思考の踏み込み

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形影神35

2014-10-14 05:04:02 | 

" ー 万物ハ陰ヲ負イテ陽ヲ抱キ、沖気以ッテ和ヲ為ス。"


「万物が生じて十二が定まった。十二は六によって安定し、五と十はそれを支え、七で以て一つ目の循環を為した。
九は最初の極みであり、十一はその余韻として在った。四と八はこの全てを和らげる。
だが、その始まりは… 全て一より出でしモノ…………。」





" 昔ハ一 (いつ) ヲ得ル者アリキ。
天ハ一ヲ得テ以ッテ清ク、地ハ一ヲ得テ以ッテ寧 (やす) ク、神ハ一ヲ得テ以ッテ霊ニ、谷ハ一ヲ得テ以ッテ盈 (み) チ、万物ハ一ヲ得テ以ッテ生ズ…。"


「 … "一" 、"力" 、或いは 太極 、または大 、もしくは "道" 。
呼び方などはなんでも宜しい。
だがそれは恍にして惚、その中に物有り。
恍たり惚たり、その中に像が有る。
窈たり冥たり、その中に精が有る。
その精は甚だ真、その中に信が有る。
今よりいにしえに… 。」

「お待ち下さい!!」

"意識" がたまりかねたように声をあげ、淵明の話を遮った。

「いったい何の話をされているのか?
今少し我らにもわかる様に話して頂けまいか…。」

だが ー 。


" ー 天ノ數ハ五、地ノ數ハ五ナリ。
五位、相得テ各合フコト有リ。
天ノ數ハ二十有五、地ノ數ハ三十。
凡ソ天地ノ數ハ五十有五ナリ。
此レ變化ヲ成シテ、而シテ鬼神ヲ行 (めぐ) ラス所以ナリ…。"





"意識" の声など聞こえぬ ー と言わんばかりに "記憶" は止まない。


" ー 乾ノ策ハ、二百一十有六ナリ。
坤ノ策ハ、百四十有四ナリ。
凡ソ三百有六十ニシテ、期ノ日ニ當 (あ) タル。
二篇ノ策ハ、萬有一千五百二十ニシテ、萬物の數ニ當ル… 。"


「 …… 。」

"心" も困惑している。

「私は "魂魄" の言葉のその意味する処を知りたいのです…。
5だとか25だとか30?
果ては216に144…。360?最後が11520?
なぜ数字の話になっているのです?」





「まああわてるでない、心。
数こそ真理に最も近い "言語" 。
真実を見通す為には、ある部分までは有効に働く道具ではあろうかい。
…まあ "数" の生きているコトを識り、その本質を捕まえておる者が扱えば ー だがな…。」


淵明が言い、記憶がつづく。


" ー 仰ギテ以ッテ天文ヲ観、俯シテ以ッテ地理ヲ察ス。
是ノ故ニ幽明ノコトヲ知ル。
始メヲ原 (たづ) ネテ終ハリニ反ル。
故ニ死生ノ説ヲ知ル。
精気ハ物ヲ為シ、游魂ハ變ヲ為ス。
是ノ故ニ鬼神ノ情状ヲ知ル。"











形影神34

2014-10-13 07:06:16 | 

「…これは、驚きですな。魂魄が "声" を発するとは。」

やっと "影" がそう言うことで、ようやくその場の沈黙が途切れた。



「…うむ。めずらかなことよ。
よほど… "心" の叫びが聞き捨てるには及ばなかったのだろう…。」

淵明もつぶやく。
心、まだ陶然としている。
その心に向けて淵明は声を励まして言った。


「しかと聴いたかよ!?心!」


「!! … 」

「 …… き、聴きました!
彼らは "無限の虚" から抜け出すために地に降ったとー 。
確かに… そう言った。
はっきりと聴こえ申した。
だが … その真意は?」

ゆっくりと、盃を干し、そして ー 淵明がその問いに答える。
その瞳は "心" をじっと、慈しむ様に見つめ続けている。



「 "力" とは虚しいモノでな… 。
それに反発すべき質を違える "力" が無ければ存在出来ぬモノでな。

遥かなる昔…。気が遠くなる程の昔々…。」



" ー 有ル無キモノハ、間 (すきま) 無キニ入ル。
ココヲ以ッテ無為ノ益アルコトヲ知ル。
不言ノ教 (おしえ) 、無為ノ益ハ、天下コレニ及ブモノ希ナリ。"


淵明の話に相和すようにして、"記憶" が朗々と何事かを賦し、かつ詠ずる。
それは異なる内容について言っているようでもあったが、不思議なほどに調和している。
その場の誰もが違和感なく聞き、両者の "声" に耳を澄ませている。



「 … 無から "有" が生まれた時 ー "有" とは "力" の事だが ー それは一つの方向性しか持たない、言わば存在しているのに存在していない様な状況だった。

その問題を解決する為に違う角度の "力" が生まれた… 。」






" ー 物有リ混成シ、天地ニ先ンジテ生ズ。
寂 (せき) タリ寞 (ばく) タリ、独立シテ改 (かわ) ラズ、周行シテ殆 (とど) マラズ。
以ッテ天下ノ母ト為スベシ。
吾レソノ名ヲ知ラズ、コレニ字 (あざな) シテ道ト曰 (い) フ。
強イテコレガ名ヲ為シテ大ト曰フ。"



「太上老君か…。地に在ってかほどに真理を観通した "人間" は空前にして、後もなお稀…。」


"記憶" の声について淵明はそれだけを言って、あと再び自らの話に戻った。


「 … 無から "力" は生まれた。それを太上老君はあえて名付けるならば "道" だと… 、或いは強いていえば "大" と呼ぼう、そう言われた。
それはやがて一を生み、一は二を生み、二は三を生じて、三から万物が生じた…。」


形影神33

2014-10-12 06:31:43 | 
わずかなー 間が空いた。
その、直後だった。

突如、 "心" が急に動揺を露わにして叫んだ。



「 …だが、それが何になるのです?!
どんなに良く生きる指針が分かって、その通りに生きたとて、死ねば全ては元に戻るだけではないか!

淵明殿が言われた事が真実とすれば、
我々は中空に分じ、散じ、漂い続けるだけの存在に戻るだけではないか!

ならば初めから漂っているだけで良かったのではないか?
何故にわざわざ我々は…斯くなる徒労をしなければならないのか!」


「!!…。」


一同が "心" の俄かなその乱れ方に目を疑った。だが同時にその叫びは誰もが抱えていた疑念でもあった。

満座に声なく、月光だけが ー 凄まじいほどの輝きでそこに居るモノ達を照らしだしている。
だが ー 。


「?」





「 琴が…止んでいる…。」

誰かが気付き、呟いた。
止むことなく鳴り続けていた琴はいつの間にか ー 静寂に溶け、闇に溶けこんでいる。

それどころか ー そこだけがどういうわけか、月の光も届かずに闇よりも暗く、漆黒よりも黒い。
それは清冽な美しささえ感じさせた。


やがて ー 、そこからおよそ聞いたことの無い層の音でもって "声" が聞こえてきた…。


「ソコカラ…ソノ、ムゲンノ キョ ノセカイカラ…ヌケダサンガタメニ…ワレラハ、チ ニクダリシモノナリ。」





「ー ?」


「…ワレラハ ナンジラト トモニ アルモノナリ。トモニ…ユクモノナリ。
ワレラノ ネガイハ ナンジラガ ネガイー 。」


「……………。」

皆、しばし呆然としていた。
淵明の影だけが穏やかに揺らめき、その場で唯一の動きを為している。

形影神32

2014-10-11 08:35:51 | 
「調和…。」

ー それには具体的にどんなことをすればよいのですか?!
具体的に、我々はどう生きたらいいのです?!





意識が叫んだ。

影は静かに、まるで自らに言い聞かせる様に、ゆっくりと答える ー 。


「清流でしか生きられない鮎も、濁った沼でしか暮らせぬ鯰も、どちらの道を選ぶも "生命" としては弱い。
我々はそのどちらの喜びも知ることが出来る可能性を与えられている。

宗教に凝って禁欲の生活を送る事も悪くはあるまい。
形の本能のままに自堕落に生活したって間違いではない。
だがそのどちらもやはり弱いのよ。

いずれかに偏っているというのは弱さだよ。
強さとはそれを解決するバランス感覚のこと。
バランスを良くするには中心に安定した一点がなければならない。

ー そう、ちょうどこの中天で輝き続けている月の様に。





我々にとってその一点とは "肚" だ。
君達は "脳" だと勘違いしているが、脳というのは関所みたいな物で、形の中で蠢いているほとんどのモノを一度通過させ、あるいは変質させる働きはするがそこが大元ではない。
だから脳を通過しないモノたちの働きを脳の研究では説明できない…。

"形" の構造を丁寧に調べればどう転んだって中心は肚だ。
そして肚の本質は中心に向かうという "力" だ。
もっと言えば!

肚の正体は淵明殿が、この宇宙の謎だといった "力" そのモノの顕れだ!」

皆、驚いて "肚" の方を見る。
肚、無言。




直感だけがつぶやく。

「なんだ…。そんなこと今さらみんな気付いたのか?」

「彼は、無意識公が我々に付けてくれた最も頼れる守護者だ。我々が迷った時も、彼に判断を仰げばまず間違う事はない。
順逆の話で言えば、先ず肚、次いで感覚、その後に君達三兄弟が働く、というのが一番構造に適っている。構造に適うという事も "調和" する為には大切な事だ。おわかりか?」

意識、知性、理性を見ながら直感は言い、さらに重ねた。

「そうすれば "智" という新たなる存在が生まれるー 。」

いかに生きるべきかなんて、"智" を待たずに頭に血を昇らせていくら考えたって闇は深まるばかりだし、 下手をすれば邪悪性さえ生みかねない。
それは順逆という摂理に逆らっているからだ。
汝道を誤る事なかれ、順逆を違えるなかれー 。

"直感" はその血を吐く様な独特の高い叫び声で言った。









形影神31

2014-10-10 07:34:20 | 
"影" が口を開く。

「根元とか、本質とかまで辿ればそこに区別はないだろう。
彼ら魂魄も、性の力も、感情達も。

…しかしそれは淵明殿の言われた "力" の変形でしかない。言葉の表現を限定させて正確にする事も悪くはないが、"言葉" にそれをやらせれば "言葉" は矮小化してゆくだけだろう。」





肚。

「たしかにそうかもしれませんな。」

影。

「要するに、それらの "力" の中でも性の力は支配力が圧倒的に強いのだ。
それほどにしなければ、形を繋ぐという事は容易な事でないという証だろう。

ところが、それほどの性の力でさえ、我らにとっては主体ではないということだ。
そして我々の中にはそれに気づくことの出来る能力までご丁寧に備わっている。
それが乖離性の問題であり、性の問題の本質だろう。」

「おっしゃる通りですな。」

この辺りまでくると、さすがの肚も言葉で説明する事に困難さを感じていたのか、影の発言を喜び、そのまま続きを促す仕草をした。
影は小さく頷き、ゆっくりと一息吸い込んでから ー 、 呼気と共に語り始めた。


「生業の問題とても同じだろうよ。
"性" が形を繋ぐ為に必要な行為とすれば、"生業" は形を維持させる為に必要な行為。
ところが我々の主体たる魂魄にはどうしても嫌いな事がある。」

「それは?」

意識が影に聞いた。




「それは汚れること。

…それとその存在の自主性を侵害されること。」


ー 自由とか尊厳とか、権利なんてものは彼らの本能だろう。
意識や理性や知性の生み出したモノではない。
それを言語化して法制化までした人々はよくやったといってやって良いだろう。

だがそんなものはそんな言葉ができる遥かな昔から存在していた。

それは "生業" を確立させて "形" の自主性を獲得していない様な者たちでさえ ー 例えば ー まだ口も聞けない赤子だろうが、寝たきりの病人だろうが、痴呆の老人だろうと、それは厳然と備わっている。
犯罪者も、社会不適合者でさえもそれは変らない。
それを侵される事を嫌う。
また何人もそれを侵し得ない。





そして汚れの問題だ。
生業の問題ばかりは生易しくはない。
汚れる事を避けられない時も珍しくはない。止むを得ないこともいくらでもある。
それでも彼らはそれを嫌う。
我々もまた、その感覚を共有する。
結局のところ…。

"影" はそこまで言って口をつぐんだ。
言語化するという事の難しさを影も感じ始めている。
皆、次の発言を待った。
暫く時を置いて影は一気に語った。



「我々は彼らと同体であり、彼らは我々である。"我ら" は一つである。
彼らの主体性を忘れ、彼らの望まぬ事をすれば、全てそれは我々に帰ってくる。だがしかし。
それは違うよ…。間違ったとき、彼らはちゃんとそう教えてくれる。
それを "乖離" と呼ぶことはだから間違っている。
乖離ではなくて、回帰なんだ。
本来の状態に回帰させてくれる彼らがくれた恩恵だ。
それは対立するべきものではない。
どちらも必要な事であり、どちらもここにいる全てのモノ達にとって欠かせないことだ。
我々はどうすべきか、どこに向かえばよいのか、全てはその "調和" にこそ答えがある…。」