田村安子先生の小説『天の火』

2011-10-23 17:15:31 | 日記
  今日は、とても懐かしい思いと、新たな刺激を感じた有意義な日だった。大東文化大学大学院に進む前に、通訳スクールに通っていたが、そのとき教えていただいた、会議通訳者の田村安子先生が、9月末に小説を出版された。題名は『天の火』(高倉やえ著、梨の木舎刊)↓
http://www.amazon.co.jp/gp/product/481661107X/ref=s9_simh_gw_p14_d0_g14_i1?pf_rd_m=AN1VRQENFRJN5&pf_rd_s=center-2&pf_rd_r=10TS3CZX5320KE6X48RZ&pf_rd_t=101&pf_rd_p=463376756&pf_rd_i=489986

 原子力をテーマにした小説である。今日、千代田区で出版記念集会が開かれたので、出席した。田村先生とは、お年賀状だけで、もう12、3年、お目にかかっていない。出版記念の会のお葉書をいただいたとき、びっくりするのとうれしいのとで、ぜひとも、お伺いしないとと、思った。今朝、お目にかかって、本当に懐かしかった。でも、外見も雰囲気も、前回、お別れしたときのままだった。

 田村先生は、ネットにもインタビューが出ているように、http://www.hicareer.jp/inter/interview/vol35.html
子育てを終わってから、通訳の勉強を始めて、通訳者になった方だ。普通の生活をしっかりしながら、いろいろなことに関心を持って、でも、社会について、クリティカルに観察しご自身の考えを、簡潔に説明する。人間に対して、根底の見方は暖かく、とても前向きだ。スクール在学中も、通訳者になった当初、お仕事でご一緒することになったときも、いろいろなことを教えていただいた。

 今日の会は、現在教えてらっしゃるスクールの教え子の方たちも、たくさんお手伝いに来ていた。先生の人徳である。

 来賓のスピーチでは、田村先生の日本語に対する思いが強く伝わった。『天の火』の文章は簡潔で切れがよくリズミカルだ。

 帯には「同時通訳者が見た原発産業の内側」となっているが、これは、出版社の方でそのような書き方にしたらしい。通訳者はいろいろな業界や分野の最先端の話に関わる。それだけに、ある意味、バランス感覚的なものはあると思う。ひとつの世界で常識的に行っていることで、なにか、敏感に感じことはある。仕事には守秘義務が伴うので、通訳者が話をするのは、30年後ぐらいだったりするのだが、もったいないと私は思っている。この小説はあくまで、フィクションだ。田村先生は、あとがきで次のように書いている。

 「会議通訳としての仕事は多岐にわたりさまざまな分野のビジネスに関わった。原子力事業はその一つだった。真剣に働く人々に共感しながら、一方でいつも複雑な感情を抱えていた。東日本大震災を目にしたとき、長年の感情が一気に掻きたてられるのを感じた。創作を通じてその感情を表したいと思った」

 これから、ゆっくり読むことにする。

 
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対人コミュニケーションのセミナーが終わった

2011-10-22 20:15:38 | 日記
  今日、「ナースのための対人コミュニケーション入門講座」を実施した。受講生は、ナースの他に、介護士の人が1人加わった。午後1時から4時まで、3時間の講座で、最初の2時間は授業、残りの1時間は、演習として、スキルの訓練と事例を用いてのグループワークと発表という手順で行った。

 説明の手順は、拙書の『対人コミュニケーション入門 看護のパワーアップにつながる理論と技術』に基づくのだが、特に、「聴く」の中で、話者の言語と非言語情報とコンテキストを照らし合わせて推論し、意図を聴き分けていく話には興味があったようである。ナースの聴き取りの力がその後の保健医療チームのケアに大きな差をもたらすという、重要な話である。

 傾聴のスキルの中で、「投げ返し」は難しかったようだ。これは、アメリカの心理学者のカールロジャーズがreflectionと名づけたスキルで、カウンセリングでは、相手への敬意と共感が表せる非常に有効なスキルだ。おうむ返しでは、クライアントは自分が理解されたとは感じることはできないが、適切な投げ返しは、自分が理解されていることを自覚して、さらに自分のことを開示することになる。ナースにとっては得られる情報の質と量の両方を増やせるとともに、クライアントとの治療的関係も強化できる。

 このスキルについては、受講生に自分のことを話してもらって私が投げ返しと質問を組合わせて面接するというモデリングをした。その受講生によると、投げ返してもらうことで、「徐々に自分の気持ちが落ち着いてくるのが分かった」と言っていた。貴重な感想だった。

 わたしの指導の様子をビデオにとっているので、編集後に送ってくれるとのこと。自分のことを見るのは、興味半分、怖さ半分。せっかく撮ってもらった貴重なビデオなので、よく見てみます。
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レジリエンス(Resilience)

2011-10-20 23:46:02 | 医療用語(看護、医学)
  「レジリエンス」(resilience)とは、困難への抵抗力や回復力のことなのだが、重要なポイントは、厳しい状況に適応して、前に進んでいく力、前向きに調整できることである。訳はそのままカタカナで「レジリエンス」である。

 今年は、震災・原発によるサポートやケアの関連の仕事があることから、関係資料や論文のなかで見る機会が多い。先日のPTSDに対する心理療法の話のときにももちろん出てきた。

 ICNの機関誌であるインターナショナル・ナーシング・レビュー誌の最新号にもアメリカの看護学者が書いた「日本人被爆者に共通するレジリエンス」という興味深い論文が掲載され、その中にレジリエンスに関する先行研究、定義の枠組みなどがまとめてあった(INR Selection)↓
http://www.jnapc.co.jp/products/detail.php?product_id=2981#

 
 心理学、保健医療、社会福祉、教育などの研究および実践の両方に関わるキーワードである。
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VIVOの男性看護師の特集など

2011-10-12 21:06:54 | 日記
  VIVOの最新版が発行になって、同時にネットにも掲載された。今回の特集は「男性看護師」。時宜を得た内容だ。登場するナースらはモチベーションが高く、とてもかっこいい。顔がみな、締まっていて、知的な風貌だ。↓
http://www.tokushukai.jp/media/vivo/vivo30_00.html

 男性看護師については、数年前に、毎年恒例で訪日するメイヨクリニックのナースらの講演で、一度、取り上げられた。慶応大学での講演だった。葛藤もあったことが話され、そのあと、学生らとかなり熱の帯びたディスカッションになったことを覚えている。

 40年近く前は、男性ナースは、ところによっては手術室で勤務している人もいたが、ほとんどが精神科であった。でも、今は、いろいろな病棟に勤務をし、良い評価を積み重ねている。

 このテーマについては、また、別の機会に、書きたいと思う。

  私の「ケアする人々に贈ることば」もある。今回のテーマは治療的コミュニケーション↓
http://www.tokushukai.jp/media/vivo/img/vivo30_pdf/p40.pdf

 1月から『産業看護』誌に、保健指導で使う対人コミュニケーションスキルに関して連載する。その原稿を出した。
 

 通訳の仕事は繁忙期に入った。
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PTSD

2011-10-06 22:43:01 | 国際会議の通訳
 大学の後期授業が始まった。9月26日から青学で、今週10月3日から大東文化大学だ。今年は震災/原発で、4月の授業開始が大学によってずれ込み、祝日を授業日にする場合も違っていたりと、注意しないといけない。秋は、フリーの仕事の繁忙期でもあり、短い3ヵ月余の間に、たくさんのことを集中してこなさないといけない。


 10月1日(土)早稲田大学で心理学の仕事だった。PTSDに対して、テレヘルスを使った長時間曝露療法(Prolonged Exposure, PE)のエビデンスについてで、無作為試験の結果を示したものだ。テレヘルスPEは対面型PEとほぼ同じ効果があるという。東日本大震災と心の健康についての講演会である。

 アメリカでのPTSDの研究で特徴的なのは、退役軍人に関するものが多いことだ。発生率が高く、重度のケースも多い。幼少期のトラウマ体験もっている場合、またうつ病を併発したりすると、治療が難しくなるという。その他、女性のレイプ被害者、児童虐待など、データが蓄積されている。研究では、これらに比べると、自然災害によるPTSDの発生率は低く、重症に陥るケースも少ないという。

 アメリカの場合、軍隊に入隊する人たちは地方出身者が多く、都市部のセラピストがいる病院まで通って来れない。でも、PTSDについては、早期発見と早期治療がきわめて重要で予後を決定する。そこで、スカイプを用いて治療の成果をあげている。この方法は日本の震災後の東北で使えるのではないかという。

 東日本大震災の被災者については、これまでのところ、PTSDの発生は想定したよりも低かったと、国内ではいわれている。しかし、講演者らは、福島原発関連のストレスが継続していること、住まいが変わり、共同体が崩壊したことなどを考えると、まだまだ安心はできず、注意が必要であるとのことであった。


 PEは認知行動療法の1つだ。PTSDについては、またいつか、もう少し詳しく取り上げる。
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