【時事(爺)放論】岳道茶房

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影響力が大きすぎると感じているジャーナリストたち

2010年04月07日 | 新聞案内人
影響力が大きすぎると感じているジャーナリストたち

 ジャーナリストは、世論に与える影響が大きいほうがいいと考えているのかと思っていたが、どうもそうではないらしい。 アメリカのナイト財団はジャーナリズムの研究や新しい試みに資金を提供しているが、その関連の論文などを見ていて、興味深い調査レポートを見つけた。

 1149人のジャーナリストに尋ね、世論への影響力をどう見ているかについて調査しているのだ。新聞・テレビ・ラジオ・通信社・雑誌と既存メディアのジャーナリストたちをランダムに選んで電話で尋ねたとのことで、02年の調査なのでいささか古いが、いろいろなことを考えさせてくれる。

 興味深いことに、すべてのメディアのジャーナリストが、世論に対する影響力が大きすぎると感じているという。ジャーナリストたちは、自分たちの理想よりも実際の影響力が大きい、つまり、もっと影響力が小さいほうがいいと思っているというわけだ。

○予想とは逆の結果

 インターネットが出てきて従来のメディアの影響力は下がっている。だから、そうしたことに対する危機感があるかと思っていたのだが、この調査の結果はまったく逆だった。

 02年の調査なので、ネットのパワーがさらに増したここ何年間かで変化した可能性はあるが、1982年から10年おきに調査し、2002年までの20年間の傾向はほとんど変わっていないという。

 第4の権力と言われるメディアの力の源泉は影響力なわけだから、影響力が大きいほうがいいと感じているジャーナリストが多いのかと思っていたので、これはまったく意外な結果だった。

 この調査は、調査対象のジャーナリストたちに自由に考えを言わせる形はとっていない。だから、こうした結果になった理由は推測するしかないそうだが、多くのジャーナリストたちは中立的な情報発信者を任じ、客観性を重んじている。それで不相応な影響力を好ましく思っていないのではないかと推測している。

 また、力のあるニュース・ソースが世論に影響をあたえるためにメディアを使おうとしていて、ジャーナリストたちは操られているように感じているからではないかと、少々穿(うが)った見方もしている。

 本欄で私もとりあげたが、捜査当局がメディアを使って情報操作をしているのではないかと日本でもこのところ議論になっている。ジャーナリストたち自身が「情報操作されているかもしれない」と思っているのであれば、影響力の大きさにためらいを感じるのは不思議ではない。

 しかし、そうした理由だけなのだろうか。

○圧倒的パワーの世論に直面

 ひとりの人間が圧倒的なパワーを持つ世論に直面し、ときにそれに抗して活動しなければならないというのは、誰であってもそもそも荷が重く感じることなのではないか。

 私は、学校を出て10年ほどリトル・マガジンの編集をしていてそれから一人で原稿を書いており、かかわった本や雑誌が売れればいいとは思ったが、影響力が大きいほうがいいかどうかはとくに意識したことがなかった。多少でもそうしたことを考えるようになったのは、ウェブで原稿を公開するようになってからだ。

 多くのブログでは、アクセスデータが把握できるようになっているし、ネットではたちまち賛否がわかる。意見が分かれることなどについては、激しい反応があったりもする。極端なことを言って注目されたいなどという性格ではもとよりないので、激しい反応に巻きこまれるのは好きではない。とはいえ、考えを書くのが仕事ではあるので、好き嫌いにかかわらず書く必要があると思ったときには書くわけだが、影響力がもっとあるほうがいいかと聞かれれば「ノー」と答えるだろう。

 しかし、組織をバックにしたジャーナリストならば違った考えを持っているのではないかと思っていた。けれども、いくら組織をバックにしていても、最終的に書いた人間が発言に責任を持つことには変わりはない。となれば、書いた結果生じる影響の大きさに戸惑いを感じるほうが自然なのかもしれない。

 類似の調査はアメリカ以外でも行なわれているそうだ。

 残念ながら日本のデータはないが、イギリス、フランス、オーストラリア、ブラジル、チリ、韓国のジャーナリストたちも、アメリカのジャーナリスト同様、影響力が多すぎると思っているという。

 掲載されているなかでは、ドイツは現実の影響力が理想とほぼ同じ、アルジェリアのジャーナリストはもう少しだけ影響力があったほうがいいと思い、メキシコのジャーナリストだけが影響力の増大をはっきりと望んでいるという結果だった。

○放送局ジャーナリストの懸念

 また、メディアごとの違いも明らかになっている。

 影響力がありすぎるともっとも思っているのは、テレビとラジオのジャーナリストで、日刊紙のジャーナリストはそう思っている度合いが小さかった。

 この結果の理由もジャーナリスト自身に聞いているわけではないので推測するしかないとのことだが、日刊紙のジャーナリストに比べて、放送局のジャーナリストたちは、世論にあたえる影響力の質が高くないと感じているからではないかという。

 放送局のジャーナリストには申し訳ないが、これは、日本でも理解できる解釈だろう。ワイドショーなどで執拗なまでにひとつの事件をあつかい、世論に影響をあたえていることに、放送局のジャーナリストたち自身が忸怩(じくじ)たる思いでいるということは十分に考えられる。

 さらに、ケーブルテレビが浸透し、多チャンネル化が進んでいるアメリカは、日本よりもひとつのテレビ局がおよぼす影響力は小さいのではないか。だとすると、日本の放送局のジャーナリストたちのほうが、「影響力が大きすぎる」と感じている度合いが強いということもありそうだ。

 この調査ではほかに、「市民が何を優先度の高い問題ととらえているかを知るために、あなたの組織が世論調査をするのは重要だと思うか」だとか、「世論調査は、どのニュースが価値があるかについてのあなたの考えに影響をあたえているか」といった世論調査に関する問いもある。

 世論調査はとても重要と答えたのは、日刊紙が46パーセント、テレビが44パーセントと高いが、ニュース雑誌は16パーセントにすぎないという。実際に世論調査に力を入れているメディアかどうかによって違いがありそうだ。

 世論調査がニュースの価値を決めるにあたって影響をあたえているかどうかについても、テレビ局のジャーナリストがもっとも大きな影響を認め、次が日刊紙で、ニュース雑誌がもっとも低いという具合だった。

 私も本欄で世論調査のことを何度もとりあげているが、日本の新聞やテレビはこのところ世論調査に力を入れている。だから、日本で調査すると、世論調査の重要度の評価はもっと高くなるかもしれない。

 そのほか、「一般の人びとの声を届けることが重要と思うか」とか「一般の人びとが公的な議論に加わるようにすることは重要だと思うか」など、この調査をした02年頃までアメリカで注目されていたシビック・ジャーナリズムの動きを踏まえた調査もされている。

 そんなに長い調査レポートではないので、興味がある人は覗いてみるといいかもしれない。

2010年04月07日 新聞案内人
歌田 明弘 コラムニスト


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