惑星ダルの日常(goo版)

(森下一仁の近況です。タイトルをはじめ、ほとんどの写真は交差法で立体視できます)

『むかしのはなし』

2005-03-27 21:23:37 | 本と雑誌
 三浦しをんさんの本を読むのは初めて。『むかしのはなし』(幻冬社)は出版社から何の前触れもなく送られてきたので、たぶん私の興味の範疇に入ると編集さんが判断してくれたのでしょう。まったく予備知識なしで手に取りました。

 「ラブレス」は「かぐや姫」、「ロケットの思い出」は「花咲か爺」というぐあいに、日本の昔話をヒントにした7つの作品が並んでいます。といっても、もとの話との関係はかなり微妙。ねじくれ、はぐらかしての照応ぶりで、そのあたり、作者の意地悪かつユーモラスな視線が魅力的。

 でも、これは現代の男女関係の話でオレには物足りないかな、と思っていたら、4作目の「入り江は緑」あたりから妙なことになってきた。背景にSF的要素が導入されているのです。(ただし、木星の基地で1年の任務を果たして地球に帰ると20年が過ぎているなどというあたりは、もう少し何とかならないものでしょうか。誰かにちょっと聞けばいいのに)

 このSF的設定はその後の短編でも共通していて、つまり、単に昔話を下敷きにしたものというだけでなく、現在から未来に向けての日常風景を断続的に描くオムニバス作品となっているのです。
 そして最後の作品に至って、設定が効果的にはじけるところが見事。

 「懐かしき川べりの町の物語せよ」というタイトルのこの中篇は「桃太郎」が下敷き。「モモちゃん」という際立ったキャラの男子高校生が登場します。痛快で切ない「ひと夏の経験」の物語。『八月の濡れた砂』あたりの日活青春映画を思わせ、しっかりとツポに嵌まりました。
 また、「お供」としてトリコ(鳥子)という女性が登場する(雉の役割ですね)のも、個人的にはワクワク(いや、たまたまそんな名前の人を知っているというだけで、それ以上の意味はありません)。もちろん犬や猿に相当する人物もいます。

 この作品ひとつで、本書は記憶に値するものになっているといっていいでしょう。
 そういえば、カバーの下の表紙の装幀には多摩川の中洲と思しき写真が使われていて、「懐かしき……」の舞台と主人公たちの心象を表しているかのようです。


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