ドラマに出てくるナース

2011-08-02 22:29:19 | 看護/医療全般
 テレビの医療ドラマ、特に医師が主体になっているものでは、ナースの描かれ方が変だ。医師が主人公だけに、ストーリーとして「医師を助ける」、「医師の補助」という立場でナースが描かれることになるからだろう。いつかこのブログで紹介したアメリカのthe Center for Nursing Advocacy(以下、センター)は、メディアの中でも広告業界が最悪だと(卑猥な恰好のナースを広告に使う)としながら、TVドラマも問題で、優しい天使だが、医師の横で物を持って立っているというのが良い方で、ナースを馬鹿にしたせりふもあると、Grey's Anatomy を例に出していた。(the Center for Nursing Advocacyへの英語のインタビュー記事:http://www.medscape.com/viewarticle/524602)

 メディアによる不適切なナースや看護の描かれ方をされると、世間一般の人々は、看護とナースが果たす役割を正しく理解・評価せず、ナースの存在が軽視されるとになると、センターでは、ネットを使って抗議をし、当該メディアに対して回答と改善を求めていた。世界全体がナースの不足を抱えているときに、男女広く、看護を学ぶ若い人たちを増やしていかなければならない。看護が正当に評価されないと、予算の配分も少なくなる。今の厳しい労働状況がさらに厳しくなり、質の高いケアを提供しようにもできなくなる。このような悪循環では、ナースになりたい人を増やすことができないし、最終的には、人々の健康が脅かされることになるからだ。

 ERは、とてもよくできたドラマだと思う。医学の知識や用語も監修を受けているだけ、しっかりしている。救命救急センターの臨場感がとてもよく出ている。ただ、以前、引っかかったところがあった。ナースの中で医師になるために、メディカルスクールへ入学した人がいた。それはあることなのでよいのだが、途中で、勉強と学費で行き詰ったとき、別の医師が励まそうと、「ここでがんばるか、あきらめて看護師で甘んじるか」と言っていた。「甘んじるか」か。。。問題だな、思っていた。ちょうどそのあとになるが、2006年、日本看護連盟のアメリカの看護団体視察に通訳者として随行したとき、the Center for Nursing Advocacyにも行ったのだ。そのとき、ERのこともセンターは指摘しており、ERの作成側には抗議をしたらしい。センターの会長であったSandy Summersは、そのとき、「ナースのなかで医師になる人が出ることを問題にしているのではなく、ナースが医師のジュニア資格のように表現されていることが問題なのだ。看護には独自のしっかりとした理念と教育の体系があり、博士号が取れる専門領域だ。ケアリングとサイエンティフィックな両面を兼ね備えたいろいろな勉強や経験ができる魅力ある分野だ。モチベーションの高い上級の学校を目指すナースが行くのは医学部だという印象を一般の人々に与えてしまうと、医師の下位にナースが存在するという見方を払拭できなくなってしまう。このような状態で、多くの子どもたちにナースを職業に選んでほしいし、親にも自分の子どもに薦めてほしいのに、それが叶うだろうか。世界的な看護師不足を考えると、ドラマでのこういう描写は改善させなくてはいけない」と強調していた。実際、センターは抗議をしたあと、ドラマERでは、CNS(クリニカル・ナース・スペシャリスト)が出てきて、看護や医学の学生やレジデントにベッドサイドで手技を見せて指導しているというシーンが登場したそうだ。(でもこのCNSは最後はやりにくい患者とけんかをして解雇されたという顛末になっているそうである)。

 ナースから医師になった人はいる。考え方として、看護の経験を経て、診断や治療法、その組み合わせに興味を持ち、医学を志すことは本人の重要な選択だ。でもそれは、ひとつの分野でより高いレベルに行くことではない。実際に、その反対の方向、つまり、医師から看護師になった人もいる。日本では、山内豊明氏がよく知られているが、それ以外にもいる。共同体のなかで現実に生活をしている人間として患者をみることは、医学ではできない。医学モデルの限界から看護を一から勉強してナースになったのだ。(山内氏へのインタビューがネットにある。参考まで↓)
  http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n1997dir/n2253dir/n2253_03.htm
  http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2005dir/n2647dir/n2647_02.htm  


 ドキュメンタリー番組(例えば、NHKプロフェショナルなど)では、看護はしっかり取り上げられている。TVドラマでも、「ちゅらさん」のように看護で監修を受けたものはよい。でもそれ以外は、やはり、メディアでの看護とナースのとり上げられ方や描かれ方は注意をしておかないといけない。
コメント (3)
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