Linda AikenのLancetの論文(看護労働の国際共同研究)

2014-04-18 14:23:28 | 本・論文の紹介(看護)
    今日は看護のことを書く。書きたいとずっと思っていたことである。
 
 私は通勤時間にpodcastを聴いている。その中にThe Lancet podcastが入っている。2月の末に突然、インタビューにLinda Aiken(リンダ・エイケン)が出てきた。びっくりした。現在進めている看護労働の国際共同研究についての論文がLancet掲載されており、それに関してのインタビューであった。やや高めの声で理路整然と、速いスピードで話していた。
 Aikenと共同研究者は、毎年ぐらい、Lancetに論文を出している。今年のものは下記からダウンロードできる。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(13)62631-8/fulltext#article_upsell

 Linda Aikenはペンシルべニア大学の看護学の教授で看護労働の研究では世界の先頭を走っている学者である。2010年のIOMの看護の未来レポートにも、Aikenが書いた看護教育に関する政策提言の論文が付属資料として掲載されている。自身では、1990年と2000年と10年ごとにアメリカの看護の未来を展望した本を出している。人口変化、経済・政治状況から、社会の保健医療ニーズを詳細に分析し、社会の保健医療のニーズを充足するために看護の実践の範囲(役割のこと)、それに伴う職員配置の充実や労働量、賃金の向上、そして教育の改善と、それに即した規制(資格認定、継続教育や免許更新)の整備に記述は及んでいる。
 
 ペンシルべニア大学は、1970年代に「ナースのケアはGPよりも質が高い」という世界の看護に影響を与えた大規模研究を行った大学である。詳しくは渡部富栄(2012):「IOMレポート『看護の未来:変化をリードし医療を強化する』がアメリカの看護にもたらすもの」『インターナショナル・ナーシング・レビュー』日本看護協会(81-88)を参照頂きたい。俗にペン大の研究と言われている。

 Aikenの研究で有名なのは2002年のJAMA(アメリカ医学会雑誌)に掲載された論文である。インターネットからダウンロードできる。
Aiken et al (2002). Hospital Nurse Staffing, Patient Mortality. Nurse Burnout, and Job Satisfaction. Journal of the American Medical Association, 288(16), 1087-1993. http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=195438

 内容は、ペンシルベニア州168病院のナース1万人と退院患者23.2万人から導き出したナースの職員配置と患者へのリスクとの関係である。1人のナースが受け持つ患者が4人を超えると1人増えるごとに患者の死亡率が7%、ナースのバーンアウト率が23%、ナースの職務不満足度が15%上昇する、というものである。

 Aikenは、何年か前から、RN4CAST(アールエヌ・フォーキャスト)という国際共同研究を押し進めている。欧州委委員会から研究費を受けている。看護労働に関するパラメターと患者のアウトカムとの関係を考察して、保健医療政策への提言ためのエビデンスを出している。毎回のICNの大会でもセッションが設けられているし、地域ごとの看護労働関連の会議でも、当該地域の共同研究者が発表している。今年Lancetに発表された対象の国はベルギー、イギリス、フィンランド、アイルランド、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイスである。

 インタビューでのAikenの発言で、とても印象に残ったことがあった。それを以下に記しておく。

 「各国間の医療水準の格差はあるのだが、実はそれ以上に大きかったのは国内格差である。最新テクノロジーを駆使した機材を整備した病院とそうでない病院の差は歴然としたものだ。医療財政を抑えるためにナースの配置数をカットして労働量を含めた職場環境が悪化し、それが入院患者の死亡率を引き上げることになっている。国内の施設間の技術格差は埋めることができなくても、ナースの配置を増やして働きやすい、やりがいのある職場を整備する政策を展開することで、その国の医療の質は確実に上がる。近代病院の使命は、入院患者の状態を在宅でケアできる状態までに改善することだ。患者が入院するのは、そうした状態にまで回復できるような良い看護を受けるという目的のためである。一国の医療レベル全体を引き上げる一番効果的な方法は、看護とナースに手厚い配慮をすることであり、そのための政策の実現が求められる」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

今年も大学が始まった

2014-04-17 23:59:59 | 通訳教育
  2月3月の通訳繁忙期を過ぎ、3月末の恒例の大東の通訳プログラムの同窓会も無事終わり、4月、本年度が始まった。今年は桜を長く楽しめた。大学の開講から10日ほど過ぎた。

 大東文化大学大学院の通訳プログラムの授業では、通訳実習Bで、通訳の質について論文を3つほど読んでディスカッションを進めるとともに、日本経済の中からアベノミクスについての論文(記事ではない)を採り上げ通訳演習をする。もうひとつの通訳実習Dでは、2010年のLancetの日本の医療特集から、国民皆保険、介護保険の持続可能性、高齢化社会の展望、長寿社会から予防保健医療(母子保健や予防接種レベルが高い)、日本の海外での医療協力などの論文を通訳演習に使う。

 青学の通訳Ⅱの授業は、「通訳とは何か」について検討したあと、サイトトランスレーション、同時通訳のポイントをおさえたあと、逐次通訳の演習を徹底して行う。前期のテーマはビジネス関連である。

 授業は「通訳とは何か」という問い掛けから授業を始める。例年、「言語の違う人たちの言葉の仲立ち」、「コミュニケーションを促進する」といった答えが出るのだが、今年びっくりしたのは、「誤解を防ぐ」という発言があったことだ。そう発言したのは今回が初めて通訳を勉強する学生である。このことは通訳が人間同士の関わりの中での活動である以上、重視すべきことで、通訳の海外論文で取り上げられる。その重要なポイントが授業の冒頭に学生の方から出てきて、これからの授業が楽しみになってきた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする