読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

映画「28週後」

2008-02-02 12:12:27 | 映画
 娘がアルバイト先で映画の優待券をもらったので先日から「カンナさん大成功です」「28週後」「テラビシアに架ける橋」「母べえ」と立て続けに映画を見た。その際、ちょっと思ったことがあったのでここらへんで感想。
 
 「28週後」のおそろしさは特別だった。この公式サイトの異様さ!。ここで詳しく報じられている。(ゾンビが全力で追いかけてくる映画「28週後…」のサイトが異様なリニューアル
 去年暮れから「バイオハザード3」「アイ・アム・レジェンド」と立て続けにゾンビ映画を見ている気がするのだけど、このゾンビの流行はなんだろう?しかも、年々ゾンビがパワーアップしてくる。「28週後」のゾンビは飢えに耐えきれず、すぐに死に絶えてしまうが、「バイオハザード」では何も食べなくとも5年くらい生きると言っていたし、「アイ・アム・レジェンド」のゾンビなどは驚異的な運動能力を持ち、すごい高さに跳び上がったり素手で壁をぶち破ったりする。そして何より恐ろしいことに学習能力を持ち合わせているらしくて、主人公のやり方をそっくりまねて彼を罠にかけ、捕まえようとするのだ。このようにゾンビが跳梁跋扈して人間が死に絶える映画が最近立て続けに作られているのは、いったいどういうことだろうかと「28週後」を見ながら思った。


 〈ネタばれ満載〉
 ウイルス感染がイギリス中に広がっていた時に学校の旅行で外国に行っていた姉弟が事態の終息後帰ってくる。ゾンビは死に絶え、ロンドンの町は復興を始めている。彼らは写真を持ち出すために、立ち入り禁止区域にある実家に足を踏み入れたのだが、そこには死んだはずの母親が・・・・。このちょっとした規則違反と肉親への情愛が再感染を招く。ルール違反はそれだけじゃない。この姉弟にウイルスの免疫があるのではないかと考える軍医や、民間人を皆殺しにすることに耐えられなくなった兵士、彼らも命令に背き、姉弟を安全な大陸に逃がそうとする。そして、ラストではどういう経緯でか、感染爆発が世界中に広がってしまったことを示唆する映像が流れる。東京タワーを背景に疾走するゾンビの群れ。
 
 私が一番恐ろしかったのは、「感染者と一般人を見分けられない!」と狙撃兵が叫び、司令官が「コードレッド」を発令するところだ。もはや感染を阻止するためには一般人ごと街を爆撃し、すべてを焼き尽くす他に方法は残されていないというのだ。これではたとえ物陰に隠れてゾンビをやり過ごしたとしても生き残ることはできない。感染しているか、していないかはこの段階では問題にされない。高性能爆弾に毒ガスに火炎放射器、この無情さに眩暈がした。
 この映画は、「ルールを破ること」が致命的な結果を招くということを執拗に描くと同時に、「ゾンビは人ではない。情にとらわれて行動を躊躇してはいけない」ということも言っている。また、「たとえどんなに残酷であっても、被害を最小限に抑えるためには、多少の犠牲者は仕方がない。」ということも。この記事「ゾンビ映画から学ぶ、ゾンビが現れたときにやってはいけないこと」にあるとおりだ。

 実際ゾンビはおそろしい外見で、もはやそれは人の形をしていても人ではない。集団で襲ってくるゾンビの群れが、ヘリのプロペラで切り刻まれて肉片をあたりに飛び散らせたときには痛快ささえ感じて、私はまた自分がそのような感情を覚えたこと自体にもぞっとした。「感染爆発」「ルールの順守」「多数のための少数者の犠牲」。何か思い浮かばないだろうか。

 アフリカのある村で非常に致死性の強いウイルスが感染爆発をおこす。生物兵器開発の秘密が漏れるのを恐れた軍が、村ごと爆弾で焼き払う。気化爆弾の炎の海。(私はこのシーンが忘れられない。)そして、カリフォルニア州のある町でそのウイルスの感染が広がる。町は閉鎖され、アメリカ全土を「アウトブレイク」から守るため、かつてのように爆弾が投じられようとしている。ダスティン・ホフマン主演の「アウトブレイク」だ。この映画でも、「28週後」でも軍が撲滅しようとしているのはウイルスなのだが、「ウイルスじゃしょうがない。他に方法はないんだ」と納得しながら、いつのまにか脳裏にはいつか起こった米軍の空爆の光景が浮かんでくる。そうか、この違和感はテロとの戦いの空爆を正当化しているように思えるせいなんだ。「だって、殺さなきゃ国民が全部殺されるんだよ」「世界中がイスラム化されるんだよ」という言葉が聞こえる。

 きっと意識下でそのようなことを訴えかけているのだと思う。「だから、時には多数者を守るために少数者を殺すことも決断しなくてはならないのだ。さもないと大変なことになる」って。私にはそういう戦略的な思考はできない。「アウトブレイク」ではまだアメリカの町を焼き払うことにものすごい抵抗があって主人公が解決法を見つけることになっているけど、「28週後」では躊躇なくやっている。一瞬の判断の遅れが致命的被害をおよぼすと言わんばかりだ。おそろしい。
 だけど一つだけわかったことがある。みんながパニックを起こして逃げ惑っているときにはできるだけ人と違うことをすることが生き延びる確率が高まるってことだ。あの少年が天井の排気口にもぐりこんだみたいに。でも、できるかっていうと多分できないだろうなあと思う。