ココヨリトワニ

野球と文章書きに生きる男、空気王こと◆KuKioJYHKMのブログです。(人が死ぬ創作文があります、ご注意を)

クロスオーバーSS「涼宮ハルヒの仮面」 Bパート

2009-09-16 20:38:25 | 二次創作
「非常にまずい事態。涼宮ハルヒが拉致された」
「な……何ーっ!?」

ふらりと現れた長門は、さっそくとんでもない言葉を口にしやがった。
俺は決して小さくない動揺を感じつつも、長門からさらなる情報を引き出そうと試みる。

「おい、それはいったいどういうことだ長門!」
「今から十三分四十五秒前、女子トイレに入ろうとした涼宮ハルヒが何者かに連れ去られた。
 犯人は彼らと同様に、他の次元からこの世界に侵入した存在である可能性が高い」

あくまで無表情を崩すことなく、淡々と長門は語る。

「他の次元から……? まさか俺たちがこの世界に来たことと、何か関係があるのか?」
「ふん……。どこまで行っても俺は、世界の破壊者らしいな」

長門の言葉を聞いて、ユウスケさんは顔を青ざめさせていた。一方、士さんの方は自嘲的な笑みを浮かべている。

「長門とか言ったか……。ハルヒってやつがどこに連れ去られたかはわからないのか?」
「大まかな範囲の割り出しは可能。しかし、具体的な場所の特定には至っていない」
「充分だ、案内しろ」
「士さん、まさか……」
「当然、助けに行くさ。これでも、仮面ライダーだからな。やるべき事がどうとかいう前に、悪事が行われたのなら犯人をとっちめてやらなきゃならない」
「士、俺も行く!」
「当然だ」

士さんとユウスケさんは長門を連れ、なんの迷いも見せずに写真館から出て行こうとする。

「ちょ、ちょっと待ってください! 俺も行きます!」

二人の後ろ姿を見ていた俺は、気が付くとそう叫んでいた。俺なんかが行ったところでどうにもならない。そう考えていたはずなのに。

「……心配なのはわかるけど、相手はどんな凶悪やつかわからないんだ。
 誘拐って犯罪を実行してる以上、人畜無害なはずがない。危険なのはほぼ間違いないんだ。
 君は俺たちを信じて、ここで待っていてほしい」

ユウスケさんから帰ってきたのは、至極まっとうな言葉だった。まあ、当然のことだ。
俺は宇宙人でも超能力者でもないし、ましてや正義の味方でもない。ただの平凡この上ない男子高校生だ。
誘拐犯相手に、何かが出来るはずもない。
俺は、素直に引き下がろうと思っていた。だがその時、意外にも長門が助け船を出してきた。

「涼宮ハルヒに関連する事象である以上、彼の助けが必要な場面が存在する可能性は高い。
 私は彼を同行させることを推奨する」
「え? いや、でも……」
「別にいいんじゃないのか?」

長門の発言を聞いてもなお難色を示していたユウスケさんだったが、士さんの方はあっさりとO.Kを出してしまった。

「何言ってるんだよ、士! 彼は普通の高校生なんだぞ? どんな危険があるかわからないのに……」
「俺たちが守ればいい。たかだか高校生一人守れないぐらい、俺たちは弱いのか?」
「それを言われちゃうとなあ……」

ユウスケさんの顔に、諦めの色が浮かんだ。どうやら、この場は彼の負けと言うことで決着がついたらしい。

「しょうがない、君も連れて行くけど……。約束してくれ、危険だと判断したらすぐに逃げると」

もともと物わかりがいい人なのか、ユウスケさんはすぐに俺がついていくことを了承し、話を俺への忠告にスライドさせる。
俺は、無言でその言葉にうなずいた。

「長門さん、君もだ。道案内をしてるみたいだから連れて行かざるをえないけど、何かあったら君もすぐ逃げるんだ。いいね?」

続いてユウスケさんは、長門にも同じようなことを言い聞かせた。長門も、俺と同じようなリアクションを返す。
まあ長門の場合、俺と違って危険な場所に飛び込んでも何ら問題はないのだろうが。

「それじゃあ、そろそろ行くか。留守は任せたぜ、夏みかん」
「古泉と朝比奈さんも……。まああまり心配せずに待っていてください」
「わかりました……。士君もユウスケも、気を付けて」
「む、無茶しないでくださいね、キョンくん」

こうして我々四人は、夏海さんと朝比奈さんの声援を受けながら写真館を後にしたのであった。


◇ ◇ ◇


「ここにあったか」

今、俺たちは学校の駐輪場に来ている。そこには、見覚えのない2台のバイクが駐車されていた。
どうやらこれが、士さんとユウスケさんのバイクらしい。

「それじゃあ長門、道案内を……」

長門に話しかけた士さんの言葉が、途中で止まる。同時に、何ともいやな気配が周囲を包んだ。
生ぬるい日常生活を送ってきた俺でもわかる。これは、「殺気」ってやつだ。

「出てくるなら早くしろ。こっちは急いでるんだ」

士さんがそう言うと、物陰から二つの人影が姿を現した。

「うえ!?」

出てきた人影の姿を確認した俺は、思わず情けない声をあげてしまった。
なぜなら、出てきたのはシルエットは人型でも、おおよそ人とは似つかない姿をした化け物だったからである。
着ぐるみだと思いたいところだが、それにしてはあまりにも質感がリアルすぎる。
本物の化け物なんだろうなあ、ちくしょう。

「蜘蛛男にトカゲ怪人か……。たいした相手じゃなさそうだな」
「ここは平和な世界だから、長引かせると大騒ぎになる。早めに片づけるぞ、士」
「当然だ」

驚きを隠せずにいる俺とは対照的に、士さんとユウスケさんは平然と会話を行っていた。
やっぱり正義の味方というからには、こんな奴らにビビっていてはやってられないということなのだろうか。
というかあの化け物を見て「たいした相手じゃない」なんて言えるなんて、どれだけ修羅場くぐってるんですかあなた方は。
俺がそんな考えを頭の中に巡らせていると、士さんはどこからともなく奇妙なベルトを取り出して腰に巻き付けた。
一方ユウスケさんは、腰に両手を当てる。するとどういう仕組みなのか、士さんのものと似たベルトが虚空から出現した。

『KAMEN RIDE DACADE!』

士さんが、1枚のカードをベルトに差し込む。

「……!」

ユウスケさんが正面に伸ばした右手を左から右にスライドさせ、もう一度腰に手を持っていく。

『変身!』

そして二人が、同時に叫ぶ。すると士さんたちの外見は、劇的な変化を見せた。
士さんは前衛芸術というかなんというか、おおよそ俺のセンスでは思いつかないような奇妙なデザインの鎧を身にまとっていた。
まあ奇妙なのは顔の部分だけで、体は割と普通なのだが。
そしてマゼンタと黒の配色が、はっきり言って毒々しい。
対するユウスケさんは、立派な角と複眼が何処か昆虫を連想させる姿である。
体を見ると鋭角的なデザインの士さんと違い、生物的でマッシヴな印象を受ける。

「これが……仮面ライダーってやつか……」

ついつい、俺は口に出して呟いていた。目の前に現れた本物のヒーローから、俺は目を離せずにいる。

「行くぞ!」
「ああ!」

俺の熱視線を浴びながら、二人は化け物どもに向かっていく。
士さんはクモの化け物の前に、ユウスケさんはトカゲの化け物の前に立った。
そして、正義のヒーローと怪物の闘いが幕を開けた。

一番最初に動いたのは、クモだった。クモの姿に違わず、両手から大量の糸を出して士さんにかけようとする。
まあ本来クモが糸を出すのは尻からなのだが、その時の俺にはそこまで考える余裕はなかった。
士さんは腰に下げていた四角い物体を剣に変形させて、その糸をなぎ払う。
そのまま士さんは距離を詰めていき、蜘蛛に斬りつけた。
一般人ならその一撃であの世行き確実だろうが、蜘蛛は苦しげなリアクションこそするもののまだ生きている。
さすがは化け物ってところか。
ここでユウスケさんに視線を移してみると、こちらはこちらで善戦しているようだ。
幾度となく繰り出される尻尾の攻撃を回避し、的確に打撃を叩き込んでいる。さすがに戦い慣れているな。

『FINAL ATTACK RIDE DEDEDEDECADE!』

ユウスケさんの見事な戦い振りに見惚れていると、士さんの方から何やら軽快な電子音声が聞こえてきた。
それにつられて視線を戻すと、士さんは若干日が落ちてきた空へ高々と飛翔していた。
というか、高っ! どれだけ高くジャンプしてるんだ、あの人!
人間業じゃねえ! いや、人間じゃないのか? ヒーローだから万事O.Kなのか?
そんなこんなで俺が驚愕に顔面を歪めていると、張り合ったわけでもあるまいがユウスケさんの方も空高くジャンプした。
こちらもまた、とうてい人類とは思えぬ到達高度である。
高跳びの選手が泣きながら逃げ出しそうな大ジャンプを決めた二人は、キックの体勢で落下してくる。
そのキックは見事に化け物二体に命中し、彼らを木っ端微塵に爆散させた。
いや、ちょっと待て。なんでキックで爆発する! ヒーローだからか? ヒーローだからなのか?
頭に疑問符を積載量オーバーまで詰め込む俺をよそに、元の姿に戻った士さんとユウスケさんはがっちりと握手を交わしている。
さわやかだなあ。ああ、さわやかな光景だ。

「しかしこいつらがこの世界にいるってことは……」
「やっぱり、俺たちが来たことがこの世界に異変を……」

しかしそのさわやかさもすぐに失せ、二人は何やら深刻そうな雰囲気を醸し出しながら会話をしている。
そのやりとりをただなんとなく見つめていた俺であったが、突如として二人が俺の方に視線を向けた。その表情は、何やら切羽詰まっている。

「危ない!」

その短い言葉を耳にした時、俺は別に方向を指定されたわけでもないのに後ろを振り返っていた。
後になってから考えてみると、本能的に危機を察知した結果なのかもしれない。
振り向いた俺の目に映ったのは、おそらくコウモリがベースになっていると思われる化け物のどアップだった。
ああ、俺死んだわ。
ここまで絶体絶命だと、かえって恐怖なんかは感じないらしい。
俺は自分でも驚くほど、あっさりとおのれの死を受け入れていた。
しかし運命の女神は、まだ俺を死後の世界へ旅立たせるつもりはなかったらしい。
次の瞬間、無数の爆発音と共に化け物は真横へスライドする。そして、お約束の大爆発。

「甘いねえ、士。見かねてつい助け船を出しちゃったじゃないか」

化け物が吹き飛んだのとは反対方向から、未知なる声が響く。
慌ててそちらに目を向けると、そこには士さんが変身したヒーローをさらに前衛的なデザインにして青く塗ったような物体が立っていた。
あれか、新ヒーローの登場か。
手に銃を持っているところを見ると、どうやらたった今この人がぶっ放した銃弾によってあのコウモリモンスターは倒されたらしい。
でもってその新ヒーローは、変身を解除して正体のハンサム顔を晒しつつこちらに歩み寄ってきた。

「海東……。お前、どこ行ってたんだ?」
「この世界のお宝を探しにさ。けど、駄目だね。この世界には、僕の魂に響くようなお宝はないみたいだ」

海東という名前らしいその新ヒーローは、話しかけた士さんに対しどこぞの超能力者と微妙にかぶっているようなそうでもないような人を苛立たせる感じの口調で答えた。
何か、俺たちが暮らしている世界そのものを否定されているようで少しだけ腹が立った。

「だけど、代わりに面白い情報を手に入れたよ。どうやらこの世界で、大ショッカーの残党が動いてるみたいだね。
 君たちの目的も、それに関係あるんじゃないのかな」
「大ショッカー……? なるほど、奴らがまだ動いていた訳か」

すいません、俺と長門がまったく話についていけてないんですが。
いや、長門の方は理解しているのかもしれないが、いつもの無表情を貫かれては判断が付かないというものだ。

「それで、奴らのアジトを突き止めてきてあげたよ。聞きたいだろう、ありがたく思いたまえ」
「本当ですか!?」

俺は、思わず声を張り上げていた。そう、いろいろ非現実的なことが続いて頭からこぼれ落ちそうになっていたが、今はハルヒが拉致されるという非常事態なのである。
ハルヒを連れ去ったのがその大なんとかだとしたら、捜査は一気に進展することになる。

「なんで君が一番反応するのかな。というか、君は誰だい?」
「ああ、すいません。初対面でしたね。俺は……」
「こいつはキョンだ。どうも、こいつの仲間が大ショッカーに拉致されたらしくてな」
「なるほど……。それは心配だろうねえ。まあ、僕にはあまり関係のないことだけど」

いや、あの、キョンは本名じゃないんですが……。士さん、聞いてます?

「そう言うわけで、俺たちはさらわれた涼宮ハルヒとやらを助けに行かなくちゃならん。
 アジトの場所ってやつ、教えてもらおうか」
「わかった。本当ならそう簡単には教えてあげないんだけど、今回は特別だ」

もったいぶった仕草で、海東は地面に地図を広げた。そして、ある一点を指さす。

「ここさ」
「港の貸倉庫か……。ありがちな場所だな」
「今回動いているのは、あんまり頭のいい連中じゃないみたいだからねえ」
「長門……。ここで合ってそうか?」
「この建物は、私が推測した候補地の範囲に含まれている。信頼できる情報と考えてかまわない」
「決まりだな」

口元にわずかばかりの笑みを浮かべ、士さんは改めて自分のバイクに向かう。

「行くぞ、お前等」
「あ、ちょっと待ってくれよ、士。道案内の必要なくなっちゃったけど、長門さんどうするんだ?」
「本人の好きにさせろ」
「このまま同行する。より円滑に涼宮ハルヒの救出を行うには、私が行った方がいい」
「でも、危ないよ?」
「大丈夫」

本気で心配しているであろうユウスケさんの気遣いを、長門は漢字三文字、ひらがなに直してもわずか六文字の言葉で一蹴してしまう。

「だから、好きにさせろって言っただろ。そいつはただ者じゃなさそうだしな。
 危なくなったら自分でなんとかするだろ」
「まったく、士はいいかげんというかなんというか……。仕方ない、ついてきてもいいけど、無理はしちゃ駄目だよ?
 俺と士で、出来る限り君たちに危険が及ばないようにはするけど」
「わかった」

ユウスケさんも渋々ながら、長門がついていくのを了承してくれた。
そして俺は士さんのバイクの後ろに乗り、長門がユウスケさんのバイクに乗る。

「それじゃあ君たち、頑張ってくれたまえ」
「ちょっと待て、海東。お前行かないのかよ!」

海東が放った見送る気満々の発言に対し、すかさずユウスケさんがツッコミを入れる。
いたって正常な判断だ。俺だって、初対面じゃなかったらそうしてる。

「今回の相手はたいしたことなさそうだからね。僕が力を貸すまでもないよ。
 アジトを教えてあげただけでも、充分協力したと思うけどねえ」
「それはそうだけど……」
「ほっとけ、あんなやつ。それより、出発するぞ。ヘルメットちゃんとかぶれよ?」
「あ、はい。わかりました」

俺と長門がヘルメットをかぶったのを確認すると、士さんはバイクを発進させる。
俺ははじめて体験するバイクの乗り心地に爽快感と不安の入り交じった感情を抱きつつ、脳の大部分では殊勝にもハルヒの身を案じていた。
ハルヒ、お前のことだから大丈夫だとは思うが……。無事でいてくれよ……。

こうして、俺たちのハルヒ奪還作戦は幕を開けたのであった。


次回予告

ハルヒ「ちょっと、どういうことよ! 主役のあたしの出番が、全っ然ないじゃない!」
キョン「落ち着けハルヒ! 次回はお前がちゃんと活躍するから!」
士「主役? 主役は俺だろう」
ハルヒ「何言ってるのよ、このモヤシ君は! 主役はあたし! あたしなんだってば!」
?「うるさい女はむかつくぜ……。なあ、俺ってそんな顔してるだろ?」
キョン「いや、あんた誰!? マジで!」
長門「次回、『ライダー症候群(シンドローム)』。じゃーんけーんぽん(グー)」
キョン「長門!? なんでそのネタやっちゃった?」

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