読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

田村裕「ホームレス中学生」

2007-10-26 10:54:53 | 本の感想
 今朝のNHK「おはよう日本」で、「ホームレス中学生」が紹介されていた。発売から1か月で75万部売れたそうだ。聞くところによると、田村くんの印税の取り分は1冊70円であるらしいから、75万部といえば・・・5250万円です!!すごい!よかったね。
 私は普通、タレント本というものは買わない。タレントの私生活にもあまり興味はない。この本を買う気になったのは、9月25日の朝、日テレの「スッキリ!!」を見ていたら、行方不明だった田村くんのお父さんが、アメリカの超能力者の協力で発見されたという驚愕のニュースが伝えられたからだった。田村くんといえば公園生活、極貧の高校時代と笑うには気の毒だけどもつい笑ってしまうエピソード満載で有名な芸人だ。ちょっと興味あった。その模様が夜の特別番組で放送されるというのでさっそく家族で見ていたら、これがひどい。
 住所がわかったものの、スタッフが手紙を出しても返事はなく、連絡が取れないので、とうとう兄弟3人でアパートまで行ってドアをドンドン叩くのだ。「○○さんですか?」「違います。」「ここ、開けてください。」「何の用ですか?」「お父さんじゃないですか?」「違います。」「ここ開けてください。」「何の用ですか?帰ってください」・・・・「おとうさん!」「ああ、・・・」
 ちょっとこれはひどくありませんか?「この父ちゃん、絶対、借金とか何か後ろ暗いところがあるぞ。なんで名前を呼ばれて否定するのよ。あやしい。あやしすぎる。」と、私は憤慨して子供に言った。だいたい子供を捨てて失踪って何?ひどいじゃないですか。
 そんなわけで、早速本屋に走ってこの本を買ってきて読んだのだった。

 本を買って読んでいるうちにまた憤慨する。だいたい破産したからって、普通は親戚を頼るだろうに、この兄弟の場合父親のせいで絶縁状態になっていた。家族が「解散」した後も、この父親は、お兄ちゃんの名義で借金をしていたり、なんだかロクな人じゃないようだ。お兄ちゃんは大学生だったし、お姉ちゃんは高校生だったし、一家でアルバイトして、生活を切り詰めればなんとか生活していけると思うのだ。「解散」なんて言われたら子供はたまったもんじゃないよ。でも、お母さんが亡くなり、病気に失業にといろいろなことがあって疲れたんだろうなあ。同情はできないが、きっと一家の大黒柱であるという重荷に耐えられなかったのだと思う。
 田村くんはそんなお父さんのことを恨んでいないと書いている。むしろ、それまでがんばって育ててくれたことに感謝している。
 
 しかし、お父さんの父親としての役目はまだ終わっていない。僕達が親孝行するために帰ってこなければならない。
 今度は僕達がお父さんを守る番。
 1日も早くそうしたいと願っています。

ええ子やなあ。

 ホームレス状態だった田村君を救ってくれた同級生の一家、生活保護の申請などに尽力してくれた近所のおばさん、家のことはなんとかするからとにかく高校だけは行けと説得したお兄ちゃん、「僕、生きていること自体に興味がないんです」と相談したときに手紙で一生懸命励ましてくれた担任の先生、折々に思い出す亡くなった母親の顔、いろんな人に支えられて今の田村君がある。野たれ死にもせず、グレもせず、ちゃんと大人になれたのはこういった周囲の人たちに守られてきたからだと思う。印税が入ったら、まずこういう人たちに恩返ししたいと語ったそうだ。ええ子やなあ。今朝の「おはよう日本」では、うんとお金が入ってきたら、あの「まきふん公園」を買い取りたいと言っていたそうだ。それはちょっとどうかな?

中村哲・編/ペシャワール会日本人ワーカー・著「丸腰のボランティア」

2007-10-26 00:18:32 | テレビ番組
 先日の土曜日(10月21日)、朝の情報番組「ウェークアップぷらす」ペシャワール会の中村哲医師がゲストとして出演していた。中村さんはアフガニスタンで医療活動などをおこなっている民間ボランティア団体の代表で、確かテロ対策特別措置法成立の際に国会で参考人発言をしたこともある。
 これだ。「テロ特措法」はアフガン農民の視点で考えてほしい
 
 ウェークアップぷらすでは、ペシャワール会の活動の軌跡、そして現在進行中の用水路建設事業が紹介されており、アフガニスタン東部農村地域で中村氏の活動が大きな成果をあげていることがよくわかった。
 実は、私は8月に尾道で中村さんの講演を聴いている。それまでペシャワール会の名前は知らなかったし、アフガニスタン救援活動といえば、かつて20年ほど前にあやしげな団体が街頭募金をしていて(たぶん統一教会あたり)その胡散臭いイメージがあるので本当なら、難民救済だ井戸掘りだといっても、うかうかと聴きに行ったりはしないところだ。行こうと思ったのは、去年朝日新聞に中村さんと鶴見俊輔さんとの対談記事(2006年11月28日)が載っていたのを記憶していたからだ。
 
 講演の前に、NHK教育テレビの講座「知るを楽しむ」で紹介された映像が流れたので、私はたいへん感銘を受けた。NHKですよ。すごいです。講演では「なぜ用水路建設などという大事業に乗り出したのか」ということが詳しく語られた。山岳僻地に自前の診療所をいくつも建設し、今まで医療に見放されていたような人たちでも治療が受けられるよう援助したが、事態はどんどん悪くなっていく。戦乱による難民の増加。アメリカの経済制裁による飢餓。そして大干ばつによって農業用水はもとより飲料水の確保もおぼつかなくなってしまう。汚水を飲んだたくさんの子供たちが下痢で命を落とす。これは医療以前の問題だとして中村さんは安全な水を確保するために村々に井戸を掘ることを決意した。このあたりの事情は著書「医者井戸を掘る」に詳しい。アフガニスタンで井戸を掘る活動をしている外国のボランティア団体はほかにもたくさんある。けれども中村さんたちのやりかたは他の団体とは少し違う。大型掘削機械を使うのではなく、ほとんどが人力による手堀りで、中の壁も石を積み上げて作る。これは以前から現地でおこなわれていた井戸掘りのやり方で、工事も村の人たちを雇って行う。そして、水が出るようになってからは、村に管理を任せ、道具一式も置いていく。譲渡式というものがあるのだ。地下水位が下がっているので井戸は枯れる。枯れたらまた掘る。村人自身がメンテナンスをし、何度でも深く掘っていく。欧米の援助で作られた井戸の多くが使い物にならなくなっている中、ペシャワール会の井戸は追加掘りを何度も繰り返し、今も使われているそうだ。
 
 現地の人の協力を得て、昔ながらのやり方で、というのは用水路建設でも行われている方法だ。用水路壁は蛇籠というワイヤーを編んだ網のようなものに工事で出た石を詰めて固める。蛇籠もワイヤーを買ってきて自前で作るのだ。このような工法は中村さんが独学で学んだもので、おもに日本の江戸時代の治水技術が参考になったという。この報告に比較があるが、コンクリートで護岸を固めると現地の人には修復できない。ペシャワール会の水路は柳の根が強固に守っており、崩れても修復が簡単だ。この用水路によって1万ヘクタール以上の農地が灌漑され、干ばつによって難民化していた何万人もの農民が帰還することができた。

 タリバーン政権崩壊後、政府は国際社会からの援助を受けて、難民帰還事業なるものを推進したが、その時に帰還した難民の多くが、乾いた田畑を見て耕作をあきらめ、またパキスタンや首都カブールに舞い戻ったという。この時に使われた莫大な海外援助金はいったいどうなったのか。海外のNGOやボランティア団体の多くは現場を見ないために、非効率的で、現地事情を無視した一方的な援助をおこなっており、さらに法外なお金が中間業者に抜き取られて必要なところまで届かないという構図もあるそうだ。莫大なお金に引き寄せられて、甘い汁を吸っている人たちがたくさんいるのだ。しみじみ海外援助事業の難しさを感じる。中村さんたちの活動のすごいところはアフガニスタンの人たちの中に入って、寝食を共にし、現状に即したやりかたで援助を進めるところだ。このあたりの状況は「丸腰のボランティア」に書かれたペシャワール会日本人ワーカーたちの報告書に詳しいが、飢餓難民が大量に出ている中、国連職員やNPO団体は毎夜パーティーをしていて、それをアフガン人がどう思うか考えないのだろうか?とか、こちらがシャベルカーひとつ買えなくて難渋しているのに、隣の事務所ではプールやテニスコートを作る工事をしているとか、また、せっかく苦労して育て上げた医師や看護婦が技術を身につけるとさっさとやめて高給な病院に移ってしまうとか。
 「論座」3月号、4月号に掲載された論文「グローバルな公衆衛生の課題 ~
潤沢な援助がつくりだす新たな問題」(ローリー・ギャレット 米外交問題評議会シニア・フェロ-)にもこういった援助事業のさまざまな問題点が論じられている。ペシャワール会が稀有な成果をあげているのは、相手の価値観を尊重し、部族長や長老会、現地政治家を通してものごとを進めるというやり方と、そして何よりも、アフガニスタンに骨を埋める覚悟で人生を捧げる中村医師の情熱に賛同する現地ワーカーやボランティアが大勢活動を支えているということによると思う。やはりどんな事業も、人ありきなのだなあとあらためて考えさせられた。

 「ウェークアップぷらす」でも中村さんはおっしゃっていたが、石油を米軍に供給しているということだけでもかなり不信感を与えている、日本がもし自衛隊を派遣することになったら、たとえ国際治安支援部隊(ISAF)であったとしても反感は免れないだろうということだ。アフガン人にとっては国連も米軍も同じ穴のムジナなのだ。日本は平和憲法を堅持しているということによって信頼されてきたのだから、国連軍に参加すればいっぺんに信用をなくしてしまう。「テロとの戦い」で多くの一般人が爆撃を受けてなくなった。テロリストでなくても家族を殺されて報復を誓う人たちが大勢いるという。今まで国連や欧米のボランティア団体の事務所は襲撃されてもペシャワール会は襲われたことはなかったのだが、テロ特措法の動向によっては活動ができなくなるのではないかと、会の人たちははらはらしながら見守っている。
 しかし、番組の他の出演者たちは「一般人のボランティアと国のやり方とは違っていて当然だ。そこは分けて考えなくてはいけない。日本が国際社会と、どのように付き合っていくのかはこれからの国の命運を分けることであって重要な課題だ。テロ特措法は今のところ最善」という意見であった。

 私はおおむね民主党の意見に賛成なのだが、もっとこうなんとかならないのだろうか。中村さんのような人があと100人くらいいたらいいなあと思う。