読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

食の安全について思うこと

2008-09-28 16:44:22 | Weblog
 中国製乳製品のメラミン汚染と森永ヒ素ミルク中毒事件との類似点

 中国製乳製品のメラミン混入事件を聞いた時、まっ先に思い出したのは半世紀前に起きた「森永ヒ素ミルク中毒事件」だ。検索をしてみると、わりと同じ連想をした人が多いみたいだ。(ブログ「大西 宏のマーケティング・エッセンス」)

 ただ「乳製品に工業原料を添加」という点の類似だけではない。「なぜ添加しなくてはいけなかったのか」という背景の類似もある。牛乳の質が悪かったのだ。
「メラミン汚染、なぜ? 中国産粉ミルク 患者5万人以上」(2008/09/26)北海道新聞「現代かわら版」
餌の質や飼育環境が悪く、生乳の品質が一定の基準を満たしていなかった。そこでタンパク質量をごまかそうとメラミンを混入した、ということだ。

 「森永ヒ素ミルク中毒事件」(ウィキペディア)は、被害状況は有名だけどその背景にあった日本の牛乳の質の悪さということはあんまり知られていないようだ。昔、この事件の被害者支援にかかわっていた人の講演を聞いたことがある。「大元の原因は日本の牛乳の質が悪いことだ。粉ミルクを作ろうとしたら、原料の牛乳が酸化しているので凝固してダマになる。その分ロスが出るし、できた粉ミルクも質が悪かった。それで凝固しないように第二燐酸ソーダを添加することにしたのだ。」ということだ。しかし、実は第二燐酸ソーダを使うことはほかのメーカーもみんなやっていたことらしい。(雪印乳業食中毒事件で分かった「牛乳」の正体
 乳業技術者の間で神様のような存在である藤江才介は、「劣悪な原乳に第二リン酸ソーダを使うことは、たいていのメーカーがやっていた」と認めている。粗悪な原乳に防腐剤などを加え、育児用粉ミルクにして市販することは、メーカーにとって、廃物利用、口当たりのいい言葉で言えば技術革新の成果でもあった。

 問題は、森永が業者から仕入れた第二燐酸ソーダは、日本軽金属から出た「産業廃棄物」で、以前ヒ素が検出されたからと国鉄から突っ返されていたものだったことだ。「まさか、食品に使われるとは思わなかった」って、ふーん、じゃあ乳業メーカーが他に何に使うと思ったのかな。

牛乳の質の悪さ

 「欧米ではそんなものを添加しなくても粉ミルクはできるし、日本の牛乳の質の悪さは今に至るまで続いている。」というのが上記の講師の主張だ。雪印乳業食中毒事件でも製品管理の杜撰さがあらわになったが、それ以前に、日本の牛乳は高温殺菌をしなきゃ飲めないようなシロモノなのだという異常さはあまり知られていないようだ。ヨーロッパで一般的な「低温殺菌、ノンホモ(攪拌して脂肪球を粉砕処理していない)牛乳」は日本ではほとんど見られない。瓶入りの高価なものくらいだ。飲み比べてみると味が全然違う。私たちが子どものころから学校給食で飲まされてきた牛乳はそういう大量生産大量消費に適したシステムに組み込まれ、工業的に作られた質の悪い牛乳なのだ。牛のことも、消費者のことも、まるで考えられていない。

 ずっと前住んでいた借家の大家さんが、昔牧場を経営していたという人だったが、牧場をやめた理由を「牛乳は夏と冬とで味も成分も違う。うちの牛は放し飼いにしていたから春から夏にかけては青草をいっぱい食べてお乳も少し水っぽくなる。ところが脂肪分が減ると買取価格も下がってしまう。他の飼育農家では一年中牛舎に閉じ込めて濃厚飼料を与えているから脂肪分が減らない。だけどうちはお日さまの光を浴びて草を食べさせた方が絶対牛のためにいいと思っていたし、その方がおいしいお乳も出るのだけど、そのおいしさを測る尺度はなかった。手間を掛ければ掛けるだけ儲からなくて、とうとうやめてしまった。」と言っていた。牧場は今は工業団地になっている。
 こういう家族経営の農家が作るものを地元で消費するという地産地消を消費者が大切にしていれば、森永の事件も雪印の事件も起きなかったはずだ。だから「質のよいものにはそれなりの値段を払う」ということを消費者自身が覚悟しなくちゃいけないと思う。小規模経営ならではの質のよい農産物を流通に乗せるような仕組みもなくてはいけないと思う。

給食で脱脂粉乳を飲まなくてはいけなかったわけ

 もひとつ粉ミルクで思い出すのは、長女が保育所に行っていた頃のことだ。保育所では「脱脂粉乳」を溶いたミルクをおやつの時間に飲むことになっていた。それが不味くて長女はなかなか飲めなかった。それだけではなく、アレルギー体質なので、ときどきじんましんが出て休んだり、背中にアトピーの湿疹が出たりしていた。皮膚科にも小児科にもあちこち行ったが、血液検査をしてもはっきりとこれが原因という結果が出てこない。小児科の先生の助言で一週間、卵と牛乳をやめたら明らかに症状がよくなったことがあった。それでひとまず乳製品を抜いてみようと保育所に「ミルクをやめられませんか?」と申し入れた。ところが「医師の診断書がないとやめられない」と強硬に言われる。どうもアトピーの子どもが増えて、そのような申し入れがちょくちょくあったり、「除去食を作ってもらえないか」などという要望もあったことで所長が負担を恐れたらしい。また、当時私が何人かの保護者と一緒に入っていた食生活の勉強会に偏見もあったらしいのだ。

 担任の先生から後で聞いたのだが、「脱脂粉乳はアメリカから輸入しているものだ。これはWTOで毎年何トン輸入しなくてはいけないと決まったもので、給食用に一定の割り当て量がある。この保育所でも消費が少ないから増やせと言われていて、脱脂粉乳が余るときは急きょシチューをメニューに入れたり、四苦八苦している。」というのだ。私は唖然とした。私たちの世代が食べていた給食用のパンは、地元のパン屋さんによると最低品質の小麦粉でできていて、それはアメリカでは家畜の飼料用なのだと聞いたことがある。この豊かな時代にまだ脱脂粉乳を飲ませているってのが解せなかったが、それはアメリカの押し付けだったのか。

 長女はそれからしばらくして小学校に上がり、小学校では給食の牛乳を飲まないという選択ができたので5年生まで止めてもらっていた。そのせいか、アトピーは今に至るまで出ていない。今住んでいるところでは給食の調理師さんや栄養士さんたちによる給食改善の研究会が盛んで、もう、とうの昔に保育所の脱脂粉乳を牛乳に変更していたし、それを飲む飲まないも自由だった。医師の診断書を持って来いなどと言われたことは一度もない。だから長男は小学校低学年まで牛乳をやめていて、赤ん坊の頃心配だったアトピーがその後出ることもなく、牛乳を飲まないことによる成長の遅れもなく、たいへん元気で風邪もひかない(皆勤賞ももらった)。

 私は、これだけアトピーが増加している背景には食品添加物や栄養バランスの問題もあるだろうけども、質の悪い牛乳を子供のころから毎日飲ませているということも原因の一つではないかと疑っている。そしてもうひとつ、日本は戦後、工業国として利益を得るために農業を見捨てたのだなあとつくづく思った。日米貿易摩擦というのは日本では工業製品の輸出の問題だったけども、アメリカでは農産物の輸出の問題だった。自動車なんかとバーターで穀物、乳製品、牛肉、オレンジを輸入しなくちゃいけなくなったのだ。
 石破さんなどは汚染米問題に関して、「日本のコメが海外の7倍も高くて競争力がないので、輸入を食い止めるためにミニマム・アクセス米を輸入せざるをえないので、大元は日本の農業の構造が非効率的なことが原因だ。もっと大規模農家も参入できるようにして農業の体質改善をするべきだ。」と言っているけども、それで食の安全が守れるかとか、農業振興ができるかということはちょっと疑問だ。そもそも、アメリカのコメ作りは補助金にどっぷり漬かっていて、すごくいびつな農業なので従来の農業を破壊する、日本はコメの輸入をしないでほしいと昔来日したカリフォルニアの農家の人が新聞で言っていた記憶がある。(切り抜きが見つからない)

「日本の食糧自給を破壊する米軍特殊工作部隊」2008年05月11日 オルタナティブ通信

 民主党の「農家の所得補償」も、どうも間違った方向に思える。政治家は、人気取りではなくて本当に日本の安全保障の問題として長期的な視野から真剣に考えてほしいと思う。