MOOCS(ムークス)

2013-09-17 23:11:01 | 国際会議の通訳
  7月から目まぐるしく忙しいのだが、そのまま秋の繁忙期に入ってしまった。聖路加看護大大学院のチームビルディングセミナーで軽井沢に随行したあと、岐阜長良川国際会議場へ。9月13日から15日まで、第11回世界脳神経看護学会(WFNN)が開かれた。この会議は、第1回大会が1973年東京で開かれ、日本開催は2回目。4年毎の開催である。1973年というと、日本で開かれた看護の国際会議ではICNの東京大会(1977年)よりも古く歴史がある。

 大東文化大学大学院のM1の岡崎さんが、患者の移乗(Patient Transfer)のワークショップで司会と通訳をした。

 表題は、今日のNHKクローズアップ現代「あなたもハーバード大へ ~広がる無料オンライン講座~」の内容である。MOOCS:Massive Open Online Courses 「ムークス」という。

 実は、WFNNで、看護のMOOCSについての口頭演題を同通したところだった。一般多数を対象に無料のオンラインの教育プログラムで、世界の有名大学が配信している。発表者はオーストラリア人で、看護教育でMOOCSの是非を論じていた。以下がその概要:

 オンラインの教育プログラムの名称には、MOOCS、e-ラーニングなど、いろいろあって統一されていない。
 
 看護では、免許取得後の継続教育(免許更新のために義務付けられている)でe-ラーニングを用いている国が多い。その国の看護協会など専門職団体がプログラムを提供している。
 
 このようなウェブベースの教育プログラムは、ネットにつながる環境があれば、距離が離れていても受講が可能で、便利である。学習を自分でコントロールする必要があるものの、この形のプログラムは今後も広がっていくだろう。ただ、看護の高等教育を考えると、特に脳神経看護では、どうしても臨床実践の能力を育てそれを評価する必要がある。それにはこうしたwebベースのプログラムでは限界がある。臨床に必要な対人スキルの学習も(ウェブ上でできるプログラムは工夫されているものの)、やはり対面型の学習が必要である。
 MOOCSの流れは看護教育にも大きな影響を与え、不可避な動向ではあるけれど、看護の特殊性ゆえ、それをどう使っていくのかが、これからの看護教育の課題になる、と発表は結んでいた。

 今日のクローズアップ現代↓にそのMOOCSが取り上げられていたのだ。WFNNでやったばっかりの内容が出てきたのでちょっと驚いたが、国際会議で出てきた内容が、一般的な内容としてテレビに出てくることはよくある。興味深く観た。
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3402.html
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

入院するのは看護ケアが必要なため

2013-02-20 22:49:37 | 国際会議の通訳
  しばらく、看護について話を続ける。

 Patients are admitted because they need nursing care.

 この表現を最初に聞いたのは、2009年南アフリカ ダーバンで開かれたICN大会のことだ。学術集会が始まる最初に一番大きなホールで、バージニア・ヘンダーソン記念講演という90分のスピーチがあった。大会の基調講演に当たる。バージニア・ヘンダーソンの研究者で『ヴァージニア・ヘンダーソン選集―看護に優れるとは』(A Virginia Henderson Reader Excellence in Nursing)の著者でもあるイェール大学のエドワードJ. ハロラン(Edward J. Halloran)氏の講演だった。男性である。大ホールの上階にある据付の通訳ブースから同通をしていてこの表現に遭遇した。少しびっくりした。とても大事なことを言い始めたと思った。気持ちを入れて訳したことを憶えている。

 在院日数がどんどん減っていって(現実に医療費削減でそうなっている。欧米では1~3日程度、日本では1週間程度の入院で、その後在宅でケアさせる)、難しい医学的治療もすべて外来でできるようになったとしたら、入院する理由は、治療を受けるためではなく、その患者に専門的な看護が24時間必要だからということになる。入院の目的はナースの看護を受けるためなのだ。

 ハロラン氏の話の中でとても印象的だったのは、その次に出てきたことだ:だから、入院の決定は医師がする(この治療を受けたこの患者の今の状況は24時間の専門看護が必要という判断)が、退院の決定は医師ではなくナースがすべきであるというのだ。つまり、どの段階で病院での看護から在宅/地域の看護に移行すべきかを判断して、適切な地域のケア資源を選んでスムーズにつなげるというコーディネーションと患者と家族に在宅ケアに向けて必要なことを指導することは、ナースがすることができることだ。退院はナースが決定することが適切であり、ナースが引き受けるべき重要な役割であるというのである。
 
 同時通訳は、短期記憶を働かせて文脈をつなげながら訳出していく。もちろんすでに持っている長期記憶の知識と照らし合わせて確認しながら訳出作業をするが、同通の最中に頭の中で絶えず酷使しているのは短期記憶の部分である。通訳のプロセスの中で長期記憶に入っていく知識は限定されており、普遍的な重要知識、感動した内容などだけだ。ハロラン氏の講演のこの部分は、よほど私の心を動かしたのだろう。私の記憶に強烈に残り、その後も、海外の看護関係者で類似の発言はないか、いろいろ調べることになる。

(ハロラン氏の講演のときに、私は通訳者になって本当によかったと思った。その理由は、こんな講演を同通できるというだけでなく、30年前に自分が分からなくて悶々としていたことが、看護の国際会議の通訳の機会を通じて、光が差してくるようで、こんな機会を与えられていることに、このとき心から感謝した)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アジアの文化

2012-11-27 23:00:00 | 国際会議の通訳
  忙しかった11月ももう終わる。先週はアジアの看護労働を話し合う会議でバンコクに行った。


(写真は、タイ文化の紹介でパーティーのときに披露された踊り。アジアの会議では、民族衣装での歌や踊りなど、文化的な内容が加味される)


 社会での看護のイメージの向上などがテーマとして取り上げられた。かつて関わり始めた最初のころ(2007年ぐらい)のテーマには(毎年いくつかあるのだが)、針刺し事故、そして患者の暴力への対応などがあった。この間、看護のイメージについては、断続的にテーマになっている。看護師不足、離職の防止と定着の促進のため、もちろんこれは、医療の安全と看護が主体となる医療の質の向上のために不可欠なこととしてだ。
 
 看護とナースは一般の人々には、極めて肯定的で良いイメージである。これは、世界各国の調査結果で共通している。善良、正直、ケアリング、ぬくもり、そして人々の味方。
 
 こうした一般の人々の良いイメージについて、それだけで終わらせてしまうのではなく、そこを軸に、もっといろいろやることがあるというのが、ポイントなのだ。つまり、医療の質を支え、社会の幸福に貢献している事実をもっと普及させる。それが、さらに看護への支援を増やし、力強いケアを提供するとともに、男女ともに熱意のある若い人たちを引き付け、仕事に定着させていく。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

続き

2012-05-30 13:17:46 | 国際会議の通訳
  (昨日の続き) カタログになってしまうが、WHOの見学のあと、ILOやIMO(国際移民機関)の前を通って、ジュネーブ国連事務局のところまできたので、その時の写真をいくつか紹介する。

 ジュネーブの国連事務局の前でシリア政府の弾圧に対する抗議する集会が開かれていた。


 国連事務局前のバレ・デ・ナシオン広場にある脚の壊れた椅子。地雷・クラスター爆弾反対への意思表明である。



 帰りに寄ったレマン湖の付近は、土曜日の午後、市民がゆったりと過ごしていた。
 白鳥もゆったり。

 
 サン=ピエール大聖堂 から見たレマン湖


 出張だと、仕事で頭が一杯なので、他を見て回る余裕はなくすぐに帰ってくるのだが、今回は、最後の日のセッションが12時で終わり、帰国のフライトのチェックインの18時まで時間があったので、これもラッキーだった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジュネーブ

2012-05-29 21:26:57 | 国際会議の通訳
  5月の半ば、11日間、ジュネーブに行ってきた。3回目。ジュネーブは春の会議シーズンで、現地の通訳者は忙しいようだ。秋に会議で東京に行くので、いい懐石料理のレストランを紹介してほしいといわれた。お値段は、考えなくていいそうだ。

 仕事の会議ではNCD(Noncommunicable disease)が大きな議題だった。非感染性慢性疾患。糖尿病、循環器血管系、腎臓、肝臓、がん、うつ病などの精神疾患もすべて入る。数年前は、直訳して「非感染症」では、関係者も分からなくて、「生活習慣病」、「慢性疾患」、「非感染性慢性疾患」と訳していたが、認知は高まって、現在は、「非感染症」でよいようだ。WHOの世界保健総会(WHA、World Health Assembly)の大きな議題でもあり、先進国、途上国を問わず、疾病負担が大きく、高齢化を迎える諸国ではなおさら、頭の痛い問題だ。これまでの急性期の病院中心から、地域医療、公衆衛生が主体となってケアを展開しなければならず、医療の組み換えと、それに伴い、専門職者の教育内容や能力、実践の範囲を変える必要があり、教育、実践だけでなく、制度管理にも影響を与える。今後も、議論を進めていかないといけない課題だ。

 今回は、ジュネーブのWHOを見学できた。職員がいないと見学者は入れないのだが、幸運にも日本人職員が会議に来ていて、案内してもらった。あいにく、土曜日だったので、WHO内のショップは空いていなかった。空いていたら、ペン、ノート、バックなどのグッズをたくさん買ったのに。残念。
 
 下の写真はWHOの玄関と例の蛇に杖の記章。

 これには感動した。通訳のノートテーキングで、ドイツ人のアンチェ先生から教えてもらった「健康」のシンボルがこの「蛇に杖」。その上に斜めに線を引いて「病気」を表す。これは通訳の際のノートの話(メモ取りには「省力化」という原則があり、記号など簡単に多くの意味を含めるものを使う。これはドイツのハイデルベルグ大学のマティセック教授のノートテーキングのメソッド。大東大大学院のときに教えてもらった方法)。

 WHOの会議場の中。テレビに出てくる国連の円形の会議場


 そしてその会議場の上階に並ぶ通訳ブースの外から。


 WHOの玄関部分


 入口


 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする