すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

群青・涙 後編

2008-10-06 06:49:40 | 小説
「ねえ、やっぱり、私、今から行く。今、どこ?」

「何、言うて。あかん、あかん。明日、そっちも仕事やろ」

「そうだけど、そんなん、どうとでもなるもん」

「あかん、無理したら。お互いに続かへんって」

「今、無理しなくて、いつするの? あなたは私に会いたくないの?」

「せやから、そういうこととちゃうって、さっき、言ったやん」

わがままだってことは、判ってた。
彼が、うん、と言わないってことも。

でも、私は。
私の心は。
ただ、彼を抱きしめたくて仕方なかった。

彼の辛さも、悔しさも、憤りも、何もかもひっくるめて、
彼のそばで、彼を支えたかった。


「泣いてんのか・・・・・・?」


不意に彼が言った。
言われて初めて、私は、自分が泣いてることに気付いた。

「おまえの涙は、見たくないねん。・・・勝手言うとる、よな。
 ほんでも、おまえが俺のために泣くのを見るんは、耐えられん。
 せやから、泣かんとってくれ」

私は咄嗟に、口を押さえた。

後から後から湧き上がる思いを、必死で押し殺した。

「なあ、おまえが何を心配してるか、察しはつく。昔のこと、俺、隠してないからな。
 他人を拒絶して、自分の殻に閉じこもって、
 とことんまで堕ちていく姿を、傍で見るんは、辛いよな」


目の前にある、越えられない壁。

並び、比べられることの多いそれに向かい、
あがき、もがき続けた過去の彼を、私は、直接には知らない。

折にふれ、言葉の端々に現れる、その過去は、
突然、彼に影を落とすことがある。

たとえば、そう、まさに、今、のように。

「せやけどな。会いたいって言ってもらえて、正直、ちょっと嬉しかってん。
 束縛、するんもされるんも、性に合わんって言うてんのは、俺の方やのに、
 一番、束縛してんのは、俺、やったんやな。
 いっつも、そうやって、俺のこと、心配してくれとったのに、勝手なことばっかり言うて、
 すまんかったな」

彼の声が、急に、優しくなった。

「ホントに、一人で大丈夫なん?」

「大丈夫やって。心配性やな。
 最初から、大丈夫やって言うてたやろ。ちょっと、弱音吐いてみただけや」

「あなたが弱音吐くやなんて、それだけで、いつもと違う証拠でしょ」

「そやな、違うな。けど、たまには、甘えさせぇや。
 最近は、なかなか会われへんから、こんなことでもないと、
 俺にはおまえがおるってこと、忘れそうやわ」

「忘れるんだ、私のこと」

「いやいや、言い方悪かった、違うって、ちゃうちゃう。
 甘えてもええ場所があるっていう意味や。誤解したら、アカン」

「あなたが私のこと忘れんうちに、会いたいな。次、いつ会えんの?」

「これで夏が始まったからな、いつやろな」

「あかんやん。完全っに忘れられるわ」

軽口を叩きながら、調子にのって、つい、彼に尋ねてしまった。

「ねぇ、聞いてもええ? 怒らんとってくれる?」

「なんや?」

「仕事、楽しい?」

「急やな」

言葉の隅で、彼が笑った。

「こんなこと、これからだってあるかもしれへんのよ? それでも、続けて行きたい?」

「当たり前やろ」

即答、だった。

「そら、最初は、自分でも何でこの仕事してるか、判らんかったで。
 始まりはオカンに付いて来いって言われたからやけど、でも、最終的に選んだんは自分やねんから、
 好きじゃなかったら、続かへん」

「安心した、良かった」

「ほんなら、俺からも聞いてええか?」

「なに?」

「毎日、楽しいか?」

「楽しいに決まってるやん、当たり前でしょ」

「こんなふうに、俺のことで心配ばっかしてんのにか?
 思うように会われへんし、俺、仕事になったら、おまえのこと忘れてんねんで」

「忘れられちゃうんは、ちょっと、哀しいけど、な。楽しいんは、ほんまよ。
 あなたのこと心配するんだって、あなたのこと、好きやからやもん。
 好きって気持ちに嘘はないし、それに・・・」

「それに?」

「あなたが仕事楽しんでるって判ったから、嬉しい」

「そうか、それ聞いて、俺も安心したわ」


彼の声は、もう、いつもの輝きを取り戻したように思えた。


私の大スキな、少し低めの彼の声が、受話器の向こうから響く。

「俺も、おまえのこと、好きやからな。今回のことで、おまえの気持ちが確認できて、よかったわ。
 たまには、スキャンダルも、書かれてみるもんやな」

「また、そんなこと言うて」



彼がこの仕事を続ける限り、いつかまた、同じことが起こるかもしれない。

けれど、彼は、以前の、
他を拒絶することで自分を守っていた頃の彼じゃない。

淋しさと悲しみと、憤りと悔しさと。

いろんなものの溶け込んだ涙は、もう、
彼には、

必要ない。


                       FIN.



続きで、あとがきです。

おつきあい、ありがとうございました。
そして、ごめんなさい 過ぎたことを蒸し返すようなお話で。
でも。
あの記事がでたとき、なにより先に考えたのは、すばる君のことでした。
記事を信じる、信じない、ということよりも、真実がどうであろうとも、
あの記事が出た、という事実に、彼が、傷つくことの方が怖かった。
彼が、もう26歳の、一人前のオトナの男性だということも忘れて、出来る事なら、何も見せず聞かせず、
煩わしいことから彼を守りたかった。
出来るはずがないのに。私には何の力もないのに。
せめてコンサートだけででも応援したかったのに、チケットの取れた大阪は、まだ随分先のことで。
飛んで行きたい、抱きしめたい。
その思いだけで、書き上げました。

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1 コメント

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Unknown (さゆき)
2008-10-06 16:42:33
はじめまして
小説拝見しました。
読み終わったあと一人感動している自分がいました{グズン}

のゆさんのすばるくんに対する
思いもすごく伝わりました
わたしも彼が傷つくことが一番怖かったです
でもフラフラのコンサートであんな笑顔のすばるくんが
見れて少し安心しました{笑}

これからも小説、ブログ更新がんばってくださいね{スマイル}
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