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思考の踏み込み

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形影神30

2014-10-09 00:29:36 | 
"形" がまず言った。

「性の問題について少し私から…。

この衝動が働き出しているとき、当方においてはほとんど抗う術がない。

せいぜい "衝動" を "行動" に結びつけないことができる程度で、その衝動を出すも抑えるも、ほとんど自由がきかない。それを可能にするには余程に鍛錬を積まねば難しいだろう。
今現在の私にはそれはまだ無理だな。」




肚 ー 。

「その衝動が働いているとき、我々の中では "主体" は "形" になっている。
いや "形" しか存在しない状態と言っても大袈裟ではない。
魂魄はその中で埋れて消える…。」

肚、続ける。

「ただ、先ほど私は魂が磨滅するといったが、表現を正確にすれば魂は消えて無くなりはしない。ただ埋れてしまう事があるというだけだ。
魂消 (たまげ) るー という言葉があるが、驚いたときや美しいものに心奪われたとき、つまり "形" の強い反応に魂が埋れてしまったときの表現であって、実際には消えはしない。」

心。

「なるほど。では、その "衝動" が ー 衝動の言いなりになって衝動のまま行動し、目的が達成され、衝動が消えたとき、私達に訪れる言い知れぬあの "感情" は…。」

「そう。我此処に有り。忘るる勿れ!という彼らの主張だ。」



そう言って肚は心にもう一つ付け加えるならば、といい語る。

「だから厳密にはそれは "感情" とは呼べまいと思うのです。」

ー そういえば、心よ。と形が口を挟んだ。

「貴公のあの、賑やかで美しい娘達は今日は呼ばなかったのか?」

「とんでもない!あの子達を呼んだら騒がしくて仕方がない。普段から貴方にはご迷惑をかけているのに。」

「それは残念だな。彼女達がいればさぞ場が華やいだことだろうに。
だがまあ、会の趣旨も変わってしまうか…。」

淵明がそれを聞いていった。

「感情姉妹たちの話か。あの娘らももう少し "慎み" という作法を覚えれば、
より美しくなるのだが。まだまだ化粧が濃すぎるのよ。
まあそれもあの者達の魅力といえなくもない。それよりほれ、肚の話の途中であろう。」



これは失礼 ー そう "形" が言ったが、肚は頓着しない。

「いえ、私も感情について触れるつもりだったのでちょうど良かった。
要するに性の問題の後に我らを襲うモノの根元にあるのは "感情" と呼ぶものとは少し異質だということです。」

「…。」

形影神29

2014-10-08 05:09:21 | 
「その前に少し、整理させて頂きたい。」

知性が発言した。
肚はご随意に、と一言。




「要するに ー 我々が "心" の範疇にあると思っていた "聖" への志向とでもいう様な類の傾向は、実は心の作用ではなく、彼ら "魂魄" の働きであり、その彼らの本能と、"形" の本能は方向性が違う、それが我々が抱えた "乖離性" という矛盾であると ー そういうことで宜しいか?」

「さすがは知性だな。それだけ理解しておればもう "順逆" の問題の事もわかるだろう。私がこれ以上話すには及ぶまい。君が話してみてくれ。」

柔かな笑みを浮かべて肚は知性にそう言った。

「順逆…。」

そう呟いて少し知性はかんがえながらー 。

「淵明殿の話からも推測すれば、初めに在ったのは "形" ではなく、彼ら。
その "力" 、それを淵明殿は "気" と表現されたが…。ともかくもその気の作用によって "形" は凝って存在していると…。」

「だとすれば?」

知性の考えを導き出すように肚が接ぎ穂を入れてやる。そしてその次の言葉を待つ。

「だとすれば…我々の本質は "彼ら" こそであり、我々に彼らが宿っている ー という考えでは齟齬が生じる。
つまり…。」

「つまり??」



今度は意識と理性が挟む。それは肚とは違って結論を切実に求める声だった。

「つまり…… 我々という "存在" の主体は彼らなのではないか?形も心も…意識も理性も、その主体性に対しては "従" であるべきだと…もちろん知性も。
それが順逆 ー つまりこの世界の原理原則に上手く則る最善の選択なのではないか…?」

「………。」

意識、理性、考えている。
肚が言う。

「ふむ。では、彼の言った内容をふまえてこれまでの話を思い返してみて貰おうか。
性の問題、生業の問題 ー 。」

形、心、影もザワザワと話しはじめた。
直感と淵明は既にあまり興味がないのか、酒を酌み交わしながら何か違う話をしている。
感覚はどうやらまた寝てしまったようだ。



月は作り物の様に空々しく、相変わらず中天で輝いている。
柏の木は夜気を含んだ秋風にそよめく。
琴の音がその全てを包む様に響いている…。






形影神28

2014-10-07 05:45:56 | 
その "直感" の視線に気付き、"心" が言う。

「 ー 彼らか!」



肚は応じた。

「おそらく。」

「彼らは時に、強烈に自己を主張しようとする。
その時 ー 我々には試練が訪れ危機に瀕した様に感ずるが、実はそれは彼らにとっては自己を磨き、その質を澄み渡らせ、本来の清らかな状態に回帰しようとする本能の力が働いている状態でもある…。

それは彼らにとっては生理反応の様なものだろうと思う。
我らはそこから逃げるべきではない…。」

「逃げれば?」

「魂は磨滅してゆく…。」

「磨滅すると?」

「生命としての "力" も減退してゆく。
ただ "形" を維持するだけの、食べて、排泄するだけの、皮膚的で ー 表面的な虚しい "快" しか知らないただの鈍い "塊" へと堕落してゆく。」

「堕落すれば!?」

「そこに人間としての生きる喜びは消えてゆく!
そうなれば、形も脆くなりやすい。
つまり、生命としての "力" が失われてゆく…。」


「…!」




「おかしな話だと思わないかね?
"形" の要求に沿い、その本能に従っているだけなのに ー "生" は衰弱し、結果、形は脆くなってゆくという矛盾だ。
古人はその本能を殊更に "煩悩" と名付けて、戒めの対象としたが、それらはどれもこれも "形" にとっては必要だから我々に備わっているものであるはずだ。
従ってそれを無理やりに抑え込む事は、普通は困難である。」

貴方ならよくご存知であろうー 。

肚は心にそう言った。
心は頷く。

「まったく…。強引に "意思" の力で煩悩を押さえ込めば、確かにその "堕落感" は回避できる。しかしそれはやはり無理があり、続きはしない。それをおして続けてもやがては "形" の方に歪みが生ずる事が多い。」

形も言った。

「心が抑圧されれば、私も当然歪む。
私が歪めば、心は衰弱してゆく。我らの本能は、その ー "彼ら" の本能とは相入れないものなのだろうか?
我々はその事とどう向き合うべきなのか…?」

「そう、それこそが "直感" の語った "乖離性" の問題だ。
そしてその問題の解決には "順逆" という原理に則る他ない…。」

…ざっとこういう説明でどうだろうか、直感よ。
肚はそう言って少し間を入れる。



「いや驚いた。貴公がかほどに弁の立つモノだとは知らなかったぞ。さすがは我が盟友。
私はもはや何も言う事はない。
全て貴公の言った通りだ。

…だが、事のついでにもう少し説明してくれ。まだ続きがあるだろう?
私は上手く言葉にする事が苦手でね。
それに ー まだ皆が君の話を聞きたいようであるし…。」

直感は肚にそう促すー 。

形影神27

2014-10-06 05:56:50 | 
「ところで我が主よ、貴方は "この世" に生を受けて幾年になられる?」

そう言って肚は "形" に問いかけた。
主とは言っているが、実際に言葉程には従属の関係にある様には見えない。
むしろ "形" の方が "肚" に敬意を表している様に見えることさえある。



「さあ?何年だろうか?あまり気にした事はない。そういう事は "意識" 達が詳しいよ。」

「まあ年数は良いでしょう。
では、これまでのともかくも数十年の間に、"試練" にどれくらい出くわされたか?」

「試練?」

「左様。つまり "形" としての存続の危機、もしくは貴方と一心同体たる "心" に訪れた困難…。」

「…どうだろうか。はっきり覚えておるには及ばぬが、間違いなく何度もそういう事はあったー 。」

形は心と顔を見合わせながら、答えた。
肚は頷きながら、今度は "意識" に問いを発する。

「人の未来は全て "潜在意識" で思った通りに進んでゆく。 ー という言葉があるが、それを君はどう考えるかね?意識君。」

「…我が母の、力とその影響力は余りにも大きく、私程度では計り知れませぬ。しかし、その偉大な力を持ってすれば、あるいはそういう事も事実かもしれない…。」



「宜しい。では仮にそうだとして話をを進める。つまり、人が無意識の次元で思った通りに、その人生を歩んでいるのだとすればだ、何故にして人には試練などというものが訪れるのか、ということだ。」

「…。」

「試練とは先程も申した様に、形と心にとっては危機である。思った通りにそれが訪れるという事は、それを我らは無意識に必要としている、という事になる。」

「…。」

「そして一生涯平穏無事で、心身安らかに過ごせる者など居はしない。必ず何度かは試練にぶつかる。
繰り返すがそれは我らにとっては危機である。もし我々の本能が、その "カタチ" の安定や維持や発展に限っているとするならば、これは矛盾した現象ではないだろうか?」

「……。」

「だが、カタチが危機に出くわすとき、我々の中でそれを乗り越えようとする "力" が発揮される。
その力は生命力を高い次元で発露させ、我々の精神すら鍛え上げる。
だとすればだ…。」

「だとすれば…我々が時に向き合わされる試練とは…生命力の発揮の為に、我々自らが望んで招きよせている事象だとでも言うのですか?」

「そうだ!」



知性の脇から理性が久々に発言した。その内容に対して肚はひどく断定的に答えた。

「だが問題は、我々の中のどの部分がそれを要求しているのか、という事なのだ。」

誰もが顔を見合わせあって首をかしげた。
誰もそんな心当たりなどなかった。

だが、"直感" だけはある方向を見つめている。
それはその輪のやや外側、そう、魂と魄のいる場所だった。
そこからは相変わらず美しい琴の音が鳴り続けている…。





形影神26

2014-10-05 00:54:52 | 
淵明の曰くー 。

「彼らは確かにすでに形として存在するモノに宿る事もある。
巨石や巨木など、神聖を備える価値を有したモノにはのう。




だが、基本的に生命に宿る場合、彼らは生命の "種" に宿る。
…つまり!」

「つまり?」


"意識" の合いの手。
淵明、その意識をジロリと見る。
かれの思惑を見透かす様な目。

だが、そのまま構わずに話を続けた。

「つまりはよ、形は容れ物ではない。
彼らが宿った結果、彼らの要求によってその "力" の作用でもって集めれたモノだということよ。
その力を我らは古くから "気" と呼んできた。」

「気…。」


今度は "知性" の方に淵明は視線を移して言う。




「また、汝らの嫌いな言葉が出たのう。それも観念というか?証明出来ないものは信じないというか?」

「いえ…。」

知性は恐縮する。

「それもこれも、この子 ー "感覚" が知っとるよ。まだ、眠っている時間が多すぎる子ではあるが、これからもっと成長すれば、もっと優れた存在になってゆくであろうよ。
ともかくも、"気" という概念が空想に過ぎないと言うならば、何故何千年もその言葉が存在し続けたというのか?
その事の証明の方が遥かに困難であろう。知性君。」

そう言って淵明はジッと話を聞き入っている "感覚" の頭をなでながら、ハハハッと笑った。そして肚よ、これで良いかな?後はお主が続けられよ ー といって話を戻した。

「御意 ー 。」
肚は答える。




" ー 太極ノ先ハ有ルコト無ク、質、静、虚ナリ。



質ハ質ヲ大 (さか) ンニシ、静ハ静ヲ大ンニシ、虚ハ虚ヲ大ンニシテ、自ラ厭ヒテ自ラ忍ビザレバ、或 (いき) 、作 (おこ) ル。

或有レバ焉 (すなわ) チ 気有リ………"


"記憶" がまた何かをつぶやいた。