朝、パソコンを立ち上げるとすぐにアーシュラ・K・ル・グィンさんの訃報が目に飛び込んできました。享年88。
死因は明らかにされていませんが、ここ数カ月、具合を悪くしていたとのこと。
最初に、彼女の名前の表記について。
英語表記は、Ursula K. Le Guin だったり、ピリオドを抜いて Ursula K Le Guin だったり。
ちなみに、この「K」は Kroeber の略。彼女の旧姓です。
日本では、出版社ごとに表記がわかれています。
- 早川書房:アーシュラ・K・ル・グィン
- 岩波書店:アーシュラ・K.ル=グウィン
- 河出書房新社:アーシュラ・K・ル=グウィン
新聞では「ル・グウィン」もしくは「ル=グウィン」が多いようですが、ここでは早川の表記に従っておきます。
私にとっては「SFのいちばん偉い人」といってよい存在でした。
好きだったり、凄いと思ったりするようなSF作家は他にいますが、ル・グィンは「とにかく偉い作家」という感じ。
背筋が通り、美しく、見事で、正しい物語を届けてくれる人でした。
いちばん重要な作品は何といっても『闇の左手』でしょう。中世的な雰囲気の惑星〈冬〉を舞台に、両性具有の人々がつくりだす社会と彼らの行動を突き詰めて考察した物語は、さまざまな思考を誘い、同時にドラマの複雑さを味わわせてくれます。ここで描かれる中欧風世界と禁欲的な登場人物は、初期の彼女の小説の魅力の大きな源泉。
人間にとってユートピアは可能かどうかを追究した『所有せざる人々』も必読のSF。
個人的には、ごく初期の作品となる『オルシニア物語』と、年取って書かれた『ギフト』『ヴォイス』『パワー』(〈西のはての年代記〉三部作)が忘れられません。
『オルシニア物語』は彼女の好きだった中央ヨーロッパの雰囲気が色濃く、〈西のはての年代記〉はもっと陽光に溢れたアメリカ西海岸のムード。
好んだ世界の変化を興味深く感じています。
同時代の尊敬すべき女性が逝ってしまい、寂しくなってしまいました。
彼女と並んで尊敬するジョニ・ミッチェルにはどうか長生きをして欲しいものです。
私は初期の「ロカノンの世界」や「辺境の惑星」も好きです。
SFファンとしては、ちょっと悔しい(^^;
ジャンルを超えて、広く読まれるのにふさわしい作家ですね。まだ紹介されるべき本もあるようです。
彼女の作品に異世界・異文化をテーマにしたものが多いのは、文化人類学者である両親の影響もあるのではないでしょうか。
余談ですが、訳者の行方昭夫先生に1年のとき英語を習いました。物静かな中に異文化への深い洞察力を感じ、先生の訳書を見つけたら迷わず買うことにしていました。
あれが文化人類学関係の本を読んだ、最初だったかもしれません。その後、『ヌアー族』とか、楽しみました。
でも学生時代は大変シャイで先輩方とろくに話もできなかったので、おそらく感想を話したりしなかったのでしょう。
思えば遙か昔の、封印したい過去の自分です。
そういえば、ほとんどお話してませんでしたねえ(^-^)