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「学校と地域の協力」の必要性と可能性

2010年10月28日 | 新聞案内人
「学校と地域の協力」の必要性と可能性

 学校と地域の連携、協力関係をどう作っていけばよいのか、折に触れて考えています。阪神大震災の取材が一つのきっかけです。

 震災後間もなく、被災地の学校を取材して回りました。ある中学で、仮設トイレがずらりと校庭に並んでいるのを見つけました。学校に避難してきた被災者と教員が協力し、体育祭で使ったパネル、倉庫に残されていた古いカーテンを使って作り上げたトイレの列でした。混乱していてもおかしくない状況のなかで、見事な取り組みだと思いました。その学校では、被災者がPTA役員を中心に自治的な組織を作り上げ、被災者の居住スペースを制限するなどして授業再開の準備を進めてもいました。その一方、教員が茫然自失の呈で、応援に駆け付けた教員が指示を求めても、対応できないでいる中学もありました。

 学校と地域との普段からの信頼、連携のあるなしが、対応の違いを招いていたのです。非常事態のなかでのその差は、日常の教育活動のなかでも示されてきたに違いありません。

○「地域の核となる学校」

 学校と地域の関係は、国の教育政策のなかでも一つの背景となっています。かつて、保護者の学校依存、学校による子供の抱え込みが指摘されていました。「大きな学校」論と言ってよいかと思います。次いで、「子どもを家庭、地域に帰せ」をスローガンに、「ゆとり」教育が主張され、授業時間などの削減が実施されました。結果的にではあっても、「小さな学校」論の要素があったと思います。しかし、家庭や地域による学力格差が露わになり、「ゆとり」の見直しが行われて現在に至っています。

 「大きな学校」でも「小さな学校」でもない、どんな学校像を思い描いたらよいのか。「地域の核となる学校」ではないかと思いました。子供を学校が抱え込むのではなく、家庭や地域に帰すだけでもなく、学校と家庭、地域が一緒になって子供を育む。誠に平凡な結論ですが、それしかないと思います。

 今の子供たちは、核家族で兄弟が少なく、異年齢集団での外遊びも減っています。コミュニケーション能力に問題のある子供が増えていることが指摘されています。10月 24日の朝日朝刊の記事「対人関係学ぼう」には、「今や対人スキルは自然に身につくのではなく、学ぶものになった」との表現がありました。そうであるなら、学校で親とも教師とも違う地域の大人と触れ合うことが、子供たちにとって貴重な体験になるはずです。地域住民や保護者が学校で様々な活動に参加する学校支援ボランティアが一つの形として浮かび上がってきます。

 文部科学省が先般、「『新しい公共』型学校創造事業」の創設を打ち出しました。鳩山前首相が昨年10月の所信表明演説で掲げた、公共サービスを地域のNPO法人や市民が積極的に提供できる社会との理念を体現しようとするものです。想定されているのは、コミュニティースクールなど既にある地域参加型学校の充実、拡大です。

 コミュニティースクールは、2004年の地方教育行政法改正で認められた、地域住民、保護者などによる学校運営協議会を設けた学校のことです。地域運営学校とも呼ばれます。導入するかどうかは、学校や保護者などの意向を踏まえ、学校を設置する自治体の教育委員会が決めます。教育課程の編成を承認し、教職員の配置などについて教委に意見を述べることが法律上、認められています。

○支援と参加がセット

 今年4月現在で、84自治体、629校の幼小中高校、特別支援学校がコミュニティースクールとして認められています。地域住民の学校支援と学校運営への参加がセットになっているケースが多く、保護者らは教科学習、総合学習、クラブ活動、学校行事などに参加し、学校の活動をサポートしています。学習への参加も、専門性を活かしてゲスト・ティーチャ―を務めたり、教師の指導補助に回ったり様々です。一方、授業や生徒指導の在り方について学校に意見を言ったり、非常勤講師採用の面接に立ち合ったりもします。地域に理解のある教員の配置を教委に働きかけることもあります。

 コミュニティースクールの数が最も多いのが、京都市の162校。その活動は全国的に注目されています。東京・三鷹市では、市内の小学校15校、中学校7校すべてが小中一体の住民、保護者の組織をつくり、地域作りも視野に入れた活動を展開しています。

 素晴らしいことばかりではありません。教育方針をめぐって校長と協議会代表が深刻な対立を続けたケースもあります。軌道に乗るまでの教員の負担感は大きく、期待した成果が上がらずに活動が尻すぼみになった学校も少なくありません。住民に市民意識や連帯感のある地域では学校と連携が図られ、そうでない地域ではうまくいきにくいという「鶏と卵」のような関係もあります。

 文科省は「『新しい公共』型学校創造事業」のモデルとなる事業を公募し、16か所を指定する予定で、来年度予算案に2億円を特別枠で計上しました。さらに、コミュニティースクールなどの成果と課題を検証し、学校運営の改善方策を検討する調査研究協力者会議を発足させ、私もそのメンバーに加わることになりました。さる18日の最初の会合では、まず条件整備が必要なこと、失敗例の検証が大切なことなどを発言しました。

 読売の先月27日朝刊の文化面にあった「コミュニティーの再生」と題する記事で記者は、コミュニティーを問い直す数々の論考を紹介し、「優れたコミュニティーはしばしば自然発生的で、拙速に作れるものではない」と記しています。その通りだと思います。そのことを踏まえた上で、学校を地域コミュニティー作りに活かす道筋がないか探りたいと思います。協力者会議での論議は、またこの欄でお伝えし、ご意見をいただきたいと考えています。

2010年10月28日 新聞案内人
勝方 信一 ジャーナリスト、元読売新聞編集委員


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