のどかなケイバ

一口馬主やってます

女神「女神の一番長い日」7

2017-07-09 15:57:56 | 小説
 今度は後ろを走る4WDです。運転手は寒川隊員、助手席には倉見隊員が座ってました。まずは倉見隊員の発言です。
「お前、あの女、どう思う?」
「女神さんのことですか? まあ、巨大化するし、光線技も使えるし、すごいじゃないですか」
「オレは嫌だな。あいつなら、橋本さんの方が1万番マシだ。
 考えてもみろよ、あいつはエイリアンだぜ。エイリアンは侵略者だ。そんなやつ、テレストリアルガードに入れていいのかよ?」
「彼女は母星を侵略されてこの星に逃げてきたんですよ」
「それがどうした! エイリアンはエイリアンだろ!」
 その急な大声に寒川隊員は何も返答ができません。倉見隊員は自分より年齢が上です。ここは逆らわない方が得策だと判断し、ただ黙ってハンドルを握ることにしました。

 上空を見ると、陽はかなり傾いてきました。ここはちょっと古い住宅街です。はるか向こうに高架橋の線路が見えてて、そこまで家が建ち並んでいます。背の高いマンションのビルディングも点々と見えます。
 ここはそんな街の中にあるマンションの工事現場。仮囲いに沿ってテレストリアルガードのセダンと4WD、それに数台のパトカーが駐まってます。ゲートが開いていて、工事現場の監督さんがテレストリアルガードの隊員と警官たちに囲まれ、質問を受けてます。
「いや~、問題の男は10分前までこの現場にいたんですがね・・・」
 香川隊長はここで悔しそうな顔をするかと思いきや、別に表情は変わってないようです。
「ふっ、そうか」
 警官の中の1人が隊長に話しかけました。
「すみません。最初に駆けつけた警官がここでガードマンに質問したのですが、どうやら本人に聞かれてたようで・・・」
 寒川隊員がタブレット端末を現場監督さんに見せました。
「この2人ですか?」
 その画面には2人の男が写ってます。
「ええ、この2人です。今まで一度もしゃべったことがなかったから、何か病気があるのかなあと思ってたのですが、まさかエイリアンだったとは・・・」
「仕方がないなあ。全員で捜索するか。相手は重火器を持ってる可能性もあるから、みんな、十分気を付けてくれ!」
「はい!」
 テレストリアルガードの隊員たちと警官隊が散って行きました。隊長も海老名隊員を連れて捜索に出ようとしましたが、先ほどの警官に呼び止まられました。
「あの~」
「ん、なんだ?」
 警官は警官隊とともに駆けて行く女神を見て、
「あの人はなんでヘルメットをしてるんですか?」
「ああ、彼女は5年前の戦争で顔を潰されてね」
「ああ、なるほど」
 海老名隊員はそれを聞いて、うまいこと言うなあと、関心したようです。

 狭い路地が続く街並み。パトカーがサイレンを鳴らしながら行き交ってます。さらに狭い道では、警官隊があたりを見回しながら小走りで移動してます。その最後尾に女神がいます。
「おい!」
 その声に女神は歩みを止めました。女神が振り返ると、そこには倉見隊員が立ってました。その手にはレーザーガンが握られています。
「お前、何様のつもりだ!」
 これを見て、女神はこう思いました。「もう来たか」
「お前、テレストリアルガード辞めろ! お前なんかより橋本さんの方がずーっと使えるんだよ! テレストリアルガードは橋本さんが必要なんだよ!」
「私は・・・ 私はここを辞めません」
「なんだと?」
「私の居場所は今ここにしかないからです」
 と、これを聞いて倉見隊員は苦笑してしまいました。
「がははぁ、お笑いだぜ、エイリアンのくせして!
 なあ、知ってるか? 日本の法律てーのは、地球人を保護するためにあるんだぜ。お前みたいなエイリアンには適用されないんだ。今ここでお前を殺したって、オレは完全無罪なんだよ!
 死ねーっ!」
 倉見隊員はレーザーガンの銃爪を引きました。光弾が女神に向かって行きます。が、女神の身体に光弾が当たる寸前、女神の前に青白いハニカム構造の光のガードが現れ、その光弾を弾きました。女神はバリアを張ったのです。倉見隊員は悔しそうです。
「く、くそーっ!」
 次の瞬間、女神の姿はふっと消えました。倉見隊員はそれを見て唖然としてしまいました。
「テ、テレポーテーション?」

「くそーっ、どこに行ったんだ?」
 そう言いながら複数の警官が路地を小走りに通り過ぎて行きます。警官隊が通り過ぎると、建物の影から1人の男が現れました。その顔は先ほどのタブレットに写ってた顔の1つです。
 男は警官隊が行った方向を見ています。その背後で空間に歪みが発生してます。それに合わせて、空間を引き裂くような不気味な音が。男はその音に気付き、ゆっくりと顔だけ振り返りました。そこにはヘルメット姿の女神が立っていました。
「うわぁ」
 男は女神に拳を振り上げました。
「うぐぁーっ!」
 が、女神は顔面に飛んできたその拳を避け、逆に男の足首を蹴飛ばしました。
「うわぁっ!」
 男の身体はうつぶせで思いっきりアスファルトに叩きつけられました。女神は左ひざでその男の背中を押さえつけ、両手で男の右手を思いっきり捻り上げました。激しい痛みで男はけたたましい悲鳴を上げました。そこに隊長と海老名隊員が駆け付けました。
「おお、ナイス!」
「すごーい!」
 さらに警官隊が駆け付け、男に手錠をかけました。先ほどテレストリアルガードの基地内で女神にかけられた手錠と同じ、手首のサポーターに鎖が付いた手錠です。警官に囲まれ、男が立ち上がりました。隊長はその警官を見て、
「じゃ、あとはお願いします」
「はい。
 ほら、歩け!」
 警官は男の腰に結わえたひもを思いっきり引っ張りました。そのせいで男の身体はよろけました。このとき男の眼が鈍く光りました。反抗的な眼です。男は全力で警官にタックルしました。警官の身体は無残に吹き飛ばされました。
「うぐぁーっ!」
 警官は腰ひもを離してしまいました。男は他の警官の手をかいくぐりながらダッシュ。突き飛ばされた警官はそれを見て、
「ふっ、バカなやつ!」
 警官は手にしたスイッチを押しました。すると手錠に思いっきり電気が流れました。
「ぐあーっ!」
 男は崩れ落ちました。無残にも白目をむいてます。その一部始終を見てた女神は、恐ろしいものを感じてしまいました。もしあのとき手錠をかけられたままだったら、自分もこうなってたかもしれない。あのとき手錠を解いてくれた人は、今私の側にいる香川隊長。香川隊長がいなかったら、私はどうなってたんだろう?
 隊長が考え込んでいる女神に声をかけました。
「ん、どうした?」
 女神は倒れている男を見て、
「あの人、どうなってしまうんですか?」
「さーな、オレにもわからんな。ただ、逮捕後のエイリアンがどこに行くのか、見た者は1人もいないんだ」
 ここで女神は先ほどの倉見隊員のセリフを思い浮かべました。
「なあ、知ってるか? 日本の法律てーのは、地球人を保護するためにあるんだぜ。お前みたいなエイリアンには適用されないんだ。今お前を殺したって、オレは完全無罪なんだよ!」
 そうです。今女神に人権はありません。日本の法律の保護下にないのです。テレストリアルガードの隊員という身分だけが、女神を法的に守ってるだけです。誰がなんと言おうと、女神はテレストリアルガードを辞めるわけにはいかないのです。
 ここで海老名隊員があることに気づきました。
「そう言えば、もう1人のエイリアンは?」