limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 54

2019年10月21日 16時22分18秒 | 日記
翌日の昼休み、昨日の余波がまだ残っている中、僕は岩崎さんに呼び止められた。「Y,当然ながらMTの運転、大丈夫だよね?」「ええ、問題ありませんが?それが何か問題でも?」「何でもなくは無いか。千春、Yに話してもいい?」「うん、アンタがその気なら、止める権利は無いもの」と山口千春先輩は言った。「あたしの心の闇に興味ある?千絵は知ってるから、貴方も知って置くべきかと思ってさ!」出荷検査のトップであり、笑顔を絶やさない岩崎さんの心の闇とは何なのか?僕は吸い込まれる様に、彼女達の前に座った。

「タバコ吸ってもいいよ!大した話でも無いからさ!」と岩崎さんは言った。僕はタバコに火を着けた。「あたし、小学校の6年間を通して“イジメ”に合ってたのよ。毎日毎日、陰湿な事をされて、言われて過ごしたの。その反動は、分かるわよね?中学校からは、グレて男子とツルンで、喧嘩に明け暮れたの。今の田尾と同じよ!イジメを主導してた子には、倍以上のお返しをしたし、タバコ吸ってサボって“問題児”と言われてたものよ!高校に行っても変わらなかった。むしろ、酷くなってく一方。学校にも行かなくて、パチスロやらゲーセンに通う毎日。この会社に受かったのも“奇跡”と言われたのよ!それだけ荒んだ日々を過ごしていたわ!今のあたしの事とは、にわかには信じられないでしょう?」僕は咥えていたタバコをポロリと落とした。「嘘でしょう?!」「残念ながら、本当の話。髪もショートだったし、今とは風貌も随分と違ってたのよ。化粧も派手だったし。ここへ来ても、あたしは誰ともツルンだりしなかったし、口を聞く事も億劫だったの。そんなあたしを“安さん”は、陰からずっと見ててくれて、ある時に千春に言ったの。“アイツを助けてやれ!”って。千春は、あたしと同期で同い年だから、何となくは知ってたのよ。そして、洗いざらいを話したら千春は一緒に泣いてくれたの。“もう、いいよ!誰も気にしないから、そのままの恭子でいいじゃん!”って言ってくれたよね?」「うん、恭子を助け出すのは大変だったよ!」と千春先輩は笑って言った。「それから、やっと“更生”して、今のあたしが居るのよ。髪を伸ばすのだって、千春が“ロングが似合うから、そうしたら?”って言ったのがきっかけなの。でも、未だに昔の自分は完全には消せないで居るのよ。車は、その最たるモノ。“スカイラインのMT車”なんて、乗ってるのはあたしだけじゃないかな?女の子らしく無い選択でしょう?」「そうは思えませんが?女性のレーサーが居るんですから、ありじゃないですか?」僕は紙コップのコーヒーを飲み干しつつ返した。「千春、これよ!Yの落ち着きを見た?普通は引くと思うけど、コイツは全部受け止めるのよ!そして、何より心を見てくれてる。その辺で偉そうにしてる男子とは、明らかに違うと思わない?」「うん、何か違うと思ってたけど、そこらのヤツとは丸っ切り違うね!この姿勢は何処から来るんだろう?」千春先輩が宙を見る。「多分だけど、高校時代に女の子達と付き合って来たのが下敷きじゃないかな?確か5対2で女子が多数のグループだったよね?」「ええ、女子の人脈や繋がりは多かったですよ」「話が合わない事は無かったの?」千春先輩が聞いて来る。「それは無かったですね。ノートの貸し借りや困り事の解決とか、昼休みに“お茶会”してワイワイとやってましたし」「ふむ、“お茶会”かぁー。乗っかったの?」「いえ、考えたのは自分です。場所やポットやカップとかも、こっちで交渉して借りましたから」「良くやったね!先生も公認してたの?」「そうです。先生達には“生徒の裏情報を提供して、自分達も学校側の裏情報を聞く“見たいに双方が利を見いだせたから出来た事ですが。何せ新設校だったので、伝統も何も無いんです。学校も生徒もお互いが”手探り状態“でしたから」「そう言う環境だから、何でもありだったのか!羨ましい限りだわ!でも、絆は強かったでしょうね。男女じゃなくて”人と人の付き合い“があったはずだから、信頼関係は物凄くあったんじゃない?」「”1を言えば100を知る“を地でいってましたね。あんな関係は中々無いと思いますよ!」「千春、コイツは手放したらダメなヤツになると思わない?」岩崎さんが言うと「そうだね!閉じ込めてでも守り抜く必要性は高いね!取り敢えずは、千絵が接着剤の代わりだけど、あたし達も含めてみんなでガチガチにしないと、かっ攫われる恐れがありそうね!Yはこちらに頂かないとマズイ事になりそう!」と千春先輩も同調した。「Y,高校時代の信頼関係をここで再現して見ない?既に下地はあるんだし、あたし達と一緒にもっと良い関係を作ろうよ!そのつもりで、今日は腹を割って話したんだけど、やって見る気はある?」岩崎さんは真剣に聞いて来た。「それは勿論、ありますよ!仕事も遊びもメリハリ付けてやりたいですからね。でも、みんなが乗りますかね?」「それは”要らぬ心配“ってヤツよ!あたし達はハナから待ってたのよ!千春、いいわよね?」「大賛成!早速、Yの滞在期間の延長を”安さん“に進言しなきゃ!」千春先輩も乗って来た。「Y,アンタが起爆剤よ!全てを一新しようよ!」「ええ、変えて行きましょう!」こうして、僕等は新たな地平へと踏み出した。さしずめ、”国分同盟“とで言って置こう。

その日の帰り道は賑やかになった。今まで別々に帰っていた千春先輩も田尾も加わり、遠足の様な状態になった。「Y,高校時代のあだ名は何だ?」「“参謀長”だよ」「やっぱりそれだろうな!でなきゃスラスラと色んな手が言える訳がねぇ!奇想天外な作戦を思い付くのは、常に策を巡らせてる証拠があればこそだな!」「田尾!喧嘩もいいけど、もっと平和的な策を考えさせなさいよ!」と岩崎さんがゲンコツをお見舞いする。「いてぇー!流石に元ヤンキーだけあるな!」「それがどうだって言うのよ!これからは、Yを中心にして仕事も遊びも変えてくからね!」と岩崎さんが一瞥すると田尾は小さくなった。「Y,まずは、“飲み会”をやらない?あたし達だけでさ!」千春先輩が言い出す。「いいかも!おじさん達とやるとクドいから、あたし達がワイワイ、ガヤガヤ出来ないもの!」と千絵が賛成を言い出す。「Y先輩、お醤油持ってません?東京のお醤油とこっちのヤツを比べたいんですが?」永田ちゃんが自由研究の様な事を言い出した。「ああ、1本あるよ。味の素は?」「スーパーに売ってますよ。何か思い付きました?」「うどん出汁を作る要領で比較するのはどう?」「お湯に溶いて出汁を作るか!面白いかも!ポットはあるし、ボールも3つはあるから、みんなで味見出来る様にスプーンを探せばOKだよ!まずは、それだね!」岩崎さんが決断した。「Y,明日お醤油持って来て!永田ちゃんは味の素を、スプーンは千春と千絵も探し出して!自由研究からやってくよ!」岩崎さんの声に「おー!」とみんなで答える。「醤油に違いはあるのか?」田尾が首を捻る。「明らかに違いはあると思う。ここの醤油は少し甘いんだ。まずは“百聞は一見に如かず”をやってみようじゃないか」と僕が押し切ると寮の玄関が見えて来た。「明日、忘れないでよ!」と千絵が言うので「おー、必ず持って来る!」と返して、それぞれの玄関へ別れる。「明らかに違うとは、どう言う意味だよ?」田尾が突っ込みを入れて来るので「味噌を味見すれば分かるさ!付いて来な」と言って部屋へ案内すると、味噌を舐めさせた。「なんじゃこりゃ?!これが東京の味噌かよ?むちゃくちゃ美味いじゃねぇか!」と田尾は腰を抜かす。「信州味噌を甘く見るな。ここは白い麦味噌だが、これは米麹を使ってるヤツだ。これで少しは分かったか?」「うーん、確かに一理ある!明日に期待するぜ!」と言うともう1回舐めた。「きゅうりに付けて、かじったら最高じゃねぇか?」「ああ、それは保証する。たが、きゅうりが無いのが残念だな!」2人してニヤリと笑うと、「明日が愉しみだぜ!うどんも用意させたらどうだ?」と田尾が言い出すが「そしたら“安さん”に見つかったらヤバイぞ!“喫食率を下げるとは何事だ!”ってドヤされそうだ!」と言うと「ありえるだけに確かにヤバイな!うどんはまたの機会に残しとくか?さて、俺は寝るわ!睡眠不足だからな」と言って田尾は引き上げた。荷物の中から醤油のボトルを引っ張り出すと「明日は記念すべき日になるな」と呟いてから、風呂へ向かう支度を始めた。翌日の昼休み、味噌とお醤油の“味見会”は、パートの“おばちゃん達”も巻き込んで盛大に行われた。牧野、吉永のご両名が監修に付いてくれたので、出汁はキチント仕上がった。「うっ!これは・・・、Y、これ1本いくらするんだよ?」まずは田尾が絶句した。「本当に美味しい!1本1000円くらい?」と“おばちゃん達”も絶句した。「150円ですよ!スーパーで普通に売ってますよ!」と僕が言うと「東京は贅沢やね。同じに出汁を取ってもこれ程違うとは思わなんだ!高級料亭の味だね!」「それが、1本150円?!次元が違う。違い過ぎる!」“おばちゃん達”は幾度も試飲しては唸った。「懐かしいなー、素うどんでもいいから暖かいうどんを入れたくなるね!」牧野、吉永のご両名は、久しぶりの味に感激していた。「本当に違う!お刺身に付けてもお寿司に付けて旨いかも!」“予想外”と言う表情で永田ちゃんと千絵が頷く。「Y、本当にこれ150円?」「桁を1個間違えてないよね?」岩崎さんも千春先輩も心底驚いた様だった。「普通にスーパーで売ってるヤツですよ。標準的な醤油ですが?」「どこが“標準”なの?まるで別物じゃない!何が違うんだろう?」永田ちゃんは、ラベルを食い入るように見つめた。「しいて言うなら、醸造工程が違うんだろうな。原材料に差は無いから、地域差と言うか土地柄も影響しているんだろうよ」と僕が言うと「それだけでは説明が出来ない“この差”はなんだろう?お味噌だって全くの別モノだし、この品のある味わいは、どう言う事なの?」パートの“おばちゃん達”も首を捻るばかりだった。「Yさん、お味噌少しもらってもいい?」牧野、吉永のご両名は、抜かりなくラップを持って来ていた。「あたし達にも分けてよ!」他の“おばちゃん達”も加わり、カップの味噌は3分の1を残すだけになった。醤油のボトルも同じく3分の1にまで激減した。水筒やペットボトルのお茶を捨ててまでの“争奪戦”が繰り広げられた。懐はさみしくはなったが、みんなの笑顔が唯一の救いだった。「Y、大成功だね。こうした事はYが居るから出来るのよ!貴方には“みんなを変えていく力”があるの。これで、“おばちゃん達”とも共通の話題が出来た。“初めの1歩”としては上々よ!」岩崎さんも手応えを得た様だ。「小さな1歩ですが、これで“凍てついた壁”に風穴は空きましたかね?」「もう、止まらないわよ!これで、変革の土台は出来たもの!」彼女は胸を張った。たかが、味噌・醤油だったが、これから先への大きな試金石になったのは確かだった。

その日の夕方、部屋の壁に2枚のホワイトボードが設置された。前々から要望していた、月次予定表と出荷検査の優先順位を書き込むためのボードである。パートさん達にも予め分かっている欠勤日を書いてもらうし、徳田、田尾の両名には急ぎの製品や数量の不足している製品を書き込んでもらい、何を優先するか?を“可視化”するためだ。意思疎通を明確化して、不毛な“村根性”を止めて行く第1歩である。まずは、返しと出荷検査、出荷工程から壁を壊して行くのが目的だ。僕は定時上がりだったが、千絵達は1時間半の残業になっていたので、月次予定表の作成をしながら、今週の仕事をどう回すか?を考えていた。「金曜日は苦しいな。さて、どうするか?」と1人椅子に座って思案に沈んでいると、ドアが開いて岩崎さんが顔を出した。「これ、余りのトレーよ。机の上に置いとくね」と言うと後ろからそっと抱き着いて来て、頬に唇を押し当てる。「Y,金曜日の夜、開けて置くのよ!あたしに付き合いなさい!」と耳元で囁く。「千絵にばかり自由にさせない!最初に目を付けたのは、あたしなんだから!」と言うと、膝に座り込んで首に手を回すと左肩に顔を乗せた。そっと抱き寄せると「甘えたいんですか?」と聞いた。「そうよ!次は、あたしの番!お姉さんの相手はダメ?」と言うので「ダメとは言いませんが、千絵に知れたら“ヤキモチ”が炸裂しますよ?」と言うと「気付かれなければ、いいじゃない。コッソリとすればいいのよ!」と意に介す風が無い。彼女にして見れば、千絵はまだ“子供”も同然なのかも知れなかった。その時、背後で物音がした。「田井中ちゃん、Yに用事?」と岩崎さんは、平然と言った。「あっ、・・・あの、お邪魔でしたら、明日・・・、出直します!」「実里(田井中さん)、変な気遣いはよして!Yに用事があるんでしょう?あたしは済ませたから、遠慮しないで!」と言うと膝から降りて僕を自由にした。「Y,実里の用事を聞いてあげてね。金曜日、忘れないでよ!」と言うとさり気なく部屋を出て行った。「すいませんね。御用は何です?」と僕も何事も無かったかの様に言う。「灯りが見えたので、まだ残って居られるかと思いまして。TI台湾の金ベースを1トレー、頂きたいんですがお願いしてもいいですか?」田井中さんは、少し遠慮がちに言い出した。「ロットはどれです?治具を出しますね!」と言って専用治具をセットすると、新品のトレーも出した。「これです」と彼女は焼成炉から出たばかりのロットを指定した。「ちょっと待てます?もうしばらくは冷まさないと、トレーに穴が空きますよ」と言うと彼女は黙して頷いた。何となく気まずい空気がまとわり付く。「あっ・・・、あの、岩崎先輩と、その・・・、お付き合い・・・されてるんですか?」田井中さんが思い切ったのか突っ込んでくる。心持ち顔が赤い。「“お付き合い”と言うか“おもちゃにされてる”って言った方が正しいかな。検査工程の人達は、みんなあんな感じですよ。抱き着かれるし、膝には平気で座るし、男性として見られて無いって事なのかなー。ふざけて遊ばれてるのが実態ですよ」と言うと「あたしも仲間に入りたい!膝に・・・、座ってもいいですか?」と恥じらいながらも言い出した。「構いませんよ」と言うと、僕は椅子に座った。彼女は膝に座ると岩崎さんと同じ姿勢を取った。ただ、1つ違うのは離れまいと強く抱き着いてきた事だった。「これで、あたしも仲間入りですね。週末空いてますか?」「残念だけど、先約がありましてね。岩崎先輩達とドライブに行くんですよ」と言うと「あたしも連れてって下さい!お願いします!」と懇願して来た。さて、どうしたものか?と考え出すと「実里、いいよ!同行を許可する!」と岩崎さんが顔を出して言う。どうやら、気配を消して伺っていたらしい。田井中さんは、驚いて立とうするが僕が手を回しているので、動けずに顔だけをドアの方向に向けた。「実里、やるじゃん!今まで積極性に欠けるのが、実里の欠点だったけど、ようやく目覚めたようね!Y、いいよね?」「僕の意思とは関係なく、ハナからそのつもりでしょう?」とため息交じりに返すと「当たりー、これで品質保証部にも楔を打ち込めるから、一石二鳥だわ!実里、細山田もYにサンプル返してもらってるよね?」「ええ、Y先輩がここに来てから“明らかに空気が変わった”って言ってました。岡元さんの時とは“対応が違うね”って最近言ってたんです」田井中さんは僕の膝に座り直すとそう言った。「実里、あたしとYが組んで、今、壁を取り払う仕掛けをやってるの。この鉄のドアも引き戸に変えてもらう予定よ。あたし達は1つのセクションとして生まれ変わろうとしてるの。“安さん”も“やって見せろ”って期待してる。品質保証部としても、気づいた事はどんどん言ってよね!細山田にも伝えておいてね!Yは“起爆剤”として、ここの改革に取り組んで!“安さん”も固唾をのんで見守ってるから、積極的に行こうよ!あっ!千絵が来るから2人共離れて!」慌てて離れると、千絵が大量の空きトレーを持って来た。「実里、まだ残業やるの?」「いいえ、上がるつもりだけど、明日の朝に検証する分を取りに来てるだけ。Y先輩に無理言って、サンプルを返してもらってるの」と何事も無かったかのように言う。“薩摩おごじょ”はみんな聡い。「Y先輩、お待たせ!帰りましょ。実里も一緒に帰らない?」「うん、待ってて。直ぐに支度するから!」田井中さんは足早に、僕からトレーを受け取ると品質保証部へ急いだ。「田尾!まだ終わらないの?」と千絵が言うと「てめぇらがトロトロしてっから、もう1時間延長戦だよ!」と喚く声が微かに聞こえた。「ほら、知られなければ何とも無いでしょう?」岩崎さんが腕を絡ませて来た。お姉さんのやる事に抜かりは無い様だった。

そして金曜日の夕方、僕は寮を出て市内へ向かう道路沿いを北に進んでいた。しばらくするとシルバーのスカイラインRSがハザードを着けて追い越して止まった。助手席へ乗り込むと、岩崎さんが微笑む。「Y、お・ま・た・せ!千絵達に見つかって無いよね?」と問われる。「それは大丈夫ですよ。まだ、社内に釘付けですから」と言うと「あたしも“適当な理由”を付けて抜けてきたから、足が着く心配は無いわ!まずは“買い物”をしましょう。手荷物が無いと怪しまれるから」と言うと市内のホームセンターに向かった。カートを引いて2人揃って日用品を買い込んだ。「2人だとこう言う作業も楽しいわね。Y、シャンプーとリンスこれに変えちゃいな!朝のスタイリングが楽になるからさ!」と言われて女性が使うシャンプーとリンスを勧められた。価格も手ごろなのでお勧めに従う。「これで、怪しまれる心配は半減する。Y、遊びに行くよ!」RSは心地よいエンジン音を響かせて、空港周辺のモーテルへ向かった。白いジーンズに白いキャミソール。黒の羽織ものがアクセントになっている。ここからは“長丁場”になるだろう。部屋へ入ると、岩崎さんは羽織ものを脱ぎ捨ててから、僕の胸元に滑り込んだ。「さあ、やっと2人だけになったわよ。イチャイチャしよう!」と言うと唇を重ねて来た。折れそうな華奢な体をしっかりと抱きしめてやりながら、ベッドに押し倒すと「ダメよ。あたしが上」と言ってジーンズとキャミソールを脱ぎ捨てた。「脱がせてあげる」と言うと、彼女は1枚つづ僕の衣服を剥ぎ取った。もどかし気にブラを外し、パンティを片足に残すと「かき回して、早く!」とせがむ。馬乗りになると、猛然と腰を使って喘ぎ声を出した。下から突きを入れてやると更に声は高まった。「気持ち・・・、いい・・・、もっと、もっと突き上げて!」と言いながら胸元へ僕の手を持って行く。華奢な体には不釣り合いなくらい豊満な乳房を鷲掴みにして、思いっきり突き上げると喘ぎ声は一段と高まり、締め付けも強くなった。「お願い・・・、中よ・・・、中に出して!」と言うので白い体液をありったけ注いでやる。汗ばんだ体を預けると荒い息で「気持ちよかった」と囁いた。3回戦を終えると、2人でシャワーを浴びながらボディソープを塗りあって遊んだ。浴槽は泡だらけになったが、終始笑いながら浴槽に並んで浸かった。「Y、貴方が返しを担当するって聞いて、あたしやっと胸のつかえが降りたの!」岩崎さんが意外な事を言い出した。「どうしてです?」「岡元さんが嫌いだったからよ!あの人、後ろのあたし達の事、何も考えてくれなかったから!“おばちゃん達”には人気があったけど、所詮はそれまでの人。Yは常に返しも検査にも気を使ってくれる。それがどれだけありがたいか、最近身に染みて分かるの。ホワイトボードにしても、Yじゃなきゃ思い付かないだろうし、実里や細山田の態度を見れば一目瞭然!“おばちゃん達”も変わり始めてるのが分かるから、みんな期待してるのよ!」と言うと顔を泡だらけにした。「あー、目に入った。痛いなー」「そうでなくては、困るの。貴方は“人の痛み”が分かるし、誰に対しても“分け隔て”はしないわよね?その姿勢を忘れないで!そのまま、突っ走りなさい!そうすれば、みんな着いて行くからさ。でも、実里にだけは気を付けて!あの子、捨てられた過去があるから」と急に真顔で言い出した。「捨てられた?誰にです?」僕も真剣に聞き返した。「薄っぺらな同期の男よ。それ以来、男性と距離を取る様になったのよ。でもね、Yが来たから“もう1度信じてみよう”って言い出したのよ。あの子にとって、貴方は“未来への希望”なの。だから、誰よりも気を使ってあげて!希望の灯を消すような事は避けなくちゃ!勿論、あたしとこうして遊んでいる事も伏せてよね」と言って顔にシャワーを浴びせた。「難しい注文ですね。でも、何とかやってみましょう!お姉さんの命令ですから!」と言うと「“お姉さん”じゃなくて“妻として”の命令よ!正妻の椅子はあたしのモノ。明け渡しはしないから!」と言うと首元にしがみついて、しばらく離れなかった。帰りは食事を共にしてから、寮の1km程手前で別れた。「明日は、午前9時には出発するから、寝坊しないでね!Y、愉しかったわ!明日も宜しくね!」と言うと岩崎さんは走り去った。「“薩摩おごじょ”は、情熱的か。言われた通りだ」と言いながら寮までの道を歩いた。

そして土曜日、田井中さんを加えた5人で、僕らは日南海岸を目指して、岩崎さんのスカイラインを疾走させていた。出発直前に、田井中さんから「名前で呼んで下さい」と言われたので、僕は“実里ちゃん”と呼ぶことにした。宮崎自動車道の中程で“中央フリーウェイ”がかかると大合唱が始まった。景色は似ても似つかないが、高速を巡行していると気分も変わる。「次のPAで止まるわ。少し休憩よ!Y、運転交代してね!」岩崎さんのご指名である。「了解です!」と言って地図に目を落とした。しばらくは高速を走る事になるが、いずれは国道へ降りなくてはならない。素早く地図を頭に叩き込む。PAに着くと自販機班とトイレ班に分かれて行く。先にトイレに行った人が自販機班から飲み物を受け取り、車に戻る仕組みだ。僕と実里ちゃんは、飲み物を受け取ると先に車に戻った。「Y先輩、“中央フリーウェイ”は実在する場所なんですか?」実里ちゃんは興味を引かれた様だった。「そう、中央道下り線の調布ICの先にあるんだよ。地図で説明しようか?」と言って僕は、中央道の路線図を広げた。「ちょうどこの辺だよ。首都高速4号線から、ずっと山へ向かうルート沿いにある。“右に見える競馬場”とは東京競馬場のこと。“左はビール工場”とはサントリーのビール工場のこと。歌詞の通り“滑走路”に思えるよ」と言うと「O工場はどこです?」と返してくる。「O工場はここ。2時間半も走れば都心へ入れる位置だよ。正し、渋滞が無ければの話だが・・・」「慢性的に渋滞ですか?」「首都高はそれが当たり前なのでね。都内に降りればまた違うんだけどね」「凄く複雑なんですね。1車線間違えたら・・・」「全く意図しないところへ行くことになるし、Uターンは禁止。気は抜けないから、慣れないと大変ですよ」と言っていると3人が戻ってきた。「あっ、東京の地図?」永田ちゃんが手に取って見入る。「正確には、中央道全線の地図だよ。中央道は、東名の“バイパス”だからね。それに、首都高に接続してるから、その案内も載ってる訳」「本当に“目と鼻の先”に東京があるんだね。向こうからの観光客も多いの?」「連休の最後になると、上り線、つまり東京方面だが、30kmを超える渋滞はザラに発生するよ。だから、逆をやればいいんだ!こっちが都心を目指して、遊んでから帰ってくれば渋滞とは無縁で走れる!」「いいな、そんな事が出来るなんて羨ましい。普段は空気の綺麗な高原地帯に住んで、たまに東京にブラリか。地理的な優位は覆らないね」千絵がため息交じりに言う。「たまに行くからいいけど、東京に住みたいとは思わないよ。満員電車で数時間もかけて通勤するなんて考えたくも無い!」「それは、そうだね。チカンに会いたくないし!」「千絵だったら、追いかけて組み伏せるだろうな。腕の1本でも・・・」「“へし折る”って言うの?!」セリフを千絵が引き取ると全員が笑った。「アンタならやりそう!チカンに同情する!」岩崎さんが腹を抱えて笑う。「おしとやかではありませんから!」と言うと千絵は膨れた。そして、僕の首に手を回すと背を取って「チカン!チカンよ!」と言いながら腕を捻じ曲げた。「痛いよ!折らないでくれ!車の運転をしなきゃならないんだから!」と僕は必死に逃げようとするが、千絵は抱き着いて離れない。「おんぶー!」と言うと背中に飛び乗ろうとする。永田ちゃんと実里ちゃんも続いた。流石に3人の体重を支えるのは不可能だった。僕はさながら“車に轢かれた蛙”になった。「はい、はい、はい、Yが潰れたら何にもならないじゃない。そろそろ、解放してあげなさい!」岩崎さんの助け舟でようやく窮地を脱したものの、千絵は僕の手を掴んで離さない。「千絵、この先ナビゲート出来る?」岩崎さんが聞くと、千絵は頷いた。「それじゃあ、Yと千絵に任せる!日南海岸へ連れてって!」と言うと車に乗り込んだ。カセットテープを入れ替えて、真理の曲を流すと僕はスカイラインをスタートさせた。フル乗車にも関わらず、スカイラインは苦も無くスピードに乗る。曲を聴いた千絵は、少しづつ落ち着いて来た。「まるで、千絵を落ち着かせるためのテープだね。Y、男性の曲は聴かないの?」岩崎さんが聞いて来る。「何かフィーリングが合わないと言うか、イマイチ乗れないんですよ。それに、落ち着いて運転できますしね」と返すと「やっぱりYは変わってるね。そう来るか!」と勝手に納得される。「もう直ぐ、降りるよ!」ICの案内看板が目に入った。一般道に降りると、千絵が指示を的確に出してくれる。スカイラインは一路、日南を目指して南下して行った。