limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 26

2019年05月20日 15時10分06秒 | 日記
“向陽祭”が無事に終わった翌日、片付けのために登校しようと準備をしていると、生徒会長が自宅に電話をかけて来た。「Y、今日は“禁足令”を命ずる。出て来なくていい!これは、校長からの命令だ。違背は許されんぞ!」会長はやや疲れた口調で言った。「後片づけは、3期生が中心になって実施する。せめてもの“罪滅ぼし”だそうだ。塩川が校長から大目玉を喰らってな、ヤツが陣頭指揮を執ってやる事になったんだ。だから、安心して休め!無論、欠席扱いにはしないそうだから、月曜日にまだ会おう!」「分かりました。済みませんが宜しくお願いします」と僕が返すと「気にするな!お前は充分に働いてくれた。来年は総本部で指揮を執ってくれよ!じゃあ、ゆっくりしろよ」と言って会長は電話を切った。「助かった。今日はクスリを飲んで寝るか」僕は久々にゆっくりと眠った。

校内最大のイベントを終えると、期末試験が待ち構えていた。ロクに復習もしていなかった僕達は、文字通りの“一夜付け”で試験問題に取り組むハメになった。結果はどうにか合格ラインを維持出来て“補習授業”は免れた。幸いな事に竹ちゃんも今年は免れた。だが、“夏期講習”には参加する必要に迫られていた。“内憂外患”について査問委員会で検討しなくてならない課題は山積していたのだ。この内、“外患”とは言うまでもなく“3期生再生計画”であり、2学期からの実施に向けて手を回して置かなくてはならなかった。“内憂”については、実に頭の痛い問題が発生してた。長崎が“次期委員長”へ立候補すべく勝手に動き回っていたのだ。まず、これをどうするか?秋に“大統領選挙”を控えたこの時期に、クラス1の“お調子者”を起用するか否か?を早急に決めなくてはならなかった。原田は既に“選挙後”を見据えて“閣僚人事”に手を付け始めており、長官や伊東、久保田、千秋に僕の“入閣”を画策していた。久しぶりに査問委員会が招集されたのは、“夏期講習”の初日であった。その日の朝、委員会の前に僕は長官を捕まえて、“3期生再生計画”を打ち明けた。「なるほど、校長御自らの“ご指名”とあれば断る事も出来まい。参謀長、腹案は既に練りあがっているだろうな?」「ええ、西岡達とも相談しなくてはなりませんが、骨格は組み上げてあります。ですが、原田の“閣僚人事案”から外れるのは無理ですよね?」「いや、そうでも無いぞ!小佐野からの情報によれば、原田も“3期生対策”に頭を悩ませているらしい。こちらで“独立してやる”と言えば食いついて来る公算は高い。しかも、校長からの“金字牌”があるのならば、原田とて拒む事は出来ないだろう。まあ、ヤツの事だから“会長特別補佐官”ぐらいの肩書は押し付けて来るだろうが、ワシも1枚噛ませろ!余計な肩書が付くのは御免だからな!」と長官も乗り気になった。「では、我々で進めますか?長官も参加してくれるなら、手の打ちようも広がります。僕と西岡達でかかるよりはスピードアップ出来そうですし」「うむ、乗った!今日の午後あたりから情報収集を始めよう!小佐野にはこちらから言って置く。お前さんは西岡達に言って行動を開始させろ!」「分かりました。早速手を回しますよ」「参謀長、そっちはいいが、問題は長崎の件だ!どうやって彼を説得する?」長官の表情が曇る。「あの“お調子者”を説得するのは容易ではありませんからね。次期に据えるのは到底無理ですよ。しかし、モノは使い様です。来年の前半に延期して起用する条件を付けたらどうです?」「来年の“向陽祭”に向けた布石か!“お祭り男”としては申し分ないし、原田政権も軌道に乗っているな。その線で押し切れればいいが、彼が乗るかな?」「査問委員会として“ご朱印状”を出せばどうです?“来年4月から起用する”と確約すれば拒みはしないと思いますよ!」「各委員の意見も聞かねばならんが、大筋はその線でまとめてしまおう!次期は“赤坂・有賀コンビ”が既定路線だ。原田政権の船出に際して、特段害の無い人選で治めないとマズイからな!」長官の表情が少し緩んだ。「さて、そろそろ開催しよう。参謀長、援護を頼むぞ!」「はい、脱線は避けましょう」僕等は査問委員会に向かった。

「長官!女子としては長崎君の起用には“断固拒否”を表明しますからね!あの“お調子者”にクラスの舵取りなんて出来るはずがありませんから!」千秋が言葉を発すると、千里、小松、道子が頷いた。女子としては反対の態度を初めから鮮明にしたのだ。「俺も反対だ!男子にはそこそこ人気はあるが、女子へのコネクションが全く無い。これじゃあ、箸にも棒にも引っかからねぇよ!」竹ちゃんも同意した。「だが、仮に選挙になった場合、“しこり”は残る。返って厄介になるんじゃないか?」久保田は先を見据えていた。「“大統領選挙”を控えたこの場面での起用は難しいが、副委員長に“しっかり者”を当てれば何とかならないか?」伊東は道を探そうとする。「参謀長、例の腹案を」長官が僕に説明を促した。「前途多難なこの局面での起用は見送り、来年4月期からの起用にするのはどうだろう?半年あればヤツを教育する時間もあるし、久保田の懸念する“しこり”も消せる。問題は“誰が説得するか?”だけど、当委員会として“ご朱印状”を与えれば道は開けないだろうか?」「つまり、時間稼ぎをして体制を整えてから“起用する”って事?」千秋が聞いて来る。「そうだよ、今のままの長崎では“やりたい放題”にされちまうし、副委員長が一身に責任を背負うだけになる。女子にそんな迷惑はかけられないし、させたくもない。けれど、いずれは長崎に出番を与える局面になるのは明らかだ。当委員会のオブザーバーにして教育を受けさせてから現場に出す。これしか無いと思うがどうだろう?」一同は思慮に沈んだ。しばらくして「いずれは、彼に託す局面になるとしたら、参謀長の言う事の方が理に適ってはいるわね。半年の猶予期間でどれだけ彼が変わるかは疑問だけど、賭けて見る価値はあるんじゃないかな?」千秋が言うと「それなら俺も賛成するぜ!今回は、既定路線の“赤坂・有賀コンビ”にして、新年度から長崎を登板させるなら、可能性はあるんじゃねぇか?」竹ちゃんも同意する。「まあ、その線で行くなら後々の事も教え込めるな。現実路線としては悪くない」久保田も乗った。「今は見送りにして、来年の“向陽祭”に向けた布石とするなら悪くは無いな。“お祭り男”としては申し分ないし」伊東も乗って来た。「女性陣はどう思う?」長官が千里達に発言を促した。「あたし達としては、長崎君は“避けて通りたい選択”に変わりは無いの。でも、これ以上余計な活動をされても困るのも事実。参謀長の折衷案にプラス“歴代最後の委員長”って肩書を付けるなら同意してもいいわ」小松と道子も頷いた。「“歴代最後の委員長”か。記録にも記憶にも残りやすいな。よし、その線で説得を試みよう!椅子を用意しなくては長崎とて治まらんだろう。“トリはお前さんに任せる”で落としにかかるか?!」長官が決断した。「だったら、説得は俺に任せてくれ。今井と2人で落として見せる!」久保田が前のめりになる。「いいだろう。久保田達に任せる。では、次期は“赤坂・有賀コンビ”に託す!それでいいな?」全員が頷いてこの問題は決着した。後事は、久保田と今井に託された。

査問委員会が片付くと、僕は西岡を捕まえにかかった。彼女が受講している講座が終わるのを待ってから声をかけて、物陰に連れ込む。僕は校長からの“特命”を話して聞かせると協力を依頼した。「歓迎しますよ!あたし達も今回の“夏期講習”の期間を利用して、策を巡らせる予定でした。長官と参謀長にもご協力願えるなら心強いですし、上田や遠藤も安堵するでしょう!」彼女はもろ手を挙げて賛成してくれた。「3期生達は、軟弱な地盤に建屋を建設しようとしている様なものだよ。揺れが来ればたちまち倒壊するだろう。余程の大ナタを振るわない限り3期生の再生は覚束ないだろう。僕に付いて来てくれた20名を先頭に立てて、長期政権を打ち立てたいのだ。半年では工期が足りないからな。まずは、秋の改選期に向けて人を集めなくてならない。まず、西岡達に内偵と調査から手を付けてもらいたい。手伝ってくれないか?」「もう始めてますよ!結果が出たら直ぐに飛んでいきます。私達のケースとは少し違いますが、手法は流用出来るでしょう。派閥の形成から手を付ける予定です。後は、数の論理で押し切って実権を手にします。そうすれば、ジワジワと浸透させればいいのでは?」「西岡、もう1手加えよう。現委員長達も抱き込むんだ!派閥の領袖として協力させればいい。女の子達だけでは男子は動かない恐れもある。現委員長達に男子に対する工作を進めさせれば、上田達も楽になるだろう?」「分かりました。早速手配にかかります。参謀長は常に明確なビジョンをお持ちですね。その能力を羨ましく思いますよ」「僕は策を練るのが得意だが、それを実行する部隊は別に必要だ。指揮官としては西岡の方が上の様な気がするのは、あながち間違いでは無いな!」西岡は微笑むと「共に頑張りましょう!」と言って東校舎へ向かって歩き出した。上田達に知らせに行ったのだろう。3期生の“再生計画”もこうして水面下で動き出した。

教室舞い戻ると、さちと雪枝が待ち構えていた。「Y―、長崎君がお待ちよ!」「アイツどうしても許可を取りたいって騒いでるのよ!」2人はウンザリしながら教壇の方向を指さした。数名の男子と長崎は話していた。僕を見つけると直ぐに飛んでくる。「Y、頼みがある!女子への説得工作を依頼したい!俺は次期委員長にどうしても座りたいんだ!頼むから引き受けてくれ!」長崎は早口でまくし立てた。「相変わらず周囲が全く見えて無いな。委員長なんて誰かにくれちまいな!お前にはもっと高い位が待ってるかも知れないぞ!原田の心中は微妙だが、“監査委員会”の席が決まってないらしい。候補者は複数居るが、その中にお前の名前も入ってるそうだ。今から運動しないと候補から漏れるぞ!“監査委員会”は生徒会組織から独立した別組織。生徒会長に“勧告”を出せる強権を有してる。男、長崎隆行なら、務まると思うがどうするんだ?」「本当か?!ならばこんな事してる場合じゃ無いな!“監査委員会”だ!絶対になって見せるぞ!!」長崎は勇んで驀進し始めた。「Y-、今の話本当なの?」雪枝が聞いて来る。「半分本当だけど、長崎が選ばれる確率は低いね。ともかく目先を逸らせればそれでいいのさ!委員長にだけは座らせない様に気を付けなきゃ!」「“嘘も方便”か。女子の間では彼の就任を拒絶する空気しか流れて無いから」さちがホッとした様に言う。「長崎君、副委員長に“堀川さんを据えたい”って言ってたのにすっかり忘れてるね。猪突猛進とはこの事か?」雪枝も呆れて言う。「昔からちっとも変わらん。思い込みの激しいヤツだが、悪いヤツでは無いよ。女子に人気が出ないのは相変わらずだが。そろそろ“予防注射”の効き目が出るから大人しくはなるだろうが、副委員長に堀ちゃんを“よこせ!”と言うのは気に入らん!アイツの“尻拭い”をさせる様なまねは絶対に許さん!苦労ばかりでいい事は何1つ無いのだからな!」僕は憤然と言った。「あたしも生理的に拒否したいとこ!Y、絶対に守り通してよ!」講座を終えた堀ちゃんがやって来て僕を教室前の廊下に引きずり出す。「Y-、あたしは誰のものにもなりたくないの。Yの“彼女”になりたいの!だから絶対に離れたくないの!」堀ちゃんは僕を壁際へ追い込んで来る。「聞いてただろう?アイツに“はい、そうですか”なんて言う訳が無い」「本当に?」堀ちゃんが真顔で聞いて来る。「前の“水着”の件を忘れる事が出来るか?」苦し紛れに以前の事を小声で言うと、背を向けた堀ちゃんが僕の胸元にもたれかかって来る。「“ここ”があたしの家。いつも包み込まれていたいのよ。Y、離さないでよね!」堀ちゃんはそう言うと僕の左腕を自身の胸元へ回して離れまいとする。「これこれ!3分経過したら交代だからねー!」雪枝がやって来て同じことをせがむ。「その次はあたし!Yの心音を聞きたいからさ!」同じく講座を終えた中島ちゃんも加わる。またまた“巨大な園児達”の椅子取りゲームが始まった。そこへ、珍客がやって来た。「あのー、お取込み中失礼します。参謀長、少し宜しいですか?」上田と遠藤の2人だ。「おう!久しぶりだな。2人共どうした?」「ちょっと、ご相談があって伺ったのですが、宜しいですか?」「構わんよ。さちー!」「あいよ!あら、どうしたの2人共?」「話があるらしい。丁度、昼だ。中に入れてやって!僕も直ぐに行く」「分かった、2人共中に入って。Y“保育園”は閉園にして来てよね」「ああ、3人共一緒に話を聞いてくれ。どの道、みんなに協力してもらわなくてはならない案件だ!」「なーに?」「あの子達誰?」「また、何か極秘任務?」3人が一斉に聞いて来る。「題して“3期生再生計画”の実行メンバーだよ。既に、長官も西岡達も水面下で動き始めてる。僕等も行動開始だよ!」新プロジェクトが具体的な動きを見せた初めての時だった。

僕はまず、校長からの“依頼”内容を話した。「そう言う訳で、校長直々に“3期生再生に手を貸してくれ”と依頼されたんだよ。そこで、今朝長官にも話をして、既に別ルートで動いてもらっている。西岡達にも独自に動いてもらっているんだ。けれど、それだけじゃ手が足りない。みんなにも手を貸して欲しい」そう言って4人を見回すと4人は黙して頷いた。「3期生達のクラスは今や“空中分解”寸前だ。これは、各クラス担任の責任でもあるんだけど、上から強引に統率を執ろうとしても上手く行くはずが無い。やはり、生徒達が変わらなくてはクラス全体も変わらない。僕等の事例がそのまま参考になると思ってはいないけれど、同じようなルートを辿る事になるは眼に見えて分かっている。先駆者としてノウハウを提供して、彼女達を支援するのが今回の作戦のポイントになる。ここまではいいかい?」「うん!」4人の合唱が返って来た。「さて、腹が減ってはなんとやら。食べながら話そう。おっと、ボトルがカラになってるじゃん。買って来るか」と僕が腰を浮かせると「Y、行くよ!」と堀ちゃんがボトルを投げてくれる。「仲がいいんですね。阿吽の呼吸と言うか、幸子先輩も参謀長に対して細やかな気遣いをされてましたが、男子1人に女子4人のグループなんですか?」遠藤が聞いて来る。「ああ、正式にはもう1人居て6人のグループが核になっている。他にも連携しているグループが2つあるから、クラスの女子の4分の1が関連している事になる」「参謀長お1人で?」上田が眼を丸くする。「赤坂と竹ちゃんがいるから男子は3名になるね。他は全員が女の子達。意外かな?」「意外です!どうしてこんな事に?」上田が怪訝そうな顔をする。「それはね、遥かな昔、あたし達が保育園の頃まで遡る事になるのよ!」と言って雪枝が僕等の事を話し始めた。小学校での別れ、偶然過ぎる高校での再会。紆余曲折をへての再編。雪枝は大演説をブチかましてくれた。「えー!そんな偶然ってあるんだ!」上田も遠藤も驚愕するしか無かった。「神様が“何かを成し遂げろ”って言ってるんだろうな。男子1人に女子5人。確かに最初は逆風が吹いては居たが、段々とクラス全体に浸透して今では“当たり前の光景”になってる。ここまで持って来るのには苦戦の連続だったが、誰1人脱落した者は居ない。壁が立ちはだかる度に全員で突破して乗り切って来た。今や僕は完全なる“おもちゃ”だが、それでいいと思ってる」と上田と遠藤に話していると、堀ちゃんが僕の首のネックレスを外して、ペンダントの取り換えを始めた。「今月は、ブルーとグリーンを基調にするからね」と言って差し替えをする。「もっと意外!参謀長がネックレスをされてたなんて!」上田がまた腰を抜かしそうになる。「誰のだっけ?最初に強引に付けられて“犬の首輪”って言われて笑われてね。それが悔しくてロングチェーンを買ってペンダント1個を付けたんだが、今では彼女達が季節ごとに4個を差し替える形になった。まあ、これは僕だけの特例だがね。上田、遠藤、今日来た目的は“グループ構成”と“形成過程”についての相談だろう?何か引っかかっている問題があるのかな?」「はい、女子は団結させられても、男子をどうやってまとめるか?壁に突き当たっておりまして、参謀長の様に最初から加わってくれる男子が居ればベストなんですが、何か“見えない壁”がある様で私達にはそれを破る手立てが無いんです」遠藤が悔しそうに頭を下げる。その間に堀ちゃんの作業が終わり、僕の首にネックレスを戻してくれた。「誰かいないかな?核になってくれる子。気弱でも成績が悪くてもいいのよ。あたし達の様に男女混成のグループが1つでも出来れば、そこから突き崩して行けるんだけな。あっ、でもYは“特殊仕様”だからあんまり参考にはならないか?」堀ちゃんが言う。「ええ、参謀長の様に“女子の囲まれて平然としている”方は中々居られません。しかも、“ネックレス”を交換されても微動だにされない方は初めてなので、とても羨ましい限りです!」上田が唖然として言う。「“百家争鳴”としたクラスをまとめあげるのは、並大抵の事では無い。増してや“見えない壁”に風穴を開けようとしても容易では無くて当然だ。まずは、足元を固めるのが先決。女子だけでもいいから、グループなり連帯を作り上げなさい。男女のどちらかがしっかりとしていれば、多少の揺さぶりには耐えられる。多分、学年主任の塩川達を筆頭とした先生達も入れ替わりがあるだろう。もし、それが無いとしたら、僕は校長に抗議しなくてならない。塩川は“海陵王”だからだ!」「すみません。“海陵王”とは?」遠藤が遠慮がちに聞く。僕は教室後ろの黒板に板書を始めた。
「かつての、中国の金王朝4代皇帝“海陵王”と塩川の影が重なると思うのは、錯覚ではなさそうだ。先代、金王朝3代皇帝煕宗は、中国中原国家の主となったのはいいのだが、皇族や宗室を粛清して行くうちにおかしくなり、サディストとなった。さらに酒乱が加わり誰も手の付けられない暴君となった。“金史”“煕宗本紀”には、到る所に殺の文字がちりばめられているありさまだ。いつ殺されるか分からないのだから、煕宗を亡き者として自らが帝位に就く事を考えない者が現われても不思議ではないだろう。“海陵王”は、そうやって帝位に就いた。某宗と言った廟号で呼ばれない理由は、後で述べるとしよう。“海陵王”は、漢文化の高い教養がある人物ではあったが、彼の血管にも煕宗と同じくサディストの血が流れていたのだ。中国史上まれに見る暴君として綴られている事実。野心家であり、極めて有能な人物で、中央集権の漢的中原国家を作り上げるために猪突猛進したのである。3期生を“学校1位”にしようとした塩川の考え方もそうだ。異を唱える者に対しては、容赦なく粛清した。有能であり、学識もあった彼は自らに対して、自信を持ち過ぎていたようだ。例えば、新しい制度をつくるにしても、根回しなどは一切なし。“海陵王”の意思がそのまま法律となったのだ。彼にしてみれば、根回しなど弊害そのもので、悪しき象徴そのものだったのだろう。こう言うところは塩川も同じだ。彼の最終目標は、天下の南半分を保っている南宋を滅ぼし、歴代の中華王朝と肩を並べることであった。“海陵王”は、この目標に向って着々と準備を進めたのだが、彼の性格を反映したこの準備は、非常に性急でかつ強引なものであった。塩川の“向陽祭”での指示・行動もまったく似ている。結論から言うと彼は暗殺された。彼は、即位後に皇族・宗室・重臣のホロコーストを行っているが、南宋討伐に際しても命令を聞かない、意見をする将兵を片端から粛清していった。目的を妨げる者に対しては、誰であろうと容赦をしなかった。恐らく塩川もそうだっただろう?“向陽祭に積極的に参加しない者には単位を与えない!”ぐらい事は平然と言ったはずだ。怖れをなした留守を預かっていた従弟が、“己の命を守るため”と言って即位し、“海陵王”の悪事数十条を挙げ“このような悪逆な者を皇帝にするわけにはいかないので、自分が周囲に推戴され即位した”と宣言したのである。そしてその時こうも言っている“私は追い詰められた”ともな。彼こそが5代皇帝世宗だ。そのころ“海陵王”は、揚子江の線まで南下し“3日で長江を渡れ!出来ねば殺す!”と息巻いており、世宗の即位の知らせに対しても“南を平らげたらば、蹴散らしてくれる!”と一蹴するつもりで将兵を督励していた。しかし、将兵は既に“海陵王暗殺”を決意していた。殺さねば殺されるのだから、誰もこの計画に反対する者はいなかった。便宜上、“海陵王”と呼んできたが、彼は生前、いうまでもなく皇帝であった。しかし、死んだ翌年に海陵郡王に降格され、のちになって罪悪はなはだしいものがあり、王の資格も無いと言う議論があり、庶人に降ろし改葬されている。“金史”は彼を“廃帝海陵庶人”と記している。故に“海陵王塩川”は廃さねばならない。君達はとんでもない暴君によって、崖っぷちまで追い込まれているのだ。彼を延命させる理由など無い。3期生の未来のために、僕は“塩川廃絶”を要求するつもりなのだ!上が変わらなくては、改革など出来るはずが無い。2人の後ろ盾としては我々も付くが、学校側からも強力な後ろ盾を立ててもらわなくては困る。手始めは“女子の大同団結”からでもいい。男子達を巻き込むだけの力を手にする事が先決じゃあないかな?」僕は板書を終えて座った。「参謀長、どうしてこんな詳しいお話が出来るのですか?まるで“授業”じゃあありませんか!」上田が呆れていた。「あー、悪い!僕達はね“相互授業”をやってるんだよ。それぞれの得意分野に寄って担当は決まっているが、先生達の授業内容が分かりにくい場合、こう言う風に放課後や今回の夏期講習の時なんかに自主的に“補習授業”をやっているんだ。ノートの丸写しから始まって、疑問点があればとことん教え合う仕組みが自然と出来上がった。だから、誰かが長期間休んでもノートは別に作成するのが決まりになっている。昨年、さちが休んだ時は、放課後に各自のノートを突き合わせて、補完したりして補った。こんな風になれば合格って見本のようなものだ!今の長い話は半分忘れていい。履修範囲外だからな」「いえ、黒板を消さないで下さい。今、ノートにまとめています!」上田と遠藤が必死にノートを取った。細かな点は再説明して補った。「それにしても、教科書にも載っていない話をこうもスラスラと話せるのは、Yの独壇場ね。まだ、消さないでね。あたし達もノートを取るから」と教壇の方から声がした。道子が講座を終えて戻って来たのだ。「竹ちゃんは?」「ボトルを買いに行ってるの。“海陵王”か。教科書では1行でも、Yの手にかかればちゃんとしたストーリーが聞ける。この才能だけは真似できないわ!」道子も素早くまとめにかかる。「道子、ボトル買って来たぜ!って、また参謀長の“授業”があったのか。後でノート写させてくれ!」竹ちゃんがボトルを置いて弁当にかぶり付く。「参謀長、こういう勉強は自主学習ですよね?先輩方それぞれがこう言う知識を教え合っている姿は正直憧れます!どうすれば出来るのですか?」遠藤が聞いて来る。「相互信頼の土台に立てば誰にでも出来るぜ!俺は全部教わる側だが、教える側に立つヤツは得意分野を徹底して磨き残してる。参謀長は、普段から“暗号文書”の解読に余念がねぇ!知りたかったら見せてもらいな!」竹ちゃんが言うので僕は丁度鞄に入っていた“陸奥爆沈”を取り出して見せた。「気を付けてね。10秒で眠くなるから。Yには理解できても、あたし達には“暗号”でしかないから!」さちが注意を促す。上田と遠藤は栞の付近を読んだが首を捻るに留まった。「これが何の役に立つのかな?」「戦争中の事故ですよね?」2人の反応は予想通りだった。「人のミスで軍艦が沈む。これから何を読み解くか?すなわち“人は何故間違えるのか?大勢がうごめく中で何があったのか?”
過去を検証する事で、今に活かす。策を立てるには過去の過ちこそが重要なんだよ。歴史に“もしも”はつきものだが、“もしもあの時”を今に反映できれば、違う道が開ける。だから聞き取りや分析力を磨くにはこういう本が僕には最適なのさ!」「だからこそ参謀長の“肩書”で呼ばれる。一朝一夕で出来る芸当ではないのよ。コイツの頭の中は誰にも分からないけど、あらゆる知識が詰まってるの。その中から、いつも“最善手”を繰り出してあたし達のクラスを救って来た。貴方達にも手を差し伸べるって言ってるし、言う通りに動けばクラスは変わるわ。大丈夫。黙ってYに付いて行きなさい!」道子が優しく2人に語り掛けた。「はい!」上田と遠藤が合唱した。「夏期講習中に動ける範囲で足元を固めなさい。1人でも多くの仲間を集めるんだ。9月の委員長改選まで余り時間の余裕は無いが、そこで君達が主導権を取れるか否かに今後の未来を託す!3期生は必ず再生させなくてはならない。来年、4期生が入って来る前に堅固な体制を敷いて、僕等と共に力となれ!」「はい!」2人の声は力強かった。“再生”は必ず成し遂げる。いや、成し遂げなくてはならない。僕はあらゆる手を巡らせようと考え始めた。3期生の同志達との長い戦いは始まったばかりだった。

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