自称「仮想通貨女子」に450万円騙し取られた46歳男性の嘆息
2018年2月11日 16時0分
NEWSポストセブン
カメラ女子、刀剣女子、カープ女子など、従来は熱心に取り組む女性が少なかったジャンルにその姿が増えはじめると「○○女子」と呼ばれたり、自称するようになる現象が続いている。新しいところでは、ビットコインなどの仮想通貨の投資や運用に熱心な「仮想通貨女子」がある。ライターの森鷹久氏が、仮想通貨女子を名乗る女性のひとりとの出会いをきっかけに、大金を失った男性の体験を聞いた。
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通勤途中の電車の中で、とある雑誌を読んでいた満本太郎さん(仮名・46歳)は思わず「あっ!」と声を上げた。”仮想通貨女子”として雑誌の企画に登場していたその女こそ、かつては憧れ、今では忌々しい”ドロボウ猫”としか思えないA香(30代)だったからだ。
「SNSを通じて知り合った男性から”投資に興味はないか”と誘われ参加したセミナーにA香はいたんです。独り身の静かな生活で貯め込んだ一千万は、三分の一以上をA香に吸い取られた……。おいしい話はない、とわかっていたのに……」
下唇を噛み締め話す満本さんだが、昼間は上場一部の鉄鋼メーカーに勤務するバリバリのサラリーマン。仕事以外にとくに打ち込むものもなかったので、同僚に勧められて株式投資を始めると貯蓄が1.5倍に増えた。これに気をよくして、本業をおざなりにしてまで「投資」にどっぷりハマっていった。そんな時、知人経由で連れて行かれたのが「仮想通貨投資セミナー」だった。
「ちょうど昨年の10月末頃です。セミナーにいた女性数人のグループが、全員資産が数千万から数億円という”億り人”などと呼ばれていました。A香も、仮想通貨で数百万を一億円近くまで膨らませた、と吹聴していました」
モデルのようなスタイルで品が良く、それでいて身体中から溢れるセクシーな雰囲気。男好きするA香から「一緒に投資をしましょう」と言われると、女性に免疫のない満本さんは舞い上がってしまい、言われるがまま、まずは150万円をA香に手渡した。A香が金を預かり、自身の裁量で投資して資産を増やす……。冷静に考えれば詐欺を疑う怪しい手法ではあったが、満本さんにはすでに冷静さを失っていた。
「若くて美しい女性が僕に振り向くことはないが、僕の金に魅了されることはあるでしょう。でもA香は違った。そこまで若いわけではないし、自身は裕福だし、僕を選んでくれたのは”安定”の部分を見てくれたのだと」
すでにA香と肉体関係を持っていた満本さんは、当時は本気で結婚まで考えていたという。しかし、破局はすぐに訪れた。そしてそれは、気変わりなどではなく、やはり”カネ”にまつわることがきっかけだった。
「A香は、仮想通貨の”リップル”に投資した、と話していました。リップルの価格が昨年末急激に上昇し、これは儲かったと思いA香に連絡しましたが、聞いてもはぐらかされるだけ。次第に電話にも出ないようになり、やはり騙されたのかと気がつきました」
はじめの150万円に加え、追加で300万円をすでにA香に渡していたのだから、満本さんも気が気でない。気持ちを確かめたわけではないが、本気で結婚を考えていた女性に、借用書も書かずにカネを渡していた自分を心から恥じた。そして、別のセミナーにA香が出席することを知った満本さんは、会場前で出待ちし、後をつけ、A香の家を割り出したのだった。そしてA香を問い詰めた。ところが……。
「カネは”信用できる交換所に入れてある”というばかり。証拠を見せろと言っても何もない。次第に、預かったカネには運用委託料もコンサル料も含まれている、などと訳のわからないことを言いだしました。警察を呼ぶ、訴える、と僕がいうと、部屋の奥から出てきたのは浅黒く、いかにもカタギではない雰囲気の男性。僕をストーカーだと決めつけ、不退去罪で警察を呼ぶと逆に怒鳴られてしまって……」
すごすごと退散した満本さんだが、その後もA香とメールでのやり取りだけは続けていた。相変わらず「カネは心配ない」という返答が続いていたが、それが「返せないかも」になったのは、今年1月26日以降。大手仮想通貨取引所「コインチェック」で仮想通貨流出事件が発生、取引所の閉鎖騒動が発生した日からだ。
「実は全部コインチェックに預けていた、と白々しい説明をしてきた。本当は運用なんかしていなかったと僕は思っています。ちょうど騒ぎになったから、コインチェックを隠れ蓑にして、俺のカネを奪い取ろうとしている。でも……コインチェックと言われたら、誰も保証はしてくれないですし、僕もバカだったし……」
さてこのA香なる女性、一体何者なのか。A香を知る関係者によれば、一世代前に流行った「情報商材ビジネス」バブル期にも、六本木や麻布界隈で開催される派手なセミナーに出入りしていた。昼間は「会社員」と自称しているが、その正体は北関東の某風俗店に勤務する風俗嬢。セミナーの時などに、パパ活で知り合ったイケイケの情報商材屋グループから招かれ、いわゆる”ギャラ飲み”要員として参加していた、有名な女グループの中の一人だという。
“ギャラ飲み”とは、男性から女性に謝礼が支払われる飲み会のこと。タクシー代という名目で渡されることもあるが、女性がアルバイト感覚で参加する飲み会であることが共通している。今ではマッチングアプリなどで誰でも開けるようになったが、元々は、富裕層が友人どうしの飲み会を盛り上げるために利用していたシステムだ。繰り返し参加する女性は限られているため、A香は目立っていたようだ。
満本さんに一円も返済しないA香だが、実際には仮想通貨で二千万ほどの儲けを出していたらしい。まとまった金を手にした彼女は、それまで勤めていた風俗店を退職。現在は “仮想通貨女子”などと自称して、読者モデルのように華やかな身なりと雰囲気で雑誌に登場することもある。そして、元情報商材屋たちと共謀しつつ、満本さんのような人を見つけては親密になり、「増やしてあげる」と金を預かって回っていたのだ。
「A香もその取り巻きも、確かに仮想通貨はたくさん持っています。でも、ちゃんとした運用方法なんて知らないはずだし、ある日偶然、金持ちになっただけ。俺のカネを盗んだ泥棒のくせに、何が仮想通貨女子かと。もう仮想通貨も女もこりごり。全額奪われなかったのはせめてもの救い……。真面目に働きます」
仮想通貨女子を名乗る女性たちの多くは、本当に仮想通貨について勉強し、自分の金で真面目に投資に取り組んでいる。だが、ブームになれば必ず、ニセモノが紛れ込むのが世の常だ。A香もそのニセモノのひとりだったのだろう。
ついに仮想通貨バブルが弾けた、とも言われているが、バブルに乗じた仮想通貨を口実にした詐欺、詐欺まがいの誘いは一向に無くなる気配がない。「これからまた上がるんです」「絶対に儲かります」などといった詐欺師のささやきが聞こえてきそうな昨今のタイミング。おいしい話はない、ということを今一度肝に銘じよう。