讃岐うどんの本場、香川県から「うどん県」の座を奪い取ろうと、1人の埼玉県民が立ち上がった。埼玉県の「うどん用小麦粉の使用量」はトップの香川県に大きく水をあけられているが、堂々の2位。頂点を目指す戦略とは。埼玉県入間市の会社員、永谷晶久さん(35)は昨春、インターネット上に「埼玉を日本一の『うどん県』にする会」を設立した。「埼玉には東京に引け目を感じる風潮があるが、うどんは誇るべきもの」。県内のさまざまなうどんを食べ歩きフェイスブックなどを通じて紹介している。
埼玉県は小麦の栽培が盛んで、家庭でうどんを打つ食文化が根付いていた地域もある。加須市は条例で6月25日を「うどんの日」と定め「1日1麺」を奨励する。江戸時代に地域の寺がうどん粉を城主に贈り、礼状を受けたのが6月25日という。鴻巣市の「川幅うどん」は、市境を流れる荒川の幅が2537メートルと日本一長いことにちなみ、麺の幅が約8センチもある。川島町では、ゴマみそと、キュウリやミョウガなどの野菜をすり下ろした冷や汁で食べる「すったて」が夏の健康食として親しまれる。夏に気温40度を超えることもある熊谷市は冷やしうどんを「夏うどん」として観光案内に載せる。
埼玉の「ソウルフード」とも言われるのが、県内を中心に約170店舗を展開する「山田うどん」のうどん。ゆで麺を使い、讃岐うどんのようなコシはなく、味も家庭的。運営する山田食品産業(所沢市)の江橋丈広営業企画部長は「特徴がないのが特徴。飽きが来ない」と説明する。農林水産省が2009年に発表した「うどん用小麦粉の使用量」は、うどん王国の香川県(人口約97万人)が約5万9600トン、埼玉県(同約728万人)は約2万4700トン。永谷さんは「私の試算では、埼玉県民が1カ月にあとプラス2杯食べれば香川県を抜ける」と意気込む。
一方、香川県は12年に「うどん県」を商標登録した。県観光振興課長の佐藤今日子さんは「うどんの盛り上げに埼玉県の皆さんが立ち上がったことを歓迎したい」と余裕を見せつつ「本場の讃岐うどんを食べに来てほしい」とPR。特許庁は「香川県以外がうどん県をうたっても、特定の商品や宣伝で使わない限り法的な問題はない」と説明している。さて、埼玉県が本当の意味でのうどん県になれるか?