すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

STORY.10 Holly Night 後編②

2008-11-24 12:55:02 | 小説
やっと後編の②まで来ました。

彼は、つかんだ私の手を引いて、公園に向かって歩き出した。

の続きからです。

終わりまで、まだ、ちょっと、かかります。
飽きてきました?

ごめんなさい。

お付き合い下さる方は、続きで、どうぞ。


月明かりに浮かぶ公園は、静かで、人の気配はなく・・・

ブランコだけが、かすかに風に揺れている。



入り口にあった自販機で、
彼は温かいココアを買い、私の手に握らせた。

冷え切った身体が、ほんの少し、温もりを取り戻す。



ベンチに座り、
私は、そのココアを開けようとした。

けれど、かじかんだ手が思うように動かず、
なかなかプルトップが開けられない。

「貸してみ?」

彼は、私の手から缶を受け取り、簡単にトップを開けた。

「寒いよな、ごめんな。
 もうちょっとだけ、ここでも、ええかな」

冷たい体に染みていくのは、ココアだけじゃない。

「あのな、言い訳かもしらんけど・・・

 こんな仕事してたら、メンバーや後輩とつるんで遊ぶことって、
 どうしても、多くなんねん。

 オレ、そんなに、人つきあいの上手いほうじゃないから、
 遊ぶメンツも限られてくるけど、
 ほんでも、おまえのこと、知らん後輩やって、おるし。
 ・・・そういうんは、向こうもいろいろ、いらん気も回すこともあるし・・・。

 せやけど、昔みたいな、やんちゃも、減ってきたで?

 仕事に対する考え方やって、変わってきたと思うねん・・・

 それもこれも全部、
 おまえのおかげやって、感謝してんねんけど・・・

 伝わってへんかったんやな・・・」


       そんなこと、今、初めて聞いた・・・


でも、だからといって、
他のオンナノコに目移りする彼を、許せるわけじゃなかった。

彼が、他のオンナノコの話をするたびに、
彼以外から、その話を聞くたびに、

私の心に鬼が棲みついていくことを、どうやったら、彼に伝えられる・・・?

「あ、ここんとこ、忙しくて、ろくに、会えへんかったもんな。
 なんか、考えすぎてんのとちゃうか?

 きっと、なんか、いっぱい、誤解してると思うわ。

 第一、お前が思うほど、俺、モテてへんし」

いつになく、饒舌な彼。

「さっき言ってた、あのおネェちゃんかて、
 最初のお目当てはオレじゃなかったんやから。

 キスやって、向こうから、勝手にしてきたことやし、
 あっというまで、なにがどうなってんのか。

 まあ、おまえ、放っといて、勝手が過ぎてたんは、事実やし、
 オレかて、男、なわけやし・・・
 そこ、言われると、俺も・・・弁解のしようもないけど・・・

 でも、な。

 後輩らと遊ぶこと、責められるのは、アカン。
 それだけは、せんでくれ。

 いろんな遊びするんも、

 そこに、おネェちゃん事がはいってくんのも、
 
 オレという人間の引き出しを増やすことに繋がることやねん。

 浮気・・・とかと、ちゃうねん。

 判ってくれや、

 なあ。

 機嫌、なおそ?」

下を向いてる私を、彼は、わざわざ覗き込んできた。


「私は、あなたの、なに?」

ようやく、私の口から、言葉が転がり出た。

「ェ? だから、恋人・・・って、言ったやん」

「あなたが他のオンナノコのこと、口にするたびに、
 私が、どんな想いでいるか、想像したこと、ある?」

「は? せやけど、みんなただの、知り合い、やで。
 別に、特別な感情なんか、あらへん」

「あなたにはなくても、周りからみたら違うことって、あるでしょう?」

「周りって・・・。そんなん、関係あんの? 大切なんは、オレと、おまえで」

「だから。 
 私には、我慢できへんの。 あなたが、他のコに、優しくしたりすんのが」

とうとう、堰を切った私の言葉は、後から後から彼に向かって流れ出す。

「私、自分が、こんなに醜い人間なんやって、あなたを好きになって、初めて気づいた。

 私はこんなに、あなたのこと、好きやのに、
 あなたの方は、ホントは、私なんかどうでもいいと思ってるんじゃないか。

 あなたには、私だけ見ててほしいのに、
 そんなこと、言われへん、強制、できへん。

 愛してる分だけ愛してほしいと思う自分がいて、
 でも、
 そんなん、愛とちゃうやんか。
 ただの、独占欲にすぎひん。

 だから、ずっと、気づかへんフリして、許そうって、思ってた。

 私は、・・・あなたより、年上・・・やから。
 物分りのいい女でいな、アカン。

 私と会ってるときのあなたは、優しくて、
 他のオンナノコのことやって、別に、明るく話すから、
 なんでもないことなんやって、
 別に、心配したりすることとちゃうって、
 そう、言い聞かせてた。

 ・・・だけど、

 もう・・・・、

 シンドイ。

 あなたの仕事が忙しくて、なかなか会われへんくて、
 私の中に、不安ばっかり、大きくなってく。

 鏡の中に、な、
 私じゃない、鬼、が、見える気、すんねん。

 この不安、どうしたらいい?

 どうしたら、幸せなまんまの、私に戻れるんやろ・・・?」

 彼を責めるつもりじゃなかった。
 でも、結果として、私の口をついて出るのは、
 彼への不満ばかりになってしまった。

「こんなふうに、あなたにわがまま言うのも、
 ほんとは、イヤで、仕方ない。

 わがままな女って、思われたくないから、
 ずっと、黙ってたのに、
 でも、いいだしたら、止まらへん。

 どんどん、イヤな女になってくんが、自分でも、わかる。

 あなたにだけは、嫌われたくない・・・」

感情にまかせて、私がしゃべり続けているあいだ、
彼は、黙ったまま、私を見ていた。

私の心を射抜くような、瞳で。

時々、その瞳の強さに、くじけそうになる私が、いた。

けれど、私の言葉が途切れた瞬間、
その瞳は、とても、優しい色を見せた。

「初めて・・やな。そんなふうに、モロに感情むき出しのおまえ見んの」

「あかん、ごめん、違う、言い過ぎた・・・。
 イヤや、こんなん、嫌われる・・・」

「そんなこと、ないから」

言いながら、彼は、私の髪に触れ、優しく頭を撫でた。

「もっと、早ように言うてくれたら良かったんや。
 我慢なんかせんと、もっと、我儘言うていいんやで?」

「だって、嫌われてしまう・・・」

「なんでや、そんなことで嫌いになったりするもんか。

 おまえ、不安にさせたオレが悪いんやから。

 そら、時には聞いてやれへん我儘かて、あるかもしれんけど、
 そん時のおまえの気持ちは伝わるし、
 オレの事情かて、わかるやろ?
 別の方法が見つかるかもしれんやろ?」

「今の私、醜い・・・ヤキモチやきなん、どうしたらええか、わからん」

「アホやな」

彼は、私の肩に手を回し、
私の頭を、自分の肩にあずけさせた。

彼の手が、私の頬を、撫でる。

「さっき、言ったやろ。
 オレは、おまえに助けられたって。

 もっと、自信持っててええんやで。

 オレは、おまえがいてるって思うから、何でも、自由に、好きなことやれてんねん。

 まあ、ちょっと、勝手が過ぎたんは、ほんまに、オレが悪い。
 そこは、弁解のしようもないから、謝るしかないねんけど・・・

 それとも、もう、ほんまにアカンと思ってんのか?」

私から嫌いになれたら、どんなにラクなんだろう。

悲しくても傷ついても、
彼を嫌いになれないから、こんなにも、苦しいのに。


「また、オレ、捨てられてしまうんかな」

ぽつりと彼がつぶやいた。

「おまえの手を、試すようなことした罰が、あたったんやな」

試す・・・?

なんのこと・・・?

「ごめんな、悪いクセやな、どうしても、なおらんな」

彼が横顔で苦笑う。

「人見知りも、ここまでくると病気と一緒かもな。
 なかなか他人を信じること、出来んくなる一方や。

 大切な人にほど、好き勝手のし放題で。

 おまえのことかて、そうや。

 おまえが好きで、大好きで、だから付き合ってんのに、
 違う女の話したり、
 よそごと、してみたり。

 どこまで、オレって人間を受け入れてくれるんか、
 許してくれるんか、
 いろんなことして、顔色伺って、付き合う距離決めるような、
 そんな、人の心、試すような真似・・・、
 
 し始めたん、・・・いつ頃からやろ・・・」

彼は、私の肩から腕をはずし、
両の掌を合わせて組み、下を向いた。

「ありのまんまの、素の、
 オレ自身を、まるごと信じてくれたらなあって・・・。

 おまえを苦しませる気は、なかったんやで。

 せやから、悪いんは、おまえと違う。
 おまえのこと、嫌いなんとも違う。

 ほんまに好きやねん、手放したくないねん。
 ずっと、そばにおってほしいねん。

 あとからいろんなことで喧嘩になって、嫌われて別れんの、しんどい。

 それくらいなら・・・

 まんまのオレ、見せ付けて、許してくれるギリギリのとこ、探そう、

 そう、思って・・・。

 勝手やな、そんなん。普通は、通じんよな。

 アカン、と思われても、仕方ないよな」

かすかに震えているように見える、彼。

すっかり冷たくなってしまった、ココアの缶を傍らに置いて、
私は、彼を抱きしめた。

柔らかな彼の髪が、私の頬に触れる。

わずかなシャンプーの残り香が、ふわりと、よぎる。

彼の息使いが、私の身体に伝わる。

すっぽりと腕に収まってしまいそうなほど、
まるで、幼子のような彼。

そう。

彼は、ヒト付き合いに関しては、まだ、コドモと同じだったのだ。

関心がないようにみえて、
どうしたら振り向いてもらえるか、
いろんなちょっかいをかけて、試してるような、
まるきりの、コドモ。

そんなことにも気づかずにいたなんて、
私は、彼の、何を、見ていたのだろう。

気づいてさえいたら、
私の醜い嫉妬など、彼に見せたりしなかったのに。

彼も、私も、もう少し器用だったら、
せっかくのクリスマスの夜、
こんな喧嘩もしなかったのに。

ああ、でも、
クリスマスだったからこそ、
彼の気持ちも
私の気持ちも、
お互いに伝えあえたのかな。

「お互い、面倒な性格やね」

彼の耳元に、そっと、ささやく。

「もう、怒ってへん?
 オレの気持ち、通じた?」

私の腕の中で、私を見上げた彼は、
あの日、
連れ帰った子猫が見せた瞳と、同じ色をしていた。

暖かな部屋で、満たされて、
安心できる自分の居場所を見つけ、眠りについた子猫。

その、瞳のような     ・・・・・・








エピローグへ続く


 



 





 

 

 

 



     


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