やっと後編の②まで来ました。
彼は、つかんだ私の手を引いて、公園に向かって歩き出した。
の続きからです。
終わりまで、まだ、ちょっと、かかります。
飽きてきました?
ごめんなさい。
お付き合い下さる方は、続きで、どうぞ。
月明かりに浮かぶ公園は、静かで、人の気配はなく・・・
ブランコだけが、かすかに風に揺れている。
入り口にあった自販機で、
彼は温かいココアを買い、私の手に握らせた。
冷え切った身体が、ほんの少し、温もりを取り戻す。
ベンチに座り、
私は、そのココアを開けようとした。
けれど、かじかんだ手が思うように動かず、
なかなかプルトップが開けられない。
「貸してみ?」
彼は、私の手から缶を受け取り、簡単にトップを開けた。
「寒いよな、ごめんな。
もうちょっとだけ、ここでも、ええかな」
冷たい体に染みていくのは、ココアだけじゃない。
「あのな、言い訳かもしらんけど・・・
こんな仕事してたら、メンバーや後輩とつるんで遊ぶことって、
どうしても、多くなんねん。
オレ、そんなに、人つきあいの上手いほうじゃないから、
遊ぶメンツも限られてくるけど、
ほんでも、おまえのこと、知らん後輩やって、おるし。
・・・そういうんは、向こうもいろいろ、いらん気も回すこともあるし・・・。
せやけど、昔みたいな、やんちゃも、減ってきたで?
仕事に対する考え方やって、変わってきたと思うねん・・・
それもこれも全部、
おまえのおかげやって、感謝してんねんけど・・・
伝わってへんかったんやな・・・」
そんなこと、今、初めて聞いた・・・
でも、だからといって、
他のオンナノコに目移りする彼を、許せるわけじゃなかった。
彼が、他のオンナノコの話をするたびに、
彼以外から、その話を聞くたびに、
私の心に鬼が棲みついていくことを、どうやったら、彼に伝えられる・・・?
「あ、ここんとこ、忙しくて、ろくに、会えへんかったもんな。
なんか、考えすぎてんのとちゃうか?
きっと、なんか、いっぱい、誤解してると思うわ。
第一、お前が思うほど、俺、モテてへんし」
いつになく、饒舌な彼。
「さっき言ってた、あのおネェちゃんかて、
最初のお目当てはオレじゃなかったんやから。
キスやって、向こうから、勝手にしてきたことやし、
あっというまで、なにがどうなってんのか。
まあ、おまえ、放っといて、勝手が過ぎてたんは、事実やし、
オレかて、男、なわけやし・・・
そこ、言われると、俺も・・・弁解のしようもないけど・・・
でも、な。
後輩らと遊ぶこと、責められるのは、アカン。
それだけは、せんでくれ。
いろんな遊びするんも、
そこに、おネェちゃん事がはいってくんのも、
オレという人間の引き出しを増やすことに繋がることやねん。
浮気・・・とかと、ちゃうねん。
判ってくれや、
なあ。
機嫌、なおそ?」
下を向いてる私を、彼は、わざわざ覗き込んできた。
「私は、あなたの、なに?」
ようやく、私の口から、言葉が転がり出た。
「ェ? だから、恋人・・・って、言ったやん」
「あなたが他のオンナノコのこと、口にするたびに、
私が、どんな想いでいるか、想像したこと、ある?」
「は? せやけど、みんなただの、知り合い、やで。
別に、特別な感情なんか、あらへん」
「あなたにはなくても、周りからみたら違うことって、あるでしょう?」
「周りって・・・。そんなん、関係あんの? 大切なんは、オレと、おまえで」
「だから。
私には、我慢できへんの。 あなたが、他のコに、優しくしたりすんのが」
とうとう、堰を切った私の言葉は、後から後から彼に向かって流れ出す。
「私、自分が、こんなに醜い人間なんやって、あなたを好きになって、初めて気づいた。
私はこんなに、あなたのこと、好きやのに、
あなたの方は、ホントは、私なんかどうでもいいと思ってるんじゃないか。
あなたには、私だけ見ててほしいのに、
そんなこと、言われへん、強制、できへん。
愛してる分だけ愛してほしいと思う自分がいて、
でも、
そんなん、愛とちゃうやんか。
ただの、独占欲にすぎひん。
だから、ずっと、気づかへんフリして、許そうって、思ってた。
私は、・・・あなたより、年上・・・やから。
物分りのいい女でいな、アカン。
私と会ってるときのあなたは、優しくて、
他のオンナノコのことやって、別に、明るく話すから、
なんでもないことなんやって、
別に、心配したりすることとちゃうって、
そう、言い聞かせてた。
・・・だけど、
もう・・・・、
シンドイ。
あなたの仕事が忙しくて、なかなか会われへんくて、
私の中に、不安ばっかり、大きくなってく。
鏡の中に、な、
私じゃない、鬼、が、見える気、すんねん。
この不安、どうしたらいい?
どうしたら、幸せなまんまの、私に戻れるんやろ・・・?」
彼を責めるつもりじゃなかった。
でも、結果として、私の口をついて出るのは、
彼への不満ばかりになってしまった。
「こんなふうに、あなたにわがまま言うのも、
ほんとは、イヤで、仕方ない。
わがままな女って、思われたくないから、
ずっと、黙ってたのに、
でも、いいだしたら、止まらへん。
どんどん、イヤな女になってくんが、自分でも、わかる。
あなたにだけは、嫌われたくない・・・」
感情にまかせて、私がしゃべり続けているあいだ、
彼は、黙ったまま、私を見ていた。
私の心を射抜くような、瞳で。
時々、その瞳の強さに、くじけそうになる私が、いた。
けれど、私の言葉が途切れた瞬間、
その瞳は、とても、優しい色を見せた。
「初めて・・やな。そんなふうに、モロに感情むき出しのおまえ見んの」
「あかん、ごめん、違う、言い過ぎた・・・。
イヤや、こんなん、嫌われる・・・」
「そんなこと、ないから」
言いながら、彼は、私の髪に触れ、優しく頭を撫でた。
「もっと、早ように言うてくれたら良かったんや。
我慢なんかせんと、もっと、我儘言うていいんやで?」
「だって、嫌われてしまう・・・」
「なんでや、そんなことで嫌いになったりするもんか。
おまえ、不安にさせたオレが悪いんやから。
そら、時には聞いてやれへん我儘かて、あるかもしれんけど、
そん時のおまえの気持ちは伝わるし、
オレの事情かて、わかるやろ?
別の方法が見つかるかもしれんやろ?」
「今の私、醜い・・・ヤキモチやきなん、どうしたらええか、わからん」
「アホやな」
彼は、私の肩に手を回し、
私の頭を、自分の肩にあずけさせた。
彼の手が、私の頬を、撫でる。
「さっき、言ったやろ。
オレは、おまえに助けられたって。
もっと、自信持っててええんやで。
オレは、おまえがいてるって思うから、何でも、自由に、好きなことやれてんねん。
まあ、ちょっと、勝手が過ぎたんは、ほんまに、オレが悪い。
そこは、弁解のしようもないから、謝るしかないねんけど・・・
それとも、もう、ほんまにアカンと思ってんのか?」
私から嫌いになれたら、どんなにラクなんだろう。
悲しくても傷ついても、
彼を嫌いになれないから、こんなにも、苦しいのに。
「また、オレ、捨てられてしまうんかな」
ぽつりと彼がつぶやいた。
「おまえの手を、試すようなことした罰が、あたったんやな」
試す・・・?
なんのこと・・・?
「ごめんな、悪いクセやな、どうしても、なおらんな」
彼が横顔で苦笑う。
「人見知りも、ここまでくると病気と一緒かもな。
なかなか他人を信じること、出来んくなる一方や。
大切な人にほど、好き勝手のし放題で。
おまえのことかて、そうや。
おまえが好きで、大好きで、だから付き合ってんのに、
違う女の話したり、
よそごと、してみたり。
どこまで、オレって人間を受け入れてくれるんか、
許してくれるんか、
いろんなことして、顔色伺って、付き合う距離決めるような、
そんな、人の心、試すような真似・・・、
し始めたん、・・・いつ頃からやろ・・・」
彼は、私の肩から腕をはずし、
両の掌を合わせて組み、下を向いた。
「ありのまんまの、素の、
オレ自身を、まるごと信じてくれたらなあって・・・。
おまえを苦しませる気は、なかったんやで。
せやから、悪いんは、おまえと違う。
おまえのこと、嫌いなんとも違う。
ほんまに好きやねん、手放したくないねん。
ずっと、そばにおってほしいねん。
あとからいろんなことで喧嘩になって、嫌われて別れんの、しんどい。
それくらいなら・・・
まんまのオレ、見せ付けて、許してくれるギリギリのとこ、探そう、
そう、思って・・・。
勝手やな、そんなん。普通は、通じんよな。
アカン、と思われても、仕方ないよな」
かすかに震えているように見える、彼。
すっかり冷たくなってしまった、ココアの缶を傍らに置いて、
私は、彼を抱きしめた。
柔らかな彼の髪が、私の頬に触れる。
わずかなシャンプーの残り香が、ふわりと、よぎる。
彼の息使いが、私の身体に伝わる。
すっぽりと腕に収まってしまいそうなほど、
まるで、幼子のような彼。
そう。
彼は、ヒト付き合いに関しては、まだ、コドモと同じだったのだ。
関心がないようにみえて、
どうしたら振り向いてもらえるか、
いろんなちょっかいをかけて、試してるような、
まるきりの、コドモ。
そんなことにも気づかずにいたなんて、
私は、彼の、何を、見ていたのだろう。
気づいてさえいたら、
私の醜い嫉妬など、彼に見せたりしなかったのに。
彼も、私も、もう少し器用だったら、
せっかくのクリスマスの夜、
こんな喧嘩もしなかったのに。
ああ、でも、
クリスマスだったからこそ、
彼の気持ちも
私の気持ちも、
お互いに伝えあえたのかな。
「お互い、面倒な性格やね」
彼の耳元に、そっと、ささやく。
「もう、怒ってへん?
オレの気持ち、通じた?」
私の腕の中で、私を見上げた彼は、
あの日、
連れ帰った子猫が見せた瞳と、同じ色をしていた。
暖かな部屋で、満たされて、
安心できる自分の居場所を見つけ、眠りについた子猫。
その、瞳のような ・・・・・・
エピローグへ続く
彼は、つかんだ私の手を引いて、公園に向かって歩き出した。
の続きからです。
終わりまで、まだ、ちょっと、かかります。
飽きてきました?
ごめんなさい。
お付き合い下さる方は、続きで、どうぞ。
月明かりに浮かぶ公園は、静かで、人の気配はなく・・・
ブランコだけが、かすかに風に揺れている。
入り口にあった自販機で、
彼は温かいココアを買い、私の手に握らせた。
冷え切った身体が、ほんの少し、温もりを取り戻す。
ベンチに座り、
私は、そのココアを開けようとした。
けれど、かじかんだ手が思うように動かず、
なかなかプルトップが開けられない。
「貸してみ?」
彼は、私の手から缶を受け取り、簡単にトップを開けた。
「寒いよな、ごめんな。
もうちょっとだけ、ここでも、ええかな」
冷たい体に染みていくのは、ココアだけじゃない。
「あのな、言い訳かもしらんけど・・・
こんな仕事してたら、メンバーや後輩とつるんで遊ぶことって、
どうしても、多くなんねん。
オレ、そんなに、人つきあいの上手いほうじゃないから、
遊ぶメンツも限られてくるけど、
ほんでも、おまえのこと、知らん後輩やって、おるし。
・・・そういうんは、向こうもいろいろ、いらん気も回すこともあるし・・・。
せやけど、昔みたいな、やんちゃも、減ってきたで?
仕事に対する考え方やって、変わってきたと思うねん・・・
それもこれも全部、
おまえのおかげやって、感謝してんねんけど・・・
伝わってへんかったんやな・・・」
でも、だからといって、
他のオンナノコに目移りする彼を、許せるわけじゃなかった。
彼が、他のオンナノコの話をするたびに、
彼以外から、その話を聞くたびに、
私の心に鬼が棲みついていくことを、どうやったら、彼に伝えられる・・・?
「あ、ここんとこ、忙しくて、ろくに、会えへんかったもんな。
なんか、考えすぎてんのとちゃうか?
きっと、なんか、いっぱい、誤解してると思うわ。
第一、お前が思うほど、俺、モテてへんし」
いつになく、饒舌な彼。
「さっき言ってた、あのおネェちゃんかて、
最初のお目当てはオレじゃなかったんやから。
キスやって、向こうから、勝手にしてきたことやし、
あっというまで、なにがどうなってんのか。
まあ、おまえ、放っといて、勝手が過ぎてたんは、事実やし、
オレかて、男、なわけやし・・・
そこ、言われると、俺も・・・弁解のしようもないけど・・・
でも、な。
後輩らと遊ぶこと、責められるのは、アカン。
それだけは、せんでくれ。
いろんな遊びするんも、
そこに、おネェちゃん事がはいってくんのも、
オレという人間の引き出しを増やすことに繋がることやねん。
浮気・・・とかと、ちゃうねん。
判ってくれや、
なあ。
機嫌、なおそ?」
下を向いてる私を、彼は、わざわざ覗き込んできた。
「私は、あなたの、なに?」
ようやく、私の口から、言葉が転がり出た。
「ェ? だから、恋人・・・って、言ったやん」
「あなたが他のオンナノコのこと、口にするたびに、
私が、どんな想いでいるか、想像したこと、ある?」
「は? せやけど、みんなただの、知り合い、やで。
別に、特別な感情なんか、あらへん」
「あなたにはなくても、周りからみたら違うことって、あるでしょう?」
「周りって・・・。そんなん、関係あんの? 大切なんは、オレと、おまえで」
「だから。
私には、我慢できへんの。 あなたが、他のコに、優しくしたりすんのが」
とうとう、堰を切った私の言葉は、後から後から彼に向かって流れ出す。
「私、自分が、こんなに醜い人間なんやって、あなたを好きになって、初めて気づいた。
私はこんなに、あなたのこと、好きやのに、
あなたの方は、ホントは、私なんかどうでもいいと思ってるんじゃないか。
あなたには、私だけ見ててほしいのに、
そんなこと、言われへん、強制、できへん。
愛してる分だけ愛してほしいと思う自分がいて、
でも、
そんなん、愛とちゃうやんか。
ただの、独占欲にすぎひん。
だから、ずっと、気づかへんフリして、許そうって、思ってた。
私は、・・・あなたより、年上・・・やから。
物分りのいい女でいな、アカン。
私と会ってるときのあなたは、優しくて、
他のオンナノコのことやって、別に、明るく話すから、
なんでもないことなんやって、
別に、心配したりすることとちゃうって、
そう、言い聞かせてた。
・・・だけど、
もう・・・・、
シンドイ。
あなたの仕事が忙しくて、なかなか会われへんくて、
私の中に、不安ばっかり、大きくなってく。
鏡の中に、な、
私じゃない、鬼、が、見える気、すんねん。
この不安、どうしたらいい?
どうしたら、幸せなまんまの、私に戻れるんやろ・・・?」
彼を責めるつもりじゃなかった。
でも、結果として、私の口をついて出るのは、
彼への不満ばかりになってしまった。
「こんなふうに、あなたにわがまま言うのも、
ほんとは、イヤで、仕方ない。
わがままな女って、思われたくないから、
ずっと、黙ってたのに、
でも、いいだしたら、止まらへん。
どんどん、イヤな女になってくんが、自分でも、わかる。
あなたにだけは、嫌われたくない・・・」
感情にまかせて、私がしゃべり続けているあいだ、
彼は、黙ったまま、私を見ていた。
私の心を射抜くような、瞳で。
時々、その瞳の強さに、くじけそうになる私が、いた。
けれど、私の言葉が途切れた瞬間、
その瞳は、とても、優しい色を見せた。
「初めて・・やな。そんなふうに、モロに感情むき出しのおまえ見んの」
「あかん、ごめん、違う、言い過ぎた・・・。
イヤや、こんなん、嫌われる・・・」
「そんなこと、ないから」
言いながら、彼は、私の髪に触れ、優しく頭を撫でた。
「もっと、早ように言うてくれたら良かったんや。
我慢なんかせんと、もっと、我儘言うていいんやで?」
「だって、嫌われてしまう・・・」
「なんでや、そんなことで嫌いになったりするもんか。
おまえ、不安にさせたオレが悪いんやから。
そら、時には聞いてやれへん我儘かて、あるかもしれんけど、
そん時のおまえの気持ちは伝わるし、
オレの事情かて、わかるやろ?
別の方法が見つかるかもしれんやろ?」
「今の私、醜い・・・ヤキモチやきなん、どうしたらええか、わからん」
「アホやな」
彼は、私の肩に手を回し、
私の頭を、自分の肩にあずけさせた。
彼の手が、私の頬を、撫でる。
「さっき、言ったやろ。
オレは、おまえに助けられたって。
もっと、自信持っててええんやで。
オレは、おまえがいてるって思うから、何でも、自由に、好きなことやれてんねん。
まあ、ちょっと、勝手が過ぎたんは、ほんまに、オレが悪い。
そこは、弁解のしようもないから、謝るしかないねんけど・・・
それとも、もう、ほんまにアカンと思ってんのか?」
私から嫌いになれたら、どんなにラクなんだろう。
悲しくても傷ついても、
彼を嫌いになれないから、こんなにも、苦しいのに。
「また、オレ、捨てられてしまうんかな」
ぽつりと彼がつぶやいた。
「おまえの手を、試すようなことした罰が、あたったんやな」
試す・・・?
なんのこと・・・?
「ごめんな、悪いクセやな、どうしても、なおらんな」
彼が横顔で苦笑う。
「人見知りも、ここまでくると病気と一緒かもな。
なかなか他人を信じること、出来んくなる一方や。
大切な人にほど、好き勝手のし放題で。
おまえのことかて、そうや。
おまえが好きで、大好きで、だから付き合ってんのに、
違う女の話したり、
よそごと、してみたり。
どこまで、オレって人間を受け入れてくれるんか、
許してくれるんか、
いろんなことして、顔色伺って、付き合う距離決めるような、
そんな、人の心、試すような真似・・・、
し始めたん、・・・いつ頃からやろ・・・」
彼は、私の肩から腕をはずし、
両の掌を合わせて組み、下を向いた。
「ありのまんまの、素の、
オレ自身を、まるごと信じてくれたらなあって・・・。
おまえを苦しませる気は、なかったんやで。
せやから、悪いんは、おまえと違う。
おまえのこと、嫌いなんとも違う。
ほんまに好きやねん、手放したくないねん。
ずっと、そばにおってほしいねん。
あとからいろんなことで喧嘩になって、嫌われて別れんの、しんどい。
それくらいなら・・・
まんまのオレ、見せ付けて、許してくれるギリギリのとこ、探そう、
そう、思って・・・。
勝手やな、そんなん。普通は、通じんよな。
アカン、と思われても、仕方ないよな」
かすかに震えているように見える、彼。
すっかり冷たくなってしまった、ココアの缶を傍らに置いて、
私は、彼を抱きしめた。
柔らかな彼の髪が、私の頬に触れる。
わずかなシャンプーの残り香が、ふわりと、よぎる。
彼の息使いが、私の身体に伝わる。
すっぽりと腕に収まってしまいそうなほど、
まるで、幼子のような彼。
そう。
彼は、ヒト付き合いに関しては、まだ、コドモと同じだったのだ。
関心がないようにみえて、
どうしたら振り向いてもらえるか、
いろんなちょっかいをかけて、試してるような、
まるきりの、コドモ。
そんなことにも気づかずにいたなんて、
私は、彼の、何を、見ていたのだろう。
気づいてさえいたら、
私の醜い嫉妬など、彼に見せたりしなかったのに。
彼も、私も、もう少し器用だったら、
せっかくのクリスマスの夜、
こんな喧嘩もしなかったのに。
ああ、でも、
クリスマスだったからこそ、
彼の気持ちも
私の気持ちも、
お互いに伝えあえたのかな。
「お互い、面倒な性格やね」
彼の耳元に、そっと、ささやく。
「もう、怒ってへん?
オレの気持ち、通じた?」
私の腕の中で、私を見上げた彼は、
あの日、
連れ帰った子猫が見せた瞳と、同じ色をしていた。
暖かな部屋で、満たされて、
安心できる自分の居場所を見つけ、眠りについた子猫。
その、瞳のような
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