9月5日松下幸之助一日一話(松下幸之助.COM)
やさしい心
あの人はどことなく豊かな、感じのいい人であるという場合、それはその人の心が、その人の動作ににじみでているからだと思います。これは非常に大事なことだと思います。
ことに私は、女性の尊さというものは、やはり親切な心の表われているところにこそ、ほんとうの尊さというものがあるのではないか、という感じがします。ただ強いばかりではいけません。賢いばかりでもいけません。賢い、強いということも、もちろん大切ですが、それ以上に大事なことは、心のやさしさなのです。これはすべてのものをとかすとでもいうほどの力があるのではないでしょうか。その力を失ってはならないと思うのです。
筆洗
2013年9月4日筆洗(東京新聞TOKYOWeb)
▼<母と子は/存在の岸辺に/佇(たたず)んでいた/現代の業が/滝のように/水俣の海に流れ込むのを/見つめていた/そしてそれが/自分自身に流れ込み/わが子に流れ込んだことをさとった/わが子は/現代の業苦に/焼けて苦しむ小さないのちだった>
▼熊本県水俣市の水俣病資料館の館長を務めた坂本直充さんの詩集『光り海』から引いた。父はチッソの社員。ようやく立てるようになったのは六歳の時だ。自分も患者では…。疑問を抱きながら、差別を恐れ水俣病を引き受ける勇気がなかったという
▼大卒後、市職員になり、二〇一一年に資料館長に。震える手を見た来館者に「館長も患者ですか」と何度も問われた。もう逃げてはいけない。水俣病と向き合い、認定申請することを決めた
▼<人は高度成長と呼んだ/人は繁栄と呼んだ/もっとほしい/もっといいものを/もっとうまいものを/もっともっとのために/資源を掘りつくし/資源を使い尽くし/限りない欲望の道を/疾走していた/繁栄のために/少女は死んだ>
▼水俣に何を学んだのか。福島第一原発は「収束宣言」を嘲笑するように放射能汚染水を垂れ流す。五輪招致の妨げになってはならぬと、レベル3を前に見えないふりを決め込んだ政府は、世界中から批判を浴びた
▼きょう四日は、公害の原点である足尾鉱毒事件を告発した田中正造の没後百年。
2013年9月5日天声人語(OCN*朝日新聞デジタル)
天声人語
▼銃を撃てば煙が立つ。スモーキングガンという言葉には「決定的証拠」の意味がある。イラク戦争開戦前の国連で、この語が飛び交うのをよく聞いた。イラクが大量破壊兵器を持っている確証を示すように、各国は米に求めた
▼安保理で証拠を公表したあと、米政府の高官は言ったものだ。「1927年のヤンキースではなく、63年のドジャースだ」。ベーブ・ルースらのホームランで優勝したヤ軍ではなく、ヒットをこつこつ重ねて勝ったド軍だと。すなわち状況証拠の積み重ねである
▼たとえはうまかったが、大量破壊兵器はなかった。1年の後、当時のパウエル米国務長官が、開戦に反対だった仏の外相に「今でも戦争を始めたいか」と衆人の前で問われ、唇をかんだという話を耳にした
▼時は流れて、目下の焦点はイラクの隣国シリアである。化学兵器が使われたのはまず間違いないという。だが、アサド政権側が使ったとする米政府の「確信」に各国は慎重だ。スモーキングガンは今のところ示されていない
▼「私はすべての戦争に反対するのではない。愚かな戦争に反対するのだ」とオバマ大統領はかつて述べていた。軍事介入の賢愚と正邪、損得で米議会は揺れる
▼シリアの現実は米の懲罰的な攻撃で解けるとは思えず、硬軟合わせた国際協調が欠かせない。イラク戦争を振り返れば、もう一つの誤りは「終わらせ方」の戦略の甘さだったと言われる。火に油を注ぐだけの介入になるなら、人々をもっと泣かすことになる。