うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

おもに運動に関して、気ままに話したいと思います。
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素直に喜べない優勝

2009年11月06日 | ウィンタースポーツ
スノーボードのワールドカップ(W杯)は5日、スイスのザースフェーでハーフパイプ(HP)第2戦の決勝が行われ、男子は国母和宏(東海大)が46.1点で4季ぶりに優勝し、通算3勝目を挙げた。国母は開幕戦でも3位に入っており、バンクーバー五輪代表入りに大きく前進した。
工藤洸平(シーズ)は9位。トリノ五輪金メダルのショーン・ホワイト(米国)、1月の世界選手権覇者の青野令(松山大)は出場していない。
女子は岡田良菜(フッド)が33.5点で4位に入ったのが日本勢の最高で、山岡聡子(アネックス)、中島志保(桃源郷ク)は予選敗退。トラジェーン・ブライト(オーストラリア)が43.5点で優勝した。 

〔時事通信 2009年11月6日の記事より〕

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本来なら五輪シーズンに国際スキー連盟(FIS)主催大会であるW杯に優勝したので、大々的に取り上げられそうな話題ですが、殆どスルー扱いです。これには理由があります。もうお分かりだと思いますが、スノーボードのハーフパイプ(HP)のW杯には世界のトップクラスである米国のプロ選手は基本的に参加しません。通常、米国のトップ選手は高額賞金が掛かったプロツアーを主戦場としているからです。つまり、スノーボードのHPは“W杯”と銘打ってますが、実際は有力選手不在の骨抜き大会です。ただ、彼らもW杯に参加する時があります。それは、五輪出場に必要なポイントを稼ぐ時だけです。もちろん、必要最小限の試合数しか参戦しません。

現在世界で最高の選手だと思われているのが、記事の中でも書かれている今回不参加だったトリノ五輪金メダルのショーン・ホワイト(米国)です。ショーン・ホワイトのようなプロ選手は五輪こそ本気で挑みますが、プロツアーを主戦場としている彼らは五輪が開催されない年は基本的にウィンターXゲームの方を重視します。W杯には五輪出場に必要なポイントを稼ぐ以外は、全くといってよいほど眼中に無いです。FIS主催大会である世界選手権も同様に、米国のトッププロ選手は殆ど興味が無い大会です。FIS主催大会にトップ選手が参加しないのは賞金額の違いもありますが、競技の歴史や統括団体同士の対立や縄張り意識も背景にあります。

なので、今年1月に韓国で開催された世界選手権で青野令が日本人として初の優勝を果たしましたが、米国のトップ選手は同時期に開催されていたウィンターXゲームに参加してましたので、正直言ってタイトルの価値は疑わしいです。ただ、青野は昨年のウィンターXゲームで2位に入ったので、決して悪い素材ではありません。問題なのは、日本のスキー連盟が彼のような素材を本場の米国の大会に派遣する事に消極的な事です。これでは、せっかくの好素材をぬるま湯の環境に身を置かせているので、本場の強豪に揉まれる事無く技術が錆付きます。まさに、現在の日本の環境は井の中の蛙です。

そして、こういった実態を全く知らないで(もしくは見て見ぬふりをして)、メディアが散々話を膨らませて国民を欺いたのが前回のトリノ五輪でした。W杯とは名ばかりの二戦級の大会で出した結果に過ぎないのに、日本勢をあたかも“金メダル最有力候補”だと洪水の如く大々的に垂れ流しました。更に悪い事に、現場のスタッフですら冷静さを見失い、根拠の無い自信に包まれます。如何せん、日本勢は本場米国の大会には参加してないので、ショーン・ホワイトを中心とした高額賞金を稼ぐ本物の米国勢のプロの演技を知る由もありませんでした。もちろん、選手達にもこの浮ついた空気が伝播したのは言うまでもないです(特に成田兄妹はいろんな意味で最悪でした)。そして、五輪本番では、米国勢が本来の実力を発揮して男女とも優勝をさらいます。一方、日本も“実力通りに”男女とも入賞者ゼロと惨敗を喫し、取り組み方の甘さを曝け出しました。

その後、散々持ち上げたメディアは当然の如く手のひらを返し、梯子を外してHPの選手達に凄まじいバッシングを加え、仕舞いには彼らの存在そのものが最初から無かったかの様な扱い。選手やスタッフ達の認識の甘さは批判されて然るべきですが、あの時は自分達の節穴を棚に上げた無知なメディアに対する怒りの方が遥かに大きかったですね。基本的に、冬季五輪の日本勢はメダル獲得が有望な種目は極めて少ないので、メディアは日本勢の本当の実力を詳細に書くと新聞や雑誌が売れず、視聴率も取れないので“上げ底のメダル候補”を捏造しがちです。むしろ、HPの選手達は、実情を伝えずに商売を優先するメディアの犠牲者だったのかもしれません。

さすがに、国民も前回のバカマスゴミの捏造行為で懲りたせいもあり、今回のHP陣の成績にはかなり冷めて見ています。ただ、だからといって、無視に等しい扱いはあまりにも極端すぎるやり方だと思います。このような報道姿勢の繰り返しだと、見ている人に対して、冷静かつ客観的な視点を奪いかねないです。同時に、競技に対してあらぬ悪感情だって抱きます。メディアも商売である以上、メダル候補を取り上げる事によって盛り上げる姿勢は理解できますが、競技の問題点や選手の苦労を報道を通して伝える責務だってあるはずです。そうする事によって、競技の発展に少しでも役に立つのですから。

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