Maxi nurses: 最高の看護師 マキシナース

2012-02-26 23:17:54 | 看護/医療全般
  久しぶりに本や資料を置いている部屋を整理した。見るたびに頭が痛かったのだが、4月の就職まで少し時間があるのでと帰省してきた大学院生の長男に手伝ってもらい、なんとかやった。1年使わなかった資料は、ほとんど使っていないので、こまめに捨てればよかったのだが、ぐじゃぐじゃ残っていた。

 企業などの通訳の際、使った資料はその場ですべて返却して帰ってくる。通訳者とエージェントあるいはクライアントと、またエージェントとクライアント企業が、秘密保持契約を結んでいる。厳重な守秘義務のある資料はもちろんだが、それ以外でも企業関連の仕事関連の資料は持ち帰ることはない。
 
 ただ、各仕事の背景情報としてインターネットで調べたりしたものが残っていたりする。それと、大学の講師関連の紙の資料が何年か分あった。必要に応じ、シュレッダーにかけたりして、やっと整理ができた。何年かに一回は、引っ越しするときのような整理が必要だ。たくさんのごみを捨てたおかげで、探していた資料が見つかった。

 その資料の名前が、Maxi nurseだ。イギリスのRoyal College of Nursing(英国看護協会)とDepartment of Health(英国保健省)による合同調査の結果、作成された資料だ。2005年に発行されたものである。

 なぜ、探していたかというと、They are maxi nurses not mini doctors.「彼ら(彼女ら)は最高のナースであってミニドクターではない」という表現が頭に残っていたからだ。Maxi nurseという表現を最初に見たとき、いいな、と思った。アメリカでは見られない表現だ。

 これはイギリスで、APN(Advanced Practive Nurse)という高度実践を行うナースについて、758人のナースを対象に行われた調査結果と、補足資料としてインタビューをまとめたものの2種類の文書になっている。イギリスのナースらのAPNへの反応は非常にポジティブであった。

 これまでもアメリカを中心にAPNについてはいろいろ読んだのだが、このMaxi nursesの中で初めて見た内容だったり、特に印象に残ったりしたことを以下にいくつか記す。

・APNを活用することでケアの質と安全性が向上するのは、ナースがいつも患者のそばにいるからであり、ケアが継続するからである。つまり看護の強みが非常によくあらわれる
・そのためにAPNを使うことで、患者のケアへの満足度が高まる
・臨床現場でよくいう「アナムネ」(anamnesis)、つまり病歴採取については、APNは患者の生活面までよく把握しているので必要なポイントを詳しく書いてあってよく分かる。そのため、APNからの紹介患者が好まれている
・臨床だけではなく、プロフェッショナル・アドボカシーの活動も積極的に行っていて、啓発活動などで子どもたちへ話に行ったりして、「名前の付いたナース」になっている。

 常に患者を把握しているナースだからこのような高度実践になる。それはミニドクターではなくMaxi nurseだというのである。「ミニドクター」という表現は、英語の母国イギリスではそのような文脈で使われている。

 この資料はネットでも入手できる↓

http://www.rcn.org.uk/__data/assets/pdf_file/0006/78657/002756.pdf
http://www.rcn.org.uk/__data/assets/pdf_file/0004/78646/002511.pdf


 最後は、英語表現での注意を少し:
Royal College of Nursing:英国看護協会
Royal College of Physicians:英国内科医師会
Royal College of Surgeones:英国外科医師会

 collegeの辞書訳の後ろのほうに「(一定の権限・資格・目的などを持つ人たちの)団体、協会、学会」という意味がある。それに当たる。
 
 Royal College of Nursingは「王立看護大学校」ではないので注意してほしい。
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Patient Safety :  医療安全

2012-02-19 09:58:41 | 医療用語(看護、医学)
  先月から何度か、ケアの質のことを話してきた。質と一体で議論されるのが安全なケアだ。だから、to provide safe and quality care(安全で質の高いケアを提供する)という表現になる。

 「医療(の)安全」の英語の訳は、Patient Safetyだ。ブログでIOMの看護レポートの話を取り上げていた最中に、日本看護協会出版会の編集者の村上さんから次の号(夏号)のINRの翻訳原稿が送られてきたが、それが、Patient Safetyに関する論文だった。同じテーマ関連の仕事が続くのは、そのテーマについて多角的に知れるし、考えを整理するのにとても役立つ。ただ、Patient Safetyはついては、偶然にも重なったというのではないと思う。日本だけではなくグローバルレベルでホットな問題なのだ。この論文の翻訳では、私はPatient Safetyを文脈により、「医療(の)安全」、「患者の安全」と訳し分けている。

 医療用語には漢語が多い。漢語を2つ、3つ重ねた熟語もよく使う。今問題にしている「医療安全」もその一つだ。かなり固い表現だが、もっと極端なものをみたことがある。「医療安全質確保対策」。漢字が重なり合いすぎて、途中で息継ぎがほしい。ここまでになると、行きすぎだ。できるだけこのまま使うとしても、日本語としては、ちょっと手を入れて分かり易く、「医療の安全」、「安全で質の高い医療のための対策」といった表現にしたほうがよい。私が訳すときはおそらくそうするだろう。

 漢語は外来語の訳である。もともと、明治維新の後、欧米から入ってきた概念を日本に訳すときに(日本語にはそのような意味の言葉がなかったので)漢語を当てはめた。医療の世界にそうした表現が多いのは当然だろう。ただ、漢語について注意しなければならないのは、漢語になった時点でその言葉をそのまま受け入れてしまって具体的に何を意味しているのか、疑問に思うことなく進んでしまうことがあることだ。翻訳研究の柳父章先生のいう「カセット効果」である。(「カセット効果」については、以前書いたブログ(2011年6/4付、「和製英語コ・メディカル」)で説明しているので参照してほしい。)

 漢語とはそういう魔力がある言葉であることはちょっと頭に入れておいたほうがよい。実際に、具体的にどのようなことを意味してどういう文脈で使われるのかを確認する必要がある。医療関係の仕事をするときは医療用語を縦横無尽の使えることが要件になるが、上記のことを注意する必要があるということだ。


 何年も前に会議の資料で「医療安全」という言葉が出てきたとき、通訳のための打ち合わせの席で、発表者に「『医療安全』とは何を指すのか?患者に対して安全なケアを提供するということか?」と尋ねたことがあった。発表者のその時の答えが、「『患者の安全』ということです」だった。「だったら「患者の安全」と表現すればよいのに」と思ったが、通常は「医療安全」が使われている。頻度は低くなるが、「医療における患者の安全確保」といった表現で「患者の安全」という言葉が入ることはある。(ちなみに、医療の世界の表現では「~における」という表現もよく使われる)。

 「医療(の)安全」は、「安全な医療のシステムを整備する(整える)」ための議論で使われている言葉で、これにあたる英語がPatient Safetyだ。英語の文献では、Patient Safetyという言葉が使われるとき、「患者を危険にさらす状況がある」ということが前提になる。だから「考えられる医療ミスを未然に防いで、患者に対して有害なことが生じない、安全なケアを提供し続けられるシステムを整備する」という文脈で使われるのである。

 医療安全をうっかり、medical safetyやhealthcare safetyと訳してしまわないように。
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今年度、大学は終わり。3月までの課題

2012-02-12 10:46:28 | 対人コミュニケーション
  この1週間ぐらい、のどが痛い。私の場合、必ずしも風邪の引きはじめではなく、急に寒くなったとき、また睡眠不足、疲れなどでも、のどが痛くなる(そこから本格的に具合が悪くなることもあるが)。肩から上は冷やさないようにストールを重ね、首には常に巻いて保温と保護をし、マスクをしている。年と共に睡眠時間が短くてもやっていけるようにはなってきたのだが、これもいけないみたいで、できるだけたくさん寝る日を1日作る。そうするとだいぶ楽だ。インフルエンザが猛威を振るっているので、ウィルスでない単なる軽い風邪様の症状だと、今の時期は病院に行きたくない。家でしっかり栄養と休養をとったほうが回復しやすい。

 大東文化大学経済学部の英語教員の打ち合わせ会が終わった。3年生の英語を1コマ受け持っている。自分でテーマを決めてリサーチして英語を書いてプレゼンをして質疑応答に対応するという通年のクラスだ。打ち合わせ会では互いの授業の様子を説明するので、次年度の計画の参考とヒントになる。プレゼンについては、パワーポイントを使っての発表を学生に課しているというクラスが増えているようだ。学生はパワーポイントは工夫してきれいに作ることができるので、モチベーションが上がる。こうした能力は、私が10年前に講師を始めた時にはなかったものだ。

 青学の通訳のクラスでは、前期の最後に模擬通訳のペア発表をしており、そこではパワーポイントを使ってスピーチをする。大東の方は、自分の決めたテーマについて情報を集め、捨てるべき情報と残すべきものを弁別して、残したものに優先順位をつけて、論旨を組み立て書いていくという指導を徹底している。そのあとプレゼンをするのだが、来年は、それをパワーポイントを使ってするというようにしてみようと思う。
 考えてみれば、企業では、パワーポイントを使ったプレゼンは、日常、行われている。企業のマネージメントのミーティングの通訳の場でも、発表はすべてそのような形になっている。原稿を読み上げるといったものはない。

 大東の教員の打ち合わせ会が終わったので、2011年度の大学関連は大体仕事は終了する。次年度の授業開始の4月上旬までは、ほかの予定をこなさなければならない。


 3月31日に日本通訳翻訳学会の教育分科会で発表をする。テーマは対人コミュニケーションからみた通訳になる。もともとのきっかけは、昨年3月に『対人コミュニケーション入門 看護のパワーアップにつながる理論と技術』(ライフサポート社刊)を出した時にそれを読んでくださった先生方がいたことだ。この本はナース対象のものだけれど、170ページの中に今考えられているコミュニケーションの理論の中で必要なものを可能な限り入れている。通訳の研究の視点として感じるものも確かにある。

 コミュニケーションとは、言語非言語の記号化(シンボル化)とその解読によるメッセージ交換のプロセスとされている。通訳は、2者間のシンボル交換の間に通訳者を挟んだ2言語3者理論をベースに教えているのだが、対人コミュニケーションの理論関連の内容が出てくるのはそこまであたりである。

 通訳は対人コミュニケーションの活動の一つになるので、コミュニケーションの理論についてもあらまし学習したほうがよいのだが、なぜか、抜けてしまっている。理由はよく分からない。ほとんどが、膨大な数の単語を覚え、英⇔日の通訳の訓練に費やす。通訳自体ができなければ話にならないので、これはこれで重要なのだが。。。

 コミュニケーションの理論を学ぶことで、研究の視点は増える。ただ、実践家として関心があるのは、対人行動をある程度予測でき、意味だけでなく意図や動機を推論しやすくなる。またベテラン通訳者がやっていることをまねるのではなく、そこに潜む原理を導き出せるので、自己の実践を系統だてて改善できることだ。 
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IOMレポート『看護の未来:変化をリードし、医療を強化する』

2012-02-05 10:27:10 | お奨めの本
 この何回かのブログは、先日のケアの質の会議の話から、標記のIOMの看護レポートの話になっていた。

 IOMのケアの質に関するレポートは安全で質の高い医療という文脈でこの10数年、いくつかのものが出されている。最初は、クリントン政権で医療の質に関する委員会があってそのあとIOMから、To Err is Humanが出された。そのあと、Crossing The Quality Chasmというレポートが出て、ケアの質には大きな欠損があってそれを早急に埋めなければならないと提言している。この2つのレポートは非常に有名で影響力を持ったものであった。Chasmのあと、関連する内容のレポート、たとえば医療職者のコンピテンシー(能力、到達目標)など、いくつか関連の内容のものが出ている。その中にあるのが標記の『看護の未来:変化をリードし医療を強化する』である。ケアの質に特化したものではないが、アメリカの21世紀の医療の質安全を確保するための大きな役割が看護の未来にあるという主旨である。700ページの大分のレポートなので、中にあった8つの勧告のみ訳しておく。

IOM『看護の未来:変化をリードし、医療を強化する』の8つの勧告
1.実践の範囲にある障害を取り除く
2.多職種協働による改善対策をナースがリードし、それを普及させていく機会を広げる
3.卒後研修プログラムを実行する
4.2020年までに大学卒業のナースの数を全体の80%に増やす
5.2020年までに博士号を持つナースの数を今の2倍にする
6.ナースが生涯学習を進められるようにする
7.ナースが変革をリードし、保健医療を強化できるように教育を行って能力を身に着けさせ、それを実行できるようにする
8.医療で働く多職種専門職者の労働力データを収集して分析できるインフラを整備する


 このレポートでは、特に医師とAPNとのケアの質に差はないという表現が随所に出てくる。アメリカというAPN先進国で、APNの是非の議論はすでに終わり、APNの有効性を前提にその運用をさらにどのように強化するかが議論されている状況で、まだあえてそれを繰り返し出してくるのは、注意を絶えずしておく必要があることなのだと感じる。医師の確固たる業務独占の部分を切り分けるようにAPNが権限を獲得していく過程で生じるバトルはどこの国も同じだ。IOMのレポートでは、APNについては、これまでもそしてこれからも政治的な活動が必要であるだろうと記している。

 
 このIOMの勧告を受けてすでにアメリカの連邦および州政府ではいろいろなことが進められている。


 このIOMの看護の未来に関するレポートは、先のブログでIOMのサイトからフリーダウンロードできるといったが、単行本として購入できる↓

http://www.amazon.co.jp/Future-Nursing-Advancing-Institute-Medicine/dp/0309158230/ref=sr_1_fkmr0_1?ie=UTF8&qid=1328408510&sr=8-1-fkmr0

 ちなみに、私は、To Err is HumanCrossing The Quality ChasmHealth Professions Educationとともに、この看護レポートもアマゾンで購入した。もう一つ、Teaaching IOM Implication of the Institute of Medicine Reports for Nursing Educationというアメリカ看護師協会から出版された本も購入した。パトリシア・ベナーが序文を寄せている。IOMのレポートを看護教育でどう教え、反映させていくかという本である。

 日本とアメリカでは文化が違い、医療制度が異なるなど相違点はある。ただ、なぜ、アメリカを見るかというと、理屈の整理がきわめて明快にされていることだ。そしてその論理は、常に先を見据えた戦略的なものだ。今この現状を次にどうつなげていくのかが明瞭に見える。一つの分野のこととしてでなく、あらゆるものに当てはまり、具体的な考え方としてとても参考になり、興味深い。
 
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ケアの質 続き ― IOMレポート『看護の未来:変化をリードし、医療を強化する』つづき

2012-02-04 14:53:55 | 看護/医療全般
  前回の続き

 医療では質と安全は一体になって語られる。

 アメリカでの看護の質が語られるときよく引用されるのが、NDNQI(全国看護質指標)というアメリカ看護師協会が出している指標プログラムである。IOMの看護レポートにもそれは記されている。NDNQIは、以下の項目が指標になっている。

・患者1人1日当たりの看護時間
・転倒転落率/受傷をともなうもの
・院内感染率
  ・カテーテルによる尿路感染
  ・中心静脈感染
  ・人工呼吸器による肺炎
・小児疼痛アセスメント、介入、再アセスメントサイクル
・小児点滴、静脈注射漏れ
・褥瘡発生率
・身体および性的暴力発生率
・抑制の使用率
・登録ナースの教育と免許
・登録ナースの職務満足度調査
・スキルミックス(職員数、配置)

 ケアの質は、構造とプロセス、アウトカムの枠組みだといわれるが、これは明らかに構造とアウトカムが中心である。ナースが生み出す成果を測り、それを生み出す構造改革にナースがかかわっていくことを考えている。
 褥瘡や院内感染はナースにとってきわめてまずいことなのだが、その予防こそがナースの貢献が明らかな部分であり、それを指標にして評価し、ナースの成果を明示するとともに、問題があれば、職員配置などと照らし合わせ、悪い結果を生み出す構造を変えていけるようにする。(nurse-sensitive measure:ナースに配慮した指標)
 
 看護の成果により院内感染が減る、結果、在院日数が減る、医療費を抑制できる。-----その中には、かつて言われた、ナースの診療報酬が低いから費用対効果が高いという議論はなく、看護の成果が医療そして社会全体に与える成果を主張して、さらにその成果を高めていけるような方向に動ける道筋をつけている。だから、IOMの看護レポートには、ナースのリーダーシップ、特に中枢に入っていける能力を高められるように機会を与えるとともにそのような教育を求めている。たとえば、質の指標で出てきた成果をもとに、ナースと看護の成果を表せ強化できるシステムを作るとともに、ナースに配慮した施設の経営、自治体や国家政府の政策運営ができるようにする。

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