すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

聖なる夜の8の魔法 8つめ

2008-12-23 22:24:48 | 妄想のカケラ・ショートストーリー 
夕方、三女が、
高校の近くの焼肉屋さんで、クリスマス会があるから送って、といいました。

三女の高校のあるところは、
「世界のトヨタ」のある市です。その、南のはしっこ。
我が家からだと、モロ、関係各社のそばを通る道しかありません。

案の定、行きも帰りも、帰宅ラッシュにひっかかり、
昼間なら15分ほどで着く道のりを、
40分もかけて行き、50分もかけて帰ってきました。

ワン信号で、車一台渡れるか渡れないか、
100m進むのに、10分かかるとか。

覚悟はしてましたけど、
いささか、ウンザリしながら、娘を送っていきました。

イルミネーションのかけらもない、
田んぼの中の一本道。

車内の∞だけが、大音量で響いておりました。



お迎え時には、もうすっかり、道路は空いていて、
15分で着きました、とさ。
カードを封筒に戻し、
彼は、残っていたビールを、勢いよく、喉に流し込む。

「結局、サンタの魔法は、ことごとく裏目にでたっちゅうわけやな」

「私が、もっと上手にやれたら、あなたに、喜んでもらえたかもしれへんかったのに。
 ごめんね」


「ほんまやで。オレ、いらんこと、考えてたわ」

「いらんこと、て?」

「もう、あかんのかって。
 オレの言葉より、メンバーの言ったことを守りたがるくらいやから、
 別れるつもりなんかなって。
 オレは、サンタにも、なれへんかったんやって」


「サンタに、なりたかったの?」

「当たり前やろ」

「だって、いつも、クリスマスとか関係あらへんって言うてるのに」

「いくら、オレがクリスマスとか関係ないって言うてたかて、
 おまえの喜ぶ顔みたいことには、違いはあらへん。
 せやけど、こんな仕事してるから、時間通りに事が終わるとは限らんし、
 いつ、急な仕事が入るかもわからん。
 約束して、期待だけさせて、
 大事な日に、土壇場で、がっかりさせるようなこと、したくないやん。
 そやったら、無理せんと、いつも通りに過ごしたほうがええやろ、と思うてたんや」


「私だって、そう思ってたよ。
 仕事の忙しいあなたに、無理させんように、
 なるべくなら、負担かけないようにって思って」


「どこで、すれ違ってんやろな。
 今日の、あの店やって、2~3日前かな、急に思い立って電話してみたら、
 空いてるっていうから、急遽、予約入れて。
 アクセサリーやって、俺、ホントは、下見までしててんぞ」


「え・・・!?」

「そんな驚かんでもええやん。
 オレやって、サンタになりたかったんやもん。
 相手の喜ぶ顔が見たいって思う気持ちが、オレをサンタにしてくれるんやって。
 相手の喜ぶ顔、想像しながらプレゼント選んでる時間に、サンタになれるんやって」


「だったら、十分、あなたはサンタになれたじゃない」

「ほんでも、肝心要の、おまえが、喜んでくれへんかったら、
 意味あらへん」


「嬉しかったよ? ピアス」

「だって、あれ、オレがええなって、言うたやつやん。
 あれ、ほんまに、欲しかったんか? オレが押し付けたみたいに、なってないか?
 おまえの好きなんと、ちゃうんやろ?」


私は、バッグから、さっきのピアスを取り出した。
丁寧にラッピングされたリボンを解く。

「このピアス・・・。
 確かに、選んだのは、あなただけど、でも。
 あなたの目に、真っ先に留まったものが、欲しかったの。
 たくさんある、いろんなキレイなものばっかりのショーウィンドウの中で、
 あなたの心を、捉えたものが。
 それが、きっと、私の、お守りになる、と、思ったの」


「どういうことやねん」

「あなたが、私を選んでくれたんだってこと、忘れないでいようと思ったの。
 この先、どんなことが起きても、
 あなたを信じていられる、お守り。
 このピアスは、私自身なの。選ばれた、印」


「面倒なやっちゃな。そんなピアス信じんと、オレを信じてたらええのに」

「ホント。そうよね」

「なあ。そのピアス、片方ずつ、持つことにしようや」

「片ピアス?」

「今日みたいな、すれ違いを起こさんように、8つめの、魔法や。
 サンタレンジャー、最後の魔法やぞ。
 ペアじゃないし、お揃いっちゅうんでもないけど、
 一個くらい、二人しておんなじもん持ってたかて、ええやろ」


彼は、箱から、ピアスをひとつ取り出すと、

「ほら、耳、だして」

私の髪を、掻き揚げた。

「うん、似合うわ」

私の耳に、ピアスをつけて、微笑った。
目じりに、いっぱいの、しわよせて。

「オレにも、つけたって?」

残っていたピアスを、今度は、私が、彼の耳に、つける。

「ヒトにやってもらうん、やっぱり、くすぐったいわ」

そう言って、彼は肩を少し、すくめた。


二人の耳に、小さな音符。


これから、この音符は、どんな楽譜を描くのだろう。
どうか、不協和音だけは、奏でませんように。


「ええか。
 オレには、おまえがそこにおってくれることが、
 最高の魔法やねんぞ。 
 他には、なんも、いらんからな。
 余計なことに、惑わされんなや」



彼の言葉で、私は、また、魔法にかかる。

聖なる夜の、永遠に、と願う魔法に・・・。






      FIN・・・?



 







 






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