ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

バブルを出さずに水を沸騰させる方法(ビデオ付き)

2012-09-14 | 報道/ニュース

1756年にドイツの研究者Leidenfrostが面白い発見をした。非常に高温に加熱したフライパンを水で覆うと水滴がフライパン上を跳びはねる。これはフライパンが水蒸気の膜で覆われているからである。ところが温度がLeidenfrost温度と呼ばれる温度より低くなるとこの水蒸気膜が不安定になってバブルが発生するようになる。水蒸気膜は熱伝導度が小さいためフライパンの温度が水に伝達されにくく、水がゆっくりと加熱される。水蒸気膜が存在し得ない温度になるとnucleate boilingという現象が生じる。この現象はフライパン表面の不均一性のため特に温度が高い個所が核となって爆発的な沸騰が起こる現象で、原子炉の冷却などでも好ましくない。さらに、水を循環させる冷却装置などでは、水とパイプとの間にliquid-solid dragと呼ばれる摩擦力に似た力が働くが、水蒸気膜の存在はこの力を弱めることが出来る。

上で述べたことから明らかなように、沸騰点まで水蒸気膜を安定に存在させ得ることが好ましい。ノースウェスタン大学の研究グループは、金属を強い疎水性(12/17参照)の膜でコートすることによってこの目的が達成出来ることを示した。その研究成果はビデオ(http://vimeo.com/49391913)で一目瞭然である。ビデオは380℃に熱した直径2cmのステンレス球を水中に落下させたときの様子を示したものである。左は親水性の膜でコートしたもの、右は疎水性の膜でコートしたものである。いずれの場合も、温度が高い間は球の表面で発生した水蒸気が球の上部に集まって放出される。球表面の温度がLeidenfrost温度より低くなると、左側では表面にはバブルが発生する。しかしながら右側では沸騰点に達するまで水蒸気の放出が続くことが分かる。
http://www.nature.com/news/how-to-boil-water-without-bubbles-1.11400#/b1

熱したステンレス球を常温に保たれた水中に落下させても水蒸気膜が安定であるという。船舶に塗装するとliquid-solid dragを減少させることができ、また凍結防止に役立つかもしれないと指摘されている。


グラフェンで海水の淡水化

2012-09-12 | 報道/ニュース

水資源の安定な供給が世界的な問題になっている。海水を効率よく淡水化することがこの問題の解決策の一つであろう。現在逆浸透膜に圧力を加え、海水中のナトリウムイオンや塩素イオンを取り除く方法が用いられているが(10/1参照)、必ずしも効率が良くない。浸透膜には数ナノメーターの穴が開けられた高分子であるが、イオンが透過できない理由はいくつかの水分子が付着しているからである。

マサチューセッツ工科大学の研究グループは、1ナノメーター程度の穴をあけたグラフェンが、海水の淡水化に現在使用されている逆浸透膜の100倍から1000倍程度の性能を示すものと指摘している(グラフェンに関するまとめとブログ記事の取材についてはホームページ(URLはプロファイルに)2.2A1参照)。グラフェンは薄くて強靭である。しかも穴をあけても強さはほとんど変わらない。現在のところ計算機シミュレーションのみが実施されているにすぎない。高い効率を示す理由はグラフェンが1原子層で浸透膜に比べてはるかに薄いからであるという。さらに穴に水素原子を付着させるとイオンをますます透過させなくなるという。
http://www.nature.com.libproxy.ucl.ac.uk/nnano/journal/v7/n9/full/nnano.2012.153.html

グラフェンによる海水の淡水化を実現するにはなお歳月を要するであろう。グラフェンシートを重ね合わせて30インチの大きさの透明電極用グラフェン膜の作成にも成功している。また穴を開けるにはグラフェン膜をイオンビームで照射することは考えられている。このほか、蓄積されたイオンにを速やかに取り除く方策も必要であろう。速やかの実現が期待される。


ナノテク関連会社情報

2012-09-09 | 報道/ニュース

Solar3D社は、従来のシリコン太陽光発電パネルの2.5倍もの効率を持つ3次元太陽光発電パネルの製作に成功したと報じている。同社が製作したパネル自身の詳細は明らかではないが、以前紹介した(8/13参照)光アンテナ付き太陽光発電パネルと同様にシリコンパネルをこの字型に折曲げたものを透明な絶縁体の中に埋め込んだもののようである(http://www.nanowerk.com/news/newsid=21490.php)。3次元と呼ばれる理由は、太陽光パネルの凹凸構造による。透明な絶縁体は、光を屈折させ出来るだけ効率よくシリコンに吸収させるためのものである。パネルの背面には反射板が置かれていて反射した光が吸収されるようになっている。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26616.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.UEgK8v5CVSA.google

コーティング製品も数多く発表されている。Integran Technology社は、金属やポリマーなどを素材の特性を残しながら多重にコート出来る柔軟性のあるコーティング手法を商品化したと発表している。また、Dynaflo社は、LIQUID-ARMORと呼ばれるナノコーティング剤を発売している。スマートフォンやカメラのレンズにもコーティング可能で、従来の製品の2倍の強度を持つという。タッチパネルの感度にも影響を与えないという。また、NANOCLEAN社は自動車産業用の自動洗浄プラスチックス製品の開発を手掛けているが、ミラーの試作に成功したと報じている。その手法はハスの葉を参考にしたもので、レーザーでプラスチックスに凹凸を付けさらにコーティングを施したものである。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26372.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29
http://hothardware.com/News/Dynaflo-Announces-ScratchResistant-LIQUIDARMOR-Screen-Protector-Spray/
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26292.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.UCXD__h0P7c.google


個別化医療とナノテクノロジー

2012-09-07 | 報道/ニュース

診断された病名に対して医療方針が決まる現在の医療法に加えて個別化医療が取り入れられつつある。個別化医療とは、各患者の病状の進行状況を示すバイオマーカーや遺伝子配列を検出し、それに対応した医療を行うことである。特にがん治療において遺伝子配列の検出は重要で、特定の治療法がその患者に有効であるかどうかが異なるという。A to Z Nanotechnologyに個別化医療に対するナノテクノロジーの寄与に関する記事が掲載されていたので紹介しよう。

http://www.azonano.com/article.aspx?ArticleID=3078

第一にバイオセンサー(3/14参照)の感度の向上によって病気の進行状況を示すマーカーの検出が簡便、迅速、かつ検出による患者への影響を少なく出来る。ナノ粒子はその大きさが小さいため少数の分子が付着しても電気的または機械的性質の変化が検出出来る。カーボンナノチューブやグラフェンの特異な性質を利用すると数個の分子でも検出出来る(12/2参照)という。第二にナノテクノロジーを用いた遺伝子解析の新しい手法が開発されていて(5/25参照)、がん患者に最も適した薬品の選択が容易となる。薬品をナノ粒子に乗せて直接がん細胞へ運ぶドラッグデリバリーの手法も開発されていて(下表参照)、あわせてがん治療に画期的な変化が期待されている。

これらの技術は半導体集積回路に組み込まれ、ラボオンチップ(1/31)と呼ばれる装置が開発されつつある。この装置は持ち運びが便利で各患者の状況を容易に検出出来る。これによって広い範囲の病気に対する個別化医療が可能になりつつあるという(これまでの医療に関する記事については2/16参照)。

ドラッグデリバリー

カーボンナノチューブ

9/28/11,1/26/12,

ダイヤモンド

1/8/12,

ナノピル

3/27/12,

10/30/11,

 


ナノ触媒でメタンガスの燃焼効率を高める(ビデオ付き)

2012-09-04 | 報道/ニュース

天然ガス発電は今後ますます重要視されるであろう。天然ガスの主要成分であるメタンガスはきわめて安定な分子で、完全燃焼させるこことが困難であった。しかもメタンガスが燃焼しないで大気中に放出されると、二酸化炭素の20倍の温室効果をもたらす。

メタンガスの燃焼には触媒が用いられるが、その効果は必ずしも十分ではない。1000℃以上の高温で燃焼させると、メタンガスの燃焼効率は増大するが酸化窒素や一酸化炭素などの有毒ガスを放出する。低い温度で効率よくメタンガスを燃焼させる触媒の探索が進められていた。

ペンシルベニア大学とスペインおよびイタリーの共同研究グループは、これまで使われていた触媒より30倍も効率が高い触媒の作成に成功した。この触媒はパラジウム(Pd)と酸化セリウムのナノシェル構造(4/12,16参照)で、球状のパラジウムナノ粒子を薄い酸化セリウムナノ粒子で覆ったものである。この触媒を用いることによって、400℃でメタンガスをほとんど完全に燃焼出来るという。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26278.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29

コアシェル構造はナノテクノロジーで種々の目的に用いられていたが、触媒に応用されたのはこの研究が初めての様である。パラジウムと酸化セリウムの相乗効果が触媒の効率を増進しているという。ビデオ(http://youtu.be/lVGgPvUhGYw)で触媒の構造とメタンガス(正4面体)と酸素と反応の様子を見ることが出来る。


ナノサイズ高温超伝導体膜をメモリに

2012-09-02 | 報道/ニュース

約20年以上も前に高温超伝導体(4/11参照)と呼ばれるものが見つけられた。それまで知られていた超伝導体は金属で、-250℃以下の低温ででした超伝導を示さない。超伝導を示さなくなる温度を臨界温度と呼ぶが、高温超伝導体では臨界温度が-100℃より高いものも見つけられている。高温超伝導体とは特殊な金属酸化物で、酸化度を変えることなどによって臨界温度が変化することが知られていた。

イスラエルの研究グループは、光を照射することによって高温超伝導体の臨界温度が制御出来ることを見つけだした。彼らは50nm程度の厚さの高温超伝導体上に単分子層高分子膜を成長させた。高温超伝導体と高分子のいくつかの組み合わせについて実験を行った。その結果、紫外線を照射することによって臨界温度が数度上昇し可視光を照射すると臨界温度が下降する組み合わせ、光を照射している間だけ臨界温度が上昇する組み合わせを見つけだした。高温超伝導体が薄膜であることと、その表面に一様に付着した高分子との間に何らかの反応を起こさせることが臨界温度を変化した原因であろう。
http://www.sciencedaily.com/releases/2012/08/120827122503.htm

このような系はエネルギー消費量の少ないメモリとして有用であろう。


合金を強くする

2012-08-31 | 報道/ニュース

我々の周辺にある合金は多くの場合結晶粒の集まりである。結晶粒の中には転位と呼ばれる欠陥が含まれていて(6/15参照)、外部から力を加えると転位が動くことによって結晶粒が変形する。結晶粒をナノサイズにして転位の動きを小さくすることによって金属を強靭に出来ることが以前から知られていた。しかしながら、ナノサイズの結晶粒は不安定で他の結晶粒と結合して形を変えてしまうので、ナノサイズ結晶粒合金は実用化されていなかった。

マサチューセッツ工科大学の研究グループがこの問題に対する新しい解決策を見いだした。彼らはナノサイズ結晶粒間の界面の安定性に重点を置き、種々の合金について界面の安定性を理論的に計算した。その結果見つけ出された一例として、高強度合金として知られいるタングステン-チタン合金について、このナノサイズ結晶粒合金が1000度の高温でも長時間安定であることを明かにした。この研究成果は高強度合金の利用されるであろう。
http://spectrum.ieee.org/nanoclast/semiconductors/nanotechnology/super-metal-alloys-achieved-with-design-tool-for-stable-nanocrystals

この研究成果はさらに広い意義を持っている。合金の耐腐食性も結晶粒を小さくすると増大することが知られている。安定性の高い耐腐食性ナノサイズ結晶粒合金の開発にも応用されるであろう。


2次元エレクトロニクスの新しい材料

2012-08-26 | 報道/ニュース

グラフェンのような単分子層で構成される材料で電子回路が作れれば、これまで予想もしなかったことが実現出来るであろう。なにしろ厚さが薄いため全く人間の目には見えない。ディスプレイを内蔵したガラス窓や一様に光を出す壁を実現することも容易であるという。もちろん半導体チップに代わるものが作れれば、演算速度を速めさらには材料費ならびに消費電力を削減出来るであろう。

グラフェンをトランジスタやメモリなどエレクトロニクスに利用しようとする試みは多くなされてきた。しかしながら、グラフェンは禁止帯の幅が0であるのが欠点である(HP2.2A1参照、グラフェンに関するブログ記事の所在も含む)。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループは、2層の硫化モリブデン(MoS2)を用いてトランジスタを作り出し、さらにそれを組み合わせてスイッチやメモリなどの集積回路を作成することに成功している。この物質の禁止帯の幅は1.8電子ボルトで、シリコンの禁止帯の幅より大きくトランジスタとしての性能も優れているという。また機械的にも強い。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26451.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29

2次元エレクトロニクスへの本格的な第一歩として興味深い。


次世代メモリ:強誘電性超分子ネットワーク

2012-08-24 | 報道/ニュース

固体に電界を加えると固体を構成する分子が双極子となる。強誘電体(1/30参照)と呼ばれる材料では、分子間の相互作用が強く、双極子となった分子が隣接の分子の双極子を同じ方向に向けようとする。このような材料に電界を加えると、材料全体が分極しその分極は電界を取り除いてもそのまま残る。逆方向に電圧を加えると逆方向に分極する。一方を1、他方を0とするとコンピューターメモリに利用出来る(7/12参照)。

以前から無機の強誘電体は多く知られていたか、最近になって軽くまた製作費が安い有機強誘電体が開発されてきた。2個の分子を結合させ一方から他方に電子が移るようにすると双極子が生じる。このような分子対を結晶化して強誘電性を持たせ得ることが知られていたが、常温で強誘電性を維持することができなかった。最近ノースウェスタン大学の研究グループは、常温でも双極子が保持される分子対を見つけ、これを強誘電性を持つ3次元的超分子ネットワークに積み上げることに成功した。超分子とは分子対が水素結合によって結ばれたものである。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26447.php

現在コンピューターのハードディスクなどのメモリには強磁性体(1/14参照)が用いられているが、強誘電性を用いる方が小消費電力、長耐久性、高速メモリなどの利点がある。磁気メモリーを強誘電性メモリに置き換えると全米で消費電力費を60億ドル削減出来るという試算もある。

新しくつくられた材料が常温で強誘電性を持つことだけではなく、分子対の自己アセンブリ過程にも興味が持たれている。


完全性の高い半導体ナノ結晶の新しい生成法

2012-08-22 | 報道/ニュース

半導体ナノ結晶(量子ドット,4/10,5/13,6/6参照)は、電子回路やフォートニック回路、バイオセンサー、ディスプレイ、太陽光発電など広い範囲の応用が期待されている。しかしながらこれまでの生成法では、ナノ結晶にクラックが存在したり、また小さな結晶の集まりになっていて結晶粒間で電子が流れにくいなどの欠陥があった。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループは、定まったナノサイズ領域にクラックが存在しない結晶膜を作成することに成功した。この研究グループは5mm角の酸化シリコンの基盤を100nmの厚さの高分子でコートする。高分子にリソグラフィによって区切りをつける。区切りの1辺の長さは30nm程度にすることが出来るという。このうえに通常の方法で約50nmの厚さの化合物半導体結晶膜を析出させる。その後、高分子を融解させてその上に乗っている結晶膜を取り除く。高分子の存在が結晶膜内のひずみを緩和し、クラックの存在を少なくするなどの効用があるという。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26412.php

PbS,PbSeなどいろいろな化合物半導体ナノ結晶膜が作成されているが、その電気伝導度が従来のものに比べて180倍に達するものもあるという。この研究の成果は、応用上重要な意味を持つだけではなく半導体ナノ結晶の基本的な性質を明らかにする上でも重要であると考えられている。

ちなみにこの研究のスポンサーはアメリカ陸軍、エネルギー省(DOE)、サムソン電子である。



大学ランキング

2012-08-20 | 報道/ニュース

昨年、イギリスTimes Higher Education(10/7参照)とQS(10/14参照)が発表した大学ランキングを紹介した。Academic Ranking of World Universities が発表した2010年大学ランキングを紹介しておこう。このランキングは研究成果に重点を置いて評価したものである。その評価の評価は(1)教育の質、卒業生の中でのノーベル賞その他の賞受賞者10%、(2)研究者の質、ノーベル賞その他の賞受賞者20%、被引用数(10/29,12/30,2/26参照)の多い論文の著者数20%、(3)研究成果、ScienceとNatureに掲載された論文数20%、その他主要専門誌に掲載された論文数20%、(4)研究者のその他の活動10%、とある。

上位20位は、イギリス2大学と東京大学(20位)を除くとすべてアメリカの大学が占めている。日本の大学は、京都(24)、大阪(75)、名古屋(79)、東北(84)と続く。順位は明確にされていないが、101-150位には東京工業大、151-200位には北海道、九州、つくば、201-300位には慶応、301-400位には広島、金沢、神戸、長崎、岡山、東京医科歯科、早稲田、401-500位には千葉、群馬、日本、新潟、大阪府立、徳島、東京医科歯科、山口の各大学がそれぞれランクされている。自然科学に限定すると、東京(8)、京都(16)、東北(41)、名古屋(50)と順位が上がる。それぞれの大学について、基準各項目についての評価が表示されている。
http://www.arwu.org/ARWU2010.jsp

アジアの大学も比較的良い位置を占めている。シンガポール国立大学、ソウル国立大学は101-150位に位置している。中国ならびに香港の大学も151-200位を先頭に、500位までに約10大学がランクされている。


ダイヤモンドより硬い材料

2012-08-18 | 報道/ニュース

炭素原子が構成する材料は数多い。ダイヤモンド、フラーレン、グラフェン、グラファイト、カーボンナノチューブ、アモルファスカーボンやカーボンナノファイバーなど炭素原子で構成されるナノ粒子がある(HP2.2A参照)。この中でいやすべての材料の中で最も硬いのがダイヤモンドであった。今回スタンフォード大学の研究グループは、フラーレンに静水圧を加えることによって新しくダイヤモンドより硬い材料を作り出すことに成功した。
http://physicsworld.com/cws/article/news/2012/aug/16/new-form-of-carbon-is-so-hard-it-can-indent-diamond

フラーレンとは60個の炭素原子が作るサッカーボール状のナノ粒子である。フラーレンは結晶を形成するが、これに非常に強い静水圧を加えると、すなわち四方八方から均等に圧力を加えると、サッカーボールが潰れてアモルファスカーボン(ダイヤモンドでもグラファイトでもない炭素原子の集まり)になることが知られていた。最近になってフラーレンと他の分子とを混合した結晶がいろいろな興味ある性質を示すことが明らかになってきた。スタンフォード大学の研究グループは、フラーレンとキシレンが形成する結晶に静水圧を加えた結果、生成したアモルファスグラファイト状の材料がダイヤモンドを傷つけ得ることを示した。この材料には、炭素のsp3混成軌道とsp2混成軌道(HP2.1C参照)とが混在しているという。sp3混成軌道より結合力が強いsp2混成軌道の存在が、sp3混成軌道のみで炭素原子が結合しているダイヤモンドより硬い理由であろう。

人工ダイヤモンドの生成には1500℃以上で静水圧を加える必要がある。これに対して新しい材料は常温で静水圧を加えることによって生成出来る。しかしながら、今のところどちらの生成がより経済的であるかは不明であるという。フラーレンのサッカーボールの中にいろいろな金属イオンを閉じ込めることが出来る。このことを利用すると種々の特殊機能を持った高強度の材料を生成出来る可能性もある。


最高分解能のカラープリント

2012-08-15 | 報道/ニュース

カラープリントのピクセル(画素)の大きさは光の波長の約半分程度、250nm、すなわち1インチあたり100,000がリミットである。現在のレーザープリンターやインクジェットではそのリミットの十分の1程度にしか達していない。リミットに近いピクセルが実現すると、プリントの分解能を上げることが出来るだけではなく、ディスプレイやデータストレージにも利用できそうである。

シンガポールの研究グループは、プラズモニックス(11/17,18,12/21, 1/23,3/9参照)を利用してリミットに近い分解能を持ったカラープリントに成功した。彼らが作成したピクセルは4本の直径100nm程度の柱を金銀合金の反射板の上に立てたものである。柱の上にプラズモンを発生する円柱状の金銀合金が載せられている。その直径と柱間の距離によって反射する光の色が変わるという。
http://www.abc.net.au/science/articles/2012/08/13/3564362.htm
http://www.scientificamerican.com/article.cfm?id=highest-possible-resolution-color-images-achieved

色素ではない種々の色を出せる新しい材料を開発したもので非常に興味深い。色素と違ってプリントの安定性も高いという。アメリカのABCテレビや一般向け科学雑誌Scientific Americanにも報じられている。


太陽光発電その後

2012-08-13 | 報道/ニュース

太陽光発電についてはもニュースが多い(2/20,21参照)。ナノテクノロジーが太陽光発電に貢献し得るのは次の3点であろう。(1)太陽光のすべての波長領域の光を太陽光パネルに送り込むこと、(2)太陽光パネルに送り込まれた光を効率よく電気エネルギーに変換する。(3)パネル表面を清浄に保つ。セルフクリーニングコーティングを施した太陽光発電パネルについてはすでに紹介した(7/25参照)。

アメリカの国立再生エネルギー研究所(NREL)とNatcore Technology社は共同でブラックシリコン太陽光発電パネルを商品化しようとしている。ブラックシリコンとは反射係数を極度に小さくしたシリコン太陽光発電パネルである(2/21参照)。反射係数を小さくする手法はもともとNatcore Technology社が開発し特許化していたもので、今回NRELが新特許を獲得した。シリコンの表面にナノポアー(12/20参照)を作成し、ナノポアーを金属ナノ粒子で満たしさらに酸化シリコンでコートしたものである。Natcore Technology社の初期の特許で金や銀のナノ粒子で満たすことになっていたが、N RELは銅ナノ粒子で満たすよう改良を加えたもののようである。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26180.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.UBtB2dChIr0.google

太陽光を有効に集める手法、光アンテナ(8/2参照)に関してはいろいろな工夫がある。ノースカロライナ大学の研究グループによると、図のように光の波長の程度の凹凸をつけておくと、入射光が共鳴を起こして有効に吸収されるという。図の茶色の部分は光を吸収しない絶縁体で、青い部分が光エネルギーを電気エネルギーに変換する半導体である。この手法によると、光エネルギーを電気エネルギーに変換する半導体部分の厚さを従来の約10分の1にも出来るという。またノースウェスタン大学では種々の波長の光を吸収する色素を加えた半導体パネルを開発中であるというであるという。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25704.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29


新しいタイプのナノモーター

2012-08-11 | 報道/ニュース

自然界にはいろいろなナノサイズのモーターが存在している。たとえば細胞の鞭毛(11/7参照)、精子の尾、細胞のアデノシン三リン酸に よる駆動などがその例である。ナノテクノロジーの目標の一つは、モーターを備えたナノサイズマシンを作成することにある。すでにナノサイズの分子モーター について述べたことがある(9/17参照)。

13個のボロン原子よりなるクラスターは10個の原子の 輪の中に位置している3個の原子が回転しやすいことが知られていて、Wamkelエンジンと呼ばれてい(下図)。Wankelエンジンとは、エンジン中の回転部 分の中心が外枠の中心と一致しないエンジンである。ロサンゼルスにあるカルフォルニア大学(UCLA)の研究グループは、以前からこのWankelエンジ ンについて研究を進めていたが、最近になって外側の原子の輪の中にある内側の原子の輪が紫外線レーザーの照射によって回転することを明らかにした。この モーターの特徴は、レーザー光によって注入される熱エネルギーが外側の原子の輪に拡散し、系全体の温度上昇が最小限に食い止められることである。また、電 圧を加えることによって回転を一方向に制限することが出来るという。
http://www.chemistryviews.org/details/ezine/2330971/Shedding_Light_on_a_Molecular_Engine.html

ボロンクラスターがナノテクノロジーの構成ブロックとして重要な役割を果たすことになるかもしれない。