のどかなケイバ

一口馬主やってます

女神「宇宙人受難之碑」4

2017-07-28 10:23:00 | 小説
 海老名隊員は柄にもなく真顔で女神隊員に言い放ちました。
「調べることはできません。そんなことしたら、私が隊長に怒られちゃいます」
「調べてください。調べる気がないのなら、私は今ここで巨大化します!」
 海老名隊員は唖然としてしまいました。女神隊員がこんなに高圧的になるなんて・・・ 海老名隊員は考えました。もし女神隊員が今ここで巨大化したら、私はがれきの下敷きになって死んでしまうかも。死ななくても、大けがはまぬがれません。
 この部屋の様子は常時録画されてます。今の女神隊員の発言も録画されてるはずです。私は脅かされて仕方なくやった。そんな言い訳が通じる状況です。海老名隊員は決意しました。
「わかりました。調べます」
 海老名隊員は歩いてオペレーションルームに向かいました。と、扉のところで女神隊員に振り返り、
「あ、こっから先は見ないでくださいね」
 と言うと、ボタンを押して扉を閉めてしまいました。海老名隊員はテーブルに座ると、目の前のコンピューターのキーボードを叩きました。つぎに指紋認証システムに左手薬指の腹を置きました。するとピッと音がし、ディスプレイに表がずらーっと現れました。海老名隊員はそのディスプレイに自分の右手の掌をかざしました。
「もう、いくらなんでも巨大化する宇宙人なんか、そんなにいるはずがないよ~ だいたいあなただって数百万人に1人の女神なんでしょ?」
 が、ディスプレイにかざした手に反応がありました。
「あ、いた」

 夕暮れ間近ですが、まだまだ空は明るいようです。ここはテレストリアルガードの基地です。今カマボコ型の格納庫から2機のストーク号が出てきました。JPTG-STORK01と書かれたストーク号の機内には隊長と寒川隊員と女神隊員が、JPTG-STORK02と書かれたストーク号の機内には橋本隊員と倉見隊員が乗ってます。なお、女神隊員はフルフェイスのヘルメットを被ってます。いわゆるヘルメットレディの状態です。
 2機のストーク号が垂直離陸しました。JPTG-STORK01のコックピットの隊長の命令です。
「よし、ジャンプ!」
 同機の寒川隊員です。
「了解!」
 JPTG-STORK02の橋本隊員です。
「了解!」
 2機のストーク号がふっと消滅しました。

 2機のストーク号がふっと現れました。下は山間部ですが、かなり都市化が進んでます。急な山肌に沿って家が建ち並んでます。隊長は下を見て、
「おいおい、こんなところにいるのか?」
 それに寒川隊員が応えました。
「ええ、じょんのび家族という施設にいるようです」
「どんな施設だ? 老人ホームか?」
「それが・・・ どんな施設なんだか、今資料がありません」
「おいおい・・・」
 隊長はなんか嫌な予感がしました。
「とりあえず降りてみるか」
 ストーク01号機の腹から2条の光が照射され、その中を隊長と寒川隊員が降りてきました。2人は公園の中に着地。そこには女神隊員が待ってました。
「隊長、遅いですよ!」
「あんたが早すぎるんだよ」
 実は女神隊員は、テレポーテーションで先に降りてたのです。
 別の路上では光のエレベーターを使って橋本隊員と倉見隊員が着地しました。橋本隊員が倉見隊員に声をかけました。
「この先か?」
「はい、この坂の上です」
 2人は坂を駆け登り始めました。
「よし行くぞ!」
「はい!」

 隊長と寒川隊員と女神隊員が坂を駆け登り、橋本隊員と倉見隊員が坂を駆け登り、この2組が合流したところが、いかにも施設て感じの門の前でした。その施設の中を見て、隊長は唖然としてしまいました。門の向こうにはたくさんの幼い子どもが見えます。中には車いすの子や松葉杖をついた子もいます。みんな楽しそうに遊んでいます。
「おいおい、これはいくらなんでもまずいだろ」
 隊長は海老名隊員の顔を思い浮かべ、
「あのバカ、常識てーのを知らないのか?」
 と、隊長はある異変に気づきました。女神隊員がこの施設の敷地に入って、歩いているのです。
「お、おい、待てよ!」
 隊長も慌てて敷地の中に入りました。
 女神隊員は正々堂々子どもたちの中を歩いてます。が、1人の子どもがその存在に気づいてしまいました。
「あ、ヘルメットレディだ!」
 それを合図に、子どもたちみんなが女神隊員を見ました。
「ほんとうだ! ヘルメットレディだ!」
 子どもたちみんなが女神隊員のところに来てしまいました。
「わーい!」
 女神隊員は完全に小さな子どもたちに囲まれてしまいました。これにはさすがの女神隊員も参ってしまいました。その女神隊員を隊長・橋本隊員・倉見隊員・寒川隊員が追い越して行きます。
「あとはオレたちに任せとけ」
 女神隊員は小さな子どもたちに悪戦苦闘です。
「ああ、もう・・・」
 隊長は横目で女神隊員を見て、
「あいつ、なんかあせってんだよなぁ。ふっ、ちょうどいいや・・・」
 とつぶやきました。
 隊長たちが施設の建物に到達しました。すると偶然か、今1人の成人女性が建物から出てきました。どうやら施設の職員のようです。隊長はその女性に話しかけました。
「あ、どうも、私たちはテレストリアルガードの者です」
「あ、は、はい・・・」
 突然見知らぬ男が現れ話しかけてきたもので、女性はぽかーんとしています。寒川隊員はその女性にタブレットを見せました。そのタブレットには1人の男の顔が映ってました。
「この男、知ってますよね」
 女性ははっとしました。
「そ、その人は・・・」
 と、ふと女性はこの敷地を区切る木製の背の低い柵を見ました。柵の向こうは山道と原野です。今1人の男がその柵についてる小さな木戸を開けたところです。その男はタブレットに映ってた男です。女性は思いっきり叫びました。
「逃げてーっ!」
 男ははっとしました。女神隊員もはっとしました。男は逆方向に走り始めました。それを見て女神隊員も走り始めました。が、そのはずみで幼い子どもたち数人が弾き飛ばされてしまいました。隊長は大きな声で泣き始めた子どもたちを見て、頭を抱えてしまいました。
「あ~ もーっ!」
 橋本隊員・倉見隊員・寒川隊員も男を追おうと木戸に向かいました。が、その木戸の前に2人の少年が立ちはだかりました。2人とも車いすです。
「おい、どけっ!」
 橋本隊員は思わず大きな声を出してしまいした。車いすの少年が言い返しました。
「嫌だ!」
「あの人は何も悪いことしてないよ! なんで捕まえようとするんだよ!」
 橋本隊員は困ってしまいました。

 男が山道を走って逃げてます。その真後ろを女神隊員が追いかけてます。
「待てーっ!」
 しかし、男は逃げます。逃げ続けます。女神隊員は右手を水平に挙げ、手で拳銃の形を作りました。そして指先から光弾を発射。その光弾が男の左脚に命中。
「うぐぁっ!」
 男は道を外れ、左側の斜面を転げ落ちていきます。
「うわーっ!」
 男は思わず巨大化しました。服はビリビリに砕け、素っ裸になって立ち上がりました。施設の小さな子どもたちはそれを見てびっくりしました。
「お、お兄ちゃん?」
 女神隊員も巨大化。巨大化したと同時に男のあごにアッパーパンチ。男はもんどり打って転倒。女神隊員はその男に馬乗りになりました。そして顔面にパンチ。1発2発。
「ヘルメットレディ、やめてよーっ!」
「お兄ちゃんは何も悪くないんだよーっ!」
 子どもたちの悲痛な叫びが響いてきます。でも、女神隊員の耳に届かないのか、なおも殴り続けます。3発4発5発・・・
「ヘルメットレディなんか死んじまえーっ!」
「お兄ちゃん、そいつを殺しちゃえーっ!」
 子どもたちの声が変わりました。思いっきり泣き声です。女神隊員はそれを不快に思ったのか、立ち上がりました。そして男の身体を思いっきり蹴飛ばしました。男の身体は転がり、そのまま急斜面を滑り落ちて行きました。