のどかなケイバ

一口馬主やってます

女神「橋本隊員奪回作戦!」5

2017-07-20 08:10:16 | 小説
 上空を飛ぶプライベートジェット機がたった今木端微塵に爆発しました。自爆装置が爆発したのか? いや、女神隊員が巨大化したのです。女神隊員は右手で橋本さんを縛りつけているイスを握りました。そして固定されたそのイスを機体から引きちぎってしまいました。イスから救出することは不可能でしたが、イスごとジェット機から救出したのです。あまりのできごとに橋本さんはびっくりです。
「す、すごい・・・」
 女神隊員の身体は落下し始めました。このとき女神隊員の身体は頭を下にしてましたが、くるっと回転。足を下にしました。
「くっ!」
 女神隊員が気合を入れると、足下に青白い光が発生、落下のスピードが緩みました。それでも自由落下です。ものすごいスピードで落下していきます。
 橋本さんは足下の青白い光を見ました。で、あることに気づきました。女神隊員が地球にやってきたとき、航行不能になった宇宙船の前に発生していた青白い光、あれとまったく同じ光なのです。
「あの光は、こいつが出してたんだ」
 当の女神隊員ですが、今イチかバチか賭けているところです。女神隊員は飛行することはできませんが、重力を多少コントロールすることはできます。女神隊員は母星で女神として訓練を受けていたとき、高い処からジャンプする練習を何回かしてました。最高1000mまで落下することはできましたが、それ以上はしたことがありません。今は10000m近くから落下してます。重力加速度は10倍になってます。はたして無事に着地できるのでしょうか?
 女神隊員の足下に海が見えてきました。これだけ高い処から落下すると、海面はコンクリートと同じになります。
「うぐぉーっ!」
 女神隊員はさらに気合を入れると、足下の青白い光がさらに分厚くなり、ハニカム構造になりました。いよいよ海面が近づいてきました。100m、10m、5m、着水!
 ものすごい水柱が立ちました。そして水煙。その水煙が収まってくると、1つの影が見えてきました。海面から突き出た頭、いやヘルメット、女神隊員です。女神隊員は無事着水することができたのです。女神隊員は右手を挙げてました。その手には橋本さんの姿が。橋本さんは思わずつぶやきました。
「ふふっ、やるな」
 女神隊員はその橋本さんを見てますが、フルフェイスのヘルメットのせいでどんな表情をしてるのか、まったくわかりません。
 いつのまにか女神隊員の頭上にはストーク号が飛んでました。そのコックピットの中、寒川隊員が大変喜んでます。
「やったーっ!」
 隊長も笑顔です。

 ここは大きな総合病院の1階です。今私服の倉見隊員が病院の中を疾走してます。倉見隊員はエレベーターの前に来ると、そのボタンを押しました。が、ケージは今上の階にあるようです。
「ちっ!」
 倉見隊員は意を決して階段を登り始めました。倉見隊員の荒い息が階段室に響いています。倉見隊員は廊下に出ました。そのまま看護師や機材を避けながら廊下を疾走。そして1つのドアを開けました。
 病室内です。今倉見隊員が飛び込んできました。
「橋本さん!」
 病室のベッドには橋本さんが寝かされています。意識は十分にあるようです。その傍らには香川隊長と寒川隊員がいます。この2人はテレストリアルガードの隊員服を着てます。まず香川隊長の発言。
「おいおい、なんだ、その慌てっぷりは? ここは民間の病院だぞ」
 しかし、そんな注意はなんのその。倉見隊員はベッドの傍らに来て、橋本さんの顔を覗き込みました。
「橋本さん、大丈夫ですか?」
「おいおい、慌てなさんなって。隊長さんの雷が落ちるぞ。気を付けろ」
「ああ、よかった・・・」
 倉見隊員は安心したのか、へたれ込んでしまいました。
 橋本さんは隊長に話かけました。
「隊長、あの~ あの宇宙人は?」
「ああ、女神隊員のことか?」
「女神? そりゃまたすごい名前ですねぇ」
「う~ん、病院までは一緒に来たんだがなぁ。あいつ、どこに行ったんだ?」
 と、隊長はここで何かを思い出しました。で、一瞬考え込みました。その無言を破ったのは橋本さんでした。
「隊長、あの~ 許してくれますか?」
「ん、何を?」
「テレストリアルガードに復帰させてください」
「あは、それか。いや~ それがなあ、お前の書いた辞表、まだ総理大臣に提出してなかったんだ」
「あは、じゃ、書類上はまだ辞めてないってことになってるんですね」
「ま、そうだな。ただし、今月の給料はなしだぞ」
「あは、それで済むのなら、半年給料なしでも働きますよ」
 それを聞いて隊長はちょっと笑いました。今度は倉見隊員が質問です。
「隊長、ほんとうに橋本さんを許してくれるんですか?」
「ああ」
「よかった・・・」
「倉見、お前ももっと真面目に働いてくれよ」
 隊長はふと立ち上がりました。
「じゃ、本部に連絡してくるか」

 病院の廊下です。長椅子に白い帽子、白いワンピースの女性が腰かけています。そう、彼女は女神隊員です。特徴的な単眼はやはりウイッグで隠されてます。女神隊員は何か沈んでるように見えます。
「どうした?」
 突然のその声に女神隊員はびっくり。で、その方向を見ました。その声の持ち主は隊長でした。
「隊長・・・」
 隊長は女神隊員の左手側に座りました。
「今日はよくやったな」
「も、もうあんな無茶な命令はしないでください・・・」
「ああ」
 隊長は何かを考えてます。と、女神隊員の帽子をおもむろに取りました。そして女神隊員の右側頭部に右掌を当て、彼女の頭部を自分の胸に優しく抱き寄せました。しばらくすると女神隊員のウィッグの隙間から涙がこぼれ出てきました。そしてそのまま声を出して泣き始めてしまいました。廊下を歩く人々はこの2人を見てびっくりです。でも、隊長はしばらくそのまま泣かせました。
 女神隊員は今までいろんな試練に相対してきましたが、今日ほど無茶な仕事はなかったのです。ほんとうに怖かったのです。ここまで我慢してきたものが、一気にあふれ出てしまいました。
 隊長は女神隊員の頭を撫でながらこう言いました。
「今日はすまなかった。ほんとうにすまなかった。もう二度としない。誓うよ」
 隊長は頭を抱く腕をほどきました。女神隊員は頭を元の位置に戻しました。そして隊長の顔を見ました。ウィッグの透き間から単眼が丸見えです。
「ほら、眼が見えてるぞ」
 隊長は女神隊員の頭に白い帽子を被せました。
「さあ、行こうか」
「はい」
 2人は立って歩き始めました。

 ここはテレストリアルガード本部のサブオペレーションルーム。今海老名隊員がテレビでアニメの録画を見ています。ドアが開き、隊長が入ってきました。
「ただいま」
 が、海老名隊員の興味はあくまでもアニメで、隊長には振り返りもせずに、ぶっきら棒に、
「おかえりなさい」
 と応えました。隊長はテレビ画面のアニメに気づき、
「おい、一緒に見るって約束だったろ」
「だって、隊長、なかなか帰ってこないんだもん」
「もう・・・」
 隊長はしぶしぶイスに座りました。隊長はアニメを見ながら、
「あいつ、身体的にはオレたちの想像をはるかに超えていたのに、精神的にはまるっきりダメだったなあ」
「女神さんですか?」
「今日ミッションを与えたんだが、軽くクリアしてくれると思ったんだが・・・ 怖かったって泣きつかれたよ」
「でも、ミッションはクリアしたんでしょ」
「ああ」
「それなら大丈夫ですよ。足りない分は香川隊長が鍛えればいいじゃないですか。まだ7年もあるし」
「ふっ、まだ7年か。オレからしてみりゃ、あと7年だけどな」