limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 27

2019年05月21日 16時59分45秒 | 日記
“夏期講習”も半ばを迎えた頃、長官から呼び出しがかかった。呼ばれたのは伊東と千秋と久保田に僕の4名だった。「朝から済まない。実は、原田から“内示”が来ている。伊東と千秋に“副会長”、久保田に“財務部長”、参謀長とワシに“会長特別補佐官”だ。ウチからの“入閣”は3名。ワシと参謀長は“閣外協力員”となる。原田のヤツ子憎たらしい“内示”をしおって!」長官は毒づいたが、順当な線での“内示”だった。「俺達が“副”なのに長官と参謀長が“補佐官”なのはどう言う事です?」伊東は不満げだった。「悪いけど、僕と長官には“校長からの特命”があるんだよ!“入閣”させられると逆に都合が悪いんだよ。それで“閣外協力員”に留められた訳!」僕が言うと「“3期生再生”が理由か?原田がもっとも頭を痛めてた事案だ。“除名された3期生をどうやって戻すか?”って、七転八倒してたな。2人が手掛けるのか?」伊東が聞いて来る。「ああ、校長直々の“特命”が僕に降りてな。長官にも手伝ってもらう事になったのさ!」「ワシは面倒な“肩書”は御免被りたいが、どうしても“肩書”を付けて縛りたいらしい。まあ、仕方あるまい」長官は散々と言いたげだった。「ところで、長崎が運動してる“監査委員会”の人事はどうなってるんだ?」と久保田が問うと「見込みは薄いな。長崎以外にも立候補者がいるらしいし、選挙になるのは避けられないだろう」伊東が見通しを示した。「だが、長崎の“目先”は完全に逸れた。この隙に“赤坂・有賀コンビ”を就任させれば、クラスは安泰だ!参謀長の判断が良かったな。欲を言えば長崎が“当選”すれば尚更いい。原田は“監査委員会”を形骸化するつもりだ。椅子はあるが、実権は骨抜きにするだろう。ただ、“肩書”は残るからクラスの委員長は兼務出来なくなる!“赤坂・有賀コンビ”以後は誰も決めてはおらんが、長崎に対する女子の“アレルギー反応”を考慮すれば、何とか“当選”へ持ち込みたいところだ。そこで参謀長、一肌脱いで欲しい!“選挙管理委員会”へ出てくれぬか?」長官は出し抜けに無茶を振って来た。「勘弁して下さいよ!“3期生再生計画”だけでも手一杯なんですから、“選挙工作”までは無理です!」「そこを何とかして欲しい!」長官が粘りだす。「校長の“特命”ですよ!違背は出来ません!」僕は断固として固辞した。「うーむ、校長を持ち出されると無理強いは出来んか!そうなると千秋、お前さんにお鉢が回るが、行けるか?」「参謀長が校長の“特命”を受けているなら仕方ありませんね!やって見ましょう!長崎君を“当選”させればいいんでしょ?女子の組織票を持ってすれば、勝てる見込みはあります。委員長としてやりたい放題にされるよりは、無害な椅子に座ってもらった方がマシ。彼の補佐をするくらいなら、“当選”させる道を模索しましょう!」千秋は俄然やる気になった。「よし、何とかその方向で票を集めてくれ!原田の方にも協力依頼はかけて置く。ヤツにしても“操縦しやすい”人選にしたいはずだ。長崎はその点、1回おだてれば調子に乗って突っ走るから、放って置いても後で害は無い。実務は他に任せる腹積もりだろうからな!」長官は原田の狙いを見透かして言った。こうして、“内示”を受けた僕等は、秋の“大統領選挙”も見据えて動き出したのだった。

西岡達からの報告が入ったのは、その日の昼時だった。「3期生の各クラスの内情ですが、我々のケースよりも深刻ですね。今もって“司令塔”となって旗を振る者もおらず、出身中学どうしで集うぐらいで男女間の積極的な交流もありません。どうやら、こうした素地を築いた張本人は塩川先生の様です。支配者側からすれば上からの支配には向いていますから。上田と遠藤達は、女子の“大同団結”に向けて動いていますが、どこまで影響力を強められるか?は未知数でしょう。問題は男子を取りまとめる“人材”を見つけられるか?ですね」「やはり塩川は“海陵王”だったか!そちらは、首を挿げ替えればと言うか“追放”してしまえばいいし、学級担任も然り。支配者は“教員”では無く“生徒”でなくてはならん!校長に申し立てて、根本から変えてしまえばいい!丁度、校長から“教職員に関する諮問書”が来ているから、痛烈に批判してやれば片付く。各クラスに派閥等は無いのかな?」僕は西岡に尋ねた。「派閥も何も横の繋がりが全くありません。集落が散在している様なものです」「うむ、ならば逆に上田達は動きやすいな。集落を1ヵ所づつ攻め落とせば、女子連合体は平易に形成出来よう。集落をある程度まとめたら、主を決めさせて派閥の代わりにすればいい。各クラスで女子連合体の形成にメドが付いたら、学年全体の“連合体本部”を作らせろ!クラス横断型の横の組織を形成させれば、当面女子は安泰になる。その次が“男子人材の発掘”だ。今のところ、頼りになりそうなのは、石川と4名の男子ぐらいだろうが、彼らは上田達の組織の傘下に置けばいい。彼らに男子を集わせてジワジワと派閥を形成させる。無論、上田達の息がかかる範囲でいいが、慌てる必要は無い。秋の改選期までに過半数を掌握させればそれで充分だ。彼女達に“政権”を取らせるのが第1段階だ!」僕は西岡にロードマップを示した。「分かりました。どちらにせよ上田達が“政権”を樹立出来なくては以後の改革も進まない。慎重に見極めつつ指示を出したり、手を回したりしますよ。学校側の方は参謀長にお任せしますが、上田達の意見はどうされます?」「反映させなければ意味は半減するだろう。意見集約を急いでくれ!“私達はこの様な圧政に耐えて来ました”との意見を投げつける絶好の機会。彼女達の意思も校長に届けたい!」「直ぐに手配しますよ。“諮問書”の提出期限はいつです?」「4日以内だ。人事の関係もあるから、あまり遅らせる事は出来ない。上田達の意見は別紙で構わないから、“あった事をありのままに”書かせなさい。その方が校長も喜ぶだろう。塩川政権については、僕と長官で徹底的に“こき下ろす”つもりだ。生徒を甘く見たツケは重い!重加算税をしっかりと納付させてくれよう!」「“鬼の参謀長”と“仏の参謀長”、どちらが本当の顔ですか?」西岡が笑って聞く。「どちらも一緒だよ。非情な命令を下す場合もあるし、戦力を温存するためや投降して来る者を受け入れる場合もある。作戦は“時と場合”によって常に変化するものだが、基本は“戦わずして勝つ”のが理想だ。現場で指揮を執りやすくするのも僕の役目。指揮官としても戦力を失わずに戦う方がいいだろう?」「勿論そうです。失うのは一瞬ですから。では、上田達の意見を集約して至急お持ちします!」西岡は東校舎へ向かった。「彼女は優秀な指揮官だ。何故、男に生まれなかったのだろう?だが、今次作戦に措いては、女性である事に感謝しなくてはならんな。上田達との繋がりに関しては、彼女を置いて適任者はいないのだからな!」僕は“諮問書”に眼を通した。“生徒の視点から見た教職員の態度・姿勢・熱意他について忌憚なく述べよ”と書かれている。「校長も無理を言ってくれるな。僕等が“忌憚なく”述べればどうなるか?知って居ながら書かせるんだから!」僕はノートに下書きを始めた。

しばらく無心で下書きをしていると、教室の後ろのドアに人の気配を感じた。僕がふと顔を上げると、上田が来ていた。「どうした?そんなところに黙って立てないで入りなよ」と言うと「お邪魔しては悪いかと。いいですか?」と尋ねるので「遠慮はいらんよ。入りなさい」と言って招き入れる。彼女は前の席の椅子を逆向きにすると差し向いに座った。「校長先生からの“諮問書”の下書きですね。参謀長、先生方の信頼が相当あるって聞いたんですが、どうしてなんですか?」「それはね、中学生の時に担任の“秘書官”を3年間やったからだろうな。学校から脱走してコンビニへ“買い出し”に行ったり、職員室に頻繁に出入りしてから顔を覚えられてさ、“○○先生が捕まらない!何処に潜んでいるか突き止めろ!”とか言われて追跡させられたりして、先生達の小間使いをやった経験があるんだ。だから、それが内申書に全て書かれていたらしくてね、ここへ来ても同じ様な事をやってるからだよ」「へー、あたしは怒られに行く側だったから真逆ですね。今も同じ事をやってるって言われましたが、担任の先生から依頼とかあるんですか?」上田が興味を持って突っ込んで来る。「あるよ。調査とか情報収集とか、中島先生は僕に対して職員会議の内容まで話すよ。“お前の方から委員長に説明して、クラスの動揺を終息させろ!”って何回言われたかな?逆に僕方から“これこれこう言う事態になりました。クラスとしての結論はこうです”って報告して後始末を依頼する事もある。それに対して“後の始末は校長と協議して決める”って答えを引き出すのも僕の役目。生物準備室の鍵だって預けられてるし、一部の書類を閲覧する許可ももらってる。先生との繋ぎ役であり、クラスの意向や学年全体の問題を報告する係なのさ。入学して直ぐに指名されたよ。校長とも直談判した事もあるし」「じゃあ、今回のあたし達の“再生計画”もですか?」「ああ、校長から直接依頼されてる。“生徒側の視点から支援と協力をしてくれ”ってね」「あのー、どうすれば参謀長の様になれるんですか?クラス全員からも先生達からも、一目置かれるにはどうしたらなれますか?」上田は必死になって聞いて来た。「一朝一夕では信頼関係は生まれない。まずは、確実に言われたことを成し遂げる事。次は必ず+αを付け加える事。“○○先生達はこんな事をやってました”って情報を付け足す。そうすれば、先生方の眼の色が変わる。次は先生方の性格や行動パターン、校内での出来事を可能な限り覚える事。“アイツ何でカリカリしてるんだ?”って聞かれたら“他のクラスの授業でこうでしたから”って答えてやるだけで、また先生方の顔つきが変わる。自分達の視点で情報を集めて、常にストックして持っていれば先生方から重宝されるし、逆に“アイツこう言うパターンはマズイぞ!”ってクラス内でも役に立つ。意外と地味な努力を積み重ねれば、クラスからも先生方からも重宝される。そうすれば、もうこっちのモノさ。右から左へ情報を流したり、聞いたりするだけでいい。“唯一無二、換えが聞かない存在”になれば、自然とあらゆる人が集まって来るし、情報も入って来る。ただ、地道な事が苦手な人には向かない商売だけどね。上田はハッキリ言って僕の様な“参謀”じゃなくて、みんなの先頭に立つ“指揮官”だと思うよ!人には向き不向きがある。だから、西岡は君に“ブレイン”として池田を付けた。池田を上手く使って作戦を立案させて、君が実践してみんなを引っ張って行く。これは、また別の意味で信頼を勝ち取らないと出来ない事だけどさ!」僕は静かに語り掛けた。「あたしが“指揮官”ですか?みんなを引っ張って行くなんて想像もつきませんが、そんな才能があるとは思えません」上田は意外そうに言った。「いや、天賦の才能はある!西岡が見抜いた以上、間違いは無い。ただ、過去にはその使い方を間違えたに過ぎない。リーダーとしての素質は間違いなくあるんだよ!だから、向陽祭の時に男子は付いて来た。それを忘れてはならない。だから、君はドッシリと構えてクラス全体を見ていればいいんだ。僕の役は池田が担ってくれる。その内に彼女達を呼んで“ブレイン”としての“心構え”として、今の話を聞かせるつもりだ。クラスをまとめるには“独裁”と“共同運営”の2つがあるが、後者の方が持続力は格段に大きい。3年間を平穏無事に過ごすなら、各自が与えられた役割をしっかりと担って行く事が大事だ!困ったり、迷ったらここへ来るといい。僕等の経験と手法はいつでも教えるし、バックアップもする。僕等より後は君達が下級生を引っ張ってもらわないと困る。そのための援助は既に始めているし、現在も進行中だ。これは、僕等のためでもある計画なんだよ。4期生を迎えるためには、3期生の君達にしっかりとしてもらわなくてはならない。校長に依頼されなくても僕はこの計画を進めるつもりだった。先に生まれた者としての責任を果たすためにな!」「では、あたしは“リーダー”として何を心がければいいのでしょうか?責任は勿論ですが、1番は何ですか?」上田は真っ直ぐに眼を見つめて聞いて来た。「揺れない覚悟だろうな。リーダーがふら付いていれば、クラスも迷走するだけだ。自身の中で常に1本の筋を通して置く事。そうすれば、何があっても迷うことは無いだろう!」僕は目を逸らさずに返した。「上田!こんなところに居たの?探したわよー、もうヘトヘト!」西岡がへばって顎を出して言った。「西岡先輩、すみません!」上田が慌てて助けに行く。「参謀長に何の話?ただでさえ忙しいのに、手を焼かせないで!」「いや、西岡、彼女は真面目に相談に来てくれたのだよ。これからは、直接話さなくてはならない事も増える。丁度いい機会だったのでな、真剣に向き合えた。あれこれと責めるな」僕は上田をかばった。「あー、やっと終わった!」「Y-、お昼にしようよ!」さちを筆頭に4人が引き上げて来た。「あれま、もうそんな時間か!まあ、いい。上田、今日はお開きにしようか?」「はい、ありがとうございました!西岡先輩、何のお話ですか?」上田と西岡は廊下でやり取りを始めた。「Y-、あの子何を相談しに来てたのよ?」堀ちゃんが聞いて来るが眼が怖い。「“リーダーとしての心構え”についてさ。“指揮官”としては文句の無い人材だが、やはり不安はあるんじゃないかな?」「それだけ?1対1で何してたのよ?」堀ちゃんの追及が怖い。「まあまあ、Yがあたし達以外の女の子に手出ししないのは分かってるからさ。ここはYの言う事を信じようよ!」雪枝が火消しに努めてくれてその場は何とか治まった。昼食後、1講座を受講した後、僕は西岡に呼び止められた。廊下の隅で西岡は「参謀長、上田には気を付けて下さい。特に1対1で話すのは危険です!」「何が危うい?上田が何かを企んでいるとでも言うのか?」「ええ、彼女、参謀長に対して特別な感情を持ち始めています!」「うーん、“あれ”か!分かった!これ以上の接近は気を付ける事にする!」「そうして下さい。参謀長のカバーエリアが拡大すれば、我がクラスにとって致命的なダメージを負いかねません!」西岡はしっかりと釘を打ち込んで来た。「あたしから上田には“参謀長には本命が居る”と言ってあります。しかし、感情を持ってしまった以上、消すのは容易ではありません。あたしも楯になりますが、くれぐれもご注意されますように!」「済まんな、西岡だから気付いたのだろう?これからもこう言う事はあるだろうから、注意してかかるよ。“あれ”は厄介だからな!」「そうです!あたし達の参謀長を易々と渡す訳には行きませんから!」珍しく西岡がムキになる。「表立っては“本命あり”で押し通してくれ。そうしないと僕もヤバイ橋を渡る事になる!大事を前に混乱は避けたいからな!」「当然です!貴方はクラスの女子の宝。カラスにさらわれては大変な事になります!では、表立っての処理はして置きます。彼女達に接する際は、必ずガードを付けて下さい!」と言うと西岡は足早に廊下を歩いて行った。“あれ”とは“恋愛感情”の4文字の事だった。これ以上“園児”を増やすつもりは無いし、増えて欲しくはなかった。僕は本当に手一杯だった。

その日の帰り道、僕は堀ちゃんと2人で“大根坂”を下る事になった。さちと雪枝と中島ちゃんは僕の“ロングチェーンを探しに行く”と言って早めに帰ったのだ。僕は最終の講座が長引いて1人で帰るつもりだったが、堀ちゃんが教室で待っていたからだ。「久しぶりだよね。1学期の半分は向陽祭に費やしてたから、こうして並んで歩くのは数か月ぶりじゃないかな?」堀ちゃんは嬉しそうに腕を絡ませて歩いた。「そうだな、ずっとバラバラに帰ってたし、登校時間もマチマチだったからな」僕もそう返した。「Y、体調はどう?向陽祭の最後にブッ倒れちゃって直ぐに期末テストだったし、休む間もなく“3期生再生計画”を始めるし本当に休めてるの?」堀ちゃんは心配そうに聞いて来る。「向陽祭の3日間でオーバーヒートはしたけど、最近は安定してるよ。まだ、クスリも残ってるから最悪は飲んで休めば回復は早いよ。でもね、猛烈に消耗すると“アイツ”が暴れ出すのは分かった。まだ、僕の体のどこかに潜んでいるんだろうよ。そうならない様に自分でブレーキをかけなきゃいけないって痛切に感じてる」「これからは、体力的に消耗する様な行事は無いから、大丈夫だと思うけれどYが倒れる姿はもう見たくないの。ねえ、原因不明って言ってたけど未だに分からないの?」「リンパ節が関係しているところまでは分かってるらしいが、発症例が少ないから研究も進んでいないのは事実だよ。特効薬もまだ開発されてない。取り敢えずは症状を和らげて休むしか無いのが現実だ!」「それって辛いよね。そんな身体で無理しないで!何なら“3期生再生計画”も棚上げにしたら?Y、働き過ぎだよ!」堀ちゃんは一生懸命に訴えて来た。「“修学旅行”に“大統領選挙”、これからもやらなきゃならない事は沢山ある。休みたいけど休んだら“出て来れなくなるかも”って不安が過る事は毎日なんだよ。だからね、ひたすらに前を向いて歩くしか無いんだよ」僕は静かに言った。堀ちゃんは立ち止まると、僕の前に立って首に腕を回すとキスをして来た。「あたしが護ってあげる!倒れない様に支えてあげる。だから、あたしの前から居なくならないで!」堀ちゃんは抱き付いて来ると、しばらく離れようとしなかった。「堀ちゃん、日陰に行こうよ。道のど真ん中だと跳ねられるから」「うん」僕等は神社の境内にある木陰のベンチに移動した。2人して座ると手を握って僕の肩にもたれて来る。「Y-、長崎君の話、潰してくれたんでしょう?あたしが苦労しない様に」「あれか、アイツの尻拭いなんかに堀ちゃんを渡せる訳が無い!しなくてもいい苦労なんかさせられるものか!」僕が吐き捨てる様に言うと「やっぱりそう言うと思った。あたし、長崎君嫌いだから!」と堀ちゃんもバッサリと切り捨てた。「あたしは、Yとなら苦労してもいいの。本当は“総合案内兼駐車場係”も一緒にやりたかったの。でも、美味しいクッキーを作るのも捨てがたかった。Yのところにも差し入れに行ったでしょ?」「ああ、あれが楽しみで待ち焦がれてた。午後3時ぐらいになると丁度お腹がすくんだよ。あれのお陰で2日間乗り切れた様なものだよ。甘すぎずお腹に優しい。最高の差し入れだったね。堀ちゃんに感謝してます!」と言うと堀ちゃんは僕の手を自身の胸に押し当てる。「次はこれをあげたいな。ペチャパイだけどね」と言ってグリグリと動かした。「こらー、反則だよー」と言うと「いずれはYだけのモノになるんだからいいじゃん!」と言って再びキスをして来る。堀ちゃんはその後も甘え続け、電車を1本遅らせてから家路に着いた。別れ際「Y、休み中にデートしようよ!忘れないでよ!」と言ってホームへ向かった。「デートか。見つからない場所を選ばなきゃ大変だ・・・」僕はそう言ってバスに乗り込んだ。

“夏期講習”最終日、午前中で全ての講座が終了し、お昼は久々にメンバー全員が顔を揃えた。生物準備室を開けるのも実に久しぶりだ。紅茶を淹れて優雅ないつもの光景の中、弁当の包みを開いた。「数か月ぶりだな!ここでのんびりするのは最高だねー!」竹ちゃんが言うと「本当にそう。留守にしていた間に紅茶が全然減ってないのが“如何に忙しかったか”を物語ってる」と道子も言う。「賞味期限が迫ってるな。ティーバッグをケチらなくてもいいよ。大量に投入しよう!」と僕はバッグの封を大量に切った。「氷も固まってるから砕かなきゃならんな。アイスとホットで大量生産しよう!」お湯を沸かすとやかん一杯分の紅茶を大量に作り、ポットとサーバーに注いだ。入りきらない分からティーカップへ注ぐ。「あー、生き返る!お昼はこれでなくちゃ!」雪枝の声でみんなが笑った。「ところで“修学旅行”の“自由行動”の行先は決まったのかな?」僕は4人に尋ねた。「真理ちゃんと有賀さん達の意向も聞いての判断なんだけどね」「“俗化”されてない穴場を選んで見たのよ!」堀ちゃんと中島ちゃんが答える。「ここなんだけど、駅から結構な距離を歩くかタクシーに分乗するか判断に迷っているところ」さちが地図を指した。京都の西南部、阪急電鉄は通っているが、市内中心部からはかなり離れた場所だった。「いいじゃん!周囲に何もないけど、静かで思う通りに過ごせそうだ。これなら、赤坂も迷う道じゃない」僕が同意すると、「唯一の欠点、“方向音痴”を考えての決断か!有賀の手前、恥はかけねぇだろうな。いや、有賀に引きずられて帰って来るかもな!」竹ちゃんは半分笑っていた。「まあ、そこは僕がカバーするとしてだな、男2人で残りは全員女の子だから、赤坂にしてもしっかりしてもらわなくては困る。事前にレクチャーしなきゃならんな!何せ次期委員長なんだから」僕も半分笑いながら言い「当然、甘い物とかおみやげを仕入れるポイントは押さえてあるよね?」と確認を入れる。「うん、それは考えてあるの。ここの駅を降りたら何も無いから、乗り換えポイントで済ませる予定。乗り換える前に調達しようと思うの」と堀ちゃんが言う。「うん、いいね。ここではぐれなければ、後は1本道だから迷うはずが無い。有賀に紐で引きずる様に言って置けばいいな」「そこまでしなくても、大丈夫じゃないかな?」さちが同情気味に言う。「いや、その程度の用心は必要だよ。空間認識力の無い赤坂にとっては、鬼門以上に危険な行動を取るんだから、万が一見失ったらパニックは免れない。腰紐は必需品になりそうだ!有賀に制御させれば間違いは無いだろう」僕は慎重論を崩さなかった。「確かに、次期委員長が迷子じゃあカッコ付かねぇもんな!」竹ちゃんは笑いのツボにはまったらしい。腹を抱えて身をよじり出した。こうした光景を見るのも久しく無かっただけに、みんなもニヤニヤとしている。やはり、ここは僕等のオアシスそのものだった。「参謀長、居るかい?」赤坂が尋ねて来た。「よお、どうした?」僕が言うと「“修学旅行”の“自由行動”の行先の件だが、聞いてるかい?」「ああ、今、聞いたばかりだが、迷う要素は少ないと思うが、何か問題でもあるのか?」「俺は参謀長に付いて行くだけになるが、ガイドは任せていいか?」「勿論、引き受けるよ。彼女達も手伝ってくれるから、有賀から離れないでくれればいい。心配するな。ちゃんと帰れるからさ!」と僕が言うと「頼む!次期委員長として恥はさらせない!他のグループの帰着確認にしても、参謀長が頼りだ!全面的に協力してくれ!」赤坂は必死になっていた。彼の性格上、失敗は何よりも辛い恥となる。ここは、僕が手を差し伸べるべきだろう。「任せときな!地図と時刻表さえあれば探し出してみせるから、大船に乗った気分で居てくれ!」「済まんな。俺の最大の弱点なんだ。カバーを宜しく頼むぞ!」赤坂は頭を下げると部屋を出て行った。「必死だな。奴さんにして見れば、最大の悪夢なんだろうが避けては通れない。やはり有賀に腰紐を持たせた方がいいな」僕が言うと「安全保障上の脅威に対するには手段を選んではいられねぇ。参謀長、大変だろうが手を貸してくれ!俺達もアイツを不安にさせる前に戻るつもりだが、パニックに陥ったら指揮は代行するしかねぇ。グループの総力を挙げて対処してくれ。あの調子だと可能性は高そうだ」竹ちゃんもいつの間にか真面目な顔に戻っていた。夏休みを終えれば“修学旅行”は目前だ。大胆さと細心さが必要な“自由行動”の総指揮を執るのが新任の“赤坂・有賀コンビ”なのだ。しかも2人は僕等と同じ場所で行動を共にする。恐らく、赤坂はそこで“限界”を迎える可能性もある。ダウンした場合は、指揮権を引継いで僕が統率を執る事になるだろう。「まあ、何とかなる」僕は楽観していた。悲観したら赤坂の二の舞になりそうだったからだ。もし、引き継いだ場合は細心の注意を払わなくてはならない。微妙な線だが僕は“行ける”と踏んだのだ。

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