すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

STORY.44 青春・のすたるじー

2013-12-10 18:40:50 | 小説

えーっと。
やっと書き終わりました。

お話自体は短いのに。
書き終わるまで、長かった(笑)

2012夏、本文の書き出しだけ降りてきて、
なおかつ、すばるの買っただけで見てないDVDの話をつなげたあたりで。
ずーーーーっと止まってました。

最初は。
登場人物は女性のはずでしたが。

いつのまにやら、あのコに変わって。

そしたらちょっとずつ、動き始めて。

The Coversで膨らませて。


いつもどおり。
ここに登場する人物のモデルは実在しますが、
ストーリーはフィクションもいいとこ、妄想です。

作者は根っからの生粋の三河人なので、
関西弁の使い方がわかっていません。

そのあたりは、ニュアンスで汲み取っていただきますよう。

決して添削などいたさぬように、お願いいたします(笑)

興味のある方だけ、続きからお読み下さいませ。



STORY.44 青春・のすたるじー



ガラス窓の向こう側で、街路樹が揺れる。

ひとつふたつみっつ、
染みが濃くなるほどに、匂い立つアスファルトに落ちる雨の匂い。

吹き渡ってゆく風の音に、思いだす表情。
おびえたように、不安げな。
淋しげな。

かすかな雷鳴が遠くで響くと。

顔をゆがませ、耳をふさぎ、目をきつく閉じて。
うずくまってしまうのだろうか、
今も、
あの頃のように。


「ねえ、これ。なに?」

テーブルに放り出された小さな段ボール箱を手にとって、奴が尋ねる。

「んん?・・・あぁ、DVD」

「オトナの?」

「アホ、なんでやねん、そんなんちゃうわ」

「なんだ」

なに、がっかりしてんねん。

「昔の、外国の映画のや。仕事で、見といたらええかな思うて」

「見ないの?」

「あー・・・もう仕事終わってもうたから、必要なくなったわ」

「は?無駄じゃん」

奴が笑った。

「ねえ、これ、僕も一緒にみれるやつ?」

「は?見れるよ、そりゃ」

「じゃあ今から見ようよ」

「今からぁ?」

「いいじゃん、外、雨だし、ゲームも飽きたし」

他人の家に来て、飽きるほどゲームしてんのもどうかと思うで。

「ま、好きにしたらええんちゃう」

「じゃあ決まり」

奴はそう言って、その小箱を俺に差し出す。

「なんや?」

「開けてよ」

俺はそれを受け取って。

「自分でやったらええやん」

「僕のじゃないもん」

ま、それもそやな。

俺はその箱を開け、パッケージを破りデッキにセットする。

「喉、乾いたんだけど。なんかある?」

自分でやれることくらい自分でやれ、いうのが主義やけど。
どうも、こいつ相手やと調子狂うな。
動いてまうわ。

「炭酸はないぞ、ミネラルかアイスコーヒーか・・・」

「あ、じゃあミネラルでいいや」

冷蔵庫からペットボトルを出し手渡すのと同時に。
オープニングの映像が画面に映し出される。

TVの前のソファに陣取った奴の隣で、俺は床に座り。
ぼんやりと画面を見つめる。

この映画も、彼女の目に触れただろうか。
気になる映画は必ず劇場で観るんだと言った彼女は、
劇場まで足を運んだのだろうか。

俺と彼女が出会ったとき。

もう十分に彼女は大人で。
でも、俺はまだ絵に書いたような子供で。

でも。
屈託なく笑う彼女は、子供よりも子供っぽくて可愛くて。

普段は強気で弱さのカケラも見せない人やったのに。
こんなふうに。
雷が鳴るような夜には、人一倍怖がって。

音が通り過ぎてしまうまで。

肩抱き寄せて。
手を握りしめて。

あるいは胸に抱きしめて。
背中を撫でて。

そばにいて、と俺を見上げる彼女の顔を。
俺はまだ覚えてるし。
思い出してるやなんて。

笑われるんかな。

笑うやんな。

きっと。


「なに?今のとこ、面白い?」

奴が上から俺の顔をわざわざ覗き込む。

「ん?・・・ああ、ちゃうちゃう。ほかのこと考えとった」

「ふぅぅん。何思い出したの?」

「ええやん、なんでも。ほら、ちゃんと見ぃひんなら消すぞ」

「あ、見る見る」

カンフー映画なんて興味もなかったし。
こんなことでもなけりゃ、手に取ることもなかったんやろうけど。

『この世界で出会えるものは限られてるわ。出会えたら、奇跡なのよ』

耳の奥で、彼女がつぶやく。

『君に出会えたのは、とても幸せな奇跡』
『いつか消えてなくなるものでも、今、ここにあるだけでいいわ』

逢うたび、俺の腕の中で彼女の口からこぼれ出してた言葉。

「哀しいこと、言うなや。消えたりせぇへんよ」

そのたび、俺はムキになって。
揺らぐ彼女を抱きしめた。

柔らかな彼女の感触の中に。
ごつごつとした塊が残ることがあって。
どれほど懸命に溶かそうとしても、
それは固くてほどけなくて。

そのたび。
俺ではアカンのやって、思い知らされた。

気づかんふりしたんは、俺の弱さや。

わかってた。

どうにもならん現実があるって。
頑張っても乗り越えられんものがあるって。

彼女に頼られるには、俺は子供過ぎて。
俺に頼るほど、彼女は子供じゃなかった。

ただ、それだけのことや。

最後、と彼女が決めた日。

長い時間うつむいてた彼女は。

絞り出すような声で。
『思い出を、ありがとう』と言った。

二人でどこかへ行ったわけやない。
二人で何かをしたわけやない。
写真1枚、
指輪の一つ、
そんなものすら残っていない。
形に残るものなんて、タブーだった二人や。

ただ少し。
ぬくもりを与えあう時間を重ねた。

それだけやったのに。

それを「思い出」と呼ぶ彼女がせつないほど愛しすぎて。

もう一度だけ、この腕に抱き締めて。

最後のキスをした。

いつもより深く、
少しだけ長く。

俺は。
思い出になんか、するつもりあらへんかったのに。

思い出なんか、
なんの役にも立たん、欲しくない。

あそこから続く時間だけを共有したかったんだ、俺は。

彼女を愛していられる時間が続くなら。
なんでも出来る、なんだってする。

夢を諦める以外は。



「酔っ払うだけなら得意なのにね」

「は?」

なんの話や分からへんぞ。

「また演るんでしょ?」

ああ、そっちか。

「んー、らしいな」

「らしいな、って。他人ごとみたいに」

「せやってまだ何も分かってへんし」

「僕、あの映画好きだよ。ああいうの、いいよね」

「ああいうのって」

「自分たちがやってきたことが認められたわけじゃん?
 形になって評価されて、みんなが喜んでくれて。そういうの、いいなぁ」

「お前らやって、これからやろが」

「うん」

「用意された道、進むんは自分次第やからな」



『立ち止まってうずくまってもいいのよ、振り返って引き返してもいいの。
 急ぐ必要なんて、どこにもないの。
 ただね。
 あなたを見ている人がいること、忘れないで』

彼女は俺の頬に手を当てる。
それから包み込むように、俺の頭を胸に抱き。

『ひとりじゃないの。
 周りを見なさい。感じなさい、思いを馳せなさい。
 あなたの夢に重なる夢を見ている人もいるのよ。
 あなたが選ぼうとしてるのは、そういう道なの。
 男なら覚悟を決めなさい』

ああ、そうや。
彼女が俺にくれたんやった。

歯車が噛み合ってない、
どこかでズレてる、
けど、
それがどこなのか、
なんでズレてんのか分からへん、もどかしさの中にいた頃に。

だから「夢を諦めない」俺を認めて許して。

自分から離れて行ったんや。



いつのまにか、映画はエンドロールになってた。

ふと見れば。
ソファでうたた寝してるやん。

大きな口叩いてても、まだ二十歳になるかならへんかや。
順調そうにみえてても。
こいつの道も始まったばっかりやからな。
今はシンドイさなかやろ。

風邪ひくで。

俺はそばにあった上着をかけてやる。

あの映画も。
彼女の目に止まったかな。
諦めなかった夢の一片を、認めてくれたやろか。

あのとき離れたのが無駄じゃなかった、間違ってなかったと。
思ってくれたら。

それだけでいい。


いつしか雷鳴は遠くなり、雨音も静かになった。

代わりに、蘇ってくる。

地鳴りのように、なだれ込んでくるような歓声と。
包まれた闇の中に浮かび上がる、
赤、青、黄、橙、緑、紫、白・・・
変わりゆく色のきらめき。

あの光に隠れて、彼女がいるような気がして。
俺はいつも遠くまで見つめる。
探してしまう。

願った場所に自らの意志で立っている俺が、
彼女には見えているだろうか。

届け。

俺はここにいる。
今、ここにいる。

そう叫んでる。
声を限りに。

あなたへ。

届け。

愛してる。

今も、
ずっと、
これからも。

ここに立つ俺が、二人でいた証。


FIN.

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