limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 56

2019年10月28日 14時35分43秒 | 日記
「Y先輩、1言お願いします!」千絵に言われて立ち上がったものの、僕は何を話していいか?分からなかった。すると「あたしから質問してもいい?」と神崎先輩が立ち上がった。「今の心境は?」「緊張して頭の中が真っ白です」と言うと笑い声が起こった。「美女の集団に囲まれて、戸惑ってるって感じかな?いつもの切れが無いわねー!リラックスして聞いて!別に噛み付くつもりは無いもの。鹿児島に来て1番驚いた事は?」「コンビニが近くに無い事。それと自販機が少ない事かな?」「コンビニは分かるけど、自販機はどうだろう?長野だともっと多い訳?」「公園や道端や駅に“これでもか!”ってくらいにあるので、そう感じるのかも知れません。タイプもモデルも違いますし」「どう違うの?」「歩道にはみ出さない様に全体的に薄く作られてますね。“スリムタイプ”と呼ばれてますよ。品数も多いですし、地域限定品もありますね。黒ビールなんかは向こうにしか無いかも」「黒いビール?金色じゃなくて、真っ黒?」「炭みたいに黒い訳では無いですよ。茶色のやや黒みがかった色って言えば分かります?」「何となく想像してるけど、黒は予想外だわ。他に無いモノは?」「インスタントラーメンの醤油味と塩味ですね。味噌味は見かけますが、他は陰も形も無いのがショックでした」「ここは、豚骨が主流だから諦めて!貴方の基本的戦略は?」「風林火山ですね!」「武田信玄か。原典を言える?」「“疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵略すること火の如く、動かざること山の如く、知り難きこと陰の如く、動くこと雷振の如し”」「流石、Yだわ!スラスラと出て来るのが貴方らしいわ。現代語訳を言える?」「物凄く簡単に言うと“進むときは風の様に早く、機を待つときは林の様に静かに、攻めるときは火が燃え広がるように急激に、じっとしているときは山の様にどっしりと、自分自身は暗闇の中にいる様に気配を消して、動くときは雷鳴が轟く様にドーっと、行動にはメリハリを付ける事が肝要であり、中途半端はダメだ。1つ1つの行動に全力で取り組まなくてはいけない”と孫氏は言っています」「やっと乗って来たじゃない!それでどうやって勝つのよ?」「誤解しないで欲しいんですが、孫氏の兵法の基本は、“戦わずして勝つ”なんです。如何に兵力を温存して相手を挫くか?時には引く事も考えるように、孫氏は言ってます。“撤するは恥にあらず。勇気を持って引くに際しては戦いを避けよ”とも言ってます。もっとも、今は引いてる場合ではありません。勇気を出して戦わなくてはなりませんよ。そのために私は選ばれたのでしょう。“安さん”が言ってました。“最初の2ヶ月は思う通りにやって見ろ!笛吹けど踊らずか?全員が踊るか?俺は後者に賭ける!お前をあそこに据えた真価を見せてみろ!必要な支援は、直ぐにしてやるから遠慮なく言うがいい!”と。ですが、正直に言うと引き継いだはいいが、何から手を付けて行くか?最初は全く分かりませんでした。しかし、問題点は直ぐに見えました。余り前任者の事を悪く言うのも気が引けますが、岡元さんは“放牧状態”で仕事をしてましたよね?統率を取って居なかったに等しい状態なんです。だから、“おばちゃん達”もお喋りに夢中になると手が止まるし、ふざけ始める。これを是正するとなると、相応に手がかかるし、時間も必要です。もう1つは、“情報の伝達”を怠っていました。朝礼で伝えるべき事を伝えていなかった。これは、意思疎通が全く取れていない証拠でもあります。そこで、まず考えたのは、伝えるべき情報を“漏れなく伝える”事です。朝礼のやり方は変えていませんが、関係がある事は、例え些細な事でも余す事無く伝える様にしてます。そして、みなさんご存じの“ボード”です。あれの目的は“情報の可視化”です。“言った、言わない”の様な不毛な争いを無くす事も勿論ですが、“次に自分は、何をやらなくてはならないか?”を常に意識させる事も含まれてます。“おばちゃん達”を動かすには、力で動かすのでは無く“自主的に動いてもらう”方が角が立たないで済みます。今、自分は国吉さんに“弟子入り”してますが、そこから学んだ事は順次横へ広げるつもりです。“おばちゃん達をマルチに使う”事が最終目的ですが、並行して“1極集中を避けて楽をさせる”目的もあります。人間は楽をする事を覚えれば、もっと楽をしたがるものです。楽をしたいなら、大勢で手早く片付ければいい。そうすれば、検査工程にもっと早く製品を送り込めるし、余裕も生まれる。質が上がれば受注も増えるでしょう。少しづつではありますが、流れは良い方向に向かいつつあります。みなさんには、今しばらく待って欲しいとお願いしたいのです。意識を変えれば、必ず好循環が生まれます。後は、継続して取り組むのに加えて、意思疎通をしっかりと取り続ける事です。鉄の扉を引き戸に変えるだけでも、溝は確実に狭くなるでしょう。僕が“こうしましょう!”と押し付けても、人は動きません。“動くように仕向ける”事で、僕は立ち向かっています。まあ、褒められた作戦ではありませんが・・・」と言うと、みんなは真剣に聞いていてくれた。「なるほど、こんな深慮遠謀が隠れていたのね。貴方なりに“おばちゃん達”を動かす算段をしてくれていたとは。確かに雰囲気は変わったわね。品証もそれは肌で感じる?」と神崎先輩が細山田さんを見た。「明らかに違いますね!今までは“厄介者”と見られているのをヒシヒシと感じましたが、今は“今日は何を取りに来たの?これ、持って行きなさい”って感じですから、行くのも苦にならなくなりました!実里は特にそうじゃない?」「ええ、Y先輩が直ぐに対応してくれるので、助かってます!」「あたしも度々お邪魔してるけど、トゲトゲしい雰囲気が和やかになりつつあるのは感じるわね。さあ、重たい話はこれくらいにしましょう!自由に聞いていいわよ!Yさんも座って飲んで!」と神崎先輩が宣言すると、女の子達はガヤガヤと話し出し、飲み始めた。「まずは、一献」と神崎先輩がお酌に来た。「恐縮です」と言い受けると「今まで、あたしに臆す事無く、真正面から受けて立ったのは“安さん”だけだったの。貴方はひょっとして信玄の生まれ変わりじゃない?“風林火山”の計で、あの手強い“おばちゃん達”に何も言わせないとは、驚き以外の何物でも無いわ!」と言われる。「僕には“最強の騎馬軍団”を率いる力はありません。ただ、聞いて信じて戦うだけですよ。まだ、道半ばですがね」と返すと「それでいいの!聞いてくれる。信じてくれる。どれだけ、あたし達が望んでいたか?今は分るでしょう?貴方は“自分らしく”走りなさい!どこまでも貴方を追って行くから!頼むわよ!」と手を重ねて言い含めた。彼女が去ると「Y先輩、どんなパンティが好みですか?ちなみに、今日はピンクのチェック柄ですよ!」と千絵がスカートをめくる。恐ろしいギャップだが、千絵らしい質問だ。「あたしは水色のレースよ!」と千春先輩も見せ付けるべくスカートをめくる。「ねえ!」「どっちが好き?」とステレオ攻撃を受けてしまう。「じゃあ、逆に聞くが“勝負パンティ”は何だ?」反撃するならこれしか無かった。「ふむ、数ある中でとなると・・・」千絵がもたついていると「Tバックの赤いヤツよ!」と千春先輩が先制攻撃を見せた。「先輩!入るのあるんですか?」と千絵も切り返す。「あたし、そんなにおデブじゃないもん!サイズ合うの持ってるから。Y―、見たいでしょ!今度お姉さんと遊んでー!」と抱き着かれる。だが、千絵も負けてはいない。膝元に座り込むと「Y先輩は、あたしのモノ!」と千春先輩の腕を引き剥がして行く。「それは無いでしょう!Yは共有財産なんだから!」と両者での争いに発展し始める。僕は“紛争地帯”から早々に逃げ出して、田尾のいるテーブルに潜り込んだ。「あーあ、派手にやってるねー。酒が入ってるから収拾が付くのは簡単じゃねぇだろうよ!」と田尾も気圧され気味だ。「もう、見てられないから止めて来るね!」と岩崎さんが調停に乗り出した。「Y、“おばちゃん達”をどう操縦するんだよ?」と田尾が突っ込んで来る。「操縦はしないよ。“自主的に従う様に仕向ける”のさ。力でねじ伏せようとすれば投げられるか潰さるが、自分の意志で付いて来るなら手を差し伸べる。極論にはなるが、脱落者が出ても仕方がないと考えてるよ」「ヒュー、そこまで腹括ってるのか?」「ああ、付いて来れなければ足手纏いになるだけだ。非情にならなきゃいけない事もあるだろうよ」「反発喰らってもか?」「勿論、既に予測は立ててあるさ。3分の1は入れ替わる可能性は否定しない!」「古狸は一掃するか、一気に塗り替えるつもりだな!相変わらず思い切りがいいじゃねぇか!まあ、1杯やりなよ!」と焼酎のお湯割りを差し出した。「これからの活躍を祝して!」男2人で乾杯をしていると、品証の2名が押しかけて来た。細山田さんが田尾に、実里ちゃんが僕に近寄ってお酌をしてくれた。「“山口組”の抗争は、しょうがないよね。2人共、Y先輩と遊びたいだけなのに、どうしても主導権を勝ち取りたいらしいわね?」細山田さんが言うと「御大将を差し置いて、何やってんだ?まあ、実害がねぇだけマシだけどさ!」と田尾は投げやりに返す。「Y、矛を収めさせる手立てはあるのか?」「ある訳ないじゃん!勝手にやってるんだから、火に油を注ぐ様なもんさ。あーあ、また飲んでからやり合ってる!こうなると最悪だ!」僕は陰に隠れる様に身を潜ませた。「Y先輩、こっち、こっちへ!」実里ちゃんが盾になる様にして僕を奥へと逃がしてくれる。「そろそろ、バックレる頃合いか?Y、幸い誰も見ていねぇ。まずは、一服着けてからにするか?」田尾がライターを取り出した。「外で一息付こうか。こう騒がしくちゃ落ち着けないからな!」田尾と実里ちゃん達と席を外すと、僕らは外へでてタバコに火を着けた。中の喧騒がウソの見たいに、静かに街は夕暮れ時へ向かっていた。「今は、喧嘩をやらかしてるが、千春も千絵も岩崎も神崎先輩もアンタの手腕に期待してる。無論、俺達もそうだ。返しと検査は一体で運用しないと、これから増々苦しくなるし、いずれは行き詰まりになっちまう。そうなる前に、アンタがどれだけ見せてくれるか?“安さん”の関心もその1点だ。御大将!采配に抜かりはねぇだろうな?」「日々の積み重ねがモノを言うだろう。“おばちゃん達”も抜け目なく見てるしな。失敗は許されないのは承知してるが、焦ったら負けだし手綱を緩めてもマズイ!ちょうど微妙な時期に差し掛かってるのは、間違いないが裏を見れば、思い切って動ける時期でもある。そろそろ、鞭を入れるタイミングかもな!」「それは、犠牲を伴ってもか?!」「さっきも言ったろう?3分の1は脱落しても仕方ないと。“古いしきたり”でしか動けないとしたら、これからのスピードには足手纏いになるだけだ。“新しいやり方”に慣れなければ、置いて行くしかない!時代の流れは速いし、弱者には優しくない!事業部の方針に乗り遅れないためにも、ピッチは上げるしかないんだよ!」「非情と言われてもか?」「ああ、それが僕に課せられた使命だとするならな!」「でも、Y先輩はそんな事はしないと思います。みんなを拾い上げて荷車に乗せてでも、時の流れに立ち向かうつもりでしょう?」細山田さんが言う。「あたしも、そう思います。先輩の性格からして、弱者を見捨てるとは思えません!」実里ちゃんも同調した。「見抜かれてるぜ!多分、“おばちゃん達”も抜け目なく感じてるだろうよ!鬼の面は似合わねぇ。“仏の参謀長”だったんだろう?」「そう言われた事もあるな。もう、昔だが・・・」「だとしたら、“仏の参謀長”を思い出せや!戦う姿は似合わねぇよ!じっくりと策を巡らせてジワジワとやればいい。“おばちゃん達”を敵に回したら、元も子もねぇだろう?」田尾は核心を突いて来た。「いずれにしても、流儀は僕の流儀でやるさ。それだけはハッキリと言える!」「その言葉を忘れるな!自分に対して、他人対しても譲れない流儀を貫けよ!御大将!」田尾の言葉は心に響いたモノになった。“自分の流儀を貫け!”と言うセリフは、最後まで僕を奮い立たせる指針となった。「ここに居たの?ごめんね!もう騒ぎは収まったから飲み直さない?」岩崎さんが呼びに来た。「よし、もう1度乾杯からやり直しだ!」田尾の一言で僕らは部屋に戻った。宴会はその後も盛大に盛り上がったし、僕は散々に女の子達に絡まれ続けたのは言うまでも無い。

そして、月曜日。眠い目を擦り、痛む頭を抱えて寮の玄関に立つと「オス!」と田尾がやって来た。だが、いつもの切れが無い。「昨日、何時に帰って来たか覚えてるか?」と靴を履きながら聞いて来るが「記憶が飛んでるんだよ。何時だったかな?目覚ましはセットしたらしいが、どうも靄がかかってるんだよ」と返すと「同じかよ。結局、最後まで付き合ったらしいが、どうもイマイチ思い出せねぇんだよな!」と言う。「3次会でカラオケに行ったのは、薄っすらと思い出せるが・・・」「確か、千春と千絵がマイクを離さなかった様な記憶があるぜ。それ以降はどうしたんだよ?」「・・・、分からん!」2人して工場へ歩き出すと、前を行く岩崎さんと永田ちゃんが振り返って「おはよー!」と元気な声を上げた。「千絵と千春は?」田尾が聞くと「それがね、2人共“化粧に時間がかかるから先に行って”って言うのよ。顔中、傷だらけなのを隠すのに必死なの!」と岩崎さんが笑って言った。「でも、“何で傷だらけなんだろう?”って口を揃えて言うの!喧嘩した事、完全に忘れてる見たいよ!」永田ちゃんが可笑しさを隠す事無く笑いながら言う。「都合の悪い記憶だけが抜け落ちてるとは・・・」「ノー天気なヤツらだぜ!」僕等は、お手上げのポーズを取るしか無かった。「カラオケで20曲を熱唱したのに、それもすっかり抜け落ちてるの!全くどう言う事かしら?」岩崎さんも首を捻るが、当人達にしか分からない事だろうと思った。多分、“安さん”の雄叫びを聞けば目覚めるはずだ。僕等に遅れる事5分後、千絵と千春先輩も到着し、朝礼に備えて整列を終えると「昨日はごめんなさいね。今日からまた、しっかりと頼むわね!」と神崎先輩が言いに来た。「お任せください」と言うと彼女はホッとしたのか微笑んで列に戻った。“安さん”のご機嫌は相変わらず斜めで、太く大きな声が頭の中で反響し続けた。今週を乗り切れば、いよいよ6月に入る。着任から1ヶ月が過ぎ去った事になるのだ。しっかりとメモを取り、パートさんの朝礼の“種”を拾い集める。月末でもあり、朝礼は1時間45分を要してやっと終わった。パートさん達が出勤して来るまで45分しか無い。ボードに書き込みを入れ、治具を用意して、炉から出た製品を仕分ける。その間に、徳田、田尾の両名が“本日の出荷予定と不足分”をボードに書き入れた。“おばちゃん達”は、早い組と遅い組に別れていた。早い人は8時15分には到着するし、遅い方は保育園へ子供さんを預けてからギリギリに入って来る。早く来てくれる人にも手伝ってもらい、何とか朝礼に漕ぎつける事が月曜日の宿命だった。型通りの朝礼を終えると、みんな三々五々に仕事を始める。検査担当のパートさんは、鉄の扉の後ろへ急いだ。僕も国吉さんの隣で“修行”に精を出す。スピードでは、まだ国吉さんに及ばないが、基本的な手技は大体掴みつつあった。「Yさんは筋がいい。後は、焦らんで確実にトレーに受け止めるだけよ」と“師匠”は言う。「Yさんは、全体を見ながらでいいのに、どうしてあたしに“弟子入り”したの?」と国吉さんが言い出した。「岡元さんの“遺言”なので。“オールラウンドにならんといかん!”って言われてますから」と返すと「それにしても、非常に熱心にやられるから、教えることはもう無いよ!」と言われる。「いえ、まだまだ盗ませてもらいますよ!」と言うと「家には来ないでね!」と笑われる。他のパートさん達も釣られて笑い出す。しかし、手を止める人はもういない。少しづつだが、ここは変わろうとしている。「Y、悪いけどF社の銀ベースとキャップ、至急寄越してくれるか?」徳田が急遽の返しを要請して来た。「了解、じゃあ手分けして一気に返してしまいましょう!」国吉さんと僕が銀ベースをその他の2人でキャップをトレーに返して、徳田に手渡す。その間、およそ20分。1人なら倍の時間を要する作業だ。「Y、サンキュー!」田尾が笑顔で検査工程へ送り込む。「こう言う事か!1人より2人。3人なら15分で終わるものね。Yさんの目論見は、楽に早く終わらせることなの?」と国吉さんが言う。「そうですよ。今みたいな“飛び込み”が今週は多いはずです。通常の流れもやりながら、“飛び込み”にも臨機応変に答えて行く。そのためには、複数の手が欠かせません。僕がマルチに作業する事で、少しでも手厚く構えれば、みなさんの負担は減りますよね?」「そうだね。そのために“弟子入り”したの?」「ええ、どうせなら少しでも楽したいじゃないですか!後ろに“借り”を作って置けば、大目に見てくれる場合もあるでしょうし、苦情も減る。険悪な空気より、和やかな空気にしたい。その一心ですよ」「ふむ、いいとこに目を付けるわね!“借り”を作るか。気分もいいよね!」担当してくれた方が頷く。「ですから、今後もみなさんから、色々と盗ませていただきますよ!」と言うと「警察に突き出そうか?」と笑われる。「家には侵入しませんから!」と言うと更に笑い声が広がった。「やってくれるじゃない!Yの真骨頂はこれか!」隠れて様子を伺っていた岩崎さん言うと「こんなモノでは終わらないわよ!彼の力はまだまだのはず。知らずに操縦されてる“おばちゃん達”が本気になれば、あたし達もずっと楽になるでしょうよ!」と神崎先輩が返した。目に見える成果は日に日に挙がっていった。

金曜日、月末最終日も何とか乗り切って、見事に月初予定の達成が成されると、僕は心底ホッとした。“足を引っ張らずに済んだ”と言う安堵感に浸れたからである。午後には終礼で目標達成が報告され、“安さん”のご機嫌も少しは良くなった。後片付けと来月の予定の書き込みに追われていると「この野郎!冷や冷やさせやがって!だが、口やかましい“おばちゃん達”を見事に使いこなしたのは、僥倖だったな!Y、どうやって躍らせた?」と“安さん”が怒鳴り込んで来た。「躍らせてはいません。“自主的に動いてもらった”だけです。やらなければならない事は、ここに全て書き出してあります。これを見れば誰でも分かるし、“飛び込み”があっても慌てなくて済みます。“可視化”した事で、自主性が出てきましたから、少しは良い方向に向いた結果です。眠っていた力を呼び覚ましたに過ぎません」と言うと「ふん!小賢しい物言いだ!お前が仕掛けた策が当たったにも関わらず、それを殊更に言わないとは、どう言う了見だ?!」「まだ、半月しか経過していませんから、成果に乏しいのが実情です。ですが、来月はもっと貢献出来るように努力します」と返すと「過少評価をするな!岡元が仕切っていた頃には、検査で手が空いて困っていたんだぞ!それが月末の今週、検査は誰も手が空いていなかったじゃないか!徳永も顎が外れるほど呆れていた!“Yが仕切ったら流れが変わった!”とな!俺の目に狂いは無い!お前はここの歴史を塗り替えたんだ!来月はもっと驚かせろ!徳永が腰を抜かすくらいにな!」と言うと、僕の頭をくしゃくしゃにして、豪快に笑って去って行った。「褒められたのか?はたまた、発破をかけに来たのか?どっちだ?」と言っていると「両方だよ!Y、お疲れ様でした!」「嵐の月末を、意図も簡単に乗り切った感想は?」と千春先輩と岩崎さんが顔を出した。「何とか、無事にやり切った!その一言ですよ。少しは余裕が出てますか?」と言うと「余裕も余裕よ!月初にドカンと1発売り上げが立つ!今までこんなウハウハな事はあった試しもねぇよ!」と田尾も言いに来る。「改革の成果は、確実に積みあがってるわ!あたし達もがんばらなくちゃ!」と岩崎さんが頭を撫でた。「Y-、今日これから空いてる?」千春先輩が聞いて来る。「そうですね、後、30分もすれば上がれますが、どうしました?」「ちょっと付き合ってよ!千絵の承認も取ってあるからさ!お姉さんと遊んでー!」と千春先輩に抱き着かれる。「岩崎さん、これどう言う仕組み何です?実里ちゃんともそうですが、次々にお誘いが来るのは何故です?」田尾が引っ込んだのを見計らってから、彼女に問いただすと「知らぬはYだけね。実は、大奥が出来てるのよ!」と彼女は悪戯っぽく笑って言う。「Yをこちらに頂くに当たりまして、“既成事実”を積み上げる事に決めちゃったの!誰かに“ヒット”したらYだって置き去りにはできないでしょう?何とかして残る手を考えるはず。それを狙って恭子とあたしが結託してるのよ!」と千春先輩は恐ろしい事を平然と口にした。「前にも言ったけど“正室”はあたし。他は“側室”だけど、みんな順番にYの“子種”をちょうだいするの!まだ、“当たり”が出ないのが気がかりだけどね!」と2人して魔性の微笑みを浮かべる。「だから、本日は、あたしの番なの。30分後に帰りましょう!後は、黙って付いて来て!」と千春先輩はノリノリだった。「大奥とは・・・、いつの間にそんな組織を?」「簡単に帰すと思ってるの?あたし達は帰すつもりは、更々無いからね!さあ、大車輪で片付けてよ。あたし待ちきれなくてソワソワしてるんだから!」岩崎さんも千春先輩も意に介す風が無い!どうやら途轍もなく深いワナに落ちたらしい。釈然としない事も多々あるが、彼女達は“帰任阻止”で一致して結託したらしい。「無駄な抵抗はしない方がいいですね。分かりました。さて、急いで片付けるか!」僕は半ば諦めつつも片づけを始めた。千春先輩と寮に戻って15分後、僕は先輩の車に連れ込まれたのだった。「海岸へ行くよ!」赤いスタリオンは、グングンと加速して行った。

国分の街は、錦江湾の最も奥まった場所にあった。擂鉢状のカルデラの北端に広がっている平地に形成されていた街である。猛加速で疾走した赤いスタリオンは、海沿いの空き地に停まった。「下井海岸よ。大丈夫、呼び名は怪しいけど、墓場じゃ無いからさ」と千春先輩は笑った。砂浜へ出ると「Y、高校生活はどうだったの?」と聞かれた。僕は、道子と雪枝との再会から始まった高校時代について、ダイジェストを話した。「へー、意外とドラマチックじゃない!小学校以来の再会かー、お互いに意識はしてたでしょ?」「まあ、それなりには。でも、僕には幸子が居ましたからね。名前の刺繍が入ったネクタイを交換して、3年間そのままでしたし、道子と雪枝もそれぞれにパートナーを見つけて付き合ってましたから」と返した。今、僕が鹿児島に居るとは、誰も想像しては居ないだろうが・・・。「あたしは、最初に総務に入ったんだけど、“何か違う”ってずっと思っててね、半年後にサーディプ行きを志願したの。そして、恭子と出会って彼女の“更生”に手を貸したの。当時、“カミソリお恭”って言われてたけど、内面は意外にもナイーブで心は傷だらけだった。この地域では“超有名なワル”で名前は轟いてたけど、今は見ての通り、普通の女の子よ。そして、Yの“正妻”を自負してるの。ちょっと強引なとこもあるけど、恭子は誰よりもYに信頼を寄せてる。最初に10人で自己紹介した時に“アイツが欲しいな”って言いだして、その通りに配属先が決まったから、恭子にしてみれば“してやったり”だったのよ。その辺は聞いて無いでしょう?」「ええ、全く聞いてません。最初からハメられてたんですね」僕等は少し小高い草地に座った。心地いい風が吹き抜けている。千春先輩は白いロングスカートに水色のタンクトップ1枚というラフな服装で、ブラがチラチラと見え隠れする。缶コーヒーを開けると「そう言えば、Yは大抵ブラックコーヒーだよね?何か理由があるの?」と聞かれる。「何せ猫舌なので、例えば、ファミレスとかに入っても“アイスコーヒー”なら、直ぐに飲めるでしょう?そのクセがあるからですよ」と言うと「如何にもYらしい理由だね!」と笑われる。今頃は第3次隊の連中は、眠れぬ夜を過ごしているだろう。月曜日には50名が新たに着任するのだ。その内3分の1は女子社員で構成されている。僕には1ヶ月のアドバンテージがあるが、いつ追い越されるか分からない。7月に着任する第4次隊を持って派遣部隊全員が揃う。総勢200名が各事業部に分散して半年の任期で働くのである。工場に残った人々も大変なはずだ。「Y、月曜日に着任する部隊から、1人品証に配属されるって知ってる?」「いえ、初耳ですよ。どこからネタを仕入れてるんですか?」「それは内緒よ!秘密の情報網を駆使して、調べてるの。さて、付き合ってもらうわよ!今日はあたしのモノなんだから!」千春先輩の目が悪戯っぽく輝いた。腕を絡ませると車へと歩き出す。「3回戦までは根性見せてよね!」と言いながら胸を押し付けて来る。千春先輩は、少しポッチャリとしているが、底抜けに明るいのがチャームポイントだ。車のドアを開けると、キーを放って寄越す。「Yが行きたい場所へ連れてってよ!」と言う。僕は垂水経由で鹿児島市内を目指して、スタリオンのハンドルを握った。「Y、これ見て!」千春先輩がスカートをめくってパンティを見せ付ける。赤いTバックは“勝負パンティ”だった。「これからは、“ちーちゃん”って呼んでね。あたし、離さないから!」彼女もマジで仕掛けてきていた。夕暮れが迫る中、僕は思い切ってアクセルを踏んだ。スタリオンは即座に反応して加速を見せた。ちーちゃんとは4回戦まで付き合うハメになった。寮に戻る頃には、日付が変わろうとしていた。

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