limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 25

2019年05月17日 07時35分31秒 | 日記
3日目の朝のミーティング。疲労感と倦怠感が色濃く漂っていた。「一般公開も残り半日、祭典も今日で打ち上げとなる!みんな、最後の力を振り絞ってくれ!」総長の言葉にも力は余り無い。「昨夜の職員会議では、校長が塩川以下、3期生の各担任に痛烈な批判と叱責をお見舞いした。¨責任感の欠如には目に余るものがあり過ぎる!貴様達が責任を取れ!¨と大荒れだった。これは、¨総合案内兼駐車場係¨、すなわちYのところの問題を指摘したものだが、今日もYのところが苦しむのは、火を見るより明らかだし、本日も応援体制は必須だ。各部署からは速やかに応援要員を出せる様に宜しく頼むよ。Y、お前達も相当参っているだろう?だが、今日も¨陣頭指揮¨は¨ご法度¨だ。必要な駒は出してやる!手駒と合わせて切り抜けろ!他部署も3期生を積極的に使って¨借り¨を取り戻せ!来年の事を考えると、彼等が戦力とならなければ¨向陽祭¨は成功しない。2期生への置き土産として、1期生の奮起に期待する!」生徒会長はこう述べて、1期生に最後の底力を示す様に促した。ミーティング終了後、「後、半日だ!先輩のスピリッツを存分に示すぜ!」「Y、¨貧乏クジ¨を引かせるハメにはなったが、良く頑張った!お前でなければ、大混乱は免れなかったよ。済まんが宜しく頼む」と総長と会長が言ってくれた。「先輩方の応援があればこそです。本日も宜しくお願いします!」と返すと「校長が¨Yを見捨てるつもりは無い!¨と言ってた。今日は何かが起こるかもしれん。半分期待していいぞ!」と会長が肩を叩いた。「そう願いたいものです。まずは、手駒の確認からかかりますよ」と返して僕は昇降口の本部席へ向かった。

「Y、ミーティングはどうだった?」さちがポカリのボトルを差し出しながら聞いて来る。「1期生の先輩達の疲労感は相当なものだったよ。3期生が働かない“代償”は半端なく大きいな。今日も応援体制は取ってくれるとは聞いているが、これから集合して来る“現有戦力”で切り抜けたいのが本音。午後からの“ファイナルステージ”を気持ち良く迎えたいしね」僕はポカリで喉を潤しながら言った。「そうね、確かに昨日のダメージは大きいだろうな。あたしもさすがに疲れたわよ」さちが大あくびをした。僕も眠気と倦怠感で体がダルかった。「おす!さすがにダルいな」A班が集合して来た。「おはよう、後、半日だ。何とか切り抜けよう。空いている椅子に座れよ!」A班もフラフラだった。賑やかな声が東校舎の方向から響いて来る。「参謀長、おはようございます!3期生出頭致しました!」山本、脇坂、上田、遠藤の4名を先頭に22名の3期生が集合して来た。「おはよう、今日も宜しく頼んだよ!さて、まずは丸くなれ」本部席を中心に3期生達が半円形に並んだ。「今日は午前中のみの公開となるが、見ての通り戦力は限られている。本日は今、ここに居る人員でクローズ作業までを完了させなくてはならない。総長も会長も“応援は出す”と言ってくれてはいるが、1期生の疲労も極限に達している。特段の異変が起こらない限り、本日は我々だけで切り抜けるつもりだ。無論、私も外へ出る。本日の先陣は、上田をリーダーとする女子軍、第2陣は遠藤をリーダーとする女子軍、そしてクローズ作業を担うのはA班と私と山本、脇坂だ。上田、遠藤、グループの編制にかかれ!班長、午前10時50分までは待機にする。保健室に掛け合ってベッドの使用許可を取って来るから、少し眠ってくれ」「了解です!」「済まん。助かるよ」上田と班長から返事が返って来た。「さち、保健室へ行って来る。しばらくここを任せるよ」「あーい、ご心配なく」僕は保健室の丸山先生を捕まえるとA班の収容を依頼した。先生はあっさりと許可をくれたが、「3期生の子達はどうしたのよ?昨夜の職員会議で“大動員をかけます”って担任の先生達が言ってたけど来てないの?」「ええ、志願者以外はまだ来てませんよ。仮に来たとしても“使い物”にならなければ、烏合の衆でしかありません。僕は尻に殻を付けた雛鳥のお守り役ではありませんから、“戦力”とならない者は追い返しますよ!」「そうね、炎天下に出て行くんだから、半端な考えは通用しないものね。一応、日射病の対策を取る様に校長から依頼が来ているのよ。もし、具合の悪い子達が居たら直ぐに連れて来なさい。ともかく、A班の収容は承知したから来る様に言いなさい」僕は保健室から本部へ戻った。上田と遠藤のグループが編成を終えて待機していた。「班長、許可が取れた。保健室で休んでくれ」「助かるよ。悪いが“充電”に行かせてもらうよ。おい、行くぞ」A班は保健室へ向かった。「参謀長、本日の無線チャンネルはどうしましょう?」脇坂が聞いて来る。「19に戻そう。上田、遠藤、チャンネル19にセットして順次コールしてくれ。山本、混信は無いか調べろ」僕は次々と指示を出す。「参謀長、混信はありませんが、チャンネル2付近で盛んに交信しているのが確認できます!」山本が報告して来た。「誰だ?インカムを使っているのは警備部門か総本部ぐらいしか無いぞ。そっちじゃないのか?」「いえ、そちらは別のチャンネルを使ってますから関係ありません。もしかすると3期生の委員長達が交信しているのかも知れませんね。さっきからずっと続いてます」「交信内容を聞き取れるか?」「はい、イヤホンで聞いて見ます」山本がウォッチを始める。「参謀長、通信機関係の調整・チェックが完了しました。出発5分前です!」脇坂が言うので時計を見ると午前8時50分を指していた。「上田、厳しいのは百も承知だが、宜しく頼む!男子2名も加わったから、少しは余裕があるだろうが、心してかかれ!」「はい!では出発します!」上田が率いる女子軍の第1陣が配置に向かった。厳しい戦いが今日も始まった。

「参謀長、交信内容から推察すると、各クラスの委員長達が人手を集めている様ですね。それと、こちらを呼んでいます」山本が交信を聞きながら言う。「厄介な事になりそうだな。早晩、押し掛けて来るぞ!脇坂、総長と会長を呼んでくれ!この期に及んでゴタゴタはごめん被る」「はい、少し時間を下さい」脇坂は内線の受話器を取り上げようとした。その時、内線が鳴った。「参謀長、塩川からですがどうします?」「寝言を聞いている暇は無い!叩き切れ!!」僕は青筋を立てて命じた。しかし、また内線で塩川先生は呼び出しをかけて来た。「どうします?」脇坂もウンザリしていた。「ケーブルを引き抜いて内線を止めちまえ!!ヤツに邪魔される言われは無い!!」「はい、内線の機能を止めます」脇坂はケーブルを引き抜いた。「Y、落ち着け。深呼吸して眼を閉じて心を鎮めな!」さちが右手を握って椅子に座らせてくれる。肩を揉んで「怒る姿はYの本当の姿じゃないの。沈着冷静。自分を取り戻して」と言う。徐々に気持ちが落ち着いて来た。さちに言われると不思議と心が落ち着いた。「脇坂、第1陣の点呼を開始してくれ。配置に着いた者から逐次状況報告をさせろ」僕は静かに言った。「了解、点呼及び状況報告を開始します」脇坂の声も落ち着いた。遠藤達第2陣もホッとした表情に戻った。「指揮官の気持ちは伝染するんだよ。Yが落ち着かなくてはみんなも落ち着かないの。さあ、元に戻ったかな?」さちが僕の頭を撫でる。「よし、冷静に物事を片付けて行こう!さち、ありがとう」さちは微笑むと軽く肘で突いて来た。やはり、彼女は僕のかけがえのないパートナーだ。「Y、何があった?内線が通じないとはどう言う事だ?」総長と会長が駆けつけて来た。「すみません。塩川がしつこく内線を鳴らすので遮断せざるを得ませんでした」僕が弁明すると「やはり、3期生は居ない様だな。志願者で回してるのだろう?A班はどうした?」会長が聞いて来る。「保健室で“充電”させてます。彼らにはクローズ作業に当たってもらわなくてはなりません。昨日の様な展開にはならないとは思いますが、休んでもらわなくては動けません」「実はな、塩川が大動員をかけてクローズ作業を手伝う算段を用意してるんだよ。校長に叱責された手前、ヤツも必死なんだ。精鋭24名を差し向けると言っているがどうする?」総長が聞いて来た。「必要ありませんね。我々の持ち駒で対応できます。尻に殻を付けた雛鳥のお守り役ではありませんし、今更どうしろと言うんです?」僕は塩川の腹の内の真意を計りかねた。「総長と同意見か。確かに今更“差し向ける”と言われても迷惑なだけだ。下手をすれば“事故”を誘発しかねない。どうやら、俺から丁重に“お断り”しなきゃならん様だな」会長も賛同した。「寄越すなら朝から来なければ意味がありません。合同チームを組んで外へ出すならまだしも、単独で外へ出したら収拾が付かなくなります。しかも未経験者となれば、烏合の衆と変わらないし、危険は増える。いい事は何もありません!」僕は冷静に派遣拒否の理由を改めて述べた。「よし、塩川の件は俺が始末を付ける。お前は持ち駒を使ってクローズ作業を終わらせる算段を立てて置け!総長、塩川の“乱”を鎮めに行こう!Y、内線は繋いで置け。もう余計な電話はかけさせないから」と言うと総長と会長は職員室へ向かった。「参謀長、交信を傍受した限りでは、まもなく石川が乗り込んできます!精鋭部隊投入の交渉に来る模様です!」山本が叫んだ。「やれやれ、一難去ってまた一難か。1人で来るのか?集団で来るのか?」「そこまでは分かりません」「話だけは聞くが使うつもりは無い。遠藤、準備にかかりなさい」「はい!第2陣集合!」遠藤の指示で第2陣は整列を開始した。「待って下さい!僕等も参加を志願します!」息を切らせて石川が駆け込んで来た。

「参謀長、我々の精鋭24名も志願します!どうか任務に加えて下さい!」石川は必死に訴えて来た。「脇坂、第1陣へ連絡。これより第2陣を派遣する。引継ぎの用意をさせろ!」僕は石川を無視して次の手を打ちにかかった。「了解、第1陣へ通知します」「参謀長、お願いです!待って下さい!」石川がすがって来る。「残念だが手遅れだ。烏合の衆を使う訳には行かない。“事故”を誘発するのが関の山だ!」僕はバッサリと切り捨てた。「遠藤、頼んだぞ!」「はい!3期生を代表して働いて参ります!」遠藤達は出発した。「何故です?何故僕等は参加させてもらえないんですか?」石川は詰め寄って来た。「では、改めて問うが、何故初日から要員を派遣しなかった?“欠員は許さぬ”と言ったはずだ!」「それは・・・」石川が口ごもった。「やる気の無い者に押し付けた結果、3期生は“志願者”以外誰も参加しなかった。だから、私は君達が選任した者達を追放した。ここの仕事はキツイ。“逃げ出される”よりは耐え抜いて付いて来てくれる者を使うのは当然だ。増してや未経験者を投入する様な危険な真似はさせられない。ここを預かる以上、“事故”や“怪我”や“命”に関わる危険な事はさせられないのだよ。だから、私は塩川先生の“提案”を蹴った。非情ではあるが、責任者として情に流される様な事は出来ないのだよ」石川は言葉を失った。「石川、これから帰って来る女子達の眼を良く見て置け!何故、彼女達を私が使ったのか?理由は明らかだよ」「参謀長、第1陣只今帰着しました!」上田の通る声が響く。「ご苦労だった。どうだ?車列は続いているのか?」「散発的に入って来るぐらいです。昨日の様な混乱はありません!」「うむ、水分補給をして休め。30分したら保健室で“充電”してるA班の先輩達を優しく起こしてくれ。後ろにボトルを用意してある」「はい、ありがとうございます。あれ?石川、何やってるのよ?」上田の眼を見た石川は凍り付いた様に立っていた。生き生きした表情、溢れる責任感・使命感、そして達成感。上田の発するオーラに彼は凍り付くしか無かった。何故、自分達は使ってもらえないのか?その理由は明々白々だった。石川は黙って礼をすると悄然と立ち去った。3期生の精鋭部隊の投入計画はこうして頓挫した。「残された道はA班と僕がクローズ作業を担う事だな」僕は石川の後ろ姿を見ながら呟いた。「参謀長、お言葉ですが、責任者が陣頭に立たれるのはマズイのではありませんか?今日は私と山本が出ます!」脇坂が志願した。「総長や会長と同じセリフを言うな。僕をどうしても陣頭に立たせないつもりか?」僕は薄笑いを浮かべて言うと「お前さんは責任者だ!“部下”を信じろ!山本、脇坂、来年のためだ。やり方を良く見て置け!」A班の班長が言った。「“充電”は完了したらしいな。車両の数は昨日より大幅に少ない。クローズ作業に手間取る事は無いだろう。2人のためにも“先輩の背中”を見せてやってくれ!」「言われなくてもそのつもりだ。来年はYの仕事はこの2人が担う事になる。最後にしっかりとスピリッツを見せつけて終わりにして来る!」A班の班長は自信満々だった。「山本、脇坂、支度にかかれ!」僕は2人に出動を命じた。

午後12時30分。クローズ作業は無事に完了した。2日半に渡った初の一般公開は成功裏に終わったのだ。「ご苦労だった!これで任務完了だ!」昇降口に歓声が上がった。A班と山本、脇坂が帰着すると自然と万歳の声が上がる。僕とさちは全員に握手を求めて歩いた。「参謀長、やりましたね!」上田と遠藤達は涙ぐんでいた。「みんなで勝ち取った勝利だよ!来年もしっかりと頼んだぞ!」上田、遠藤の肩を抱くとそう言い聞かせた。残りの14名が輪になって万歳を叫ぶ。握手とハイタッチを交わして彼女達の労をねぎらった。「Y、やったな!」総長と会長も駆け付けた。みんなに揉みくちゃにされたが、全員が笑顔で達成感に浸っていた。「苦しい中、良く持ち堪えた。みんな感謝する!」会長の言葉にまた万歳の声がこだまする。「Y、“貧乏クジ”を引かせたが、お前は大吉を引いたな!見ろよ3期生の志願者の顔を!みんな輝いてる。これを引き出したのは間違いなくお前の力だ!」総長は僕の肩を抱いて感無量そうに言った。「総長、会長、ご支援ありがとうございました。無事に任務を完了しました!」「おい!みんな集まれ!Yを胴上げだ!」会長が言うと僕は有無を言わさず担ぎ上げられる。「万歳―!」僕は4回宙に舞った。「さあ、ファイナルステージへ行こう!」僕が言うと「おう!」と全員が返して来た。拍手が鳴りやまない。“総合案内兼駐車場係”の任務は無事に終了した。「さて、お昼にしよう。片付けはその後だ」「はい、みんなでテーブルを囲みませんか?」上田が提案した。「おう、それがいい!苦労を共にした仲間で食うのも悪くない」A班長が同意してテーブルを集め、弁当を持ち寄ると昼食会が始まった。「Y、お茶あげるよ」さちがボトルを差し出す。「参謀長、幸子先輩とはどう言う関係なんですか?」上田が突っ込んで来る。遠藤を始め14名の女の子達も興味津々で僕の答えを待っている。「さちとの関係?想像に任せる。ただ、唯一私を制御出来る存在なのは分かってるだろう?」「“さち”と呼んでいるからには、互いに認め合っているんですよね?幸子先輩!参謀長にチョコあげました?」「うん、コイツの好みは難しいけど、喜んでもらえるヤツを作ってあげてるよ。甘すぎずビター過ぎない。コイツは手がかかるのよ!」さちは半分ボヤキを入れて笑いを誘う。「“甘すぎずビター過ぎない”か、みんなちゃんと覚えておこうね!」女の子軍団は一斉に頷いた。上田と遠藤の眼がキラリと光った。「言って置くが、邪な事は考えるなよ!」と返すと「別に何でもありません!」と不敵な笑みを浮かべる。「それにしても、これからが大変だ。クラスの再建には大ナタを振るわないと3期生は軒並み全滅しかねない。上田、遠藤、心してかかれよ!私も陰ながら力を貸そう!」「勿論です。参謀長のお力も借りながら再建を目指します!」遠藤がしっかりとした口調で返して来る。「西岡達とよく協議して策を考えなさい。彼女からの報告を受けて私も考えをまとめて伝える。一筋縄では行かないが、これからの行動で今後が決まる。来年は君達も中核を担う立場になるし、4期生も入って来る。よく考えて人選を進めなさい」「でも、その人選が一番難しいじゃないですか!何を基準にすればいいんですか?」上田が小首を傾げる。「“心”を見ればいい。決して容易ではないが、“心”が真っ直ぐな人は必ず答えてくれるし、重要な鍵を握っている事が多い。君達の様な仲間を増やして行くのが近道だろう。外見や性別や成績は関係ない。“助け合える真の仲間”を1人でも多く取り込んで行く事だよ」「参謀長達も同じような事を?」「ああ、多少違いはあるが、やる事は同じだ。詳しい事は西岡から聞いて置け。さて、そろそろ片付けに入ろう!余り遅れてもマズイ。山本と脇坂は無線機と内線のチェックを他の者は机と椅子、カーペットや飾りの撤去にかかれ!」僕達は弁当箱を隅に置くと片付けを始めた。来年は山本と脇坂が僕の役目を担うだろう。昇降口本部はこうして閉じられた。

午後3時、全校生徒は校庭に集結した。中心には巨大なキャンプファイヤーが用意されている。いよいよ、クライマックスである。「Y、さち、ご苦労様!」堀ちゃんや雪枝、中島ちゃん達がやって来た。随分久しぶりに会う気がするのは、それぞれに役目が分かれていて打ち合わせや、準備で登下校時間もバラバラだったからだ。「Y-、相当苦労したでしょ!3期生が全然使い物にならなかったって聞いてるから!少し痩せたんじゃない?」堀ちゃんが直ぐに全身を調べ始める。「おいおい、この場で身体検査をするなって!」僕が逃げ回ると雪枝と中島ちゃんが両腕を掴んで拘束する。「ダメ!あたし達の調査に協力しなさい!さち、後ろを押さえて!」堀ちゃんが指示を出す。「やめろ!これは拷問だ!」と僕は抵抗を試みるが、彼女達が逃がすはずが無い。「おいおい、またおっぱじめやがった!“鬼の参謀長”もあの4人にかかっちゃ形無しだな!」竹ちゃんがため息交じりに言う。「久しぶりにYをおもちゃに出来るんだから、仕方ないわよ!」道子が笑って言う。「でも、今回は止めてやらなきゃ。Yのヤツ相当消耗してるはずよ!竹ちゃん椅子無いかな?」「丸太があるぜ!あそこへ連れて行こう!」「はい、はい、はい、はい、その辺で勘弁してあげて!Y、あそこの丸太まで歩ける?」道子が止めに入って聞く。「ああ、歩くのは問題ないが、吊るされてる真っ最中なんで動けないんだよ」「顔色が悪いわ!無理しないで座ってた方が良くない?」「正直に言えばそろそろ限界だな。“アイツ”に暴れられる前に休んで置くか」と僕が言うと「ちょっと熱があるかも。Y、行こうよ。あたしボトルを買って来るから」と言うと堀ちゃんが走り出す。さちと中島ちゃんと雪枝に支えられて、僕は丸太に座り込んだ。ドッと疲れが襲い掛かる。目の前がブラックアウトする程の倦怠感が伸し掛かる。「Y!Y!どうしたの?聞こえる?」道子の声が微かに聞こえる。「竹ちゃん!久保田!担架を直ぐに!中島ちゃん本部席に丸山先生がいるから呼んで来て!さちと雪枝はハンカチを濡らして来て!堀ちゃん、Yが限界を越えちゃったの!支えるのを手伝って!」道子の声が聞こえたのはそこまでだった。僕は意識を失った。

気が付くと僕は保健室のベッドに寝かされていた。体に力が入らないが、懸命に腕を動かして時計を見る。午後4時半だった。1時間半ブッ倒れていた事になる。校庭からは賑やかな音楽が流れているのが聴こえる。「やっちまったか!」頭を動かすとハンカチが2枚滑り落ちた。さちと雪枝のモノだ。個室には誰も居なかった。そっとドアが開けられて丸山先生が顔を出した。「気が付いた?無理がたたったのね。校庭で倒れたの覚えてる?」「ええ、半分は眼の前がブラックアウトして何も見えませんでしたけど」「とにかく、動かないで!下校時間までは横になってなさい!“鬼の参謀長”にも休息は必要だわ!私は1度校庭に戻るけど、後でまた様子を見に来るから。回復の兆しが見えなければ救急車を呼ぶわ。少し眠りなさい!」先生は滑り落ちたハンカチを濡らして僕の額に乗せた。「大人しくしててよ!」そう言って先生は出て行った。微かに廊下で話す声が聞こえた。誰かが来たらしい。静かに個室のドアを開けたのは校長だった。「校長先生!」僕は慌てて起き上がろうとするが、校長は眼と手で制止した。椅子に座ると「Y君、想像以上に君に負担を強いたのは済まなかった。塩川先生達の指導力不足は明らかだ。まず、君に謝って置かなくてはならない。済まなかった!」校長は生徒に対しては異例とも取れる謝罪を行った。「塩川先生達は厳正に処分して、3期生の再生に当たらせるが、私からも改めて君に依頼をしたい。3期生の再生に力を貸してくれないかね?恐らく君は既に腹案を持っているだろう?生徒側からも再生のために力添えをして欲しいのだよ。済まないが引き受けてはくれないかね?」「喜んでお受けします。夏期講習の最中に具体案を練って、2学期から実施するつもりでした。陰ながら3期生の再生に力を尽くします」僕は校長に依頼されなくても西岡達と組んで再生計画を実施する腹積もりでいた。ここで公式に校長からの“依頼”を受ける事で、活動に幅が持てるし“金字牌”を得られる意味は大きかった。「うむ、君なら上にも下にも顔が利く。済まないが宜しく頼むよ。さあ、休みなさい。私はこれで失礼するよ。外にたむろしている塩川先生達は解散させるから安心して宜しい」校長は静かに出て行った。数分は静かな時間がながれたが、校長と入れ替わる様にまた静かに個室のドアが開いて人が入って来た。「さち!」彼女は僕にキスをすると「Y、ごめんね。近くで見てたのに全然気づけなくて」と言ってうつ向いた。「校庭に行かなくていいのか?」「Yが居なきゃ意味ないもん!」さちの眼から大粒の涙がこぼれ落ちた。僕は手を伸ばすと、さちの手を握りしめた。彼女は僕に覆いかぶさる様にして泣き崩れた。「Y、ごめんね。ごめんね!」さちの髪をなでると「誰のせいでもないさ。“アイツ”が暴れただけだよ。もう、自分を責めるのは止めて」と優しく語り掛けた。さちは少し落ち着いたのか椅子に座ると涙を拭って「あたしが看病するから、帰りは一緒に帰ろう!」と言った。「こりゃ、呑気に寝てる場合じゃ無いな。自力で帰るには体力を戻さなきゃ」と言うと、「そうだよ、もう心配させないでよ!」と怒られる。外ではキャンプファイヤーに火が入った様だ。「さち、ここに居てくれるかい?」「うん、Yの傍に居る。来年は外で思いっ切り跳ね回ろう!今年は2人でくっ付いていられればいいから」さちはもう一度キスして来た。僕はさちを抱き寄せると「個室も悪くないな。誰にも気兼ねなく2人で居られるから」と言った。さちは少し笑っておでこに拳を軽く押し付けた。結局、午後7時まで僕とさちは2人で過ごした。ファイナルステージを逃したのは痛かったが、こうして初の一般公開を行った“向陽祭”は幕を閉じた。僕とさちは、中島先生の車で駅まで送ってもらい、一足早く学校から帰路に着いた。駅で、さちを見送ってからタクシーを拾った。「長い日々だった」やり切った感慨に浸りながら、タクシー揺られて僕は家に戻った。

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