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ココヨリトワニ

野球と文章書きに生きる男、空気王こと◆KuKioJYHKMのブログです。(人が死ぬ創作文があります、ご注意を)

自分ロワ第8話 気高くも強き正義の駒

2008-11-25 19:19:24 | 自分ロワ
ヘラクレスの掌。
それははるか昔、正義超人の始祖たちが作り上げた闘技場である。
その名の通り人間の手を模した形に削られたその巨大な岩には、五本の指それぞれの先にリングが設置されている。
このリングは正義超人界では神聖なものとされ、正義超人養成学校「ヘラクレス・ファクトリー」の卒業試験など、特別な試合でしか使われることはない。
しかしまあ、そんなことを超人のいない世界で生きてきた普通の女子高生が知っているはずもなく。

「どこですか、ここー!!」

春野姫は、中指の先で半泣きになっていた。
いきなり殺し合いという非現実的かつ凄惨な状況に叩き込まれたのに加え、スタート地点は落ちたら死にそうな巨大な岩の上。
彼女がパニックを起こすのも無理はない。

「あうう……。誰か、誰か助けてください……」

恐怖に怯える声で、姫は呟く。だが、それで状況が変わるはずもない。
自分で動かなければどうしようもない。そう気づき、姫は勇気を振り絞って一歩を踏み出す。
そして、その一歩目で足を滑らせた。

「ひゃうっ!」

間の抜けた声と共に、彼女の体は空中に投げ出される。当然、その体は重力によって落下を始めた。
「死ぬ」。姫は、心の中ではっきりとそう思った。だが、運命はまだ彼女を死なせなかった。
猛スピードで、一つの影が姫に近づく。そして、彼女の腕をしっかりとつかんだ。

「ふえ?」

何が起きたのかわからず、きょとんとする姫。我に返った時、彼女の体は影に抱きかかえられていた。
真宵あたりがこの光景を見ていたら、「これが本当のお姫様だっこ」などと茶化すことだろう。

「大丈夫でしたか?」

影の正体……姫を抱きかかえている青年は、穏やかな口調で彼女に尋ねる。しかし、姫の意識は違うところに向いていた。

(王子様……?)

青年の頭にはめられた王冠を見て、姫はそんなことを考えていた。だが、別の部分を観察する内にその考えは打ち消されていく。
青年の顔立ちは端正であったが、明らかに普通の人間とは異なっていた。
特撮番組のヒーローみたいだな、と姫は思った。そう思うと、体つきまでそんな風に見えてくる。

「あの……。どこか痛めましたか?」
「え……? あ、いえ、何でもないです! ちょっとボーっとしちゃっただけで!」

返事がないことを疑問に思った青年がもう一度問いかけると、ようやく姫は自分の世界から戻ってくる。

「そうですか。それはよかった」

微笑みを浮かべると、青年は姫の体を降ろす。

「名乗るのが遅れました。私はチェック・メイトという者です」
「え、えーと、春野姫です! 助けてくれて、ありがとうございます!!」

深々と礼をするチェックに対し、姫も慌てて頭を下げる。あまりに慌てたのでまたバランスを崩して落ちそうになったが、そこをチェックがすかさず支えた。

「うー……。何度もすみません……」

短期間に二度も助けられ、さすがに姫も恥ずかしさで頬を赤く染める。

「いえ、かまいませんよ。ここでは落ち着いて話が出来ないようですね……。一度下に降りましょう」
「はい……」

チェックに手を取られ、彼と共に姫は手首の方向……下に向かって歩いていく。
だが、その歩みは1分と立たぬ内に止まってしまった。
彼女たちの前に立ちはだかる存在がいたからだ。

「ククク……。もう獲物が見つかるとはな。わしの運も捨てたものではない」

それは、女だった。
月明かりを反射して輝く銀髪、瑞々しく白い肌。そして幼さと大人の雰囲気が奇跡的とも言える融合を見せている美貌。
彼女が天使だと言われても、姫は信用していたかも知れない。
額から生えた二本の角と、美しい顔に浮かんだ邪悪な笑みさえなければ。

「……!」

危険を感じ、チェックは姫を背にかばうように自分の立ち位置を変える。

「我が名は妖鬼王玉梓が配下、妖怪軍前線司令官。節足鬼・船虫! 貴様らの命、もらい受ける!」

名乗りを挙げると同時に、船虫は眼前の二人に襲いかかった。彼女の美しい肢体から、回し蹴りが繰り出される。
だがチェックは、それをクロスされた両腕でしっかりと受け止めた。

「少しは出来るようじゃな」

チェックの反応を見て、船虫はにやりと笑う。対するチェックは無表情だ。

「あなたが私と戦いたいというのであれば、お受けしましょう。ですが、戦うのはここではない。
 ちょうどすぐそこにリングがあります。あそこでやりましょう」

あくまで淡々とした口調で、チェックは船虫に告げる。

「リング……? よくわからんが、まあいい。死に場所ぐらい貴様に選ばせてやろう」
「では、行きましょう」

姫を促し、チェックはきびすを返して来た道を戻る。

「あ、あの、チェックさん……」
「大丈夫です、春野さん。私は強いですから」

心配げに自分を見つめる姫に、チェックは優しく笑いかけた。


◇ ◇ ◇


数分後、チェックと船虫は中指のリングに立っていた。

「なるほど、闘技場のようなものか……。確かに、戦いやすそうではあるな」

リングを隅から隅まで見回しつつ、船虫は呟く。

「では、始めるとしようか」
「いいでしょう」

試合の開始を告げるべきゴングは、ここにはない。二人はおのれの心の中で、闘争の口火を切る。
先手を取ったのは、チェック。まずは小手調べとばかりに、左ジャブの連打を放つ。
だが船虫は、それを全て捌き有効打を避ける。
攻撃が一段落ついたのを見計らって、船虫が反撃の掌底。しかしチェックは、それをバックステップで回避する。
チェックは今一度距離を詰めようとして……その動きが止まる。

「これは……」
「判断を誤ったな。わしのこれは、ある程度距離が空いている方が使いやすいのじゃ」

船虫の左手の甲から伸びた、一本の触手。それが、チェックの体にからみついていた。

(くっ、私としたことが……。未知の技が出てくる可能性を失念していたとは……)

触手を外そうと、必死にもがくチェック。だが、成果は一向に上がらない。

「無駄じゃ! すぐにその頭、叩き割ってくれる!」

決して丈夫そうには見えない触手で、船虫はチェックの鍛え抜かれた体を持ち上げてみせる。
そして頭を下にし、コーナーポストめがけて振り下ろした。

「チェックさーーーーーーーん!!」

リングサイドで戦いを見守っていた姫が、思わず悲鳴を上げる。だが、チェック自身はこのピンチにも冷静であった。

「チェス・ピース・チェンジ! ルーク!」

チェックは、高らかに叫ぶ。すると、信じられないことが起こった。
彼の頭部と、肩についていた城のような飾りが入れ替わったのだ。
それと同時に彼の肉体も、城壁を連想させる煉瓦模様に変わっていく。
これこそがチェック・メイトという超人が持つ能力、「チェス・ピース・チェンジ」。
チェスの駒に対応した能力を、自分の身に宿す力。
そして「ルーク」の能力は、高い防御力である。かくして船虫の攻撃は、チェックにほとんどダメージを与えられずに終わったのである。

「何じゃと!?」

予想外の事態に、驚く船虫。その隙に、チェックは触手の拘束から逃れる。

「特殊な力を持っているのは、あなただけだと思わないことです」
「なるほどのう。確かに貴様を侮っていたようじゃ。しかし……これならどうじゃ!」

船虫は、再び触手を伸ばす。しかしその触手が描くのは、先程のような曲線ではなく直線。
今、触手は硬質化し、敵を貫く槍と化していた。
槍は、チェックを貫くべくぐんぐんと彼の体に迫る。だが、それでもやはりチェックに焦りは見られない。

「血括りの窓!」

かけ声と共にチェックの煉瓦の体に穴が空き、触手はそこを素通りしていく。

「なにっ!」
「窓簾!」

驚く船虫をよそに、チェックは空洞を閉じる。触手は煉瓦に挟み込まれ、抜けなくなってしまった。

「セイヤーッ!」

気合いの叫びと共に、チェックは体を大きく動かす。触手を押さえられている船虫もその動きに引っ張られ、マットに思い切り叩きつけられた。

「もういっちょー!」

今度は、反対側に船虫の体が振られる。なすすべもなく、彼女の体は再びマットに激突した。

「くっ……なめるなー!!」

しかし、いつまでも一方的にやられているほど船虫も甘くはない。
使っていなかった右手の触手を硬質化させ、チェックの顔面目がけて伸ばす。
チェックは、横に跳ねてそれをかわす。しかし、その程度は船虫の予想の範囲内。
船虫はかわされた触手の硬質化を解除し、リングを囲むロープに巻き付けた。
そして、両手の触手を同時に縮める。

「うあっ!」

急激に強い力で引っ張られ、チェックはたまらずバランスを崩してしまった。
触手を挟む力が一瞬緩んだのを見逃さず、船虫はすかさず触手を引き抜く。

「体が重い奴は、転んでしまえば脆いものよ!」

チェックが立ち上がる前に、船虫は両手の触手を同時に使ってチェックをがんじがらめにしてしまった。
そして、ルークになりさらに体重の増したチェックの体を持ち上げる。

「ちっ、両手を使っても持ち上げるのにこれほど手こずるとはな……。まあよい」

玉の汗を流しつつも、船虫は勝利を確信した笑みを浮かべた。

「鉄柱に叩きつけても無事だったお主じゃが……。果たしてこの高さから落とされても生きていられるかな?」

船虫は、チェックの体をリングの外へと運び出す。そこは、地面から遠く離れた空。

「さらばじゃ」

触手がほどかれる。それと同時に、チェックの体は自然の摂理に従って落下を始めた。

「チェックさぁぁぁぁぁん!!」

姫が、再び叫ぶ。その声は、チェックに確かに届いた。

(私が敗れれば、次は春野さんが危ない……。人間の安全を守るために戦う時、正義超人に敗北は許されない!!)

チェックの体に、力がみなぎる。

「チェス・ピース・チェンジ! ナイト!」

チェックが叫ぶと同時に、ルークのパーツと肩の馬の顔……ナイトのパーツが入れ替わる。
それに合わせて体からは煉瓦模様が消え、代わりに下半身が馬そのものへと変化する。
顔は馬、上半身は人間、下半身は馬。伝説の生物ケンタウロスともまた異なる異形の姿に、チェックは変身していた。

「ギャロップキック!!」

前脚で、鋭い蹴りを放つチェック。その脚は、ヘラクレスの掌を形作る巨岩に突き刺さる。

(一か八かでしたが、上手くいきましたね……。万太郎の火事場のクソ力のようなものでしょうか……)

一瞬浮かべた安堵の表情をすぐに消し去り、今度は後ろ脚で岩を蹴る。
その反動で、チェックは華麗にリングへと舞い戻った。

「なっ……!」

チェックのまさかの生還に、船虫は動揺を隠せない。その隙を逃さず、チェックは容赦なく必殺の攻撃を叩き込んだ。

「ケンタウロスの黒い嘶き!」

前脚での蹴りの連射が、次々と船虫の体に突き刺さる。

「うああああ!!」

悲鳴を上げ、船虫はリングに倒れ込む。そしてそのまま、意識を手放した。



「チェックさん!」

激闘を終えたチェックに、姫が駆け寄る。

「お疲れ様でした! あ、あの、すごくかっこよかったです!」
「ありがとうございます。勝てたのはあなたの声援のおかげですよ」
「え、いや、そんな、私なんて……。あうう……」

思いも寄らぬ褒め言葉を受け取り、姫は顔を真っ赤にする。

「さて、春野さん。思わぬことで時間を取られてしまいましたが……。改めて話し合いましょうか」
「あ、はい、そうですね!」
「詳しい話は場所を移してするとして……。まずこれだけは聞かせてください。
 春野さん、あなたは殺し合いに乗るつもりですか?」
「えええええ? 無理です、無理! 私に人殺しなんて出来ません! 私は、みんなと一緒におうちに帰りたいんです!」
「その言葉を聞いて安心しました。それならば、私はずっとあなたの味方です」

優しい笑みを浮かべると、チェックは姫の前にひざまずく。

「春野さん、今後ともよろしく……」


◇ ◇ ◇


数十分後。船虫が目を覚ました時、そこには誰もいなかった。

「情けをかけられたというのか……」

船虫の心には、生きていた安堵よりも先に悔しさが満ちる。

「おのれ、あの男め……! この私に生き恥をさらせというのか……。
 いいだろう、今はこの敗北を受け入れ、惨めに生きてやる。だが、次にあった時は必ず貴様の首をもらい受ける!
 三つまとめてな!」

節足鬼・船虫。誇りを傷つけられた戦士は、心にどす黒い炎を燃やす……。


【一日目・深夜 E-2 ヘラクレスの掌】

【チェック・メイト@キン肉マンⅡ世】
【状態】疲労(大)、ダメージ(小)
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:正義超人として、無力な人間たちを守る。
1:姫と共に行動し、彼女の友人たちを捜す。
※悪魔の種子編終了直後からの参戦です。


【春野姫@あっちこっち】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:みんなでここから脱出する。
1:つみき、伊御、真宵、榊と合流。


【節足鬼・船虫@里見☆八犬伝】
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:優勝し、玉梓の元へ帰還する。
1:皆殺し。特にチェックと犬士たちは絶対に殺す。
※単行本6巻終了後からの参戦です。

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自分ロワ第7話 せんせいのお時間

2008-11-22 01:02:01 | 自分ロワ
森の中、歳不相応の上等な背広を着た、赤髪の少年が一人。
彼、ネギ・スプリングフィールドは、静かに怒りを燃やしていた。

(罪もない人たちを集めて殺し合いを強制させるなんて……。許されることじゃない!)

名簿に連ねられた約50人の名前を眺めながら、ネギは心の内で叫ぶ。
その中の一つ、下の方に記された「キン肉スグル」の名には、ご丁寧に赤い線が引かれていた。
おそらく、最初に殺された老人の名前なのだろうとネギは推察する。

(あの人だって、こんなくだらないことで殺されていい人じゃなかったはずだ!
 それに、僕と一緒に連れてこられているみんな……。小太郎くんも、のどかさんも、那波さんも死んでいいはずがない!
 あの少年がどれだけの力を持っているのか知らないけど……。絶対に倒してこの殺し合いを潰してやる!)

胸に溢れる熱い思いのままに、ネギはこの殺し合いの破壊を決意する。
そうと決まれば、動かないでいる理由はない。まずネギは自分の現状を確認すべく、デイパックの中を調べようとする。
だが、その腕はすぐに止まった。何者かの接近を察知したからだ。

(僕と同じように殺し合いに乗ってない人だったら、仲間を増やすチャンスだ。
 だけど、殺し合いに乗ってる人だったら……)

戦闘に備え、ネギは拳を固める。やがて、木の陰から一人の男が姿を現した。
それは、漆黒の衣服に身を包んだ端整な顔立ちの青年だった。

「あなたは……」

青年に語りかけようとするネギ。だがそれを遮るように、青年は叫んだ。

「いい!」
「はい?」

その言葉の意味が理解できず、ネギは思わず気の抜けた声を漏らす。それにかまわず、青年はさらに言葉を続けた。

「そのかわいらしい顔立ち! 少年独特の未発達な体のライン! 実にいい!
 ここに連れてこられた時はどうなるかと思ったが、君のような美少年に会えるとはまんざら不幸でもなさそうだ!」

一人で勝手に盛り上がる青年。ネギはそのテンションに付いていけず、顔に汗を浮かべている。

「あのー、もしもし?」
「あっと、失礼。私はイシマという者だ。よかったら、君の名前も聞かせてくれないかな?」
「あ、はい……。僕はネギ・スプリングフィールドといいます」
「ネギくんか……。いい名前だ」
「どうもありがとうございます」

イシマの独特の雰囲気に振り回されつつも、ネギはその友好的な態度に安堵を覚える。

「ところでネギくん。一つお願いがあるんだが」
「なんですか?」
「これ、着てみてくれないか?」

そういってイシマが自分のデイパックから取り出した物。それは、キラキラと光り輝くメイド服だった。

「え……?」

予想外の展開に言葉を失うネギだったが、数秒おいてから我に返る。

「いや、これって女性用の服ですよ?」
「そんなことは承知の上! 美少年は女装も似合うのだよ! むしろこれだけかわいい服なら美少年が着るべき! さあ!」
「ひいいいいい!」

妙な迫力で迫るイシマに、圧倒されてしまうネギ。しかし、そこへ救いの手がさしのべられる。

「初対面の相手になにやっとるか、この変態がー!!」

飛び出してきたのは、長い黒髪をたなびかせた大人っぽい雰囲気の女性。
その華麗な跳び蹴りが、イシマに命中する。

「おや、オル……早乙女先生。怒るとしわが増えますよ?」
「この状況で再会して、最初に言う言葉がそれかい!」

顔面に蹴りを食らったにもかかわらず平然と憎まれ口を叩くイシマに、「早乙女先生」と呼ばれた女性はさらに怒号を浴びせる。

「あのー……」
「うん?」

美女と言っていい顔立ちを苛立ちで歪めていた早乙女だったが、ネギに声をかけられるとその表情はすぐに落ち着きを取り戻した。

「僕を助けてくれようとしていただいたみたいで……。ありがとうございます」
「ああ、いいのよ。いつものことだから」

ぺこりと頭を下げるネギに対し、早乙女は笑顔で返す。

「それに……そんなこと言われたらやりにくくなっちゃうじゃない」
「はい?」

言葉の意味がわからず困惑するネギだったが、すぐにその困惑は衝撃に打ち消される。
彼の見ている前で、早乙女の姿は変貌を始めたのだ。
上半身を覆っていた暖かそうなセーターは、露出の多い蠱惑的なボンデージコスチュームに変わる。
耳はとがり、背中からはコウモリのような黒い羽根が、腰からはしっぽが生えてくる。
その姿は、まさに悪魔そのものだった。

「ごめんね、坊や。お姉さん、殺し合いに乗ることにしたの」

けだるげな表情でそう告げると、早乙女は両手で体の前に丸を作る。そこに魔力が集められ、エネルギーのボールを作り出す。

「お命、戴きます」

死刑宣告と共に、早乙女はエネルギー球を飛ばした。

「戦いの歌(カントゥス・ベラークス)!」

思いも寄らぬ攻撃に一瞬とまどったネギだったが、すぐに頭を戦闘モードへと切り換える。
身体能力強化の呪文を唱え、自分に迫り来るエネルギー球を回避した。

(こっちも杖があれば、魔法で対抗できるんだけど……。入ってないのか?)

狙いを付けられないよう走り回りながら、ネギは自分のデイパックに手を突っ込む。
そして何かを感じ取り、手にした物を取り出した。
それは一見、道ばたにでも落ちていそうな木の枝だった。だがネギは、それから強い魔力を感じていた。

(これなら!)

さすがに自分が普段使っている杖とは違って格闘に用いるのは無理だろうが、杖としてなら十分に使える。
そう判断し、ネギは「木の枝」を構える。それに対し、すでに次弾を装填済みの早乙女も発射態勢に入る。
両者が激突しようとしたその時……。

「!!」

ネギの襟が、突如後ろに引っ張られる。

「逃げるぞ、ネギくん!」

その犯人は、イシマ。きょとんとするネギを引きずり、そのまま森の奥へと走り去っていく。
早乙女は、それを黙って見送っていた。

「はあ……。なんか毒気抜かれちゃったわね……」

目を伏せてため息をつくと、早乙女は人間の姿に戻る。

(しかし、ここで追撃しないなんて……。やっぱり甘くなってるわね、私。人間界に長くいすぎたかしら……)

近くの木に背中を預け、早乙女は自虐的な笑みを浮かべた。

(それでも私は、魔界に帰りたい……。あの魔神が本当に願いを叶えてくれるなら、ただ帰るだけじゃなくて魔界を手中に収めることだって……)

彼女は、主催者のことをほぼ全面的に信用していた。自分自身が高い魔力を持つ魔族であるがゆえに、魔神の力の強さを肌で感じ取ることが出来たのだ。
それ故に、「何でも願いを叶える」というのもあながち嘘ではないと早乙女は考える。
200年間望み続けた、魔界への帰還。今は、それを叶えるまたとないチャンスなのだ。

(そのためには、たとえ教え子をこの手にかけようと……。
 吉田くん、和泉さん……。駄目な先生でごめんね……)

もう一度ため息をつくと、魔女は森の中に消えていった。


◇ ◇ ◇


(さて、どうしよう……)

森の中を走りながら、イシマは苦悩していた。
元々彼は、殺し合いに乗って願いを叶えてもらうつもりでいたのだ。
しかし偶然発見した美少年に思わず声をかけてしまい、気が付けば彼と共に殺し合いに乗った早乙女から逃げている。
同行者であるネギから見れば、とても殺し合いに乗っているようには見えないだろう。
今からでも軌道修正は十分に可能だ。しかし一度予想外の方向に進んでしまうと、本当に元に戻していいのかという迷いが生まれてしまう。

(正直、こんな美少年殺す気にならないしなー……。あー、本当にどうしよう……)

奇妙な葛藤にさいなまれながら、イシマは森の中を駆け続ける。


【一日目・深夜 E-5 森】

【ネギ・スプリングフィールド@魔法先生ネギま!】
【状態】魔力消費(小)
【装備】大地の杖@世界征服物語
【道具】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
基本:主催者の打倒。
1:イシマと行動する?
2:小太郎、のどか、千鶴と合流。
※麻帆良祭終了直後からの参戦です。

【イシマ司令@それじゃあ吉田くん!】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、光のメイド服@らき☆すた(小説版)、不明支給品0~2
【思考】
基本:殺し合いに乗ろうかやめようか……どうしよう。
1:早乙女から逃げる。
2:このままネギと行動する?
3:とりあえず、吉田は殺す。
※単行本2巻終了後からの参戦です。

【早乙女ヒカル子@それじゃあ吉田くん!】
【状態】魔力消費(小)
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:優勝して願いを叶えてもらい、魔界に帰還する。
1:見つけた参加者は誰であろうと殺す……つもり。
※単行本2巻終了後からの参戦です。


※支給品紹介

【大地の杖@世界征服物語】
魔神復活に必要な、六つの秘宝のうちの一つ。神官レント・レントが所持する。
見た目はただの木の枝だが、地面に突き刺すと土を操ることが出来る。

【光のメイド服@らき☆すた(小説版)】
ななこ先生の砦に保管されていたレアアイテム。
魔法使いが着ると何かが起きる……?

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自分ロワ第6話 女子高生二人

2008-11-19 01:17:09 | 自分ロワ
高良みゆきが目を覚ました時、彼女は歯医者の椅子に身を預けていた。

「ひぃっ!」

忌まわしき場所にいることに気づき、思わず体を跳ね上げるみゆき。しかし、すぐに彼女は平常心を取り戻す。

「えーと……先程の光景は……。夢でしょうか?」

一度はそう考えたみゆきだが、即座にその考えを自ら否定する。
歯の治療中に、夢を見るほどぐっすり眠ってしまうなどあり得ない。それでは比喩ではなく本当に無神経である。
まあ、恐怖で気絶してしまうことならあり得るかも知れないが……などと考えながら、みゆきは椅子から降りる。
そして、足下に置かれていたデイパックを発見した。一つ深呼吸をして、それを開ける。まず最初に出てきたのは、「名簿」と書かれた紙だった。

(夢では……ないようですね……)

名簿にしっかり記された「高良みゆき」の名を見て、みゆきは複雑に感情が入り交じった溜め息を漏らす。
これがあの少年が告げた殺し合いに参加させられた人たちの名簿だとは、まだ確定してない。
だが、状況からしてそう考えるほかにない。

(こなたさん……黒井先生も……)

名簿には、みゆきの親友と恩師の名前も記されていた。彼女たちと殺し合うなど、みゆきに出来るはずがない。
いや、彼女たちに限らず、みゆきに誰かを殺すなどという選択肢はなかった。
だが、それならばどうする。逃げる? どこに。たしか少年は、無人島で殺し合いをやってもらうといっていた。

(たしか、地図も入っていると言っていた気が……)

パンや缶詰といった食料を丁寧に取り出し、みゆきはその下に入っていた地図を手に取る。
そこに描かれていたのは、確かに島だった。そして、島の各所に点在する施設の名も記されている。
なぜか「歯医者」も記されていたため、みゆきは自分がいるのが地図で言うB-6であることを知った。

(他にも施設はあるでしょうに、なぜあえて歯医者を地図に載せたのでしょう……。
 それに、魔神城やヘラクレスの掌とはいったい……)

考え込んでしまうみゆきだが、しばらくして思考が本題から外れていたことに気づく。

(とにかく、ここは本当に島のようですね……。ただ、地図が偽物という可能性もありますが……。
 疑い出すときりがありませんね)

自分たちを殺し合いに参加させた人間を信じろというのも無茶ですが、などと思いながら、みゆきは地図をたたんでデイパックの脇に置いた。

(他に入っている物は……)

デイパックの中に、再び手を入れるみゆき。出てきたのは水入りのペットボトルに、ランタン。それに方位磁石。そして……。

「ぬいぐるみ……ですか?」

みゆきの手の中にあるのは、かなり大きなウサギのぬいぐるみだった。全身に包帯や絆創膏が付けられている変わったデザインだが、それでもかわいさは損なわれていない。

「ぬいぐるみを何に使えというのでしょう……?」

首をかしげながら、みゆきはとりあえずぬいぐるみを地図の上に置く。その時、彼女は何らかの違和感を覚えた。
それを放置せずに突き詰めていき、みゆきはその理由に気づく。デイパックの中身が多すぎる。
これまでに取り出した物の体積が、明らかに外見から推察できるデイパックの容量を越えているのだ。

(いったいどうなっているのでしょう……)

疑問に思いつつも、みゆきはさらにデイパックを探る。すると今度は、長い槍が出てきた。

(これは明らかに……入りませんよね?)

槍の長さは、明らかにデイパックの縦幅より長い。にもかかわらず、槍をデイパックに戻すと何の抵抗もなく端から端まで入ってしまう。

(?????)

自らの知識を持ってしても説明できない現象に、みゆきの脳内は疑問符で埋め尽くされる。
最終的に、彼女は「深く考えない」という選択肢を選ぶことで正常な脳の働きを取り戻した。

(とりあえず、入っていた物はこれだけですか……)

落ち着きを取り戻したみゆきは、目の前に並べたデイパックの中身を見ながら考える。
なおデイパックにはもう一つ、先に星がついた子供のおもちゃとしか思えないような杖も入っていた。

(実質的な武器は槍だけ……。私には使いこなせそうにありませんね……。
 そうなると、生きてここから脱出するには誰か体力に優れた方と手を組む必要がありそうです)

真っ先にみゆきの脳裏に浮かぶのは、武術経験者であるこなた。
しかし、自分よりははるかに強いとはいえ彼女も普通の女子高生。過度の期待は禁物だろう。

(やはり男の方を頼るべきでしょうか……。まあ、まずはここから動かなければ何も始まりませんね。いろいろ考えるのは歩きながらでも出来るでしょうし)

荷物を全てデイパックに戻し、みゆきはそれを背負う。そして、診察室の重い扉を開けた。

「……っく。……っく」

診察室から待合室に足を踏み入れたとたん、みゆきの耳に誰かがすすり泣く声が聞こえてきた。
どうやら、今までは厚い壁に遮られてすぐ近くにいながら気づかなかったらしい。
みゆきが慌てて泣き声の主を捜すと、ソファーの上で膝を抱えている少女の姿を発見できた。
その少女は小学生に見えるほど体が小さく、青い髪を長く伸ばしていた。
そう、みゆきの親友と同じように。

「こなたさん!」

思わず、みゆきは叫ぶ。だがそれに反応して頭を上げた少女の顔は、こなたではなかった。
眠たげな目こそこなたにそっくりだが、全体的な印象は……こなたには悪いが、彼女よりかなり引き締まっている。
ただその引き締まった顔も、今は涙でぐずぐずに崩れているのだが。

「誰……?」
「あ、あら? 申し訳ありません、人違いでした。私は……」
「来ないで!」

非礼を素直にわび、そのまま自己紹介に移ろうとするみゆき。だが少女はそれを拒絶し、ソファーの上で後ずさりする。

「来ないで……。来ないで……」

がたがたと震えながら、少女はなおもみゆきから遠ざかろうとする。

「大丈夫です。私はあなたに危害を加える気はありませんから」

優しく語りかけながら、みゆきは相手の警戒をどうやって解くべきか考える。

(そうだ、こういう時こそあれの出番かも知れませんね)

みゆきは背中のデイパックを降ろすと、そこからぬいぐるみを取り出した。

「こんな物しかありませんけど……。少しは心が落ち着くかと……」

精一杯の笑顔を浮かべながら、みゆきはぬいぐるみを差し出す。それを見て、少女の表情は一変した。

「これ……私の!」


◇ ◇ ◇


数分後、みゆきと少女――御庭つみきというらしい――は、並んでソファーに座っていた。

「じゃあ、つみきさんのお友達も何人かここに連れてこられてるんですね?」
「うん。名簿を信じればだけど……」

抱きしめたぬいぐるみに顔を埋めながら、つみきはみゆきの質問に答える。
ぬいぐるみのおかげで、かなり精神的に安定してきたようだ。彼女曰く、友達にもらった大切な物らしい。

「それでは、私は自分とつみきさんのお友達を捜しながら、この島からの脱出方法を捜して歩き回ろうと思うのですが……。
 つみきさんも一緒に来ていただけませんか?」
「まあ、一人よりは二人の方が安全だしね。みゆきさんも悪い人じゃなさそうだし、一緒に行くわ」
「ありがとうございます」

つみきの返答に対しニッコリと微笑むと、みゆきはソファーから腰を上げる。

「では、早速まいりましょう。まずは、ここから北に行って海岸沿いを調べようと思うのですが……」
「船がないか調べるのね? わかったわ」

みゆきの意図をすぐさま理解し、つみきはそのあとをついていく。

(まずは、一人仲間が出来ましたね。しかし、女子高生二人ではやはり不安です……。
 早く頼りになる方を仲間に加えたいものですね……)

冷静に現状を分析し、みゆきは思う。
しかし、彼女は知らない。すぐ後ろにいる少女が、逆上すれば素手で人の頭をかち割れる恐るべき戦闘力の持ち主だということを。

【一日目・深夜 B-6 歯医者】

【高良みゆき@らき☆すた】
【状態】健康
【装備】雪篠@里見☆八犬伝
【道具】支給品一式、練習用の杖@魔法先生ネギま!
【思考】
基本:殺し合いには乗らず、この島から脱出する。
1:北に向かい、海岸沿いを調べる。
2:戦闘力のある人を仲間にしたい。
3:こなた、ななこ、つみきの友人たちとの合流。


【御庭つみき@あっちこっち】
【状態】健康、まだ少し精神不安定
【装備】なし
【道具】支給品一式、ウサギのぬいぐるみ@あっちこっち、不明支給品1~3
【思考】
基本:殺し合いには乗らない。
1:とりあえずみゆきに同行。
2:友達(特に伊御)に会いたい。


※支給品紹介

【ウサギのぬいぐるみ@あっちこっち】
みんなでゲームセンターに行った際、つみきが伊緒に取ってもらったクレーンゲームの景品。
つみきが両手で抱え込まないと持てないぐらいに大きい。

【雪篠@里見☆八犬伝】
「義」の犬士、犬川荘助が愛用する槍。
本人曰く「犬川家の家宝」だが、なぜか大量にある。

【練習用の杖@魔法先生ネギま!】
魔法初心者用の、小さな杖。
本格的な杖ほどの力はないが、コンパクトなため携帯に便利である。

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自分ロワ第5話 噛み合わない人々

2008-11-16 20:21:06 | 自分ロワ
注意:残虐表現が含まれます。

A-5。そこには、「Hatch Potch」という看板を掲げる喫茶店があった。
現在その店の中には、かぐわしいコーヒーの香りが立ちこめていた。
そのコーヒーを飲んでいるのは、美男美女の二人組。ここが殺し合いの舞台でなければ、デートを楽しんでいるようにも見えただろう。

「……それで、ユマ様は何十体ものモンスター相手に大立ち回りを演じたんですの! あの時のユマ様は、最高にかっこよかったんですの!」

熱弁を振るっているのは、モデルのような抜群の美貌とプロポーションを誇る美女。その名をリンダという。
にこやかな表情でその話を聞いているのは、白いはっぴを纏った精悍な顔つきの青年。
彼の名は倉本駆馬。またの名を六代目寒鰤屋ともいう。

「いやー、リンダさんは本当にそのユマって人が大好きなんですね」
「もちろんですの! 私はユマ様のお役に立つために生まれてきたんですの!」

駆馬の言葉を、リンダは嬉しそうに肯定する。

「ですから……」
「はい?」

突然、リンダは足下に置いていた自分のデイパックの中を探り出す。

「ユマ様のために、死んでほしいんですのっ!」

リンダが取り出したのは、ゴールドマトック。いわゆるツルハシだ。
手にした凶器を、リンダは迷わず駆馬の頭めがけて振り下ろす。
リンダにとって、由真こそが全て。だからこそ、由真のためになると思えば殺人も迷わず出来る。
由真を生き残らせるために、由真以外の参加者は全て殺す。それがリンダの選んだ道だ。
しかし、ツルハシが駆馬の脳天を砕くことはなかった。

「いけませんねえ、リンダさん。攻撃動作にかける時間が長すぎです。
 そもそもあなたの細腕じゃ、ツルハシは効率のいい武器とは言えませんね」

ツルハシを指二本で挟んで受け止め、平然とした表情で駆馬は言う。

「な……は、離すですのー!」
「離したら私が危ないでしょうが」

必死でツルハシを引っ張るリンダだが、駆馬に押さえられたそれはびくともしない。

「さて、リンダさん。あなたがそのユマという人のために殺し合いに乗ったのはわかりますが……。
 しかしユマさんは、あなたが他人を殺して喜ぶような人ですか?」
「それは……!」

リンダに、動揺が走る。ユマはサーに操られたモンスターを一匹たりとも殺さなかった人だ。
事件が解決したあと、死者の蘇生をティレクに願った人間だ。
たとえ自分のためであろうと、殺人をよしとするとはとても思えない。

「それでも……それでもリンダは、ユマ様に死んでほしくないんですの!」

絶叫と共に、リンダは渾身の力をツルハシに込める。だがそれでも、駆馬の指二本を押し切ることは出来なかった。

「恋は盲目……か」

切なげな表情を浮かべると、駆馬は空いたもう一方の手で突きを放つ。
その拳はリンダの腹に突き刺さり、数秒で彼女の意識を奪った。

「さて……。どうしようかね、この人」

気絶したリンダの体を抱き留めながら、駆馬は考える。
彼女が殺し合いに乗ったことがはっきりしている以上、放置しておくわけにはいかない。
かといって、彼女を始末して殺人の罪を背負う気など駆馬には毛頭ない。
彼が迷っていると、突然大きな音が喫茶店の中に響いた。それは、店の扉が乱暴に開けられた音だった。
店内に入ってきたのは、着物を身につけ腰に太刀を下げたいかにも「侍」といった風貌の人物。
その端整な顔立ちは、不機嫌そうにゆがんでいた。

「こりゃどうも。何やら怒っておられるようですが……」
「黙れ」

営業スマイルを浮かべ侍に話しかける駆馬だが、侍はその言葉を一蹴し太刀に手をかける。

「外から見えていたぞ。非常事態なのをいいことに、か弱い女性をねじ伏せ狼藉を働こうとは……。恥を知れ!」
「はいー!?」

予想外の言葉に面食らう駆馬に対し、侍は鞘から抜いた太刀を振るう。

「ちょっと待ってくださいよ、お兄さん! 誤解ですって!」

とっさにリンダから手を離して一撃をかわし、侍をなだめようと駆馬は叫ぶ。だがその言葉は、かえって事態を悪化させてしまった。

「お兄さん……? 私は女だーっ!」

怒りをさらに倍加させ、侍はがむしゃらに太刀を振るう。その刃は駆馬を捉えこそしないが、テーブルや椅子を次々と切り裂いていった。

「おっと、お嬢さんでしたか。それは失礼。とりあえず刀を収めていただいて、じっくり話し合った方がお互いのためだと思うのですがどうでしょう」
「問答無用!!」

喫茶店の中をせわしなく逃げ回りながら、駆馬はどうにか侍を説得しようとする。
だが完全に頭に血が上った彼女は、駆馬の言葉に耳を貸そうとしない。

(まいったね、こりゃ……。とりあえずここは逃げておいて、あとで頭が冷えてから改めて誤解を解きに来るか)

決断を下した駆馬は、素早く行動に移る。彼はあらかじめデイパックからズボンのポケットに移していた支給品のハサミを取り出すと、それを投擲した。
ただし眼前の侍に対してではなく、窓ガラスへ。

「うあっ!」

降り注ぐガラスの破片に、侍が一瞬怯む。その隙に駆馬は全速力で走り、割った窓ガラスから外へ。
そして地面に落ちたハサミを回収し、そのまま走り去った。


「くそっ、逃がしたか……。あの男、次に会ったらただでは……」

去っていく駆馬の後ろ姿をにらみつけながら、侍……犬塚信乃は呟いた。

「とは言っても……。今回は少しカッとなりすぎたか……。異常事態で、少し気が動転しているのかも知れないな」

独り言を続けながら、信乃はまだ原形を留めていた椅子に腰掛ける。

「一人になるのも……久し振りだからな……」

旅に出てからというもの、彼女の周りには常に運命で結ばれた犬士の仲間たちがいた。
しかし、癖が強すぎるがいざというときに頼りになる仲間たちは今、彼女のそばにはいない。

(道節、小文吾、毛野……。必ずみんなであの妖怪を倒して、ここから帰ろう。荘助、現八、大角、それに親兵衛……。すぐに戻る、待っていてくれ)

ここに連れてこられてきている三人の仲間と、ここにはいない四人の仲間。信乃は彼らの顔を思い出し、生還を誓う。

(まあ、今は彼女が目覚めるのを待つのが先か……。
気を失っている女性を置いていくわけにもいかないし、かといって背負っていったのではいざというときまともに戦えないからな)

信乃は、壁に背を預ける格好で気絶しているリンダの回復を待つ。
彼女の中の悪意など、知るよしもなく。


【一日目・深夜 A-5 喫茶店「ハチポチ」】

【倉本駆馬@かおす寒鰤屋】
【状態】健康
【装備】鉄のハサミ@世界征服物語
【道具】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
基本:殺し合いには乗らない
1:今は逃走。信乃が落ち着いたらもう一度会って、誤解を解きたい。
※本編終了後からの参戦です。


【リンダ@世界征服物語】
【状態】気絶
【装備】なし
【道具】支給品一式、ゴールドマトック@らき☆すた(小説版)、不明支給品0~2
【思考】
基本:由真を優勝させるため、他の参加者を皆殺し
1:(気絶中)
※単行本一巻終了後からの参戦です。

【犬塚信乃@里見☆八犬伝】
【状態】健康
【装備】退魔の太刀@CLAMP学園怪奇現象研究会事件ファイル
【道具】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
基本:妖怪(ティレク)を倒し、仲間たちの元に帰る。
1:リンダが目覚めるのを待ち、事情を聞く。
2:駆馬と次に会ったら、容赦しない。
3:道節、小文吾、毛野と合流。
※単行本6巻終了後からの参戦です。


※支給品解説

【鉄のハサミ@世界征服物語】
錯乱した由真のクラスメイト・橘あずみが、由真とティレクを刺殺した凶器。

【ゴールドマトック@らき☆すた(小説版)】
みさお・銀角のスペア武器。洗脳されたみなみ・金太郎に貸し与えられた。

【退魔の太刀@CLAMP学園怪奇現象研究会事件ファイル】
《悪玉精霊》退治の専門家、榊文左衛門の愛刀。その名の通り、魔を払う力を持つ。
心身共に鍛えられた者にしか扱えず、その域に達していない者が使おうとすると気を失ってしまう。

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自分ロワ第4話 恐怖と少女とマシンガン

2008-11-14 21:32:42 | 自分ロワ
注意:残虐表現が含まれます。

森の中。伊吹りおんは、木の下に座り込みがたがたと震えていた。

(怖い……! 怖い……! 怖い……!)

彼女の思考は、そのたった一つの言葉に支配されていた。
伊吹りおんという少女は、決して平凡な存在ではない。たぐいまれなる霊感を持ち、それを活用して数々の怪奇現象を解決してきた。
しかし、彼女には一つ重大な欠点があった。それは、あまりに自分に自信がないこと。
自分を過小評価し、取るに足らない存在だと考えてしまう。そのネガティブ思考が今、彼女を普段以上に蝕んでいた。

(私は亜細亜堂先輩や兎屋先輩みたいに頭がいいわけじゃないし、水鏡先輩や光司くんみたいに強いわけでもない……。
 殺し合いなんかさせられて、生き残れるわけないよ!)

がたがたと震える彼女の手の中にあるのは、冷たい輝きを放つ機関銃。ここに到着した直後、りおんがデイパックから取り出した彼女の支給品だ。
そのぬくもりのない金属の感触は、りおんの恐怖心をさらにあおっていた。
だが、他者が襲ってくるかも知れないという思いが、武器をその手から離させない。
武器があるから恐怖し、恐怖するから武器を手放せない。りおんは、恐怖の連鎖の中で完全に平常心を失っていた。
そのりおんに、近づく人影が一つ。たくましい肉体を持つその青年の名は、ジョナサン・ジョースターという。
彼はりおんに気が付くと、走って彼女に近づいた。殺し合いの場で怯える少女を保護するために。
それは、完全なる善意に基づく行動。だが恐怖に神経をすり減らしたりおんには、そうは思えない。
自分に近づいてくる見知らぬ男。今のりおんにとって、それは自分に危害を加える存在に見えてしまう。

怖い。怖い。怖い。

そして、彼女の精神はついに一線を越えてしまう。

「きみ……」
「いやあああああ!!」

話しかけようとしたジョナサンに、我を忘れたりおんは銃口を向ける。そして、引き金を引いてしまった。
銃声が響き、弾丸が次々と放たれる。今まで銃を握ったこともない素人が、ろくに狙いも定めずに放った弾丸。
それらのほとんどは当然の如く、あさっての方向に飛んでいく。
だが「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」の言葉を実証するかのように、数発の弾丸がジョナサンの腕を貫いた。
鮮血が飛び散り、その一部がりおんの顔にもかかる。

「あ……あ……」

自分の行動が招いた結果に、りおんは絶句する。顔にへばりつく血の感触、そして臭い。
それらは、りおんの精神をますます追いつめる。
本来彼女が持ち合わせていたはずの利発さは、もはや存在していない。

(怖い怖い怖い怖い……。自分が怖い他の人が怖い何もかも怖い……。どうすればいいの!?)

恐怖に顔を引きつらせながら、りおんは立ち上がって走り出す。あれほどかたくなに抱きしめていた、機関銃すら投げ捨てて。
方向も確かめず、ただ全てから逃げるために。


「くそっ……。僕としたことが……」

残されたジョナサンは、銃弾に撃ち抜かれた腕を押さえながら呟く。
彼の身体能力なら、全ての弾丸をかわすことも可能だった。
しかし彼は、恐怖に怯える少女が自分に銃を向けるという可能性を考えていなかったのだ。
ジョナサンのお人好しが、悪い方向に出てしまった結果と言えよう。
加えて、りおんが撃ったトンプソン機関銃は彼が連れてこられた時代から60年も未来に生み出された兵器。
正しい対処をしろという方が無理な話だ。

(よし、腕はまだ動く……。痛みは波紋で和らげられる……。
 僕はディオと戦わなきゃいけないんだ、この程度で立ち止まるわけには……)

ディオ・ブランドー。
ジョナサンが青春を共に過ごした男。そして、倒すべき宿敵。
ウインドナイツ・ロットという村でジョナサンとディオは戦い、そしてジョナサンが勝利した。
しかし死んだはずのディオは、この殺し合いの参加者として名簿に名を連ねている。

(確かに倒したと思ったのに……。吸血鬼のしぶとさは、予想以上だったってことか……。
 ツェペリさんはもういない。トンペティ老師やストレイツォさんもこの殺し合いに参加させられてはいない。
 吸血鬼を倒せる波紋使いは、この場所には僕だけなんだ! 僕が、僕がやらなくては!)

決意を新たに、ジョナサンはその二本の足で歩き出す。だがその歩みは、すぐさま背後からかけられた声に止められた。

「さっきの銃声……。撃たれたのはあなた?」
「ええ、そうですが……」

質問に答えながら、ジョナサンは振り向く。そこに立っていたのは、サングラスをかけた黒髪の美女だった。
その美女は、ジョナサンの顔を見たとたん驚愕の表情を浮かべる。

「まさか……ジョナサン・ジョースター?」
「え? あなた、僕のことを知っているんですか?」

今度は、逆にジョナサンが尋ねる。しかし、返事はない。
彼女……リサリサはとまどっていた。彼女にとってジョナサン・ジョースターは写真でしか見たことがない人物……自分が赤ん坊の頃に死んだはずの人間なのだから。

ねじ曲げられた時の元、ここに二人の波紋使いが出会った。


【一日目・深夜 E-3 森】

【伊吹りおん@CLAMP学園怪奇現象研究会事件ファイル】
【状態】錯乱
【装備】なし
【道具】支給品一式、機関銃の予備マガジン×4、不明支給品0~2
【思考】
1:怖い怖い怖い怖い怖い怖い……
※本編終了後からの参戦です。


【ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】右腕負傷(波紋により痛みと出血は抑えられている)
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:ディオを倒す。
1:目の前の女性と会話。
2:逃げた少女(りおん)を追いかけたい。
※ウインドナイツ・ロットでディオを倒してから、エリナと共に客船に乗り込むまでの間からの参戦です。


【リサリサ@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
1:なぜジョナサンが……。
2:銃声について詳しく聞きたい。
※第2部終了直後からの参戦です。

※ジョナサンたちの近くに、トンプソン機関銃@ジョジョの奇妙な冒険が落ちています。


【支給品紹介】

【トンプソン機関銃@ジョジョの奇妙な冒険】
正式名称、トンプソンM1短機関銃。
ジョセフがストレイツォとの戦闘で使用した。

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自分ロワ第3話 忍者二人、城にて邂逅す

2008-11-11 22:53:38 | 自分ロワ
B-2。ここには、和風の城である稲村城がそびえ立っている。
いや、「和風」というのは適切な表現ではないかも知れない。何せそれは室町時代に存在した城を、そっくりそのまま持ってきた「和」そのものの城なのだから。

その稲村城の天守閣、畳の上にあぐらをかいて座る巨漢が一人。かつて日本国最強の忍者と呼ばれた男、黒鋼だ。
彼は今、荷物の中から取りだした名簿に目を通していた。

(小狼、さくら、ファイ=D=フローライト……)

自分の前後に連ねられた、仲間たちの名前。それを確認し、黒鋼は溜め息を漏らす。
あいにく、見捨てるにはあまりに多くの時間を彼らと過ごしすぎた。彼らも参加している以上、殺し合いに乗って最後の一人を目指すという選択肢はない。

(そして、星史郎……)

かつて一度剣を交え、決着がつかなかった男。彼は「非情」でこそあれ「殺人鬼」ではなかった。
殺し合いに乗る可能性もあるが、乗らない可能性もある。
乗らなければ何の問題もない。だが乗ってしまえば、大きな障害となるのは確実だ。

(今度こそ、あいつを殺すことになるかも知れねえな……)

渋い表情を作りながら、黒鋼は名簿を読み進める。やがてある名前を見つけた時、彼は思わず叫び声をあげてしまった。

「月詠だと! まさか、知世姫まで!」

黒鋼が絶対の忠誠を誓う主君、知世姫。彼女は一般にはその本名ではなく、冠名である「月詠」の名で呼ばれる。
まさか、彼女までこの殺し合いに呼ばれているというのか。そう考えた黒鋼だったが、すぐにその可能性は低いと判断する。
星史郎の名は、自分たちのすぐ下に記されていた。つまりこの名簿は、知人同士が固められていることになる。
よって自分たちから離れた位置に名が記されている月詠は、黒鋼の知人ではない。ゆえに、知世姫であることはあり得ない。

(少しばかり肝が冷えたな……。まあ、とにかく俺の予想通りなら、ここから下は読むだけ無駄だな)

知り合いがいないのなら、名前だけ知っていたところでどうにもならない。黒鋼は、名簿をデイパックの中に戻す。

「お前も、そろそろ出てきたらどうだ?」

そして、ふいに天井に向かって語りかけた。直後、天井からガタリという音が響く。
少し間を置いて、そこから一人の少年が飛び降りてきた。
その出で立ちは、半袖のYシャツに半ズボン。年相応の幼い顔立ちだが、太い眉毛と鋭い目つきが顔全体の印象を引き締めている。

「気配を消すのは、けっこう自信あったんすけどね……」

警戒心をむき出しにしながら、少年は言う。その手には、支給品であろう鉈が握られていた。

「ああ、なかなかのもんだったぜ。一朝一夕の訓練じゃ、あそこまで上手く気配は消せねえ。だが、俺の方が実力が上だったってだけだ」

武器を構えた相手を眼前にしても、黒鋼は余裕を見せる。

「気配を見破られてすぐに襲ってこなかったってことは、殺し合いには乗ってねえんだろ?
 俺も乗るつもりはねえ。だから、武器を降ろせ。無駄に神経すり減らすことはねえ」
「あなたが僕を殺さないって保証はあるんすか?」
「ねえな」

少年の問いに、黒鋼はきっぱりと答える。

「だが警戒してようがしていまいが……。今俺と戦ったら、お前は死ぬぜ?」

絶対の自信がなければ口に出来ない言葉を、黒鋼はさらりと言ってみせる。
しかしその言葉に偽りがないことは、対峙している少年にもわかっていた。
少年は、決して弱くない。むしろ、彼がいた世界では強者に分類される存在だ。
だがそれでも、少年と黒鋼の間には容易に埋められぬ強さの隔たりがあった。

「…………」

少年は、無言で構えていた鉈を降ろす。黒鋼はそれに対して特に反応を見せることもなく、あっさりと話題を切り替えた。

「小僧、名前は?」
「名乗る必要があるんすか?」
「いや、何となくだ。ああ、俺の名前は黒鋼だ」
「……鷹村光司っす」

ためらいながらも、少年は自分の名前を名乗る。

「そうか」
「…………」
「…………」
「…………あの」
「なんだ」
「なんで人の名前聞いておいて、それ以降何も話さずに荷物調べてるんすかあなたは!」
「なんでと言われても困るんだが。別に話すこともねえだろ」
「だったらなんで名前聞いたんすか!」
「言っただろ。何となくだ」

明らかにいらだっている光司に対し、黒鋼はあくまで飄々とした態度である。

「ちっ、刀はねえか……。おい、小僧。そっちの荷物には刀入ってなかったか?
 あったらくれ。俺は刀が専門なんでな」
「名前聞いておいて、結局小僧呼ばわりっすか……」
「何ブツブツ言ってやがる。あるのかねえのかどっちだ」
「入ってたっすよ。けど、黒鋼さんにただで譲る義理はないっす。何か他の武器と交換なら考えるっすけど」
「交換か……。まあいいぜ。それで小僧、接近戦と遠距離戦とどっちが得意だ?」
「どっちかって言うと遠距離戦っすかね」
「ならこれだ」

黒鋼は無造作に、何かが大量に入った袋を光司へ放り投げる。

「えっ、意外と重ッ! なんすか、これ……って、500円玉?」

そう、その袋には、ぎっしりと500円玉が入っていた。

「それなら、十分飛び道具として使えるだろ」
「いや、確かに投げれば手裏剣代わりになりそうっすけど……。お金を武器にするのって、なんか罰が当たりそうだなあ……。
 まあ、非常事態だから仕方ないか……。銭形平次という前例もあるし……」

ぶつぶつと呟きながらも、光司は500円玉をデイパックにしまう。

「それじゃあ、今度はこっちが渡す番っすね」

代わりに、光司は一振りの剣を取り出す。それは、光司の背丈ほどもあるのではないかというほど巨大な刀だった。
鞘には、大きな文字で「村雨」と銘が刻まれている。

「僕も刀は使えないこともないっすけど、この大きさっすからね。ちょっと実戦じゃ使えそうにないんで、お譲りするっす」
「なるほど……。良い刀だ」

村雨を早速鞘から抜き、その刀身を見つめながら黒鋼は言う。筋肉質の巨漢である黒鋼が大剣を持つ様子は、まるで一枚の絵のように様になっていた。


◇ ◇ ◇


数分後、二人は稲村城の外にいた。

「じゃあ俺は川沿いに東へ向かう。お前は道沿いに、西から山を迂回して南に向かう。
 そしてお互い生きてたら、学校あたりで落ち合う。これで良いな?」
「ええ」

黒鋼の言葉に、光司は簡潔に言葉を返す。

「それから小狼、さくら、ファイ。こいつらは俺の顔見知りだ。俺の名前を出せばたぶん協力してくれるだろう。
 ただし、小狼は気を付けろ。俺の知る『小狼』は二人いる。顔もほとんど同じだが、片方は目的のためなら平気で人を殺せる奴だ。
 この殺し合いに呼ばれてるのがどっちかは名前だけじゃわからねえから、危ないと感じたら逃げろ」
「……双子かなんかっすか?」
「まあ、それに近いな。あとは星史郎だ。こいつは俺と互角に戦えるだけの強さがある。
 お前じゃ確実に殺される。殺し合いに乗ってるかどうかは微妙だから、見つけたらとりあえず逃げろ」
「はあ……。了解っす」

光司は取り出した名簿に、ペンで印を書き込んでいく。さくらとファイの横には○が、小狼と星史郎の横には△が刻まれた。

「で、そっちの知り合いはいるか。あったらてめえのことを伝えてやるよ」
「……いや、自分はあなたのことを五割は信用しましたが、もう五割はまだ信用してないっす。
 みんなの安全のために、名前は教えられないっす」
「ああ? アホかてめえは。俺が殺し合いに乗ってるとして、わざわざ殺す相手の名前なんか気にするわけねえだろう」
「あ……」

黒鋼の指摘に、光司は目を点にした。

「そんなことも気づかなかったのか? そこそこはやる奴だと思ってたが、俺の見込み違いか……」
「ほ、ほっといてほしいっす……」

赤面しながらも、光司は四人の仲間……ユウキ、高雪、りおん、美冬の名前と特徴を黒鋼に伝えた。
ただし未だ残る警戒心から、特徴については最低限の情報に留めてある。

「よし、それじゃあそろそろ俺は行くぜ。せいぜいがんばれよ、小僧」
「そっちこそ、油断してあっさり殺されるなんてことないようにしてくださいよ?」

最後に軽口をたたき合い、二人の忍者はそれぞれ逆の方向へ駆けていった。


そして数百メートル走ったところで、光司は気づく。

(あー! よく考えたら、向こうの知り合いって名前聞いただけで、外見のことなんにも聞いてないっすー!)


【一日目・深夜 B-2 稲村城付近】

【鷹村光司@CLAMP学園怪奇現象研究会事件ファイル】
【状態】健康
【装備】500円玉@魔法先生ネギま!×100、作業用の鉈@かおす寒鰤屋
【道具】支給品一式、不明支給品0~1
【思考】
基本:殺し合いには乗らない。
1:研究会メンバー(ユウキ、高雪、りおん、美冬)と合流。
2:道なりに走り、西から南に向かう。
3:さくら、ファイに会ったら黒鋼のことを伝える。小狼、星史郎はいちおう警戒。
※本編終了後からの参戦です。


【黒鋼@ツバサ】
【状態】健康
【装備】村雨@里見☆八犬伝
【道具】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
基本:殺し合いには乗らない。
1:小狼、さくら、ファイと合流。
2:川沿いに移動し、市街地に向かう。
3:ユウキ、高雪、りおん、美冬に会ったら、光司のことを伝える。
4:星史郎が殺し合いに乗っているようなら、決着を付ける。
※東京編終了直後からの参戦です。


※支給品解説

【作業用の鉈@かおす寒鰤屋】
駆馬の友人である仏師、森山長蛇が使用している鉈。

【500円玉@魔法先生ネギま!】
射撃の名手である龍宮真名が、銃器禁止の麻帆良武術会で武器として使った代物。
龍宮は袖に仕込み、指で弾いて飛ばしている。

【村雨@里見☆八犬伝】
信乃が父親から託された、破邪の大剣。かなり巨大。
妖怪は刃に軽く触れるだけで激痛に襲われる。

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自分ロワ第2話 灯台もと暗し

2008-11-09 17:33:08 | 自分ロワ
注意:残虐表現が含まれます。


F-1、灯台。その根本にたたずむ男が一人。
彼の名は戌井榊。つい昨日までは、なんの変哲もない日常を送ってきた高校生だ。

「ふざけるなよ……!」

名簿を握りしめる榊。その表情にはいつもの明るい好青年の面影はなく、激しい怒りに支配されていた。

「姫っちや伊御と殺しあえっていうのかよ……。出来るわけねえだろう!」

自分とその友人たちをこの殺し合いに放り込んだ主催者への怒りを込め、榊は灯台の壁を思い切り殴る。

「いってえええええ!!」

そして右手を襲った激痛に、その辺を転げ回って苦しむ。3分ほど思う存分転げ回った後、ようやく落ち着いた榊は灯台に背中を預けて座り込んだ。

(まあ、ひとまず落ち着こう。殺し合いをしたくないなら、ここから逃げるしかない。
 たしかあいつは、ここが無人島だって言ってたか?)

目の前に広がる海を見ながら、榊は考え込む。

(泳いで逃げるか? いや、向こう岸までどれくらいあるのかわからないのに、泳ぐなんて自殺行為だ。
 途中で泳げなくなったら、おぼれ死ぬしかない。
 となると、船を捜す必要があるな。しかし、そんな逃げてくださいと言ってるようなもんが用意されてるかな……?)

悲観的な結論が出てしまったことに、榊は思わず溜め息をも漏らす。

(あとは……。この首輪をどうにかしないといけないのか……)

続いて、榊は自らの首にはめられた枷に手をやる。幸か不幸か、榊は首輪の爆発で人が死ぬ瞬間をその目で見てはいなかった。
しかし周りの反応から、何が起こったのかはだいたい理解していた。

(爆発するってことは、中に爆弾が仕掛けられてるんだろうな。機械に強い奴といったら真宵だけど……。
 さすがにあいつも爆弾処理はしたことないだろうなあ……。けど、俺よりははるかにましだろうし……。
 よし、まずは真宵を捜そう)

行動指針を決め、榊は立ち上がる。その時、初めて彼は気づいた。
どこからか、すすり泣くような声が聞こえてくることに。しかも、その声はだんだんと近づいてきていた。

(誰かこっちに来るのか?)

おそるおそる、榊は泣き声のする方に近づいてみる。そこには、基本支給品であるランタンを持ってゆっくりと歩く少女の姿があった。
髪はおかっぱに近いセミロング。顔立ちはうつむいているためよくわからない。体格はかなり小柄。おそらく榊より年下だろう。
他に人影も音を出しそうなものもなく、彼女が泣いていることはほぼ間違いないだろう。

(かわいそうに……。そりゃいきなり殺し合いの現場なんかに放り込まれたら、泣きたくなるよな。
 よし! ここは俺が頼れるお兄さんとして、あの子を元気づけてやらなくては!)

思い立つが否や、榊は少女の前に飛び出した。

「そこの女の子! 俺は君に危害を加えるつもりはない! 一緒に行かないか!」

出来る限りの友好的な笑顔を浮かべ、榊は叫ぶ。それに反応して、少女が顔を上げた。
大きな瞳が印象的な、なかなかかわいらしい顔立ちだ。

「大丈夫。怖くない。怖くないから」

今度は優しい声で、榊が語りかける。その榊の元に、少女は無言で歩み寄る。
上手く信頼を得られた、と安堵の溜め息を漏らす榊。その視界に、ふいに黒いものが映る。
それは、少女が手にした拳銃だった。

「はい?」

銃声が、響く。

戌井榊は、幸運だったのかも知れない。たまたま即死できる位置に銃弾が当たったために、一瞬の痛みだけであの世に旅立てたのだから。


◇ ◇ ◇


「悲しいね」

仲村マナミは、泣きながら榊の屍を踏みつける。

「人間は虫を簡単に殺せるけど、同じ人間には簡単に殺されてしまうね。儚い命ね」

マナミは、なおも泣く。

「でも、私は死にたくないね。所詮私も、生にしがみつく虫と大差ないね」

やがてマナミは、榊を踏みつけるのをやめて再び歩き出した。

「私は何がなんでも生き残ってやるね。たとえ、サナギさんたちを殺すことになっても……。
 けど、出来れば友達には会いたくないね」

その大きな瞳から絶えることなく涙を流しながら、人を殺めた少女は夜の闇に消えていった。


【一日目・深夜 F-1 灯台付近】

【仲村マナミ@サナギさん】
【状態】健康
【装備】護刃の拳銃@ツバサ×2
【道具】支給品一式×2、不明支給品1~5、拳銃の弾薬×49
【思考】
基本:死にたくないから優勝を目指す。
1:殺せそうな相手は確実に殺す。
2:サナギ、マフユには会いたくない。

【戌井榊@あっちこっち 死亡】
【残り50人】



※支給品解説

【護刃の拳銃@ツバサ】
桜都国の鬼児狩り、猫依護刃(ねこい・ゆずりは)が用いる武器。
鬼児にダメージを与えられる特殊な武器だが、人間相手の場合特に普通の拳銃と変わったことはない。

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自分ロワ第1話 魔神城の攻防

2008-11-08 23:42:26 | 自分ロワ
注意:残虐表現が含まれます。

D-4、魔神城。広大な城の廊下に、キン肉万太郎は立っていた。
その顔や青を基調としたボディスーツには、所々血痕が付着している。
彼自身の血ではない。彼の目の前で殺された、彼の父親の血だ。

「父上……」

泣き出しそうな表情で、万太郎は呟く。
スケベで、口やかましくて、情けなくて……。それでも、あの人は紛れもなく誇れる自分の父だったのだ。
だが、その父は死んだ。いかに奇跡の逆転ファイター・キン肉スグルといっても、頭を木っ端微塵にされて生きていられるはずがない。

「僕の……せいなのか?」

重い悔恨を含んだ言葉が、万太郎の口から漏れる。
あの時自分がよけいなことを言わなければ、父が殺されることはなかったのではないか?
父を殺したのは、自分ではないか?
そんな考えが、万太郎の心をよぎる。

「いや、違う!」

だが万太郎は、自らその考えをきっぱりと否定した。
確かに、自分のも責任はあるかも知れない。だが、直接殺したのは紛れもなくあの少年だ。
ここで自分を責めていたところで、父は喜んでくれないだろう。自分が父のためにやるべきことは、正義超人としてこの殺し合いを潰すことだ。

「見てろよ! 僕は必ずこの殺し合いをぶっ壊す! そして、父上の仇を討ってやる!」

目に炎をともし、高らかに万太郎は叫ぶ。だが彼は、背後から人影が迫っていることに気づいていなかった。
その人影は万太郎のすぐ後ろに忍び寄り……

「わっ!!」
「ひぃっ!」
「にゃは、大成功ー♪」

……大声を出して、万太郎を驚かせた。

「ひどいなあ、何するんだよ!」
「いやあ、すまんすまん」

ばつが悪そうに、万太郎は自分を驚かした相手に抗議する。抗議された側……金髪の女性は、いたずらっぽい笑みを浮かべて彼に謝罪した。

「しかし、思ったより元気そうでよかったわ。目の前で親父さん殺されるなんてめっちゃショックなことやから、もう少し落ち込んでると思うとったんやけどな」
「え……? ああ、そうか……。お姉さんも、あの瞬間見てたんだね」
「ああ、正直、胃の中のもん全部ぶち撒けそうになったわ。なんとか踏みとどまったけどな」

その時のことを思い出したのか、女性の顔が曇る。

「さっきあんたを見つけた時は、落ち込んでるようやったら微力ながら励ましてやろう思うたけど……。
 あんだけの啖呵張れるんやったら、うちが出しゃばるまでもなさそうやな」
「ありがとう。その気持ちだけで嬉しいよ。けど、なんで見ず知らずの僕のためにそんなことしようと……」
「見ず知らずやろうがなんやろうが関係ない。うちは教師や。青少年が困っとったら助けたるのが筋ってもんやろうが」

女性はニコリと笑って、親指を立てる。

「そういえば、まだ名乗ってへんかったな。うちは黒井ななこや。
 うちも、殺し合いなんぞやる気はない。よかったら、一緒に来んか?」
「喜んで! あ、僕はキン肉万太郎です!」

ななこが差し出した手を、万太郎はギュッと握りかえした。

「それにしても少年、熱くなるのはええけど、周りも確認せずに大声出すのは不用心やぞ?
 近くにおったのがうちやからよかったけど、もし殺し合いやる気になっとる奴やったら後ろからぶすりと……」

ぶすり

「え……?」

ななこの肩から、鮮血が飛び散る。そこには、鉄の矢が突き刺さっていた。

「うあああああ!!」

絶叫と共に、ななこが崩れ落ちる。その彼女に止めを刺すべく、背後の闇から再び矢が放たれる。

「危ない!」

しかしその矢は、ななこの前に躍り出た万太郎の蹴りに叩き落とされた。
その直後、足音が遠ざかっていく。どうやら矢を撃った張本人は、攻撃が失敗したと見るや即座に逃げ出したらしい。

「逃がすか! ……っと」

追いかけようとする万太郎だが、すぐにななこの存在を思い出し踏みとどまる。

「ななこさん! 大丈夫?」

万太郎の呼びかけにもななこは応えず、ただ荒い息を吐いている。

(辛そうだ……。そりゃそうだよなあ、こんな矢が刺さったら、僕らみたいな超人でもそうとう痛いのに……。
 くそっ、何か治療できる物はないのか!)

顔をしかめ、万太郎は自分のデイパックをあさる。

(地図や筆記用具なんてどうでもいいんだ! 包帯とか痛み止めとか、そういうのはないのか!)

求めるものが見つからず、万太郎に焦りが募る。しかしある物を見つけ、その手が止まった。

「これは……」

それは小さな袋に入れられた、バンダナと写真だった。写真に写っているのは万太郎の父、キン肉スグル。そしてその親友、テリーマンだ。
万太郎は以前に、これを見たことがあった。このバンダナはスグルが肌身離さず持っていた、親友からの贈り物なのだ。

「父上……」

改めて父のことを思い出し、目尻に涙を溜める万太郎。だが、すぐに今はそれどころではないと持ち直す。

(使わせてもらうよ、父上。人の命を救うために使うなら、父上も文句なんて言わないよね?)

万太郎はななこの肩から矢を抜き、そこにバンダナを巻き付ける。そして、ななこの体を背負いあげた。

「ごめん、ななこさん。もっとちゃんとした治療しないといけないのはわかってるんだけど……。少しだけ我慢して!」

一刻も早く治療しなければならないのはわかっている。だが万太郎の心には、卑劣な襲撃者への怒りが燃えていた。
せめて一撃、あいつに喰らわせてやらなければ気が済まない。
守るべきか弱い人間を背負い、正義超人・キン肉万太郎は石造りの道を駆ける。


◇ ◇ ◇


そして万太郎のはるか前方を走る、鎧姿の男が一人。その名はサー。前魔神の代理人にして、裏切りの魔物。

サーは混乱していた。ようやくユマを倒し、魔神の力を手に入れられると思った矢先にこの殺し合い。
支配した魔物も持っていた風電の剣もなく、気が付けばこの住み慣れた魔神城に立っていた。

(いったい何が起こっている……。デルトリアの力の暴走か?
 まあ、こうなってしまったものは仕方ない。遠回りになってしまったが、ここにいる連中を皆殺しにすればデルトリアに願いを叶えてもらえるんだ……)

気持ちを切り替え、サーはとりあえず最初に見つけた女を支給品のボウガンで襲撃した。
しかし、使い慣れない武器ということもあって狙いを外し、一撃で殺すには至らなかった。
そして一緒にいた男からの反撃を恐れ逃走し、今に至るというわけである。

(あの男、筋肉質で見るからに強そうだったからな……。正面からぶつかるのは得策じゃない。
 なに、こっちはこの城の構造を知り尽くしてるんだ。ある程度距離を取ったら、また奇襲を仕掛けてやるさ)

大いなる野望を胸に、卑劣なる騎士・サーは石造りの道を駆ける。


【1日目・深夜 D-4 魔神城内部】

【キン肉万太郎@キン肉マンⅡ世】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、キン肉マンとテリーマンの写真@キン肉マンⅡ世、不明支給品0~2
【思考】
基本:主催者を倒し、父の敵を討つ。
1:ななこを攻撃した相手を懲らしめる。
※悪魔の種子編終了直後からの参戦です。


【黒井ななこ@らき☆すた】
【状態】右肩負傷、痛みで意識朦朧
【装備】友情のバンダナ@キン肉マンⅡ世
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:殺し合いには乗らない。


【サー@世界征服物語】
【状態】健康
【装備】ボウガン@ツバサ、ボウガンの矢×28
【道具】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
基本:優勝し、デルトリアに願いを叶えてもらう。
1:追跡を撒き、もう一度奇襲をかける。
※単行本1巻、由真に叛乱を起こした直後からの参戦です。


※支給品紹介

【友情のバンダナ&キン肉マンとテリーマンの写真@キン肉マンⅡ世】
キン肉マンが肌身離さず持ち歩いていた、テリーマンからの贈り物。
テリー・ザ・キッドのキン肉マンに対する偏見を解くきっかけとなった。
二つセットで一つの支給品扱い。

【ボウガン@ツバサ】
東京の「都庁」のメンバーが、自衛に使用していた武器。
専用の矢30本とセットで支給。

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自分ロワOP

2008-11-05 21:42:51 | 自分ロワ
注意:人が死にます


私が、いや、我々が滅ぼされてからどれほどの時が流れただろう。
我々は、何も出来ぬ無力な存在となって幾多の世界をさまよった。
そしてついに見つけたのだ! 我々が完全に復活できるだけの膨大な力を!
さあ、始めよう。我々の完全復活のための儀式を!


◇ ◇ ◇


あたしは高梨由真。お祭り好きでゲーム好きな、普通の女子高生……だった、以前は。
ある日、本の中にある異世界に迷い込んで、魔神復活のためにお宝を集めたり世界を救っちゃったり……。
まあいろいろ普通じゃないことを経験したわけだけど、その辺を詳しく話すと文庫本1,2冊分にはなってしまうので以下省略。

気が付くと、私は広い部屋の中にいた。その部屋には、私以外にもたくさんの人がいた。
あれ、おかしいな。あたしは確かに、自分の部屋の布団に入って眠りの世界に旅立ったはずなんだけど……。
ああ、夢か。夢だよね、そりゃ。あんまり面白くなさそうな夢だし、寝直そう。お休みなさい。
あたしがそう結論づけて、目を閉じようとしたその時。部屋の前の方が、急に明るくなった。
そしてその光の中に、見慣れた人物が立っている。

「こんばんは、皆さん」
(ティレク……?)

見間違えるはずもない。それは本の中の世界であたしのパートナーとして頑張ってくれた男の子。
あたしのかけがえのない友達、ティレクだった。
なに? ティレクがいるってことは、ここって本の中の世界? なんかトラブルがあって、またあたしが呼ばれたわけ?
私が混乱していると、ティレクはとんでもない言葉を口走った。

「突然ですが皆さんには、これから殺し合いをしてもらいます」
「なっ……!」

あたしは、自分の耳を疑った。あの真面目で優しくて謙虚なティレクが、殺し合いを始める?
まさに晴天の霹靂。あまりにショックが大きすぎて、どうすればいいのかわかんない。

「ちょっとティレク! あんた何言って……!」
「待て、ユマ!」

半ば無意識のうちに声を張り上げたあたしを、誰かが制止する。振り向くと、やっぱりそこには知った顔。
一緒に秘宝を探し、裏切り者他いろいろと戦った仲間・ムニだ。
こいつもいるってことは、やっぱりここは本の中?

「なんで止めるのよ、ムニ!」
「よく見ろ! ティレクの奴、どう見ても正気じゃねえ! あいつ、何かに操られてやがる!」

そう言われて、改めてティレクを見る。確かに澄んでいたはずの彼の目は、どこか虚ろで生気が感じられなくなっている。
操られているっていう、ムニの言葉にも納得できる。あたしが、ティレクの正体さえ知らなければ。

「けど、ティレクって神だよ? 神を操れるって、一体誰よ犯人は!」
「俺が知るか!」

「皆さん、お静かに」

あたしとムニが言い争っていると、ティレクが決して大きくないがよく通る声で言った。
どうやら他の人たちも騒いでいたせいで、あたしたちの会話は届いていないらしい。

「これよりルールを説明します。皆さんにはこれからある島に移動してもらい、そこで殺し合いを行ってもらいます。
 反則はありません。生きている参加者が一人になった時点でゲームオーバーとし、その人が優勝者になります。
 優勝者には僕……魔神デルトリアの力で、どんな願いも叶えてあげましょう」

「どんな願いでも叶える」。その言葉に、またみんながざわつく。

「信用出来んな。お前が本当に願いを叶えられるという保証が、どこにある!」

変な仮面を付けた、プロレスラーみたいなおじさんが叫んだ。まあ普通はそう思うだろう。
あたしらはデルトリア……ううん、ティレクに、本当に願いを叶える力があるって知ってるわけだけど。

「ネプチューンマンさんですか……。とりあえず、こんなところで信じていただけますかね?」

ティレクがそう言うと、ネプチューンマンと呼ばれたおじさんの前になんの前触れもなく牛の丸焼きが出現した。
……いや、なんで牛の丸焼き?

「貴様……! なぜ私の好物が牛の丸焼きだと知っている!」

ああ、好物なんだ……。

「何せ神ですから。さて、説明を再開しましょう。皆さんには殺し合いを生き抜くために、地図や食料、それにランダムで道具がいくつか支給されます。
 上手く生き延びるために活かしてください。
 それから殺し合いが始まったら、6時間ごとに放送が流れます。その放送では、それまでに死んだ人たちと禁止エリアに指定する地域を発表します。
 禁止エリアというのは、立ち入りを禁止するエリアのことです。もし入ってしまった場合、今あなた達の首に付けた首輪が爆発します」

え? 今付けた?
慌てて自分の首に手をやると、確かにそこには冷たい金属の感触があった。
うそ、さっきまでこんなのなかったのに……。

「首輪は無理矢理外そうとしても爆発します。殺し合いを続行不可能に陥らせるような行動をしても爆発します。
 この中には普通の人より頑丈な人たちもいますけど、そういう人たちも死ぬぐらいの爆発です」

再びざわめく一同。そんな中、誰かがぼそりと「本当かな?」という声を漏らした。

「今の声は……万太郎さんですか? いいでしょう、本当かどうか確かめてあげます」
「え……い、いや、僕はそんなつもりで言ったんじゃ……」
「ただし、あなたのお父さんでね」

突然、紫の光が部屋の中に発生する。その光は、ブタ鼻にたらこ唇という個性的な顔のおじいさんにはめられた首輪から発せられていた。

「ち、父上ーっ!」
「マンタ……!」

爆音。そしておじいさんの個性的な顔は、跡形もなく吹き飛んだ。

「あ、ああ……」

おじいさんを「父上」と呼んだ、やっぱりブタ鼻にたらこ唇の男の子がへたりとその場に座り込む。
やっぱり、親子だったんだろうな……。子供の前で親を殺すなんて、ひどすぎる!
操られているかも知れないからって、ティレクがこんな事をするなんて……。
あたしは、喧嘩で鍛えた眼光でティレクをにらみつける。けど、ティレクは反応すらしてくれなかった。

「さて、説明は以上です。ただ今を持って、殺し合いの開始を宣言します。皆様に神の加護があらんことを……」

ティレクが言葉を切ると同時に、あたしの意識は薄れていく。
待ってて、ティレク。あたしが必ずあんたを正気に戻して……あげるから……。

こーして、あたしはまたしてもやっかいな事件に巻き込まれたのであった。


【キン肉スグル@キン肉マンⅡ世 死亡】
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ねんがんの ちずを てにいれたぞ!

2008-11-05 18:16:42 | 自分ロワ
というわけで、地図氏こと地球破壊爆弾氏から自分ロワ用の地図をいただいたのです!
やる気がみなぎってきたぜー!
そんなわけで、もうしばらく待っていてくれ、沙羅さんと漆黒くん!
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