うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

おもに運動に関して、気ままに話したいと思います。
のんびり更新しますので、どうぞ気長にお付き合い下さい。

アマチュアボクシングの村田諒太が世界選手権で史上最高の銀メダルを獲得

2011年10月16日 | ボクシング
 ロンドン五輪予選を兼ねたアマチュアボクシング男子の世界選手権は8日、アゼルバイジャンのバクーで最終日が行われ、全階級を通じて日本選手で大会史上初めて決勝に進んだミドル級の村田諒太(東洋大職)はイエフゲン・フイトロフ(ウクライナ)に22―24の僅差で敗れ、準優勝だった。

 世界選手権での日本選手のメダル獲得は2007年のライトウエルター級で銅の川内将嗣以来で、3人目。五輪では1964年東京大会のバンタム級で桜井孝雄が金メダルを獲得している。

 今大会で日本選手は村田とウエルター級10位の鈴木康弘(自衛隊)の2人が出場枠を獲得し、日本連盟の規定で五輪代表に決まっている。 

〔時事通信 2011年10月8日の記事より〕


日本アマチュアボクシング連盟のHP
国際ボクシング協会の関連ページ
今大会のミドル級の詳細(wikiより)


                           *  *  *  *  *


プロで例えると竹原慎二に匹敵する凄い快挙

9月22日~10月10日までアゼルバイジャンの首都バクーで開催されていたアマチュアボクシングの世界選手権。日本の村田諒太がミドル級で銀メダルを獲得しました。日本勢の過去の同大会では、1978年大会のフライ級の石井幸喜、2007年大会のライト・ウェルター級の川内将嗣(北京五輪&今大会の代表)の2人がそれぞれ銅メダルを獲得してますが、今回銀メダルを獲得した村田が日本勢として史上最高成績となります。なお、日本の五輪のメダル獲得者は、1960年ローマ五輪のフライ級で銅の田辺清、1964年東京五輪のバンタム級で金の桜井孝雄、1968年メキシコ五輪のバンタム級で銅の故・森岡栄治の3人だけです。ちなみに、過去の五輪&世界選手権のメダリストのうち、プロ転向しなかったのは現時点では川内だけです。田辺が日本フライ級王座、桜井が東洋バンタム級王座を獲得。桜井と石井は世界挑戦をするも、残念ながら失敗しました。

村田の活躍が特筆すべきなのは出場した階級がミドル級(69~75kg)だからです(なお、プロのミドル級は69.853~72.575kg)。アマチュアは全10階級あり、ミドル級は上から数えて4番目に重い階級です。やはりというか、体格と身体能力で劣る日本人はこの階級では通用しにくいです。更には競技人口も少ないこともあって、日本ではミドル級を“重量級”だと認識されてます。しかし、世界基準に照らすとミドル級は選手層が最も厚く、読んで字の如く中量級だと認識されてます。実際に今大会のミドル級には67名が参加し、ライト・ウェルター級と並んでエントリー数が多いです。アマチュアの大会は、開催期間中は常に減量との戦いを強いられます。今大会の村田は、11日間の大会期間中、なんと7試合をこなしてます。しかも、他の選手よりも1試合多いので、調整は大変だったと思われます。

また、プロと違って、アマチュアだとトーナメント方式なので相手を選ぶことが出来ません。今大会の村田にしても2戦目でいきなり過去2大会で優勝した実績のあるアボス・アトエフ(ウズベキスタン)との対戦を余儀なくされました。だが、村田はこの強敵から3回に2度のスタンディングダウンを奪って3回RSC勝ちしてから一気に波に乗り、決勝にまで突き進みます。世界選手権では日本人選手として初となる決勝ではイエフゲン・フイトロフ(ウクライナ)に2回に連打を浴びてスタンディングダウンを奪われるも、最終の3回に猛反撃。22-24と僅差での惜敗でした。日本はボイコットした1980年モスクワ大会を含めて五輪では10大会連続でメダルを逃しているだけに、村田には何としてでも悲願達成を果たしてほしいです。なお、村田とウェルター級の鈴木康弘の2人がロンドン五輪出場枠を獲得し、日本アマチュアボクシング連盟(日連)の規定により、そのまま代表に内定しました。日本としては1つでも多くの階級で枠を獲得して本番に臨みたいところです


今こそプロとアマが真の和解を

アマチュアボクシングも男子レスリングと同様に、1992年バルセロナ五輪以降は肥大化防止の為に、参加資格を世界選手権の上位入賞者や各大陸代表に絞るなど、出場選手数を制限しました。更には、ボクシング強国のソ連の崩壊により、それまでは「ソ連代表」として世界大会に1人だけ参加でしたが、連邦が崩壊以降は15ヶ国にも分裂。アジアにおいても、かつて軽量級を中心に世界を席巻した韓国は1990年代後半以降は没落の道を辿りますが、入れ替わるように中央アジア5ヶ国が参戦。更には、今まであまりボクシングに力を入れてなかった中国やインドまで強化するなど、飛躍的にレベルアップ。そして極めつけなのが、女子種目の採用に伴い、男子は階級が減らされたことです。昭和の時代とは取り巻く状況が全く異なり、今では世界大会のメダル獲得はもちろんのこと、アジアを勝ち抜いて五輪出場枠を確保すること自体が困難になってます。

不幸なことに、日本ボクシング界のプロとアマの関係は野球界以上に険悪です。日連はプロを異常なまでに敵視し、1990年代半ば頃にはプロとの関係を断絶して「鎖国体制」を敷きます。当然、現場レベルでは悪影響をもたらします。ボクシングライターの前田衷氏が2003年に執筆したコラムに記述されているとおりに、2002年釜山アジア大会では日連が「金メダル5個獲得」を豪語しながら、1人だけ初戦突破を果たしただけで残り4人全員が初戦敗退の醜態を晒し、日本オリンピック委員会(JOC)から名指しで槍玉に挙げられただけでなく、週刊誌にまでこき下ろされるほどの有様でした。更には、以前から特定の某大学の選手を有利にする判定や不可解な代表選考がまかり通るなど、およそ民主的とは呼べない運営までする始末。そして、2004年アテネ五輪では悪夢が現実となり、出場枠獲得ゼロの大失態を犯します。ただ、この後にパキスタンが出場枠を返上したおかげで、日本は辛うじてライト・フライ級の五十嵐俊幸のみ参加できたものの、初参加した1928年アムステルダム五輪以来の伝統が危うく途絶えるところでした。

識者からは「隣国の38度線よりも隔たりが大きい」と揶揄されるほど異常な状態でしたが、アマ界が壊滅寸前になってやっと気づいたのか、近年ようやくプロとの関係を修復(→詳細はこちら)。日連はプロ経験者のアマチュア復帰を認める規則を改正し、今年8月には元プロボクサーで俳優の赤井英和(近畿大学出身)をアマチュアボクシング指導資格の第1号適用者とすることを決定しました。まだ、緒に就いたばかりですが、プロアマの関係正常化の動きは大切にしなくてはなりません。プロとアマがいがみ合っては国内ボクシング界全体が発展することは絶対にあり得ず、国際競争力の低下はもちろんのこと、国内の他の競技との争いにおいても太刀打ちできません。だからこそ、プロとアマがお互いに歩み寄って共存共栄の道を探るべきです。今回の村田の銀メダル獲得の快挙が、アマだけでなく、プロにも好影響をもたらして、国内ボクシング界全体の発展に繋がる事を祈りたいです。



☆決勝のイエフゲン・フイトロフ(ウクライナ)戦



☆桜井孝雄がプロで世界挑戦したライオネル・ローズ戦   ※1~5まで映像があり
(1968年7月2日 @東京・日本武道館)



☆石井幸喜がプロで世界挑戦した金鎬戦(1982年2月10日 @韓国・大邸)

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4 コメント

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やはりアマボクシングに元気がないと (こーじ)
2011-10-18 00:47:44
 やはりアマチュアボクシングに元気がないとプロも活性化しませんよね。

 これはヘビー級がキューバ勢や旧ソ連圏に独占され始めてからアメリカのヘビー級がダメに
なったのと同じ理屈です。

 やはり相手を選べないアマのオールトーナメントでの大会は、どんな相手とも戦って勝ち抜かないといけないわけで優勝するとホンモノと
認定されますからね。

 しかもミドル級というのが嬉しいではありませんか。

 欧米の人間にとって中間のクラスであるミドルは層が厚いので、日本はおろかアジアでも厳しいクラスですから そこでの銀は本当に価値がありますよね。

 TBした記事にも記しましたけど村田がプロ入りするかどうかは分かりませんが、これで日本のアマチュアが自信を付ければプロ入りするような才能のある選手がアマチュア経由で入る時代になるのではと期待します。
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コメントありがとうございます (猫なべ)
2011-10-18 22:41:59
こんばんは、こーじさん

ちなみに、今大会の獲得メダル数が一番多い国は、実は村田に勝ったフイトロフの母国のウクライナです。
もちろんウクライナは旧ソ連邦なので元々ボクシングが強いとは思いますが、ヘビー級主要4団体のベルトを独占するクチリコ兄弟の活躍も影響している気がしますね。

やはり、プロが繁栄すれば、アマも競技人口が増えて好素材が入るし、アマが強くなれば、必然的にプロのレベルも上がります。
要するに、プロアマ双方とも互恵関係ということです。
国内外の状況からしてプロアマの関係の深化はもはや不可避なので、アマでしっかりと技術を身につけて国際的に活躍した選手がプロ転向する循環を、ボクシング界全体で構築することが重要だと思います。

アマは「我々が育てた選手をプロに取られた」という後ろ向きな考え方ではなく、「我々が育てた選手をプロに送り出した」と堂々と胸を張って言える日が来ることを願うばかりです。
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マイナースポーツの残念さ (ぱすた)
2011-11-06 13:19:17
ごぶさたしています。
この間スポーツ関係のイベントが多くあれこれ見ているうちにコメントも残せずじまいでした。興味ある記事も多かったのですが。

この銀メダルがちっとも評価されない(あまりニュースに上がらない)のが腹立たしくて仕方ありません。

私は公式ブログで逐一チェックしていたのですが、銀メダル決定はほんとにすばらしいと思ったのに、マスコミはNHK以外では取り上げていませんでした。(NHKもちょっとだけ)

五輪枠を獲るのだけでも大変なのに…。

こういうマイナースポーツの宿命でしょうが残念です。

アマチュアボクシングとプロとの垣根の話、おもしろく読ませていただきました。

管理人さんはこういうお話をよく御存じなのですね、私の知らないことも多く興味深く読んでおります。

記事とは違いますが、ハンドボールは残念でした。世界最終予選はたぶん厳しいのでこれがラストチャンスだったと思います。

あと、錦織選手の大金星には驚きましたが、彼も着実に力をつけてきましたね。
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コメントありがとうございます (猫なべ)
2011-11-11 23:10:23
こんばんは、ぱすたさん

ちなみに、釜山アジア大会でボクシングの「金5個」の件ですが、たしか週刊文春か新潮のどちらかで取り上げられていた記憶があります。

JOCがこの大会での目標は、「金メダル65個以上獲得して、韓国を抜いて2位になる」だったのですが、実際は韓国の半分以下の44個しか取れず、3位と惨敗。
なので、JOCは、明らかに目標と異なるいい加減な数字を出した日連を名指しで批判しました。
しかし、JOCが競技団体の杜撰な見積もりを、ロクに検証もせずに真に受けていたのも、大いに批判されるべきですけど。

これを読むと、JOCや競技団体の目標設定のいい加減さや、それに踊らされるマスゴミの節穴さもよく分かりますよ。
http://www.1101.com/kariya_2008/2008-08-04.html

とはいえ、非常にみっともない形で世間に取り上げられたので、ボクシングファンとしては情けなくて恥ずかしかったことだけは忘れないです。
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