑みを浮かべる。「昨日もY先輩を困らせてましたよ!」実里ちゃんが更に追い打ちをかけると、千絵が「女子寮の掟をタップリと思い知らせてやるわ!」と燃え上がった。「あの2人、レイヤーの建屋に逃げ込んだわ!同期に手を回して思い知らせてあげる!」と神崎先輩も燃え上がった。「レイヤーのダチに言って置くぜ!“お仕置き”をお見舞いしろってな!」田尾も怒りに燃えていた。「あれではやって行けないのは明らかだ。“矯正プログラム”を組んでもらうしか無いな」僕はため息交じりに言った。「“矯正”では無くて“1からやり直す”べきだわ!」普段は大人しい宮崎さんも今日はお怒りだ!彼女は髪を緑に染めている不思議な方だが、いつも陰でみんなを支えている精神的な支柱でもある。その方をも怒らせた報いは、当然降りかかるだろう。「Y、あの2人の情報を教えなさい!あたし達に盾を突いたからには、無罪放免って訳には行かないわ!」千春先輩が僕の横に座った。「お手柔らかに願いますよ」と言って有賀、滝沢、五味、西沢の4人の情報を話した。「OK、直ぐに手配するわ!」千春先輩は内線をかけ始めた。「さあ、あたし達も手配にかかるわよ!」神崎先輩の号令で“お姉さま方”と田尾も動き出した。「こりゃとんでもない事になるな!」と言うと「当然です!一線を越えたんですから、相応の事は覚悟してもらいます!」と実里ちゃんが言い放った。これ以後、有賀たちは成りを潜めたと言うか、口を封じられて2交代勤務でシゴキを受けるハメになった。その証拠に、すれ違う事も無くなったのである。レイヤーパッケージ事業部の受注は好調で、休出に次ぐ休出も重なり増産に追われて行った。言うまでも無く“緑のスッポン”も否応なしに巻き込まれて、姿を見ることすら稀になったのである。女子寮でも、“要注意人物”のレッテルを貼られたのは言うまでもなく、厳しい監視下に置かれた様だった。

木曜日になると、寮内もやっと落ち着きを取り戻して、静かな時間が流れ出した。鎌倉の配属先は“総務部総合保全課”だった。A勤務と呼ばれる8時から5時の勤務帯だが、連日の残業で僕より遅く戻って来るのが日課になっていた。「何しろ広大過ぎて、設備も半端なく多いし、何もかもがデカイいんだよ!こんな巨大プラントを相手にするなんて想定外もいいところだ!」連日図面と格闘しつつ、鎌倉はボヤいた。「交代に放り込まれるよりはマシだろう?日曜日と祝日は確実に休めるんだから!」と吉田さんが言うが「訳が分からん!電力に水路にガスや危険物!あらゆる場所に何があるか?全てを覚えるんだぜ!脳のキャパを超えちまうよ!」と悲鳴を上げる。「女の子達だって2交代で365日連続稼働の世界に送られてる。そっちとA勤オンリーを秤にかけりゃ結論は簡単だろう?お盆休みだって何のしがらみも無く帰れるんだ。運がいいと思え!」と言ってやるが、「稼ぎは全く違う!俺は交代で稼ぐ事を選びたかったよ!」とむくれる始末だった。「だが、良い事もあるだろう?総務の“綺麗どころ”を毎日拝めるんだから!」と克ちゃんが言うと「唯一の救いはそれだな。土曜日に歓迎会でお相手をしてくれるってさ!」と少し上向きになる。「くれぐれも潰されるなよ!“薩摩おごじょ”は酒も強い!下手に調子に乗って飲み過ぎると、地獄を見るぜ!」と吉田さんがすかさず冷や水を浴びせる。「ゲッ!マジ?!ビールだけで済まないのか?」「お燗の付いた焼酎を飲まないとドヤされる!“水飲んでんじゃねぇ!”って総攻撃を喰らうぞ!みんな、それでコリてるんだ!」と肩を叩いて言い含める。「そんな・・・、聞いて無いぞ!」「聞いて無くても、それが現実なんだ。女の子だって“ザル”は大勢いるさ!それこそ“無敵艦隊”だよ!」と現実を教えてやる。「あー、一気に憂鬱になるじゃないか。Yもやられたのかよ?」「ああ、敢え無くノックアウトさ。みんなそうなる!そして、やっと一員として認められる。手荒いのが難点だがな。避けては通れない関門さ」「美人の前で無様は晒せない!対抗策は無いのか?」「無い!」3人で合唱する。「別の意味で頭が痛そうだな。日曜日は死んでるだろうな。くれぐれも起こさないでくれよ」鎌倉はスネた。「じゃあ、俺達は行って来るぜ!残業で遅くなるから、宜しくな!」吉田さんと克ちゃんは夜勤に向かった。入れ替わる様に田尾がやって来る。「Y、また知恵を貸せ!鹿児島日電の連中が仕掛けて来やがった!13対4で形勢は不利だ!何か手は無いか?」と喧嘩の作戦を立案しろとの仰せだ。「場所は?」「下井海岸を指定して来やがった!」「飛び道具が居るな。モデルガンかエアーガンはあるか?」「3丁しか無い。しかも、弾が切れたらそれまでだぜ!」「いや、まだ手はあるさ。鎌倉、消火器の更新がどうのとか言ってたよな?古い消火器はどこにまとめてある?」「Cブロックの排水処理プラントの裏にあるぜ。明日、業者に引き渡すが、それがどうした?」「本数は把握してあるのか?」「いや、廃棄するだけだから、台帳も何も無いよ」「鎌倉、ここから先は聞かなかった事にしてくれ!田尾、今夜中に消火器を10本ばかり手に入れろ!射程はスプレーより長いから、バズーカ砲の代わりにはなるだろう?」「ふふん!そう来るか!何となく読めて来たぜ!」田尾が不敵に笑いだす。「後は、釣り糸を50mばかり用意しろ!設置する高さは、足首の高さだ。それで陣地を形成する!逃げ道は背後にすればいい。前回の事を考えれば、奴らは接近戦を回避しようとするだろう。だから“腰抜け!”とか言って罵ってやれば、頭にきて前に来るはずだ。釣り糸に足を取られたところへ消火器をお見舞いすれば、目を潰せるし視界も悪くなる。後は、お前さん達の腕力で決めれば勝てるだろうよ!」「糸は2重3重か?」「180度で2重に張り巡らせろ!要は相手を転ばせればいいんだ。消火器の粉を喰らえば、呼吸も困難になる。粉を落とすには、海水で洗うしか無いんだから、人数が少なくても勝機はあるだろう?」「流石に抜け目がねぇな!じゃあ、ちょっくらと消火器を拝借してくるわ!陣地の図面を書いて置いてくれ!」「明日までに仕上げる。そっちも抜かるなよ!」「ああ、任せな!」田尾は勇んで出て行った。「お前、そんな事にも首を突っ込んでるのか?」鎌倉が呆れて言うが「成り行きだよ。同じ事業部に居たから避けようが無かった。でも、怪我はさせて無い!お互いにな」「悪知恵は、Yの独壇場だからな。研修の時に脱走の手口を考えたのも、お前だったよな?」「ああ、コンビニへ買い出しに行ったヤツだろう?あれは、今のよりは楽だったな!」研修期間中に、飢えた僕等は集団での脱走を敢行した事があった。その時に策を巡らせたのは僕だった。今でも忘れられない思い出だ。「ここでも、作戦参謀か。お前らしい生き方だな」「そうしないと、アイツらは傷だらけになっちまうし、上にバレたら大目玉さ。臨機応変にやってやれば仕事で協力してくれるし、目も瞑ってもらえる。何より信頼を得るのには、こうした事も面倒をみてやらないとな」「まあ、一理ありだな。女の子達にはどうしてる?」「マメに話を聞いてやったり、買い物に付き合ったりしてやれば喜ばれるな。鎌倉ならメカに詳しいから、車の修理とかメンテナンスをやってやれば、直ぐに仲良くなれるだろうよ。女性はボンネットすら開けないから、そこが付け目になる!」「相変わらず、抜け目無しだな。毎週末にYが居ない理由はそれか?」「どこから聞いてきた?」「田中さんからだよ。“Yは中々捕まらない”って言ってたぞ!」「優しい“お姉さま方”の注文は厳しいよ。あれやこれやと。聞かないと仕事に差し障るからな。ヘソを曲げられても困るんだ!」「全部で何人居るんだ?」「25名だよ。パートの“おばちゃん達”も含めれば、50名に膨れ上がる。それを回すのが、今来た田尾や徳田、それに自分さ。圧倒的に形勢は不利だから、機嫌を損ねるのは避けなきゃならない」「意外と苦労してるんだな。女ばかり50名かー。俺の手には余りある存在だな」「最初は、ビビッたさ。“どうやってバランスを取るか?”散々考えたよ。今は、自分の流儀を通させてもらってるがね」「“自分の流儀”か。いい事を聞いた。俺も“自分の流儀”を試してみるよ!ダメだったら、方向転換すればいいだろう?」「退け時をミスるなよ!それだけは見極めろ!」鎌倉との話は熱を帯びて続いた。

金曜日は何故忙しいのだろうか?毎週、朝から“飛び込み”も多く、出荷も集中する傾向は変わらない。だが、今月は徐々に押し戻す感じで仕事が進んでいた。一番頑張ってくれたのは“おばちゃん達”だ。明らかに目の色が違うし、競うように地板からトレーに返して行くのだ。“リスクの分散化”を目的にした僕の“弟子入り作戦”は、時間が経過する毎に結果を残しつつあった。最初は、2ロット程度の先行に過ぎなかったものが、今は10数ロットの先行に変わっているのだ。西田、国吉の2人を中心に、集団的かつ集中攻撃を繰り返せたのが大きかった。“飛び込み”が続いても、彼女達は果敢な攻めを繰り出しては乗り越えて行く。懐疑的な見方が無かったとは言えないが、効果が出ると“自分達で楽にしよう”と言う意識が働くので、1度転がり始めればプラスになるのは比較的に早かった。「こう言うことなのね。大勢でやれば、早く終わるから次が楽になる!」「次も終わらせれば、翌日も楽ができる。Yさんの計略はこれを狙ったとね?」西田、国吉の2名が僕の顔を伺う。「それもありますが、“飛び込み”があっても耐えられる様にするのが、最初の1歩ですよ。これから、出荷数量は加速度的に増えて行きますから、月末に向けて慌てない様にするのが今月の目標です。それには、僕が何でもカバー出来る様にならなくては!」こうして話している間も手は止まらない。随分と変わって来たものだ。「でもね、Yさんばかりに頼る訳にも行かないし、あたし達も努力しなきゃ!」「そうじゃね!風邪を引かれたりでもしたら、あたし達の責任だって言われそうじゃけん!」西田、国吉の両名が言うと、みんなが黙して頷いた。良い傾向だ。“今はこの路線を継続して行けばいい”と確信を持った。「Y、F社の金・銀ベースはどこだ?」徳永さんが見に来た。「もう検査に回ってますよ。“飛び込み”のロットも投入は済んでます!」「ほえ!随分と飛ばしとるな!その他は滞っておらんのか?」「大丈夫ですよ!連絡は絶えずとってますし、必要なキャップもベースも既にあります!」トレーを返しに来た神崎先輩が言う。「何!どれだけ先行しとる?」徳永さんは顎を外しそうになった。「約3日ってとこですね。Y、悪いがTI台湾の金ベースを入れてくれ!若干だが足りないんだ!」「了解です。僕がやりましょう。皆さんはこのまま進めて下さい」と僕が言うと「Y、返せるのか?」徳永さんが驚く。「あたしが伝授しました。安心して任せられます」と国吉さんが胸を張る。「“弟子入り”したとは聞いていたが、こんな短時間で習得したのか・・・」徳永さんは絶句した。「Yの底力、恐るべし・・・」「まだまだだ!Y、最速タイムは更新しておらんのだろう?手を緩めずに前へ進め!」“安さん”が乱入して来るとバシバシと肩を叩く。「徳永、Yの力はこんなモノでは収まらん!もっと尻を叩け!検査の尻も叩いて歩け!1ヶ月先行するまで手綱を引き締めろ!」と言うと検査室へ入って行く。「お前ら、Yのところに製品が唸りをあげて転がっとる!サッサと引き取りに行かんか!」と発破をかけて行く。「1ヶ月の先行?!まさか、本当にやるつもりか?」冷や汗を拭いながら徳永さんは“安さん”の後を追った。「あんな顔、初めて見るね!」「本当、今までに無い顔を見た気がする」牧野、吉永の両名がクスリと笑う。やがてみんなに伝染して行った。

「Y-、お疲れー!」岩崎さんがキーを放って寄越す。スカイラインを始動させると、気ままに街を駆け抜け始める。曲は“Drifter”。アルバム“For East”のスタートの曲だ。“放浪者”の意味で、僕等の気ままな旅にはふさわしいと思い、カセットを流した。「“木綿のハンカチーフ”とは、まるで別物ね」「ええ、1年間のニューヨーク滞在の後にリリースされてますから、アレンジも含めて全くの別物ですよ」「ニューヨークか。摩天楼が林立する街へ行きたくならない?」「2人なら行ってもいいですよ。でも、豚骨ラーメンは出ませんよ!」そう返すと、彼女はクスリと笑った。「気に入った!鹿児島市内まで飛ばして!今夜は寝かさないから!」「はい、仰せの通りに!」“正妻”の機嫌はこの上なく良い。国道10号を流れに任せて快調に飛ばして、市内のモーテルに入って行く。「久しぶりだから、ゆっくりと脱がせて」と彼女は言う。華奢なラインには不釣り合いな形の良い乳房に触れ、ロングスカートを落とすと、白いレースをあしらったパンティが現れる。「まだよ。坊やをあやしてから」と彼女は言うとトランクスを剥ぎ取り、舌を使う。「“ちーちゃん”はしてくれたの?」と尋ねて僕が頷くと吸い付いて舌を這わせた。「あたしだって負けないわよ」と嫉妬を隠さない。“正妻”を言うだけの事はある様だ。パンティを片足に残すとベッドに横になり「来て」と言う。激しく身体を動かして僕を受け止め「もっと・・・、もっと・・・突いて!」とうわ言の様に喘ぐ。初回が終わるとバスルームで汗を流し合う。身体を洗ってやると「初めてよ。気持ちいい!」と言って笑う。バスローブに身を包んでソファーで抱き合うと「美登里は、Yを追って来たと思うの。貴方を連れ戻す魂胆でね」と言った。「冗談でしょう!アイツはハナから“圏外”ですよ!」と否定すると「貴方にとっては“圏外”でも、彼女にすれば“圏内”に置いて置きたい人かもよ。滝沢にしても、“是が非でも手にしたかった”はず。ライバルの芽は早く摘んでしまわなくては、安心できないの!」と腕に力を込めた。「怖い。怖いのよ。貴方を失うのが何よりも怖いの!」と言うと頬に一筋の光が伝った。優しく拭いてやると「行かないで!お願いだからここに居て!」と顔を胸に埋めて泣き出した。「馬鹿な事言わないで。置いて行くものですか!」しっかりと受け止めて抱いてやると、何度も頷いてから泣き顔を上げた。涙を拭いてやり、外を見た。桜島が目の前に聳え立っている。「僕は帰らない。薩摩に根を降ろす」と言うと、やっと彼女は微笑んだ。久しぶりに恭子を抱いて、僕は決心を固めた。「我は、薩摩に根付く!」恭子は嬉しそうに馬乗りになった。「Y、2回戦始めるよ!」泣いたカラスが笑っていた。