うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

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前日本代表監督の岡田武史氏が中国のクラブの監督に就任

2011年12月19日 | サッカー(クラブ)
サッカーの中国リーグ、杭州緑城の監督に前日本代表監督の岡田武史氏(55)が就任したことを、中国メディアが15日、一斉に報じた。中国サッカー界では昨年、八百長事件で多くの逮捕者を出し、同国代表は2014年ワールドカップ(W杯)ブラジル大会予選で既に敗退。実力も人気も低迷しているだけに、岡田氏の手腕に期待が集まっている。
 杭州緑城が公式ブログで岡田新監督就任を伝えると、サポーターから「よかった」「これで来季は期待できる」など歓迎のコメントが相次いだ。
 サッカー専門紙「足球」(電子版)は、「岡田氏は中日両国サッカーのとりでを外してくれるだろう」と題した長文記事を掲載。1964年東京五輪でバレーボール女子日本を金メダルに導き、翌年に1カ月だけ中国チームを指導した大松博文氏や、北京五輪のシンクロナイズドスイミングで中国を指揮して銅メダルをもたらした井村雅代氏と同様、日本国内に慎重論がある中での岡田氏の決断を評価。来年の日中国交正常化40周年を控え、日中友好につながることへの期待感も示した。
 ただ、岡田氏との契約交渉でも焦点だった杭州緑城の資金問題は気掛かり。親会社の不動産開発大手、緑城中国は不動産市場の低迷で業績が悪化し、チームの「身売り」話もささやかれている。

〔時事通信 2011年12月15日の記事より〕


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決して中国の為ではなく、あくまでも日本の為です

前日本代表監督の岡田武史氏が、中国スーパーリーグの杭州緑城に就任することが12月15日に明らかになりました。実は岡田氏にはJリーグの浦和からもオファーがあり、1億円の年俸を提示されたそうです。だが、躊躇うことなく浦和を袖にして、年俸提示が安かった杭州緑城の監督を単年契約で引き受けたのは意外でした。というのも、岡田氏は昨年夏に中東のカタールから代表監督のオファーがあり、それを断った経緯があるからです。まあ中東の場合、たかが親善試合で負けたぐらいで王族が介入して解任するような国だから、引き受ける気はサラサラ無いだろうとは思いましたけどね。ただ、浦和からは、年俸だけでなく、複数年契約も提示されていたので、決して悪いな話ではなかったからです。やはり、今の浦和は内部がゴタゴタしているので、いくら岡田氏であっても、“再建屋”としての本領を発揮しにくいのが理由でしょうか。

今回のオファーが、代表チームではなく、クラブチームだったことは、岡田氏にとってむしろ良かったのではと思います。たしかに、代表チームは国籍さえ有していれば、監督自身が好みの選手を自由に選ぶことが出来ます。しかし、所詮は選手をクラブから借りているに過ぎず、選手の拘束日数にも限りがあるので、自らの思い通りに指導をしにくいからです。ましてや、通訳を介さないと、選手とコミュニケーションを取れない外国人指導者だと、尚更でしょう。さらに、中国の場合だと、多民族国家で国土が広いだけでなく、南北でサッカーのスタイルが違うこともあって、代表チームの指導は容易ではないです。その点、クラブチームだと、たとえ戦力面で不自由であっても、選手を四六時中面倒見ることが出来るから、時間を掛けて自らの考え方を浸透させやすいです。

考えてみると、岡田氏は日本人指導者の中では、最も国際的に実績と経験のある監督です。なにせ、W杯には2回出場。2回ともアジア予選を突破して本大会の出場権を獲得し、そのうち1回はベスト16に進出。しかも、史上初めて国外開催の大会での達成です。南アフリカW杯では、当初目標に掲げていた「W杯4強入り」こそなりませんでしたが、決して恥じることのない立派な成績です。また、クラブレベルにおいても、2003年と2004年に横浜FマリノスをJリーグで2連覇を果たし、2000年にはコンサドーレ札幌をJ2で優勝させてJ1に昇格させてます。マリノス時代にACL優勝を出来なかったのは心残りでしたが、国内クラブにおいては殆どやり尽くしました。要するに、岡田氏の国内における現在地を双六で例えると、もう“上がり”に辿り着いたと思います。

あくまでも個人的な推測だが、岡田氏は今更国内のクラブを指揮を執るのは刺激が少ないので、指導者として新たな挑戦に踏み出したかったのかもしれませんね。南アW杯から約1年半近く経ち、現場の空気がそろそろ恋しく感じる頃なので、今回の中国のクラブからのオファーはまさに渡りに船でしょう。実直で堅実なイメージの岡田氏ですが、波乱万丈のサッカー人生です。なにせ、過去2回の代表監督を就任した経緯は、いずれも前任者が任期途中で辞任した為、“代役”という形でポストを引き継いだ格好だったので、リスクの高い役回りでしたから。今回のオファーにしても、失敗すれば今まで築き上げた評価を下落させ、更には将来協会の幹部候補になる噂のある岡田氏にとっては名声に傷がつくことにもなります。ただ、それでも引き受けるのは、岡田氏なりの理由があるからです。

日本が国際Aマッチで対戦する相手は殆どがアジア諸国です。最近の日本代表の日程を見て分るように、国際試合日(IMD)にW杯予選を埋められるなど、アジアの公式戦が大半を占めてます。しかも、「地理上のハンディ」がある日本としては、世界の強豪国とは中々マッチメークが出来ないのが実情です。更には、近年はアジアのトップ選手は欧州のクラブに所属しており、時差や移動などの影響で、代表チームに選手を招集する事もままなりません。現状では、海外のクラブから選手を集めて試合に臨んでも、対戦相手が決してレベルが高くない相手ばかりなので、有効な強化には繋がらず、貴重なIMDが無駄使いとなってます。アジアで無双状態の日本ラグビーを見て分るように、やはり周りの国の実力が低いままだと競争原理が働かないので、結果的に日本のレベルアップには結びつかず、世界水準からどんどん引き離されます。対照的に、欧州や南米諸国が強いのは、周りの国と常に切磋琢磨しているからに他ならないです。

たしかに、経済成長著しい敵性国家の中国に指導者を派遣するのは、将来的には日本の脅威になる可能性があり、反対意見も分らない訳ではないです。しかし、裏を返せば、中国はそれだけ日本の指導者を評価している証拠でもあります。というのも、中国のクラブは負けた時に必要以上に批判されるのを恐れて、日本人指導者の招聘を嫌がっていたのです(→詳細はこちら)。それだけに、国内屈指の実績を誇る岡田氏が中国で成功すれば、今後日本人指導者がアジアに進出できる可能性が広がると同時に、国際的に幅広くキャリアを積められるので、最終的に日本サッカー界に還元されます。また、アジア諸国と人的交流を促進させて友好関係を築けば、国際大会の招致活動や役員選挙などでも有利に働きます(この点に関しては、反日3兄弟には全く期待してないけど)。世界のサッカー大国は、選手だけでなく、指導者の育成にも長けており、海外でも活躍できる人材を多く輩出してます。やはり、国内でしか通用しない指導者では、結果的にその国のサッカー界全体の発展には繋がらないです。今回は中国だとはいえ、1部リーグに属するプロのクラブチームの監督を引き受けるのは、今回の岡田氏が初のケースなので、決して意義は小さくないです。

ただ、中国のサッカーは、岡田氏の力量だけではどうしようもない問題が横たわってます。中国の選手は決して素材は悪くは無いが、如何せん経験不足が祟って試合の潮目を読む能力が決定的に欠けており、異常なまでに勝負弱い体質です。やはり、「一人っ子政策」の影響なのか、選手間の団結力が弱いだけでなく、試合で困難に直面するとすぐにキレる習性があり、“カンフーサッカー”と呼ばれる暴力行為で自滅することを幾度も繰り返してます。これらは選手だけでなく、指導者や協会のトップの姿勢にも問題があります(→詳細はこちら)。更には、民度が極めて低い国なので、観客の質も酷く、選手の悪態を助長させてます。それどころか、ピッチの外では八百長が蔓延し、マフィアや賭博組織まで暗躍してます(一応、杭州緑城はクリーンだとのことです)。ましてや、反日感情が強い国だから、成績不振だと「球迷」と称される中国のサポーター集団が容赦なく叩きまくるのは必至です。それに、人治国家の中国人は順法精神が著しく欠如してます。規律を重視しているフィリップ・トルシエ監督が中国では失敗したのだから、似たようなタイプの岡田氏にとっては大変な仕事だと思いますけど・・・。

外国人が日本で指導するケースはよくあるが、残念ながらその逆は少ないです。外国で指導して成功した日本人指導者は、中国と韓国の女子バレーの礎を築いた故・大松博文氏、同じく女子バレーでペルーを1980年代に世界的な強豪国へと導く基礎を作った故・加藤明氏、シンクロで中国を強豪国に導いた井村雅代氏などが挙げられます。岡田氏も彼らに続いて成功してもらいたいですが、果たしてどうなるのでしょうか? 是非とも、杭州緑城を中国リーグで優勝させて、ACLの舞台で顔を合わせたいですね。更には、このクラブから、中国代表選手が1人でも多く輩出できれば、岡田氏の評価が上がるので、日本人としては鼻が高いです。もちろん、迎え撃つ日本としては、実力をたっぷりと見せ付けて、手厳しく“歓迎”するのは言うまでも無いですけど。


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