社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「あいないな喪失-存在と不在をめぐる不確実性ー」南山浩二『精神療法』Vol.38 No.4

2013-02-25 12:57:05 | 社会福祉学
ボーリン・ボスの著作を翻訳し、わが国に「あいまいな喪失」を紹介した第一人者。本論では、原著の概要を紹介している。
「あいまいな喪失」を知るための入門書として活用できる。

引用
・ボスは、親密な関係にある人の身体的あるいは心理的な存在/不在に関するあいまい性がある場合、その状況をあいまいな喪失と呼んでいる。そして、あいまいな喪失には、二つの類型があるとする。第一にタイプは、身体的には不在であるが心理的には存在していると認知されることにより経験される喪失である、自然災害で大切な人が行方不明になってしまう場合などがあてはまる。第二のタイプは、身体的に存在しているが、心理的には不在であると認知されることにより経験される喪失であるが、親密な人が認知症の進行により、もはや<あの頃のあの人>ではなくなってしまう場合などが具体例として列挙されている。

・(ボスは)専門家が支援していくためには、人々が語る喪失の物語を聴くことの重要性をとく。なざなら、喪失の物語のなかに、喪失を経験している人々のディストレスの源泉と喪失の意味をめぐる手がかりが含まれているからに他ならない。


ボスの喪失に関するものに触れるたびに、「喪失(グリーフ)=死」だけではないのだと痛感する。
大なり小なり、私たちはいくつもの喪失を経験しているのであり、それをクリアしてきた(受け入れてきた)経験も持っている。

存在と不在の論は、日常の支援のなかにも活用できる要素であり、それをまた活用しやすくする論が必要なのだと思った。

精神療法第38巻第4号 特集:「あいまいな喪失」をめぐって
クリエーター情報なし
金剛出版
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「驚きの介護民俗学」六車由実(2012)医学書院

2013-02-02 13:57:46 | 民俗学
民俗学の研究者である筆者が特別養護老人ホームの介護職となり、民俗学の視点から「高齢者を理解する」こと、そして民俗学が介護(ケア)に貢献できないか…等を試みている。
民俗学の特徴である「聞き書き」は、「人を立体的に理解する」ことにとても貢献していると感じた。「話を聞くこと」「寄り添うこと」について、今一度深く考えさせられた。

引用
・(筆者が介護の世界で疑問に思ったこと⇒)介護や福祉のコミュニケーション論では、語られる言葉による言語的コミュニケーションに比べて、態度や表情、身振りといった言葉以外を情報としてやりとりする非言語的コミュニケーションが過剰に重視されがちではないか(p.96)
・民俗学における聞き書きのように、それにつきあう根気強さと偶然の展開を楽しむゆとりをもって、語られる言葉にしっかりと向きあえば、おのずとその人なりの文脈が見えてきて、散りばめられたたくさんの言葉が一本の糸に紡がれていき、そしてさらにはその人の人生や生きてきた歴史や社会を織りなす布が形づくられていくように思う。語られた言葉を言葉通りに理解すること、もしかしたら認知症の利用者たちもそう望んでいるのではないだろうか(p.111)
・喪失の語りには二通りあるのかもしれない。ひとつは、未だ絶望の淵にいるときの血を吐くような救いを求めた語りであり、もうひとつは、絶望を時間の経過とともになんとか乗り越えてからの語りである(p.186)


本書でも指摘しているように、顔伍する側には時間やこころのゆとりがあれば、より一層利用者を理解し、そして穏やかにケアが出来るだろう思う。介護職の人数を増やすか、もしくは筆者にような「聞くこと」を得意とし、そして時間を費やせる人材(ボランティア)を配置するか…。

当事者が語る言葉をそのままのものとして理解する…筆者が述べていることは、おそらくナラティブの考えに通じるであろう。それをいかにして、腰を据えて実践できるか。職能教育と職場環境…多くの課題が未だ現場にはあると痛感する。

驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく)
クリエーター情報なし
医学書院
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