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思考の踏み込み

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形影神25

2014-10-04 07:37:17 | 
「では話を戻したい ー 。」

肚が一同を見回しながら言う。
知性との二人の対話が再開され、他のモノたちは聞く姿勢に入った。



「だが少し違う話をしよう。というよりももう一つ前の話だ。」

「…性の問題。」

「そう。」

「本来生殖行為は "形" を繋ぐ為の神聖な行為であるはずだ。女性はその神の仕事を代行する役目を担っているためか、正当なプロセスを経て、要求に適う内容があれば、充分に満たされる。
だが男はそうはいかない…。
そういう話だった。」

"知性" がなるほど、といい言った。

「つまり、男はその聖なる行為に少なくしか関われない…。
それが、先程の形が言われた "堕落感" に繋がるのだろうか?」

「必ずしもそれだけでは "堕落感" にはなるまい。それよりも、先程の "形" の行動にこそ、真意がある…。」

「生理現象…?」

「然り。」

「生理現象はこれまた形を守っていく為に必要な行為だ。だが、"形" は質としてどういうモノであったか ー ?」

「…重く、濁りて地に下ったモノ?」

「そう。それはそこに宿るモノ達の性質とは矛盾する。」

「…。」




「性の行為も言ってみれば、生理現象だ。男にとってはな。それが果たされればそこで終わる。女性はそこからが始まりである。そこに違いがうまれる。
だが問題は、それがなぜ男にとっては堕落なのかということだ。

生理現象は形を守るためには必要な事。形が無ければ、そこに宿るモノ達も宿るべき場所を失うではないか。」

「宿る…。あの、魂と魄か…。」

「いや、これは失礼。"宿る" という表現は誤解を招きやすい。のう?淵明殿。」


肚は急に淵明に話を向けた。
淵明は少し考えていたが、肚が何を言いたいか、理解している様でもある。



「…そうかもしれん。ワシは確かに彼らは気に入った "形" を見つけては入りたがると、そう言った。だが正確な表現ではなかったな。」

「どういうことでしょうか?」

"意識" が会の主催者らしい気配りでもって、ともすれば口が重たくなりがちなその老人に、いやその霊に ー 合いの手を入れて発言を促した。






形影神24

2014-10-03 05:24:30 | 
知性が考えている ー 。

そこへ、やおら "形" が立ち上がりどこかへ行こうとする。




「形殿、何処へ?」

"意識" が問いかける。

「いやさ、何、いささか夜気に冷えた。」

苦笑しつつ、形は答える。

「少し、用を足しに…。
何しろ、我らにとってこの "生理反応" ばかりは抗う術のないモノ。
これが働き出せば、ここに集う多くのモノはその能力の大半が眠りにつく。
一同、暫しお待ちあれ…。」

皆、暗闇の中へ消えてゆく形を見送り、彼を待つことにした。

ふと ー 空を見上げたモノがいたが、不思議と月は中天から、さして動いていない。



「いったい今何刻だろうか?
ずいぶんと時間が過ぎた様にも思えるが、あまり月は動いていない気がする…。」

実際、不思議な程に時間は経っていないようだ。それでいて形を待っているこの一時は妙に長い…。

「おや?影殿の姿も見えぬぞ。」

心が気付く。

「奴は、小便にまで付いて回るのか。律儀な奴よのう…。」

淵明がおどけて言った。
一同、はじめはこらえてはいたがやがて "ドッ" と笑いが起きた。



その笑いの輪の中へ両者が戻ってくる。

「?」

「一体何の話か?」

どの顔も、長い対話でやや疲れていた気配はその笑いと共に消えていた。
あるいは形の生理的処理が効を挙げたのか。
知性もまた先程とは打って変わって瞳に輝きを取り戻している…。

闇夜の奇妙な対話は再開された ー 。


形影神23

2014-10-02 07:34:30 | 
"知性" は悩みながら答えた。

「金儲け、拝金主義に走る事は精神を堕落させる…?」

「なぜだ?なぜ堕落なのかね?」




「つまり… その行為は … "私" であり、"公" に反するから…。」


「だが、我々はまず生きなければならん。我々が現世で "生きる" という事はその肉体、つまり "形" をいかにして維持していくかということが、何よりも重要ではないのか?

形なんて脆くて儚いモノだよ。
それを少しでも長く維持しようと考えるなら、その安定を図るには、蓄えは多い方が良いに決まってる。
それは確かに "私" の行為だが、何も間違ってはいないではないか?」


「…。」


「僕はでも、そういう人は好きじゃないな…。」

考え込んでしまった "知性" に変わって "感覚" が言った。




「そう。我々は感覚的にそういう者を好まない。なぜだろうか?」

「それはやはり、人間の持つ善性や道徳心が…。」

知性が苦しげに言う。

「そんなものは屁理屈だよ。君の嫌いな "観念" さ。人間の頭は幻想を創り出すことが得意な構造をもっているが、その頭が創り出した幻想だ。我々 "形" の範囲内には善性だとか、そんなモノは存在しない。」

「なんと!では貴方はいわゆる人間の "性悪説" という事を主張したいのか?」




「そういう二元論的な反射は良くない考え方だ。上でなければ下、右でなければ左、この世界はそんな単純な思考に逃げていては見通せない。
知性よ!汝が能力はもっと高い。楽をするなかれ!」

「…!」

その場にいる多くのモノたちは、この ー 知性という強い自信家が、どちらかといえば無口で蒙昧だと思われていた "肚" にここまで詰められていることが驚きであった。
それほどにその "領域内" において普段、知性は支配的であったし、また当人もそれを自負していたからである。

だがその "知性" が考え込んでしまっている…。

形影神22

2014-10-01 07:35:03 | 
「…私はね、こう思うのだよ。
聞いてくれるかね?知性君。」

そう "肚" は言った ー 。

「聞きましょう。」



知性は答える。
以下、肚の曰く。


ー 夫れこの "世界" の初めに有りしは "力" のみ。その呼吸のみ。呼吸の波のみ。
波はやがて "象 (カタチ) " を生み、象は " 形" を産んだ。

カタチには必然、"質" がある。
質は相対を生じ、相剋を起こせしむ。
"世界" とは即ち、"秩序" たるとすれば ー いや実際秩序なのだが、秩序たり得るに原理、摂理が求められた。

陽は左遷し、陰は右遷する。
清は澄み、軽く陽 (あきら) かにして上がりかつまた登る。重きものは中濁り、凝りて後、地に定まる。
そこでは陽が先んじ陰は後に従う。

それは天体の動きから、遺伝子の構造にまであまねく息づく。
驚くべきは二重螺旋という優れた "カタチ" でさえ、生命が成り立ち得るは右遷型のみにて左遷型は不可也という事。




かほどに徹底して世界は原理原則で満ちている!
要するにー。

「この "世界" で最も支配力を持つものは、当然ながらこの世界の構造を創り出している "質" であり、その働きであり、我々もまたその世界の一部である以上、その "性質" に従うことが一番無理がないという、そういう事だと思うのだよ。順逆の問題もそこに帰結する…。」

「…。」

「…今少し、まだちょっと…。」

もう少し説明してくれ、知性はそういう意味の事を言った。


「そうだな、例えば… 我々は生きる為に "生業 (なりわい) " を持たねばならん。
生業とは自らの何かを切り売りして、その対価を得る事だ。

労働を売る者、技術能力を売る者、自分の時間を売る者、気遣いを売る者、肉体を売る者、人間としての魅力そのものを売るもの、果てはその生命を丸ごと対価の対象にする者までいる。

それらは全て尊い行為である。
生業に貴賤は無い。


だがなぜ、我々はあからさまにその "対価" の為に活動する者がいたりするとその者を嫌うのか?
そういう者が、対価 ー わかりやすく言えば金だ。金に魂を売ったなどと揶揄するのか?

働く事は神聖な事であるはずなのに、一体どこでそれがすり替わってしまうのか?
君はどう思うかね、知性君。」

「………。」



知性はその、優秀な頭脳でもって答えを探そうとしているー 。







形影神21

2014-09-30 07:36:16 | 
"感覚" こそ、我らの願いを叶える者…。

ー そう言いながら、あろう事か "影" は涙さえ流していた。

「… !」

皆、驚いた。
影ともあろうほどのモノが涙を流すなどは、一体どういうことなのか。
だが一番驚いていたのは当人であった。



淵明が静かに声をかける。

「なぜ泣くのかね? "影" よ ー 。」

「泣く?この私が?」

そう言いながら彼は、確かに自らが涙を流していることに改めて驚き、同時にその涙の質を考えていた。先程の口をついて出た言葉といい、これもどう考えても身に覚えがない類のものである。

「わからん…。いや、だが考えられる事は、この涙は…。」

「 "闇" が泣いている。"影" の中の闇の記憶が泣いているよ。
私には分かる…。私もまたその "涙" の、その哀しみと願いが、その想いが…。」





"肚" がその、底響きのする特殊な声で影に変わって言った。
そしてやおら立ち上がり、"影" のもとへと行き、酌をした。

「なあ "影" よ…。」

寡黙とか、泰然とか、そういうイメージのある "肚" が ー 実際この酒盛りにおいてもこれまではそのイメージ通りに、じっと "形" の傍らに侍していたモノがここへ来てその重い口を開き始めた。


「 "無" は暗くて寂しい場所。そこから "有" が必要とされたのはごく当然のことだ。だが、そのせっかくの "有" も、それを確かめることのできる、触れることのできる、確かなモノが無ければ意味がないではないか。」

「…それが、"感覚" だと?」

知性が肚に言う。

「そうだ。だが、感覚だけでは足りない。感覚を感覚する能力、即ちそれを "自我" という。
顕在意識君、君の別名だ。」

「ー !」




「…君達もまた ー 無が、そして闇が、その存在が生まれることを願い、待ち望んだ者たちなのだ!
気の遠くなる程の ー 永い時を経て、その哀しみの涙の果てに、祝福されて生まれた者たちなのだよ。」

「あなたはいったい…?」

「私かね?
私は… その涙を受け止め続けてきた者…。」