『学術の動向』2019.5
認知症の人が感じる苦痛、介護する側がいつの間にか抱いている「支配すること」で得る満足感について、
事例を用いて論じている。
学術的な用語があり、読み進みにくい部分もあるが、「ハッ」と気づかされる論文である。
引用
・介護の場面では、自立の危機にある介護される側の高齢者は、人間としての対等性を前提として他者と関わろうとしても、それが叶わないことによって苦しみが生じる。
・人間関係一般における親密さは、ケア(care)とコントロール(control)の二側面からの説明が可能と考えた。ケアとは、相手を心配し、世話をすることを表しており、情緒的側面にも物質的側面にも関連する概念である。(中略)一方のコントロールは、相手に対する支配、管理、監督、制限、抑制、強制、束縛、高速などに関連する行動の背後にある心理的規制である。(中略)同じ行為であっても、相手がそれを愛情のある世話を認識するか、自由を奪う束縛と感じるかは、両者の関係性の質そのものを示している。
本論文では、ケアの提供を受けたものは、何かを返したいという気持ちになる。しかしケアを受ける高齢者は、金銭的にも物理的にも返すことが困難であり、「ケア」であるはずの行為にも心理的な苦痛を感じる…ということも紹介されている。そして、行動に見合ったお返しが得られない介護を提供する側は…。
互いの関係性がバランスの取れたものであれば、支配されている/支配しているという感情は抱きにくいであろう。
介護職に就く人が、いつの間にか「ケア」から「コントロール」に移行してしまうことは、他の職種よりも低賃金であることがその要因のひとつになりうると感じた。